東方指輪物語   作:サボテン男爵

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好奇心は猫を殺す。死んだ猫は、猫又にでもなるのかな?


後日談3・祟り神への宅急便其の弐

 

「“雄渾たる拍手”」

「ぎゃふん! やーらーれーたー」

 

 目の前でベチン! と巨大な異形の両手で潰された蟲妖怪の様子に、小鈴は「意外と余裕なのかしら?」と首を傾げていた。

 

「うう・・・・・・閻魔にもっと妖怪らしくしろって説教されて、都合よく外来人っぽいのを見かけたから“飛んで火にいる夏の虫”と思って、ストレス解消に襲ってみたのに何でこんな目に・・・・・・」

「説明口調でありがとう。言いたいことはいっぱいあるけど、とりあえず蟲はお前さんだろう」

 

 宙に浮かんでいた巨大な手のひらが消え、蟲妖怪――リグルはそのまま重力に従い地面に真っ逆さま。再び「ぎゃん!」と喚く。

 妖怪ながら、哀愁を感じさせる姿だった。

 

「うー、ほんと何なのさ、近頃の人間は。巫女と言い、白黒と言い。力があった頃が懐かしい・・・・・・」

「そんな事愚痴られても困るんだがな」

「おまけに冷たいー」

 

 参道を歩いていると、いきなりリグルが襲い掛かってきて秒速で返り討ちにされた。

 目まぐるしく動いた事態にポカンとしていた小鈴だったが、何とか言葉を絞り出す。

 

「今の“大きな手”って、魔法ですか?」

「いや、今のは魔法じゃなくてソーサリーだ」

「それってどう違うんです?」

「そうだなー。簡単に言えば、魔法は“内側”の力で、ソーサリーは“外側”の力ってところか」

「はあ、まったくわからないんですけど」

 

 小鈴が正直に答えると、男性は「だろうね」と笑った。

 

「くっ、人様の前で和気あいあいと・・・・・・」

「もう立てるのか。流石は妖怪。頑丈だな」

「ふふん、これでもしぶとさだけにはちょっと自信があるのさ!」

「それ、自分で言ってて悲しくならない?」

「ちょっとね!」

 

 リグルは少し、ため息を吐いた。

 

「――で、まだやるの? 急いでいるって訳でもないけど、あんまりのんびりするつもりもないから、やるなら手早く済ませるけど」

「いや、やめておくよ。また羽虫みたいに潰されちゃかなわない。はあ、ほんと落ちぶれたもんだなぁ」

 

 そんなリグルの様子に、以前見た資料の中で、蟲の妖怪の力が急激に落ちていると書いてあったのを小鈴は思い出した。

 妖怪が弱くなるのは人間にとっていい事だろうが、目の前でこうも落ち込まれたらさすがに感じ入るものはあった。

 隣にいた青年もそうだったのか、リグルに声をかける。

 

「まあ、そう悲観することもないだろうさ」

「うん?」

「幻想郷で弱いってことは、逆に言えば蟲は外ではまだまだ健在ってことだろう?」

「・・・・・・あぁ、確かにそういう風にも言えますね」

 

 幻想郷に流れ着くものは、基本的には“外の世界で忘れられたもの”である。

 故に、外に居場所がなくなった存在程、幻想郷では力や勢力を増していく傾向にある。

 生き物であれ、物品であれ、そして――神々でさえも。

 

「・・・・・・うーん、そうかもしれないけど何だか釈然としないというか」

「じゃあ、そうだな。今世界で一番人を殺している生き物って、なんだと思う?」

「え? そりゃあ、もちろん人間でしょう?」

 

 蟲の少女は当然とばかりに応えるが、青年は首を横に振った。

 

「残念。答えは“蟲”だよ」

「・・・・・・その話、詳しく」

「蚊だよ。厳密に言えば蚊というより、蚊が媒介する病なんだけどね。現時点で、世界で一番人を殺している生き物には違いない」

「ほう、ほうほうほう・・・・・・これは来ちゃってる? わたしたちの時代がもう一度来ちゃってる?」

「まあ、最近ではその被害の多さに対抗するために、種無しの蚊を作って自然界に放って徐々に数を減らしていくっていう計画も・・・・・・」

「ひどい!? 何その妖怪も真っ青な所業!? 考え付いたからって良く実行に移したね!?」

 

 リグルは絶叫した。

 ――が、急に真面目な顔になり・・・・・・

 

「――でも外で蟲の力が減れば、幻想郷では強くなれる可能性も?」

「ひどいのはどっちだよ」

 

                   ※

 

「ここが人里か・・・・・・」

 

 隣にいる青年が、潜った門の中の光景を珍しそうに見渡している。

 小鈴からしてみれば生まれ育った場所なので当たり前の光景だが、外の世界から来た彼にとってはそうではないのだろう。

 

「里に来るのは初めてなんですか?」

「あぁ、というよりも幻想郷自体2回目だ。前に来た時は急ぎの用事があったから、遠目に見ただけだったな」

「へぇ・・・・・・じゃあ今回はゆっくり見ていくんですか?」

「それもいいけど、まずは用事を済ませてからだな。・・・・・・それに、こっちの通貨は持ち合わせがないし」

「ああ、外の方ならそうですよね。何か本の類があれば、ウチで買い取りますけど?」

 

 若干――否、それなりの期待を込めつつ提案してみるが、反応は芳しくなかった。

 

「あー、どうなんだろうな。流れ着いたものならともかく、持ち込みっていうのは。まあ換金できそうなアテはあるから、そっちを頼ってみるよ」

「それは残念です」

 

 小鈴は本心から呟いた。

 外の世界の本――所謂外来本は貴重で、人気も高い。

 半面仕入れには非常に難があり、正直運任せだ。

 シリーズ物などは特に、途中で欠けているものが多い。

 なので外との行き来ができるという目の前の青年の協力が得られれば、在庫を拡充させることができるとひそかに目論んでいたのだが・・・・・・

 

「さて、と。短い道中だったけど、この辺りでお別れかな。それでちょっと聞きたいんだけど――」

「あら、小鈴じゃない」

 

 小鈴にとっては聞きなれた声が、青年の台詞を遮った。

 

「――と、そちらの方は・・・・・・ひょっとして、逢引の途中だったかしら?」

「違うわよっ!」

「でしょうね。色気より食い気、食い気より本の虫なあなただし」

 

 思わず強い口調で否定してしまったが、涼し気な声音で切り返してきた少女は稗田阿求。

 小鈴の友人であり、里の有力者である稗田家の若き当主である。

 

「里の人間ではないようだけど、どちら様か紹介してもらえるかしら?」

「この人は外来人で、何か用事があって幻想郷に来たんだって。名前は――」

 

 その先を説明しようとして、小鈴は今更ながらに気づいた。

 

「・・・・・・そういえば、まだ自己紹介してませんでしたよね?」

「あなたねぇ・・・・・・」

 

 阿求がジト目で小鈴を見つめてくる。

 アレは常識がないなとか、危機感がないなとか、そういうことを考えている目だ。

 流石に本人の手前「知らない人についていったらいけません」とまでは言わなかったが。

 

 しかしながら青年もそれを察したのか、フッと苦笑して口を開いた。

 

「それじゃあ遅まきながら――八雲木弥です」

「八雲・・・・・・?」

 

 阿求が訝し気に、眉を歪めた。

 その様子に小鈴は内心、首を傾げる。

 珍しい名前ではあるが、何かあるのだろうかと?

 

「阿礼乙女として気にかかる苗字なのはわかるが、単なる偶然の一致だよ」

「・・・・・・私のことを、ご存じなので?」

「一応、ね。誤解しないで欲しいが、ストーカーとかじゃあないぜ? 少しばかり似たような身の上だから、気にかかっていただけの話だ」

「っ! あなたは・・・・・・」

 

 阿求は驚いたように目を見開いたが、それ以上は口にしなかった。

 小鈴には意味の分からない会話だったが、今の短いやり取りの間でお互い、何か通じあうものがあったようだ。

 

「私のことは知っているようですが、改めて・・・・・・。稗田阿求――阿礼乙女の9代目として、稗田家の当主を務めています」

「あっ、私は本居小鈴です。えっと、里の貸本屋の娘です」

 

 一番最後になったが、小鈴はようやく自己紹介を交わしたのであった。

 

                   ※

 

「そういえばさ、阿求。さっきの何だったの?」

 

 木弥と別れ鈴奈庵へと戻ってきた小鈴は、カウンターからついて来た阿求へと声をかけた。

 

「さっきのって?」

 

 来客用のソファーに座り、手に持った本から目を離さないまま阿求は答える。

 

「木弥さんとのやり取り。なんか似たような身の上云々」

「ああ、それね。前にちょっと話したわよね? わたしがある程度、前世の記憶を引き継いだまま転生を果たしているって話」

「ああ、あの眉唾な・・・・・・」

「何が眉唾よ。何代もかけて果たしている人の使命を」

「だって阿求、全然年上には見えないし」

「そりゃあ、人格そのものがまるっきり引き継がれるものじゃないから。“前の私の記憶”というより“以前の人生の記録”が引き継がれている感じね」

「ふーん」

 

 何とも壮大な話だ。加えて、まったく実感が湧かないが。

 

「でもそれって、阿求がやる必要があったの?」

「何よ、藪から棒に」

「だってさぁ、稗田のお家は実際にずっと続いている訳だし、幻想郷縁起の編纂も子孫に任せればよかったんじゃないの?」

「引き継がれるっていうことは、発展性がある反面変質する恐れがあるっていうことよ。本来の意味からかけ離れたものになっても困るし、私の完全記憶も幻想郷縁起の内容を補完していく上で都合がよかったから」

 

 小鈴は阿求の言葉をかみ砕いて、自分なりに解釈する。

 

「要するに、人には任せられなかったってことじゃない」

「・・・・・・責任感がある、って言ってちょうだい」

 

 阿求は渋い顔でそう漏らした。

 図星な部分があったためだろう。

 

「ともかく! 似たような境遇ってことは、多分そういうことなんでしょう」

「木弥さんも、前世の記憶があるってこと?」

「多分ね」

「あんまり興味なさそうね。親近感とか湧かないの?」

「・・・・・・あなた、見知らぬ相手から“出身地が同じだから仲良くしましょう”って言われて、直ぐに首を縦に振れる?」

「そもそも幻想郷じゃあ、違う出身地って方がハードル高いと思うけど」

「揚げ足とらない」

「・・・・・・まあ、難しいわね。珍しい本を持っているならともかく」

「そんなところが危なっかしいのよね。興味があるものにはひょいひょい首を突っ込んで」

 

 阿求はこれ見よがしにため息を吐いて見せたが、小鈴自身自分の性格は自覚しているので、あまり強くは否定できなかった。

 

「少なくとも今は、顔見知り以上になるつもりはないわ。珍しくはあるけど、あくまで外の人間みたいだし。こっちに住むのならそうでもないけど、縁起に載せる相手ではないわね。それに――」

「それに?」

「結局、なんでわたしのことを知っていたのかは言わなかったし。気味が悪いとまでは言わないけど、正直いい気持ちはしないわね」

「ソレ、よりによってアンタが言う?」

 

 阿求のいうことも分かる。

 見知らぬ相手が自分のことを知っているというのは、どうにも座りが悪い。

 そのことはよく分かるのだが、阿求自身幻想郷縁起の為あちこちから情報を仕入れ、相手のことを一方的に知っているということも珍しくはない。

 とは言えこのことをあまり深く突っ込んでも藪蛇になるだけなので――

 

「そういえば守矢神社に行くって言ってたけど、何の用なのかな~?」

 

 ――小鈴は結局強引に話題を変えることで、この話を打ち切ったのであった。

 




主人公クン、ここまできてようやく初呪文披露。
だってバトルメインじゃないし仕方ないネ!

小鈴は常識も一般的な感性も恐怖心も持っているけど、
一定条件下でブレーキがぶっ壊れるイメージ。
踏み外すというより、踏みとどまらないのかも。

阿求はこのss内では、人格自体は転生ごとに毎回リセットされている設定です。
もっとも以前の記録から、影響自体は受けていますが。
部下には任せられない系上司。

ところで小鈴も、将来的には幻想郷縁起に載るんでしょうか?
その時扱いは人になるのか、妖怪になるのか・・・・・・
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