エルニーニョ   作:まっぴ~

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第11話 ちっちぇえな・・・ちっちゃくないよ!

「なに? それで結局4時間目まで拘束されたって事?」

 

 まるでネットに書きこむならば後ろに草を生やすかの如く、Wの文字を付けなければならないと思わされるほどに一人で爆笑の渦を作りながら笑いこける鬼丸。そしてその隣で真面目な顔をしたままに、山のように盛られたドンぶり飯を平らげている。ここまでのメンバーならば食堂で集まっていたとしても何ら不思議は無い。同じ部活のメンバーだし、この二人が仲が良いのは分かり切っている上に、俺という存在が親しい間柄の友人を真守しかこの学校では有していないのだから、自然とこの二人と昼食を共にすることは流れ上そうなる筈だ。

 

「十文字君って思ってたより面白い人なんだねー」

 

 にこにこしながら、真面目にドンぶり飯という昼食を平らげている男の隣でこちらに笑顔を向けているのが三枝陽香。同じクラスでサッカー部のマネージャー、そして一条真守の恋人という事でこの場にいるのだが、何と言うべきか、そう、幼い。

 幼いという言葉が一番彼女を称するのに適していると思えるほどに小さな子だ。GKとしてそれなりの高身長を誇っている真守の隣に座っているだけで、まるで兄妹か親子のようにすら見えてしまう。この二人に関係性があると言われても、決して恋人などという甘い雰囲気は身長差からは思い浮かべられない。そんな事を一発で見抜く事が出来るのは、よほど人間観察が上手い奴か、或いはそういうアニメやマンガを読破して違和感を感じられない様な奴だろう。

 日本にいるよりもむしろ、海外にいた方が日本のアニメや漫画が好きな外国人というのは多いもので、彼らに影響されて見ることになった作品も数多。という訳で、彼女を見ていると途端に口の端から出そうになる言葉がある。

 

「ちっちぇえな」

「あー! いま私のこと小さいって言ったでしょ! 笑ったでしょ!!」

「聞こえてたのか……耳は小さくないみたいだな」

「ちっちゃくないよ!」

 

 その言葉が似合う人物が現実に存在していたのかと思うと何とも感慨深い。

 頬を膨らませて反発してくる姿は、まるで頬袋に木の実をパンパンに詰め込んだリスのようにも思えるが、そう言う所は癒しという評価ポイントとしてプラス評価が入るだろう。或いは、日々の部活や学校生活というストレス上でそう言った癒しを求めたがゆえに、真守はこの子を彼女にしたのかもしれない。仮にも将来が約束されている様な男だから、選べと言われれば選べる立場の人間だろう。

 

「ところで、三枝は何かバイトとかしてないのか?」

「してないよー? ウチの学校バイト禁止だからねー」

 

 でもでも、と話しを続けている彼女の姿を見る限り、どうやら意識を逸らす事は出来たらしい。すぐにこうやって話を逸らす事が出来ると言うのは、やはり小動物らしいと判断できる。一つの事にしか意識が行かないのだろう。頭が悪いと言うのはいい方がアレだが、おバカさんと評することには躊躇いが生まれないのは、その言葉が持つイメージが前者が男に向けられるもので、後者が女性に向けられるものだからだろうか。卑屈な男であればそんな者は男女差別だと高らかに反発するのかもしれないが、そんなような奴もこの少女を目の前にしては毒気を抜かれるのではないだろうかとすら思わされる。

 そしてもう一人、三枝の隣に座って黙々と食事を口に運んでいるのが二見栞。何でも三枝とは幼馴染の間柄であるらしく、こうして俺がこのグループに入るまでは鬼丸を含んだ4人で過ごすのが恒例になっていたようだが、一人増えて5人グループになったが為にこうして食堂で昼食となっている訳だが、何ともバランスの悪いグループだと思う。恋人関係にある二人に、男女それぞれの親友とも呼ぶべき立場の人間を連れてのグループ。つまり、連れられた側の鬼丸と二見が恋人関係にあるのならば分かりやすい関係性だろうが、それもなさそうだ。

 別に人間観察力を鍛え上げたわけではないが、鬼丸と二見の二人が仲が特別良さそうだとは見えない。特段悪いというわけでもなさそうだが、敢えて言う訳でもなくただのクラスメイトという雰囲気がぴったりだとさえ思える。いや、それよりかは少し仲が良いだろうからこうして四人で集まっていたのだろうけれども。

 

「それにしてもお前凄い量食べてるな……昔からそんなんだったか?」

「いや、高校に入ってからかな。やたらと身長伸びたからその分だけ必要なエネルギーも増えたってことだと思う」

 

 ご飯を御代りしに行って戻ってきた真守の姿は、小学生のころとはまるで変わっている。180センチを超える身長に、体幹筋を鍛え上げたのだろう中心から付いているしっかりとした筋肉。小学生のころも俺よりかは身長が高かったが、これほどまでに身長差がつくとは思いもしなかった。

 

「真守君ねー、すっごいいっぱい食べるんだよ!」

「……三枝、お前も少しは見習って沢山食べたらどうだ。もう少しばかり大きくなれるかもしれんぞ」

「失礼なっ! 私は成長期がまだ来てないだけだからこれからうーんと身長伸びるもん!」

「そうだな……色々と大きくなるといいな」

「なっ……!? い、いま、変なところ見ながら言ったでしょ!?」

「変な所ってどこだ?」

「う、うぅー……栞ちゃーん、十文字君がイジめてくるー!」

 

 反応が面白いところも、小動物と比喩されるべき所だろう。

 その彼女はコロコロと先ほどから面白いくらいに変化させている顔を真っ赤に染め上げてから、隣に座っている二見に同情してもらうかのように話しを振る。

 これまで一言も発さなかった彼女は、口の中に入っていたものを咀嚼してから流しこみ、俺の方を一瞥してから三枝の方を向く。

 

「大丈夫よ陽香。女性は小さい方が好まれると何かの本に書いてあった記憶があるもの」

「……そうなの?」

「ええ。現に恋愛小説でヒロインとなる少女はパッとしない女の子でしょ? 対して、対抗馬として上げられるのはモデルの様な存在。男は自分より背の高い女を傍に置きたがらないものよ。自身のプライドがそうさせるの」

「うん、そうだよね!」

 

 って、あれ? 今してたの身長の話しだっけ、と一人でぼそぼそと呟いている辺り、そんなに頭が弱いという訳でもなさそうだが、今しがたの会話が全て耳に入っている筈の、その彼女の隣に立つべき男は――今は隣に座っている訳だが――忙しそうに米を口に運んでいる。

 だから、机の対岸、彼ら三人には聞こえないように鬼丸にひそひそと耳打ちする。

 

「ちなみに、真守の奴は大小に拘ったりするのか?」

「どうなんだろうね? 高校入ってからすぐにこの二人付き合いだしたし……でも、コクったの一条の方からだから、案外ロリコン気質あるのかもね♪」

「……おい、聞こえてるからな」

 

 なるほど、変わったのは身長だけではないらしい。

 ジロリとこちらを睨んでくるその視線の鋭さも、昔には感じられなかったものだ。尤も、そうやって反応してくるあたり怪しいと思ってしまうのはアニメに影響され過ぎなのだろうか。

 いいグループなのかもしれない、と徐々に思えてくる。

 男女の仲のいい、そして長く続くグループというのは男女比が2対3と決まっているが、それを覆すかのような。学園のラブコメの小説や漫画、アニメのほとんどで日本人が作るものは、大抵は男女比がそうなっている。それはそう言ったものを書きあげるのがほとんど男の著者だからという理由もあるが、しかしそれ以上に上手く行く形であると言う事が証明されているからでもある。

 女性の方が比率が多い方が、生物学的にもいいと証明されている。子供が出来た時に、女性は自分の腹を痛めて産んだ子供だから確実に自分の遺伝子が入っていると理解できるが、しかし男性はそうもいかない。子供が本当に自分の遺伝子を受け継いでいるのかなど、不倫していないという女性の言を信じなければいけないのだ。だから、ライオンの群れでは一匹のリーダーたる雄がいて、そこに雌が何頭も連れ添う形になる。女性の方が多いというのは、男女混合のグループ形成に当たって、生物学的に正しいと動物が証明している。

 

「……垣根は相手が作っているのではなく、自分が作っている、か」

「何か言った?」

「いや、独り言だから気にしなくて良い」

 

 かつて古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスは、自分が壁を作るからこそ他人に壁を作られていると勘違いされるのだと説いた。それはつまり、逆説的には溶け込みたいのであれば自分から壁を作らずに接することだと理解できる。

 どうやらこのグループに溶け込むためには、自分が無意識に作っているかもしれない壁とやらを壊す必要があるらしい。

 

「あ、そうだ! 十文字君って今日は放課後に何か予定とか入ってたりする?」

「いや、特に用事は無いな。部活も無い筈だし――」

 

 そう言えば放課後と言われたところで何をしようかと言いながら考える。

 確かにクラブチームの練習にもオフの日はある訳だが、そういう日にも関係なくボールを蹴っていたから改めて何か予定が入っているのかと聞かれると、何をするべきなのかと逆に考えてしまう。だが、この非凡な――悪い意味で――頭は暇を潰せと言われてもボールを蹴る事しか思いつかない。

 

「強いて言えばボール蹴りながら街の散策とかしようと考えつくくらいだな」

「ならさっ、歓迎会しようよ!」

 

 どうかな、と言いたげなその瞳は爛々と輝いていて、それを四方に向け始める。

 そしてどうやら、彼女の両サイドに座っている真守も二見も、今日は別段と用事があるわけではないようだ。鬼丸もそれは同じようで、三人からの返答を聞いた三枝は一層とその瞳の輝度を上げる。流す電力でも上げているのだろうかとバカなことを思うくらいには、瞳が輝いているという比喩的な表現方法を直接的に捉えられるほどに目に見える期待感。

 これを断ったらどんな表情を見せてくれるのだろうかという嗜虐的な発想が浮かんだ刹那、久しぶりに訪れた常識的な思考によってそれが中断される。

 

「ま、ボール蹴る時間があるなら俺は何でもいいさ」

「……また監督に怒られても今度は俺知らないからねー♪」

 

 ヒラヒラと掌を振っている隣の男は、実に友情というものから遠い存在のようだ。

 仮にも一日二日で深まる友情というのもあり得ないと言うのは分かっているけれど。

 




とりあえずポツポツと投稿再開しようかなぁと思ってみます。
完結出来るか分からないですが、やれるところまでやってみようかと。

なお、物議を醸した件に関しては、オリジナルのままとさせて頂きます(書きなおすの面倒)
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