「しーのちゃんっ♪」
おりんの配信が始まるまで時間があり、ボーっとしていた私に、レーヴァテインが飛びついてくる。
「どうしたの?レーヴァテイン」
「こうしたかっただけー♪」
そう言って、レーヴァテインは腰に手を回して私を抱きしめる。私もそれに対してレーヴァテインを抱きしめる。
最近、ようやくレーヴァテインの私服を買った。それでも、まだ家着だけだけど。
私はいつもグレーのシャツに黒の半ズボンのラフな格好で過ごしている。それに感化されたのか、私服が欲しいとねだられた。
買わないわけないダルォ!?上目遣いで頼まれたら買うしかないじゃん!
というわけで、普段あまり使わない二課から貰ったお金を使い、私の服の上赤下グレーバージョンを買いました。可愛い。
「ぎゅー♪」
「きゃー!♪」
少し強めにレーヴァテインを抱きしめると、声を上げて喜ぶ。嗚呼、可愛いよレーヴァテイン、癒される……。
「そういえば志乃ちゃん」
「ん?何?」
「最近、よくトレーニングしてるけど、なんかあった?」
「ん……特にないよ?」
「そう?」
「そうそう」
最近、トレーニングルームによるノイズとの模擬戦を、頻繁に行なっている。
加賀美さんや立花さんとのトレーニング中、痛感した。私は、レーヴァテインの力を扱いきれてないって。だから、その為にもトレーニング、もっと強くなって、レーヴァテインを守る。それが私の目標であり原動力である。
「配信始まるよ〜?」
「あ、もうそんな時間か。ありがとうレーヴァテイン」
「えへへ〜♪」
私はレーヴァテインの頭を撫でてから、椅子に座ってパソコンを起動する。隣では、レーヴァテインがパソコンの画面をジッと凝視する。レーヴァテインもおりんの配信が好きだからね、しょうがないね。
配信が始まった。
♦︎
「ハァッ……ハァッ……」
地面に剣を突き刺し、荒い呼吸を繰り返す。しかし、その間にもノイズ達は問答無用で迫ってくる。
私は地面から剣を引き抜き、両手でしっかりと構える。体力が落ちてるのか、剣がやたら重く感じる。
「ハァッ…ハァッ…ッダァァァァァァ!!」
少ない体力を振り絞り、私は身の丈ほどの剣を大きく振り回す。しかし、それだけで多くのノイズ達が灰になり崩れる。
大きな剣の遠心力に体が引っ張られ、一瞬体勢が崩れる。しかし、それが隙となり、一体のノイズが私に突っ込んでくる。
「ガッ……!?」
私は思わず手から剣を手放してしまい、大きく仰け反ってしまう。その間に大量のノイズ達が私に向かって突進してくる。
「……カッ……アッ……」
体はボロボロになり、平衡感覚が消え、意識が一瞬ブラックアウトする。
一瞬の気絶の後、体の半分に冷たい感触が伝わってきた。目を開くと、先程まで戦っていた仮想ノイズ達は消え、まるで本物のような市街地は、いつものトレーニングルームに戻っていた。
私が纏っていたシンフォギア「レーヴァテイン」が解除され、隣に心配そうに私を見つめるレーヴァテインが座っていた。
「志乃ちゃん!」
「っいッ…あはは、だ、大丈夫……」
「志乃ちゃん嘘ついてる。私は志乃ちゃんで、志乃ちゃんは私だよ?」
レーヴァテインは心苦しそうに私にそう言った。
実戦形式でのこのトレーニングを始めて3時間、もう体力はとっくに限界を迎えていて、戦っている最中も視界が朦朧としていた。
「ごめんね、レーヴァテイン。でも、もう大丈夫──!?」
立ち上がろうと力を込めたが、足に全くと言っていいほど力が入らない。恐らく、限界なのだろう。
「織田くん。今日のトレーニングは終了だ」
トレーニングルームの中に、司令が入ってくる。それと同時に頭の中が軽くパニックを引き起こし、既に息が上がって速くなっていた鼓動が、更に速くなった。こんな状況でもクソザコメンタル……。
「レーヴァテインくんの言う通り、君はもうボロボロだ。そんな状態で続けても意味はない。休養も立派な訓練だ」
「はっはははい……」カタカタ
司令はそう言ってトレーニングルームを出て言ってしまった。今思ったけどそれ言う為だけに来たの?優しい。
「…………ねぇ志乃ちゃん」
「……どうしたの?」
「私……足手纏いかな?」
「そんなことないよ!」
寧ろ、私がレーヴァテインの足手纏いだ。全然レーヴァテインの性能を引き出せず、弱いままの私。守るべきレーヴァテインに、護られてばかりだ。
「じゃあ……もっと私を頼って……?」
「ッ……!」
考えてみれば、私はレーヴァテインに頼ったことは無かった。レーヴァテインを勝手に守ろうとして、逆にレーヴァテインのことを信頼してなかったのかも。
「…ごめんね?レーヴァテイン……」
「うん、志乃ちゃんの気持ち、わかるから。だから泣かないで?」
「え?泣いてなんか……」
そう思い頰を触れてみると、少し暖かい液体が指についた。それを涙だと理解するのに時間はいらなかった。
「志乃ちゃんは1人じゃないからね?」
レーヴァテインはそう言って私の頭を撫でる。レーヴァテインの体温が、とても心地いい。
「……ねえレーヴァテイン」
「なーに?」
「早速で悪いんだけどちょっと助けてくれない?1人じゃ立ち上がるのも無理っぽいから……」
「むー…しょうがないなぁ…」
レーヴァテインはほっぺを膨らませて私のことをジト目で見た後、私を立ち上がらせて歩きの補助をしてくれた。ジト目のレーヴァテインマジで可愛かった。えへへ。
私達は船の二課を後にし、家に向かった。
「レーヴァテイン大丈夫?重くない?」
「全然重くないよー?」
首を傾けてレーヴァテインはそう答えた。どうやら、私が質問した理由がわからないといった様子だ。あれ?私ってそんなに軽かったっけ?
家に到着し、ベッドに横にしてもらう。私は老人か?
「どーんっ♪」
ベッドで横になっている私の上に、レーヴァテインが乗りかかってくる。無邪気なところが可愛い。
「えへへ♪志乃ちゃんだーいすき!」
「ふふ、私もだよ〜♪」
私はレーヴァテインを抱きしめる。体温を体全体で感じれる。レーヴァテインという炎の剣という神話上の剣がモチーフとなっている聖遺物からか、通常の人間より体温が高い。冬は重宝しそう。まあ夏でも離さないけどね!
配信の時間になる。
『――今日はお歌配信です』
あ、今日はお歌なんだね。おりん歌上手だから期待できる。
レーヴァテインは歌が大好きだ。だから、お歌配信の時は隣で楽しそうに見てる。いつも楽しそうだけどね!
『ポストロックで作曲・演奏は翼さんとこのマネージャーさん経由で紹介してもらった「ナイトクラウド」さんで、ボーカルと作詞は私おりん。「影月」』
ファッ!?夜雲さんの作曲・演奏!?ちょっおまっ……なんて贅沢な!!プロになってからやらんかい!
コメ欄も「夜雲まじか」「おりんガチ曲マジ!?」「カラオケじゃない……だと……!?」と騒然としている。
夜雲さんはプロで有名な方で、私もレーヴァテインも好きな方なので、レーヴァテインも隣で驚いている。
『ハロー ハロー 夜が来た 灰色の月が昇って来た 夜の影月が
太陽(あなた)の居ない夜が来た 薄暗い穏やかな夜 静かな闇に包まれた部屋で
未完成な夜空に 星を描いていく』
うーん……流石夜雲さん、かなりエモい……。おりんも上手いねほんと、感情の入れ方とかも。
コメ欄も「エモさが尋常でない」「歌詞おりんってマ?」「おりんにそんな才能があったのか」「おりんポエムが曲になった……」「イケボおりん」とざわざわしてる。
おりんポエムが歌詞になるとは………音MADは作らんぞぉ!!あれは深夜テンションでヒャッハーしてて記憶曖昧なときにしかやりません。というかやらかしません。
『ハロー ハロー 太陽(あなた)が昇る 輝くあなたの側に 影の様に 僕はいる
それでいい あなたが輝いているなら 僕はそれでいい 青空に溶けていく』
いい曲だった。毎日聞きたいんですけど。だからCDは?まだ?
コメ欄も「888888」「いい曲だった」「さすが夜雲さんだ」「CD発売まだ!?」と賞賛のコメントが流れる。
『CDは発売予定ないですけど、今後収録したバージョンを私のページで無料でダウンロード可能にする予定はあります』
ファッ!?無料だと!?正直金溶かすつもりで身構えてたんだけど……。
コメ欄も「タダでいいの!?」「金を払わせろ」と驚きの声が聞こえる。
『だったら来月の夜雲さんとこのアルバム買ってどうぞ、オフボーカル版のインストアレンジ「影月」が入りますんで』
うーん買うか(確定申告) レーヴァテインも目をキラキラさせてる。……レーヴァテイン用になんか買おうかな?
コメ欄も「買うわ」「あの、予約終わってるんですがそれは」と購入の声が。
おいちょっと待てなんで予約終わってるんだ、話しが違うぞおりん。
『まぁ、これから先またオリジナルのお歌が溜まったらCD出すかもね』
買うわ(確定2回目) 並んででも買ってやる。ダンゴムシしか並ばないからな!
コメ欄も「メジャーデビューか!!!!」「嗚呼、おりんが行く……」「おりん、舞台に立てるの?」と罵倒混じりの声が。私だったら無理、速攻で卒倒します。
配信が終了する。パソコンを閉じる。
「凄かったね!」
レーヴァテインが嬉しそうに私に言う。
「ふふふ、そうだね〜♪」
私はレーヴァテインの頭を撫でる。レーヴァテインはえへへ〜と嬉しそうな声を出す。
私は、レーヴァテインを信頼しなきゃ。私は、レーヴァテインと2人で1人なんだ。