私はいつものようにレーヴァテインを身に纏い、トレーニングルームに立っている。
トレーニングルームがどんどん変わっていく。あっという間にトレーニングルームは毎回違う見た目になる仮想の街になる。
「ふぅ〜っ……。行くよ、レーヴァテイン」
『うん!』
私の問いかけに私の中でレーヴァテインが答える。すると、目の前に大型のノイズが現れる。
私が剣を握るように手を出すと、手の中にいつもの剣のレーヴァテインが現れる。
「やぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
私は剣を強く握ってノイズに向かって全力で走る。すると、私の走る方向に数え切れないほどの小型ノイズ達が現れる。
「お願い、レーヴァテイン!」
「おっけー!」
私は思いを込めて歌う。すると、前方に炎が現れたかと思うと、それは形を得てレーヴァテインとなる。
現れたレーヴァテインはその手に持った大きな剣に炎が纏われ、その剣を私の幼い体で大きく振るう。それだけで広範囲の小型ノイズ達は灰になり消えてしまう。
「「やぁぁぁぁぁぁッ!!」」
私とレーヴァテインは左右対象の動きで大型ノイズの攻撃を躱しながら側面に回り込む。そして、私は右に、レーヴァテインは左に回り込んだ。
「「はぁぁぁぁぁぁッ!」」
私とレーヴァテインは同時に大型ノイズに思いっきり剣を右から左に薙ぐ。中心部分に回転が生まれ、内側から引き裂かれるようになり、ノイズは灰となって消える。
「志乃ちゃんハイターッチッ!」
「はいはい」
私の方に駆け寄ってきたレーヴァテインが小さくジャンプしながらハイタッチを求めるので、私も手を出してハイタッチする。
すると、レーヴァテインは私に吸い込まれるように消えてしまう。
「さて……やるか……!」
私は深い深呼吸をする。そして、両手で持つ剣を再びしっかりと握り直す。
次の瞬間、ノイズ達が現れる。現れたのは数え切れないほどの小型ノイズと、2桁に及ぶ大型ノイズの大軍。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
私は咆哮しながら全ての噴射口を使って高速移動しながらノイズ達に接近して斬りかかる。
こうなってる理由は、未だ緊張が抜けきってないからです。
♦︎
「ハァッ…ハァッ…ハァッ…ハァッ…!!」
「志乃ちゃん大丈夫〜?」
「だ、だいじょぶ…!」
横で心配そうに私のことを見るリディアンの制服姿のレーヴァテインに向けて、私は親指を立ててグッドサインを送る。
翌日になっても昨日の配信での緊張が抜けないんですけどどうしてくれるんですか。ほんっとに害悪すぎる。お陰で眠れなかったよ……。
私はシンフォギアを解除してからトレーニングルームを出て、汗を拭く。
「志乃ちゃんお昼ご飯食べに行こ〜♪」
「そうだね、行こっか」
正直トレーニングのせいでお疲れなんです。ご飯はしっかり食べないとね!
「あっかっか加賀美さん!こんにちわ!」
「あ、志乃さんにレーヴァテインさん、こんにちわ」
「こんにちわー!」
私はレーヴァテインと手を繋いで食堂まで歩いていると、加賀美さんと会った。ごめんなさいまだおりんと居るのは慣れないんです、どうしたら慣れますか?
「かっ加賀美さんもおおお昼ご飯ですか!?」
「えぇ、良かったら一緒に行きませんか?」
加賀美さんに誘われた。どうしよう…!こ、これは広報として今後の関係を緩和するためにもなんとかするために────
「いいよー!」
レーヴァテイン!!私まだ考えてる!もうちょっと考える時間ちょうだい!
「いいよね?志乃ちゃん」
「うぅっ…いっいいですよ!」
「そうですか、なら一緒に行きましょうか」
上目遣いは可愛すぎる。負けても仕方ないよね?異論は認めなさいさせない。
私は、加賀美さんとレーヴァテインと一緒に食堂に行くことになった。……心臓持つかな……?
♦︎
歩くこと数分、食堂に到着した。そこには、立花さんや翼さん、クリスさん達がいました。
「詩織さんッ!織田さんッ!」
「おぉわっ!?」
「あっ!躱された!」
「すっ、すみません!」
こっちに飛びついてきた立花さんを、反射的に体を捻って回避しちゃいました。一緒にいるだけでも緊張でやばいのに抱きつかれたらそのまま失神します(確信)
「な……なんですか、立花さん」
「よかった無事だったんですね!ずっと心配してたんですよ!」
あっ、加賀美さん抱きつかれてなんかまんざらでもなさそうな顔してる。いいよ、私家でレーヴァテイン抱っこするから。
『わーい!抱っこ抱っこー!』
レーヴァテインが私の中でそういう。はいはい、家に帰ったらね。
「おっさんにたっぷり叱られたか2人とも?」
「ええ、二日かけて叱られてもうくたくたです」
「こっこ怖かったです……」カタカタ
「ならアタシからは何もいわねぇ、ただ……よかった」
司令怖い。超怖い。あんな威圧感すごい人に怒られて平気な人はいないと思います(小並感)。
というか私は怒られてのもあるけどまずトレーニングで疲れました。司令のトレーニングルームの仮想設定がトチ狂ってるんだ。許しておくれ。
翼さんの顔をチラッと見ると、その顔はなんだか浮かない顔をしていた。あんまりみない翼さんの落ち込んだ顔!更に場が緊迫して私緊張しちゃう。
「はぁ、翼さん……そう落ち込まないでくださいよ。悪いのはフィーネ、そうでしょ?」
ナイスフォローおりん!よくそんなに気軽に話しかけられるね。私無理だ。多分一生。
「落ち込んでなんか……それよりも詩織と織田さんは、広報の仕事など本当に大丈夫なの?特に織田さん」
「えっあっだっだだ大丈夫じゃないかもです……」
全然大丈夫じゃないよ。もう配信は勘弁。本当に。私緊張で本番中に倒れたら私恥ずか死する。
「……大丈夫、とは言い切れないけど、やりますよ私は。それに」
「それに?」
「なんだかやっと私らしい戦い方を見つけた、様な気がしないでもありませんから」
なんだその発言はかっこいいな。いいもん、私レーヴァテインいるから。
私だってレーヴァテインを守るために強くなる。人には人の戦い方があるんだよ。
「そうです、翼さん達を世間の心無い言葉や中傷から守る避雷針として、私は皆の日陰を守る存在になれるチャンスかもしれませんから」
「そっ、そうです!」
「……っ!」
すると、立花さんが少しばかり体を震わせる。
そういえば、立花さんってあのライブの生き残りなんだっけ。一時期生き残りの人達を迫害する風潮が広がってたなぁ〜……。正直、あぁいうのは苦手だから、私は関わってないんだけどね。
「当然立花さんも、守りますよ。あのライブの惨劇の様なあんなクソみたいな事は二度と起こさせません」
「えっ」
「わっわわ私もできるだけ頑張ってみます!」
一応広報の情報の方を担当するから、そういうのもできるかも。
考えてみれば、私がシンフォギアの装者になってからの初めてのまともな役割かも。おりん音MAD製作者というクソみたいな誇りにかけてやってやろうじゃないか。
「皆さんはノイズと戦ったり人を守ったりする。私はそんな皆さんを守る、それでいいじゃないですか」
「そ、そうです!(便乗)」
「それじゃ2人が守られてねぇじゃねぇか」
クリスさんがそう言うと、加賀美さんが指を振ってチッチッチと言って笑う。う、うぜぇ……!
「守られてますよ、司令や二課の人達、それに皆さんにも」
「わ、私もレーヴァテインに守られてますよ!…守られてばっかですけど……」
レーヴァテインを守るために頑張ってるのに、守られてばっかだね。どうやったらレーヴァテインを守れるようになるんだろ?
「だから、任せてください。前みたいにただただ風に流されるだけの私じゃありませんから」
加賀美さんは私達の前でそう言った。私も闇の住人、ダンゴムシとして頑張らなきゃかな!
「わ、わっわわ私も、なるべくきき緊張しししないようが頑張りますす!」
「早速できてないぞ」
全員が笑う。ちくしょうクリスさんめ、覚えていろよ!
♦︎
家で私服に着替えたレーヴァテインと一緒に、パソコンの前に待機する。
それは、「おりん」の配信…ではなく、「特異災害対策機動部所属装者 加賀美詩織」の配信。
けど、私とレーヴァテインにとって名前の差は殆ど関係ない。おりんはおりん、その解釈でいいんだよ。
ネットニュースで見たところ、フィーネは犯行声明をネットに上げたようだ。予想外の出来事に焦ったな見た目ときっと腹の中も黒い女。
配信が開始する。開始人数は……に、20万!?トップアーティストなのか!?そうなのかー!?
『こんばんは、配信者「おりん」改め、シンフォギア装者「加賀美詩織」です。皆さんお待たせいたしました』
手始めに加賀美さん……もうおりんでいいや!おりんだし。おりんは挨拶から入る。堅苦しいぞ、頼むからもっと柔らかくしてくれ。
コメ欄は「配信者おりんは死んだのか…」「萌え声なのに見た目もかわいい-114514点」「詩織……死おりん、しおりん!」「なんだ結局おりんじゃん!」「ゲロを吐いた口で歌って人を救う女」「マジかぁ。昨日の会見マジかぁ……」「もうBL配信できないねぇ」「BL配信しろ」「配信してないでノイズと戦え」と早速軽くカオスである。
やっぱりダンゴムシ達からしたら名前が変わってもおりんはおりんだよね。なんか安心した。
『今日はですね、私の立ち位置やこれまでの活動について報告しようと思います、許可が下りた分だけですけど』
私は知ってる。まあおりんとしての配信の部分は知らないけど、こういうことはおりん本人から聞かされる。
コメ欄は「マジか!」「国家機密じゃないの!?」「おりんの歴史がまた一ページ」「シンフォギアってなんだ」「櫻井理論概要とシンフォギア概要は特異災害対策本部のページで公開されてるのでそこを見ろ」と困惑の声が上がっている。
まあ、最初からぶっ放してくるとは思わないよね。そこはおりんクオリティ。
『私はかつて適性があったのでスカウトを受けて、あくまでデータ取りの為に装者になりました。基本的な仕事は歌って、武装を展開して、細かい数字を出すそんなものでした、毎日2時間だけの仕事でした。しかしある時からノイズが異常に出現する様になり、「実動班」と呼ばれる方々だけでは対処できず、私も戦線に参加する様になった次第です。そして先日のライブでその姿を公開してしまったが故に広報に正式に異動となった訳です。ちなみに織田さんも同じような感じです』
フッ……ンッ……!!!あっ危ない……本当にいきなりすぎて気絶するところだった……。おのれおりん、ゆるさん!
コメ欄は「実動班がいるのか」「そらそうよ、自衛隊でも事務とかもあるんだろうから」「おりんの仕事は戦う事じゃなかったのか」「でもライブの時の動き凄かったよね」「志乃ちゃんの方も動きやばかったな」「どっちも凄かった」とコメントが流れる。
いやいや、私なんか全然だしただトレーニングルームで蒸気吹き出しながら剣振ってるだけだよ?おりんに比べたら多分全然だよ。………全然模擬戦とか、してないけど。
『こうしてノイズと戦うとやはり目の前で救えなかった命なんてものもあります、私が最初に救えなかったのは同じ機動部の1課の隊員さん達でした。避難通路の確保の為に命を張っていた方々でした。いくらノイズと戦えるとはいえシンフォギアは現状、ごく限られた数しか存在しません。やはり間に合わない時もあります、救えない人も居ます。ですけど、装者の方々を責めるのはやめてください、皆、等しく命を張って戦ってます。不満ややり場の無い怒りは私が受け止めます、それが私の、広報としての、「日陰を作る者」の務めです』
なんでだろ、目から汗が……。これが……涙……?とかいうのは置いといてなんで泣いてんだろ私。なんかおりんが偉大で嬉しいです。ダンゴムシ冥利に尽きる。
コメ欄は「おりんが、ここまで大きな存在になるとは思ってなかった」「すごい覚悟だ」「日陰はもう俺達だけじゃなく、皆のものでもあるんだな……」としんみりした雰囲気になる。
そっか、ダンゴムシだけじゃなくて、色々な人もこの日陰に来るんだ、改めて考えたらそうだった。
『同時に装者の方々だけではなく、皆さんの命を守り、安心させる事も私の役目です。いかにして特異災害対策機動部は皆さんの安全を守るかも、いずれは紹介していく次第です』
はぁ〜……荷が重い……。レーヴァテインを守ることをできることすら出来ない私が、みんなを守るなんてことができるかな?
コメ欄は「対策マニュアル皆も読もうな」「近場のシェルターや避難方法も確認していけ」「子供にばかり頼るんじゃねぇぞ」と対抗心を少しばかり燃やすようなコメントが見られる。
どうすればいいんだろ、私。みんなの期待に応えられるのかな?
怖い、期待を裏切るのが、裏切って非難を浴びるのが。
すると、右手が温かい感触に包まれる。
「志乃ちゃんなら大丈夫♪」
「…………ふふ、ありがと」
手を握ってくれたレーヴァテインの頭を左手で撫でる。すると、レーヴァテインは嬉しそうな顔で私のことを見つめる。
こんな時にまで、レーヴァテインに助けられてばっかだなぁ、私。けど、そうしないと何もできないかも。
…やっぱり、レーヴァテインと出会ってよかった。
『ありがとうございます、今日の配信は一曲歌って終わりにしたいと思います、これは特異災害による犠牲者の皆様への鎮魂歌として「やすらぎ」を』
おりんは歌う。安らぎを与えるために、戦うために、守るために。
コメ欄は「ありがとう」「これからも続けて欲しい」「たまには息抜きな配信もして」「平和になったらBL配信を復活させろ」「もうゲロは吐くなよ!」「これからも応援していく」「(更に応援していく方向に)切り替えていく」「最後までイキり生き続けろ」「再びおりんとしてイキれる日を待ってる」と感謝のコメントが流れる。頼むからゲロは吐かないでくれ。
やっぱり、ダンゴムシはダンゴムシ、おりんはおりんか。