「───っしゃあッ!!」
声を出す。そうして覚悟を心の奥底から捻り出す。
こうでもしないと、私はこの炭の粉が舞う戦場で、まともにいられそうにないから。
「ドクターウェル、ソロモンの杖を捨てて投降してください。さもなくば命の保証はしません」
加賀美さんがドクターウェルに降伏を勧める。従わないなら殺す、そんな脅しを付録にして。
「だぁれが!するものか!僕はこの力で英雄になる!」
「英雄になる?バカですね。英雄は結果です、目的としてる様な奴にはなれません」
「こ、こんな言葉を聞いたことはありますか?『英雄ってのはさ、英雄になろうとした瞬間になのよ』…って」
「ッ…うるさぁあい!!」
ソロモンの杖をドクターウェルが振ると、大量のノイズがまるでなく壁のようにドクターウェルの前に現れる。
交渉はほぼ必然的な失敗。だから…
「死んでも、知りませんから」
加賀美さんの言葉と放たれたホーミングミサイルは、ありふれた街で起こる戦いの火種となった。
「道ィ…開けろォォォォォォォォォォ!!」
咆哮。私は自分を鼓舞しながら突撃する。ドクターウェルへの道をノイズ達が塞ぐ。
(いくよレーヴァテインッ!!)
『いいよッ!志乃ちゃん!』
「ら゛ァッ!!」
ドゴォンッ!という音に大剣が振り下ろされる。
斬るということを諦めたかのような大質量の攻撃で、ノイズ達は吹っ飛んでいく。
次々とノイズが出てくる。これじゃ、届かない。
(フルで回すよ!)
『うん!』
レーヴァテインと息を合わせる。腕と足のギアが変形し、蒸気を吹き出し始める。
「あ゛ッァァァァァッ!!!」
突撃すると同時に、動きを加速させるように蒸気が勢いよく吹き出す。蒸気によって数体のノイズが吹き飛ぶ。
「し゛ゃあ゛ッッ!!」
勢いと共に大剣をなぎ払う。多くのノイズが吹き飛ぶが、目的であるドクターウェルまでは届かなかった。
加賀美さんも機関銃直接狙いますが、ノイズが壁となった。
「お前達も僕の邪魔をするのかぁ!加賀美詩織ィ!織田志乃ォ!
「ええ、しますね。あなたは人を殺した、その罪は償わせます」
「人の命に、LもHもないんです」
そう、お母さんの命だって、軽いもんじゃなかった。
「僕を殺せば人殺しになるぞぉ!」
「咎は受けますよ、あなたを始末した後ですがね!」
え?殺すの?極限まで力振り絞って大剣の腹で殴るつもりだったんだけど。
(それって同じじゃない?)
本当に死ぬのは苦しくないのでNG。
「月の落下を!防げるのは僕達だけだぞォ!!世界を滅ぼすつもりかぁ!!」
「じゃああなたを始末した後にゆっくり考えますよ!」
なんかチャージしてロックオンをドクターウェルにキメてるんだが?
ちょっちょちょちょちょちょ!?おりん何をしている!?いやその人から聞くこととかあるんじゃないの!?
「殺しちゃダメです!詩織さん!」
そうだよ!(便乗)おりんといえど覚悟のキメすぎは困りますおりんァーッ!!
「うわ……ウワアアア!!!」
…ぐっ、こうなったらギリ私が防──
「間一髪……デース!」
「た盾ぇ!?」
「なんと、丸鋸……」
加賀美さんの攻撃は、盾…ではなく丸鋸で塞がれたしまった。多分鋸を最初に作り出した人は泣いていい。
といってもここで2人もの装者が途中で参戦…数的には不利…か?
『どうする?私も出る?』
(ううん、今はこれがいい)
今下手に数を増やしてもダメだ。そもそも相手は自由にノイズという味方を増やせる。ここで戦力を複数に分断するのは悪手、各個撃破されるだ。
「待ってください!詩織さん!ダメです!」
へ?
ってうぉいッ!その覚悟のキメ方は確かに戦場において大事かもしれないけどリスナー的にはアウトですッ!
…チッ、嬉しいのか悲しいのか。人を殺すのはダメだがせめて少しぐらい手負いにはなって欲しかった。
「容赦ない……ッ!」
「血も涙もない冷血女デース!世間様にあれだけアピールしても!所詮は偽善者だったんデスね!」
あ?おりんの何を知ってるんだ君達が?
(志乃ちゃん?)
「しゃ゛ぉらい゛ッ!!!」
「うわぁ!?危ないデス!」
「危機一髪…!」
全力で蒸気を吹かせて接近し、大剣を叩きつける。が、避けられてしまった。
だから…
「ん゛んッ!!」
「「ッ!!!」」
ギアに繋がれているコードを一本、大剣に繋いで思いっきり振り回した。
甲高い金属音と共に防がれたけど、ノックバックである程度の距離を取ることに成功した。
「ヒィィィッ!」
ドクターウェルが怯えている。それはどうでもいい。中途半端な知識でおりんを語っていた奴らに痛い目見せられただけで満足。
「ま、まるでバーサーカーデス…」
「脳筋…」
脳筋万歳。バカっていってもいいけど、筋肉をつけてね。
嗚呼、スッキリした。…あぁ、ダメだダメダメ。テンションがおかしい。これじゃあ私じゃない。正気を保つんだ。
『…大丈夫?志乃ちゃん』
(…大丈夫)
I am LEAVATEIN,LEAVATEIN is me.
ふぅ〜…リラックス、リラックス。…おぇ、よくわからん緊張でクラクラしてきた。
「…私は善人でもなんでもないですよ、ただ平和が欲しいだけ、それだけ」
そう言って加賀美さんは3人をロックオンし───
「立花さん、邪魔です」
立ちはだかったのは、敵ではなく護衛対象の、立花さんだった。
「ダメです……ダメですよ!詩織さん!それに志乃さんも!どうしてしまったんですか!!」
「別に、私は、き、気に食わなかっただけです…」
「そいつらは平和の敵です、さっさと始末してしまえば、立花さん達が戦わなくて済みます」
「それでも!」
…ッスー…ッフー………
『……志乃ちゃん?』
(あぁいや、大丈夫。ちょっと頭が熱にやられてただけだよ)
体はあったかいけど、心は冷静なんだよ。アガリ症だけど。
そうだよ、何も殺すことはない。同じ立場にある人間として、そしておりんのリスナーとして、おりんには人殺しにはなって欲しくはない。ある意味それを防ぐ為に、私はいるのかもしれないから。
「わかりました、殺しはしません……でもですね捕まえる必要は……」
加賀美さんは立花さんを説得する。
……ん?あの装者の2人、何をして…?
「もう一度警告します、武器を捨て投降してくださ───」
穏便に済ませようと、加賀美さんが交渉を持ちかける。が──
「「Gatrandis babel───」」
(志野ちゃん!!)
「あ゛ぁ゛ッ!??」
この2人の装者が口にする歌は、間違いなく絶唱のそれ。己の身を滅ぼす程の高出力を叩き出す諸刃の切り札。
「調ちゃん!?切歌ちゃん!?どうして!!」
「立花さん、どいてください」
加賀美さんはそう言うと、立花さんを後ろに大きく投げ飛ばした。少々雑なやり方だけどしょうがない!
「「Gatrandis babel───」」
絶唱といっても、単純な高火力ではない。聖遺物毎にも元の神話に基づいた固有の特性がある。
レーヴァテイン。かつて巨人スルトが振るった世界を焼きつくす炎の剣。それに基づく属性は一切合切を焼き尽くす「炎」。
脂汗が滲み出る。「歌」を火種とし、フォニックゲインを薪としてくべる。そして燃えるのに酸素が必要なように、私の体力が奪い取られていく。
『(…………あれ?)』
フォニックゲインの高まりをあまり感じられない。体力の消耗が少ない。
「出力が上がらない!?」
「減圧!?」
「立花さん、何をしているんですか」
私は咄嗟に立花さんの方を向く。それは、歌。歌によって、絶唱が束ねられ、小さくなっていく。
「立花さん、そんな事をしなくても二人始末するぐらい……」
「これぐらい、大丈夫、ですッ」
「ダメ……ですよ!詩織さん!……いつもの優しい2人に戻ってくださいッ!」
…あっ。忘れてた。マズい、本来の目的は立花さんがギアを使わないようにする為の護衛なのに、私達のせいで意味がなくなってる。これじゃ本末転倒だよ!!
「私は……違う!ダメです!立花さん!!」
「止まってください!!」
「セット!ハーモニクス!!!」
おわっ!?物凄いあったかい!?
あ゛ぁ゛ッ!?加賀美さんが溶けてるぅーッ!?
「二人にも……詩織さんと織田さんにも絶唱は使わせないッ!!」
「ッ!!」
大剣を咄嗟に深く刺し、柄を力一杯握りしめる。一瞬遅れて、とてつもない衝撃が、大剣越しに伝わって、吹き飛ばされそうになる。
「─────ッ!!」
なん、とか、踏ん張った!!ってアーッ加賀美さん吹き飛ばされてる!?
…あ、大丈夫らしい。安心。
DA違う!!立花さんが間違いなく大丈夫じゃない!!オォーッ!?倒れるゥーッ!?
「おぉうッ!!あつ゛っ!?」
「立花さん!立花さ―ッ!!」
加賀美さんも駆けつけたけど、熱すぎて手を出せない。
ある程度熱に耐性あるのに火傷しそうなぐらい熱いッ!!水道の温度を最大まで捻った熱湯ぐらい熱い!!
蒸気!!蒸気である程度緩和!!けどこれじゃ解決にはなんない!!
「今なら……やれるデスよ……!」
「なのに戻らなきゃいけないの?」
あぁクソッ!!逃げられる!!でも立花さんをなんともしないわけには…
『志乃ちゃん、私行こうか!?』
!!そうだ、レーヴァテインに向こうはなんとか…
(…ダメだ!)
加賀美さんの一緒に戦って引き分けの状態だったのに、レーヴァテイン単騎で、無事なわけがない!!
それはダメだ!!何よりダメだ!!でも…!!
「加賀見さん!立花さんお願いします!」
「…はい、わかりました」
私は立花さんを加賀美さんに任せ、追いかけていく。
「クソッ!!こういうときに悪知恵働かせてッ!!」
道を阻むようにいる大量のノイズ。その全部が、私の方を向いている。
「…レーヴァテイン…」
『…うん』
私から生まれた陽炎が形を取り、私と同じギアを纏い、似た姿をした少女、レーヴァテインが現れる。
「行くよッレーヴァティィィィィィィィィンッ!!!」
「ッ!!…あぁ」
意識が戻ると、そこはメディカルルーム。ここに運ばれたのは数える程だが、よくわからない安心感がある。
「志乃ちゃん」
「…レーヴァテイン」
何故なら、毎回こうやってレーヴァテインが、ちゃんといるから。
「ねぇ、志乃ちゃん」
「なぁに?レーヴァテi」
「レーヴァテインって呼び辛くない?」
「…………」
…………確かに。人の名前、というよりは物の名前、という感じがする。愛称ぐらいあってもいいよね?
「ん〜…といってもなぁ〜…」
「あ!じゃあレーちゃんがいい!レーちゃん!」
「えぇ…?(困惑)安直すぎない?」
「これでいいんだよこれで!」
大分染まってる気がする。私に。姿が写身なせいでほぼ私では?
「じゃあ、レー…ちゃん?」
「うん!志乃ちゃん!」
私とレーヴァテ…レーちゃんは、顔を見合わせて笑い合う。お母さんが亡くなって、こんな他愛のないことで笑うっていうのは、久しぶりかもしれない。
「……加賀美さん、大丈夫かな?」
「うん、大丈夫だったよ」
「よかった。日課の配信がないと心折れる」
「いつ配信に駆り出されるかビクビクしてるけどね」
「まぁね」
多分呼び出されたら待機中に気絶する自信がある。というかする。あのときは私も覚悟をガンギマリさせてたけど今は無理です。
「…志乃ちゃんも、無理をしないでね」
レーちゃんが私の頭を撫でる。それは、私がお母さんを撫でるときの撫で方だった。
「うん」
(頑張るよ、お母さん)
また期間が空くかもです
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