私は自分勝手だ。そう痛烈に感じた。
立花さんを戦わせてはいけない。その思考は確かに私のものだ。
けど、その為にレーちゃんにリスクを負わせることに、酷く恐怖した。だから、加賀美さんに任せた。
けど、そのせいで立花さんだけでなく、加賀美さんまでメディカルルームで横になっている。
結局、そうまでして追いかけたドクターウェルには、ノイズを当たり囮にされて逃げられてしまった。私も全部のノイズを倒し切った頃には体力が底を尽きて、倒れてしまった。
余談だが私を運んでくれたのはレーちゃんらしい。…あれ?私の意識なくても動けるんだ?
それはさておき。
メディカルルームには病院のようにカーテンの仕切りがある。そして、その向こうには加賀美さん、更に向こうには立花さんが眠っている筈だ。
…加賀美さんと立花さんの会話が聞こえる。けど、私はそれを聞こうとはしない。
「志乃ちゃん」
レーちゃんも頑張ってくれているのに、私は何もできない。長所はこの声ぐらい。心も体も弱いままだ。
力が、力が欲しい。私とレーちゃんだけじゃない。お母さんみたいな犠牲者が出ないように、もっと皆を守れる力が──
「志乃ちゃん」
「わぷっ」
突然、レーちゃんが抱きしめてきてくれた。
嬉しいけど大丈夫かなこれ?点滴とか圧迫されてる感覚するんすけど…。あ、大丈夫だった。
「顔、怖いよ?」
「…ごめん、ありがとうね」
直ぐに謝る癖が出てしまったけど、直ぐに感謝の言葉を伝える。
小さい頃、緊張でうまく喋れないし、すぐに失神していて、一時期登校拒否していた私を、お母さんもこうやって抱きしめてくれた。
他人の体温は、落ち着く。誰のでもいい。イキモノの体温っていうのは、とても暖かくて、落ち着く。
「…大丈夫?」
「……うん、大丈夫、な、筈」
確信が、持てない。私は普段とは違うベクトルで、メンタルがボロボロなのかもしれない。
皆に、レーちゃんにも、加賀美さんにも、立花さんにも、司令や二課の皆に迷惑を掛けながら戦ってる。
「ねぇ、レーちゃん」
「んー?どうしたの?」
「……強くなるには、どうしたらいいのかな?」
すると、少しレーちゃんの顔が険しくなってしまった。私のことをジッと見つめてる。
初めて見る顔かもしれない。わ、私なんか地雷踏んじゃいましたかね…?(震)
「志乃ちゃん」
「…うん」
「強さを手に入れる為に手を伸ばしちゃだめだよ。それが真の意味で手に入るときっていうのは、きっとセカイが必要だと思ったときなんだよ」
「…もし、自分から手を伸ばしたら?」
「どうにも、こうにも、どうにもならない。そんなときに、偶々、力を手に入れる為じゃなくて、生きる為、誰かの為に咄嗟に手を伸ばす。それならいいんだよ。
でも、そうじゃなくて、力を求めて手を伸ばす。そうして手に入れたものが導いてくれるのは、破滅だよ」
そう語ったときのレーちゃんは、私じゃなくてきっと別の何かを見ていた。
まだこのレーヴァテインというギアを手に入れたばかりの頃、レーヴァテイン周りの神話について調べたことがある。
レーヴァテイン、という聖遺物は、北欧神話において世界を丸ごと焼き尽くす究極の武器として、スルトが振るった。
スルトはそれを己の欲がままに振るった。とどのつまり、悪事の為に使われたのだ。結果、スルトは大爆発。世界は焼き尽くされ、ラグナロクは終焉した。
なるほど。大きな力は災いを呼ぶ。それを振るう為には、それに見合う力量。そしてセカイがそれに振るうに値すると認められなければならない。
「……じゃあ、私、もっと努力しなきゃかな?」
「頑張るのはいいけど、最近頑張りすぎだよ?ちゃんと休んで!」
レーちゃんがニコッと笑う。その笑みは今まで何度も見て、心の支えの一柱を担っていた。
けど、今は少し違うように見える。
レーちゃんも、頑張っているんだ。自分が世界を一度滅さことのできるほどの潜在能力があるから。
私はレーヴァテイン、レーヴァテインは私。そう言い続けたからには、私もレーちゃんと一緒に頑張らなきゃ。いや、頑張りたい。
──────────♪
詩が、聞こえる。何度も聞いた、加賀美さんの、おりんの歌声。
感情が、伝わる。希望、願望、そして覚悟。
覚悟を決める為に謳う。その発想に、私も倣いたい。
「…手を握ってくれる?」
「うん」
レーちゃんの手をゆっくり、ギュッと握ると、優しく握り返してくれた。
────吾は世界を滅ぼす紅き炎 紅き炎は型取り、吾の姿を取る
────吾その身にチカラを宿し、チカラは器に納められん
────吾その力を振るわん 願望は己の救済、されど欲深く更に多くを願う
────その願いこそは世界の救済 願いを承り、世界を滅ぼすチカラは世界を救うチカラに成らんと願う
────チカラと器 器はチカラを想い、人の身を捨てん
────人の身はチカラと成る 同じくして、チカラは人の身と成る
────交わり、溶け、混ざり合う やがて分かつは2つの身
────其は2つの器に納められた2つのチカラ 2つは高め合い、やがて願いを叶えんと手を取る
────汝らの名はレーヴァテイン かつて世界を滅ぼし、やがて世界を救わん
それは詩。しかし詩というには感情はなかった。例えるならばそれは呪文。しかし呪いは授けず、祝福を、授けてくれた。
「……
「……
レーちゃんの姿が、変わっていた。
いつの間にかギアを纏い、そして、完全に体が私と同じになっていた。
体が熱い。けど不快感は一切感じない。まるでそうであったかのように感じる。
「「…………」」
目を、ジッと合わせる。そして、ギアを解く。レーちゃんの目は紅かったのに、私と同じように、黒くなっている。
思い出したかのように、周りの声が聞こえてくる。
どうやら、加賀美さんにも何かあったらしい。
「…加賀美さん」
「織田さん」
加賀美さんの姿は、変わっていなかった。しかし、絶対に変わっていた。
ギアを纏っていて、周りが蠟塗れになっている。処理が大変そう(小並)
それは確かにおりんだ、けどおりんじゃない。不思議な感覚がする。
「…どうしたんですか、それ」
「───捨てました。今の私にとっては、要らなかったので」
捨てた。恐らくそれは、体を全部聖遺物に変えた、というだと思う。
文句の一つでもいいたいものだけど、私も人のことを言えない。
「……多分、そっちが織田さん…ですよね?」
「そうですよ」
私の方を見てそう言う。多分、そういうことなんだろう。
私とレーちゃんが同じ姿になっている。外だけじゃなくて、中も。
「髪伸びました?」
「え、伸びてます?」
「えぇ、多少」
髪の毛を弄る。…本当だ。肩甲骨辺りまで伸びてる。
「加賀美くん!織田くん!」
「ヒィッ!?」
突然メディカルルームに司令が入ってきた。未だにこの人になれねぇ…。なんとかしなくちゃ…(震)
「織田くん…どっちが織田くんだ?」
「た、多分私の方です…よね?」カタカタ
震えが止まんねぇ。あーやばい、緊張が止まんない。
「織田くん、君は───」
「「私はレーヴァテイン、レーヴァテインは私。そこに変わりはありません」」
レーちゃんと手を繋いで、司令にそう言った。ほんの少しだけだが、緊張が和らいだ…。
「……ッわかった。だが、これからは一言必ず言ってくれ」
「わかりました」
司令は、諦めたようにそう言って。加賀美さんの方を向いた。
「織田さん…」
立花さんが、私の方を心配そうな目で見ている。
「「大丈夫ですよ、立花さん」」
そう、確信を持って言った。
なるべく来週末にも更新したいです
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