透明な物をなくさない方法   作:ヤンデレ大好き星人

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第三話 面白いやつだ

 俺は作田吉利(さくた よしとし)。誰の記憶にも残らない人間になるために、平凡な生活を送るよう心掛けている。俺が小学生の頃に卒業文集で書いた、『透明人間』にはこのような一節が書かれている。

『サラリーマンの帰宅時間、つり革にもたれかかった、疲れた顔をしたスーツ姿の中年男性。の隣に居る全く印象のない人物を、白く濁った液体に例える。その液体を、砂利のぎっしり詰まったタルへ流し込む。タルの中で濾過され、透明になった液体。それが作田吉利である』

 特に心に響く一節というわけではないが、これこそが子供の頃から変わらない俺の本質だ。だが平凡というのはなかなか難しい。誰とも関わりを持たないと、それは孤立という存在感を放つ。かといって人脈を広げすぎると、人に認知される数も増えてしまう。極度に嫌われているのも良くない。他人に強く意識されている状態だからだ。

 俺は2年生になり後輩というものが出来た。その中に安藤杏(あんどう あん)という女子生徒がいる。彼女は髪を明るく染め、女子にしては高めの身長だ。西崎春子(にしざき はるこ)のことを可愛いと表現するならば、彼女は美人と表現するのにふさわしい。そのモデルのような外見から、入学当初から男子生徒の間で噂になっていた。しかし、いかんせん外見どおり性格がきつい。春子と違い、誰からも愛される存在にはならないだろう。本人にもなる気はないようだ。それでも隠れたファンがいたりと、なかなかの人気者。目立ちたくない俺にとって、あまり関わりたくない存在だ。ではなぜ彼女の名前を出したかというと、それは彼女が俺のことを極度に嫌っていたからだ。一人に嫌われると、感染症のように広がりかねない。平穏な学園生活を送るには、どうにかしなければならない問題だった。

 

◆ ◇ ◆

 

 高校2年生になっても、変わらない学校生活を送っていた。学校では春子との接触がないので、本当に平和である。なので春子とその後どうなったかという話は、今は置いておこう。

 ところで、どこの高校もそうかもしれないが、変なあだ名の人間が多数居る。名前をいじったものはまだ良いが、最寄駅や、好物である食品名まであだ名になっているのでもう分からない。そういえば、春子は今でこそ『笑(えみ)ちゃん』というあだ名だが、中学時代は『サンちゃん』と呼ばれていたらしい。サンは太陽を英語にしたもので、太陽のように明るく笑うという理由だった。しかし、当時春子のことが好きだった男子の一人が、とあるお笑い芸人の芸名にちなんで『サンシャイン西崎』と言ってからかった。春子はそれをひどく嫌い、その男子生徒は女子たちから酷く反感を買った。そして、その男子生徒には戒めとして『サンシャイン』というあだ名が付いた。そんな感じで、他人から跳ね返ったあだ名なんてものもある。

 話は変わるが、俺は同じクラスに2人だけ男友達がいる。その一人が、今まさに俺の席に近づいて来た人物だ。

「よー、よしと。昨日送ったURL見たか? あれめっちゃエロいよなー」

 悪いな平社員。お前からのメッセージは、俺のスマホには表示されないんだ。不思議だな。ちなみに平社員というのは、こいつのあだ名だ。本名は忘れた。外見はそうだな、少しチャラい短髪のサッカー選手を想像して欲しい。それを黒髪にして、全体的に汚くまとめたのがそれだ。

 そういえば、先ほどの話には続きがある。サンシャインと名付けられた男はその後、それすらもおこがましいという理由で、平社員という名前に変質した。口を開けばセクハラな発言をするので、女子からは非常に嫌われている。

 そしてもう一人。

「やぁ、昨日貸したポテトチップスどうだった?」

 貸したってなんだ。食べたし美味しかったが、返す気はないぞ。

「えぇ、全部食べちゃったの? ついに君も、こっち側の人間になってしまうんだね」

 勝手にそっち側に引きずりこむな。俺はお前のように、体重の限界に挑戦したりはしない。こいつはデブ。本名は忘れた。身体的な特徴を使ったあだ名を聞いて、気分を害した人がいるかもしれない。だが心配はいらない。彼は太っていることに誇りを持っている。むかし教師の一人が、彼をデブと呼ぶ生徒たちに説教をした。その教師に対し、彼は「デブを悪口みたいに言うな」と説教をしたのだ。今更だが彼の外見について説明すると、デブである。それ以外に、彼自身が強調していないのだから仕方がない。

 この2人の友人、一見特徴的で注目を集めるように見えるだろう。しかし春子と比べてどうだろうか。多くの人にとって、興味が湧かなかったのではないだろうか。このように、俺よりもキャラが強いが、興味が持てるかというとそうでもないという貴重な存在である。

 

 

 

 平社員、デブ、俺の3人で、朝の脳が働かない無駄話をする。すると誰かが、俺たちの様子を伺っているのに気が付いた。それは女子の3人組だった。こういう輩はたまにいる。狭いコミュニティーというのは、時に羨ましく見えるものだ。ちょっとした人間関係に嫌気でもさしたのだろう。俺たちみたいな底辺に、気まぐれで絡もうとしたのかもしれない。だが残念だったな。この壁を突破出来た者などいない。

「おはよー。作田くんたちって、いつも3人で居るよね」

 見ると女子3人組の中心に居るのは、俺が中学時代に声を掛けようとしていた女子だった。しかし時の流れとは悲しいかな、教室の隅で本を読んでいただけの彼女は、今やかわいい女子グループに所属している。まぁ今後彼女と関わることは無いだろうから、名前や特徴は割愛させてもらおう。

「休日に、なにやってるかって話してたんだ」

 平社員がそう答えると、彼女たちもその話に食いついた。

「へぇ~、作田くんは休日なにしてるの?」

 なぜか俺を指名してきたが、平社員が真っ先に手を挙げる。こいつは女子相手には、全力でアピールしようとするのだ。

「君たちは休日何してるの? 彼氏いる? みんなおっぱい大きいし、彼氏いそうだよな。ちなみに俺は彼女とかいないから、休日空いてるぜ!」

 さらっとセクハラを混ぜるあたり流石だ。彼の女子への興味は果てしなく、その勢いはどんな女子もこう言わせる。

「へ、へぇ……そうなんだ……」

 ちなみに普段は平社員と呼ばれているが、女子の間ではセクハラ大臣だなんて呼ばれている。随分と出世したものだ。そしてデブも発言しようとしている。行け、お前の力を見せてやれ。

「お、俺は日曜日だけでポテトチップスを10袋も食べちゃったよ。お陰で胸焼け気味だけど、この体重を維持するためには今日もいっぱい食べないとね」

 なんだその意識の高さは。あまりに油っこい話題に、聞いていた女子たちの方が胸焼けしているじゃないか。

「そ、そうなんだ。すごいね。あ……チャイム鳴っちゃうから、私たち席戻るね」

 女子たちは下がりきったテンションを、苦笑いでごまかしながら去って行った。平社員とデブのコミュニケーションカウンターにより、撃退に成功した。やれやれ、こいつらの面白さが分からないとは。

 このように俺は、2人の素晴らしい友人のお陰で、狭い人間関係を保てているのだった。

 

 

 

 今日はバイトがないので、放課後は直帰を決め込んでいた。教科書やノートをカバンに詰め込み、それを担いでさっさと教室を出た。階段を降りたところで、一人の女子生徒とばったり出会う。この学校は、学年を上履きの色で分けている。今目の前に居る女子生徒の上履きは、1年生のものだ。

「うわ、先輩じゃないですか」

 ドン引きしながら俺から距離を取る後輩。彼女の名前は安藤杏。この後輩との関係を、説明するのは難しい。彼女は身長が高くスタイルが良い。ファッションにも詳しく、1年のオシャレ番長である。髪は原色を抑えた上品な茶色で、背中に当たる程度の長さだ。腕には髪留めやら色々巻かれている。普段髪を結んでいないのに、どうしてあんなに持ち歩いているのだろうか。説明を見て分かる通り、それなりに目立つ側の女子である。本来であれば、こういうやつとは関わらないのだが、色々あったのだ。

「先輩、もしかして私が帰るの待ってたんですか? マジでストーカーじゃないですか! キモいんで近づかないでください」

 うん。彼女は俺を勘違いしている。彼女の中では、俺が彼女のことを大好きだということになっている。

 

 

 

 初めて安藤杏と出会ったのは、2年生になったばかりの時だった。1年生は入学式の後、購入したばかりの教科書を持ち運ぶという苦行を行う。俺は2年の男子トイレが混雑していたことにより、下の階まで降りてきていた。廊下には教科書を重そうに運ぶ1年生たちの姿があった。その中に、教科書を落としてしまった女子生徒が居た。その女子生徒というのが、安藤杏だった。1年にしては大人びた顔立ち。誰が見ても美人と呼べるその女子生徒は、男子の視線を一身に集めていた。1週間もすれば、他の学年の男子の間でも噂になるだろう。俺は全力で関わりたくないので、その生徒をスルーした。あれだけの美人だ。きっと誰かが教科書を拾ってくれるだろう。そう人任せにして彼女の横を通り過ぎようとすると、俺の足になにかが当たった。それは教科書と一緒に、女子生徒が落としたボールペンだった。流石にこれを拾わないわけにはいかない。渋々ボールペンを拾い上げ、持ち主に渡した。

「ありがとうございます」

 彼女はそれだけ言って、拾い終わった教科書を抱えそそくさと立ち去った。

 これが安藤杏という後輩との出会い。なんの変哲もなく、発展性もない。だがそこから不思議な偶然が続く。その日からどこへ行くにも安藤杏と遭遇した。俺は気付かないふりをしたが、彼女は不快に感じていたようだった。

 その日も偶然、廊下で安藤杏と遭遇した。いつものように見て見ぬふりをして、どこかへ退散しようとした。だが彼女から引き止められた。

「ちょっと話があるんですけど、いいですか?」

 威圧的な声だった。表情からも嫌悪感が感じられる。放っておくとまずいと思い、彼女の話を聞くことにした。連れて来られたのはとあるロッカー前。立ち入りが禁止された空き教室の横にあるので、滅多に人が来ない。

「結論から言いますけど、私あなたのことが嫌いですから。付き合えませんよ」

 なぜか振られた。というか、言っている意味がまるで分からない。

「とぼけるんですか? 先輩、私に付きまとってますよね」

 なるほど、そういうことか。俺が故意的に彼女と接触していたと勘違いしたのか。さてどうする。平社員が前に、かわいい女子がいると言って安藤杏の名前を出していた。彼女はすでに、2年の中でも話題になっている。目立ちたくない俺にとって、こういう人間とは関わりたくない。だが、嫌われるのも問題がある。適当な噂でも立てられようものなら、女子のネットワークにより俺の存在が広く知れ渡ってしまうのだ。

 考えた末、辿り着いた答えが謝罪であった。なんの感情も込められていない謝罪。曲げた腰の角度は90度。それでもこういう場合は、言い訳よりかは効果がある。

「……もういいですよ。今後は付きまとわないでくださいね」

 彼女はそうばっさりと言い捨てて、気が済んだのかそのまま去って行った。とんだ災難に見舞われたものだ。もうこんなことは、起こらないでもらいたい。そんな俺の願望に、運命は逆行する。

 

 

 

「先輩……あなたのことは嫌いって言いましたよね」

 そう、次の日も、はたまたその次の日も、安藤杏とばったり出会ったのである。今度こそ言い訳をしないと、彼女の中の嫌悪感が臨界点に達してしまう。そこでふと思い付いた。彼女は俺を完全にふっている。と言うことは、今後恋愛関係のトラブルには発展しない。つまり、春子のようにはならないのだ。ならば積極的に関わって、俺のことを知ってもらった方が誤解は解けるというものだ。謝罪からの許しではなく、信頼からくる許しである。となれば、まずは自己紹介だ。

「は、はぁ、私は安藤杏……ってなに突然自己紹介してるんですか。釣られて私も名乗っちゃったじゃないですか!」

 あ、こいつ多分面白いやつだ。

 その後も安藤杏との謎の遭遇は続き、その度に俺は彼女に話題をふった。そんな俺に対し、彼女はついつい話に乗ってしまっていた。和解の道が見えてきた。春子の会話術を参考に、彼女を杏と親しみを込めて呼んでみたりした。そんなことを続けていると、結構仲良くなった。だが未だ解決されていない問題がある。

「もう先輩! どんだけ私の事好きなんですかぁ」

 この誤解、未だ解けず。

 

 

 

 さて、今日も杏と遭遇したわけだが。もう流石に、俺を貶めるほどの嫌悪感を持ってはいないだろう。ならばわざわざ関わるメリットもないので、スルーして帰ろう。と思ったが杏に腕を掴まれた。

「いやいや、いくら先輩でも好きな人の前で緊張して喋れないって、男としてどうなんですか」

 別に好きじゃない。まぁいい。引き止められてしまったし、何か適当な話題でもふってさっさと帰ろう。確かこいつはファッションに興味があるんだったな。その話でもするか。

「私の私服ですか? 口で言っても伝わらなそうですし……あ、写真あるので」

 ポケットからスマホを取り出す杏。やはり好きな話題だったようだ。だが突然、スマホをいじる手を止めた。

「先輩、私の画像が欲しかっただけじゃないんですか? 後から、画像送れって言い出すんでしょ。私の画像を何に使う気ですか!」

 何手先まで読んでいるんだこの娘は。だがその読みは、初手から間違えている。面倒になってきたので、話を逸らす。そうだ。俺は無難な服を選んでいるつもりだが、ファッションには疎い。変な服を着て目立っても困る。ファッションに精通している彼女に聞くのは、得策かもしれない。

「男性の服ですか? 先輩変な服着てそうですもんね。しょうがないですね、今から駅前で一緒に買いに行きますか?」

 いいのか。正直助かる。自分一人で買った服は、高い確率でタンスに引きこもる。それは経済的にも良くない。

「じゃあ行きま……あ、デートじゃないですかこれ。これが狙いだったんですね。先輩のラブマインに引っかかるところでした」

 ラブマインってなんだ。お前は自分の仕掛けた罠に引っかかっているだけだ。杏は、ぱたぱたと手を動かして動揺している。彼女は美人だが、こうやって見ると中身は年相応なのだと感じた。

「ま、いいですよ。先輩も、着る服がないと困っちゃいますからね」

 こういう面倒見の良いところも含めて、彼女を気に入っている。なにより杏は、俺を振っている。恋愛とは一切無縁の女友達として、気楽に接せられるのは良いことだ。

 

 

 

 俺と杏は、駅前のショッピングモールへ行き服を買った。杏の好みなのかゆったりめのシャツに、細身のズボンという組み合わせになった。色はモノトーンばかりで、普段着とあまり変わらない。あと杏の服も買った。あれだけ俺のセンスを疑っていたくせに、最後は俺が選んだ服を購入していた。相変わらず変なやつだ。

 そういえば、行きたいところがあったんだ。服を選んでくれたお礼もしたい。

「え、おごってくれるんですか? なんか怖いんですけど」

 こいつは何を警戒しているんだ。このカフェに行きたいだけなのだが。杏にスマホの画面を見せる。そこには、行きたい店のメニューが映っている。この苺のパフェが食べたいのだ。男だけでは頼みづらいし、量も多い。

「……っ! これ、カップルで食べるやつですよ! まさか、これが目的だったんですか! 流石に引きますよ……」

 違う、そっちじゃない。隣のやつだ。そんな悪趣味なハート形のオブジェが付いたパフェを、食べたいだなんて言うものか。

「ま、まぁ、いいですけど……先輩がどうしても行きたいなら……」

 やっと理解したか。じゃあ早速行こう。

 

 

 

 全体的にパステルカラーのカフェは、店内の雰囲気もなかなか良い。……うん。なぜだ。俺の目の前には、ハート形のオブジェがある。これパフェ? まぁ、犯人は知ってる。こいつだ。

「だって……先輩これが目的っぽかったし、あんまり否定するのもかわいそうだって思ったんです」

 いや、俺はもっと違うものが食べたかったんだ。こいつ俺の話、全然分かってなかったのか。人がトイレに行ってる間に、変なものを注文するな。ん? スプーンが見当たらない。どうやって食べるのだろうか。

「スプーンですか? この、ハートの横に収納されてるやつですよ」

 杏はそう言って、ハート形のオブジェからスプーンを取り出した。おお、武器みたいだな。ちょっと待て、スブーンが1つしかないのだが。

「癪(しゃく)だわ。先輩がここまで計算していたなんて……。ほら、あ、あーん……してくださいよ」

 杏は顔を赤らめて、震える手で俺にアイスの乗ったスプーンを差し出してきた。なにお前、俺に弱みでも握られてるのか? そんなに嫌なら、辞めればいいだろう。

「いいんです先輩。私のこと好きすぎて変な行動を起こす前に、こうやって発散させないと」

 杏にとって俺は、頭のおかしいやつらしい。仕方ない。ここは素直に食べよう。そうして俺は、杏の差し出したスプーンに口を付けた。うん、味は悪くない。

「じゃあ……今度は私です。……あーん」

 餌を待つ雛鳥のように、口を開けて待っている。そうか、逆もやるのか。もう嫌だ。帰りたい。1つのスプーンで、パフェを完食する。なんだか酷く疲れた。どうして杏は平気なのだろうか。これ以上は限界だった。

 解散し、家に帰るとすぐに眠った。今日は本当に疲れた。もうあのようなおぞましいパフェは見たくないものだ。そう考えながら眠ったせいか、その日見た夢にはハート型のオブジェが出てきたのだった。

 

◇ ◆ ◇

 

 私の名前は安藤杏。趣味はファッション誌を見ること。自分の服にこだわりはないけど、目だけは肥えているから変な服は選ばない。そのせいで周りからオシャレだとか言われてる。都会に住んでる人に、笑われそうだ。

 私は今、高校1年生。入学式の日、変な男に出会った。背は高く、髪には一方向に流れるパーマがかかっている。あと前髪をいじる癖がある。軟派な男だ。どうせ1年の教室の前に居たのも、新入生の女子を引っ掛けるためだろう。こういうやつが、私は一番嫌いだ。

 その時私は、購入したばかりの教科書をロッカーに運んでいた。すると一番上の1冊がずれた。それを直そうとしたら、全て滑り落ちてしまった。教科書を拾っていると、一緒に落としたボールペンを巻き髪の先輩が拾った。最悪だ。でも、お礼は言わないと。軽く頭を下げて、お礼だけ言い早足で立ち去った。

 その日以来、先輩は私につきまとうようになった。学校のどこに居ても偶然を装って出現する。こんな陰湿な男は初めてだ。面倒なことになる前に、はっきりお断りしてやった。その時彼は、言い訳もせず素直に謝った。かなりねちっこい性格だと思っていたから、正直意外だった。そういえば、私はこの先輩のことをなにも知らない。別に彼のことを知りたいとかじゃなくて、単なる興味本位で彼のことを調べてみた。中学時代の部活の先輩が、彼と同じクラスだったので聞いてみた。先輩の名前は作田吉利。いつも教室の隅で本を読んでいて、交友関係も狭い。女性と話すことなんてほとんどないらしい。てっきり遊び人かと思っていた。

 次の日、また作田先輩と鉢合わせた。さすがにこれは偶然だろう。あれだけ酷く断ったのだから、先輩だって反省したはずだ。そう思ったが、先輩はむしろ以前よりもフレンドリーに挨拶してきた。なんなんだこの人は。女子とはほとんど話さないんじゃなかったのか。私は特別なのだろうか。だとすると、女性慣れしていない先輩は、振られても健気に話しかけてきたことになる。どんだけ私のことが好きなんだ!

 あまり邪険にするのもかわいそうだと思い、簡単な返事だけはするようにした。

 その日から、先輩と色々な話をするようになった。そしたら先輩のことが少し分かってきた。オシャレでやっているのかと思ったパーマは、天然のものだった。こんなに綺麗に一方向に流れた天然パーマなんて、初めて見た。でも本人は気にしているらしい。ストレートパーマをかければいいと提案したが、そんなことをしたら余計に目立つと言われた。先輩は目立つのが嫌いだ。女性の好みも、目立たない人がいいそうだ。私は目立たないというほどではないけど、友好関係は狭いので、その点当てはまったのだろう。

 先輩と出会って結構経った。なんだかんだ仲良くなって、彼のことも大方理解した。案外、悪いやつじゃないのかもと思ってきた。なんか……そんなに私のことが好きなら、付き合ってやってもいいかなって。でも先輩の私に対する好き好きアピールが日々強くなっていてちょっと面白いから、もう少し放っておこうかな。

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