彼女のゾイドと荷電粒子砲   作:城元太

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 とりあえず、僕がゾイドを知ったのは、確か小学4年のころだ。

 テレビでライオン型のメカが戦っていた。

 もちろん前からアニメが放送されているのは知っていたけど、それまではガンダムひとすじだった。友だちが沢山ガンプラを持っていて、僕も負けずに、というか釣られて買って、完成したガンプラを見せ合っていた。

 でも、そいつとは急に仲が悪くなった。そいつが作ったモビルスーツと、自分の作ったモビルスーツと、どっちが強いかって言い合いになったんだ。実在しないメカの性能を巡って言い合いするなんて、今思うと恥ずかしい思い出だ。

 そいつはモビルスーツの設定にやけに詳しくて、言い負かすことができなかった。勝ち誇って見下すような表情を浮かべられた時、僕の中で急に何かが切れたんだ、「たかがプラモじゃないか、じっさい動きもしないのに」って。

 ケンカのあと、家に帰って机の上に並べたガンプラを見渡して全然魅力を感じなくなっていた。

 ガンダムの良さはわかっている。好きな人の趣味を否定しない。でも、その時の僕はガンダムをあいつと一緒にしていた。とたんにガンダムが嫌いになって、すぐにダンボールに詰めると近所の中古ショップに売りに行ってしまった。もちろん小学生だけでは買取してくれないから、母親といっしょに。

 母さんはすぐに納得してくれた。

「あきらちゃんもおもちゃ卒業なのね」

「ちゃん」付けされるのにも恥ずかしくなっていた頃だし、確かに少し飽きていた。だから売り払って、あいつとは違う遊び、そう、カードでも買おうと思っていた。

 店に行って、売り払った千何百円かのお金を手にした。母さんは「好きなものを買ったら」と言ってくれた。じゃまなプラモが片付いたのが嬉しかったのかも、それにこれで勉強に集中してくれると思ったのかもしれない。僕は中古のおもちゃ売り場を歩き回って、ふと見つけたものがあった。

 真っ赤なゴリラ型をしたロボット、『アイアンコング・PK』って書いてあって、値段もすごく高かった。

(なんだい、たかがサルのロボットじゃないか。なんであんなに高いんだ)

 それより僕は、その棚の下にあった白いライオン型ロボットに目が留まった。

『ライガーゼロ』、それに換装パーツが2種類ついて千円ちょうど。組み済みだったけれど、きっと前のオーナーは几帳面な人なんだろう、バリもきれいにとっていて、状態もすごくよかった。ゾイドって動くおもちゃのはず、ガンダムなんかよりずっといい。

 僕はコンパクトに畳まれた箱と組み立てられたライガーゼロを持ってレジに並び、母さんがあきれた顔をしてみていた。

 結局カードは全然買わなかった。どんなに綺麗でも、あれって所詮「紙」じゃないかって。けっこうひねくれた小学生だったのかも。

 さっそく家に帰って電池を入れてみた。

 まっすぐ歩かないんだよね、特に床の上って。それでも、付属していた換装パーツ、「イェーガー」と「パンツァー」に代わる代わる交換して、机の上に飾って眺めていた。

 それが、僕がゾイドに少し興味を持つきっかけだった。

 

 アニメシリーズが何種類か放送され、ゲームが発売されたのも知っていた。あれから何個かゾイドを買って、幾つか机の上に並べていたけれど、僕はあっという間に成長していった。

 中学ではバスケ部だったけど、別にバスケに魅力を感じていたわけじゃない。ただ、兄とクラスの友達の何人かに誘われただけのことで決めていた。試合に勝てば楽しいし、負けても悔しくない程度。他にやる部活がなかったから、やっていたようなものだった。

 僕らの地区が弱かったのかもしれないが、地区の総体では2~3位に入賞するけど、県大会に進んだとたん一回戦負けをするレベル。僕は3年生の夏までレギュラーと補充要員を行ったり来たりして終わりになった。いっぱしの先輩面して、後輩に「あとを任せたぞ」なんて、気が利いたことを言ったような言わないような。

 その間、無難に勉強もやって、時々机の上のライガーゼロと、エレファンダーを動かして気晴らしをしていた。

 ゾイドって、夢中になる人がいるみたいで、僕の生まれる前からあったこと、「バトルストーリー」といって、独自の歴史観があることを兄から聞いた。

 ガンダムだっていろいろ歴史設定があって、それを楽しんでいる人は多い。だって大型ショッピングセンターのプラモ売り場では、子どもより大人の方が多かったし、他でもない僕の父親も何度か手にしているのを見たことがある。技術系の仕事をしていて、メカニックにも興味があるらしい父親は少し気恥ずかしいのか、僕が来るとすぐに棚にもどしていたけど。気にしなくていいのに。

 僕と言えば、時々あの中古ショップにいって、気に入ったゾイドを買い揃えていた。店の棚にあった『アイアンコング・PK』はいつの間にか無くなっていて、今さらながらあれを買っておけばよかったと思っていた。

 カッコいいと思うより、プレミアがついたのが惜しかった。小遣いかせぎになったかな、なんてイヤらしい考えだったけど。とにかく、僕の中であの赤いアイアンコングは心に刻みつけられていたんだ。あの時もう一度目にするまでに。

 

 灰色の受験勉強の話を聞きたい人はいないだろう。僕は担任が示した学力相応の高校を志望し受験した。少子化の影響で、極端な学力差があったり、中学在学中によっぽどの悪さをしていなければ受かるはずだったし、事実合格した。

 入学式のあとクラス発表を終えた新学期。中学バスケで知り合った他中の生徒と一緒のクラスになって、とりあえず顔見知りは何人かいた。

「吉山、お前はまたバスケやるのか?」

 声をかけてきたのは押川三郎。中学の時のライバルで、総体では何度か対戦している。ジュニアでは同じチームだったから腐れ縁。でも僕はしばらく様子をみようと言った。だって、うちの高校の男子バスケって県でも強豪で、練習の厳しさも聞こえて来ていたから。

 中学の部活で貴重な青春時代の時間をたくさん浪費(?)してしまったし、もうわざとらしい熱血スポーツはコリゴリだと思ったので、まずは何度か体育館に行き来をして、慎重に様子をみようともちかけた。

 体育館のギャラリーには、僕と同じように部活見学をする新入生が何人もいて、その反対側には女子バレーと新体操、それに剣道部の女子が並んでいる。

 期待しないでほしい、新体操と言ったって、練習でレオタードを着るわけでもないし、バレーだって普通のジャージ姿だ。それよりも、制服姿で見学をする新入生女子を見学する方が、〝男子の本懐〟というものではないだろうか!

……話しが脱線した。とにかく僕は、初々しい制服姿の新入生女子を、ボールよけのネット越しに物色するように見ていた。

 ふと、ギャラリーの端、一番奥の柱の陰で、少しうつむいて携帯電話の画面を見つめている女子をみつけた。

 少し茶色がかった髪に、真っ赤なケースのスマホを手にしている。真下で新体操のリボンとバレーボールが代わる代わるギャラリーの高さまで上がっているのに、一切気にしないでスマホ画面をみているんだ。

 何のために体育館に来たのかわからないじゃないか、見学しないなんて。

 でも、まあ、人それぞれに事情ってもんがあるんだろう。少しさびしげな影がある女の子は、ついつい男性を惹き付けるもの、僕はその程度の自己分析は出来る位に成長していた。

 いつの間にか見学時間が終わり、女の子たちもギャラリーから降りていく。僕たち男子も、一緒にギャラリーを降りる。誰とは言わずとも、女子と一緒に帰りたいからだ。そんな下心、男だったら持っているもんだろう。

「どうだった、……さん」

「あら、押川君。バスケ部入るの?」

「どうしようかな、俺、フィジカル弱いし」

 おい、お前はいつからメンタルが強くなったんだ。県大会進出のための3位決定戦で僕の中学に負けて、メソメソ泣いていたのはお前じゃないか。

 ま、いっか。話しのきっかけをつかんだんだから。

 僕は悪友を置き去りにして、入り口近くに置いたバックを持ち上げる。背負って立ち上がろうとして、下駄箱の影から不意に現れた人影に軽くぶつけてしまった。

 すのこ状の下駄箱の板の上に、赤いスマホが乾いた音を立てて落ちた。いまだに二つ折りタイプのガラパゴス携帯の僕にとって、憧れの機種だ。自然、画面に目を向ける。

 そこに僕は、実に意外な画像を目にした。

「アイアンコング・PK?」

 思わず声にした。あの日見た、あの赤いゾイドが、赤いスマホの画面に映っていた。慌てて拾い上げようとしたら、その女子はまるでひったくるようにその携帯を拾い上げた。

 あの少し茶髪の子だ。赤いアイアンコングが映し出されたスマホを拾い上げると、まず壊れていないか幾つかの操作をしている。

「ごめん、えっと、大丈夫?」

 頻りに画面操作をして、機能に問題が無い事を確認したのか、やっとこっちを向いた。

 僕は危うく声を上げるところだった。

 壊れてしまったのではないかと不安だったのかもしれないが、その子は少し潤んだ目をしていて、それがまた彼女の魅力を何割か増していた。

 肩に掛からない程度の髪をまとめ、そこから覗く耳は少し赤く染まっている。茶色がかった瞳は、エキゾチックというほどではないけれどちょっと他の子と雰囲気が違った感じだ。肌は小麦色というほどではないが、健康的に焼けていて、何よりとてもきめ細かい。胸の大きさは……それはまたあとで。

「だいじょうぶです。ごめんなさい」

「携帯、壊れていないよね」

 これは、素直に僕の感情から出た言葉。だってスマホって壊れやすいと聞いているし。

「うん、ちゃんと動いてる。私もうっかりしていたの」

「あの、さっきの画面、『アイアンコング・PK』だよね。珍しいね、女子でゾイドなんて」

 ここからは、話のきっかけをつかむための必死の会話。幸いにして僕はゾイドを知っている。

 でも、彼女は急に黙ってしまった。僕は何かいけないことをいってしまったのだろうか。

 彼女は無言で会釈すると、たちまち体育館を後にしていった。結局それ以上話せなかった。

 

 家路に向かう間、そして帰宅後、机の上で相変わらず鎮座するライガーゼロ(パンツァー)を見つめ、ずっと考えていた。

 

(あの女子は、なぜPKの画像なんかもっていたんだろう)

 

 さみしげで、はかなげな彼女の姿は、進級したての僕の心にアイアンコング・PKといっしょに刻み込まれてしまっていた。

 

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