アズれ!艦船少女たち!【アズールレーン】【二次創作】   作:琥珀ナオ

3 / 4
このお話は、私の嫁艦になっている『イラストリアス』との出会いからケッコンまでの過程を辿ったRPストーリーです。

私の中にあるイラストリアス像を投影しておりますので皆さんのイメージと異なる場合がありますがご了承ください。


高名なる白き輝き~HMS Illustrious~

 レッドアクシズによる宣戦布告から数日。

 手探りながらこの母港の運営に関わる仕事は順調に進んでいる。

 

 最近は主力艦の不足を補うために特型と呼ばれる空母を中心とした建造というものに着手した。

 どうやら今回の建造は思ったよりも時間がかかると明石は言っていた。それだけ強力な艦が出来るだろうとも。

 

 そして、ついに完成した。

 明石に呼ばれ、その艦の進水式に立ち会っている。

 

「それじゃあ、お披露目ニャア!」

 

 建造ドックの扉が開いた。中から静かな足音が聞こえてくる。

 

「指揮官様、御機嫌よう。イラストリアスが着任しましたわ。」

 

 そこに現れたのは、陽光にきらめく白き聖女だった。

 彼女の優しげな笑顔、長い手足に豊満な肉付き、透き通るような声、その身に纏った純白のワンピース。

 その全てに息を呑んだ。

 

「指揮官、どうしたニャ?なにかあの子におかしいところでもあったかニャ?」

 

 背中を明石に叩かれてハッと我に帰る。

 

「あぁいや。なんでもない。えっと…ロイヤル製正規空母『イラストリアス』、だね。これからよろしく頼む。」

 

 取り敢えず他の艦と同じように挨拶と握手を求めた。

 が、イラストリアスにその手を握り返された瞬間、指先の感覚まで鋭敏になるのがわかった。

 

 艦船少女達は皆少女だ。その身体構造もまた少女のものであり、触れれば人間とそう変わらないことも分かる。

 これまでも彼女達と初対面の時は握手をしてきたが、それぞれ個性的ではあるものの、皆少女らしい柔らかな感触であったのは覚えている。

 

 しかし今回のそれは何かが決定的に違った。シルクの手袋越しに触れたからだろうか?

 イラストリアスの握手が非常に静かで優しく、包み込むような握り方だったからだろうか?

 

 両手で右手を包み込まれ、僅かながら低い目線をあげて笑顔を向けてくれた彼女を見て、背筋から脳天まで電撃が駆け上がっていったのがわかった。

 

「…っ!よ、よし。それじゃあ、この母港の案内をしよう。…ついてきてくれ。」

「はい。」

 

 明石がデータベースから引っ張ってきた資料によれば、

 

 イラストリアス。ロイヤルの正規空母で、世界で最初に構想され、作製された『装甲空母』。イラストリアス級ネームシップ。

 かの大戦においては、幾度となく空襲に見舞われながらも、ついに終戦まで生き延びた耐久性を誇る。

 

 彼女のスキル名にもなっている『装甲空母』とは、空母に乗せる艦載機のドックを守るために、飛行甲板そのものを装甲にしようという着想から生まれた空母である。

 

 その最初のデザインのイラストリアスの場合、甲板ではなく艦載機ドックの天蓋を装甲化している。この装甲の硬さによって、幾度となく受けた空襲で飛行甲板が傷つこうとも空母、軍艦としての最低限の機能は残り続け、幾たびもの補修を繰り返して最後まで生き残った。

 

 彼女を見て最初に目を惹くのはやはりその胸囲だろう。

 

 基本的に、生み出される艦船少女の外見年齢は、元となった艦船のサイズに影響されると言われている。

 つまり艦体の大きい戦艦や空母は駆逐艦や巡洋艦に比べて成熟した女性の姿に近くなる傾向にあるということだ。

 

 その中でもイラストリアスは特に胸が大きい。これはいかなる理由なのか。

 

「…きゃっ」

 

 小さな悲鳴、背中にのしかかる重みと、押し付けられる柔らかな感触。

 後ろを歩いていたイラストリアスが躓いてしまったらしい。

 

「大丈夫か?」

「ご、ごめんなさい指揮官様。あの…恥ずかしながら私、こんな身体なので、うまくバランスが取れなくて。ちょっとしたことで大きく揺れてしまうのです。」

 

 イラストリアスの肩を支えながら後ろを振り向くと、恥ずかしいのか少しだけ頬を赤らめて俯き気味に目をそらす彼女の表情をみて、頬をピリピリとした感覚が走った。

 

 後日に資料を調べてみると、イラストリアスは艦体上部を装甲化したせいで重心が上に寄っており、ゆっくりでないと旋回もままならないほどにバランスの悪い艦船であったらしい。

 おそらく彼女のアンバランスと言われるほどの体型はそこからきているのだろう。

 

「い、いや。問題ない。歩くのが大変なら、俺に掴まってもいいからな。」

 

 つい、そんな言葉が出てきてしまった。

 イラストリアスも少しばかり驚いたような表情のあと、嬉しそうに、

 

「では、お言葉に甘えて、失礼しますね。」

 

 左腕を抱え込むように掴まえてきた。

 

「っ!?…あ、あぁ、じゃあ行こう…。」

 

 思いもよらぬほどに密着してきた彼女に狼狽えながらも、ロイヤル寮へと向かうのであった。

 

 …

 

「指揮官、なんだか楽しそうですね?」

 

 秘書艦として仕事をしていたジャベリンが、唐突にそんなことを言い出した。

 

「え?いや、この状況を見てそれを言えるか?」

 

 デスクの上には書類が山積みとなり、執務室は修羅場と化している。

 

 重桜の一航戦、二航戦による奇襲、およびその撃破の過程におけるユニオンの空母1隻、戦艦2隻の損失。

 その穴埋めのために母港では積極的な制海権の獲得のために動き出さねばならなくなった。

 

 まずは兎にも角にもと戦力補充のために新規艦の建造を急ピッチで進めている。航空戦力の重要性は先の戦闘でも明らかだ。

 しばらくの間は特型建造を優先的に進める予定でいた。

 

 幸いにも幾らかの艦がこれまでの戦闘の中で入手できた。

 どうやら、艦船少女同士の戦闘で撃破された艦のリュウコツは、稀にその場で新たな艦船少女を生み出す可能性があることがわかった。

 

 それによってロイヤル製巡洋戦艦『レパルス』や重桜製正規空母『飛龍』、他にもロイヤル製駆逐艦『コメット』『クレセント』などが着任している。

 

 しかし、これにより比較的高効率で艦隊を編成するための戦力が補充できたのはいいが、

 彼女達の力をさらに引き出すための訓練施設の拡充や、鹵獲(ということになっている)船の正式な登録手続き、なにより先の戦闘でのこちらの受けた損害を補填するための各種作戦など、着手すべき事柄が多すぎて目が回っているのが現状だ。

 

 あまりにもするべきことが多いので、秘書艦だけでなく、各自手の空いてる艦船少女達には任意で書類の仕分けなどを手伝って欲しいと通知している。

 

「こんなに仕事が山積みで、尚且つ彼方此方でセイレーンの影がちらついてる中で楽しいなんて思ってる余裕はないだろう。」

「そうなんですけど…。言い方が間違ってましたかね?少し、明るくなった気がします。」

「…?」

 

 ジャベリンの言わんとしてることがイマイチ理解しきれず首を捻ってると、指揮官室の扉をノックする音が聞こえた。

 

「ジャベリン、頼む。」

「はーい!どうぞー。」

 

 扉を開けると、そこにはイラストリアスが立っていた。

 

「イラストリアス、どうしたんだ?」

「最近みなさん忙しそうにしていらっしゃるようですから。私も微力ながらお手伝いをと思いまして。

 それと、指揮官様に差し入れを持ってきましたわ。」

 

 イラストリアスの手元には、お盆と、それに乗ったティーセットとクッキーがあった。

 

「っ!!ジャベリン、受け取ってあげてくれ。」

「あ、はい。イラストリアスさん、ここまでよく運べましたね?大変だったでしょ?…って、えぇ!?」

 

 お盆を受け取ろうとしたジャベリンだったが、手の上に乗せたはずのお盆がひとりでに浮き上がった。

 

「フフフ、少し、ズルをしちゃいました。」

 

 イタズラ成功と言わんばかりにクスクスと笑みを浮かべるイラストリアス。

 

 彼女の周りをよく見ると、お盆の持ち手には何やら紐のようなものがくくりつけられており、その紐の先を辿ると、プラモデルのような小型の艦載機がそれを引っ張り上げていた。

 

「ほぉ、そんな使い方もできるんだな。」

「一人で歩くときは、こうやって艦載機にバランスを取るために手伝ってもらっているんですよ。」

 

 お盆が宙に浮いているので、両手が空いたイラストリアスは、「少し、こちらのテーブルの上を片付けさせてください。」と、応接テーブルの上の書類を動かそうと屈んだ。

 

「あっ…」

「おっと、無理はしなくていい。俺がやろう。」

 

 体勢が崩れかけたイラストリアスの肩を支えて、ソファに座らせる。

 

「申し訳ありません指揮官様。」

「や、気にする必要はない。」

 

 そうしてテーブルの上を片付け始める。

 

 しかし、それを見ていたジャベリンは、疑問を抱えていた。

 

(いつの間に指揮官はあそこにいたんだろう?)

 

 さっきジャベリンに指示を出したときはワークデスクの前に座っていたはずだったのだが…。

 

 …

 

 そんなこんなで休憩がてらのティータイムを過ごした後、イラストリアスも加わっての作業が再開した。

 イラストリアスは資料の分類に専念してもらって、自分は資料の確認、署名等を、ジャベリンには各部署への連絡を任せることにした。

 

 整備ドックへと送る書類がまとまったのでジャベリンに持って行ってもらった。

 

 部屋にはイラストリアスと二人。特別に話す事も思いつかなかったので黙々と作業をしていた時のこと。

 

「指揮官様は…女の子のどこに魅力を感じますか?」

 

 唐突にそんなことがイラストリアスの口から飛び出した。

 

「…うん?どういう事だ?」

「そのまんまですわ。指揮官様はどんな女の子が好みなのかな〜って。」

「う…む…。あまり、考えたことがないな。」

 

 学生時代は勉学に励み、時には友人と阿呆な遊びで盛り上がったりもしたが、特別女性との関わりは無かった。

 

 軍属になってからは目の前の戦いや仕事に掛り切りであり、周りの人間と親交を深めるよりも、早く出世したいという気持ちだけで突っ走ってきた自覚がある。

 

「指揮官様。私達艦船少女は、人の思いや願いから生み出され、そしてその思いを守り、人類の平和を願う心を力に変えます。」

「なるほど…だが、それと俺の好みがどう繋がるんだ?」

 

 イラストリアスは少し考えるように顎に手を当てて、それからこちらに向き直った。

 

「人々の思い、願いは重要なファクターです。しかし、それ以上に大事なのは、私達自身の心、そして、私達の身近にいる人たちの心なのです。

 そして私達にとって一番身近にいるのは指揮官様ですわ。指揮官様が私達に向けてくれる思いの強さ。私達が指揮官様に向ける思いの強さ。それを高めることが私達の力を引き出す要となります。」

 

 なるほど、と合点がいった。

 

 彼女達のメンタリティを強くすること。それが彼女達の強さにつながる。

 

 ならば自分がすべき事は、母港の運営、艦隊の指揮は勿論だが、前線で戦う彼女達の、特にメンタル面でのサポートが最重要なポイントなのかも知れない。

 

「忠告ありがとうイラストリアス。少し、君達との接し方をもう一度考えて見るよ。」

「お役に立てたのなら幸いです。」

 

(私が本当に指揮官様に聞きたかったのは、そうじゃないんだけどなぁ…)

 

 イラストリアスの心の声が、指揮官に聞こえるはずもなく、再び黙々とした作業に戻ったのであった。

 

 …

 

 ソロモン海戦が始まった。

 

 重桜とユニオンの艦隊が入り乱れている。

 ユニオン側からの報告によれば、お互いに指揮系統が混乱しており、戦局は混迷を極めているという。

 

 互いにピンチではあるが、逆に言えばここで自分達が介入する事で流れを一気に掴むことができるとも言えるだろう。

 

 あらゆる危険が想定されるこの任務。母校における最高戦力を投入すべきと判断した。

 

「というわけだ。以下12隻によるソロモン海戦攻略作戦・序を開始する。

 

 第一艦隊、『イラストリアス』『ウォースパイト』『ユニコーン』『ジャベリン』『エクセター』『高雄』

 

 第二艦隊、『レパルス』『祥鳳』『エンタープライズ』『プリンツ・オイゲン』『綾波』『サンディエゴ』

 

 戦況は混乱しているが、その状況だからこそ、我らに有利にことを運べる可能性が高い。

 指揮権は旗艦であるイラストリアスとレパルスにある。こちらからの指示がない場合、この両名の判断に従うように。」

 

「「はい!!」」

「それでは、本日09時00分(マルキュウマルマル)より出航する。確実補給と準備を万全にしておくように。」

 

 各自が整備ドックに向かう中、指揮官室にはイラストリアスだけが残っていた。

 

「イラストリアスは準備は大丈夫なのか?」

「はい、事前に聞いていましたので。昨晩のうちに整備も補給も済ませてあります。」

「そうか…それなら折角だし、紅茶を淹れてもらえるか?」

「っ…はい!」

 

 あの日以来、イラストリアスはちょくちょく指揮官室に顔を出すようになった。

 来るたびに紅茶とお菓子を囲み、仕事も手伝ってもらっていた。

 

 それからジャベリンからの提案もあり、その頃から秘書艦をジャベリンからイラストリアスに引き継いで、今はもっぱら日中はイラストリアスと過ごす時間が増えていた。

 

 アズールレーン母港の所属艦が増え、ロイヤル寮では特定の船達によって構成される『ロイヤルメイド隊』なるものもいるらしく、時折彼女達が紅茶を差し入れに来ることもある。

 

 しかし、イラストリアスが部屋にいる時は、ロイヤルメイド隊ではなく彼女自身が紅茶を淹れてくれている。

 どちらかが頼んだというわけでもなく、何故かイラストリアスがいる時はロイヤルメイド隊も来ない。

「そろそろ休憩にしよう」という言葉が合図となり、彼女が自分の私室にあるキッチンでお湯を沸かして紅茶を淹れてくれるのだ。

 

 もともとコーヒー派だった自分からしてみれば、紅茶の違いというのはよくわからなかったが、いろんな茶葉を持ってきて、それぞれの魅力について語る彼女の楽しそうな顔を見ていたら、なんとなく味の違いがわかるようになった気がする。

 

(…ん?そういえば、直接「紅茶を淹れてくれ」って、初めて口にした気がするな?)

 

 振り返ってみればなんだか偉そうな態度な気がする。今後は気をつけるとしよう。

 

 そんな風に心の中で独りごちていたら、私室の方から声が聞こえてきた。

 

「指揮官様、準備が出来ましたわ。今そっちに持っていきますね。」

 

 任せきりはよくないなと、デスクから腰を上げると、視界にあるものが映る。

 

 艦載機。戦場では本物と同じサイズのそれとなって敵を襲うが、日常においてはイラストリアスの第二の手足となって彼女を補助する存在。

 それは現在台拭きを取り付けられ応接用テーブルの上を滑っていた。

 

(器用なもんだ。)

 

 と、感心しながら、私室へ向かおうとすると、既に私室用の丸盆に乗せたティーセットを持ってイラストリアスが出てこようとしていたところに鉢合わせてしまう。

 

「きゃっ!!」

「っ!危ない!」

 

 驚きのけぞった勢いでイラストリアスはバランスを崩す。

 このままでは彼女の持った丸盆に乗った沸かしたての紅茶が彼女に降り注ぐことになるだろう。

 スローモーションに見えた展開。身体は思わず地面を蹴って、彼女の頭と身体に腕を回して抱きかかえるように一緒に倒れ込んだ。

 

「ッッツゥ!!」

「し、指揮官様!?痛っ?」

 

 背中にガツガツと硬いものが叩きつけられ、ほぼ同時に焼かれるような痛みが襲いかかる。

 あまりの痛みに腕に力が入り、イラストリアスに負荷をかけてしまったようだ。彼女の声にハッとしてゆっくりと息を吐きながら彼女に回していた手を戻す。

 

 心頭滅却すれば火もまた涼し。精神統一の為に呼吸を意識しながら、すぐさま上着を脱ぎ捨てる。背中側には朱茶色いシミができていた。

 

「申し訳ありません!大丈夫ですか指揮官様!?」

「あぁ…大丈夫。上着越しだったから内側までは少ししか入ってない。火傷にはならないよ。

 それより、怪我はないか?つい力を込めてしまったが…。」

「いいえ!私なんかの心配は無用です!それよりも…」

「馬鹿なことを言うな!これから作戦があると言うのに前線に立つお前が怪我をしていては駄目だろう!」

「…っ!す、すみません。

 …紅茶、溢れてしまいましたね。あぁ、そろそろ時間です。私は出航の準備をしなければなりません。

 ロイヤルメイド隊の子達にカーペットのお世話はお願いしておきます。

 指揮官様は、早くお着替えになって、港で待っていてくださいね。」

 

 彼女はそう口早に告げて、心なしかふらつく足取りで部屋を出て行ってしまった。

 

 あぁ、またこれだ。

 どうしてか、自分は予定が狂うような出来事があるとカッとなりやすい。

 

 これまでは唐突に襲ってきたトラブル対応ばかりであったからそんなことを考える余裕はなかった。

 しかし今回のソロモン海戦攻略作戦は、自分がここにきて初めて自らの意思で立案し、計画した作戦だったからか、どこかで神経質になっていたのだろう。

 

 それに、イラストリアスは今回の作戦の旗艦、要に当たる。その彼女に何かあってはいけないのは当然のことだ。

 

 しかし、そうじゃない、そんなことが言いたかった訳じゃないのに、自分の口からはそんな建前上の言葉しか出て来なかった。

 

 見ろ。イラストリアスの表情を。自分が勝手に庇って負った怪我を自分のせいだと責任に感じてしまっているじゃないか。

 それに、せっかく心配してくれた子に対して仕事の都合で叱りつけてどうする。この場合かけるべき言葉はそうじゃないだろう?

 

 その日の作戦は順調に完遂された。

 ただし、一つだけ懸念事項が残った。

 

 イラストリアスが、中破した。

 

 …

 

 イラストリアスの代わりに報告に来たロイヤル製戦艦『ウォースパイト』、彼女によれば、敵艦隊の中核であった重桜製正規空母『翔鶴』を撃破し、作戦は完遂した。

 

 しかし、翔鶴の撃破の直前にこちらに向かっていた自爆ボートに狙われたユニコーンを庇う形で、イラストリアスが前に出て正面から受けてしまい、怪我をしたのだと言う。

 

 幸いリュウコツは無事で、翌日未明には整備ドックでの修理も終わったそうだ。あとは今日1日分も休憩していれば怪我そのものは完治するだろうとのこと。

 

 しかし、とウォースパイトが続けた。

 

「彼女は正午前には目が覚めましたわ。活動においても支障はありません。しかし、とても落ち込んでいて、部屋から出てこようともしないのです。」

「そうか…ウォースパイト、報告ありがとう。」

 

 一言で礼を言い、ウォースパイトを下がらせようとしたが、彼女の表情はまだ何かを言いたげであった。

 

「…どうした?まだ、何か報告することが?」

「いえ…あの、これは正式な報告ではなくて…」

 

 どうやら、個人的に気になることがあったと言うことのようだ。

 

「…話してくれないか?」

「…えぇ。

 イラストリアス、あの子は…出港前からなにやら元気がなさそうだったわ。

 あの日の朝はむしろ元気だったのよ。今回の作戦は指揮官の初めてのアズールレーンとしての任務だから、絶対に成功させなきゃって張り切っていたわ。」

 

 そうだったのか。と小さく相槌を打つ。

 

 ウォースパイトは言葉を続けた。

 

「ねぇ指揮官。あの子、あの日の朝の作戦通達の後、少しの間指揮官室に残ってたみたいだけど、もしかして何かあったのかしら?

 あの子が帰って来てから補修が終わった後私が付き添っていたのだけど、うわ言のように貴方に謝っていたわ。「指揮官様、ごめんなさい」って。」

 

 その言葉を聞いてから、頭の中で何かが弾けた気がした。

 

「…ウォースパイト、報告ありがとう。ちょっと、行ってくる。留守を頼む。」

「え…指揮官、行くってどこに!?」

 

 唖然としたウォースパイトを置いて、最初は早足に、しかしいつのまにか腕を大き振ってロイヤル寮に向かって走っていた。

 

(馬鹿野郎!馬鹿野郎!なぜあんなことを言った!?なぜ本音を素直に口にしなかった!?余計なことばかり考えやがって!!)

 

 あの時、イラストリアスに怒鳴りつけた自分を心の中で責め立てる。

 

 そうだ。予定が狂いそうになったから怒った訳じゃない。

 予定が狂うのは自分が悪いか、運が悪いかの二つでしかない。決して他人のせいにしてはいけない。

 

 あの時、何故飛び込んだ?

 

 それはイラストリアスが怪我をしてはいけないからだ。

 

 思えば、艦隊編成の資料を作成している時も、イラストリアスの名前は最後に書いた気がする。

 だからこれは、間違いない。自分は「指揮官と艦船少女」としての関係を超えて、イラストリアスを大事にしようとしている。

 

 これではいけない。軍人として毅然としなければ。

 

 そんな建前がどこかから聞こえた気がした。だから、彼女への想いなど無いと自分に言い聞かせて今まで一歩だけ下がって彼女を見ていた。

 

(そうじゃない!そうじゃないだろ!

 彼女だって言っていたじゃないか!彼女達にとって最も大事なものは、身近にいる人の思いだって!

 彼女は教えてくれようとしていたんだ!俺が心のどこかで彼女達に壁を作っていることを!その壁を超えて自分達と接してほしいと!

 なのに俺は変に格好つけて、外聞を気にして、余計な感情だと切り捨てた。それが彼女達を傷つける行為だと理解しようともせずに!)

 

 ロイヤル寮が見えてくる。庭にはアフタヌーンティーを楽しむ艦船少女達、窓を見ると掃除をしているロイヤルメイド隊がいる。

 

 自分が寮の門を開け放すように飛び込んで、走って行くのを驚いて見ている。

 

 寮に入ってイラストリアスの部屋を目指す。場所は一度だけ仕事が夜遅くなってしまった時に送ったことがあるからわかっている。

 

 扉の前に立つ。そこには『HMS Illustrious』と彫られた豪奢なタペストリーがある。

 

 荒れた息を整えて、2回ノックする。

 

「…どなたですか?」

 

 イラストリアスの声が聞こえた。

 

「イラストリアス、俺だ。…入るぞ。」

「え、し、指揮官…様?だ、だめですわ!わたくし…。」

 

 彼女の制止は無視して、扉のノブに手を掛けて押す。鍵はかかっていなかった。

 

 部屋の中はカーテンがかかっており、暗かった。

 ロイヤル寮の部屋は、かかっている予算は他の寮と変わらないのに内装も凝っており、まるで高級ホテルの一室のような雰囲気を持っている。

 

 そんな部屋の、窓際に部屋の3割は占めているであろう大きなベッドがあり、イラストリアスはそこで毛布をたくし上げて顔を隠してしまっていた。

 

 暗いままでは仕方ないと思い、灯をつけようとすると、

 

「あ、あの!今、私…顔を見られたくなくて…このままで、お願いします…。」

「…わかった。」

 

 ここはイラストリアスの意思を尊重しよう。彼女が見られたくないと言うなら、無理に見ようとすることはない。

 今ここでやりたいことは、彼女の顔を暴くことではない。

 

「じゃあ、イラストリアス、そのままでいい。落ち着いて、聞いてくれないか?」

「……はい。」

 

 消え入りそうに震える彼女の声が恐れを伝える。

 それを聞くだけで自分は今ここで自分の頬を殴りつけてやりたくなった。

 

 それをぐっとこらえて、彼女に聞こえないよう静かに深呼吸をして、言葉をゆっくりと紡ぎ始めた。

 

「まずは…昨日は…すまなかった。突然怒鳴ったりして。」

「っ、いいえ!指揮官様は悪くありません!あれは私が勝手に転んで、それを庇ってくれたからで!

 

 …私も浅はかでした。

 あの時、浮かれていたんです。指揮官様が初めて私の淹れた紅茶が飲みたい、って言ってくれたような気がして。

 

 作戦前でしたし、少しでも早く準備して指揮官様とお話ししたいなって思って、普段なら艦載機に運んでもらっているものを私一人で運ぼうとして…」

 

 なるほど。何気なく言った言葉だったが、彼女にとっては初めて頼られたという嬉しさがあったのかもしれない。

 

「考えてみれば、指揮官様はいつも私を支えてくれました。

 初めて会ったあの日からずっと、私のそばにいてくれる間は常に私を気遣ってくれていました。

 

 私、こんな不恰好な体でしょう?昔から言われていたんです。「不恰好で扱い難い」って。でもあの頃は資源もお金も不足していて、選り好みしている余裕がなかったから使ってもらえてた。」

 

 確かに歴史を紐解くと、彼女の身体バランスの悪さは、装甲による重心の高さが原因だ。おそらく操船する水兵達も手を焼いただろう。下手に急旋回を掛ければ転覆しかねないのだから。

 

「だから、最初は安心していたんです。現状、この母港は戦力が足りていないと聞いて、私でも使ってもらえると思っていました。

 でも母校の子達が増えてきて、主力艦もエンタープライズさんやウォースパイト様のような強い船が増えてきて、怖かったんです。

 

 もしかしたら…私はいつか使われなくなってしまうんじゃないかって。」

 

 そこまで聞いて、自分は今までのイラストリアスの言動に抱いてた小さな疑問が氷解した。

 

 なぜ彼女はここまで積極的に協力してくれるのだろうか?

 

 そもそも彼女が指揮官室に来ていたのは秘書艦に任命する前からだ。

 

 そういえば、なぜジャベリンはイラストリアスを秘書艦にするよう提案したんだろうか?

 

 もしかしたら、イラストリアスがジャベリンに頼んだのではないか?

 

 だとすれば、今のイラストリアスの告白は納得がいく。

 

 イラストリアスは、居場所が欲しかったんだ。

 たとえ戦略的な価値が失われても自分が必要としてもらえる場所が欲しかった。

 だから秘書艦になりたかったのだ。

 だから紅茶を淹れる役割をロイヤルメイド隊から譲ってもらっていたのだ。

 

 今回の任務で彼女を旗艦に指定した事を知って、おそらく彼女の喜びは有頂天になっていただろう。

 

 しかし、失敗してしまった。

 

 紅茶を淹れるという役割は、転んでしまったことで覆水に帰した。

 その事で信頼してもらいたい指揮官には叱責を受けてしまった。

 極め付けには、任務において、ユニコーンを守るためとはいえ、旗艦である自身が中破してしまった。

 

 誰かが言っていた。

 より強い絶望は、より強い喜びの後にこそ現れると。

 

 今のイラストリアスがまさにそれだ。

 だから、自分は…

 

「イラストリアス!聞いてくれ!

 俺が君を庇ったのは、俺が君を怒ったのは、君が自分の仕事の邪魔になるのが嫌だったからじゃない!純粋に君を傷つけたくなかったからだ!

 

 あの時、もし君が編成に組み込まれてなかったとしても、俺は君を庇っていた。

 

 怒ったのは…君が自分なんかと言っているのを聞いて、もっと自分に自信を持って、大事にして欲しいと思ったからだ…。

 

 バカは俺だ。

 アズールレーンという大きな組織を預かって、急変した事態に対処する切り札としての責任で焦っていた。

 それで仕事を完遂させなきゃと思って、変なプライドで壁を作って君の思いを無視していた。

 

 でも、違うんだ。俺は…イラストリアス、君が好きだ!愛してる!君と共に行けるならどんな苦境を前にしてもまっすぐ立っていられる!むしろ君が居なければ膝を折ってしまうかもしれない!

 

 君の力が欲しい!君の笑顔を見ていたい!君と共にこの海を歩んでいきたい!

 

 だから、そんな悲しい事を言わないでくれ。

 俺の隣で笑っていてくれ。

 

 俺には…君が、必要なんだ。」

 

 彼女を強く抱きしめる。

 

 言いたいことは言い切った。

 

 しかしまだ不安は残る。

 

 自分の答えは正しかっただろうか?

 彼女はこれを聞いてどう思っているだろうか?

 

「………ですか?」

「え…?」

「いいん…ですか?私は…あなたの隣に…いて、いいんですか?」

「あぁ…こちらから頼む。俺の隣に、いてもらえるかい?」

「〜〜っ!はい!」

 

 自分の背中に彼女の長く細い腕が回るのを感じる。ここまで近づいたことで、初めて彼女の鼓動が聞こえた気がした。

 

 感極まった彼女の嗚咽が止むまで…部屋には時計の時を刻む音だけが響いていた。

 

「…指揮官様。」

「なんだ?」

「私達は、指揮官様に本当の愛を戴くことで、本来の能力以上の力を発揮できるようになりますわ。

 そのためには…『ケッコン』という儀式が必要になります。」

「………」

 

 実のところ、それは知っていた。

 ケッコンは、艦船少女の最も身近な人物がその本人との間に真実の愛を育んだ先にある限界を超える儀式。

 重桜で発見されたこの性質だが、実例は非常に少ない。

 当然だ。少女の姿、心を持っているとはいえ、下手に彼女達と交わればそれは軍規に反する行為と定められているからだ。

 だから自分も、下手に一線を超えないようにと自制していた部分もあった。

 

 その儀式自体は特別な儀礼を行うわけではない。手順は二つ。

 一つは誓いの指輪、すなわちエンゲージリングを渡すこと。

 そしてもう一つは…

 

「イラストリアス…本当にいいのか?」

「はい。指揮官様のことなら、イラストリアスはな〜んでも受け入れちゃいますから。

 

 だから…指揮官様の思い…

 

 全部イラストリアスに教えて?」

 

 …

 

 イラストリアスと心を交わし合ったあの日、その翌朝のこと。

 

「指揮官?いるかニャ?」

 

 制服に着替えたばかりのタイミングで、ノックに合わせて明石の声が聞こえてきた。

 扉を開けると、やはり明石だ。

 

「なんだ明石?こんな朝早くに。」

「指揮官に渡したいものがあるニャ。中に失礼するニャ。」

 

 指揮官室にさっさと入る明石。

 その意図がつかめないまま、自分は明石と向き合うようにワークデスクの前に腰かけた。

 

「コレを指揮官にプレゼントふぉーゆーだニャ。」

「…?」

 

 手の平にすっぽり収まるサイズの小さな小包。

 リボンがついてるからにはくれるということだろう。

 

 包装を解くと、高級感のある箱。この形は見覚えがある。

 開くとそこには、キラキラと輝く指輪が入っていた。

 

「まさかコレ…」

「そのまさかニャ。

 指揮官もそろそろお気に入りの子が出来た頃かと思って用意しておいたニャ。

 本当は商品なんだけど、まぁ、明石から直接の就任祝いをまだ送ってなかった気がするし、指揮官になって一ヶ月お疲れ様ってことで、今回だけ特別ニャ。」

 

 こちらの事情についてどこまで知っているかなどおくびにも出さず、あくまでこの建前を崩すつもりはないようだ。

 

「別に使わないなら持って帰ってもいいけどニャ〜。」

「いや、ありがたく受け取るよ。」

「そうかニャ?指揮官も隅に置けないニャー。」

 

 それじゃあニャア。と言って明石は帰って行く。

 

 それからしばらくして朝8時。秘書艦の出勤規定時間ピッタリに、扉が開く。

 

「おはようございます指揮官様。今日も聖なる輝きを貴方のために届けて差し上げますわ。」

 

 彼女の笑顔はキラキラと輝いている。

 やはり彼女には笑顔でいて欲しい。

 

 そしてその笑顔は、常に自分の隣でこそ輝いていて欲しい。

 

 そう改めて思い、自分はデスクの椅子から立ち上がった。

 

 …




読んでいただきありがとうございました。

えらくドラマチックな展開になってますが実際にこんなことは喋ってませんしやってません。全部私の妄想です。

事実なのは
・はじめての建造が特型でイラストリアスだったこと
・だいたい四章攻略中くらいにケッコンしたこと(時系列)
・ケッコンしたこと
くらいです。

ちょっとエロゲーみたいな展開になりましたけどまぁ、コレそうゆうゲームですから。

かしこ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。