アズれ!艦船少女たち!【アズールレーン】【二次創作】 作:琥珀ナオ
なお、指揮官はユニコーンがこんな気持ちでいるなんて露ほども知らない設定ですので悪しからず。
こんにちは。私の名前はユニコーンです。
ロイヤルネイビーの軽空母。フネだった時は補給支援空母として色んな空母のお姉ちゃん達のお手伝いをしてました。
ユニコーンには好きな人がいます。
その人はこの母港で指揮官として働いているお兄ちゃん。あ、でも、お兄ちゃんって言うのはユニコーンがそう呼んでるだけで、本当のお兄ちゃんではないよ。
お兄ちゃんの母港のドックでユニコーンは建造されたの。だから、ユニコーンはお兄ちゃんのものなの。
着任したばかりの時はお兄ちゃん、とても忙しそうで、口数もあまり多くなかったから、少し怖かった。
でもね、ほんとはすごく優しいんだよ?お仕事したら頭撫でてくれるし、偉い人が来て怖かった時はイラストリアス姉ちゃんに来てもらってお仕事代わってもらったり…。
あ、イラストリアス姉ちゃんって言うのはね?ユニコーンより先に母港で働いてた空母のお姉ちゃん。
私がまだフネだった頃の最初のお仕事が、イラストリアス姉ちゃんの護衛だったの。それとね、私の設計はイラストリアス姉ちゃんがモデルなんだよ!
そう言えば、お兄ちゃんもイラストリアスお姉ちゃんのいる時はいつもより優しいお顔になってたな。
ユニコーン、お兄ちゃんの役に…立ててるのかな?
…
今日はユニコーン、お兄ちゃんに連れられてお出かけです。お仕事じゃないみたい。らいぶ?
しんちぇん?っていう人の歌を聴きに行くんだって。
…すごい。キラキラの衣装を着て、キラキラの歌声で。ユニコーン、歌のことはよくわからないけど、とってもドキドキした!
それに、横で見てたお兄ちゃんがとても楽しそうだった。
あんな顔、もしかしたらイラストリアス姉ちゃんの前でもしてなかったかも。
あの後、星坐さんにお手紙を送ったら、あの時のキラキラの衣装を貰っちゃった。
どうしよう…でも、「小さな勇気は最強の魔法」って教えてもらったから、ユニコーン、頑張る!
…頑張ったよ。そしたらね、お兄ちゃん、すごく嬉しそうな顔でユニコーンを抱きしめてくれたよ!
でもね、その後動かなくなっちゃった。ビックリして明石さんに見せたら、興奮しすぎで失神しただけだって。
なんだかイラストリアス姉ちゃんの知らないお兄ちゃんを見た気がして、少し、嬉しくなっちゃった。
ユニコーン…悪い子かなぁ?
…
お兄ちゃんとイラストリアスお姉ちゃんが、結婚するんだって。
この間、イラストリアスお姉ちゃんは、ユニコーンのせいで怪我をして、それから暫くお部屋から出てこなくなっちゃってた事があったの。
その時、お兄ちゃんが凄い勢いでロイヤル寮にやって来て、イラストリアスお姉ちゃんの部屋に入っていったのを見たよ。
実はね、ユニコーン、その時の二人のお話を、聞いてたんだ。
凄かった。
お兄ちゃんはイラストリアスお姉ちゃんを大好きなんだって。
イラストリアスお姉ちゃんもお兄ちゃんとずっと一緒にいたいんだって。
そこまで聞いて、ユニコーンはね、お部屋に帰っちゃった。
ユーちゃんを抱きしめて、お布団の中に潜ったら、なんでだろう。涙が溢れて止まらなくなっちゃったよ。
知りたくなかった。
…ううん、違う。
知ってたよ。お兄ちゃんとイラストリアス姉ちゃんは仲が良かったもん。
二人でいる時、凄く楽しそうだったよ。
ユニコーンがあの服を着て見せた時みたいなのとは違うお兄ちゃんの顔。
いつもユニコーンの隣で微笑んでくれていたのとは違うイラストリアス姉ちゃんのキラキラした笑顔。
だから、きっと、認めたくなかった。
だって、ユニコーンだって、お兄ちゃんが大好きだもん。
イラストリアス姉ちゃんも大好きだけど、お兄ちゃんと一緒にいたくて、他のお姉ちゃん達よりも、ユニコーンと一緒にいて欲しいって思ってるもん。
お兄ちゃん、やっぱりユニコーンは、いい子じゃ無いよ。
…
お兄ちゃんとイラストリアス姉ちゃんの結婚式の前日の夕方に、式場に来たら、お兄ちゃんとイラストリアス姉ちゃんがいました。
式場を用意してたロイヤルメイド隊のお姉ちゃん達はお仕事終わったのかな?もういないみたい。
「………」
夕日に照らされた会場の中で、幸せそうに笑っている二人を見て、心の中にぐるぐると嫌な言葉が回ってて、そんなことは言っちゃダメってユーちゃんを抱きしめて、目に溜まった涙を流さないように上を向いたら、
「雨、降らないかな…」
つい、そんな言葉が口から溢れました。
ハッとして周りを見回したけど、大丈夫、誰にも見られてない…よね?
ダメ、これ以上ココにいたら、ユニコーン、本当の悪い子になっちゃう!
そう思ったら、いつのまにか自分のお部屋で眠ってて、ロンドンさんが夕飯の支度ができましたって呼びにきてた。
「…いらないよ。ユニコーン、今日はもう、何もいらない。」
ロンドンさんは心配してくれたけど、すぐに行ってくれた。
…どうしたらいいのかな。
ユニコーンはお兄ちゃんが大好きで、イラストリアス姉ちゃんも大好きで、二人とも私のことを大事にしてくれてる。
でも、お兄ちゃんの一番はイラストリアス姉ちゃんで、イラストリアス姉ちゃんの一番もお兄ちゃん。そして、ユニコーンの一番は…
「わかんない…わかんないよ…助けて…」
嫌われたくない。
大好きな人に嫌われたくない。
大好きな人を嫌いになりたくない。
でも、ユニコーンの「好き」は、お兄ちゃんを困らせる。
このままお兄ちゃんを「好き」でい続けたら、いつかイラストリアス姉ちゃんのことを嫌いになりそうで、そうなったら、イラストリアス姉ちゃんもユニコーンのこと嫌いになる。
それはやだ。
嫌われたくない。
嫌いになりたくない。
困らせたくない。
でも…「好き」でいたい。
…
音が聞こえる。
扉を小さく叩く音。
鍵はかけてないよ。
扉が開く音。
何も言わないの?
足音が近づいてる。
…誰?
「ユニコーンちゃん、そのままでいいですから、お話ししましょう?」
イラストリアス…姉ちゃん?
「夕飯を食べてなかったみたいだったので心配になって、サンドイッチを持ってきたの。食べる?」
「…ううん、いらない」
「そう…」
コトリ、お皿を置く音。
少し静かになって、イラストリアス姉ちゃんが帰ったのかと思ったけど、
「ユニコーンちゃんは、指揮官様のことが大好きなのよね?」
急にそんなこと言われて、ビックリしちゃった。
「わかるわ。ユニコーンちゃんは甘えん坊さんだから、指揮官様みたいな方は相性がいいもの。指揮官様も、ユニコーンちゃんの事を話すときは本当に幸せそうな顔をしてたわ。」
「でも、お兄ちゃんはイラストリアス姉ちゃんと…」
ケッコンするんでしょ?という言葉が出なかった。
「そうね。きっと、ユニコーンちゃんの欲しい『好き』と指揮官様のくれる『好き』は違うかもしれないわね。」
お腹の中がキュッと締め付けられた。
イラストリアス姉ちゃんは、ユニコーンの気持ちを知ってたの?
「ふふ…気づかないと思ってた?きっと、ベルファスト達も気づいてるわ。だって、ユニコーンちゃんの指揮官様を見る目、私と同じだもの。」
心臓がバクバクと大きな音を立ててるのが聞こえる。
イラストリアス姉ちゃんは、怒ってる?ユニコーンがイラストリアス姉ちゃんのお兄ちゃんを羨ましがってて、嫉妬してるのを怒ってる?
「それがわかったとき、不思議なんだけど、嬉しくなっちゃった。」
「え…?」
なんで?ユニコーンの欲しい「好き」は、イラストリアス姉ちゃんにとって嬉しいの?なんで?
イラストリアス姉ちゃん、今、どんな顔をしてるの?
被ってたおふとんを少し持ち上げて、隙間から見たイラストリアス姉ちゃんの顔は、いつもと変わらない優しい顔でした。
「ユニコーンちゃんと私は、似ているけれど少し違う。私を支援するために、私の設計図をモデルに造られたフネ。
だから支援空母ユニコーンは正確に言えば私の妹ではないわ。でも、私の隣で戦ったことのある妹は貴女だけなのよ?
だから、私にとっては貴女の存在は特別なの。私の為の、「
イラストリアス姉ちゃんは、いつもよりおしゃべりでした。
「だから、ユニコーンちゃんは指揮官様が好きなんだって、同じ人を好きになれる子なんだってわかって、『あぁ、やっぱりこの子は私にとっての特別なんだな』って改めて思えたわ。」
そこまで聞いて、ユニコーンは余計に辛くなって、枕に顔を埋めちゃった。
「やめてよぉ…優しくしないで…。ユニコーンは…悪い子だもん。
イラストリアス姉ちゃんとお兄ちゃんの結婚式に雨が降っちゃえなんて思うような悪い子だもん。」
そんなユニコーンの髪を、イラストリアス姉ちゃんは優しく梳くって撫でてくれました。
「はいはい、悪い子悪い子。でも、やっぱりいい子。
私達を祝福したいけど、嫉妬しちゃって素直になれないから、不運を願ったのでしょう?」
外から音が聞こえます。しとしと…雨の音?
「雨…」
「やっぱり、降ってきたわね。綺麗な夕焼けだったから、もしかしたらって思ってたわ。こればっかりはどうしようもないもの。」
「じゃあ、明日は…?」
「もちろん、雨の中で結婚式をしますよ。でもきっと指揮官様は気にしないわ。あの人はちょっとやそっとの不運で挫けるような方ではないから。」
「そう…だよね。」
「だから、ユニコーンちゃんが指揮官様を好きでいたって、それで指揮官様を困らせてしまったって、そんなことでユニコーンちゃんを嫌うような方ではないわ。」
その言葉で、ユニコーンの中で何かが、少しだけ軽くなった気がしました。
「指揮官様はいろんな艦船の子達と関わって、彼女達のために最善を尽くしてくれる。だからみんな、程度は違えど指揮官様が好きなのよ。
だから、ユニコーンちゃんの想いだって、指揮官様はきっといつでも受け止めてくださるわ。」
ここで自分の気持ちを黙って、「うん、そうだよね」って言えば、きっとこの先も困らない。けど、どこかから応援する声が聞こえたの。
小さな勇気こそ、最強の魔法。
だから、ユニコーンは顔を上げて、イラストリアス姉ちゃんにまっすぐ向きました。
「…お兄ちゃんの前で…ワガママしてもいい?甘えても…いい?」
「えぇ、指揮官様だけでなく、私にもどんどん甘えてちょうだい。」
「ユニコーン、全然いい子じゃないよ?それでもいい?」
「えぇ、ユニコーンちゃんのいいところ、悪いところ、みんな、ユニコーンちゃんの大事なところなんだから。
何より、大事な妹なら、ワガママを聞いてあげるのは、お姉ちゃんの役目です!…なーんちゃって、ね?」
おいで、と両手を広げて誘ってくれたイラストリアス姉ちゃんに、ユニコーンが近づくと、ぎゅうっって抱きしめてくれました。
「いい子悪い子可愛い子。ユニコーンちゃんは私の妹。私の為に造られて、私と同じ時間を生きて、今こうして私の事を慕ってくれる大切な子。
そんな大切な子が、私の好きな人を好きでいてくれるなら、それはどんなに幸せな事でしょう?
安心して、この母港にいる限り、私も、指揮官様も、貴女のそばを離れたりはしないから。」
ユニコーンは、柔らかなイラストリアス姉ちゃんの腕の中で、目がさめるまで、泣いてたそうです。
…
「ん?ユニコーンじゃないか。どうしたんだ?」
「な、なんでもないよ。なんでもないけど…ここにいちゃダメ?」
「うーん、これから各施設の視察まわりにいくから、指揮官室は空けちゃうんだ。それでもよければ…」
「あの…一緒についてっていい?」
「…いいよ、一緒に行こう。」
結局、お兄ちゃんとイラストリアス姉ちゃんの結婚式は、雨の中でも行われて、体育館を使ってパーティ会場にして、雨の音に負けないくらいに賑やかに行われました。
イラストリアス姉ちゃんは、前よりもさらに張り切ってお兄ちゃんの為に頑張ってます。
お兄ちゃんは、イラストリアス姉ちゃんとケッコンしてから笑顔が増えました。他のみんなに対しても、前より優しくなった気がします。
そして、ユニコーンは、お兄ちゃんに告白しました。
もちろん結果はダメだったけど、お兄ちゃんはユニコーンに「本当の妹みたいになってほしい」って言ってくれました。
男の人として好きなのは変わらないけど、お兄ちゃんが私を大切にしてくれる気持ちは知ってるから。
「お兄ちゃん、今度、またイラストリアス姉ちゃんと一緒にお出かけしよう!」
私は、お兄ちゃんが大好きです!
…
イラストリアスは一目惚れ、ぶっちゃけケッコンするまで他の鑑は目に入ってなかったかと。
ただ、星坐イベントもあったから「なんなんやこの可愛い子」とは思ってたがイラストリアスに対して名指しで「お姉ちゃん」呼びしてるのを見た瞬間、「この子は俺の妹にする」と決めました(そのためケッコンの可能性は0%になりました笑)。
でも多分ユニコーンはそんなわたしの気持ちとは裏腹なんだろうなという思いを描いた一編です。