第2アリーナで行われる、クラス
それは一番の注目カードであった。
これが公式戦 初登場となる、世界初の男子IS操縦者【織斑一夏】。
対するのはつい先日、転入してきたばかりでクラス代表となった中国代表候補生【凰鈴音】。
全校で代表候補生は数十人。
その内、一年には五人しかおらず、専用機持ちは一夏を除いて現在は三人である。
その専用機持ち同士の戦いとなれば、注目度は言わずとも知れる。
観覧席は満席。通路に立ち見も生まれている。
アリーナの席を、『指定席』と称して販売していた二年生がいたが、あえなく千冬のお叱りを喰らって、三日間の謹慎処分となったという話もある。
入れなかった生徒は外で、リアルタイムモニターでの観戦。
更にクラス対抗戦は生徒だけでなく、関係者も観覧している。
何せ、未来のエースがそこから生まれるかも知れないのだ。注目度はやはり高い。
「待たせたな、鈴……!」
一夏は、腕を組んで堂々たる姿を見せるセカンド幼馴染 凰鈴音を捉えた。
「フフフ……ッ」
何故か不敵に笑う鈴。
IS甲龍。
両肩にスパイクアーマー状の非固定浮遊部位(アンロックユニット)を持ち、背には接近戦用の青龍刀が備えられている。
『あの肩ので殴られたら、凄え痛そうだな……』
『確かに……妙に主張してるよね、あれ』
「……随分と余裕だな。機嫌もいいみたいだし……どうかしたのか?」
そんな内心の会話を顔に出さず、一夏は鈴の態度を訝しんだ。
「そりゃあね〜、アンタがあたしの事をどう思っているのかを知っちゃったら………気分も良くなるってものよ」
「………はぁ?」
一夏には意味が分からない。
「良いのよ、恥ずかしがらなくって。一年ぶりに再会した幼馴染を、「こいつ、可愛くなったな……」って思って、ドキドキしちゃってたんでしょ?」
「んなっ……!」
『何ですってぇえええええええええええええええっ!?』
『何だとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?』
一夏よりも大きな驚きを見せた連中がいた。ピットのモニタールームにいるセシリアと箒である。
今までの会話はオープンチャンネルで行われており、当然ピットにも、その内容は筒抜けであった。
『一夏、今のはどういう事だ!? 説明しろ!!』
『そうですわ! 説明をして下さい、一夏さんっ!!』
「うるさい! 負け犬はすっこんでなさいよ!!」
『だ、誰が負け犬だ!!』
『そうですわ! あなたこそ、何を勝った気でいるんですの!?』
「ふふーん。悔しかったら一夏に「可愛い」とか「綺麗」とか、思われてみなさいよ!!」
『『っ………!?』』
通信越しの二人に、グサリと何かが刺さった。
「あ、あの〜……皆さん?」
『ダメだ一夏。今はそっとしておこう』
『これ、絶対にお前の仕業だよな!? お前昨日、鈴に何言いやがった!?』
『ウソは言ってないよ。でも、まさかこんな事になるとは……この春斗(ぼく)の目を以てしても見抜けなかった』
後悔先に立たず。先人の言葉は、何と重く偉大なんだろうか。
『一夏さん、今すぐに私を御想い下さい!! さぁ、さぁ!!』
『一夏っ! そ、その……お前は再会した私を見て、どう思ったんだ!? 今、ここで答えろ!!』
「もうっ! さっさと諦めなさいよ、見苦しいわね!!」
『お黙りなさい貧乳娘!!』
『黙っていろ、チンチクリン!!』
「ひ……ひん…ちんちく………!? い、言ってはいけない事を言ったわね、アンタ達ぃいいいいいいいっ!!」
もう一夏(当事者)そっちのけである。対面していたら、きっと取っ組み合いになっていただろう。
「………お前らなぁ、いい加減」
―――ゴッ!!×2
通信越しに、凄く良い音が聞こえた。
『これは公式戦だ。恥を無闇矢鱈と晒すな、バカ者が……』
いつもよりも迫力数割増の千冬の言葉。聞いただけで震えが来てしまう。
『それと織斑、凰。試合後に私の所へ来い……良いな?』
「ヒッ……!?」
「俺、何もしてないのに……!?」
『―――良いな?』
「「は、はい……」」
もう、逃げ道なんて何処にもなかった。
「もうっ! 一夏のせいだからね!?」
「俺のせいじゃないだろ!?」
「うっさい! 取り敢えず、こないだの賭けは賭けだから……忘れないでよ!?」
「わーってるよ! そっちこそ、勝ったらすぐに説明しろよな!!」
「す、すぐって……何でよ!? ここでしろっての!?」
「千冬姉のお叱り喰らったら、それどころじゃないからな……!」
「い、良いわよ……やってやろうじゃないっ!!」
鈴が背中の青龍刀を抜き、一夏も雪片を構える。
『では試合を開始します……始めっ!』
開始を知らせるブザーが鳴り響き、甲龍が一気に突進。そのまま青龍刀を振り上げ、叩きつける。
「クッ!!」
『早い……っ!!』
ギリギリで雪片で受け止めるも、そのまま弾かれる。そこに襲いかかる鈴の一撃。
「でぇいッ!!」
「……っと!!」
白式の機動力を活かし、弾かれた勢いに乗って躱した。が、眼前を掠める刃に背筋がゾッとする。
純粋なパワーは白式より上の甲龍。喰らえばただでは済まない。
空中を舞い、数度の激突。共に競り合いながら上昇していく。
「だらぁっ!!」
「甘いっ!!」
横薙ぎに振るった雪片を難なく躱し、鈴が間合いを離す。
「ふぅん、この甲龍の攻撃を防ぐし躱す……か。なかなかやるじゃない、一夏」
「そりゃどうも」
「じゃ、これならどうかしら……っ!?」
鈴は空いていた左手に、更に武装を展開させた。
それは、同じ形の青龍刀であった。
「二刀流だと……!?」
『なんて物騒な武装だ……っ!』
「何か下らない事言われた気がするけど……ま、いいわ。じゃあ、行くわよっ!!」
鈴は二刀を掲げ、真っ直ぐに向かってきた。
袈裟懸けに振るわれた一撃を躱すと、そこへ更に二刀目の刃が迫った。
「ぐあっ!?」
「まだまだぁっ!!」
ブロックするも、再び弾かれる一夏。そこに二刀を一刃へと合体させた鈴が迫る。
長柄の形を取った武装《双天牙月》が翻り、白式のバリアを打ち据える。
「うぐっ!?」
『マズイ、二刀になったせいで隙がない!? 一夏っ!!』
「おうっ!」
「逃がさないっ!!」
鈴は双天牙月を剣舞のように左右に振り回しながら、一夏を追う。
「うおっ、とっ、クソッ!!」
上下左右から襲い来る刃を一夏は、セシリアから教わった三次元跳躍旋回(クロス・グリッド・ターン)を駆使して回避する。
鈴は強い。
代表候補生。それも専用機持ちともなれば、今の一夏では届かない。
セシリアに勝てたのは事前情報、戦術、奇策、春斗のサポートがあればこそだ。
もしもまともにやり合っていたら、勝てる可能性は奇跡程に低かっただろう。
しかし鈴は違う。
事前情報無し。近接戦闘に強く、春斗の存在も知っている。つまり、一夏達の持つアドバンテージは、大きく減らされているのだ。
「このままじゃ、消耗戦だ。一度、距離を離さないと……!」
『どうやら、旋回性能はこっちが上のようだ。振り回して引き剥がすんだ!!』
「よぉしっ!!」
一夏は一気に加速。それを追う鈴。一夏は上昇から一気に下降。急降下からの低空飛行。
そこから左右に大きく振り回し、甲龍を徐々に離し始める。
『距離56……70! このままだ!!』
「オーケーッ!」
加速する白式。それを見て―――鈴が笑った。
「甘いってのよッ!!」
肩のスパイクアーマー、と思われていた非固定浮遊部位(アンロックユニット)がスライドした。
『後方からエネルギー反応!? 一夏、旋回だ!!』
「……っ!!」
春斗の声に、一夏がその身を捻り込む。
その脇を何かが掠め、アリーナの遮断シールドを直撃した。
一夏は、その衝撃に振り回される機体を何とか立て直す。
「なっ……何だ!?」
『今のはまさか……一夏、逃げろ!!』
春斗はその正体に気付いて叫ぶ。だが、すでに”二発目”が装填されていた。
「それはまだ、ジャブよ!!」
「―――ッ!?」
瞬間、一夏を凄まじい衝撃が襲った。
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「な、何だ今のは!?」
箒はモニターに映る光景に叫んでいた。
鈴の非固定浮遊部位が展開し、中心の球体ユニットが光ったと思った瞬間、一夏が地面に叩きつけられていた。
「あれは《衝撃砲》ですね。空間に圧力を掛けて砲身を生成、余剰で生じるエネルギーを弾丸にしてぶつける武器です」
「《ブルー・ティアーズ》と同じ、第三世代型兵器ですわね……」
攻撃を分析した真耶の説明に、セシリアが続ける。
モニターの向こうではなんとか立ち上がった一夏が、連射される衝撃砲の弾雨を転がりながら躱していた。
『クソッ……!』
『よく躱すじゃない。この《龍咆》は砲身も砲弾も見えないのが特徴なのに……あぁ、そうだったわね。それぐらい、”アイツ”なら簡単か』
(……あいつ……だと?)
まるで”一夏以外の誰か”がいるかのような言葉。何故か箒の耳に、それが深く響いた。
『お喋りは、そのぐらいにしとけよ……鈴』
『……そうね。じゃあ、代わりにこれをあげるわ!!』
再び、衝撃砲による連射砲撃。一夏は飛び上がり、空中へと逃げる。
「――しかもあの武装は、射角がほぼ無制限で撃てるようです」
「つまり……”死角が存在しない”?」
「そういう事ですね……」
「っ………」
二人の言葉は箒の耳には届いておらず、さっき感じた何かも、すでに頭から外れていた。
ただ、ひたすらモニターを見つめる。
(一夏……頑張れ! 男ならここで踏ん張るんだ……!っ)
鈴の砲撃に晒される一夏の姿に、箒はただギュッと拳を固める。
一夏はこんな所で終わる男じゃない。
そうだ。一夏は僅か一週間程度で、同じ代表候補生であるセシリアを倒したではないか。
その一夏が、このまま一方的にやられる筈がない。
と、戦闘をモニターしている真耶が、ある事に気付いた。
「動きが変わった……? 織斑君、何かをするつもりですね」
旋回回避を続けながら、しかし距離は衝撃砲を躱せるギリギリをキープし続けている。
この状態を維持する意味は何か。その答えは千冬によって提示された。
「……私が教えた、瞬時加速(イグニッションブースト)だろう」
「瞬時加速(イグニッションブースト)……?」
セシリアが、聞き慣れないそれの正体を尋ねる。
「瞬時加速(イグニッションブースト)とは、一瞬でトップスピードに乗り、敵に接近する奇襲攻撃。出し所さえ間違えなければ、アイツでも代表候補生と渡り合える筈だ」
「そんな技術をいつの間に……」
「だが、あくまでも奇襲攻撃……通用するのは、一回だけだ」
千冬の言葉に、全員が黙ってしまう。
一回だけのエースカード。その一度だけで、この逆境を逆転する。
そんな奇跡のようなタイミングを、果たして取れるのか。
誰もが不安になる中、千冬だけはそれに自信があった。
(あそこにいるのは一夏だけではない。春斗ならば、あの衝撃砲の”見えざる死角”に気付ける筈だ……)
勝機は、諦めない者の上にこそやって来る。
それならば、あの二人に心配など無用であると、千冬は確信していた。
もちろん、そんな事を口にすれば、ブラコンだの何だのと言われるのは目に見えているので、絶対に口にしない。
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「クソッ、どうしても後手に回される……!」
『圧縮反応に合わせても、回避が精一杯だ。予測回避がギリギリ過ぎる!!』
「どうする……どうすれば良い……!? 考えろ、伊達にISの特訓をしてた訳じゃないだろう……!!」
『射角ほぼ無制限の上、無制限機動と軸反転でほぼ死角なし……反応感知ではダメ。なら、先の先を取るしかない……!』
「先の、先を……!!」
何かないか。
二人の思考は先日の時まで遡っていた。
アリーナでの特訓。その日は箒もセシリアもいない珍しい日であった。
そして代わっているのが千冬であるから、更に珍しい。
「 瞬時加速(イグニッションブースト)?」
「そうだ。理論に関しては、後で春斗に聞け。とにかくこれは、今後戦う上で重要な切り札となる筈だ」
「でも、出来るなら飛び道具とか欲しいな〜、なんて……」
一時代前の熱血教師のように竹刀を地面に突き立てて、千冬が言った。
「私は雪片だけで、世界一に上り詰めた。ならばお前にも、その一振りだけで充分という事だ」
三年に一度行われる、ISの世界大会【モンド・グロッソ】。
その第一回大会で千冬は優勝、世界一となった。
その際、彼女が使っていた武装は雪片のみ。ただ一振りの刃が、世界を打ち破りきったのだ。
第二回大会こそ、とある事情により優勝を逃したが、今も世界一のIS操縦者は織斑千冬だと言われている。
「いや、世界一と比べられても……」
手の中の雪片を見ながら、ポツリと呟いた。その瞬間、千冬の竹刀が飛んできた。
「いってぇ!?」
竹刀で頭を叩かれ、ISを着ているのに一夏が悲鳴を上げる。
シールドや絶対防御は何処に行ってしまったのだろうか。
「そもそも、お前は白式の特性をちゃんと理解しているのか?」
「白式の特性……? えっと、機動性が高くて、防御もそれなり。後は武器が雪片(これ)だけ……で、雪片はシールドエネルギーも攻撃にする諸刃の刃……って感じかな?」
「春斗の講義だな。70点だ」
「はい、そのとおりです」
そこはまぁ良いと、千冬は話を続ける。
「……白式は、いうなれば欠陥機だ」
「欠陥機!?」
「いや、そもそも”ISは完成していない”のだから、欠陥も何も無いな。他の機体以上に、攻撃に特化した仕上がりになっているんだろう。拡張領域(パススロット)も埋まっている筈だ」
「な、何という突撃仕様……」
「だが、その領域全てを使って雪片を振るっているのだ。攻撃力は全ISの中でもトップクラスだ。ならばそれを使いこなす事が重要だろう?」
「まぁ、そうだね……」
「そもそも、お前のような素人に射撃戦闘ができるのか?」
「……その辺は、春斗にも散々言われました。ごめんなさい」
ガックリと肩を落とす一夏。セシリアのレーザーライフルを見て、羨ましいなとか思ってたりしたのだ。
剣も良いけど、銃もカッコイイ。そんな小さな憧れである。
シュンとした弟に千冬は少しだけ笑い、そして続ける。
「―――お前には一つの事を突き詰め、極める方が合っているさ。何せ”この私の弟”なのだからな」
そう。千冬と一夏は似ている。
不器用なところも、真っ直ぐなところも、そしてその本質も。
それ故に、雪片の後継たる弐式を与えられているのだ。
「千冬姉……………あのさ?」
「何だ?」
「………春斗が、『全然、姉さんに似てなくてごめんなさい』だって……」
「あ、いや! 今のはそういう意味ではなくてだな……と、とにかく違うんだぞ!?」
珍しく狼狽する千冬。彼女は春斗には、いまいち強く出られないのであった。
なんか余計な所まで思い出した気がするが、今はそれどころではない。
「その為の手札はある……雪片と【瞬時加速】なら、行けるはずだ!」
『なら、僕も本気を出すよ。必ずあの攻撃の隙を見出して見せる!!』
『頼んだぜ、春斗!!』
『一定距離を保ちつつ、鈴の周囲を旋回するように動いて!』
「よっしゃあっ!!」
技術で劣るのは仕方ない。一朝一夕で伸びるものではないからだ。
時間を積み重ねたそれがそのまま、実力となる。
だが、それでも負けていないものだってある。
共に生まれ、育ち、戦う二人の重ねてきた十五年という時間は、鈴やセシリア、千冬でさえも敵わない。
そして、何よりも”負けないという気持ち”は、誰よりも強いと自負しているのだから。
(……動いたわね、春斗!)
鈴はすぐに、白式の動きに変化を見出していた。
一夏はISの素人も同然。だが、それ故に伸び白が半端ではない。
今も、加速度的に成長をしている。
そして春斗は間違い無く天才。自分でも気付いていない弱点を見つけて、何か秘策を練り上げてくるかも知れない。
(この二人を相手に長期戦は不利。だから、一気に決着をつける!!)
龍咆による連続射撃。
『甘いよ、鈴ちゃん!!』
だが、軌道予測プログラムをリアルタイム更新し続ける春斗によって、命中率が段々と落ちて行く。
「ウソッ! まさかもう……こんなに早く龍咆に対応を!?」
『衝撃砲は確かに凄い武器だ。鈴ちゃんの技術と相まって、高い能力を発揮している。でも、人が制御するものに”完璧”という言葉はないっ!!』
白式に、一つのポイントが提示される。
「ここか……っ!?」
『甲龍を中心に、左後方、下33度! そこに回り込んで!!』
「よぉしっ!!」
「なっ!?」
スピードに乗った白式は、鈴の視界から消えるように動いた。
急制動を用いた、至近距離のフェイント。
基礎移動を徹底的に見直し、編みだした戦闘用飛行プログラム。
ハイパーセンサーが幾ら優秀でも、思考の死角を取られれば反応は遅れる。
それが自分の反応の死角ならば、尚更に。
(がら空き……っ!!)
戦闘開始から、初めて取った鈴の背後。此処こそが、切り札(エース)を切るタイミングだ。
背中に掛かる強い圧力。
『イグニッション――!』
「――ブーストっ!!」
それはまるで、巨人が一夏を投げ飛ばしたかのような、凄まじい加速。
搭乗者保護機能がなければ、0,1秒と持たずにブラックアウトしている程だ。
鈴を中心に、魚眼レンズを覗いたように歪む世界。
「―――ッ!?」
鈴が振り返る。だが、もう遅い。
攻撃コースは直撃と左砲台撃破を同時に行える、左斬り上げ。
「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
――― ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!
閃光が、アリーナを撃ち抜いた。
アリーナのグラウンドは爆発し、黒煙を上げていた。
客席をシェルターが覆い、緊急事態を告げるアラートが鳴り響く。
「な、何が起きたんだ……!?」
雪片が届く寸前、突如として 空から何かが降ってきた。
だが、遮断シールドに守られたこの場所に、何が来るというのか。
『外部からの攻撃……遮断シールドを破壊するほどの威力なんて………何ッ!?』
―― 警告 中央に熱源反応 所属不明のISと断定 ロックされています ――
『一夏、何者かにロックされてる!!』
「あぁ、分かってる。でも、正体不明のISだと……?」
轟々と燃えるその向こうに、揺らめく影が見える。恐らくあれが、シールドを破った乱入者だろう。
「二人とも、試合は中止よ。あたしが時間を稼ぐから、すぐにピットに戻って!!」
鈴からプライベートチャンネルの通信が飛んでくる。
「お前、一人でやる気か!? 女を置いて、一人で逃げられるか!!」
「しょうがないでしょ!? アンタ、あたしより弱いんだから!!」
「っ……!!」
「あたしだって最後まで遣り合うつもりはないわよ。この異常事態、すぐに学園の先生が収拾してくれるわ。それまでの足止めよ」
確かに、鈴の言う事には一理ある。
代表候補性である彼女の実力は本物だ。今の自分とは比べようもない。
だが、それでいいのか。と、誰かが問う。
(良いわけ、ないだろ……っ!)
「――そう。ここで白式が退くのはお勧めしないよ?」
「―――ッ!?」
いきなり開いた砂嵐のプライベートチャンネルから聞こえてきた声に、鈴が驚く。
「だ、誰なの……アンタッ!?」
「鈴、危ないっ!!」
黒煙の向こうに高エネルギー反応を察知した一夏は、一気に飛ぶ。鈴を抱き抱え、彼女を狙った攻撃をギリギリで躱した。
「ビーム兵器、セシリアのISよりも出力が上……!? 喰らったらヤバイぞ……!」
「遮断シールドを貫通する威力だからね。要注意だ」
「早速だけど、アイツの解析を頼む」
「了解。それと、現在の情報を少しばかり集めたから、そのまま聞いて」
普通にやり取りされる会話。鈴はその間、間近にある一夏の顔に見とれていたが、すぐ我に返った。
「……ハッ!? ちょっと、アンタは誰なのよ!? それと何で、一夏はそいつと普通に話してるのよ!?」
鈴が混乱気味に尋ねてくるので、二人は意味が分からず首を傾げた。
「誰って……何言ってるんだ、お前?」
「そうだよ鈴ちゃん。今更何を……あ、そうか。鈴ちゃんは知らなかったっけ……」
「り、鈴ちゃんって……まさか、春斗なの!?」
「そうだよ。白式の個人回線(プライベートチャンネル)を通して、話してるんだ。その方が早いからね」
そういえばこの声は、一夏の声を細く高くしたようにも聞こえる。と、鈴は思ったがすぐにブンブンと頭を振った。
「いやいや、なんでそんな事出来るのよ!? だって、アンタは一夏の中で……」
「あ、俺が白式を展開するとさ……何かISに取り込まれるみたいなんだ、春斗のヤツ」
「ハァッ!? 何よそれッ!?」
「説明は後でするよ。今は、アイツへの対処が先だよ?」
「………分かった。ていうか、何時まであたしを抱いてるのよ!? 下ろしなさいよ!!」
「こ、こら暴れるな!!」
鈴は一夏に横抱き――― お姫様抱っこ状態にされている事に気付き、羞恥に暴れだした。
「またまた。実は一夏の横顔に見惚れてたくせに……意地張っちゃって」
「そ、そんなんじゃないわよッ!! このっ、バカ、バカバカーッ!!」
ますます暴れる鈴。ポコポコと、一夏は頭を殴られた。金属なので結構痛い。
「いてっ! 何で俺を殴るんだよ!? 春斗だろ色々言ってるのは!?」
「うっさい! アンタが全部いけないのよ!!」
「何だよそれ……っ!?」
「攻撃来るよ、回避だ!!」
―― 敵ISより 高エネルギー反応 ――
「クソッ!!」
二人を狙った閃光を、更に加速して躱す。
そして、黒煙と紅い炎の向こうから、姿を見せる存在。
「何、あれ……?」
「あれもIS……なのか?」
2メートルを超える、全身装甲(フルスキン)のIS。
本来、ISの防御はバリアで行われるため、全身装甲という物はまず存在しない。
物理シールドを持つ防御特化の機体もあるが、それでもこれは異常だ。
巨大な腕部は地面まで着き、人というよりもゴリラのような印象。
腕部と肩部に恐らくビーム発射口であろうユニットが計四門。
全身には姿勢制御用だろうスラスターが何機も見え、頭部にはむき出しのセンサーレンズが規則性無く並んでいる。
その敵――”アンノウン”は少なくとも、今まで学んできたISという存在とは、一線を画す存在であった。
「お前は何者で、何が目的だ……! 答えろっ!!」
一夏がそれに向かって問い掛ける。だが、異形の乱入者は変わらずに沈黙を守っている。
「沈黙は時に雄弁よりも言葉を語る……か。あいつの目的なら、もう分かってるよ」
「……本当か?」
「その前に確認。鈴ちゃん、あいつが白式をロックした時、甲龍はロックされた?」
「ううん、されてないわ」
「という事は、やっぱり……アイツは一夏と白式を狙ってきてるんだ」
「俺と白式を……!?」
一夏が聞き返すと、春斗は頷いた。
「間違いないよ。アイツは―――」
『――織斑君、凰さん!』
突如として開放回線(オープンチャンネル)での通信。春斗はすぐに言葉を止める。
それはピットにいる真耶からだった。
『今すぐに、アリーナから脱出してください! すぐに先生方がISで制圧に向かいます!!』
『それは多分、難しいだろうね』
『っ……どういう事だ?』
通信ではなく、何時ものように一夏に言葉を掛ける春斗。
『今、アリーナの遮断シールドはレベル4。全扉はロックされている状態だ。攻撃直後にハッキングされているから、間違いなくあのISの仕業だろうね』
『……ちょっと待て。じゃあ、避難や救援は!?』
『システムクラックはすぐには実行出来ない。その間、アリーナの全員がヤツの人質だ』
「っ……!!」
『恐らく一夏が撤退する素振りを見せない限り、安全は保証される。でも、撤退しようとすれば……』
「……人質を殺す、かよ……っ!!」
『……え?』
つい苦々しく口に出てしまった言葉に、真耶が驚いている。
「先生、今の状況は分かってます! アリーナのシステムクラックが終わるまで、俺達がアイツの相手をします!!」
『え、えっ……!? 何でその事を!?』
「救援よりも、アリーナの皆の避難を優先して下さい、頼みます!!」
そして、一夏は通信を切った。
「……て事だ。良いな、鈴?」
「なによ、カッコつけちゃって……ていうか、いい加減に下ろしなさいって! 動けないじゃないの!!」
「あぁ、悪ぃ」
一夏が腕を退けると、ふわっと甲龍が浮かび上がった。
その瞬間、ちょっと残念そうな顔をしたのを春斗は見逃しはしなかった。
「鈴ちゃん、もうちょっと素直になりなよ?」
「あたしは何時だって素直よ!」
「………ふ〜ん」
「……何よ、そのむかつく声は?」
「別に〜、何でもないよ〜?」
「後で絶対にシメてやる……っ!!」
「お前らな、真面目に―――とッ!!」
「うわっ!?」
二人の下らない言い合いを制止しようとした所に、アンノウンの攻撃。二機はすぐさまそれを回避する。
躱されたと見るやスラスターに点火し、飛翔するアンノウン。
「続きは、全部終わった後よ!」
「賛成だね!」
「よし……行くぜっ!!」
二人はそれと、真っ向からぶつかり合った。