IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第9話  VS甲龍/ENGAGED UNKNOWN

 

第2アリーナで行われる、クラス対抗戦(リーグマッチ)第一試合。

 

それは一番の注目カードであった。

これが公式戦 初登場となる、世界初の男子IS操縦者【織斑一夏】。

対するのはつい先日、転入してきたばかりでクラス代表となった中国代表候補生【凰鈴音】。

 

全校で代表候補生は数十人。

その内、一年には五人しかおらず、専用機持ちは一夏を除いて現在は三人である。

 

その専用機持ち同士の戦いとなれば、注目度は言わずとも知れる。

観覧席は満席。通路に立ち見も生まれている。

アリーナの席を、『指定席』と称して販売していた二年生がいたが、あえなく千冬のお叱りを喰らって、三日間の謹慎処分となったという話もある。

入れなかった生徒は外で、リアルタイムモニターでの観戦。

 

更にクラス対抗戦は生徒だけでなく、関係者も観覧している。

何せ、未来のエースがそこから生まれるかも知れないのだ。注目度はやはり高い。

 

 

 

 

 

 

「待たせたな、鈴……!」

一夏は、腕を組んで堂々たる姿を見せるセカンド幼馴染 凰鈴音を捉えた。

「フフフ……ッ」

何故か不敵に笑う鈴。

 

IS甲龍。

両肩にスパイクアーマー状の非固定浮遊部位(アンロックユニット)を持ち、背には接近戦用の青龍刀が備えられている。

『あの肩ので殴られたら、凄え痛そうだな……』

『確かに……妙に主張してるよね、あれ』

「……随分と余裕だな。機嫌もいいみたいだし……どうかしたのか?」

そんな内心の会話を顔に出さず、一夏は鈴の態度を訝しんだ。

 

「そりゃあね〜、アンタがあたしの事をどう思っているのかを知っちゃったら………気分も良くなるってものよ」

「………はぁ?」

一夏には意味が分からない。

「良いのよ、恥ずかしがらなくって。一年ぶりに再会した幼馴染を、「こいつ、可愛くなったな……」って思って、ドキドキしちゃってたんでしょ?」

「んなっ……!」

 

『何ですってぇえええええええええええええええっ!?』

『何だとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?』

 

一夏よりも大きな驚きを見せた連中がいた。ピットのモニタールームにいるセシリアと箒である。

今までの会話はオープンチャンネルで行われており、当然ピットにも、その内容は筒抜けであった。

 

『一夏、今のはどういう事だ!? 説明しろ!!』

『そうですわ! 説明をして下さい、一夏さんっ!!』

「うるさい! 負け犬はすっこんでなさいよ!!」

『だ、誰が負け犬だ!!』

『そうですわ! あなたこそ、何を勝った気でいるんですの!?』

「ふふーん。悔しかったら一夏に「可愛い」とか「綺麗」とか、思われてみなさいよ!!」

『『っ………!?』』

通信越しの二人に、グサリと何かが刺さった。

 

「あ、あの〜……皆さん?」

『ダメだ一夏。今はそっとしておこう』

『これ、絶対にお前の仕業だよな!? お前昨日、鈴に何言いやがった!?』

『ウソは言ってないよ。でも、まさかこんな事になるとは……この春斗(ぼく)の目を以てしても見抜けなかった』

後悔先に立たず。先人の言葉は、何と重く偉大なんだろうか。

 

『一夏さん、今すぐに私を御想い下さい!! さぁ、さぁ!!』

『一夏っ! そ、その……お前は再会した私を見て、どう思ったんだ!? 今、ここで答えろ!!』

「もうっ! さっさと諦めなさいよ、見苦しいわね!!」

『お黙りなさい貧乳娘!!』

『黙っていろ、チンチクリン!!』

「ひ……ひん…ちんちく………!? い、言ってはいけない事を言ったわね、アンタ達ぃいいいいいいいっ!!」

もう一夏(当事者)そっちのけである。対面していたら、きっと取っ組み合いになっていただろう。

 

「………お前らなぁ、いい加減」

 

 

―――ゴッ!!×2

 

 

通信越しに、凄く良い音が聞こえた。

『これは公式戦だ。恥を無闇矢鱈と晒すな、バカ者が……』

いつもよりも迫力数割増の千冬の言葉。聞いただけで震えが来てしまう。

『それと織斑、凰。試合後に私の所へ来い……良いな?』

「ヒッ……!?」

「俺、何もしてないのに……!?」

『―――良いな?』

「「は、はい……」」

もう、逃げ道なんて何処にもなかった。

 

「もうっ! 一夏のせいだからね!?」

「俺のせいじゃないだろ!?」

「うっさい! 取り敢えず、こないだの賭けは賭けだから……忘れないでよ!?」

「わーってるよ! そっちこそ、勝ったらすぐに説明しろよな!!」

「す、すぐって……何でよ!? ここでしろっての!?」

「千冬姉のお叱り喰らったら、それどころじゃないからな……!」

「い、良いわよ……やってやろうじゃないっ!!」

鈴が背中の青龍刀を抜き、一夏も雪片を構える。

 

 

『では試合を開始します……始めっ!』

 

 

開始を知らせるブザーが鳴り響き、甲龍が一気に突進。そのまま青龍刀を振り上げ、叩きつける。

「クッ!!」

『早い……っ!!』

ギリギリで雪片で受け止めるも、そのまま弾かれる。そこに襲いかかる鈴の一撃。

「でぇいッ!!」

「……っと!!」

白式の機動力を活かし、弾かれた勢いに乗って躱した。が、眼前を掠める刃に背筋がゾッとする。

純粋なパワーは白式より上の甲龍。喰らえばただでは済まない。

 

空中を舞い、数度の激突。共に競り合いながら上昇していく。

「だらぁっ!!」

「甘いっ!!」

横薙ぎに振るった雪片を難なく躱し、鈴が間合いを離す。

「ふぅん、この甲龍の攻撃を防ぐし躱す……か。なかなかやるじゃない、一夏」

「そりゃどうも」

「じゃ、これならどうかしら……っ!?」

鈴は空いていた左手に、更に武装を展開させた。

それは、同じ形の青龍刀であった。

「二刀流だと……!?」

『なんて物騒な武装だ……っ!』

「何か下らない事言われた気がするけど……ま、いいわ。じゃあ、行くわよっ!!」

 

鈴は二刀を掲げ、真っ直ぐに向かってきた。

袈裟懸けに振るわれた一撃を躱すと、そこへ更に二刀目の刃が迫った。

「ぐあっ!?」

「まだまだぁっ!!」

ブロックするも、再び弾かれる一夏。そこに二刀を一刃へと合体させた鈴が迫る。

長柄の形を取った武装《双天牙月》が翻り、白式のバリアを打ち据える。

「うぐっ!?」

『マズイ、二刀になったせいで隙がない!? 一夏っ!!』

「おうっ!」

「逃がさないっ!!」

鈴は双天牙月を剣舞のように左右に振り回しながら、一夏を追う。

「うおっ、とっ、クソッ!!」

上下左右から襲い来る刃を一夏は、セシリアから教わった三次元跳躍旋回(クロス・グリッド・ターン)を駆使して回避する。

 

鈴は強い。

代表候補生。それも専用機持ちともなれば、今の一夏では届かない。

セシリアに勝てたのは事前情報、戦術、奇策、春斗のサポートがあればこそだ。

もしもまともにやり合っていたら、勝てる可能性は奇跡程に低かっただろう。

しかし鈴は違う。

事前情報無し。近接戦闘に強く、春斗の存在も知っている。つまり、一夏達の持つアドバンテージは、大きく減らされているのだ。

 

「このままじゃ、消耗戦だ。一度、距離を離さないと……!」

『どうやら、旋回性能はこっちが上のようだ。振り回して引き剥がすんだ!!』

「よぉしっ!!」

一夏は一気に加速。それを追う鈴。一夏は上昇から一気に下降。急降下からの低空飛行。

そこから左右に大きく振り回し、甲龍を徐々に離し始める。

『距離56……70! このままだ!!』

「オーケーッ!」

 

加速する白式。それを見て―――鈴が笑った。

「甘いってのよッ!!」

肩のスパイクアーマー、と思われていた非固定浮遊部位(アンロックユニット)がスライドした。

『後方からエネルギー反応!? 一夏、旋回だ!!』

「……っ!!」

春斗の声に、一夏がその身を捻り込む。

その脇を何かが掠め、アリーナの遮断シールドを直撃した。

 

一夏は、その衝撃に振り回される機体を何とか立て直す。

「なっ……何だ!?」

『今のはまさか……一夏、逃げろ!!』

春斗はその正体に気付いて叫ぶ。だが、すでに”二発目”が装填されていた。

「それはまだ、ジャブよ!!」

「―――ッ!?」

 

瞬間、一夏を凄まじい衝撃が襲った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「な、何だ今のは!?」

箒はモニターに映る光景に叫んでいた。

鈴の非固定浮遊部位が展開し、中心の球体ユニットが光ったと思った瞬間、一夏が地面に叩きつけられていた。

 

「あれは《衝撃砲》ですね。空間に圧力を掛けて砲身を生成、余剰で生じるエネルギーを弾丸にしてぶつける武器です」

「《ブルー・ティアーズ》と同じ、第三世代型兵器ですわね……」

攻撃を分析した真耶の説明に、セシリアが続ける。

モニターの向こうではなんとか立ち上がった一夏が、連射される衝撃砲の弾雨を転がりながら躱していた。

『クソッ……!』

『よく躱すじゃない。この《龍咆》は砲身も砲弾も見えないのが特徴なのに……あぁ、そうだったわね。それぐらい、”アイツ”なら簡単か』

(……あいつ……だと?)

まるで”一夏以外の誰か”がいるかのような言葉。何故か箒の耳に、それが深く響いた。

 

『お喋りは、そのぐらいにしとけよ……鈴』

『……そうね。じゃあ、代わりにこれをあげるわ!!』

再び、衝撃砲による連射砲撃。一夏は飛び上がり、空中へと逃げる。

「――しかもあの武装は、射角がほぼ無制限で撃てるようです」

「つまり……”死角が存在しない”?」

「そういう事ですね……」

「っ………」

二人の言葉は箒の耳には届いておらず、さっき感じた何かも、すでに頭から外れていた。

ただ、ひたすらモニターを見つめる。

(一夏……頑張れ! 男ならここで踏ん張るんだ……!っ)

鈴の砲撃に晒される一夏の姿に、箒はただギュッと拳を固める。

一夏はこんな所で終わる男じゃない。

そうだ。一夏は僅か一週間程度で、同じ代表候補生であるセシリアを倒したではないか。

その一夏が、このまま一方的にやられる筈がない。

 

 

と、戦闘をモニターしている真耶が、ある事に気付いた。

「動きが変わった……? 織斑君、何かをするつもりですね」

旋回回避を続けながら、しかし距離は衝撃砲を躱せるギリギリをキープし続けている。

この状態を維持する意味は何か。その答えは千冬によって提示された。

「……私が教えた、瞬時加速(イグニッションブースト)だろう」

「瞬時加速(イグニッションブースト)……?」

セシリアが、聞き慣れないそれの正体を尋ねる。

「瞬時加速(イグニッションブースト)とは、一瞬でトップスピードに乗り、敵に接近する奇襲攻撃。出し所さえ間違えなければ、アイツでも代表候補生と渡り合える筈だ」

「そんな技術をいつの間に……」

「だが、あくまでも奇襲攻撃……通用するのは、一回だけだ」

千冬の言葉に、全員が黙ってしまう。

一回だけのエースカード。その一度だけで、この逆境を逆転する。

そんな奇跡のようなタイミングを、果たして取れるのか。

 

誰もが不安になる中、千冬だけはそれに自信があった。

(あそこにいるのは一夏だけではない。春斗ならば、あの衝撃砲の”見えざる死角”に気付ける筈だ……)

勝機は、諦めない者の上にこそやって来る。

それならば、あの二人に心配など無用であると、千冬は確信していた。

もちろん、そんな事を口にすれば、ブラコンだの何だのと言われるのは目に見えているので、絶対に口にしない。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「クソッ、どうしても後手に回される……!」

『圧縮反応に合わせても、回避が精一杯だ。予測回避がギリギリ過ぎる!!』

「どうする……どうすれば良い……!? 考えろ、伊達にISの特訓をしてた訳じゃないだろう……!!」

『射角ほぼ無制限の上、無制限機動と軸反転でほぼ死角なし……反応感知ではダメ。なら、先の先を取るしかない……!』

「先の、先を……!!」

何かないか。

二人の思考は先日の時まで遡っていた。

 

 

 

 

 

アリーナでの特訓。その日は箒もセシリアもいない珍しい日であった。

そして代わっているのが千冬であるから、更に珍しい。

「 瞬時加速(イグニッションブースト)?」

「そうだ。理論に関しては、後で春斗に聞け。とにかくこれは、今後戦う上で重要な切り札となる筈だ」

「でも、出来るなら飛び道具とか欲しいな〜、なんて……」

一時代前の熱血教師のように竹刀を地面に突き立てて、千冬が言った。

「私は雪片だけで、世界一に上り詰めた。ならばお前にも、その一振りだけで充分という事だ」

 

三年に一度行われる、ISの世界大会【モンド・グロッソ】。

その第一回大会で千冬は優勝、世界一となった。

その際、彼女が使っていた武装は雪片のみ。ただ一振りの刃が、世界を打ち破りきったのだ。

第二回大会こそ、とある事情により優勝を逃したが、今も世界一のIS操縦者は織斑千冬だと言われている。

 

「いや、世界一と比べられても……」

手の中の雪片を見ながら、ポツリと呟いた。その瞬間、千冬の竹刀が飛んできた。

「いってぇ!?」

竹刀で頭を叩かれ、ISを着ているのに一夏が悲鳴を上げる。

シールドや絶対防御は何処に行ってしまったのだろうか。

 

「そもそも、お前は白式の特性をちゃんと理解しているのか?」

「白式の特性……? えっと、機動性が高くて、防御もそれなり。後は武器が雪片(これ)だけ……で、雪片はシールドエネルギーも攻撃にする諸刃の刃……って感じかな?」

「春斗の講義だな。70点だ」

「はい、そのとおりです」

そこはまぁ良いと、千冬は話を続ける。

「……白式は、いうなれば欠陥機だ」

「欠陥機!?」

「いや、そもそも”ISは完成していない”のだから、欠陥も何も無いな。他の機体以上に、攻撃に特化した仕上がりになっているんだろう。拡張領域(パススロット)も埋まっている筈だ」

「な、何という突撃仕様……」

「だが、その領域全てを使って雪片を振るっているのだ。攻撃力は全ISの中でもトップクラスだ。ならばそれを使いこなす事が重要だろう?」

「まぁ、そうだね……」

「そもそも、お前のような素人に射撃戦闘ができるのか?」

「……その辺は、春斗にも散々言われました。ごめんなさい」

ガックリと肩を落とす一夏。セシリアのレーザーライフルを見て、羨ましいなとか思ってたりしたのだ。

剣も良いけど、銃もカッコイイ。そんな小さな憧れである。

 

シュンとした弟に千冬は少しだけ笑い、そして続ける。

「―――お前には一つの事を突き詰め、極める方が合っているさ。何せ”この私の弟”なのだからな」

そう。千冬と一夏は似ている。

不器用なところも、真っ直ぐなところも、そしてその本質も。

それ故に、雪片の後継たる弐式を与えられているのだ。

 

「千冬姉……………あのさ?」

「何だ?」

「………春斗が、『全然、姉さんに似てなくてごめんなさい』だって……」

「あ、いや! 今のはそういう意味ではなくてだな……と、とにかく違うんだぞ!?」

珍しく狼狽する千冬。彼女は春斗には、いまいち強く出られないのであった。

 

 

 

 

 

なんか余計な所まで思い出した気がするが、今はそれどころではない。

「その為の手札はある……雪片と【瞬時加速】なら、行けるはずだ!」

『なら、僕も本気を出すよ。必ずあの攻撃の隙を見出して見せる!!』

『頼んだぜ、春斗!!』

『一定距離を保ちつつ、鈴の周囲を旋回するように動いて!』

「よっしゃあっ!!」

技術で劣るのは仕方ない。一朝一夕で伸びるものではないからだ。

時間を積み重ねたそれがそのまま、実力となる。

 

だが、それでも負けていないものだってある。

共に生まれ、育ち、戦う二人の重ねてきた十五年という時間は、鈴やセシリア、千冬でさえも敵わない。

そして、何よりも”負けないという気持ち”は、誰よりも強いと自負しているのだから。

 

 

(……動いたわね、春斗!)

鈴はすぐに、白式の動きに変化を見出していた。

一夏はISの素人も同然。だが、それ故に伸び白が半端ではない。

今も、加速度的に成長をしている。

そして春斗は間違い無く天才。自分でも気付いていない弱点を見つけて、何か秘策を練り上げてくるかも知れない。

(この二人を相手に長期戦は不利。だから、一気に決着をつける!!)

龍咆による連続射撃。

『甘いよ、鈴ちゃん!!』

だが、軌道予測プログラムをリアルタイム更新し続ける春斗によって、命中率が段々と落ちて行く。

「ウソッ! まさかもう……こんなに早く龍咆に対応を!?」

『衝撃砲は確かに凄い武器だ。鈴ちゃんの技術と相まって、高い能力を発揮している。でも、人が制御するものに”完璧”という言葉はないっ!!』

白式に、一つのポイントが提示される。

「ここか……っ!?」

『甲龍を中心に、左後方、下33度! そこに回り込んで!!』

「よぉしっ!!」

「なっ!?」

スピードに乗った白式は、鈴の視界から消えるように動いた。

 

急制動を用いた、至近距離のフェイント。

基礎移動を徹底的に見直し、編みだした戦闘用飛行プログラム。

 

 

ハイパーセンサーが幾ら優秀でも、思考の死角を取られれば反応は遅れる。

それが自分の反応の死角ならば、尚更に。

 

 

(がら空き……っ!!)

戦闘開始から、初めて取った鈴の背後。此処こそが、切り札(エース)を切るタイミングだ。

 

 

背中に掛かる強い圧力。

『イグニッション――!』

「――ブーストっ!!」

それはまるで、巨人が一夏を投げ飛ばしたかのような、凄まじい加速。

搭乗者保護機能がなければ、0,1秒と持たずにブラックアウトしている程だ。

鈴を中心に、魚眼レンズを覗いたように歪む世界。

「―――ッ!?」

鈴が振り返る。だが、もう遅い。

攻撃コースは直撃と左砲台撃破を同時に行える、左斬り上げ。

「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

 

――― ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

 

 

閃光が、アリーナを撃ち抜いた。

 

アリーナのグラウンドは爆発し、黒煙を上げていた。

客席をシェルターが覆い、緊急事態を告げるアラートが鳴り響く。

「な、何が起きたんだ……!?」

雪片が届く寸前、突如として 空から何かが降ってきた。

だが、遮断シールドに守られたこの場所に、何が来るというのか。

『外部からの攻撃……遮断シールドを破壊するほどの威力なんて………何ッ!?』

 

―― 警告 中央に熱源反応 所属不明のISと断定 ロックされています ――

 

『一夏、何者かにロックされてる!!』

「あぁ、分かってる。でも、正体不明のISだと……?」

轟々と燃えるその向こうに、揺らめく影が見える。恐らくあれが、シールドを破った乱入者だろう。

「二人とも、試合は中止よ。あたしが時間を稼ぐから、すぐにピットに戻って!!」

鈴からプライベートチャンネルの通信が飛んでくる。

「お前、一人でやる気か!? 女を置いて、一人で逃げられるか!!」

「しょうがないでしょ!? アンタ、あたしより弱いんだから!!」

「っ……!!」

「あたしだって最後まで遣り合うつもりはないわよ。この異常事態、すぐに学園の先生が収拾してくれるわ。それまでの足止めよ」

確かに、鈴の言う事には一理ある。

代表候補性である彼女の実力は本物だ。今の自分とは比べようもない。

 

だが、それでいいのか。と、誰かが問う。

 

(良いわけ、ないだろ……っ!)

 

「――そう。ここで白式が退くのはお勧めしないよ?」

 

「―――ッ!?」

いきなり開いた砂嵐のプライベートチャンネルから聞こえてきた声に、鈴が驚く。

「だ、誰なの……アンタッ!?」

「鈴、危ないっ!!」

黒煙の向こうに高エネルギー反応を察知した一夏は、一気に飛ぶ。鈴を抱き抱え、彼女を狙った攻撃をギリギリで躱した。

 

「ビーム兵器、セシリアのISよりも出力が上……!? 喰らったらヤバイぞ……!」

「遮断シールドを貫通する威力だからね。要注意だ」

「早速だけど、アイツの解析を頼む」

「了解。それと、現在の情報を少しばかり集めたから、そのまま聞いて」

普通にやり取りされる会話。鈴はその間、間近にある一夏の顔に見とれていたが、すぐ我に返った。

「……ハッ!? ちょっと、アンタは誰なのよ!? それと何で、一夏はそいつと普通に話してるのよ!?」

鈴が混乱気味に尋ねてくるので、二人は意味が分からず首を傾げた。

「誰って……何言ってるんだ、お前?」

「そうだよ鈴ちゃん。今更何を……あ、そうか。鈴ちゃんは知らなかったっけ……」

「り、鈴ちゃんって……まさか、春斗なの!?」

「そうだよ。白式の個人回線(プライベートチャンネル)を通して、話してるんだ。その方が早いからね」

そういえばこの声は、一夏の声を細く高くしたようにも聞こえる。と、鈴は思ったがすぐにブンブンと頭を振った。

「いやいや、なんでそんな事出来るのよ!? だって、アンタは一夏の中で……」

「あ、俺が白式を展開するとさ……何かISに取り込まれるみたいなんだ、春斗のヤツ」

「ハァッ!? 何よそれッ!?」

「説明は後でするよ。今は、アイツへの対処が先だよ?」

「………分かった。ていうか、何時まであたしを抱いてるのよ!? 下ろしなさいよ!!」

「こ、こら暴れるな!!」

鈴は一夏に横抱き――― お姫様抱っこ状態にされている事に気付き、羞恥に暴れだした。

「またまた。実は一夏の横顔に見惚れてたくせに……意地張っちゃって」

「そ、そんなんじゃないわよッ!! このっ、バカ、バカバカーッ!!」

ますます暴れる鈴。ポコポコと、一夏は頭を殴られた。金属なので結構痛い。

「いてっ! 何で俺を殴るんだよ!? 春斗だろ色々言ってるのは!?」

「うっさい! アンタが全部いけないのよ!!」

「何だよそれ……っ!?」

「攻撃来るよ、回避だ!!」

 

―― 敵ISより 高エネルギー反応 ――

 

「クソッ!!」

二人を狙った閃光を、更に加速して躱す。

そして、黒煙と紅い炎の向こうから、姿を見せる存在。

「何、あれ……?」

「あれもIS……なのか?」

2メートルを超える、全身装甲(フルスキン)のIS。

本来、ISの防御はバリアで行われるため、全身装甲という物はまず存在しない。

物理シールドを持つ防御特化の機体もあるが、それでもこれは異常だ。

 

巨大な腕部は地面まで着き、人というよりもゴリラのような印象。

腕部と肩部に恐らくビーム発射口であろうユニットが計四門。

全身には姿勢制御用だろうスラスターが何機も見え、頭部にはむき出しのセンサーレンズが規則性無く並んでいる。

 

 

その敵――”アンノウン”は少なくとも、今まで学んできたISという存在とは、一線を画す存在であった。

 

「お前は何者で、何が目的だ……! 答えろっ!!」

一夏がそれに向かって問い掛ける。だが、異形の乱入者は変わらずに沈黙を守っている。

 

「沈黙は時に雄弁よりも言葉を語る……か。あいつの目的なら、もう分かってるよ」

「……本当か?」

「その前に確認。鈴ちゃん、あいつが白式をロックした時、甲龍はロックされた?」

「ううん、されてないわ」

「という事は、やっぱり……アイツは一夏と白式を狙ってきてるんだ」

「俺と白式を……!?」

一夏が聞き返すと、春斗は頷いた。

「間違いないよ。アイツは―――」

 

 

『――織斑君、凰さん!』

突如として開放回線(オープンチャンネル)での通信。春斗はすぐに言葉を止める。

それはピットにいる真耶からだった。

『今すぐに、アリーナから脱出してください! すぐに先生方がISで制圧に向かいます!!』

 

『それは多分、難しいだろうね』

『っ……どういう事だ?』

通信ではなく、何時ものように一夏に言葉を掛ける春斗。

『今、アリーナの遮断シールドはレベル4。全扉はロックされている状態だ。攻撃直後にハッキングされているから、間違いなくあのISの仕業だろうね』

『……ちょっと待て。じゃあ、避難や救援は!?』

『システムクラックはすぐには実行出来ない。その間、アリーナの全員がヤツの人質だ』

「っ……!!」

『恐らく一夏が撤退する素振りを見せない限り、安全は保証される。でも、撤退しようとすれば……』

「……人質を殺す、かよ……っ!!」

 

『……え?』

つい苦々しく口に出てしまった言葉に、真耶が驚いている。

「先生、今の状況は分かってます! アリーナのシステムクラックが終わるまで、俺達がアイツの相手をします!!」

『え、えっ……!? 何でその事を!?』

「救援よりも、アリーナの皆の避難を優先して下さい、頼みます!!」

そして、一夏は通信を切った。

 

 

 

「……て事だ。良いな、鈴?」

「なによ、カッコつけちゃって……ていうか、いい加減に下ろしなさいって! 動けないじゃないの!!」

「あぁ、悪ぃ」

一夏が腕を退けると、ふわっと甲龍が浮かび上がった。

 

その瞬間、ちょっと残念そうな顔をしたのを春斗は見逃しはしなかった。

「鈴ちゃん、もうちょっと素直になりなよ?」

「あたしは何時だって素直よ!」

「………ふ〜ん」

「……何よ、そのむかつく声は?」

「別に〜、何でもないよ〜?」

「後で絶対にシメてやる……っ!!」

「お前らな、真面目に―――とッ!!」

「うわっ!?」

二人の下らない言い合いを制止しようとした所に、アンノウンの攻撃。二機はすぐさまそれを回避する。

躱されたと見るやスラスターに点火し、飛翔するアンノウン。

「続きは、全部終わった後よ!」

「賛成だね!」

「よし……行くぜっ!!」

二人はそれと、真っ向からぶつかり合った。

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