IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第10話  零落白夜/月華白麗

 

「織斑君、織斑くんっ!?」

通信を切られ、プライベートチャンネルで呼びかけるも反応は返って来ない。

 

モニターでは既に、アンノウンとの戦闘が開始されていた。

通常のISバトルとは違い、これは紛れもない実戦。下手をすれば命にさえ関わる事だ。

観客席には防護シェルターが展開されており、流れ弾程度ではビクともしない。

 

だが、ISを駆り戦う二人には危険が大きく伴う。

「織斑くん、凰さん!? お願いですから、すぐに退避を!!」

教師として止めなければならないと真耶は呼び掛けを続ける。

「一夏、聞こえているんだろう!? そこは危険なんだぞ!!」

「一夏さん、どうか返事をなさって!!」

 

箒とセシリアもまた、通信で呼びかける。が、やはり応答はない。

「―――本人が”やる”と言っているんだ。やらせてみれば良い」

肩を竦めて千冬が言うと、真耶が信じられないといった顔で振り返った。

「織斑先生!? 何でそんな呑気な事を言ってるんですか!? これは学内戦とは違うんですよ!?」

「まぁ、落ち着け。コーヒーでもどうだ? 糖分が足りないからイライラするんだ」

コーヒーメーカーからコーヒーを注ぎ、そしてスプーンを摘んだ。そのまま白い粉末を入れてかき回す。

「………」

「………」

「こういう時こそ、冷静さを欠いてはならない……そうだろう?」

「………あの、今入れたのって……塩、ですよね?」

「……っ!?」

千冬がハッとして、それを見た。はっきりと『砂糖』と書かれたシュガーポット―― の隣に『塩』と書かれたソルトポットがあった。

開いていたのはソルトポットである。

「な、何で塩が……?」

「さ、さぁ……? でも、ハッキリと塩って書いてますし……」

ピットの中に、何とも言えない空気が流れる。軽いヒソヒソ声も聞こえた。

「あっ! 口では何と言ってもやっぱり弟さんが心配なんですね。だからそんなミスを………っ!?」

真耶はそこまで言って、自分が地雷を踏んだと気付く。が、吐いた言葉は返らない。

もの凄い素敵な視線が、真耶を捉えていた。

「……山田先生、どうぞ」

すっと鼻先に突き出されたのは、千冬の入れたコーヒー。

「えっ……!? いや、それ塩が……」

「どうぞ、飲んで下さい」

 

口調こそ謙っているが、その真意は一つ。

 

『これを飲め、山田』

 

「う゛ぅぅ……にがしょっぱいです……」

真耶は自分の迂闊さを、苦塩味と共にその身に刻むことになった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

襲い来るアンノウン。一夏と鈴は突進から繰り出される巨大な拳を躱し、挟撃を仕掛ける。

「だぁっ!!」

「おりゃあっ!!」

が、アンノウンは鈴の一撃をブロックし、一夏の刃を躱すや、その身を蹴り飛ばした。

「グウッ!?」

「一夏……! あうっ!!」

返す刀で、鈴が巨腕によって弾き飛ばされた。

直撃こそ避けられたが、そのパワーは半端なものではない。上手く動かなければ、あっと言う間に押し込まれるだろう。

 

「一夏、あたしがフォローするから突っ込んで! アンタ、それしか武器がないんでしょ?」

「まぁな……じゃ、それで行くか!!」

即席の連携攻撃。だが、これ以外に選択肢はない。

 

アンノウンは大きく旋回し、そのまま二人に切り返してくる。両腕の砲門を向けてビームによる牽制射撃。

「このぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

対して、鈴が龍咆の連射で返す。アンノウンは被弾しながらも、構わずに突進。二人の間を裂くように抜けて行った。

巻き起こる突風に鈴が顔を顰めながら、アンノウンを追いかける。

「アイツ……ッ! 待ちなさいっ!!」

「一夏、追って!!」

「おうっ!」

アンノウンが自らが上げた黒煙に飛び込む。目眩ましのつもりだろうが、互いにハイパーセンサーがある以上、意味はない筈。

故に躊躇なく、二人もそこに飛び込んだ。

 

「「―――ッ!?」」

視界が黒く揺れる世界に染まりながら、ハイパーセンサーが敵の姿を捉える。

 

―― エネルギー反応 危険度増大 ――

 

アンノウンはその身を翻して、ビームを放った。

鈴は回避しつつ、衝撃砲を連射。一夏はそのまま、雪片を盾にして突っ込んだ。

「でぇいっ!!」

刃を振るう直前、ビーム斉射を止めたアンノウンは、一夏の斬撃を紙一重で躱す。

そのまま回転し、バックスイングでアームを振るった。ギリギリでブロックするも、そのまま弾き飛ばされる。

「ぐうッ……!?」

「危ないっ!!」

更に拳を振るわんとするアンノウンに、鈴が牽制攻撃を仕掛ける。と、アンノウンは追撃をすぐに止めて、黒煙の奥に姿を消した。

「大丈夫、一夏?」

「あぁ。くそっ、いいパンチ持ってやがるぜ……!」

鈴の問いに、口元を拭う仕草で応える。

「それだけ喋れるなら問題ないわね」

「いや、問題はあるよ……」

「……春斗?」

「この状態……視認ができない以上、どうしても反応は遅れる筈だ。でもアイツは、さっきと同じ反応速度で衝撃砲を躱していた……どうして?」

「そんなの、ハイパーセンサーがあるからでしょ? 今だって、反応を確認してるもの」

「ハイパーセンサーがどれだけ優秀でも、”見えないものは見えない”んだよ?」

「どういう事よ?」

いまいち理解出来ないと、鈴は春斗に問う。

「ハイパーセンサーっていうのは、様々な情報を擬似的視覚情報として認識させることで、反応を早めるものなんだ。それは、人間の情報収集の大半を視覚から得ているからだ」

 

ハイパーセンサーは当初、広大な宇宙空間に置いて星の光から自分の座標位置を認識するために開発された物である。

現在は制限をされているが、視覚能力――見る力というものを大きく引き上げるシステムなのだ。

そこに各種センサーが加わることで、全方位認識システムを構築できるのである。

だがそれでも、実際に見えているのとは僅かにズレが生まれる。故に反応の差異も生まれる。

 

「でも、それでも……だからこそ、”見えない物は見えない”筈だ。惑星は見えても、その影に隠れた星は目には映らない。だから、死角だって生まれる……!」

「じゃあ、何でアイツは見えてるように動けるの?」

既にその答えを得ているのだろうと、鈴はその解を春斗に求めた。

 

「顔も隠すような、あの妙なセンサーレンズ。多分アレで、あいつは何も見ていない」

「何も見てない……?」

「全てを擬似視覚情報として……いいや、それさえも見てないかも知れない。全部をただの情報として捉えて行動している。そうとしか思えない」

「そんな馬鹿な……」

それでは、まるで機械ではないか。

笑ってやりたいところだが、春斗の推測を軽くは見れない。

 

「でもさ、それってヤバいんじゃないか……?」

それまで周囲を警戒ししつつ、沈黙を守っていた一夏が口を開いた。

「何がヤバいのよ?」

「だって、それが本当なら……向こうは、さっきまでと同じように動けるってことだろ? 相手を視界に捉えるってのはISでも基本だって、千冬姉も言ってたし……」

「………ヤバイかな?」

「すぐにここから出よ―――熱源、左だ!!」

春斗が叫ぶ。身を逸らした所を、ビームが撃ち抜いた。掠ってしまいシールドが削られる。

更に、アンノウンがその巨躯を活かして突貫。一夏を殴りつけ、そのまま加速した。

「グゥウウウウウウウッ!!」

雪片で直撃を防ぐものの、圧倒的パワーに抗いきれない。そのまま黒煙を貫いて青空へと押し込まれていく。

「パワーで真正面からやり合うな!! 雪片を右17度に傾斜、同時に右に滑り込むんだ!!」

「ぬぬぬっ………ダァッ!!」

春斗の指示通り、一夏が雪片を傾け、同時に右に加速。すると差し込まれていた拳が外れ、白式が解放された。

「ふぅ〜、やばかったぁ。サンキュー、春斗」

「近接特化だからって、正面きってぶつかるだけじゃダメだ。接近戦のノウハウをしっかり覚えないと……」

「それ、一朝一夕っていうか、今すぐ学べる?」

「……千冬姉さんに聞いてみたら? 殺されるだろうけど」

「だよなぁ〜。……っと!!」

呑気に話していると、ビームが飛んできた。アンノウンが切り返してきたのだ。

 

「―― 喰らえぇええええええええええええっ!!」

 

咆哮と共に、一夏の後方から見えざる弾丸が飛ぶ。

それはアンノウンに直撃し、そのバランスがわずかに揺れた。

「一夏、今よッ!!」

「よっしゃあっ!!」

一夏はイグニッションブーストを使い、接近。輝きを増した白刃を、アンノウン目掛けて振り下ろした。

だが、アンノウンは全身のスラスターを吹かし、その場からすぐに離脱。間合いを離すと同時に肩部の砲門からビームを連射する。

「どわっ!?」

慌てて回避する一夏。目標を外れたビームが、遮断シールドに命中。爆発が巻き起こる。

「しまったっ!?」

「大丈夫! あの威力じゃ、シールドは破れない!! 次が来るぞ!!」

「……っ!?」

客席に気を取られている間に、アンノウンが接近する。

すぐさま、一夏もそれを迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「先生、私にISの使用許可を! すぐにでも出撃できますわ!!」

「……それは無理だな」

「どうしてですの!? このままじゃ、一夏さんが……!」

「これを見ろ。アリーナの遮断シールドはレベル4。全扉はロックされている状態だ。これで、どうやって避難や救援を行う?」

「そ、そんな……でしたら、緊急事態として、政府に救援を!!」

「すでにしている。そして今、三年の精鋭がシステムクラックを実行中だが、すぐには終わらない。それまでの間、”誰か”が時間を稼がなければならない」

誰か。その言葉を聞き、セシリアは先程の一夏の言葉を思い出した。

 

『アリーナのシステムクラックが終わるまで、俺達がアイツの相手をします!! 救援よりも、アリーナの皆の避難を優先して下さい、頼みます!』

 

「……まさか、一夏さんはそれを知っていて、あの場に残られて……!? 悔しいですわ、一夏さんの傍にすぐ向かうことも出来ないなんて……」

セシリアは悔しさに、ギュッと両手を握り締める。

「どっちにしろ、お前では足手まといだ。突入部隊には入れん」

「なっ……!? 私が足手まとい……!?」

「ブルー・ティアーズの装備は1対複数向きだ。お前が複数の側に入れば、要らぬ混乱を呼ぶ」

「そ、そんな事は……!」

「――では、連携訓練はしたか? その時の役割は? ビットの使用タイミングは? 味方の構成は? フォーメーションは? 敵のレベルはどれ位を総て思惟している? 連続稼働時間は? 味方機の――」

「も、もう結構ですっ!! 充分に分かりましたわ! ……はぅう」

セシリアは降参だとばかりに手を上げる。そしてガックリと肩を落とした。

連携戦闘はそれこそ、個人戦闘とは違う動きを要求される。セシリアは一度もそういった訓練をしていないかった。

「ふん、分かれば良い」

「………でも、あの凰さんはどうして、あれ程に一夏さんと動きを合わせられるのですか?」

モニターには、アンノウンの攻撃に対して、四度目のアタックが仕掛けられていた。

衝撃砲が命中したところを一気に一夏が攻める。が、アンノウンはすぐに切り返して反撃。

一夏の退避をフォローするように鈴は衝撃砲を撃ち、敵の迎撃を上手く遮断していた。

 

「あの二人は、つい一年前まで一緒にいたからな。それだけ互いの信頼も厚い。だからこそ、即席でも動きを合わせられるんだろう」

「一緒に、いたから……っ?」

その言葉に、セシリアの心がズキリと痛む。

同じ専用機を持ちながら、そこに立てない自分。同じ代表候補生でありながら、並び立って共に戦える鈴。

 

――悔しい。

 

一夏にとって、鈴は自分の背を預けるに足る存在であると、思い知らされているようで。

幼馴染。十五年の人生の中で、三分の一近くを共に過ごした相手。

これからならば、幾らでも勝る自信はある。だが、それは今には意味が無い。

もっと早く彼と出会っていれば、あの背を守るのは自分だったのではと、思ってしまう。

 

「――あれ? これってテキストデータ……? 織斑くんから、オルコットさん宛?」

「えっ?」

真耶が上げた声に、セシリアは我に返った。

 

モニターに近寄り、それを見る。

「………っ!!」

そして、セシリアは目を見開いて驚いた。

何という事だ。まるで、今の自分の心を知っているかのようなメッセージではないか。

 

「織斑先生! 申し訳ありませんが、やはり私……行かせていただきますっ!!」

そう言うや、セシリアはモニタールームから出ていってしまった。

「………なるほどな。全く、呆れるほどタイミングの良い……いや、悪いヤツめ」

千冬がセシリア宛のそれを見る。そして全てを理解した。

それは春斗の立てた作戦。

そこに、セシリアの協力を求めるという部分があった。

「………」

そしてもう一人。セシリアの後に続いて、モニタールームから居なくなった者がいたが、その事に千冬は気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「どうするのよ!? 何か作戦がないとアイツには勝てないわよ!?」

「逃げたきゃ逃げても良いぜ? どうせ、アイツの狙いは俺だからな!」

「バカな事を言わないでよ! これでも代表候補生なんだからね!!」

アンノウンは地面を滑るように移動しながら、ビームを連射。二人は回避しながら離脱する。

 

四度の攻撃失敗と、蓄積したダメージは大きい。

既に一夏のシールドエネルギーは60を切り、鈴は180程のエネルギーしかない。

圧倒的不利の状況。それでも退くことはプライドが許さない。

「じゃあ俺も……お前の背中ぐらいは守ってやるよ!」

「えっ……うわっ!?」

一夏の台詞にドキッとさせられた瞬間、鈴の眼前をビームが掠め、違う意味でドキッとさせられた。

「集中しろ、鈴!!」

「わ、分かってるわよ!!」

「鈴ちゃん。デレるのは良いけど、TPOはわきまえてくれるかな?」

「うっさいわよ! 誰がで、デレてるってのよ!?」

襲い来る攻撃を躱しながら、軽口を飛ばし合う。

集中していない訳ではない。あくまでも冷静さをキープするためだ。

やがて砲門が熱限界を迎えたのか、攻撃が唐突に止んだ。

もうもうと上がる煙に、姿が覆い隠されていく。

 

 

 

「……今の状態で、アイツのシールドを突破して倒すって……確率一桁ぐらいかしら?」

「ゼロでないならいいさ」

「バカ。確率なんだから高い方が良いでしょう? アンタって、変なところでジジくさいけど、何だかんだと言って宝くじとか買うタイプよね」

「………うっせーよ」

ちなみに一夏は宝くじとか、運を使うものを好まない。

中学時代、賭けに負けて悪友に何度ジュースを奢るハメになったか、思い出すのもはばかられる。

人生は貯蓄と堅実。年金なんてあてにしない。地道に生きて行くのだと心に決めたものだ。

春斗に「別の方に運が向いてるんだから、良いんじゃない?」と言われたが、一夏にはどれに運が向いているのかサッパリ分からなかった。

 

「いや、一桁って科学分野からみると超高確率だよ? 充分に実現可能範囲だ」

「………」

そういえば、春斗は運が良かったなと思いだした。ふらりと買ったスクラッチくじ一枚で一万円を当てた時、一夏は本気で春斗を呪ったものだ。

「……で、春斗には何かないのか?」

「あるよ。今迄のデータから一つ、推論を立てたんだ」

「推論……?」

 

「まず、アイツは……無人機だと思う」

「なっ……! そんな訳ないじゃない!! ISは人が乗らなきゃ動かないのよ!?」

鈴がすぐにそれを否定する。だか、春斗は自信を持っているのか全く揺るがない。

「視界不良にも拘らず変わらない反応。正確過ぎる動き。ダメージを食らっても絶対に白式の動きから外さない集中力……おおよそ、人が乗ってるとは思えない」

「そういや、俺達が話している時って……攻撃があんまり来ないな」

「そうね……まるでこっちの話に興味があるみたいに……いや、でもやっぱり……」

「【人の想像出来る事は、全て創造出来る事だ】なんて言葉もあるしね……僕達がそれ(・・)を知らないだけって事もあり得るよ?」

「っ……じゃあ、無人機だとしたらどうなるの? それなら勝てるって言うの?」

「―――あぁ、その通りだ」

春斗が言うよりも先に、一夏が答えた。

「一夏……?」

「【零落白夜(れいらくびゃくや)】。白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)で、雪片弐型の全力攻撃だ。雪片の威力は高過ぎて、訓練や学内戦じゃあ全力を使えない。でも無人機相手になら、容赦なく攻撃しても問題ない……!」

「あ、それは無理だね」

一夏が自信満々に言い放つが、春斗は冷静にそれを却下した。

「何でだよ!?」

「今の白式じゃ、零落白夜を使えるだけの出力を得られない。エネルギーを使い過ぎてるんだ」

「それに、零落白夜だかなんだか知らないけど……攻撃そのものが当たらないんじゃ、意味ないわよ?」

「むぅ……じゃあ、どうすりゃいいんだよ?」

「一応、全部をクリアする手段はあるけど……」

「マジか!? さすがだぜ、春斗!!」

一夏はその言葉に色めき立った。だが春斗の反応は芳しくない。

 

「ただ、これは本気で危険な賭けになる……それでも良い?」

 

低いトーンで語られる言葉。それだけで、危険度が半端なものではないと伝わってくる。

「……あぁ、構わない」

「本気かい?」

「お前が考えた作戦だろう? 成功しないとか思ってるのかよ?」

一夏に逆に返され、春斗は苦笑する。

「………いいや、絶対に成功するよ」

「じゃ、それで行こうぜ! 鈴も良いな?」

「まったく……内容ぐらい、聞いてからにしなさいよ?」

「作戦を説明するよ。まず甲龍、白式、敵と並び、且つ僕の指定するポイントを延長線上に置く様に移動。そして鈴ちゃんが一夏の背に向かって、フルパワーの衝撃砲を撃つ」

「ちょっと!? いきなり、とんでもない事言わなかった!?」

「で、一夏は瞬時加速(イグニッションブースト)を発動する。衝撃砲のエネルギーを推力として取り込むんだ」

「……なるほど、イグニッションブーストの理論を使うんだな?」

 

イグニッションブーストはスラスターから本体に向けてエネルギーを放出。それを吸収、圧縮させてから爆発的に解放することで、通常で貼り得ない超加速を得る技法だ。

このイグニッションブーストで取り込むエネルギーは何でも良い。言い換えれば理論上、どんなエネルギーも自機の推力に転換できるという事だ。

 

「衝撃砲のエネルギーを取り込むと同時に、エネルギーバイパスを雪片に直結。一部エネルギーを零落白夜の発動に回す」

「そんな事が出来るのか?」

「零落白夜は、”シールドエネルギーを含めた全エネルギー”を攻撃に転換するから理論上、何とかできる筈」

「なるほど……それで、何が問題なんだ?」

「その時に一度、シールドと絶対防御を強制的に遮断する。一夏はIS装甲だけで、衝撃砲を受け止めなきゃならない」

「っ……!?」

「ば、バカじゃないの!? そんな事したら一夏が死んじゃうじゃない!!」

「これが生きてると衝撃砲に反応して、シールドエネルギーを全部使っちゃうんだ。だから、切るしかない」

「そんな……無茶苦茶よ!!」

「無茶は百も承知。ダメージは極力コントロールするし、エネルギーもすぐに転換する。一夏が耐えられない程のダメージはこない筈だ」

「それでも……もしミスったら、本気でやばいのよ!? 一夏、別の方法を考えるべきよ!!」

「――― いや、春斗が絶対に成功するって言ってるんだ……鈴、お前は信じられないのか?」

キッと鈴を見据える一夏。その迷いも恐れもないまっすぐな瞳に、鈴は言葉を詰まらせる。

「っ〜〜〜! 分かった、分かったわよ!! こうなったら信じてやるわよっ!!」

一夏がこうなったら梃子でも動かない。それは幼馴染である鈴にはよく分かっている事だ。

実際、良い代案も無い以上、これに賭けるしか無いのも事実。

 

「よし、それじゃあ、作戦開始……!」

 

 

 

 

『一夏ぁああああああああああああああああッ!!』

 

 

 

 

「「「―――― ッ!?」」」

いきなりアリーナに響いた声に、一夏達はギョッとした。

「一夏、あそこに!!」

春斗が指し示した方向、アリーナの実況席。そこにマイクを持った箒の姿があった。

 

『男ならば……男なら、それぐらいの敵に勝てずに何とするっ!! 』

 

あらん限りの声を張り上げ、箒は激を飛ばす。あまりにも大きい声に音が割れてしまっているが、それでもそれはよく聞こえた。

――そう、アンノウンにも。

 

アンノウンは左後方にある実況席に、センサーレンズを向ける。そしてそこに向けて巨腕を掲げた。

「ちょっと、何やってのよアイツ!?」

「バカッ! さっさと逃げろ!!」

一夏が開放回線(オープンチャンネル)で呼びかける。箒は一瞬、恐怖と驚愕にその身を揺すられるが、ギリッと歯を食い縛り、逆にそれを睨みつける。

光が収束する。アレが放たれれば、ISのない自分の命は危うい。だが、それでも退かない。

 

ISを持たないから、共に戦うことの出来ない自分。一夏の背を守れない自分。

―― 彼女には、意地しかない。

 

ならばせめて、この生命を懸けて一夏の勝利を信じる。一夏を信じる事。それだけならば、絶対に負けはしない。

―― 彼女にはまだ、意地がある。

 

だからこそ、不退転の決意を持って迎え撃つ。破壊の閃光が、我が身を穿つなど在り得ない未来だ。

『だから………勝て、一夏ぁああああああああああああああっ!!』

 

 

 

「二人とも 今だッ!!」

「「―― ッ!!」」

アンノウンは箒に意識を取られている。この瞬間、完全に白式の動きから警戒を外している。

二人はすぐさま指定ポイントに動く。そして鈴が衝撃砲のフルパワーをチャージした。

 

「龍咆、最大出力!! 行っけぇええええええええええええええっ!!」

 

 

「………ッ!!」

ドスン!!という、背中に掛かる凄まじい圧力。

まるで何十トンという水量をホースでまとめてぶち当てられたような、一瞬でも気を抜けば、体がバラバラにされてしまうほどの力。

ギリギリと奥歯を噛み砕かんばかりに食い縛り、一夏はそれを耐える。

 

春斗が練り上げ作戦。箒が生み出したチャンス。信じて衝撃砲を撃った鈴。

ここで期待を裏切るならば、男として恥じて死ぬべきだ。

奥歯の一本や二本、喜んで砕いてやる。

 

 

「バイパス7から22をカット! 圧縮エネルギーをフレーム内に循環! 雪片に直結完了! IS装甲、ダメージ臨界……!! まだだっ!!」

白の世界が危険を知らせる赤に染まり、警報が鳴り続ける。

春斗はコンソールを打ち続け、ダメージを与えるエネルギーロスを徹底的に削ぎ落としていく。

 

「変換率45…57……76……82………93っ!! 一夏ぁああああああああああああああっ!!」

 

「………っしゃあああああああああああああああああああああああああっ!」

 

溢れ上がったエネルギーがフレームから溢れ、金色のオーラのごとく立ち昇る。

それと共に、雪片の刃が更に輝きを増して巨大になる。

 

 

 

―― エネルギー転換率90%突破 零落白夜使用可能 ――

 

 

そんな事はとっくに知っている。

ISに初めて触れた時と同じ一体感が、どこまでの研ぎすまされた集中力が、生まれた時からある半身が、それを教えている。

だからこそ、やるべき事も分かっていた。

 

 

―――イグニッションブースト。

 

 

世界そのものが自分に迫ってくる。その感覚が見据えるのはただ一つ、アンノウンのみ。

 

(守ってみせる……千冬姉を、箒を、セシリアを、鈴を、今迄、そしてこれから関わる人の全てを……俺が、俺達がッ!!)

 

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

咆哮。アンノウンが反応し振り返りざまに突き出した右腕を、バターを切るよりも軽く両断。

その威力は凄まじく、攻撃の余剰エネルギーが嵐となって吹き荒れて、遮断シールドを打ち砕いた。

 

「が―― っ!!」

アンノウンは驚く素振りさえ見せず、残った左腕で一夏を殴り飛ばした。

「ぐはぁっ!!」

全力攻撃後の無防備な所を喰らい、更に眼前の砲門にエネルギー反応。

ゼロ距離から、一夏を完全に鎮めるつもりらしい。

だが、一夏はニヤリと笑う。そして鈴、春斗と共に言ってやる。

 

 

「「「残念。それは想定内ッ!!」」」

 

 

直後。上方から襲い来るレーザーの雨。それの尽くがアンノウンを撃ち抜く。

意思無き機械には理解出来ないだろうそれは、全てが春斗達の想定内。

 

戦いは狡猾な方が勝つというなら、機械如きには勝利は絶対に来ない。

何故なら、狡猾とは人が持ちうるイメージの力なのだ。

「極めろ、セシリア!!」

『了解ですわ!!』

舞い上がったセシリアのスターライトmk?の射撃が、アンノウンを見事に撃ち抜いた。

 

崩れ倒れるアンノウン。その機能停止を、ハイパーセンサーが知らせた。

最後、零落白夜の放った余剰エネルギーは、春斗が雪片のシステムに介入して意図的に放出させたものであった。

その目的は二つ。強引なチャージによる雪片の破損を防ぐこと。もう一つは遮断シールドを破壊し、援軍を呼ぶこと。

既に目標地点は知らせてあったので、後はそこにどう相手を持っていくかだけだったのだが、幸いにして箒がその任を担ったのだ。

 

 

とはいえ、時間はかなり際どかった。間に合って良かったと、セシリアは深く嘆息した。

『ふぅ……ギリギリのタイミングでしたわね』

「いいや。セシリアならきっと、やってくれるって信じてたさ」

『っ……!? そ、それはもう……当然ですわ』

一夏がそう言ってやると、通信越しにセシリアは頬を染めて、顔を逸らしてしまった。

『一夏。本当に、君って男は……』

どうしてそうなったのか分からず、一夏は首をかしげるが、取り敢えず今はようやくの安堵に心をゆだね―――。

 

―― 敵ISの再起動を確認 ロックされています ――

 

「っ!?」

粉塵の向こう、動く影に一夏が目を見張った。

『一夏っ!!』

「くっそおおおおおおおおおおおおおっ!!」

エネルギーは僅か。機体はボロボロ。それでも一夏は動いた。

アンノウンは左腕を向け、既に大出力攻撃を構えていた。

 

「うぁあああああああああああああああああっ!!」

吼え猛り、最短距離を雪片を突き出して突進。

 

ビーム発射。

破壊の閃光に抗いながら、スラスターが推力を振り絞る。

 

「ググぐぅう……ッ!!」

 

後僅か―――その瞬間。

 

―― ENERGY CRITICAL(エネルギー限界) ――

 

「………っ!?」

その声と共に、雪片がブレードへと戻る。

元々、無茶をしての零落白夜使用に加え、ビームとまともにぶつかり合ったせいで使用臨界を迎えてしまったのだ。

ただのブレードではそれに耐える力はない。白式は、破壊の奔流に瞬く間に飲み込まれた。

 

 

 

一夏の世界が光に溢れる。

守れない。また、何も出来ないのか。

約束したのに、強くなると。それを守れないというのか。

 

 

世界がやがて―――黒く染まった(・・・・・・)。

 

 

『―――瞬時加速(イグニッションブースト)』

 

 

そんな声が、どこかで聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「一夏ぁああああああああああっ!」

『一夏さんっ!!』

『そ、そんな……一夏っ!?』

 

悲痛な叫びが木霊する。

破壊の閃光は白式を呑み込み、アリーナの端まで吹き飛ばしていた。

射線上の地面が抉れ、轟轟とその威力を見せつけるかのように煙を上げていた。

ボロボロの白式に、アレを耐える力は無い筈。絶望がアリーナを支配しようとしていた。

 

 

「………ッ!?」

ハイパーセンサーを持つ鈴とセシリアが、その向こうに影を見つけた。

スラスターを前面に押し出したシルエットだが、その形から白式である。無事だった。安堵に表情をくずす。だが、すぐに異変に気づいた。

 

「あれ……白式、じゃない……?」

『でもあれは……一夏さん……?』

 

徐々に晴れてくる土煙。

その向こうに居たのは白式―――ではなかった。

 

 

 

 

白く輝くボディはなく、代わりにあったのは艷やかなる、夜から抜け出たかのような漆黒。

だが、姿は間違いなく白式であり、搭乗者も一夏であった。

 

 

”一夏”はブロックしていた腕を外し、前面に展開していたスラスターを背部に戻す。その余波が、煙を吹き飛ばした。

その姿は、白式を白鳥とするならば、あれは八咫烏であろうか。

”一夏”は左手を突き出し、武装をオープンする。

 

―― 弓剣月影 展開 ――

 

その手に現れたのは、二刀一刃の武装。それが両方展開し、生まれた溝から蒼白い刃が生まれる。

そして切っ先を、やはり蒼白い線が結びつけた。

それは、さながら鋼の大弓。

”一夏”は半身を引き、弦に指をかけつつ、両腕を掲げるように持ち上げた。

 

弦に触れた部分から本体に向かって、光の矢が伸びる。

 

「あれは……あの構えは……!?」

「まさか、春斗……?」

箒は見覚えのあるその姿に重なる影に驚き、鈴は何かを察して驚いていた。

 

 

 

アンノウンがもう一度、攻撃態勢を取る。

 

 

”一夏”はそのまま三角形を描くように、両腕を視線の高さまで下ろす。

引き絞られた弓が、大きく弧を描く。

「お前が何者か……そんな事はもう、どうでもいい」

 

アンノウンがビームを放つ。迫り来る破壊の奔流。だが、”一夏”は揺るがない。

光の矢が、更に輝きを増していく。

 

「貴様はここで……朽ち果てろ」

 

―― 単一仕様能力 【月華白麗】 発動 ――

 

死の宣告と共に、指が光の矢を射ち放つ。

それはいとも容易く破壊の閃光を穿ち散らして、そのまま左腕を爆ぜ砕いた。

グラリと崩れ落ちるアンノウン。”一夏”は、それが今度こそ動かなくなった事を見届け、ゆっくりと弓を下ろした。

「春……一夏?」

鈴が通信を遣わず、降りてきて声を掛ける。

”一夏”はそれを一瞥する。と、その体がグラリと揺らいだ。

「っ……!」

鈴はその体をとっさに支える。そして同時に、黒い白式もまた量子変換されて待機状態へと戻った。

『一夏さんッ!!』

「一夏ッ!!」

セシリアが慌てて飛んで来る。そして箒も、実況室を飛び出していた。

 

 

 

 

 

「あれ、なんだったんですか……あの、”黒い”白式は?」

真耶が信じられないものを見たと、枯れ気味の声で呟く。

「あれは……《裏白式》だ」

「裏、白式……?」

真耶は意味が分からず、千冬の言葉をオウム返しする。

「近接特化の白式に対し、射撃戦特化の姿……ゆえに、裏白式だ」

「そんな……在り得ないですよ!? だって、最適化は本人に合わせるものですよ? それが、あんな全く違う形態を取るなんて……」

「だが事実だ。あの状態の白式は、遠距離でその真価を発揮する。今までは、プロテクトを掛けられていた状態だっただけだ……武装を含めてな」

「………」

「納得行かないか?」

「……行きません」

「なら、それでも良い。どうせ事実は変わらんのだからな。すまんが、席を外す……何かあれば端末に連絡をくれ」

「……わかりました」

真耶の返事を聞くよりも早く、千冬はモニタールームを後にした。

 

逸る気持ちを押さえながら千冬は通路を、しかし早足気味に進んでいく。

「裏白式……月影……」

 

『……春るんはね、いつか世界を殺す悪魔になるかもしれないの』

 

「何故、お前はあれを用意していた……?」

 

『もしそうなったら、ちーちゃん――』

 

「何故だ……!?」

 

『――春るんを、殺せる?』

 

 

 

ギュッと拳を握り、千冬はここにいない者を睨みつけた。

「何を知っているんだ、束……ッ!!」

 

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