IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第13話  ブロンドの捜索者

 

転校生ラウラ・ボーデヴィッヒと一夏の一幕で、微妙な空気になった1組だったが、そんな事では授業は遅れない。

 

「今日は2組と合同でIS模擬戦闘を行う。全員、着替えたら第二グラウンドに集合するように。以上だ」

千冬が手をたたき、SHRも終わりを告げる。クラスが微妙な空気から解放されて動き始めた。

 

「えっと、大丈夫……?」

席を立った一夏の前に、小柄な少女がいた。もう一人の転校生シャルロットだ。

「あぁ、別に平気だよ」

そう言って、ヒラヒラと左手を振って見せる。

「そっか。えっと……織斑一夏君、だよね? 世界で唯一、ISを使える男子の……」

「あぁ、まぁ……そんな事になってるけど」

実際、春斗も(一夏の体とはいえ)使っているので、唯一というのは違う気がするが、そこは否定はしない。

「あのね、不躾な事だとは思うんだけど……君に聞きたいことが」

「あ〜、悪ぃ。俺、時間ないんだ。ゴメンなっ!」

「えっ!? ちょっと!?」

シャルロットが止める間もなく、一夏は教室から走り去ってしまった。

 

「……どうして、あんなに急いでるんだろう?」

「それは着替えるのに、アリーナの更衣室まで行くからだよ?」

「そうなの? えっと……」

「相川清香よ。よろしくね、デュノアちゃん」

「宜しく。僕の事はシャルロットで良いよ? でも、どうして彼はわざわざアリーナまで?」

「何せ唯一の男子でしょ? だからここには男子更衣室なんて無いし……だから実習の時は、何時も急いで移動しているのよ」

「へぇ。何か、大変そうだね……」

席に着いて、早速着替えの用意をするシャルロット。

「ところで、シャルロットって何で、自分のことを”僕”っていうの?」

「えっ、何かおかしいかな……?」

「別におかしくないけど……ちょっと気になっただけ。あ、気に触っちゃった?」

「ううん、そんな事ないよ。僕、日本にメールフレンドがいて、その人が色んな事を教えてくれてるんだけど……。

その人が自分の事を”僕”って呼んでて、それで……その……真似、してるんだ」

自分の言葉に羞恥を覚えたのか、シャルロットは顔を赤らめながら、徐々に声のトーンを落としていく。

 

その態度に、噂大好きな乙女達は即座に何かを感じ取った。

「もしかして、メールフレンドって男の子なの!?」

「じゃあ実は、ただの友達(メールフレンド)じゃないって事!?」

「えーっ、それって超遠距恋愛ってヤツ!?」

 

「え、遠距離恋あっ……!? ち、違うよ! HARUはそんなんじゃ……!」

「へぇ、相手の名前はハルっていうんだ〜?」

「いや、それはただのHN(ハンドルネーム)なんだって! 本名も知らないんだからっ!!」

「……HN(ハンドルネーム)だけ……? なーんだ、本当にメル友なだけか〜」

「そ、そうだよもう………ふぅ」

なんとか納得させられたようで、シャルロットを襲った乙女包囲網は解除された。

 

(いきなりこれって……HARUの、ハルトの言った通り、皆は恋の話とか好きなんだな……気付かれないようにしないと)

 

 

 

 

『シャルロットは、恋愛の話とかはするの?』

『ううん。興味はあるけど、ここには同い年の子はいないから』

『日本の女子学生は、人の恋愛話にとても興味をもつんだ。凄いよ。あっと言う間に話が広がっていくんだ』

『それはすごいね。そんなに人の恋の話って面白いのかな?』

『どうだろうね? シャルロットも恋をしたら分かるんじゃないかな?』

『それって、私が恋をしたことが無いみたいに聞こえるよ?』

『お、これは大胆な発言だね。どんな人に恋をしたのか、僕は興味があるな』

『HARUって時々、凄くイジワルだよね。私のこと苛めて楽しんでない?』

『いいや、そんな事はないよ。ただ反応が可愛いとついつい、苛めてみたくなるだけだよ』

 

 

 

 

「あ、あうぅ……」

ある日のチャットの事を、余計な所まで思い出してしまい、真っ赤になってしまう。

こんな顔を見られたら、また色々聞かれてしまうのは明白。

 

シャルロットはさっさと着替えようと、制服に手を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「しっかし、何だったんだあいつ……?」

アリーナの更衣室で着替えつつ、一夏はつい先程の出来事を振り返っていた。

 

 

 

『私は認めない。貴様があの人の弟であるなどと……!』

 

 

 

『”あの人”って、千冬姉さんの事だよね……ドイツ、姉さん……か』

「て事は、あれが関係してるのか……?」

『”第二回 モンドグロッソ”……まだ、まとわりついてくるとはね……』

「………」

 

IS世界大会モンドグロッソ。その第二回大会の決勝戦。

第一回大会の覇者 織斑千冬は、この第二回大会でも優勝候補筆頭――いや、その実力故に既に優勝したも同然であった。

 

だが当日、千冬は決勝を棄権。連覇は成されず、そして彼女は現役も退いた。

 

優勝は確実とされながら何故、千冬がそんな行動をとったのか、知る者は少ない。

 

 

「……今更どうこう言っても始まらない、か。遅刻して叩かれないように急ぐか」

一夏は思考を区切り、ロッカーを閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

そして現在、グラウンド上空では甲龍とブルー・ティアーズが踊っていた。

いや、正確には踊らされていた。第三者によって。

 

「くっ……!」

「この、何で……!?」

 

二人は思うように動けない苛立ちに顔を歪めている。

 

 

相手は山田真耶。第二世代量産機【ラファール・リヴァイヴ】を駆り、二対一という数的不利を容易く覆し、戦局を完全に支配していた。

 

とても登場時に一夏に向かって墜落した上、そのまま一夏と転がり、ラッキースケベなイベントを起こさせた人物とは思えない。

 

 

「――では、デュノア。山田先生が使っているISについて、説明してみろ」

戦闘を見つつ、千冬はシャルロットに指示した。

「はい。山田先生が使っているISはデュノア社製ラファール・リヴァイヴ。第二世代最後期の機体ですが、その性能は初期第三世代機にも劣りません。

安定した性能と高い汎用性、後付装備(イコライザ)の豊富さが特徴です。R‐リヴァイヴは世界七ヶ国でライセンス生産、十二ヶ国で正式採用されており、世界シェア第三位につけています。

特筆すべきは操作性の簡易化によって操縦者を選ばない事と、多様性役割切替(マルチロール・チェンジ)を両立させている事です」

 

シャルロットの説明が続く中、一夏はある事が気になった。

『あれ? デュノア社って、もしかして……?』

『……彼女の実家だよ』

『へぇ。なんか雰囲気がこう、上品だなって思ったけど……本当にお嬢様だったのか』

『………家の事は、彼女には言わないようにね』

『何でだ?』

『色々と、事情があるんだよ』

『……分かった』

 

軽々しく言えない事情なのだと察し、一夏はそれ以上何も聞かなかった。

『しっかし、鈴とセシリア二人がかりで全然敵わないなんて……凄かったんだな、あの人』

『さすがは元代表候補生……戦い方に無駄がないね。それに加えて、二人はてんでバラバラ……あれじゃ、山田先生の思うがままだよ』

 

 

ガッシャーンッ!!

 

 

「あ、ぶつかった」

鈴とセシリアが回避行動をとった瞬間、接触。真耶はその一瞬を逃さず、今まで使用していたアサルトライフルを切り替え、グレネードランチャーを発射。

青空に、爆発の華が咲いた。

 

そしてそこから、縺れ合うようにして二人が落ちてきた。

 

ド派手な音を立てて、グラウンドに見事なクレーターが生まれる。もうもうと上がる粉塵の向こうから、二人が這い出してきた。

「ちょっと、何で簡単に回避行動読まれてるのよっ!!」

「そっちこそ、バカスカと衝撃砲を乱射して!! 邪魔ですわよ!!」

「何よ!そっちだってすぐビット飛ばして……邪魔なのよ!!」

「なんですって!?」

「なによ!!」

ギャーギャーと言い合うセシリアと鈴。彼女たちを見るクラスメートの視線は微妙なものであった。

『無能な味方は敵よりも恐ろしい。あれじゃむしろ、一対一の方が上手く戦えたんじゃないかな?』

「……う〜ん」

罵り合う二人を見ながら、春斗の言葉に深く考えさせられる一夏であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、教員の実力を分かってもらった所で、早速実習に入る。専用機持ちをリーダーにして、出席番号順に織斑、オルコット、デュノア、凰、ボーデヴィッヒに着け」

千冬の指示に従い、生徒たちが並んでいく。

 

「いよっし、織斑君と一緒だ!!」

「うあ……あと一番ズレていれば〜っ!」

「セシリアさんか……う〜ん、さっきのあれはな〜……」

「凰さんって……なんか微妙」

 

などと各人の反応は様々。特にセシリアと鈴はその株を落としてしまったようだ。

 

そして、もう一つの班は―――。

 

「………」

 

ラウラの冷徹な雰囲気と、その拒絶に満ちた態度で誰もが声を出すことさえ出来ないような状況にあった。

 

『あそこはある意味、運が無かったとした言いようがないね』

「……さ、始めるか」

あそこには関わらない方が良い。下手に見ていて目が合ったらまた打たれるかも知れない。

 

「じゃあ、最初は……」

「はーい! 一番、相川清香! ソフトボール部所属! 趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!」

「いや、何で自己紹介……?」

「よろしくお願いします!!」

一夏のハテナを吹っ飛ばして、相川は腰から身を折り、手を差し出す。

『紅◯団っ!?』

 

「あぁ、ずるい!!」

「私もっ!!」

「第一印象から決めてましたッ!!」

 

「「「――よろしくお願いしますっ!!」」」

 

『ちょっと待ったコール!?』

『さっきから意味が分からねぇぞ!?』

「わぁ、ずいぶんと懐かしいことをしていますね〜」

「って、分かるんですか山田先生!?」

脈絡なく現れた真耶は、なにか懐かしそうに言った。

 

『あの人って本当に、千冬姉さんより年下なのか?』

『お前に、その事を言う資格はないと思うぞ?』

 

 

 

ともあれ、実習開始である。

 

「よっと……うんしょ……」

「うん、いい感じ……よし、そこでストップ」

「ふぅ……」

相川に手を差し出し、降りるのをサポートする。

 

『一夏。打鉄が立ったままになってる』

「あっ……しまった」

専用機はそのまま待機状態にできるが、練習機など、そのままの状態にある機体から降りるには屈まないといけない。

 

「……これでは、私が乗れんのだが?」

「うん? もしかして次、箒か……?」

「う、うむ……」

「………」

「………」

『………』

箒は先日の出来事のせいで、一夏は内心の春斗の妙な感覚のせいで、空気が何処と無く気不味い。

 

 

「――あぁ、これは最初に良くある失敗ですね。織斑君、白式を出して、篠ノ之さんを運んであげて下さい」

 

「『な――っ!?』」

 

「えぇーーっ!?」

真耶の発言に箒と春斗が驚きと困惑の、そして他の女子たちが悲鳴のような声を上げた。

 

 

 

「――じゃあ、行くぞ?」

「う、うむ……」

白式を出した一夏は箒の体を抱え上げ、機体を浮き上がらせた。

 

 

(これが……俗に言う”お姫様抱っこ”というものか……)

箒は初めての事にドキドキとしながら、とても近い場所にある一夏の顔に、視線がに釘付けになってしまう。

 

(春斗との事があったというのに……私は、こんなにも節操のない女だったのか……?)

 

それでも、一夏に抱かれる自分がとても幸せで、この時間をもっとと望んでいる自分がいる。

 

 

「――き、箒?」

「な、何だ、いきなりっ!?」

「いや、何度も呼んでるって。ほら、打鉄に移れよ」

「え……あ、あぁ……そうだな」

気付けば、周りの女子―――特にセシリアと鈴からの視線が、深々と突き刺さっている。

 

それを受けて、箒はそうだったと思い出す。

一夏の周りには、強力なライバルが多い。特に危険なのはセシリアと鈴。

二人は専用機持ちの上、鈴にいたっては何故か一夏と親しいのだ。

幼馴染だからといえばそうかも知れないが、それにしては親し過ぎる気が箒にはしていた。

 

 

『古人曰く。男を捕らえるならば、その腹を押さえよ! 織斑一夏をゲットするには、家庭的な所を強く押し出すのよ!!』

 

 

今日は家の事情で欠席している織羽の言葉が、脳内でリフレインした。

そんな俗物的な事を言った古人が誰なのかは気になるが、箒はそれに乗せられ、ある物を用意していた。

(だが、本当にそれでいいのか……?)

どこかの空の下にいる春斗の事を考えてしまうと、迷ってしまう。

 

 

『ほーちゃんも……もっと我侭でいいと思うよ? 自分に素直って、そういう事だもの』

 

 

「……ッ!?」

もっと我侭に。自分に素直にという春斗の言葉が、箒の背中をトン、と押した。

「……あのな、一夏」

「何だ?」

打鉄に手足を通しながら、箒は乾いた唇を湿らせるように舐め、言葉を続けた。

「その、今日の昼……予定はあるか? 無いなら、久しぶりに……昼食を共にしないか?」

箒は不安と期待の入り交じったすがるような視線を、一夏に向けた。

『………』

それは当然、春斗にも見えているが、それは箒には分からない事だ。

「昼か? 別に良いぜ?」

「っ……! そ、そうか……っ! では、昼は屋上に行くぞ!?」

「お、おう……」

箒は内心の心の弾みを抑えられず、満面の笑みを浮かべていた。

何でそんなに喜んでいるのか一夏には分からず、ただ戸惑うばかり。

 

『本当に、嬉しそうだな……』

複雑ながら、やはり箒には笑顔がとても似合うと、改めて思う春斗。

 

 

 

 

 

「「………………」」

 

そして、このやり取りを聴き逃していない二人もいたりした。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

そして昼休み。

箒と一夏は”約束通り”、屋上にいた。

 

「…………どういう事だ?」

「いや、せっかくなら皆で食った方が美味いだろ?」

「えぇ。食事は大勢で楽しむのが良いものですわ」

「やっぱり、賑やかなのは良いよねー?」

 

「貴様らぁ……っ!」

ワナワナと震える箒。

そう、屋上に一夏と箒はいた。だが、セシリアと鈴も一夏と共にやって来たのだ。

「えっと、僕も一緒でいいのかな……?」

更に一夏は、途中でシャルロットも捕まえ、半ば強引にここまで連れてきてしまったのだ。

『なんで、シャルロットまで……?』

「デュノアは転校したばっかりで、右も左も分かんないだろ? せっかく知り合ったんだから交流を深めようぜ?」

二人の問いに、一夏が答える。

「――ありがとう、織斑君。気を使ってくれて」

「一夏でいいぞ。その代わりに、俺もシャルロットって呼ばせてもらうからさ」

「うん。分かったよ…… 一夏」

『………ドジ踏んで、僕の事をバラさないでよ?』

嬉しそうに笑うシャルロットの姿に、春斗はそれ以上、何も言わなかった。

 

 

そんな一夏達を余所に、箒達の間では火花が散っていた。

彼女たちはそれぞれ、弁当箱にタッパーにバスケットを持っていた。

IS学園は全寮制で、各部屋にはIH式のコンロなどがあるものの、そこで出来る事は限られている。

なので本格的に調理を行う生徒のため、早朝などの時間に限ってだが、厨房が解放されている。

 

(((まさか、被るとは………)))

 

似通った思考回路というものが、こんなにも苦々しいとは知らなかった。

 

これでは、せっかくのアピールが影を薄くしてしまう。

だが箒にしてみれば、二人に遅れを取らなかったと言え、幸運ともとれた。

(……本当に、僕は居て良いのかな?)

シャルロットはもう一度だけ、疑問を持った。

 

「鈴のそれって酢豚か……?」

「あたしの作った酢豚がまた食べたいって言ってたでしょ? 感謝しなさいよ」

「じゃあ一つ、頂いてみるか……どれ」

一夏はタッパーから一つ肉を取り、口に入れた。

「うん。さすがに美味いな……」

『かつての殺人料理を知ってる身としては、この進歩は今でも驚きだね……』

『……春斗、後でコロスからね』

『聞こえてた!?』

とても冷たい声が、春斗に突き刺さった。

 

 

「それで、セシリアのは……サンドイッチか?」

セシリアが料理をするとは意外な気もするが、サンドイッチは幾ら何でも失敗する要素が殆ど無い。

「はい。たまたま、偶然、因果律の巡り合わせとでもいいましょうか……今日は早くに目が醒めてしまって。それで気まぐれ、気の向くまま、気の迷いで作ってみましたの」

「……気の迷いは違わないか?」

何か、不穏な気配を感じてしまう。

「さぁ、そんな事は気にせず……どうぞお一つ」

「それじゃあ……これにしよう」

パンに挟まれた黄色い具材。サンドイッチの王道の一つ、玉子サンドを取る。

ゆで卵をつぶし、マヨネーズと和えてパンで挟むというシンプルな一品。

これならば、誰でも作れるはずだ。

 

一夏は一口、それを齧った。

「『………ッ!?』」

その瞬間、口中に広がる凄まじいまでの甘さ。ジャリジャリという歯ごたえと、鼻腔を襲撃するバニラエッセンスの香り。

 

一夏の本能が、これ以上の謎の物体の摂取を拒絶する。

「さぁ。まだ沢山ありますから、遠慮なさらずに!」

しかしセシリアはずい、とバスケットを差し出してきた。

『一夏、ここはちゃんと言うべきだ……これは僕らの存在に関わる……!」

「あ、えっと…………そ、その前に次にいこうかな!?」

一夏は最後の一人に逃げた。問題の先送りともいう。

 

「……私のは、これだ」

『わぁ、すごい……!』

「あぁ……これはびっくりだ」

箒の渡した弁当箱の中身は、やはりオーソドックスなお弁当。

だが、一つ一つが手の込んだ物のようだ。

 

「でも悪いな。俺の分まで作ってくれてるとは……いや、もつべきものは幼馴染か」

「勘違いするな。たまたま、作り過ぎてしまっただけだ」

「分かってるよ。それでも嬉しいもんは嬉しいってことだよ。じゃ、早速……」

と、一夏は弁当箱から唐揚げをチョイスして、口に放り込む。

 

「……ど、どうだ?」

「………うん、美味い! これは、下味に醤油と生姜……あと、何だ……?」

『……多分、おろしたニンニクと胡椒だね』

味覚共有をしている春斗から、答えが追加される。

「あぁ、ニンニクと胡椒ね」

「後は隠し味に、大根おろしを適量だ。しかし、良く分かったな」

「え? いやぁ、あっはっは……」

嬉しそうに驚く箒に、一夏は引きつった笑いを返すしかなかった。

 

「あれ、箒のやつには唐揚げは入ってないのか?」

「うっ!? いや、私はその……ダイエット中なのだ」

「そんな事言わずに、ほら……」

「『――っ!?』」

「「あぁーーーーーっ!!」」

一夏は唐揚げを取って、そのまま箒の前まで持っていくと、箒と春斗は息を呑み、セシリアと鈴が悲鳴を上げた。

 

「なっ、何を……!?」

「ほら、食ってみろって。せっかく美味く作ったんだから、勿体無いぜ?」

「そ、そうか……で、では……はむ」

箒は戸惑いつつも、パクリと唐揚げを食べる。

「……うん、良いものだな」

「だろ? 美味いよなぁ、この唐揚げ!」

「いや、唐揚げではないんだが……うん、実に良い」

「……?」

唐揚げでないなら何が良いのか。一夏は分からずに首を傾げた。

『………この、ニブチンめ』

そんな一夏に、春斗のツッコミは冷ややかだった。

 

 

 

「あっ、これが日本のカップルがするっていう『はい、あ〜ん♪』ていうやつなの?いや、二人とも仲睦まじいんだね〜」

ここまで事態の推移を見守っていたシャルロットが、唐突に爆弾を投げた。

「は!? いやいや、俺と箒はそんなんじゃ……」

フランス謹製シャルロット爆弾は、あっという間にその被害を拡大した。

「はぁっ!? 何でその二人が、仲睦まじいになるのよ!?」

「そ、そうですわ! やり直しを要求しますッ!!」

「というか、どこでそんな言葉を知ったんだ!?」

延焼を防ごうと、箒がシャルロットに尋ねる。

「え? HARUが教えてくれたんだけど……何か間違ってた?」

「いや、間違っていないが……」

「「全然、間違ってるっ!!」」

思わず肯定しそうになった箒に、セシリアたちが言葉の冷水を掛けて、強制冷却する。

「お前ら、何でそこまでムキになるんだよ……?」

「一夏は黙ってなさい!」

「一夏さんは黙っていてください!」

「えぇっ!?」

 

「じゃあ……皆のおかずを一つずつ交換する、ていうのはどうかな? 日本の学校だと、そういうのをするんでしょ?」

流石にこれ以上の被害拡大はまずいと判断したのか、シャルロットはひとつの提案をした。

 

「……まぁ、それでも良いけどね」

「……本来ならば、そういったテーブルマナーにそぐわない行為は好ましくありませんが……”郷に入れば郷に従え”と言いますし……」

どうやら上手く鎮火できたようだ。

 

「て事で一夏っ! ほら、あたしの作った酢豚、食べなさいっ!!」

「一夏さん!私のサンドイッチを、さぁっ!!」

 

訂正。鎮火なんて出来なかった。

 

「うぉおお……っ!?」

追い詰められる一夏。迫り来る酢豚とサンドイッチ。

 

 

 

この昼休みがどんな終わり方をしたのか、それは想像に任せるところとする。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

その日の夜。シャルロットは寮のロビーにいた。

なにせ同室になったのがラウラであり、なんとも部屋に居づらいのだ。

 

(結局、一夏には何も聞けなかったな……)

 

自販機で買った紅茶を飲みつつ、ふと考える。

 

 

織斑という姓は、それなりに珍しい。

その上、同じ姓を持つ千冬は世界一の称号『ブリュンヒルデ』を持ち、一夏は世界唯一の男性IS操縦者。

ならば、単独で第三世代ISの原型を設計してしまう天才が、無関係とは思えない。

 

HARU=ハルトという確証はない。あくまでも自分のこれまでの経緯と、ヒューイック博士の言葉。そして博士宛の手紙からの推理だ。

 

 

HARU。

顔も知らない、チャットとメールだけの関係であった筈の彼が、何時しかシャルロットの中でとても大きな存在になっていた。

 

それを自覚したのは、彼女がデュノアの家から解放された時だ。

正式にフランス代表候補生になり、ヒューイック博士やその助手のフィリー、その他多くの人々と知り合い、出会い、本当に自分がいて良い場所を得た時、シャルロットは事実を知った。

 

 

彼女の新しい居場所。その為に一人の人物が、自身の名誉を引き替えにしたのだという事を。

 

 

 

 

 

 

フランス第三世代IS【ラファール・ドラグーン】。そして第三世代武装【リンドブルム】。

 

それはフランスが、デュノア社がゼロから生み出したものではなかった。

 

 

(どうしても、私は会わないといけないんだ……彼に)

 

 

会って、聞かなければならない。

会って、謝らなければならない。

 

 

会って、そして――。

 

 

「どう、したらいいんだろう……」

謝って済むことか? 聞いて何が変わる?

もう、すでに手遅れだというのに。

ラファール・ドラグーンは既にフランスの物として開発されてしまっているのだから。

 

 

 

 

フィリーには、絶対に見つけると約束した。

ここに来るまでは、ただ会いたくて仕方ないという思いが強かった。

 

だが、今は不安が強い。いざ出会えるかも知れないとなれば、怖じ気づいてしまう。

そういう意味では、最初に聞きそびれたのは悪手だった。

 

 

 

 

「ん……シャルロットか?」

「あ、篠ノ之さん……」

廊下の向こうからやって来たのは箒だった。

来た方向と、全身がほんのりと桜色に染まっていることから、大浴場に行っていたようだ。

 

「随分と難しい顔をしているが……どうしたんだ?」

「そ、そんな事ないと思うけど……!?」

指摘されて慌てて否定するも、その態度にありありと事実が見えてしまう。

「まぁ、転校というのは色々と気疲れも多いものだしな……私にもよく分かる」

「えっ、あ、うん……そうなんだ……ハハハ」

そんな態度を、箒はどうやら勘違いしたらしい。

内心で安堵しつつ、シャルロットはある事を思い出した。

 

「そういえば、篠ノ之さんって一夏と仲が良いよね? もしかして結構長い付き合いなの?」

「うん? まぁ……そう、幼馴染だからな」

「幼馴染……?」

その言葉に、シャルロットは具に反応した。

それが本当ならば、彼女は知っているかもしれない。

 

「ねぇ、篠ノ之さん……?」

「何だ?」

緊張と興奮、そして不安が全身を支配しようとするのを抑えながら、シャルロットは勇気を出して言葉を発した。

 

 

 

 

 

「――― 織斑 ハルトっていう人を、知ってる?」

 

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