IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第14話  ブラック・インパクト/ダンシング・シャドウ

 

シャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒという、二人の転校生を迎えた数日後。

「はぁ……」

篠ノ之箒は屋上で、深々と溜息を吐いていた。

その理由は二つ。

一つ目は、シャルロットと春斗の関係だ。

 

 

『ねぇ、篠ノ之さん? 織斑ハルトっていう人を、知ってる?』

『は、春斗だと……!?』

『……知ってるんだね。良かったら、どんな人か……教えてくれない?』

『いや、私は……!?』

『どんな事でも良いの。好きな物とか、趣味とか、人柄とか……ううん、それよりも聞きたいのは……』

『………』

 

『―――彼と、一夏の関係を教えて欲しいんだ』

 

 

「どうして、あんな事を……?」

あの時のシャルロットはおかしかった。

冷静さを保とうとしているようだったが、感情の波が端々から溢れ、鬼気迫る必死さを感じた。

 

フランス代表候補生と、春斗との繋がり。

言葉から察するには実際に会った事はなく、しかし他人という訳ではないようだ。

あの場は知らないと答えたが、恐らくは一欠片も意味をなしていないだろう。

一応、一夏にこの事を話したが、どうしても二人の間の線が繋がらない。

「っ……!」

 

何故、こんなにも気持ち悪いのだろうか。

いや、理由なら分かっている。

シャルロットの、あの必死な瞳のせいだ。あれはまるで―――。

「いや、考えるな」

と、ここで箒は思考を切った。

これは自分には関係ない事なのだから。春斗と自分はもう、ただの幼馴染で友人。自分自身が、そう決めたのだ。

 

 

そして、もう一つは今、学園中に流れている噂だ。

 

【月末に行われる学年別トーナメントで優勝すると、織斑一夏と付き合える】

 

という、どこまでも巫山戯た噂であるが、この事を織羽から聞いた時には愕然とした。

「そもそも、付き合えるのは私なのに……何故、こうなってしまった……!?」

青空に向かって、やり切れなさを吐き出す。

 

「――そりゃ、あんたが部屋に入らなかった上、でかい声で宣言かましたからでしょう?」

「ッ……!?」

いきなり背後から掛けられた声に驚いて箒が振り返ると、そこには織羽が呆れた顔で立っていた。

「お、織羽……!?」

「ったく、あれだけ二人きりの時に言えって言ったのに……」

「だ、だがそれはその……無理だろう!?」

「一ヶ月も同棲しておいて?」

「どっ、同棲ではなく同居だ!!」

「辞書的には一緒の意味だけどね〜。で、どうするのよ?」

「どうするもこうするも……そもそも、一夏は約束の事を勘違いしているし………」

そう。一夏は【付き合う】というのを、【何処かに】と勘違いしているのだ。

 

だが、言い換えれば【優勝すれば、一夏とデートできる】と言えなくもない。

やはり優勝を目指す以外に道はない。

「………」

だが、それは約束をした時よりも難しい状況になっている。

なにせ、転校生二人も専用機持ちなのだ。トーナメントでぶつかる可能性はずっと大きくなっている。

 

「だが、それでも優勝をするんだ……!」

そう拳と決意を固めた時、アナウンスが響いた。

 

 

『1年1組、篠ノ之箒さん。織斑先生がお呼びです。至急、IS保管庫まで来て下さい。繰り返します……』

 

 

「呼び出し……? すまんが行ってくる」

「はいはい、行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

『う〜ん……』

織斑春斗は、絶賛悩み中だった。

原因は当然、シャルロット・デュノアの事だ。

箒に彼女が自分を探していると聞いた時には、驚いて素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

だが何故、彼女は自分を探しているのかが分からない。

彼女に一度も本名を明かしたことはない。だから、春斗を知らない筈なのだ。

 

 

そもそも、”HARU”と”春斗”の関係を知っているのかが怪しい。

 

 

二つを別々としているなら、彼女が自分を探す理由は想像できる。デュノア社かフランス政府に、自分の事が知られた可能性だ。

『………』

だが、これも微妙な気がする。

デュアン・ヒューイック博士しか繋がる人物はいないが、しかし彼にそんな事をする意味が無い。

彼はフランスの英雄なのだ。彼は名声にこだわる人間ではないし、約束を違える人間でもない。

 

それに、スパイ活動にしてはシャルロットの行動は大雑把すぎる。

関係者に直接、捜索対象のことを聞くなど、自分を怪しんでくださいとアピールしているようなものだ。

なので、この線は殆ど無いと言える。

 

ならば、”HARU”と”春斗”を同一として考えているのか。

 

この場合も、問題は何処でそれが繋がるかだが、やはりデュアン博士以外にいない。

しかし博士には、彼女には自分の事を言わないようにと頼んであるし、そもそも彼はHARUの事を知らない。

という事は、この線も無いだろう。

 

(だが、彼女が何らかの目的で僕を探しているのは事実。どちらにしろ、情報不足か……)

 

一夏には、彼女とは今まで通りに接してもらうよう頼んである。

そう言った時は渋っていたが、いきなり態度を変えたら怪しまれるし、彼女の真意を知るにもそうするべきだと言って、納得してもらった。

 

 

 

『……だからって、こうも普通に接するものかね?』

 

「……で、ここの式が駆動率の値に繋がるんだ。分かった?」

「おう。シャルロットは教えるのが上手いな〜」

「そんな事ないよ。一夏も覚えが早いと思うよ?」

「まぁ、俺は勤勉家だからな」

 

『……勤勉家は資料を電話帳と間違えて、捨てそうにはならないと思うけど?』

『うっせー』

一夏は本当に、何の間違いもなく、シャルロットと接していた。

今も、先程までの授業の復習をしているところである。

 

演技ではない辺り、一夏の恐ろしさというべきか。

 

 

(しかし……今更ながら思うけど、シャルロットって普通に可愛い子だったんだな……)

 

 

柔らかに微笑むシャルロットを見て、素直にそう思う。

この笑顔を見れば、自分がやったことが間違いではなかったと、胸を張って言える。

 

だからといって、このまま彼女を放置する事は出来ないが。

 

 

そしてもう一人、春斗が気になるのはラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 

最初の接触以降、彼女は何のアクションも起こさず、沈黙を守っていた。

それが、どうにも不気味で仕方が無い。

(今は気を付けるくらいしか無い、か……)

それからしばらく二人に注意をしていたが、結局は何も起こらないまま週末を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

土曜日のIS学園。

理論授業は昼まで。午後は自由時間で、アリーナが全面解放されている。

 

大会まで一ヶ月を切った今、アリーナには練習にきている生徒が多い。

白式を展開させた一夏もまた、その一人である。

 

 

「だからこう、ズバッとやって、そのままグアッ! ガキンッ! という感じでだな」

「防御の時には、右半身を斜め上前方に5度に傾け、回避の時には後方へ20度、反転するんです」

「ったく、こういうのは感覚よ? 何で分かんないのよ!?」

 

「わかるかっ!!」

上から箒、セシリア、鈴とてんでバラバラな説明に、一夏は思わず叫んだ。

「何で分からん!?」

「ちゃんと聞きなさいよ!!」

「もう一度、説明して差し上げますわ! いいですか――」

『船頭多くして船山にのぼる』という言葉は、実はこの為にあったのではないかとさえ思える。

 

擬音、感覚、理論。

全てを取り入れるなら、攻撃はズバッ、グァッ、ガキンッ。で、防御と回避は右半身を斜め上前方に5度に、回避の時には後方へ20度反転し、そして全体は感覚で何となく。

 

全くもって意味が分からない。全てを理解するための翻訳機は、きっと遙か未来にならなければ開発されないだろう。

 

『春斗……助けてくれぇ……』

一夏は白式の中にいる最高のコーチに助けを求めた。

『生憎と、今は白式のデータを整理中だから……後でね?』

『俺はかまって欲しい子供かよ!?』

『っ……!? 違うの……!?』

『何でそんな驚愕すんだよ!?』

 

そんな内心のやり取りの最中も、自称コーチたちの指導は続く。

 

「はぁ……」

 

この面倒くさい状況に、溜息しか出てこない。

 

 

 

 

「一夏?」

「ん?」

掛けられた声に振り返ると、そこにはISを起動させたシャルロットがいた。

白の胸部、肩部装甲と全身をオレンジに配色された―― ラファール・リヴァイヴ。

通常と違い、シールドが左腕部にのみにあり、背部に大型ウイング一対、リアスカートに小型スラスター翼。

大きく機動力を取ったカスタムがされているようだ。

 

「良かったら付き合ってくれる? 噂の白式と戦ってみたいんだ」

「あぁ、良いぜ。という事だから、また後でな」

 

一夏はこれ幸いと、シャルロットの誘いを受けた。その結果、三人に視線がとっても恐ろしい事になっているとも気付かないで。

 

 

 

 

「ところでそれラファール・リヴァイヴ……だよな?」

「うん。R-リヴァイヴ・カスタム?……R-リヴァイヴのカスタム機なんだ」

「あれ? フランスって第三世代IS、作ってなかったっけ?」

「あぁ〜、あれはまだ……調整が終わってないから。早くても3ヶ月後か、遅いと半年先かな……? それまでは、これが僕の専用機だよ」

「ふ〜ん……ま、いいか。それじゃ、早速始めようぜ!!」

 

 

 

 

 

そうして行われた模擬戦闘は、一夏の完全敗北で終わった。

『さて、いつもの反省会のお時間です』

『……宜しくお願いします』

 

ピットに着き、春斗が再生させる映像を見ながら、問題点を洗い出していく。

 

 

モニターには、一夏の攻撃をヒラリヒラリと躱すシャルロット。その隙を突いて、銃撃を的確に撃ち込んでいく姿が映っている。

一夏は強引に斬り込もうとするが、銃撃がそれを押しとどめ、シールドを削り落としていく。

そしてそのまま、試合終了。

それを数度繰り返し見ながら、春斗と共に何処に問題があるかを話し合う。

 

シャルロットも、模擬戦について気付いた事があるといったが、ひとまずは自分でと答え、待ってもらっている。

 

 

『彼女の武装は実弾中心。威力はエネルギー系よりも低いけど、その代わりにリヴァイヴの特徴を強く出しているね』

『しかも動き方が上手いんだよ。こう、こっちが動くとすぐに回避して撃たれてるんだ』

『それは単純に、一夏が射撃武器の特性を理解していないところに、問題があると思うよ?』

『そうかなぁ? 一応、勉強しているつもりなんだけど……』

『まず、最初に空中に上がった時、マシンガンで弾幕を張られて、スピードに乗れなかったでしょ?』

『あぁ、そうだな……ん? その後、違う武器を撃たれたな』

『アサルトライフルだね。威力はマシンガンより上、その代わりに速射力は低い。マシンガンで距離を取り、ライフルで射撃……でも、ちょっと切り替えが早過ぎるんだよね……』

『早過ぎる……?』

『武装交換に殆どタイムラグがないんだ。これはもしかして………拡張領域を増やしてるのか?』

『そんな事できるのか?』

『出来なくはないよ。ちょっと、裏技的なやり方だけどね……』

 

 

「………よし。お待たせ、シャルロット」

「じゃあ、答え合わせをしてみよっか?」

シャルロットは早速、自分の感じた所を一夏に話した。

 

「……やっぱり、射撃武器の特性かぁ。知識だけじゃどうにもならないんだな……」

「知っているのと理解しているのじゃ、雲泥の差だからね。特に一夏は接近戦オンリーの機体だし、しっかり特性を把握しないと、簡単に動きが読めちゃうんだ。

さっきも瞬時加速(イグニッションブースト)の軌道予測されて、潰されたでしょ?」

「う〜む……難しいもんだ」

やはりそうだったのかと、一夏は腕を組んで首を捻る。

「でも、自分でここまで気付けるなんて、一夏は凄いね」

「いや、まぁ……あはは……」

 

まるでカンニングして、罪悪感にかられた様な気分であった。

 

 

 

「白式って、後付武装(イコライザ)が無いんだよね?」

「どうやら初期武装(プリセット)を使うのに、領域を全部割り当ててるらしい。おかげで第一移行(ファーストシフト)から単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が使えるんだけどな……」

「普通なら二次移行(セカンドシフト)してから発現するものなんだけど……それだって、発現しない方が多いんだ。

そういえば、一夏の単一仕様能力は【零落白夜】だよね?」

「あぁ。豪く出鱈目な能力だけどな。なんせ、シールドを含めた全エネルギーを攻撃に使うんだから……」

「それって、織斑先生の使っていたISと同じ能力だよね……姉弟だからって、同じ技が使えるものじゃないと思うんだけど……?」

シャルロットは少し考える素振りを見せる。が、答えが出る訳もない。

彼女はISに詳しいが、しかし研究者ではないのだから。

 

 

本来、単一仕様能力はISと操縦者の相性が最高になった時に発現するとされている。

そして、その能力は単一の名の通り、同じものは無いとされている。しかし、一夏と白式は千冬のIS暮桜と同じ能力を発現させていた。

 

(そんな事言ったら、裏白式なんてどうなんだろうな……?)

 

同一のISで、二人の操縦者を区別して能力が入れ替わり、その上、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)も変わる。

 

 

こうして思い返すと、「ありえない」「とんでもない」「今までに無い」のオンパレードである。

 

 

自分はもうパンダどころか、某秘密基地に連れて行かれたグレイ並に珍しいのではないかと思える。

 

 

『一夏?』

『……?』

『連れ去られる時は、一人で連れて行かれてね?』

『色々と、シャレになってないぞ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

単一仕様能力の話はひとまず終わりにして、グラウンドに降りた一夏の前に射撃用のターゲットがあった。

「とりあえず、実際に撃ってみよう。これを使って?」

と言って、シャルロットが差し出したのはアサルトライフル 《ヴェント》。

「でも他人の武装って、ロックされてて使えないんじゃないか?」

「普通はね。でも、所有者が許可を出せば使えるようになるんだ。これには一夏への許可を出してあるから」

 

それならばと、一夏は早速銃を受け取る。

「……結構、重いな。っと……こんな感じか?」

「もうちょっと脇を締めて……左手はこのぐらいに」

「っ……!?」

一夏の構えを矯正しながら、気が付けばシャルロットは一夏に密着していた。

どうやら、シャルロットは一つの事に意識が完全に傾くと、他が疎かになるらしい。

邪魔になる装甲は外されており、シャルロットの柔らかな感触が背中に嫌という程伝わってくる。

『いちかー、しゅーちゅー』

『わ、分かってるよ!』

春斗の平たい声援を受けて、一夏が構えるのに意識を傾ける。

「火薬銃は瞬間的に反動が来るけど、ISがすぐに相殺するから心配はないから」

シャルロットの腕がピッタリと、一夏のそれに重ねられる。

「っ……!!」

「どう、ハイパーセンサーのリンクは出来てる?」

「……いや、白式にはセンサーリンクが無いんだ」

「えっ? 普通はどんな機体にも付いてる筈なのに……?」

「どうも、欠陥機らしいからな」

「文字通り、100%近接戦仕様なんだね……じゃあ、目測でやろう。力を抜いて……」

いうや、シャルロットは更に体を合わせてきた。

 

「「「―――ッ!?」」」

 

その瞬間、箒達三人が声にならない声を上げた。

 

 

「じゃ、よく狙って?」

「よし……行くぞ!」

ターゲットスコープから標的を覗き込み、一夏は引き金を引いた。

「―― うおッ!?」

ドンッ!! という強い衝撃が走り、弾丸が左上を撃ち抜いた。

すぐにシャルロットが体を抑え、次に標的に向かって引き金を引く。

 

 

 

 

「……43点か」

春斗の時はターゲットの数は10。今は7である。やはり射撃力では、春斗に大きく軍配が上がった。

 

尤も、点数を競う為にやったのでないので、それはそれとする。

 

「で、どうだった?」

「何て言うか……速い! て、感じだな。後、衝撃も凄かった。ちょっと、心臓がドキドキしてるよ……」

「一夏の瞬時加速(イグニッションブースト)を含めた加速は確かに速いよ。でも、弾丸は面積が小さい分もっと速いんだ。だがら、軌道予測さえできていれば簡単に当てられる」

「そして、弾丸は外れても牽制になる。だから、間合いを離されるし、簡単に当たっちまうんだよなぁ〜。何とかしようとは思ってるんだけど……」

射撃戦のできるセシリアや鈴との訓練の際、いつも一夏は押され気味である。

射撃型の傾向と対策。それは今後を考えるに当たって、どうしても外せない問題だ。

 

更に、春斗が問題点をもう一つ指摘する。

『特攻をする時、どうしても心理的にブレーキを踏んじゃうからね。そこも当たる原因だと思うよ?』

『心理的ブレーキ?』

『一夏は模擬戦と実際の試合とじゃ、集中の度合いが雲泥の差だからね』

『そうかな……?』

『少なくとも、女子の胸やらお尻やら太ももやらに、目は行ってないよ?』

「ブフッ―――ッ!!」

「うわっ!? いきなりどうしたの……?」

「……すまん。何でもない」

いきなり吹き出した一夏に、シャルロットが驚く。

 

 

 

「――シャルロットさん、少し宜しいかしら?」

「……どうかしたの?」

声を掛けられてシャルロットが振り返ると、そこには仁王立ちしたセシリアがいた。

その後ろには、鈴と箒の姿もある。やはり面白くないといった表情だ。

「仲がよろしいのは大変結構ですが……些か、仲が良すぎなのでは? 先程も、随分と熱心に指導されていましたわね……体を密着させるほどに」

「っ……!?」

セシリアが言うと、シャルロットは先程の状態を思い出し、そして気付いた。

羞恥に頬を染めて胸部を隠し、一夏から数歩下がる。

「――― って、待て待て!? 何かおかしいよね、これ!?」

これではまるで、痴漢の犯人と被害者ではないか。慌ててシャルロットに訂正を要求する。

「…… 一夏のエッチ」

「グハッ!?」

むしろ、止めを刺された。

 

『まぁ、背中の感触を楽しんでたのは事実だものね……』

『ぐぉっ……!』

内と外で責め句のサンドイッチ。一夏は深いダメージを受けた。

 

 

 

だが、事態は思わぬ方向へと進んでいく。

「そもそも、白式にはちゃんと射撃用の武装があるのですから、それを使いになれば良いのですわ」

「え? そうなの、一夏?」

 

「「『っ……!!』」」

 

その発言に「ギクッ!?」とするのは一夏と春斗、そして鈴。

セシリアの言うのは月影、つまり裏百式の事だ。

 

(鈴、セシリアを止めろ!!)

(えぇ!? どうしろってのよ!!)

(何でもいいから、話を逸らせ!!)

(あぁ、もう! どうなっても知らないわよ!?)

 

わずか一秒のアイコンタクト。鈴は仕方なく動いた。

「ち、ちょっとセシリア……白式にそんな武装無いわよ?」

「……何を言ってますの? 鈴さんだって一緒に見たでしょう?」

「うぐっ……!? そ、それは……」

的確すぎる反撃に、鈴は二の句を継げない。

「私も見たぞ。黒い白式が……弓を射るところをな」

更に箒もセシリアに付く。二人の冷たい視線が、鈴に突き刺さった。

「鈴さん、あなたもしかして……何か隠しているんですの?」

「な、何も隠してないわよ………何も……アハハ……」

どうやら鈴にはネゴシエーターの資質は皆無のようだ。

 

「黒い白式……? 弓を使うってどういう事?」

「登録名は【裏白式】といって………いや、『百聞は一見にしかず』だな。一夏、やって見せてやれ」

「イ゛ィッ!?」

よりにもよって箒に言われてしまった。彼女は一番、見せてはマズイ相手だ。

 

あの時は、混乱した状況だったからこそ、どうにかなったのだ。じっくりと見られれば、間違いなく不審感を覚えるだろう。

 

理屈や理論ではない。

剣が己を映す鏡であるように、弓もまた、己の心を写す鏡なのだ。

 

だからこそ、今まで裏白式を見せて欲しいと言われても、断ってきたのだ。

 

だが、今や状況は絶望的であった。

「せっかくだし、見せてもらおうかな?」

「いや、だってセンサーリンクないし……」

「目測でなら、撃てるのだろう?」

箒が痛い所を突いてくる。センサーリンクが無いから、危なっかしくて使えないと断ってきたのだ。

「なら、あの時は何故使った?」と返されれば、「あれしか使えなかったからだ」と答えた。

 

だが目測で銃を撃った事で、それは理由に使えない。

 

 

「あ〜、ほら……あれだよ、あれ。俺には、雪片一振りだけで充分だっ!!」

「………」

「………」

「……で?」

「……何でもないです」

冷たい箒の視線に晒され、一夏はがっくりと折れた。

 

 

『まずい……これは、まずいぞ』

『おのれ、セシリア・オルコット……余計な事を……!』

春斗は必死に打破する方法を模索する。が、どう動いても箒に不審を抱かれるのは必至だ。

 

一夏のふりをして打つか。

裏白式になった事で作り出された射撃補正プログラムをカットすれば、多少は何とかなるだろうか。

だが、春斗に求められるのは『春斗の弓の真似をする、一夏の真似』という無理難題。

というよりも、何を真似れば良いのかが全く不明である。

 

 

 

 

 

いよいよ進退極まったという時、アリーナが急にざわめいた。

「――ねぇ、あれってドイツの第三世代ISじゃない?」

「ウソッ、本国でのトライアル段階って話じゃなかったっけ……!?」

自然とそちらを向くと、ピットの上に艶の無い、黒の機体があった。

二機の大型スラスターと、右肩部に装備された巨大な砲が特徴的なそれを纏うのは――。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」

セシリアが、その名を苦々しく吐き出す。やって来て早々、一夏を平手打ちしようとした女。

それだけでセシリアにとっては、憎むべき敵である。

「あいつが……いきなり、一夏をひっぱたこうとしたヤツ……!」

「っ………」

そして鈴と箒もまた、ラウラを睨む。

 

「……織斑一夏」

だが、彼女の目に映るのは一夏のみ。他の全てを排除し、彼女の冷たい瞳は標的だけに注がれる。

『一夏、気を付けて……』

「……何だよ?」

春斗の注意を聞き、警戒しながらラウラに返す。

「貴様も専用機持ちなのだろう……? ならば、話が早い」

「………?」

「――― 私と、戦え」

どういう理屈か。それでも彼女にとって、それは理由になるらしい。

「嫌だね。戦う理由がねぇよ」

「貴様になくても、私にはある」

「……そうだろうな」

 

 

第二回モンド・グロッソ。

優勝確実とされていた織斑千冬が、決勝を棄権したという事で騒然となった大会。

 

恐らく―― ラウラはその真実を知っている。

 

「貴様がいなければ、教官の大会二連覇という偉業は容易に想像できる。だからこそ―― 私は貴様の存在を認めない」

 

『……随分と心酔されているもんだね、姉さんは』

「っ……こんな所でやらなくても、月末には学年別トーナメントがあるんだ。そこで良いだろう?」

否定――― その言葉の重さも知らないくせに、軽々しく口にするな。

そんな内心の苛立を抑え、一夏は答える。

 

「………ならば」

ラウラの視線が細まる。肩に備えられた大砲がガチャリと音を立てる。

「――何をする気、ボーデヴィッヒさん?」

ラウラの前に、シールドとアサルトライフルを構えたシャルロットが立ちはだかる。その瞳は本当に今までの彼女と同一人物なのかと疑ってしまうほどに鋭い。

「退け、デュノア。邪魔だ」

「生憎と、ルームメイトの凶行を許す気はないよ……!」

シャルロットはラウラに、強い意志の篭った視線をぶつける。

「………ならば、まとめて」

 

 

―― 後方 敵IS反応 ――

 

 

「―――ッ!?」

大砲を打とうとした瞬間、ラウラのIS 《シュヴァルツェア・レーゲン》のハイパーセンサーが反応する。敵接近警報。距離は――30。

(なんだと!? ここまでの距離を許した……っ!?)

ラウラはとっさに、両腕に装備されたプラズマ刃を発動。振り返りざまに、それを突き出した。

 

「「ッ……!」」

ラウラのプラズマ手刀がそれの首筋に。と、同時に自身の眼前に突き立てられた白刃。

 

それはホワイトメタリックのボディに紅いライン。同じ紅の肩部装甲と、珍しく頭部を目以外を隠す様なヘッドギア。

背部と腰部にスラスター翼があり、腕部は暗色の細い装甲。脚部は黒に朱のラインが入っている。

 

「……貴様、何者だ? この私の背後を取るとは……!?」

「悪いけど、こんな密集した中で大砲ぶっ放そうとするバカに、教えてやる名前は持っちゃいないわよ……!」

「ッ……」

互いに刃を突き合わせたまま、二人の睨み合いは続く。

 

軍属であるラウラには、眼前の敵の危険度が直ぐに分かった。

これは、ここで排除するべき相手だ。機を逃せば確実に自分の障害となる。

 

膨れ上がる殺気。眼前の敵もまた、それを察したようだ。

 

 

 

『コラァ、そこの生徒!! 何をやっているッ!!』

 

 

 

 

「………邪魔が入ったか」

響いたのは恐らく教員の声だろう。これ以上は無理だと判断したラウラは、口惜しいといった風にISを待機状態に戻した。

それと共に、謎のISも刃を引いた。

 

「今日の所は、ここまでにしておこう」

ラウラは一夏を一瞥し、吐き捨てるように言う。

 

そして、自身の背後を取った敵にも宣告する。

「――命拾いしたな」

「――どっちが、かしら?」

 

「ふん」とラウラは鼻を鳴らし、そのままピットの奥へと姿を消した。

 

 

「……やれやれ。何なのよ、あのガンダーは?」

 

謎のISはピットから跳躍し、一夏達の前に降り立った。至近距離で改めて見るそれは――― まるで忍者だ。

「大丈夫だった、織斑君?」

「あぁ、大丈夫……ところで、君は?」

「え……あぁ、あたしよ」

ヘッドギアが量子変換され、消え失せる。と、晒された素顔に一夏は、それ以上に箒が驚き、目を見張った。

「君は……箒の同居人の!?」

「お、織羽……っ!? それは専用機か……何故、お前が!?」

「何でって……一応、これでも辰守インダストリーの社長令嬢だし」

 

「なっ……!?」

 

織羽が言ったその名前に、全員が驚く。

 

辰守インダストリー。

それは世界的多目的企業であり、ISにも積極的に関わっている企業だ。

そのグループの一つ、辰守エレクトロニクスでは、世界中のISのハイパーセンサーの大半を扱っている。

 

「織羽……アンタ、本当に専用機持ちだったんだ……」

何故か、鈴が気まずそうな顔をしている。

「そうよ。本当なら、代表戦までにちゃんと用意できてたのに……どっかの誰かさんに代表、取られちゃたからさぁ〜?」

「うぅ……」

織羽の嫌味タップリの言葉に、更に気まずさを増す鈴。

「……どういう事だ?」

『どうやら、鈴ちゃんの前のクラス代表って……彼女だったみたいだね?』

 

どうやら自己紹介をしっかりするべきだと、織羽は思った。

 

 

「1年2組所属、”元”クラス代表の辰守織羽よ。この子はあたしの専用機で、第三世代IS 《舞影》。よろしくね?」

といって、織羽はクルリと回ってみせた。

”元”の部分を強調する辺り、かなり根に持っているようだ。

 

「あぁ、よろしく。ところで……何で、そんな忍者みたいなISなんだ?」

「あぁ。ウチの家って一千年も続く、由緒正しき忍者の家系なのよ」

「……マジで?」

「大マジ。子供の頃から修行とかさせられてたし……」

まるで冗談のような話だが、本人は至って真面目に話している。

 

その時を思い出したのだろうか、すごく遠い目をしていた。

 

 

 

 

 

「……で、あれは一体何だったのよ?」

と、織羽が一夏に問うと、そうだったと他の面々も思い出したように尋ねた。

「そうですわ! 最初の時といい……あれは普通ではなかったでしたわ。いったい、何がどうなってますの!?」

「こんな場所で戦闘を仕掛けてくるなんて……余程強い恨み? みたいなのがあるみたいだったけど……?」

「千冬さんの決勝辞退と、一夏が奴に恨まれる事と、どんなつながりがあるんだ?」

 

 

「……悪ぃ。今日はもう、練習はここまでにするわ」

質問には答えず、一夏はISを戻そうとする。

『……一夏?』

『鈴……?』

そこに届いたのは、鈴からの個人回線(プライベートチャンネル)

『もしかして……あの事件のせい?』

『………あぁ』

『何よそれ!? そんなの、一夏達が悪いんじゃないじゃない!! それをアイツ……何様なのよ!!』

『いいんだよ。僕も一夏も……あれは、僕達がいけないんだ』

『春斗!? 何で―――』

『自分のことも守れない程に弱かったから……だから、千冬姉は決勝を辞退したんだ……!』

その時の悔しさを思い出し、一夏は拳を握りしめた。

 

「……じゃ、先に帰るわ」

一夏はバツが悪そうにして、ISを待機状態に戻して、アリーナの出口へと向かって行った。

「一夏……?」

去りゆくその背中は何時もより、少しだけ小さく見えた。

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