IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第1話  ようこそ、IS学園へ!

 

未来。

一人の天才が創り出したマルチフォームスーツ【インフィニット・ストラトス】。

宇宙開発を目的に作られたそれは、現行していたあらゆる兵器を上回る性能を秘めていた。

 

インフィニット・ストラトス――通称ISの誕生によって、宇宙開発は大きく進むかと思われた。

だが、結果としてそうはならず、ISはその姿を徐々に変えていく。

兵器として、武力としてのIS。それを恐れた国々はISに関する一つの条約をまとめる。

それが【アラスカ条約】である。

 

これによって、IS発明国であった日本はその技術を独占できなくなり、さらにIS操縦者育成機関設立などの条項にサインする事となる。

その結果、ISはスポーツの一分野として定着をする。

 

だが、ISのコアは限られていた。

世界で唯一、コアを作ることの出来る科学者、【篠ノ之 束】はコアの量産を是としなかった。

ISはコア無くして成立せず、そしてコアは数が限られている。

故に、世界にISは限られた数しか無く、各国は如何に優秀な機体を作り上げるかに執着する。

強力なISと多くのIS、それは国家戦力の比として扱われていた。

 

そしてもう一つ。ISの特徴である、女性にしか扱えないという部分が、男女の社会的力関係に影響を及ぼした。

ISは国家戦略にも影響を与える代物。

今や、女性は【女性であるというだけで男性よりも偉い】という風潮になりつつあったのだ。

 

だがそれは、長い人類史から見れば大した事ではないのかも知れない。

何故なら過去、女性蔑視の時代は多々あったからだ。

 

今、それが男性に代わった。それだけの事なのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――ということで、今も世界中でこういった男女の社会的地位における問題が多発しているんだ。……聞いてるか、一夏?』

「あぁ、ちゃ〜んと聞いてるよ」

試験会場に向かう電車。その車中で学ランに身を包んだ少年は、ウンザリとした顔で生返事を返していた。

 

彼―― 織斑 一夏は受験生である。

第一志望の高校は私立。彼の偏差値的にはかなり厳しいランクであった。

だが、この数ヶ月の追い込みによって何とか出来るランクにまで上がった。

 

それもこの、優秀過ぎる家庭教師のお陰である。

 

織斑 春斗。一夏の双子の兄に当たる、所謂天才児。

僅か10歳にして第二世代IS用メインプログラムを作成。12歳の頃、【ISの宇宙開発における意義と、その課題】をテーマにした論文を書き上げたこともあり、それに合わせて特別製ISの設計さえ行ったとされている。

 

彼の地獄のような講義を受け、ようやく受験日。

移動の車中ぐらいは眠らせて欲しいのだが、春斗は最後の復習だと、記憶力勝負の歴史に関する講義を行っていた。

 

『あぁ、貴重な睡眠時間が……』

『睡眠なら十分取ったろう? ここで寝ると、受験開始時間に脳が覚醒できないよ?』

『くそ、隠し事も出来ねぇ……』

『何を今更……と、そろそろ到着だよ?』

「うあぁ、マジかよ……」

 

無情にも、電車はホームに滑りこんでいく。

そこから数分行った所にある多目的ホール。そこが一夏の受験会場である。

寒風に首を窄めながら会場に到着すると、すでに他の受験生たちもぞろぞろと会場入りしていた。

皆、単語カードやらミュージックプレイヤーで最後の暗記に努めている。

「……よし、行くかっ!!」

頬をバチン、と叩いて気合を入れ直し、一夏はいよいよ会場に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

この十分後。

受験に向けた織斑一夏の努力は全て、水泡に帰す。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

春。

新しい日々の始まる予感にあふれた季節。

誰もがこれから始まる時間に不安と期待を抱かずにはいられない、そんな季節。

 

一夏は真新しい白の制服に身を包み、教室のドアの前に立っていた。

自動ドアであるこれの前に、後半歩進み出ればドアは開く。

『一夏、分かってると思うけど……此処から先は敵地だ。一切の希望を捨てて、このドアを潜るんだ、良いね?』

『いやいや、どんだけ恐ろしい所なんだよ、ここはッ!?』

春斗の言葉に思わず内心で突っ込む。

『分かっていないね、一夏。女子のイジメって、すごく陰湿なんだよ? 異物を排除するためなら、一夏の人間性だって否定するよ……』

『やめてくれよ……入れねぇじゃねえか!!』

『まぁ、その時は僕が本気だすから……問題ないよ』

『それが一番、問題ある気がするんだけど!?』

 

いつまでも入口前で漫才をしていても仕方ないと、一夏は覚悟を決めて足を一歩踏み出した。

 

 

 

 

ここはIS学園。

世界で唯一、IS操縦者育成を目的として設立された学園である。

 

ISの専門学校である以上、当然女子ばかりがいるこの場所に、何故彼がいるのか。

 

あの冬の日以降、世界を驚くべきニュースが駆け抜けた。

 

織斑一夏。

世界で初めて、【男子によるIS起動に成功】した人物。

当然の事ながら試験は受けられず、あれよあれよという間に、IS学園への入学が決まっていた。

それは一夏の存在がとても貴重で、国家機関でもあるIS学園でのデータ収集と、その身の保護を目的とした処置であった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

一夏は、春斗の言葉の意味を今更ながら痛感していた。

彼の席は最前列の教壇前という、居眠りには余りにも不向きな場所であった。

当然、殆どのクラスメートからの視線はその背中に集中している。

何せ世界で唯一の、男子IS操縦者なのだ。注目するなという方が無理だろう。

なるほど、ここは敵地である。

「これは……想像以上にキツイ………」

『僕も、ここまでとは思わなかったよ……まだまだ、認識が甘かったのかもね』

 

ちなみに、先程から教壇には教師が立っている。

名前を名乗ったり、改めて学園について説明したりしているが、クラスは何故か沈黙。

そのせいか、なんか今にも泣き出してしまうそうである。

 

彼女はこのクラスの副担任、山田 真耶。眼鏡を掛けた、おっとりとした印象のある、幼さを感じる顔立ちの女性。

ただ一点、その自己主張激しい胸部の発育具合を除いて、だが。

 

この学園に勤めているという事は、彼女も優秀なIS操縦者であったのだろう。

見た目からは想像できないが。

 

「じゃ、じゃあ……自己紹介なんかしてもらおうかしら………出席番号順で……」

沈黙に負け、挙動不審になりながらも、真耶は職務を果たそうとする。

 

『一夏、自己紹介だって。何か考えとかなくて良いの?』

春斗の言葉も、一夏には届かない。

この状況にさっさと白旗を上げたくて仕方ないのだ。

 

チラリと視線を左に滑らせる。窓際の最前列、長い髪をポニーテールにした女子と目が合った。

が、すぐにそれは逸らされてしまった。

 

彼女は篠ノ之 箒。IS開発者の篠ノ之 束の妹にあたり、一夏と春斗の幼馴染でもある。

『なんだよ、箒のヤツ……それが六年ぶりに再会した幼馴染に対する態度かよ……! 俺、嫌われてるのか……?』

『さぁね。でも今は、それよりも優先することがあるみたいだよ?』

『は……?』

 

 

「――り斑君……織斑一夏君っ!」

「っ!! は、はいっ!?」

いきなり名前を強く呼ばれ、驚いた一夏は上ずった声を上げてしまった。

 

クスクスと笑う声がそこら中からする。

 

「ごめんなさいね、大きな声出して……でも、”あ”から始まって、今”お”なんだよね……」

教壇に身を乗り出して話しかける真耶。一夏の視線は、その見事過ぎる胸のふくらみに向けられてしまった。

「っ……」

思わず唾を飲んでしまう。

『うん、これは凄いな……一夏、もうちょっと上から』

『っ……!? 何をさせる気だ、お前は!?』

 

「だから、自己紹介……してくれるかな? ダメ、かな……?」

そんな視線と青少年の葛藤に気付くこと無く、真耶は可愛らしく首を傾げる。

「いや、そんな……っと………」

どうしようかと思い悩みながら、一夏は取り敢えず立ち上がった。

 

まずは名前。そう、それを名乗れば良い筈だ。一夏は何度か頭でシミュレートしてから口に出した。

「織斑一夏です。よろしくお願いします………っ!?」

その瞬間、クラス中の視線が強まった。

 

 

何かを期待する目。好奇心の光がキラキラを通り越してギラギラになっている。

 

『は、春斗〜〜ッ!!』

『ゴメン、僕には無理だ』

双子の兄はさっさと見限った。

 

ならばもう一度と、箒に助けを求める。

が、すぐに目線を外された。

 

 

兄と幼馴染に見捨てられ、一夏のパニックは更に増した。

(ま、マズイ……このままだと、暗い奴だと思われる……!!)

何とかしなければ。その意識が頂点に達した時、一夏は動いた。

 

息を深く吐き、そして大きく息を吸い込む。

 

「っ……!」

その身から感じる強い意志。眼前にいる真耶や、クラスメートの女子達にも、緊張が走る。

 

挑戦か、それとも宣戦布告か。

 

「っ……」

誰かの、固唾を飲み込む音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――― 以上ですっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ガダタタターーーーーーーーーーーーーッ!!

 

 

 

 

 

 

 

クラス中から、新喜劇も真っ青な見事なズッコケが響いた。

ちなみに左端から「ゴンッ!」という小気味良い音が響いていた。音源の箒は額をさすっている。

 

「えっ、あれ!? ダメでした!?」

何で全員コケているかも分からず、一夏はキョロキョロとクラスを見回す。

 

『一夏、それは………ないわ』

『えぇっ!? 何でだよ!?』

その上、春斗からのダメだし付き。

何処の世界にその一言をここまで溜めて、気合入れまくりで言う奴がいるのか。

 

そんなダメダメな一夏には、すぐに天誅が下った。

 

ガツンッ!

 

脳天に走る衝撃。その余りにも受け慣れた痛みに、一夏は頭を抱えて悶絶した。

何故こんな記憶にこびり付いたものを受けたのかと顔を上げてみると、そこには黒いスーツに身を包んだ女性が立っていた。

 

「げっ! 千冬姉ぇ……あぐっ!?」

更にもう一発。ピンポイントで同じ場所だ。

「織斑先生だ。このバカ者め」

 

(な、なんで千冬姉がここに……?)

 

織斑 千冬。

一夏と春斗の実姉で、職業不詳(一夏曰く)。月に数回、仕事の休みに家に帰るぐらい。

元IS操縦者であること以外、一夏は姉の事を知らなかった。

『ここにいるってことは、一つしか無いでしょ?』

『それって………ま、まさか……!!』

嫌な予感が、一夏を襲った。

 

 

 

「諸君。私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を一年で育て、使い物にするのが私の仕事だ」

 

『やっぱりね……』

「な、なんだっ………」

一夏が驚きの声を上げそうになった、その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

クラス中から、黄色い悲鳴が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

飛び交うその黄色い声を拾い上げれば、「千冬様」「おねえさま」「かっこいい」「素敵」といった感じだ。

 

「やれやれ、毎年良くもバカ者が集まるものだな……私のクラスにだけ、集中させているのか?」

もはや恒例行事のようなそれに、千冬は頭を押さえた。

そんな憂いを帯びた(?)表情が、クラスの狂喜を更に加速させる。

 

拾い上げると「もっと叱って」「もっと罵って」「いっそ踏んで」「強く縛って」「そして叩いて」「でも優しくして」「そしてつけ上がらないように躾して」などだ。

明らかにおかしい声援もあるが、そんな事は気にするだけ無駄である。

「……で、お前は挨拶ひとつ、碌に出来んのか?」

ゴキリ。と、拳を鳴らして千冬が一夏を睨む。

「いや、千冬姉……それはヘブッ!?」

千冬の手が一夏の頭をつかみ、机に叩きつけていた。そのままギリギリと、机とのサンドイッチにする。

 

「”織斑先生”だ。いい加減、同じ事を言わせるな」

「ず、ずびばぜん………おりぶらぜんぜい……」

 

『あ〜あ〜、凄い面白い顔になってるし……』

 

そんな姉弟のやりとりを余所に、クラスメート達がヒソヒソと話し始めた。

「ねぇ、織斑君ってあの千冬様の弟なの……?」

「それじゃあ……男で唯一ISを使えるっていうのも……それが関係してるのかしら?」

「――― 静かにっ!!」

ざわめきが大きくなるところで、千冬が一喝する。

しん、と静まった教室。千冬は教壇に上がってそれを見回した。

「諸君には半年でISに関する基礎知識を覚えてもらう。その後、実習だが……基礎動作は半月で体に染み込ませろ、良いな。

良いならば返事をしろ。良くなくても返事をしろ!!」

千冬の凛々しい、というよりは雄々しい姿に、クラス中から「ハイッ!!」という、一斉に強い返事が返される。

 

「………」

一夏は唖然としてしまっていた。

 

 

 

 

 

さて、無事に(?)SHRを終えた一夏であったが、すぐ千冬に呼び出された。

「何ですか織斑先生。こんな所まで……」

人気のない場所まで引っ張り出され、一夏は首を傾げる。

「余り人目があるのはマズイだろう?」

そういって踵を返す千冬。先程までの厳しい顔とは少しだけ違っていた。

 

「どうだ、IS学園は? やって行けそうか……?」

「出来るなら、今すぐ転校させてください」

一夏は見事に頭を下げた。

「却下だ」

「だよね〜」

 

心底残念そうな一夏に、千冬は少しだけ笑ってしまう。

そしておもむろに、指を動かした。

まるで目に見えないスイッチでも撚るような動きに、一夏はすぐに気付いた。

それは二人の間で使っているフィンガーアクション。

 

一夏はスッと目を閉じ、意識を沈めていく。

 

深い海に落ちて行く感覚。それと同時に、何かが上がっていく感覚。

 

 

そして、一夏は目を開いた。だが、その雰囲気は大きく変わっていた。

例えるなら、先程までの一夏はその名の如く暑い太陽のような印象であったが、今は春の日向のような眼差しである。

「………おはよう、春斗」

「おはよう、千冬姉さん……と、ここでは織斑先生だっけ?」

「いや、構わない。それで気分はどうだ……?」

「そうだね……取り敢えず、今のところは大丈夫だよ」

「そうか。すまないな……こんな事になってしまって……」

「別に、姉さんが謝ることじゃないよ。全部、一夏が悪いんだし」

ばつの悪そうな表情の千冬に、春斗は優しく微笑んで返す。

 

『おいおい、俺が悪いのかよ!?』

『一夏が僕の忠告、無視するからだろう?』

『ぐっ……!』

 

「ともかく、入学おめでとう……春斗」

「ありがとう、千冬姉さん………あ、一夏が文句言ってるよ。俺には何も無いのか〜、だって」

「無いな」

『何だとちくしょう!!』

理不尽だと憤慨する一夏であったが、残念ながらその声は千冬には聞こえなかった。

 

 

 

 

 

また入れ替わった一夏が色々と納得できないといった表情で教室に戻ってくると、そこは更に色々と面倒な事になっていた。

 

入り口に、他のクラスの女子が固まっていたのである。黒山の人だかり。ただし女子オンリー。

何事かと思いつつ、取り合えずはこのままだと中に入れないので声を掛けてみる。

「あの……ちょっと退いてくれないかな?」

「えっ……あぁ、いたっ!!」

「えぇっ!?」

その声に、廊下にいた女子達の視線が一気に向けられた。

 

『どうやら、彼女達のお目当ては一夏みたいだね』

『勘弁してくれ……』

一夏は頭痛を禁じ得なかった。

 

 

どうにか教室内に入るが、内と外からの興味の視線は途切れる事がなかった。

嫌でも耳に飛び込んでくる声は、野次馬心丸出しのものばかり。

こんな状況に一人で来ていたら、気がおかしくなったかも知れない。

『本当、春斗が一緒で良かったよ』

『その為に、僕が窮屈な目に合うのは納得行かないけどね……』

春斗は呆れ気味に嘆息した。

『そんな事言うなよ。俺達、双子の兄弟じゃないか』

『一夏。分かってるとは思うけど……改めて説明するよ。僕は定期的に表に出なくちゃいけない』

『おう、良く分かってるぜ?』

『で、ここでは”僕らの事”を知るのは千冬姉さんだけだ。他の人間に知られる訳には行かない』

『あぁ、分かってる』

『では、これだけ注目を浴びてる中で……僕はどうやって、定期的に表に出れば良いんだい?』

『………そこはほら、天才、神童と謳われた春斗様の明晰な頭脳で……』

『あのねぇ……』

 

脳内でそんなやり取りをしていると、不意に目の前に誰かが来た気配がした。

顔を上げてみると、篠ノ之箒が立っていた。

「……ちょっと良いか?」

「えっ……?」

視線で、着いて来いと合図をすると、箒は先に行ってしまう。意味も分からず、一夏はその後に続くのだった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

IS学園、一年棟の屋上。

そこに二人はやって来ていた。

正確には二人ではなく三人であり、そしてその他数人であった。

『……何か、野次馬も来てるね』

『実害ないならほっとこうぜ? それよりも……』

一夏は、箒の背に目を向けた。

呼び出しておきながら、彼女は柵に寄りかかったまま何も言ってこない。

仕方なく、一夏から切り出すことにした。

「……何の用だよ?」

「うん……」

「六年ぶりに会ったんだ。何か話があるんじゃないのか?」

「っ……」

しかし箒はチラチラと一夏を見るが、すぐに目を逸らしてしまう。

眉を八の字に潜め、どことなく恥ずかしげな表情をしている。

 

『先生、ヘルプを使用します』

『誰が先生だ。……う〜ん、なにか当たり障りない話題を振るってのはどうかな?』

『当たり障りない話題、か……そうだ!』

丁度良い話題を見つけ、早速それを言うことにした。

 

「……そういえば」

「な、何だ……?」

「去年、剣道の全国大会で優勝したんだろ? おめでとう」

「なっ……!? 何でそんな事を知っているんだ!?」

一夏は去年、新聞で見たそれを思い出した。

ずっと剣道を続け、全国優勝するまでになった彼女の姿に、驚きと我が事のように嬉しかったのを覚えている。

 

「なんでって……新聞で読んだんだけど?」

「何で、新聞なんて読んでるんだ……」

とはいえ、このリアクションは予想外だった。

まるで、自分が新聞を読んでいるのが可笑しいみたいではないか。

「悪かったな。俺が新聞読んでて……春斗だったら可笑しくなかったか?」

「いや、そうではない……いや、春斗だったら普通というか……いや、そんな事を言いたいんじゃないんだ!!」

「………」

ワタワタとする箒がちょっと面白い。

 

ともあれ、会話も何とか出来るようなので、言っておかないといけない事がある。

「箒」

「こ、今度は何だ……!?」

「久しぶり。六年ぶりだったけど……すぐに箒だって分かったぞ?」

「えっ……?」

笑顔で一夏がそう告げると、箒がビックリしたように目を丸くする。

そして頬がわずかに紅潮していた。

 

「――― ほら、髪型一緒だし」

「あっ………よくも覚えているものだな」

「いや、忘れないだろ。幼馴染のことぐらいさ」

『普通は覚えていない方が多いと思うけどね……』

『そうか? 春斗だって箒の事、すぐ分かったじゃないか』

『……まぁね』

 

そんな内心でのやり取りをしていると、箒がこちらに何か言いたげな視線を向けていた。

 

何だろうかと、一夏が聞いてみようとした時、学園にチャイムが鳴り響いた。

 

『一夏、そろそろ戻らないと』

「箒、教室に戻ろうぜ。初日から、これ以上のお叱りはゴメンだからな」

「あ、あぁ……分かっている」

 

箒は何故か髪をいじりながら、複雑な表情をしていた。

 

『結局、箒の奴……何がしたかったんだ?』

『それに気付けないのは、世界広しといえども一夏ぐらいなもんだよ』

『何でだよっ!?』

鈍感ニブチンの一夏にはさっぱり訳が分からなかった。

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