真夜中の密会の翌日。
午前の特訓(遅刻寸前であったせいで、かなり睨まれた)を終えた一夏が、昼食のために寮へと戻る。
「よう、シャルロット」
「ふぇっ!? い、一夏……っ!?」
その道中にシャルロットがいたので、一夏は声を掛ける。と、彼女にいきなり驚かれた。
しかも、何故か顔を赤くした上に胸元を腕で隠して、後ろに下がられた。
あの後、部屋に帰ったシャルロットはそこで、自分が一夏(本当は春斗)の前で服を脱いだことを思い出したのだった。
その瞬間、凄まじいまでの羞恥が全身を駆け巡り、朝が来るまで悶え苦しんでいたのだ。
お陰で、彼女の目の下には酷い隈が出来ている。美少女の魅力も半減である。
「……え?」
その事を知らない一夏は、何故にと首を傾げた。
「え、えっと……何?」
「いや、昼飯まだだったら……どうかなと思ったんだけどさ……?」
「ご、ごめん。ちょっと今日は……ハハ……」
「そ、そっか……じゃあ、仕方ないな……」
「うん、仕方ないんだ……」
「あ〜……っと」
「………」
「………」
「………じゃっ!!」
「えっ……て、速っ!!」
凄まじい土煙を上げて、シャルロットは走り去ってしまった。
残された一夏は、驚きつつも呆然としてしまった。
「…… 一夏?」
「…… 一夏さん?」
「い〜ち〜か〜?」
さて、今まで特訓をしていたという事は当然、何時ものようにそこにいた面子がいる訳である。
彼女たちも当然、昼食をとる為に一夏と共に寮へと戻って来ている。
では、彼女たちは何処にいるのだろうか。
「ひっ……!?」
”背後から”突き刺さる凄まじいプレッシャーに、一夏は思わず背筋が震えた。
怖い。だが、今そこにある危機を目にしなければ、どうしようもない。
恐る恐る、首の錆びたロボットのように、一夏は振り返った。
「ヒィッ!?」
思わず情けない声が出てしまった。
それも仕方ない事だ。何故なら、そこにいたのは三人の修羅だったのだから。
「さて。今のシャルロットの様子……ただ事とは思えなかったが?」
「一夏さんを見て……何故、シャルロットさんは胸を隠されていたんでしょうねぇ?」
「さて、キリキリと白状しなさい?」
「お、俺に弁解の余地を与えろよ!?」
「何を言う? ちゃんと言い分を聞いてやると言っているではないか?」
「なら、何でお前は真剣を抜いてるんだ!? セシリアと鈴に至っては、ISと武装を部分展開させてるし!!」
「何となく今、刃の曇り具合を確認したかっただけだ。他意はない」
「私はたまたま、今、ライフルのチェックをしたくなっただけですわ?」
「あたしも今、急に双天牙月のチェックをしたくなっただけよ?」
「絶対にウソだ!!」
いくら鈍感な一夏でも、自分の命が大絶賛ピンチなのはすぐに分かる。
というより、一夏には本当にシャルロットの反応の意味が分からない。
恐らく、昨日の夜の事が関係しているのだろうが、春斗から聞いた限りでは、あんなリアクションをされる要素はない筈なのだ。
『春斗っ! お前、なにか隠してるだろ!?』
『隠してるよ?』
『あっさり認めやがった!? 何だよ、何があったんだ!?』
『それは彼女の名誉の為に言わない。大人しく……ね?』
『「ね?」じゃねぇ!! それと今、手を合わせただろ!?』
シャルロットの名誉と言われては、無理矢理に聞く訳にもいかない。
だが、このままでは三人の修羅に屠られるのは自明の理。
「………織羽っ!!」
「へっ……!?」
一夏は、三人の隣で事態を傍観していた織羽に助けを求めた。
というか、彼女を巻き込んで、事態そのものを有耶無耶にしてしまおうと考えたのだ。
「えっと、もしかして………気付いてたの?」
「……は?」
だが、それは悪手だったようだ。
「織羽、どういう事だ?」
訝しんだ表情で、箒が尋ねる。
「いやね、昨日の夜……日付が変わった頃かな………あたし、窓から外に出たのよ」
「………何で、そんな事を?」
「あたしにはある目的があった……それしか言えないわ。でも、そこは関係ないの」
「いや、凄く気になるのだが……?」
「そんな事言うなら、箒が使ってるベッドの事……この場で言っても良いのよね?」
「っ……!? ふ、ふざけるなっ!! 卑怯だぞ!?」
「じゃあ、お互い関係ないってことで……良いわね?」
「ぐぅっ……分かった……っ!」
もの凄く悔しそうにして、織羽に屈する箒。
セシリアと鈴は、後で箒に問い質そうと心に決めたが、今は織羽の話の続きである。鈴が話を促した。
「……それで、部屋を出てどうしたのよ?」
「その後外を歩いていたら……まだ明かりの点いてた部屋があったのよ……織斑くんの部屋だったわ」
「っ……!?」
「で、まだ起きてるのかな〜って、カーテンの隙間から部屋を覗いてたら……」
「ちょ、ちょっと待てぇっ!!」
「セシリア、一夏を押さえて!!」
「承知しましたわ!!」
「うわっ! 離せ、こらっ!!」
背後からガッチリと、一夏はセシリアに押さえられる。しかも部分展開されている為、腕力では振り払えない。
それなら、一夏も白式を出せば良いのだが、軽くパニックになっている頭はそこまで回らない。
目前の織羽の口を閉じる事。それだけが思考の全てだ。
「離してくれセシリア、頼む!!」
「一夏さんの頼みでもこればかりは……あぁ、でも一夏さんをこうして堂々と抱き締められるなんて……ちょっと役得ですわ」
頬を染めてスリスリと、セシリアは一夏の肩に頬擦りする。抱き締めるというより一方的な捕縛であるが、誰もツッコまない。
後でセシリアをぶん殴ろうと心に誓い、箒と鈴は続きを促す。
「それで、そこで何を見たの……ハッ?」
「ま、まさか……!?」
二人はここまで来て、シャルロットの反応を思い出した。
深夜、男一人の部屋に明かりが灯っている。
そして翌日。一人の少女が、羞恥の様子で一夏を避けるように逃げた。
ならば、この二つに繋がりがあるとしたら――。
「部屋には、織斑君とデュノアちゃんの姿が……」
「「一夏ぁああああああああああっ!!」」
「だぁあああああああああああっ!! 俺は何もしてない!!」
逃げようとするも、セシリアがしっかりとホールド――というか、徐々に一夏の体を締め上げ始めている。
「ぐぉおおおお………く、苦しい……!?」
「ホホホ………昨日の夜、何があったのか……詳しくお聞かせ願えますかしら?」
「だ、だから本当に何も………”俺”は何もしてないんだって……!!」
一夏は鈴に、必死のメッセージを送る。
(………俺は? もしかして……!?)
「セシリア、ちょっと待って!」
何かを感じ取ったのか、鈴がセシリアを止めた。
「なんですの鈴さん? 今、もの凄く重要な処ですのよ?」
「いや、とりあえずは一夏の言い分を、聞くだけは聞いてみない?」
「……何でそこまで、態度を急変しましたの?」
「べ、別に……あ、あたしは一夏を信じてるだけよ!!」
「り、鈴……!」
「「っ……!?」」
苦し紛れに言い放った一言だったが思いの外、痛烈な一撃となったようだ。
「わ、私だって信じていますわ! 一夏さんは、深夜の自室で女性に、その……いかがわしい事などなさる方ではありませんわ!」
「そうだぞ、鈴っ! 自分だけが、さも味方のような物言い……訂正しろ!!」
「じゃあ、一夏の話を聞くって事で良いわよね?」
「い、良いだろう……」
「元々、そのつもりですわ……」
箒とセシリアはそれぞれの矛を収めた。
(鈴、ナイスだ……!)
(この借りは、大きいんだからね?)
(………おう)
後が怖いが、今はとりあえず、この場を切り抜けた事を吉としようと思った。
「……で、何があったのよ?」
鈴に尋ねられ、一夏はどう言ったものかと頭を悩ませる。
「う〜ん……箒は知ってるよな、シャルロットの”探し人”の事?」
「っ……!? まさか、その事で……?」
「探し人って……誰を探してるのよ?」
「……あいつだよ」
そう言って、鈴にフィンガーアクションを見せる。
「えっ……!? 何で、アイツの事を探してるのよ!?」
「それは本人に聞いてくれ。とにかく、あいつに会わせて欲しいって言われたんだ……でも、そんなの無理だろ?」
「確かにな……」
「うん、絶対に無理だわ」
言葉の意味は違うが、箒と鈴はそれぞれ、それは無理だと頷く。
「あの、私達は全く理解出来ないのですけれど……?」
「詳しい説明をもとめまーす」
全く話を理解出来ないセシリアと織羽が説明を要求する。
「えっと、つまり……シャルロットには探している相手がいて、俺はそいつと知り合いで……で、シャルロットはそいつにどうしても会いたいって事を、部屋まで言いに来たんだ」
「それだけの為に、わざわざ深夜に男子の部屋に?」
「他の人に聞かれたくなかったんだろ?」
「それでしたら、そんな遅くでなくても良いと思うのですけど?」
一夏は、何とか重要な部分を省いて説明しようとするが、二人はどうにも釈然としない様子だ。
「それだと、誰かが尋ねてくるかも知れないだろ?」
パッと思いついた事だったが、意外と説得力がある気がした。秘密の話は寝静まった深夜というのはお決まりの事だ。
「……じゃあ、シャルロットさんがあんな素振りを見せたのは?」
「さぁ? 深夜に男の部屋に来たのが、今更ながら恥ずかしかったんじゃないか? 俺には、それぐらいしか予想できないよ」
「ふぅん……ま、あたしは別に、織斑君が誰と何してても関係ないしね……ちゃんと責任さえ取るのなら、ね?」
「責任を取らなきゃならんような事をした事はないし、する気もないって!!」
ひとまずは全員が納得したようで、一夏は安堵の溜息を吐いた。
「……一夏、一つだけ良いか?」
箒が一夏に顔を寄せ、小声で尋ねてくる。
「何だよ……?」
「その、シャルロットと春斗は……どんな関係なんだ?」
「………親しいメール友達、だってさ」
「本当に、それだけか?」
「本当だよ。春斗がそう言ってるんだから、間違いないって」
「そ、そうか……それなら良いのだ」
何故か箒は、その答えにほっとした様子を見せた。
食堂へと向かう最中、今度は鈴が一夏――春斗に尋ねる。
「……で、何があったのよ?」
「別に……大した事はないよ。ただちょっと、頼まれ物をされただけさ」
「……それだけ?」
「うん。それだけだよ」
「春斗さ……なんか、無理してない?」
「無理なんてしてないよ……」
「ウソね」
「ウソじゃないよ」
それが嘘だと、鈴にはすぐに分かった。今の春斗はかなりマズイ方向に傾きつつあったからだ。
「騙されると思う?」
「……騙してないよ、本当に」
だが、鈴がどれだけ言っても、春斗は是が非でも認めない。
それはきっと意地なのだろう。
「本当にきつかったら……少しぐらいなら、甘えても良いからね?」
「そうならないよう、これから気を付けるよ」
「そうじゃないでしょ、バカ」
コツン、と鈴の拳が春斗のこめかみを軽く叩いた。
「……ありがとう、鈴ちゃん」
「ん……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、数日後の放課後。
いよいよ近付いてきた学年別トーナメント。誰もが興奮を隠せず、戦いの時を心待ちにしている中、アリーナにはセシリアと鈴の姿があった。
「あら、私が一番乗りだと思っていましたのに……早いですわね?」
「そっちこそ、随分と早いじゃない……そんなにトーナメントで活躍したいの?」
「活躍……? いいえ、出る以上は優勝するのみですわ。それが代表候補生としての矜持というものですから」
「ふぅん、”矜持”ねぇ……まさか、あの”噂”本気にしてるなんて、無いわよね……?」
「……鈴さんこそ、どうなんですの?」
噂とは、件の一夏と箒の約束の事である。
しかしそれは、時間が経つにつれ、噂は更に変わっていった。
当初は”トーナメント優勝者は一夏と交際できる”というものだった。
が、それなら『二年と三年の優勝者はどうなるのか』、『授賞式での発表は可能か』などと、一組に聞きに来た上級生がいたりした為、流石に誰もが疑問を持ち始めた。
と、ここで誰がかこう言った。
「それって、交際じゃなくて……デートできるの間違いじゃないの?」と。
交際とデートでは天と地程の差があるが、しかし現実味としても天と地程の差がある。
なにより、デートを切っ掛けにして交際に繋げられる可能性もあり、二、三年の気合の入れようは相当なものらしい。
特に二年では『打倒! 生徒会長 更識楯無』の機運が高まっているそうだ。
ちなみに、この新たな噂を聞いたH・Sさん(15)は、世界の理不尽さについ、同居人であるO・Tさん(15)の首を締め上げてしまったそうである。
「あはは………んな訳ないじゃない。あんなの、誰が信じるってのよ」
「オホホ………全く、あんな噂に流される方は本当に哀れですわ」
「アハハハハハ」
「オホホホホホ」
「………」
「………」
笑い合う女子二人。その空気が薄ら寒いのは何故だろうか。
「よし。あんたとは一度、きっちり決着を付けておくわ」
「えぇ。私も丁度、そのように思っていたところですわ」
二人は同時にISを起動させる。
「そんじゃ、始めるわよ……!」
「何時でもどうぞ……!」
互いにメイン武装を構え、いざ勝負―――というその時。
―― 敵性IS 攻撃態勢 ――
「「―――ッ!?」」
対峙する相手”以外”からの攻撃の警告。二人はとっさに、その場を離れる。
二人の丁度真ん中に、超高速の弾丸が着弾した。
爆ぜる地面。巻き上がり、降り注ぐ欠片を気にも掛けず、二人はそれの来た方角を睨んだ。
「あれは、『シュヴァルツェア・レーゲン』!!」
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……ッ!!」
そこには艶無き黒の機体が、右肩部の砲塔から煙を吹き上がらせて佇んでいた。
「どういうつもり? いきなりぶっ放してくるなんて……いい度胸してるじゃない……!」
鈴は龍咆を準戦闘態勢に移行させて、ラウラに不快さを隠すこと無く吐き出す。
「イギリスの『ブルー・ティアーズ』と、中国の『甲龍』……フ、データで見た時の方が、まだ強そうだな?」
ラウラの挑発的な物言いに、二人の口元が更に怒気で歪む。
「何? 態々ドイツからやって来てボコられたいの……?
「あら鈴さん。そういう事は言うものではなくてよ? 人の言葉も通じない獣には……勿体無さすぎですわ」
一秒後には既に殴りかからんほどの迫力を滲ませて、二人が言葉を吐き出す。
「下らない挑発だな。量産機に二人がかりで負ける程度では……やはりその程度か。なるほど、あの下らない種馬を取り合うメスにはピッタリだな?」
だが、ラウラは冷笑を浮かべて、更にその怒りを煽る。
「あんた今、何て言った? あたしには『どうぞ好きなだけボコッて下さい』って聞こえたんだけど……?」
「この場に居ない方への侮辱……同じ欧州連合の人間として、見逃す訳には行きませんわ」
「時間が惜しいからな、二匹同時に相手をしてやろう。掛かって来い……メス共が」
くいくい、と指先を揺らすラウラ。『ブチッ』という音が、二人の耳の奥で聞こえた。
「上等ですわっ!!」
「ぶっ飛ばすッ!!」
甲龍、ブルー・ティアーズが一気に襲いかかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アリーナでの出来事の少し前。
『春斗、何とかしろ……』
『う〜ん……ダメ?』
『ダメに決まってるだろ!? 何があったかは聞かないけど、代わりにシャルロットを何とかしろ!! このままじゃ、俺は痴漢か変態の扱いを受けちまうっての!!』
後日。何度かシャルロットと話そうとするも、シャルロットは直ぐに顔を赤くして逃げてしまい、その結果として、クラスの視線が痛いものになりつつあった。
なのでどうしても、シャルロットとの和解をしなければならない。出来るなら今日中に。
日が経てば経つほど、泥沼化するのは必至である。
『俺も 《海岸》まで下がるから、なんとか解決しろよ?』
「……やれやれ」
一夏と入れ替わった春斗は、どうやって彼女を見つけようかと考える。
(そういえば、今日は部活動があったな……シャルロットの所属は……確か、料理部だったか?)
料理部ということは、調理室。早速、春斗はそこに向かうことにした。
「はぁ……」
シャルロットは、これで何度目かも分からない溜息を吐いていた。
視線の先では、他の部員が料理の練習に勤しんでいる。
今日のシャルロットは絶不調であった。余りにもミスばかり繰り返すので、部長からも見学を厳しく言い付けられてしまった。
あの夜以降、シャルロットは余りにも恥ずかしくて、一夏の顔を見ることが出来ないでいた。
何をされた訳でもない。むしろ、しようとしたのは自分の方である。一夏にしてみれば理不尽も甚だしい事だ。
「はぁ……」
何度も踏み止まり、関係を修復しようとするも、しかし体が逃げてしまう。
どうしてそこまで恥ずかしいのか。勿論、半裸を見せてしまったせいだが、しかしここまで恥ずかしいものか。
(一夏と春斗って……双子、なんだよね……)
双子。これこそがシャルロットの羞恥の原因であった。
一夏と双子という事は当然、顔つきなどが似ているという事だ。
シャルロットはフランスにいる頃から、春斗の姿を何度となく想像していた。
高名な科学者を論破してみせる理知から、やはり学者のような姿だろうか。
メールやチャットに時折、気取った台詞を入れてくる所から、もしかしたら女性の扱いに慣れているのだろうか。
背は高いのだろうか。きっと東洋人特有の黒髪で、知性美に溢れる人だろう。
そんな風に想像をふくらませていたシャルロットの前に、いきなり答えに近い存在が現れた。
織斑一夏。春斗の双子の弟。
その事実を知って以来、一夏の影にどうしても春斗が見えてしまう。
あの時、自分は春斗に裸を見せて迫ったのでは。などという滑稽な考えさえ過ぎってしまう。
だが、これが正解という事を、シャルロットは知る由もない。
「はぁ……」
どうしても、溜息が零れてしまう。
「余り溜息ばかり吐いてると、幸せが逃げるぞ?」
「そんなの迷信でしょ……?」
「迷信かも知れないが、でも溜息を吐いている人間に、幸せな奴は居ないと思うぞ?」
「なるほど……それはそうかも………うん?」
今、自分は誰と話しているのだろうか。部員は全員調理台にいるし、何より声が女子ではない。
「――ッ!? い、一夏……!?」
「こんにちは、シャルロット」
軽く手を上げる一夏(春斗)に、シャルロットの羞恥ゲージが一気にマックスまで上がる。
「あ、あぁ……うわぁあああああああああああああああっ!!」
「ちょっと待て!? 逃げるな!!」
結果、シャルロットは逃げ出し、春斗はそれをすぐに追いかけた。
廊下を駆け抜け、階段を飛び抜く。
「何で追いかけて来るのぉおおおおっ!!」
「そっちが逃げるからだぁああああっ!!」
「追いかけてこないでよぁおおおおおっ!!」
「だったら逃げるなぁああああああああっ!!」
教室棟を飛び出し、二人は全力疾走する。
「くそっ! さすがは代表候補生、なんて足の速さだ……!!」
春斗は正直、走ることは苦手である。一夏はそうでもないが、春斗は走り方そのものが雑なのだ。
無駄に動く上半身。腕の振りと足の動きのバランスが悪く、シャルロットとの差がグングンと開いていく。
(仕方ない……最後の手段だ)
周りに誰も居ないことを確認して、春斗はシャルロットに向かって叫んだ。
「逃げるのは! 俺に裸を見られたからだろう!?」
「―――っ!?」
「大丈夫! あれは事故――」
「――うわぁああああああああああああっ!!!!!!」
「だからわぁっ!?」
一転して切り替えしてきたシャルロットが、春斗目掛けて跳びかかり、そのまま植え込みの向こうへと押し倒した。
「な、なんて事を大声で言うのさ!?」
「そりゃ、シャルロットが逃げるから……走りながら言うしか無いだろう?」
そう言いつつ、シャルロットの腕を春斗はしっかりと掴む。
「っ!? だ、だからって………誰かに聞かれてたらどうする気だったの!?」
「一応、周りに人が居ないのは確認してたし……ま、男子一人に女子多数の状況なら、起こりうる事じゃないかな?」
「起きちゃダメでしょ!?」
「でも、昨日は起きたし……」
「……… 一夏、本当に意地悪なんだね」
シャルロットは可愛らしく頬を膨らませる。それを見て、春斗は肩を竦めた。
「時と場合によるよ。それに、今の状態の方が……ずっと大変な訳だし」
「え……?」
と、ここでシャルロットは自分の体勢に気付いた。
植え込みの向こうの芝生に春斗は押し倒され、そして自分は春斗の上に馬乗りになっている。
シャルロットの制服はスカート丈が短く、更に言えばシャルロットはスニーカーソックスを履いている為、足が顕になっている。
つまりズボン越しに、その感触と体温が良く伝わってくるのだ。
「あ……ぁあ………!?」
見る間に顔を真っ赤にするシャルロット。すぐに退こうとするが、春斗が腕を押さえているせいで、動けない。
「――よっと」
更に春斗が体を起こしたので、その顔が鼻先まで近付く。
「うわっ……!?」
「とりあえず、逃げないでくれるか? また追いかけるのは面倒くさいからさ」
「う、うん……」
コクコクと頷いて、シャルロットがズルズルと春斗から降りる。
互いに何故か正座して、膝を突き合わす。
「あのな……昨日の”アレ”は、本当に気にしないでくれ。そして忘れてくれ」
「えっと、そういうのは僕の台詞じゃないかな……?」
「いや。真面目な話、そうしてくれないと本気で困る。主に今後の学生生活的に」
「そ、そうなの……?」
「……割と切実に」
流石に三年の学園生活を、変態の称号を受けて過ごすのは春斗もキツい。
ここは何としても納得してもらわなければならない。
そんな想いが通じたのか、シャルロットは小さく頷いた。
「……分かったよ、忘れる。……でも、一夏は平気なの?」
「何が?」
「あの……その……”ああいうの”見ちゃって……何とも思わないの?」
シャルロットがモジモジとしながら尋ねてくる。
「う〜ん、ビックリはしたけど……下着なんて見慣れてるからなぁ〜」
「え゛っ!?」
思わぬ発言に、シャルロットがびっくりする。
「千冬姉さ……織斑先生の下着とか、昔から洗濯してたからさ。いちいち気にしてられないよ」
「そ、そっか……アハハ……ふぅ」
シャルロットは乾いた笑いを響かせた。
あの同性ですら惹きつける魅力を持つ千冬の下着となれば、相当なものだろう。
なるほど。それに見慣れているなら、同年代の少女の下着姿などは驚きこそすれ、そこまでということか。
「なんだか、僕ばっかりが空回ってるなぁ」
そう思ったら、恥ずかしがっている自分がバカのように思えてしまい、シャルロットはがっくりと肩を落とした。
「………?」
何故、落ち込んだ様な素振りを見せるのか分からず、春斗は首をかしげる。
が、当初の目的はしっかりと果たしたので、一夏を呼ぶことにする。
『おーい、一夏――』
「――ねぇ、それ本当なの?」
「本当よ。第三アリーナで、一年の専用器持ちが模擬戦やってるんだって」
「でもなんか、凄いことになってるらしいわよ?」
「っ……!?」
道の方から聞こえてきた話し声に、春斗の言葉が止まる。
そして嫌な予感がした。
―――ドォオオオオオオンッ!!
「「―――ッ!!」」
第三アリーナの方角から、爆音。
その瞬間、春斗は植え込みを飛び越えていた。
『一夏ッ!!』
『どうした、そんなに慌てて? シャルロットがどうかしたのか?』
『そっちは何とかなった! でも、今はそれどころじゃない!!』
『何だ!?』
『第三アリーナで一年の専用器持ちが戦っているらしい! もしかしたら、ラウラ・ボーデヴィッヒが動いたのかも知れないっ……!』
『っ!? 代われ、春斗!!』
『分かったッ!!』
春斗が落ちると同時に、一夏が表に現れる。
力強く地を蹴って、一夏はアリーナに向かって走った。
「待って、一夏! 僕も行く!!」
「シャルロット!? ……分かった!」
追いついてきたシャルロットと共に、一夏はアリーナへと急いだ。
近付くにつれ、ハッキリとした戦闘音と悲鳴が聞こえてくる。
ゲートを抜け観客席に上がると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「そんな……あの二人が……!?」
どちらの実力も知っているからこそ、一夏は我が目を疑った。
ブルー・ティアーズと甲龍の装甲は一部失われ、機体に損傷の無い場所は一つとしてない。
対してシュヴァルツェア・レーゲンは大きな損傷は無くで、戦局を完全に支配していた。
セシリアと鈴、そしてラウラによる二対一の戦いは、ラウラの圧倒的優位にて進んでいた。
「でぇえええいっ!!」
鈴が衝撃砲を撃ち放つ。が、ラウラが右手をかざすと、まるで何事もなかったかの様になる。
「無駄だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの 《停止結界》の前ではな――!」
「うっ……! まさか、ここまで相性が悪い相手だなんて……!!」
ラウラがすぐさま、両肩のユニットからワイヤーブレードを射出。
鈴もすぐさま回避と迎撃に移るも、複雑な軌道を描くそれを捉えきれず、右足を捕らえられた。
「しまった!」
「くっ! そう何度もっ……!!」
「フッ。理論最大値ならばまだしも、その程度の仕上がりで第三世代兵器とは、笑わせてくれる」
援護のためにライフル、そしてブルー・ティアーズを展開させるセシリア。だが、ビットはラウラの両手の発する何かによって、その動きを完全に止められてしまった。
「動きが止まりましたわね!!」
「貴様もな」
セシリアがライフルの引き金を引く。と同時にラウラの右肩の大砲――レールキャノンが咆哮した。
激突する二つが爆発を巻き起こし、セシリアはすぐに引き金を絞る。
だがそれよりも早く、鈴に巻きつけたワイヤーブレードを、振り子の要領で振るうそれは、さながら人の鎖分銅。
爆炎に隠され、更に射撃に意識を向けていたせいで、セシリアの反応が遅れた。
「「―――ッ!!」」
ぶつかる二人。バランスを崩した所にラウラがすぐに接近戦を仕掛ける。一瞬でトップスピードに乗り、瞬く間に距離を詰める。
「あれは
『彼女は姉さんの教え子……使えても不思議じゃない!』
だが、接近戦は鈴の距離。合わせた双天牙月を振るうかと思いきや、鈴はそれを二つへと分けた。
何故だと思う一夏だったが、その答えはすぐに分かった。ラウラの両腕に装備された、プラズマ手刀が迫っていたのだ。
「クソッ……!」
苦々しさを吐き出しながら、鈴はそれを後退しつつ捌く。だが、そこに更に六つのワイヤーブレードまでもを振るわれ、追い込まれていく。
「いい加減に……!!」
再び、龍咆が起動すると、グニャリと空間が歪曲する。
『駄目だ、鈴ちゃん!!』
「この距離で、ウエイトのある空間圧兵器を使うとはな」
ラウラのレールキャノンが火を吹き、龍咆を爆砕した。
龍咆には、バレル展開と弾丸精製の為のチャージタイムが必要だ。そこを、完全に読み切られた。
爆砕した龍咆によってバランスを崩した所を、ラウラのビーム手刀が襲いかかった。
「させませんわ!!」
セシリアがライフルを盾にしてそれを受ける。同時に腰部ユニットの砲口を向け、ビットミサイルを発射。
「――――」
オレンジ色の華が、アリーナに咲いた。
「ほぼゼロレンジ……無茶苦茶するわね」
もうもうと上がる爆炎に、鈴は呆れてしまう。
「苦情なら後で受けますわ。けれど、これならダメージは……」
「――これで終わりか?」
「「………ッ!?」」
爆煙が晴れその向こうに佇むのは―――ほぼノーダメージのシュヴァルツェア・レーゲン。
「そんな……バカな!?」
「ならば今度は――私の番だ」
ラウラは動揺の隙を突き、もう一度瞬時加速をする。その勢いのまま鈴を地表へと蹴り飛ばし、セシリアにはお返しとばかりに、ゼロ距離からの砲撃を撃ち込む。
「ぐあ――っ!」
「がはっ!!」
揃って地面へと落とされた二人目掛けて、ワイヤーブレードを射出。
それを使って二人を拘束すると、ラウラは態々、拳を叩き込んだ。
「ぐぁっ……!!」
「あぅ……っ!!」
殴り、蹴り、地面に叩きつけ、更に蹴り飛ばす。
IS装甲が砕け、すでに機体維持警告域(レッドゾーン)を超え、操縦者生命危険領域(デッドゾーン)へとなりつつあった。
「フフッ……ハハハ………」
今まで一点して表情を崩さなかったラウラが――――嘲笑(わら)った。
『あいつ……!!』
それを見た瞬間、一夏の中で何かが切れた。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
咆哮と共に、白式と雪片を同時展開。零落白夜を発動させる。
砕かれるアリーナの遮断シールド。開かれた穴から一夏はラウラ目掛けて、瞬時加速(イグニッションブースト)を発動させた。
「その手を……離せぇえええええええええええええええっ!」
一夏は雪片を全力で振るった。が、それはまるで空中に縫いつけられたように動かない。
「ふん。感情的で、直情的……絵に描いたような愚図だな」
「グゥゥゥウウウッ!!」
それでも何とか動かそうとするが、ビクともしない。
「やはり、この私とシュヴァルツェア・レーゲンの敵ではないな……消え失せろ」
レールキャノンの砲口が、一夏の目前に向けられる。
『一夏、離れてっ!!』
あわやという所で、シャルロットからの
同時に、二丁のアサルトライフルの斉射。
「チッ……雑魚が」
ラウラは舌打ちし、一夏の拘束を解いて回避行動に移った。
『一夏、二人を!!』
『分かった!!』
シャルロットがラウラに更に攻撃を仕掛け、その隙に一夏は二人を抱き上げ、一気に瞬時加速を用いて離脱した。
そのまま近くのピットまで運んで下ろす。
「大丈夫か、二人とも!?」
「う、一夏……?」
「ぶ、無様なところを……お見せ……しましたわ」
「いいから喋るな! 此処でじっとしていろ。すぐに戻ってくるからな」
一夏はアリーナを見やった。
シャルロットは高速切替(ラピッドスイッチ)という技能を用いて、弾切れとなった銃をタイムラグ無しで入れ替えていく。
「ご自慢の第三世代はどうした? そんな第二世代(アンティーク)で私と本気で張り合う気か?」
「未だに量産化の目処が立たない第三世代(ルーキー)よりはずっと動けるよ。それに、あの機体は君には勿体無さすぎるからね!!」
「ほぉ……ならば、その身に世代差というものを教えてやろう」
「くっ……!」
ラウラの使う不可視の壁は、シャルロットの撃つ弾丸の尽くを縫い止めていた。
まずい。と、一夏がシャルロットの助太刀に行こうとした時、一夏の後ろから、白い影が飛び出していた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒィイイイイイイイッ!!」
「ッ……!」
上空から、獲物を狙う鷹のように襲い来る影。その手にした刃をラウラ目掛けて振り下ろした。
ラウラもすぐにプラズマ手刀を展開。それを真っ向から受け止める。
シャルロットはその間に、一度距離を取る。
「また貴様か……日本の第三世代IS《舞影》」
「知ってくれて何よりね。でもね……アンタはここで潰すわッ!」
織羽は一度そこから離れ、ブレードを
「この間のようにはいかんぞ。そのISの特性……ハイパーセンサージャマーは既に対策済みだ」
「あら、さすがはドイツ軍。じゃあ、こんなのはどうかしら!?」
織羽は黒い球をラウラの周囲にばらまく。それは地面に触れた瞬間に爆発し、ラウラの視界を覆い隠した。
「下らんマネを……そこだ」
センサーが示した方向で動く影に向かって、ワイヤーブレードを発射。
だが、それはスルリと貫通してしまった。
「何……!?」
わずかに動揺するラウラ。その背後に反応。
「―――っ」
そこに舞影を見、振り返りざまにプラズマ手刀を振るう。が、舞影に触れた瞬間、それはスッと消えてしまった。
「シッ――!!」
直後、正面から刃が襲いかかる。とっさに身を捻り、切っ先を躱した。
が、それはシールドを易々と突き破り、装甲を掠めていた。
「おっと、外しちゃったか。まだまだ、あたしも修行不足だね。連兄に怒られちゃうよ」
そういう織羽の姿がいくつも出現していく。それと共に、センサーはその全てを実体と判断した。
「ジャマー付きの
「奸計詭道は忍の常套手段……お褒めに預かり恐悦至極」
「ふん。やはり下らんな」
ラウラはワイヤーブレードを全機展開。そのまま、その場で大きく回転する。
「これならば、何処に隠れようと同じ事だ」
「ぐっ……!!」
ギィンッ!! という音と共に、織羽が爆煙の中から弾かれる。
それを追い、ラウラが飛び出した。
「貴様もここで、潰れるが良い」
「お生憎様。潰れるのはそっちよ!!」
ワイヤーブレードが発射され、織羽は納刀したブレードを鞘に納めたまま、それを弾く。
そして、互いに瞬時加速を用いて突進。ラウラはプラズマ手刀を、織羽は抜刀術の構えから、必殺を狙った。
―― ズドォオオオオオオンッ!!
「「―――ッ!?」」
二人がぶつからんとした瞬間、突如として二人の間が爆発した。
見れば、粉塵の中に突き立つのは――― 打鉄のブレード。
「これは……打鉄の太刀!? 一体何処から……?」
辺りを見回すと、果たしてそこに答えはあった。
客席の一角に打鉄を纏った箒と、まるで何かを投げたような格好の千冬がいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
千冬は何十枚という書類を確認し、不備はないと確認した。
「では、これが”真打鉄”だ。期限はトーナメント終了後まで。レポートも提出するように」
「はい。預からせていただきます」
あれから数日。今日、ついに真打鉄の受領をした箒。
月末までの仮初。そして量産機。とはいえ、自身に与えられた専用機。
そう思うだけで、どうしても心が高揚してしまう。
「っ……」
手の中の鈍色の金属板(プレート)を、ギュッと握りしめる。
春斗によって用意されたそれは、箒に何者にも負けない勇気をくれる気がした。
「織斑先生、大変です!!」
職員室に飛び込んできた真耶が、千冬に叫んだ。
「どうした、山田君?」
「だ、第三アリーナで……うちのクラスのボーデヴィッヒさんとオルコットさんと……二組の凰さんが!!」
「っ……!?」
その名を聞いた瞬間、箒は織羽の言葉を思い出した。
千冬は立ち上がり、箒を見やった。
「すぐに行く。篠ノ之、早速だが真打鉄(それ)を使うぞ?」
「はいっ!」
外へと出ると同時に、箒は待機形態の真打鉄を掲げる。
「――来い、”真打鉄”!!」
箒の呼びかけに応え、真打鉄がその姿を現す。
見た目こそ打鉄と同じだが、その性能はプログラム真打の”擬似フィッティングシステム”によって、専用機並みの動きを可能とする。
真打鉄をまとうと、千冬が非固定部位(アンロックユニット)のシールドと箒の肩に手を掛け、背部ユニットに飛び乗っていた。
「飛べ、篠ノ之」
「ハイッ!!」
千冬を乗せて、真打鉄を箒は発進させる。
地を舐めるように飛ぶ機体は彼女の自在に動き、向かうのは第三アリーナ。
アリーナ内に飛び込んだ箒の眼前では、どうしてかラウラと織羽が戦っていた。
「織羽……!?」
「辰守か……よりにもよって、アイツとまで……」
千冬が「面倒な事になった」とぼやくが、箒はそれどころではない。
何故なら、箒はすぐに織羽の助太刀に入らんと、既に太刀を抜いていたのだ。
「丁度いい。篠ノ之、それを貸せ」
「え……?」
答えを聞くよりも早く、千冬はその手から太刀を奪っていた。
IS用近接ブレードは170センチはあろうかという代物。IS無しでは持つことも儘ならない筈のそれを、千冬はひょいと返した。
逆手に柄を握り、何をするのかと思っていると、千冬はググっと持つ手を後ろに引いた。
「どうりゃあああああああああああああああああッ!!」
「―――!?」
雄叫びを上げて、千冬は
ごう! と、大気を切り裂いたブレードはさながら砲弾の如く飛翔し、二人の間に見事に着弾した。
ド派手な音と土煙を上げて突き立ったブレードに驚いた二人が足を止め、周囲を見回してからこちらに気付いた。
「織斑先生……!?」
「織斑教官……?」
千冬は織羽とラウラ、そしてシャルロットと一夏を見やってから、厳しい表情をした。
「模擬戦をするのは構わん。だが、アリーナのシールドまで破壊する事態となれば黙認はできん。この決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」
有無を言わせない迫力で、千冬が宣告する。
「教官がそう仰るなら」
「織斑、デュノア、辰守……お前達もいいな?」
「あ、あぁ……」
突然過ぎる事に、一夏は呆けた返事を返してしまう。
「教師には『はい』と、返事をしろ」
「はっ、はい!」
ギロッと睨まれて、一夏は慌てて返事をした。
「僕もそれで構いません」
「あたしも異論はありません」
一夏に追従する形で、シャルロットと織羽も返事をする。
「では、学年別トーナメントまでの間、一切の私闘を禁止する。解散ッ!!」
パンッ! と、強く手を打つ千冬。
それは、この場にいる全員を撃つ銃声のようであった。