IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第16話  狂奏のシルバーブロンド

 

真夜中の密会の翌日。

午前の特訓(遅刻寸前であったせいで、かなり睨まれた)を終えた一夏が、昼食のために寮へと戻る。

 

「よう、シャルロット」

「ふぇっ!? い、一夏……っ!?」

その道中にシャルロットがいたので、一夏は声を掛ける。と、彼女にいきなり驚かれた。

しかも、何故か顔を赤くした上に胸元を腕で隠して、後ろに下がられた。

 

あの後、部屋に帰ったシャルロットはそこで、自分が一夏(本当は春斗)の前で服を脱いだことを思い出したのだった。

その瞬間、凄まじいまでの羞恥が全身を駆け巡り、朝が来るまで悶え苦しんでいたのだ。

お陰で、彼女の目の下には酷い隈が出来ている。美少女の魅力も半減である。

「……え?」

その事を知らない一夏は、何故にと首を傾げた。

「え、えっと……何?」

「いや、昼飯まだだったら……どうかなと思ったんだけどさ……?」

「ご、ごめん。ちょっと今日は……ハハ……」

「そ、そっか……じゃあ、仕方ないな……」

「うん、仕方ないんだ……」

「あ〜……っと」

「………」

「………」

「………じゃっ!!」

「えっ……て、速っ!!」

凄まじい土煙を上げて、シャルロットは走り去ってしまった。

残された一夏は、驚きつつも呆然としてしまった。

 

 

「…… 一夏?」

「…… 一夏さん?」

「い〜ち〜か〜?」

さて、今まで特訓をしていたという事は当然、何時ものようにそこにいた面子がいる訳である。

彼女たちも当然、昼食をとる為に一夏と共に寮へと戻って来ている。

では、彼女たちは何処にいるのだろうか。

「ひっ……!?」

”背後から”突き刺さる凄まじいプレッシャーに、一夏は思わず背筋が震えた。

 

怖い。だが、今そこにある危機を目にしなければ、どうしようもない。

恐る恐る、首の錆びたロボットのように、一夏は振り返った。

 

「ヒィッ!?」

思わず情けない声が出てしまった。

それも仕方ない事だ。何故なら、そこにいたのは三人の修羅だったのだから。

「さて。今のシャルロットの様子……ただ事とは思えなかったが?」

「一夏さんを見て……何故、シャルロットさんは胸を隠されていたんでしょうねぇ?」

「さて、キリキリと白状しなさい?」

「お、俺に弁解の余地を与えろよ!?」

「何を言う? ちゃんと言い分を聞いてやると言っているではないか?」

「なら、何でお前は真剣を抜いてるんだ!? セシリアと鈴に至っては、ISと武装を部分展開させてるし!!」

「何となく今、刃の曇り具合を確認したかっただけだ。他意はない」

「私はたまたま、今、ライフルのチェックをしたくなっただけですわ?」

「あたしも今、急に双天牙月のチェックをしたくなっただけよ?」

「絶対にウソだ!!」

いくら鈍感な一夏でも、自分の命が大絶賛ピンチなのはすぐに分かる。

 

というより、一夏には本当にシャルロットの反応の意味が分からない。

恐らく、昨日の夜の事が関係しているのだろうが、春斗から聞いた限りでは、あんなリアクションをされる要素はない筈なのだ。

 

『春斗っ! お前、なにか隠してるだろ!?』

『隠してるよ?』

『あっさり認めやがった!? 何だよ、何があったんだ!?』

『それは彼女の名誉の為に言わない。大人しく……ね?』

『「ね?」じゃねぇ!! それと今、手を合わせただろ!?』

 

シャルロットの名誉と言われては、無理矢理に聞く訳にもいかない。

だが、このままでは三人の修羅に屠られるのは自明の理。

 

「………織羽っ!!」

「へっ……!?」

一夏は、三人の隣で事態を傍観していた織羽に助けを求めた。

というか、彼女を巻き込んで、事態そのものを有耶無耶にしてしまおうと考えたのだ。

 

「えっと、もしかして………気付いてたの?」

「……は?」

だが、それは悪手だったようだ。

 

「織羽、どういう事だ?」

訝しんだ表情で、箒が尋ねる。

「いやね、昨日の夜……日付が変わった頃かな………あたし、窓から外に出たのよ」

「………何で、そんな事を?」

「あたしにはある目的があった……それしか言えないわ。でも、そこは関係ないの」

「いや、凄く気になるのだが……?」

「そんな事言うなら、箒が使ってるベッドの事……この場で言っても良いのよね?」

「っ……!? ふ、ふざけるなっ!! 卑怯だぞ!?」

「じゃあ、お互い関係ないってことで……良いわね?」

「ぐぅっ……分かった……っ!」

もの凄く悔しそうにして、織羽に屈する箒。

セシリアと鈴は、後で箒に問い質そうと心に決めたが、今は織羽の話の続きである。鈴が話を促した。

「……それで、部屋を出てどうしたのよ?」

「その後外を歩いていたら……まだ明かりの点いてた部屋があったのよ……織斑くんの部屋だったわ」

「っ……!?」

「で、まだ起きてるのかな〜って、カーテンの隙間から部屋を覗いてたら……」

「ちょ、ちょっと待てぇっ!!」

「セシリア、一夏を押さえて!!」

「承知しましたわ!!」

「うわっ! 離せ、こらっ!!」

背後からガッチリと、一夏はセシリアに押さえられる。しかも部分展開されている為、腕力では振り払えない。

 

それなら、一夏も白式を出せば良いのだが、軽くパニックになっている頭はそこまで回らない。

目前の織羽の口を閉じる事。それだけが思考の全てだ。

 

「離してくれセシリア、頼む!!」

「一夏さんの頼みでもこればかりは……あぁ、でも一夏さんをこうして堂々と抱き締められるなんて……ちょっと役得ですわ」

頬を染めてスリスリと、セシリアは一夏の肩に頬擦りする。抱き締めるというより一方的な捕縛であるが、誰もツッコまない。

 

後でセシリアをぶん殴ろうと心に誓い、箒と鈴は続きを促す。

「それで、そこで何を見たの……ハッ?」

「ま、まさか……!?」

二人はここまで来て、シャルロットの反応を思い出した。

 

深夜、男一人の部屋に明かりが灯っている。

そして翌日。一人の少女が、羞恥の様子で一夏を避けるように逃げた。

 

ならば、この二つに繋がりがあるとしたら――。

「部屋には、織斑君とデュノアちゃんの姿が……」

 

 

 

「「一夏ぁああああああああああっ!!」」

 

 

 

「だぁあああああああああああっ!! 俺は何もしてない!!」

逃げようとするも、セシリアがしっかりとホールド――というか、徐々に一夏の体を締め上げ始めている。

「ぐぉおおおお………く、苦しい……!?」

「ホホホ………昨日の夜、何があったのか……詳しくお聞かせ願えますかしら?」

「だ、だから本当に何も………”俺”は何もしてないんだって……!!」

一夏は鈴に、必死のメッセージを送る。

 

(………俺は? もしかして……!?)

 

「セシリア、ちょっと待って!」

何かを感じ取ったのか、鈴がセシリアを止めた。

「なんですの鈴さん? 今、もの凄く重要な処ですのよ?」

「いや、とりあえずは一夏の言い分を、聞くだけは聞いてみない?」

「……何でそこまで、態度を急変しましたの?」

「べ、別に……あ、あたしは一夏を信じてるだけよ!!」

「り、鈴……!」

「「っ……!?」」

苦し紛れに言い放った一言だったが思いの外、痛烈な一撃となったようだ。

 

「わ、私だって信じていますわ! 一夏さんは、深夜の自室で女性に、その……いかがわしい事などなさる方ではありませんわ!」

「そうだぞ、鈴っ! 自分だけが、さも味方のような物言い……訂正しろ!!」

「じゃあ、一夏の話を聞くって事で良いわよね?」

「い、良いだろう……」

「元々、そのつもりですわ……」

箒とセシリアはそれぞれの矛を収めた。

 

(鈴、ナイスだ……!)

(この借りは、大きいんだからね?)

(………おう)

 

後が怖いが、今はとりあえず、この場を切り抜けた事を吉としようと思った。

「……で、何があったのよ?」

鈴に尋ねられ、一夏はどう言ったものかと頭を悩ませる。

「う〜ん……箒は知ってるよな、シャルロットの”探し人”の事?」

「っ……!? まさか、その事で……?」

「探し人って……誰を探してるのよ?」

「……あいつだよ」

そう言って、鈴にフィンガーアクションを見せる。

「えっ……!? 何で、アイツの事を探してるのよ!?」

「それは本人に聞いてくれ。とにかく、あいつに会わせて欲しいって言われたんだ……でも、そんなの無理だろ?」

「確かにな……」

「うん、絶対に無理だわ」

言葉の意味は違うが、箒と鈴はそれぞれ、それは無理だと頷く。

 

「あの、私達は全く理解出来ないのですけれど……?」

「詳しい説明をもとめまーす」

全く話を理解出来ないセシリアと織羽が説明を要求する。

 

「えっと、つまり……シャルロットには探している相手がいて、俺はそいつと知り合いで……で、シャルロットはそいつにどうしても会いたいって事を、部屋まで言いに来たんだ」

「それだけの為に、わざわざ深夜に男子の部屋に?」

「他の人に聞かれたくなかったんだろ?」

「それでしたら、そんな遅くでなくても良いと思うのですけど?」

一夏は、何とか重要な部分を省いて説明しようとするが、二人はどうにも釈然としない様子だ。

「それだと、誰かが尋ねてくるかも知れないだろ?」

パッと思いついた事だったが、意外と説得力がある気がした。秘密の話は寝静まった深夜というのはお決まりの事だ。

「……じゃあ、シャルロットさんがあんな素振りを見せたのは?」

「さぁ? 深夜に男の部屋に来たのが、今更ながら恥ずかしかったんじゃないか? 俺には、それぐらいしか予想できないよ」

「ふぅん……ま、あたしは別に、織斑君が誰と何してても関係ないしね……ちゃんと責任さえ取るのなら、ね?」

「責任を取らなきゃならんような事をした事はないし、する気もないって!!」

 

ひとまずは全員が納得したようで、一夏は安堵の溜息を吐いた。

 

「……一夏、一つだけ良いか?」

箒が一夏に顔を寄せ、小声で尋ねてくる。

「何だよ……?」

「その、シャルロットと春斗は……どんな関係なんだ?」

「………親しいメール友達、だってさ」

「本当に、それだけか?」

「本当だよ。春斗がそう言ってるんだから、間違いないって」

「そ、そうか……それなら良いのだ」

何故か箒は、その答えにほっとした様子を見せた。

 

 

 

 

 

食堂へと向かう最中、今度は鈴が一夏――春斗に尋ねる。

「……で、何があったのよ?」

「別に……大した事はないよ。ただちょっと、頼まれ物をされただけさ」

「……それだけ?」

「うん。それだけだよ」

「春斗さ……なんか、無理してない?」

「無理なんてしてないよ……」

「ウソね」

「ウソじゃないよ」

 

それが嘘だと、鈴にはすぐに分かった。今の春斗はかなりマズイ方向に傾きつつあったからだ。

 

「騙されると思う?」

「……騙してないよ、本当に」

 

だが、鈴がどれだけ言っても、春斗は是が非でも認めない。

それはきっと意地なのだろう。

 

「本当にきつかったら……少しぐらいなら、甘えても良いからね?」

「そうならないよう、これから気を付けるよ」

「そうじゃないでしょ、バカ」

コツン、と鈴の拳が春斗のこめかみを軽く叩いた。

「……ありがとう、鈴ちゃん」

「ん……」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

さて、数日後の放課後。

いよいよ近付いてきた学年別トーナメント。誰もが興奮を隠せず、戦いの時を心待ちにしている中、アリーナにはセシリアと鈴の姿があった。

「あら、私が一番乗りだと思っていましたのに……早いですわね?」

「そっちこそ、随分と早いじゃない……そんなにトーナメントで活躍したいの?」

「活躍……? いいえ、出る以上は優勝するのみですわ。それが代表候補生としての矜持というものですから」

「ふぅん、”矜持”ねぇ……まさか、あの”噂”本気にしてるなんて、無いわよね……?」

「……鈴さんこそ、どうなんですの?」

 

噂とは、件の一夏と箒の約束の事である。

しかしそれは、時間が経つにつれ、噂は更に変わっていった。

 

当初は”トーナメント優勝者は一夏と交際できる”というものだった。

が、それなら『二年と三年の優勝者はどうなるのか』、『授賞式での発表は可能か』などと、一組に聞きに来た上級生がいたりした為、流石に誰もが疑問を持ち始めた。

と、ここで誰がかこう言った。

 

「それって、交際じゃなくて……デートできるの間違いじゃないの?」と。

 

交際とデートでは天と地程の差があるが、しかし現実味としても天と地程の差がある。

なにより、デートを切っ掛けにして交際に繋げられる可能性もあり、二、三年の気合の入れようは相当なものらしい。

 

特に二年では『打倒! 生徒会長 更識楯無』の機運が高まっているそうだ。

 

ちなみに、この新たな噂を聞いたH・Sさん(15)は、世界の理不尽さについ、同居人であるO・Tさん(15)の首を締め上げてしまったそうである。

 

 

 

「あはは………んな訳ないじゃない。あんなの、誰が信じるってのよ」

「オホホ………全く、あんな噂に流される方は本当に哀れですわ」

「アハハハハハ」

「オホホホホホ」

「………」

「………」

笑い合う女子二人。その空気が薄ら寒いのは何故だろうか。

 

「よし。あんたとは一度、きっちり決着を付けておくわ」

「えぇ。私も丁度、そのように思っていたところですわ」

 

二人は同時にISを起動させる。

「そんじゃ、始めるわよ……!」

「何時でもどうぞ……!」

互いにメイン武装を構え、いざ勝負―――というその時。

 

―― 敵性IS 攻撃態勢 ――

 

「「―――ッ!?」」

対峙する相手”以外”からの攻撃の警告。二人はとっさに、その場を離れる。

二人の丁度真ん中に、超高速の弾丸が着弾した。

爆ぜる地面。巻き上がり、降り注ぐ欠片を気にも掛けず、二人はそれの来た方角を睨んだ。

 

「あれは、『シュヴァルツェア・レーゲン』!!」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……ッ!!」

 

そこには艶無き黒の機体が、右肩部の砲塔から煙を吹き上がらせて佇んでいた。

 

「どういうつもり? いきなりぶっ放してくるなんて……いい度胸してるじゃない……!」

鈴は龍咆を準戦闘態勢に移行させて、ラウラに不快さを隠すこと無く吐き出す。

「イギリスの『ブルー・ティアーズ』と、中国の『甲龍』……フ、データで見た時の方が、まだ強そうだな?」

ラウラの挑発的な物言いに、二人の口元が更に怒気で歪む。

「何? 態々ドイツからやって来てボコられたいの……? じゃが芋畑(ドイツ)じゃ、そういうのが流行ってるの?」

「あら鈴さん。そういう事は言うものではなくてよ? 人の言葉も通じない獣には……勿体無さすぎですわ」

一秒後には既に殴りかからんほどの迫力を滲ませて、二人が言葉を吐き出す。

「下らない挑発だな。量産機に二人がかりで負ける程度では……やはりその程度か。なるほど、あの下らない種馬を取り合うメスにはピッタリだな?」

だが、ラウラは冷笑を浮かべて、更にその怒りを煽る。

「あんた今、何て言った? あたしには『どうぞ好きなだけボコッて下さい』って聞こえたんだけど……?」

「この場に居ない方への侮辱……同じ欧州連合の人間として、見逃す訳には行きませんわ」

「時間が惜しいからな、二匹同時に相手をしてやろう。掛かって来い……メス共が」

くいくい、と指先を揺らすラウラ。『ブチッ』という音が、二人の耳の奥で聞こえた。

「上等ですわっ!!」

「ぶっ飛ばすッ!!」

甲龍、ブルー・ティアーズが一気に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

アリーナでの出来事の少し前。

『春斗、何とかしろ……』

『う〜ん……ダメ?』

『ダメに決まってるだろ!? 何があったかは聞かないけど、代わりにシャルロットを何とかしろ!! このままじゃ、俺は痴漢か変態の扱いを受けちまうっての!!』

後日。何度かシャルロットと話そうとするも、シャルロットは直ぐに顔を赤くして逃げてしまい、その結果として、クラスの視線が痛いものになりつつあった。

なのでどうしても、シャルロットとの和解をしなければならない。出来るなら今日中に。

日が経てば経つほど、泥沼化するのは必至である。

『俺も 《海岸》まで下がるから、なんとか解決しろよ?』

「……やれやれ」

一夏と入れ替わった春斗は、どうやって彼女を見つけようかと考える。

(そういえば、今日は部活動があったな……シャルロットの所属は……確か、料理部だったか?)

料理部ということは、調理室。早速、春斗はそこに向かうことにした。

 

 

 

 

 

「はぁ……」

シャルロットは、これで何度目かも分からない溜息を吐いていた。

視線の先では、他の部員が料理の練習に勤しんでいる。

今日のシャルロットは絶不調であった。余りにもミスばかり繰り返すので、部長からも見学を厳しく言い付けられてしまった。

 

あの夜以降、シャルロットは余りにも恥ずかしくて、一夏の顔を見ることが出来ないでいた。

何をされた訳でもない。むしろ、しようとしたのは自分の方である。一夏にしてみれば理不尽も甚だしい事だ。

 

「はぁ……」

 

何度も踏み止まり、関係を修復しようとするも、しかし体が逃げてしまう。

どうしてそこまで恥ずかしいのか。勿論、半裸を見せてしまったせいだが、しかしここまで恥ずかしいものか。

 

(一夏と春斗って……双子、なんだよね……)

 

双子。これこそがシャルロットの羞恥の原因であった。

一夏と双子という事は当然、顔つきなどが似ているという事だ。

 

シャルロットはフランスにいる頃から、春斗の姿を何度となく想像していた。

高名な科学者を論破してみせる理知から、やはり学者のような姿だろうか。

メールやチャットに時折、気取った台詞を入れてくる所から、もしかしたら女性の扱いに慣れているのだろうか。

背は高いのだろうか。きっと東洋人特有の黒髪で、知性美に溢れる人だろう。

そんな風に想像をふくらませていたシャルロットの前に、いきなり答えに近い存在が現れた。

 

織斑一夏。春斗の双子の弟。

その事実を知って以来、一夏の影にどうしても春斗が見えてしまう。

あの時、自分は春斗に裸を見せて迫ったのでは。などという滑稽な考えさえ過ぎってしまう。

だが、これが正解という事を、シャルロットは知る由もない。

「はぁ……」

どうしても、溜息が零れてしまう。

「余り溜息ばかり吐いてると、幸せが逃げるぞ?」

「そんなの迷信でしょ……?」

「迷信かも知れないが、でも溜息を吐いている人間に、幸せな奴は居ないと思うぞ?」

「なるほど……それはそうかも………うん?」

今、自分は誰と話しているのだろうか。部員は全員調理台にいるし、何より声が女子ではない。

 

「――ッ!? い、一夏……!?」

「こんにちは、シャルロット」

軽く手を上げる一夏(春斗)に、シャルロットの羞恥ゲージが一気にマックスまで上がる。

「あ、あぁ……うわぁあああああああああああああああっ!!」

「ちょっと待て!? 逃げるな!!」

結果、シャルロットは逃げ出し、春斗はそれをすぐに追いかけた。

廊下を駆け抜け、階段を飛び抜く。

「何で追いかけて来るのぉおおおおっ!!」

「そっちが逃げるからだぁああああっ!!」

「追いかけてこないでよぁおおおおおっ!!」

「だったら逃げるなぁああああああああっ!!」

教室棟を飛び出し、二人は全力疾走する。

「くそっ! さすがは代表候補生、なんて足の速さだ……!!」

春斗は正直、走ることは苦手である。一夏はそうでもないが、春斗は走り方そのものが雑なのだ。

無駄に動く上半身。腕の振りと足の動きのバランスが悪く、シャルロットとの差がグングンと開いていく。

 

(仕方ない……最後の手段だ)

周りに誰も居ないことを確認して、春斗はシャルロットに向かって叫んだ。

「逃げるのは! 俺に裸を見られたからだろう!?」

「―――っ!?」

「大丈夫! あれは事故――」

「――うわぁああああああああああああっ!!!!!!」

「だからわぁっ!?」

一転して切り替えしてきたシャルロットが、春斗目掛けて跳びかかり、そのまま植え込みの向こうへと押し倒した。

 

 

「な、なんて事を大声で言うのさ!?」

「そりゃ、シャルロットが逃げるから……走りながら言うしか無いだろう?」

そう言いつつ、シャルロットの腕を春斗はしっかりと掴む。

「っ!? だ、だからって………誰かに聞かれてたらどうする気だったの!?」

「一応、周りに人が居ないのは確認してたし……ま、男子一人に女子多数の状況なら、起こりうる事じゃないかな?」

「起きちゃダメでしょ!?」

「でも、昨日は起きたし……」

「……… 一夏、本当に意地悪なんだね」

シャルロットは可愛らしく頬を膨らませる。それを見て、春斗は肩を竦めた。

「時と場合によるよ。それに、今の状態の方が……ずっと大変な訳だし」

「え……?」

と、ここでシャルロットは自分の体勢に気付いた。

植え込みの向こうの芝生に春斗は押し倒され、そして自分は春斗の上に馬乗りになっている。

シャルロットの制服はスカート丈が短く、更に言えばシャルロットはスニーカーソックスを履いている為、足が顕になっている。

つまりズボン越しに、その感触と体温が良く伝わってくるのだ。

 

「あ……ぁあ………!?」

見る間に顔を真っ赤にするシャルロット。すぐに退こうとするが、春斗が腕を押さえているせいで、動けない。

「――よっと」

更に春斗が体を起こしたので、その顔が鼻先まで近付く。

「うわっ……!?」

「とりあえず、逃げないでくれるか? また追いかけるのは面倒くさいからさ」

「う、うん……」

コクコクと頷いて、シャルロットがズルズルと春斗から降りる。

互いに何故か正座して、膝を突き合わす。

 

「あのな……昨日の”アレ”は、本当に気にしないでくれ。そして忘れてくれ」

「えっと、そういうのは僕の台詞じゃないかな……?」

「いや。真面目な話、そうしてくれないと本気で困る。主に今後の学生生活的に」

「そ、そうなの……?」

「……割と切実に」

流石に三年の学園生活を、変態の称号を受けて過ごすのは春斗もキツい。

ここは何としても納得してもらわなければならない。

そんな想いが通じたのか、シャルロットは小さく頷いた。

 

「……分かったよ、忘れる。……でも、一夏は平気なの?」

「何が?」

「あの……その……”ああいうの”見ちゃって……何とも思わないの?」

シャルロットがモジモジとしながら尋ねてくる。

「う〜ん、ビックリはしたけど……下着なんて見慣れてるからなぁ〜」

「え゛っ!?」

思わぬ発言に、シャルロットがびっくりする。

「千冬姉さ……織斑先生の下着とか、昔から洗濯してたからさ。いちいち気にしてられないよ」

「そ、そっか……アハハ……ふぅ」

シャルロットは乾いた笑いを響かせた。

あの同性ですら惹きつける魅力を持つ千冬の下着となれば、相当なものだろう。

なるほど。それに見慣れているなら、同年代の少女の下着姿などは驚きこそすれ、そこまでということか。

「なんだか、僕ばっかりが空回ってるなぁ」

そう思ったら、恥ずかしがっている自分がバカのように思えてしまい、シャルロットはがっくりと肩を落とした。

「………?」

何故、落ち込んだ様な素振りを見せるのか分からず、春斗は首をかしげる。

が、当初の目的はしっかりと果たしたので、一夏を呼ぶことにする。

『おーい、一夏――』

 

「――ねぇ、それ本当なの?」

「本当よ。第三アリーナで、一年の専用器持ちが模擬戦やってるんだって」

「でもなんか、凄いことになってるらしいわよ?」

「っ……!?」

道の方から聞こえてきた話し声に、春斗の言葉が止まる。

そして嫌な予感がした。

 

 

―――ドォオオオオオオンッ!!

 

 

「「―――ッ!!」」

第三アリーナの方角から、爆音。

その瞬間、春斗は植え込みを飛び越えていた。

『一夏ッ!!』

『どうした、そんなに慌てて? シャルロットがどうかしたのか?』

『そっちは何とかなった! でも、今はそれどころじゃない!!』

『何だ!?』

『第三アリーナで一年の専用器持ちが戦っているらしい! もしかしたら、ラウラ・ボーデヴィッヒが動いたのかも知れないっ……!』

『っ!? 代われ、春斗!!』

『分かったッ!!』

春斗が落ちると同時に、一夏が表に現れる。

力強く地を蹴って、一夏はアリーナに向かって走った。

「待って、一夏! 僕も行く!!」

「シャルロット!? ……分かった!」

追いついてきたシャルロットと共に、一夏はアリーナへと急いだ。

近付くにつれ、ハッキリとした戦闘音と悲鳴が聞こえてくる。

 

ゲートを抜け観客席に上がると、そこには信じられない光景が広がっていた。

「そんな……あの二人が……!?」

どちらの実力も知っているからこそ、一夏は我が目を疑った。

 

ブルー・ティアーズと甲龍の装甲は一部失われ、機体に損傷の無い場所は一つとしてない。

対してシュヴァルツェア・レーゲンは大きな損傷は無くで、戦局を完全に支配していた。

 

セシリアと鈴、そしてラウラによる二対一の戦いは、ラウラの圧倒的優位にて進んでいた。

 

 

「でぇえええいっ!!」

鈴が衝撃砲を撃ち放つ。が、ラウラが右手をかざすと、まるで何事もなかったかの様になる。

「無駄だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの 《停止結界》の前ではな――!」

「うっ……! まさか、ここまで相性が悪い相手だなんて……!!」

ラウラがすぐさま、両肩のユニットからワイヤーブレードを射出。

鈴もすぐさま回避と迎撃に移るも、複雑な軌道を描くそれを捉えきれず、右足を捕らえられた。

「しまった!」

「くっ! そう何度もっ……!!」

「フッ。理論最大値ならばまだしも、その程度の仕上がりで第三世代兵器とは、笑わせてくれる」

援護のためにライフル、そしてブルー・ティアーズを展開させるセシリア。だが、ビットはラウラの両手の発する何かによって、その動きを完全に止められてしまった。

 

「動きが止まりましたわね!!」

「貴様もな」

セシリアがライフルの引き金を引く。と同時にラウラの右肩の大砲――レールキャノンが咆哮した。

激突する二つが爆発を巻き起こし、セシリアはすぐに引き金を絞る。

だがそれよりも早く、鈴に巻きつけたワイヤーブレードを、振り子の要領で振るうそれは、さながら人の鎖分銅。

爆炎に隠され、更に射撃に意識を向けていたせいで、セシリアの反応が遅れた。

「「―――ッ!!」」

ぶつかる二人。バランスを崩した所にラウラがすぐに接近戦を仕掛ける。一瞬でトップスピードに乗り、瞬く間に距離を詰める。

「あれは瞬時加速(イグニッションブースト)!?」

『彼女は姉さんの教え子……使えても不思議じゃない!』

だが、接近戦は鈴の距離。合わせた双天牙月を振るうかと思いきや、鈴はそれを二つへと分けた。

何故だと思う一夏だったが、その答えはすぐに分かった。ラウラの両腕に装備された、プラズマ手刀が迫っていたのだ。

「クソッ……!」

苦々しさを吐き出しながら、鈴はそれを後退しつつ捌く。だが、そこに更に六つのワイヤーブレードまでもを振るわれ、追い込まれていく。

 

「いい加減に……!!」

再び、龍咆が起動すると、グニャリと空間が歪曲する。

『駄目だ、鈴ちゃん!!』

「この距離で、ウエイトのある空間圧兵器を使うとはな」

ラウラのレールキャノンが火を吹き、龍咆を爆砕した。

龍咆には、バレル展開と弾丸精製の為のチャージタイムが必要だ。そこを、完全に読み切られた。

爆砕した龍咆によってバランスを崩した所を、ラウラのビーム手刀が襲いかかった。

「させませんわ!!」

セシリアがライフルを盾にしてそれを受ける。同時に腰部ユニットの砲口を向け、ビットミサイルを発射。

「――――」

オレンジ色の華が、アリーナに咲いた。

 

「ほぼゼロレンジ……無茶苦茶するわね」

もうもうと上がる爆炎に、鈴は呆れてしまう。

「苦情なら後で受けますわ。けれど、これならダメージは……」

 

 

「――これで終わりか?」

「「………ッ!?」」

爆煙が晴れその向こうに佇むのは―――ほぼノーダメージのシュヴァルツェア・レーゲン。

「そんな……バカな!?」

「ならば今度は――私の番だ」

ラウラは動揺の隙を突き、もう一度瞬時加速をする。その勢いのまま鈴を地表へと蹴り飛ばし、セシリアにはお返しとばかりに、ゼロ距離からの砲撃を撃ち込む。

「ぐあ――っ!」

「がはっ!!」

揃って地面へと落とされた二人目掛けて、ワイヤーブレードを射出。

それを使って二人を拘束すると、ラウラは態々、拳を叩き込んだ。

「ぐぁっ……!!」

「あぅ……っ!!」

殴り、蹴り、地面に叩きつけ、更に蹴り飛ばす。

IS装甲が砕け、すでに機体維持警告域(レッドゾーン)を超え、操縦者生命危険領域(デッドゾーン)へとなりつつあった。

 

「フフッ……ハハハ………」

 

今まで一点して表情を崩さなかったラウラが――――嘲笑(わら)った。

『あいつ……!!』

それを見た瞬間、一夏の中で何かが切れた。

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

咆哮と共に、白式と雪片を同時展開。零落白夜を発動させる。

 

砕かれるアリーナの遮断シールド。開かれた穴から一夏はラウラ目掛けて、瞬時加速(イグニッションブースト)を発動させた。

 

「その手を……離せぇえええええええええええええええっ!」

 

一夏は雪片を全力で振るった。が、それはまるで空中に縫いつけられたように動かない。

「ふん。感情的で、直情的……絵に描いたような愚図だな」

「グゥゥゥウウウッ!!」

それでも何とか動かそうとするが、ビクともしない。

「やはり、この私とシュヴァルツェア・レーゲンの敵ではないな……消え失せろ」

レールキャノンの砲口が、一夏の目前に向けられる。

『一夏、離れてっ!!』

あわやという所で、シャルロットからの個人回線(プライベートチャンネル)が届く。

同時に、二丁のアサルトライフルの斉射。

「チッ……雑魚が」

ラウラは舌打ちし、一夏の拘束を解いて回避行動に移った。

 

『一夏、二人を!!』

『分かった!!』

シャルロットがラウラに更に攻撃を仕掛け、その隙に一夏は二人を抱き上げ、一気に瞬時加速を用いて離脱した。

 

そのまま近くのピットまで運んで下ろす。

「大丈夫か、二人とも!?」

「う、一夏……?」

「ぶ、無様なところを……お見せ……しましたわ」

「いいから喋るな! 此処でじっとしていろ。すぐに戻ってくるからな」

一夏はアリーナを見やった。

シャルロットは高速切替(ラピッドスイッチ)という技能を用いて、弾切れとなった銃をタイムラグ無しで入れ替えていく。

 

「ご自慢の第三世代はどうした? そんな第二世代(アンティーク)で私と本気で張り合う気か?」

「未だに量産化の目処が立たない第三世代(ルーキー)よりはずっと動けるよ。それに、あの機体は君には勿体無さすぎるからね!!」

「ほぉ……ならば、その身に世代差というものを教えてやろう」

「くっ……!」

ラウラの使う不可視の壁は、シャルロットの撃つ弾丸の尽くを縫い止めていた。

まずい。と、一夏がシャルロットの助太刀に行こうとした時、一夏の後ろから、白い影が飛び出していた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒィイイイイイイイッ!!」

「ッ……!」

上空から、獲物を狙う鷹のように襲い来る影。その手にした刃をラウラ目掛けて振り下ろした。

ラウラもすぐにプラズマ手刀を展開。それを真っ向から受け止める。

シャルロットはその間に、一度距離を取る。

 

「また貴様か……日本の第三世代IS《舞影》」

「知ってくれて何よりね。でもね……アンタはここで潰すわッ!」

 

織羽は一度そこから離れ、ブレードを鞘に納めた(・・・・・)

「この間のようにはいかんぞ。そのISの特性……ハイパーセンサージャマーは既に対策済みだ」

「あら、さすがはドイツ軍。じゃあ、こんなのはどうかしら!?」

織羽は黒い球をラウラの周囲にばらまく。それは地面に触れた瞬間に爆発し、ラウラの視界を覆い隠した。

 

「下らんマネを……そこだ」

 

センサーが示した方向で動く影に向かって、ワイヤーブレードを発射。

だが、それはスルリと貫通してしまった。

「何……!?」

わずかに動揺するラウラ。その背後に反応。

「―――っ」

そこに舞影を見、振り返りざまにプラズマ手刀を振るう。が、舞影に触れた瞬間、それはスッと消えてしまった。

 

「シッ――!!」

 

直後、正面から刃が襲いかかる。とっさに身を捻り、切っ先を躱した。

が、それはシールドを易々と突き破り、装甲を掠めていた。

 

「おっと、外しちゃったか。まだまだ、あたしも修行不足だね。連兄に怒られちゃうよ」

そういう織羽の姿がいくつも出現していく。それと共に、センサーはその全てを実体と判断した。

「ジャマー付きの立体映像(ホログラム)か……随分と姑息な戦い方が好きなようだな、貴様は?」

「奸計詭道は忍の常套手段……お褒めに預かり恐悦至極」

「ふん。やはり下らんな」

ラウラはワイヤーブレードを全機展開。そのまま、その場で大きく回転する。

「これならば、何処に隠れようと同じ事だ」

 

「ぐっ……!!」

ギィンッ!! という音と共に、織羽が爆煙の中から弾かれる。

それを追い、ラウラが飛び出した。

 

「貴様もここで、潰れるが良い」

「お生憎様。潰れるのはそっちよ!!」

 

ワイヤーブレードが発射され、織羽は納刀したブレードを鞘に納めたまま、それを弾く。

そして、互いに瞬時加速を用いて突進。ラウラはプラズマ手刀を、織羽は抜刀術の構えから、必殺を狙った。

 

 

―― ズドォオオオオオオンッ!!

 

 

「「―――ッ!?」」

二人がぶつからんとした瞬間、突如として二人の間が爆発した。

 

見れば、粉塵の中に突き立つのは――― 打鉄のブレード。

「これは……打鉄の太刀!? 一体何処から……?」

辺りを見回すと、果たしてそこに答えはあった。

 

 

 

客席の一角に打鉄を纏った箒と、まるで何かを投げたような格好の千冬がいた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

千冬は何十枚という書類を確認し、不備はないと確認した。

「では、これが”真打鉄”だ。期限はトーナメント終了後まで。レポートも提出するように」

「はい。預からせていただきます」

あれから数日。今日、ついに真打鉄の受領をした箒。

 

月末までの仮初。そして量産機。とはいえ、自身に与えられた専用機。

そう思うだけで、どうしても心が高揚してしまう。

 

「っ……」

手の中の鈍色の金属板(プレート)を、ギュッと握りしめる。

春斗によって用意されたそれは、箒に何者にも負けない勇気をくれる気がした。

 

 

 

「織斑先生、大変です!!」

職員室に飛び込んできた真耶が、千冬に叫んだ。

「どうした、山田君?」

「だ、第三アリーナで……うちのクラスのボーデヴィッヒさんとオルコットさんと……二組の凰さんが!!」

「っ……!?」

その名を聞いた瞬間、箒は織羽の言葉を思い出した。

千冬は立ち上がり、箒を見やった。

「すぐに行く。篠ノ之、早速だが真打鉄(それ)を使うぞ?」

「はいっ!」

 

 

外へと出ると同時に、箒は待機形態の真打鉄を掲げる。

「――来い、”真打鉄”!!」

箒の呼びかけに応え、真打鉄がその姿を現す。

見た目こそ打鉄と同じだが、その性能はプログラム真打の”擬似フィッティングシステム”によって、専用機並みの動きを可能とする。

 

真打鉄をまとうと、千冬が非固定部位(アンロックユニット)のシールドと箒の肩に手を掛け、背部ユニットに飛び乗っていた。

「飛べ、篠ノ之」

「ハイッ!!」

千冬を乗せて、真打鉄を箒は発進させる。

地を舐めるように飛ぶ機体は彼女の自在に動き、向かうのは第三アリーナ。

 

アリーナ内に飛び込んだ箒の眼前では、どうしてかラウラと織羽が戦っていた。

「織羽……!?」

「辰守か……よりにもよって、アイツとまで……」

千冬が「面倒な事になった」とぼやくが、箒はそれどころではない。

何故なら、箒はすぐに織羽の助太刀に入らんと、既に太刀を抜いていたのだ。

「丁度いい。篠ノ之、それを貸せ」

「え……?」

答えを聞くよりも早く、千冬はその手から太刀を奪っていた。

 

IS用近接ブレードは170センチはあろうかという代物。IS無しでは持つことも儘ならない筈のそれを、千冬はひょいと返した。

 

逆手に柄を握り、何をするのかと思っていると、千冬はググっと持つ手を後ろに引いた。

 

 

「どうりゃあああああああああああああああああッ!!」

 

「―――!?」

雄叫びを上げて、千冬はブレードを投げた(・・・・・・・・)

 

ごう! と、大気を切り裂いたブレードはさながら砲弾の如く飛翔し、二人の間に見事に着弾した。

ド派手な音と土煙を上げて突き立ったブレードに驚いた二人が足を止め、周囲を見回してからこちらに気付いた。

「織斑先生……!?」

「織斑教官……?」

千冬は織羽とラウラ、そしてシャルロットと一夏を見やってから、厳しい表情をした。

「模擬戦をするのは構わん。だが、アリーナのシールドまで破壊する事態となれば黙認はできん。この決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

有無を言わせない迫力で、千冬が宣告する。

「教官がそう仰るなら」

「織斑、デュノア、辰守……お前達もいいな?」

「あ、あぁ……」

突然過ぎる事に、一夏は呆けた返事を返してしまう。

「教師には『はい』と、返事をしろ」

「はっ、はい!」

ギロッと睨まれて、一夏は慌てて返事をした。

「僕もそれで構いません」

「あたしも異論はありません」

一夏に追従する形で、シャルロットと織羽も返事をする。

 

「では、学年別トーナメントまでの間、一切の私闘を禁止する。解散ッ!!」

 

パンッ! と、強く手を打つ千冬。

それは、この場にいる全員を撃つ銃声のようであった。

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