IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第17話  向き合うもの、向かい合うもの

 

アリーナでのいざこざの後、一夏達は鈴とセシリアを保健室へと運んだ。

診断は打撲傷。大人しくしていればすぐに良くなると言われ、一夏はホッとした。

「………」

「………」

だが、鈴とセシリアは思いっきり不機嫌そうな顔をしていた。ベッドに横になり、一夏と目線を合わせようとしない。

「別に、助けてくれなくて良かったのに……」

「あのまま続けていれば、私が勝っていましたわ……」

「お前らなぁ……」

一夏は別に礼を言って欲しい訳ではない。あの乱入は自分が勝手にやった事だし、その筋合いはないと思っている。

とりあえず、大事がなくて良かった。そう思った矢先。

 

ビシッ! ビシッ!!

 

「「〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」」

 

何かが鈴達の打撲箇所目がけて飛び、二人が声にならない悲鳴を上げた。

「お、織羽さん……!?」

「アンタ……はぁ……!!」

「その状態でよく言えるわね。無駄な意地はそのまんま、無駄ってもんよ?」

涙目でフルフルと痛みに震えながら、二人は織羽を睨む。

ちなみに、飛んできたのはボールペンである。

 

「こんなの怪我の内になんて……痛たた!?」

「無意味というなら、ここで寝ている事が無意味……ふぅうううっ!?」

二人は揃って動こうとするが、全身に走る引き攣るような痛みに、思わず震えた。

「……バカなのか?」

つい、口にしてしまう一夏。すると二人がギンッ、という強い視線をぶつけてきた。

「バカって何よバカって!!」

「一夏さんの方こそ、大バカですわッ!!」

『一夏がバカなのはいつもの事だし』

「ひどい言い草だな、お前ら!?」

 

「二人とも、好きな人に格好悪いところを見せちゃったから、恥ずかしいんだよ」

「「ッ……!?」」

ドアが開き、飲み物を買いに行っていたシャルロットが入ってきた。

「何? 何か言ったか?」

一夏はシャルロットの言葉が聞こえなかったのか、聞き直そうとする。

「わぁあああああああああああああああっ!! 何でもないわよ!!」

「あああああああああああああああああっ!! 何でもありませんわ!!」

と、二人がベッドを飛び出して、シャルロットの口を押さえ込んだ。

 

「……お前ら、仲良いな?」

 

ちなみに、その直後の二人は激痛に悶絶した。

 

 

「はい、ウーロン茶と紅茶。一夏と辰守さんは緑茶だったよね?」

「おう。サンキュー、シャルロット」

「ありがとう、デュノアちゃん」

一夏らはそれぞれ受取り、一口。

「そういえば、箒は?」

一緒に飲み物を買いに行った筈の箒が居ないので、一夏はシャルロットに尋ねた。

「織斑先生と、どこかに行ったよ?」

「千冬姉と……何だ?」

『そういえばさっき、アリーナで一緒だったね。何か関係してるのかな?』

二人が首をかしげても答えはでない。後で聞けばいいかと、それはここまでにする。

 

「あっ。そういえば織斑君はこれ、もう見た?」

織羽がふと思い出したように、ポケットから四つ折りにされた紙を取り出して渡す。

「……なになに、『今月開催の学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦を行う為、二人組での参加とする。尚、ペアの決まらなかった生徒は抽選によって選ばれるものとする。ペア申し込みの締切は―――』……はぁ?」

紙を開いて中身を読むと、一夏は突然な決定に目をパチパチとさせた。

どうしてトーナメントを二対二のチーム戦にしたのか、その意味が分からないからだ。

 

『これは、あの”アンノウン”の件が原因だと思うよ?』

『……ッ!? アンノウン……あいつがか?』

『今年の一年は各国の第三世代ISの操縦者が多い。教員の数に限りがあり、尚且つこの間のような事態が起こった場合……?』

『対処は、自分達でしないとならない……か』

『そう。自身と機体の防衛は操縦者の使命でもあるから、実戦経験がどうしても必要になる。その為の要項変更なんだと思う』

 

原則として、ISの技術は開示されなければならない。

しかしそれでは、他国に技術を真似され、開発国は損をする。

だが、このIS学園ではそれは適応されない。何故ならここは、『あらゆる国家、団体に帰属しない場所』なのだ。

そして、その項目にはこう記されている。

 

『新技術に必要とされる試行活動を許可し、また、それらのデータの提出は自主性に委ねるものとし、義務は発生しない』

 

要約すれば『技術のテストを認める上、データを開示しなくても構わない』という事だ。

技術開示をせず、実働データを取れるのはIS学園のみ。

そしてその真の目的は”第三世代兵装と単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)”の融合である。

学園での三年間で上手く二次移行(セカンドシフト)し、単一仕様能力を発現出来れば、それは”誰にも真似できない”ものとなる。

その後で技術開示しようと、何の問題はないのだ。

可能性ならば天文学的な確率。だが、三年分の稼働経験値、蓄積データのアドバンテージはかなり大きい。

そういった側面があるからこそ、代表候補生でありながら、IS学園に来たセシリア達には専用機が与えられているのだ。

 

『でも、エリートと言っても”代表候補生”の時点では、何処も大差は無いからね。結局、有事に備える必要性があるって事だと思うよ?』

『なるほど……でも、またあんなのが来るのか?』

『さぁね。でも、一度来てしまった以上……在り得ないとは言い切れない。一夏がISを動かしたのと同じように、ね』

『そりゃ、納得だな』

 

「―― ねぇ、一夏?」

そんな説明を春斗がしていると、シャルロットが一夏に何かを決意したような視線を向けていた。

「どうした、シャルロット?」

「あのね……僕とチームを組んでくれないかな?」

「えっ?」

「彼女がどうして、一夏を目の敵にしているのかは分からない。でも今日の事は、同じ代表候補生としても、ルームメイトとしても、絶対に許せないんだ」

「シャルロット……いっ!?」

シャルロットは、ギュッと一夏の手を掴んで言った。

「一夏は……僕が守るよ。だから、お願い……」

「……ッ! わ、分かった……」

強い決意と共に向けられた瞳に気圧されて、一夏は返事をしてしまう。

 

「「ちょっと待った!!」」

 

と、ここで物言いが入った。

誰あろう、セシ鈴コンビである。

「一夏、あたしと組みなさいよ! 幼馴染で……赤の他人じゃないんだから!!」

「一夏さん、私と組んでください! クラスメイトで、機体相性も近接と射撃でバッチリですわ!!」

 

「ダメですよ。二人はトーナメント出場禁止です!」

保健室のドアが開き、姿を見せた真耶が二人を諌める。

「山田先生……!?」

「それはどういう事ですか!?」

納得行かないと、二人は真耶に食って掛かる。が、真耶は厳しい視線を二人に返した。

「甲龍、ブルー・ティアーズ。共にダメージレベルCと判断されました。この意味は……分かりますね?」

「ダメージレベルC……!? うっ……うぅ〜っ!」

「分かりましたわ、トーナメント参加は辞退します……ぅう……」

真耶の言葉に、二人は口惜しいとばかりに歯軋りし、やがてガックリと肩を落とした。

「どういう事だ……?」

「IS基礎理論の『蓄積経験についての注意事項』だよ」

「………あぁ、あれか」

シャルロットに言われ、一夏は春斗の講習を思い出した。

 

ISの経験蓄積とは戦闘を含め、あらゆる事が相当する。

それらが進化情報として使われる事で、ISはより進化した姿になる。

だが、ここに一つの問題がある。あらゆるという部分には、ダメージを受けた状態での運用データも入る。

ダメージレベルC以上の状態で起動させた場合、不完全なエネルギーバイパスを構成してしまい、結果として通常時の運用に支障をきたしてしまう。

簡潔に言えば、無理をして動くと怪我が悪化して、まともに治らなくなるという事だ。

『お、よく覚えてたね?』

『地獄の24時間講義をされて、忘れられるか!?』

地獄の24時間講義とは、一夏の夢さえも使って講義を行うという、文字通りの苦行である。

一夏は受験勉強時にこれをやられ、成績が上がると同意に精神に深いダメージを負ったりした。

もう二度とやられまいと思っていたが、IS学園のせいでそんな事はなかった。

「ていうか……よくもまぁ、アレとやり合ったものね?」

織羽がそう言うと、一夏はそういえばと、首を捻った。

「そういや、何だって二人はラウラと戦う事になったんだ?」

 

ギクリ。

 

二人がまた固まった。

「あんたら……分り易すぎよ」

「……? 織羽、知っているのか?」

「つまり、二人は織斑君を―――」

「「わぁあああああああああっ!!」」

今度は織羽の口を塞ぐべく、飛び掛かる。当然、直後に激痛に悶えてのた打ち回った。

これはもう、絶対安静レベルになったかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

二人の事は織羽に任せ、一夏とシャルロットは寮と向かっていた。

「そういえば大丈夫か? シャルロットはラウラと同じ部屋なんだろ?」

「う〜ん……元々、彼女とはあんまり話さない……というより、話しても反応がないんだ。だからあんまり変わらないかな?」

「まぁ、あれだ。気まずきゃ、俺とか箒の所とか来れば良いさ」

「……ありがとう、一夏。でも、一夏の部屋に行くのは……色々とまずいと思うよ?」

「あ〜、そうだな」

また何時、織羽に目撃されるか分かったものではない。

そうして歩いていると、見慣れたポニーテールを揺らして歩く後ろ姿が見えた。

 

「―― 箒?」

「っ、一夏……と、シャルロットか」

声を掛けられ振り返った箒は、何時もと様子が違い、少し沈んだような様子だった。

「浮かない顔をしてるな……どうかしたか?」

「いや、何でもない」

そう言いながら、箒の表情は何処か暗い。

「そういえば、二人の怪我はどうなのだ?」

「大人しくしてれば大事ないってさ。ただ、ISのダメージが大きくて、トーナメントには出れないらしい」

「そうか……」

と、また箒の表情が沈む。

「そういえば、篠ノ之さんはパートナーは決めた?」

「パートナー?」

シャルロットが話を変えようと、トーナメントルール変更を教える。

「―― そ、それは本当なのか!?」

「うん。僕も一夏も、さっきも他の生徒に誘われて大変だったよ」

「あぁ〜、凄かったな」

此処に来るまでの道中、同じ一年の生徒から何度となくパートナー申し入れの誘いがあった。

もしかしたら今頃、織羽もあの洗礼を受けているかも知れない。

なにせ、残る専用機持ちは織羽と四組の二人だけだ。優勝を狙うなら、何方かと組むのが定石である。

 

「ならば一夏。私と組んでくれないか?」

「悪ぃ。俺はもう、シャルロットと組んでるんだ」

「なっ……何だとッ!?」

箒は一夏の言葉に驚き、座った視線をシャルロットに向けた。ビクッと、身を震わせるシャルロットの首根っこを掴み、一夏から離れた所まで引っ張る。

「シャルロット……お前は”噂”の事は知っているのか?」

「噂……? あぁ、『優勝したら一夏とデートできる』っていう? 僕には関係ないよ。そんなつもり無いし」

「……本当か?」

「本当だよ。あ、でも……その代わりに一つぐらい、我侭を聞いてもらえるかな?」

「何を頼む気だ?」

「それは内緒だよ。とにかく、篠ノ之さんの心配するような事はないから……安心して良いよ?」

「むぅ……分かった」

ニッコリと微笑むシャルロットに、箒はそう答えるしか無かった。

 

(そんなつもりはない、か……だが、代わりに何を頼む気だ? どうもモヤモヤとするな……)

(優勝したら一夏に、春斗と電話越しでいいから、直接話せないか頼んでみよう。デートの代わりなんだし、それぐらいは良いよね?)

 

『あの二人、何を話してるんだろうね……?』

『なぁ、春斗?』

『何……?』

『ラウラは……強いよな?』

『間違い無く強敵だね。でも、僕と一夏なら……白式と裏白式なら、互角に渡り合える筈だ。

近接特化の白式と、射撃特化の裏白式。

表裏一体のISの力は、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの能力と真っ向から打ち合える。

特に、裏白式はラウラのISの能力に対して特効だと、春斗は判断していた。

 

第三世代兵装 『アクティブ(A)イナーシャル(I)キャンセラー(C)』。

対象の運動ベクトルをゼロに変え、強制的に停止させるという恐るべき能力。

理論上、あらゆる物体にそれは作用する。接近戦仕様の白式では格好の的になるだろう。

だが、裏白式は射撃戦仕様。その間合いに入らずに攻撃ができる。更にAICの及ばないエネルギー矢を撃つので、防がれることなく操縦者にダメージを与えられる。

AICを使えなくさせられれば、白式の雪片弐型、そして零落白夜が、その威力を遺憾なく発揮するだろう。

『……春斗。頼みがある』

『どうしたのさ、改まって……?』

 

『もしもラウラと戦う時が来たら……アイツとは、俺だけの力で戦わせてくれ』

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

時は流れて六月の最終週。いよいよ学年別トーナメント開始である。

これから一週間。学園はトーナメント一色に染まる。

「しっかし、凄い人だな……」

控え室の一夏は、アリーナの様子をモニターで見て嘆息した。

来賓や、生徒に混じって座る観客の中には政府関係者、どこかの企業エージェント、研究所員の姿が見える。

アリーナは正に満員御礼。

試合のない二、三年の生徒は、雑務に会場整理に来賓の案内と、目の回る大忙しである。

『この学年別トーナメントは三年はスカウト、二年は一年間の成果の確認。一年は……まぁ、珍しいのがいるからね』

『それは俺の事か?』

『それも含めて、だよ。一年には専用機持ちが多いからね』

あれを、次は自分達がやるのかと思うと気が滅入ってくる。

だが、それよりも今は自分の出る試合だ。

組合わせは前日に発表される筈だったのだが、急な仕様変更によるトラブルで、朝一でアナログなクジ引きが行われた。

一夏とシャルロットの試合は―― Aブロック一回戦、第一試合。

つまり、トップバッターなのだ

 

「お〜っす、元気にしてるかな〜?」

「一夏、お待たせ」

「シャルロット……と、何故に織羽まで?」

「一回戦出場の織斑君を、激励してあげようと思ってね。大丈夫? 緊張してない?」

「大丈夫、いつも通りだ」

一夏は織羽に、軽く手を振って見せる。

「――ふぅん。なら、いいんだけどね〜」

「……?」

織羽はそんな一夏を見て、何故か怪訝そうに呟いた。

「一回戦か……僕は手札とか真っ先に晒しちゃうから、あんまり好ましくないんだけど……一夏は?」

「俺はむしろ早い方が良いな。後だと色々考えちまいそうだし、それに隠せるほどの手札なんて無いからな」

シャルロットにそう言って見せると、彼女は目をパチクリとさせ、そしてクスッと笑った。

「なるほど、そういう考え方もあるね。なんだか一夏らしいよ」

『一夏、そろそろ組み合わせの発表だよ?』

春斗の言葉にモニターへと視線を戻す。シャルロットと織羽も、それにつられてモニターへと向いた。

会場を映していたそれが、トーナメント表へと変わった。

「さて、俺達の相手は………ッ!?」

「これ……!!」

「あらまぁ。いきなり……それに、これは……」

『まさか、こうなるか……?』

トーナメント表を見て、それぞれがそれぞれの反応を見せる。

 

【織斑一夏 シャルロット・デュノア】VS【ラウラ・ボーデヴィッヒ 篠ノ之箒】

 

それが、第一回戦の組み合わせであった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「………」

もう一つの更衣室では、その組み合わせに唖然とした箒がいた。

一夏に断られ、ならば織羽にと頼むも、こちらも既にパートナーが決まってしまっていた。

その結果、自分のパートナーが抽選でラウラに決まった時にも唖然としたが、それに輪をかけて、これは何という皮肉だろうか。

箒は視線を、隣に向ける。

そこにいるのは、パートナーであるラウラ・ボーデヴィッヒ。

「………」

何を思っているのか、ラウラはわずかに口角を釣り上げていた。

その顔に、箒は覚えがあった。

 

そこにいるのは、かつての自分。

姉がISを生み出したせいで一夏達と離れ離れになってしまった。姉に振り回され、何度となく転校を繰り返し、誰とも連絡をとることを許されず、心身ともに参っていた箒はいつからか、過去に縋るようにして剣を振るっていた。

己を鍛える為ではない。己の憂さを晴らす為に。

積み重なってきたものを叩きつけるように、相手を打ちのめした。大会で全国優勝をしたというのも、その結果でしかない。

倒し、勝ち、その淀んだ喜びに浸っていた箒の目に映ったのは、敗れ、どうにも出来ない悔しさに涙する相手の剣士の姿。

あの瞬間、自分の今までやってきた事がどれほどに醜い事であったかを思い知らされた。

今のラウラは、正しくその時の自分そのものであった。

「っ……!」

不快さを払うように、箒はギュッと金属板(プレート)を握りしめた。

 

(春斗、私は……この力を誤らずに使いたい。これを与えてくれた、お前のためにも……!)

 

もう過ちを犯さない。

その為の道標は、この手の中にあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

ついに、アリーナに四機のISが現れる。

専用機三機と、量産機一機。注目はやはり揃い踏みした専用機である。

「あれ? ”真打鉄”って……何?」

「本当だ。何だろう……?」

アリーナの中空に浮かぶ空間モニターには、選手とそれぞれの機体名が載っている。

それを見た観客のざわめきに、戸惑いの色が混ざり始めた。

『これより、学年別トーナメント一年の部、一回戦 第一試合行います』

アナウンスが場内に響き渡る。

『尚、今回は篠ノ之箒選手のISに、打鉄専用特殊プログラム”真打”が導入されております。他の打鉄と区別する為、登録名は”真打鉄”となっております』

 

「プログラム”真打”……?」

「ふむ。なにやら面白そうな……」

貴賓席の来客も、興味有りげな表情を見せる。

 

『このプログラムは【擬似フォーマットフィッティング】によって、専用機並の反応速度を可能とするもので、本トーナメントでは、今後の公式戦においての使用を視野に入れた実験を兼ねております』

 

「ほほう、流石はIS学園。そんなものを何時の間に……」

「擬似フォーマットフィッティング……一体どれほどのものか、楽しみですね……」

アリーナの客席にいる研究者は、興味深そうにそれを聞いている。

 

「う〜ん……何で篠ノ之さんが、そんなののテストをやる事になったんだろうね?」

「もしかして、お姉さんの事が関係しているとか?」

「でもでも、そんな凄いプログラムがあるなら、アタシも使いたかった〜っ!!」

控え室を兼ねるロッカールームでは、同じ一組の面々がアナウンスを聞きながら、それぞれの反応を見せていた。

 

 

「プログラム”真打”か。随分と大仰な名前だな?」

上方のそれを見やりながら、ラウラが呆れ気味の声を出す。

そもそもの性能が違うのだから、どんなプログラムであろうと、専用機とデチューンされた訓練機では勝負にさえならない。彼女はそう思っている。

「大仰ではない。これは専用機と渡り合う為に用意されたものだ。これで負けるなら……それは、私の腕のせいでしかない」

しかし、箒がキッパリと言い切ると、ラウラはフン、と鼻を鳴らした。

「一応言っておく。私の邪魔だけはするな」

「ならば私も言っておこう……お前では、一夏には勝てない」

「………何だと?」

ピクリと、ラウラの眉が釣り上がる。

「私が、あんな愚か者よりも弱いと言うのか……?」

明らかに不快という表情を見せるが、しかし箒は全く動じない。

「あぁ、お前には力がある。だが……弱い。だから、一夏には絶対に勝てない」

「良いだろう。ならば、あの男を完膚なきまでに叩き潰し……その言葉を訂正させてやろう」

力こそ絶対。力こそが全て。そう断言するラウラに、箒はただ「好きにするが良い」と返した。

 

 

「一夏、それ本気なの……!?」

「あぁ。ラウラとは一対一で戦う。シャルロットは箒を押さえてくれ」

開始直前、一夏の申し入れにシャルロットは驚きを隠せないでいた。

「でも、彼女の実力は間違いなく一年でトップだよ? 一夏一人でどうにかなる相手じゃないよ!?」

「それを言うなら、箒の方だってそう簡単に行かない相手だぞ? あの”真打”は元々、量産機で専用機に勝つ為に、春斗が作ったプログラムだからな」

『一夏!?』

「え……ッ!?」

いきなりの発言に春斗は思わず声を上げた。だが、吐いた言葉は無かった事には出来ない。

「ど、どうしてそれを篠ノ之さんが使ってるの……!?」

「春斗が調整をして箒に渡したんだよ。このトーナメントで優勝できるようにって」

「――つまり篠ノ之さんは、春斗と連絡が取れるって事なんだね……?」

「『………は?』」

 

一夏としては、あのプログラムの恐ろしさを教えて、一対一を納得してもらうつもりだったのだが、どうやらシャルロットは斜め上に解釈してしまったらしい。

 

「そっか。篠ノ之さんは春斗と連絡取れるんだ……そっかそっか……」

「あ、あの……シャルロットさん?」

「分かったよ一夏。篠ノ之さんは僕が相手をする。でも、危なくなったらフォローは入れるからね?」

「わ、分かった……それでいい」

何か物凄い迫力を出し始めたシャルロットに、一夏はコクコクと頷く。

 

 

『シャルロットの事はまぁ、良いとして……本当に情報解析しなくて良いんだね?』

『あぁ。アイツとは……俺の力だけで、決着を付けないといけないんだ』

最初の切っ掛けは、第二回モンド・グロッソの裏で起きた――― 織斑一夏誘拐事件。

その事件があったから千冬はドイツに行き、そして現役を引退。

ドイツ出向時の教え子であるラウラが、自分と関わっていたという理由で、鈴とセシリアをあそこまで傷めつけた。

トーナメント不参加というのは、国家代表候補生である二人のこれから対して、マイナスとなるだろう。

あらゆる出来事が、あの日の弱かった自分から始まっている。

 

 

だからこそ、これらの決着は織斑一夏が付けなければならない。

幼稚な考えだと笑われようと、ここで退いたならもう二度と、大事な者を守る為に戦えなくなる。

そしてきっと、春斗に頼らなければ戦えない自分でいる事に、これからも甘んじてしまう。

いつになるかは分からない。だが、いつか二人は分かれる時が来る。

だから、春斗に頼らない自分である為に。

 

『俺は……俺だけの力で戦って……そして勝つ!!』

 

『……分かった。僕はこれ以上何も言わないし、情報分析もしない。それでいいね』

『ありがとう、春斗』

『――別に。ただ、感情に任せて戦わないようにね?』

『オッケー。いつも通りにクールに往くさ』

『………いつ、クールだったのさ?』

 

 

―――開始10秒前。

 

 

シャルロットは銃火器のロックを外し、両手に構える。

一夏も雪片を展開させ、片手で握りしめた。

 

 

――開始5秒前。

 

 

箒が太刀を抜き、腰に添えるようにして構える。

ラウラは組んでいた腕を解き、ダラリと下げた。

 

 

――開始3秒前。

 

 

それぞれが見据える――― 敵。

それは己の外か―――内か。

 

 

――試合、開始。

 

 

「「叩きのめす」」

「「勝負っ!!」」

 

ついに、決戦の幕が開いた。

 

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