IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

22 / 97
第18話  VSシュヴァルツェア・レーゲン/力と強さ

試合開始の合図がアリーナに響き、四人が動き出す。

真っ先に動いたのは――― 一夏と箒。

「ウォオオオオオオオッ!!」

一夏は瞬時加速(イグニッションブースト)を使い、ラウラに奇襲を掛ける。

AICの発動には集中力がいる。なら不意打ちを決められれば、その精神的ダメージは後の優位に繋がる。

「――フッ」

ラウラの腕がそれに合わせたように動く。向こうも、この手を読んでいた。

先読みされている奇襲は、只の狙い易い的でしか無い。

「―― だろうと!」

一夏はスラスターを左に噴かせて回転、そのままの勢いでラウラの右側面へと滑り込んだ。

それは甲龍戦でみせた、”スライドターン”と名付けられた急制動のフェイント。

「―― 思ったよっ!!」

再度、加速して接近。

これは流石に読んでいなかったのか、ラウラは雪片の白刃をプラズマ手刀で受け止めた。

「っ……なるほど。二度も同じ轍を踏むバカではないようだな……?」

「突進するだけが脳じゃねぇよ……!」

ギシギシと、拮抗する力。触れれば斬り裂く雪片の刃を、一夏は強引に押し込む。

ガコン、という音がした。ハッとした一夏の眼前に、黒い縦穴があった。

「チィッ!!」

一夏はプラズマ手刀を弾くようにサイドへ退避。直後、レールキャノンが咆哮した。

「接近戦がお望みか? ならば、AICを封印してやろう。遠慮無く来るが良い!」

「そりゃ、泣けるお気遣いだなぁっ!!」

春斗からの作戦や解析も聞かず、一夏は独自でAIC対策を考えた。

しかし、凡人の頭脳ではそれは思いつく筈もない。だからこそ、開始直後の不意打ちを考えた。

だが、そんな程度をラウラが読んでいないと思えなかった。

だからこそ、スライドターンを絡めた一手を打った。

 

結局は届かなかったが、ラウラが接近戦で挑んでくれる事は有り難い。

ワイヤーブレードが飛び、一夏は雪片をブレードに戻して(・・・・・・・・)対処する。

バリア無効化攻撃は当たれば大きいが、燃費が悪い。ならば、通常はこの状態で振るう方が効率的だ。

何度となく練習を重ね、雪片の刃を展開させるまでの所要時間は、僅か0,14秒となっている。

だからこそ、こうしてブレードで打ち合える。

「どうした、貴様が望む距離だぞ?」

両手に展開したプラズマ手刀を繰り出し、更にワイヤーブレードを数本ずつ、順に繰り出していく。

一夏は右手で雪片を振るい、左手で手刀を裁き、両足も使ってワイヤーブレードを返す。

「くっ……!」

ただ一瞬のチャンスを待って、一夏はひたすらに耐える。

戦闘可能距離。手数の多さ。近接、物理攻撃戦殺しのAIC。シュヴァルツェア・レーゲンは、白式とはとことん相性の悪いISである。

その上、ラウラの操縦技術は一夏とは天地の差がある。

「………」

その差を埋められる唯一の可能性―― 春斗は、白式の中から一夏を見守っていた。

ギュッと袖を掴み、今にも動かんとするその身を抑えこむように。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

箒は一直線に、シャルロットへと向かっていった。

狙いは単純。ラウラは一夏に勝てない、そう確信している。だからこそ、シャルロットを真っ先に倒す。

彼女を放置しておくと、後々一夏と戦う邪魔になるからだ。

「イェエアアアアアアアアッ!!」

気合と共に、太刀を真っ向から振り下ろす。

だがシャルロットは冷静にそれを回避。同時に六二口径ショットガン 《レイン・オブ・サタディ》の引き金を引いた。

 

バァンッ!! という強い衝撃が、真打鉄を打ち据える。

 

「っう……!!」

「悪いけど、篠ノ之さんには負けられないよ……!」

更にショットガンを発射。だが、箒はすぐに回避して斬り返した。

僅かに切っ先がシールドをかすめる。

シャルロットは高速切替(ラピッドスイッチ)でアサルトキャノン 《ガルム》を展開。箒に向かって発射した。

「縮地!!」

瞬間、箒の姿が視界から消える。次いで「ドンッ!」という衝撃がシャルロットを襲った。

眼前には真打鉄の姿。実体シールドを使った体当たりをされたのだ。

 

ガルムの砲弾が、誰も居ない空間で爆発した。

 

瞬時加速(イグニッションブースト)!? 防御型の打鉄で、この速さ……っ!?」

「名前を間違えるな! これは真打鉄(まことのうちがね)だッ!!」

砲撃に対して、あえて接近して実体シールドをシャルロットにぶつけた箒は、その影から刃を繰り出す。

シャルロットはすぐに近接用ブレード 《ブレッド・スライサー》でそれを受け止めた。

「甘いよ!!」

同時にキャノンを再びショットガンに切り替え、箒に撃ち込む。

「ちいっ……!」

実体シールドで受け止めつつ、距離を離されまいとするが、ショットガンの制圧力は容易く箒の足を止めてしまった。

ひとまず間合いが離れ、互いに戦局を止める。

シャルロットは、ショットガンからアサルトライフルに切り替え、箒も太刀を改めて構え直す。

「流石、春斗が組み上げたプログラムだね。普通の打鉄とは大違いだ」

「これの事を知って……!? そうか、一夏からか……そうだな、確かにシャルロットの言う通りだ」

確かに今のところではあるが、箒は専用機と真っ向からやり合えている。

春斗のプログラムの凄さを改めて感じると共に、それを振るえる自分を誇らしく思う。

なるほど。”専用機を持つ”という事はこれ程に誇らしい事なのか。と、昂揚する心につい、口元が歪んでしまう。

「……ずるいよ、篠ノ之さん」

「むっ……?」

口元を正し、シャルロットに集中しようとすると、何故かズルイと言われた。

「そのプログラムを使ってるってことは、篠ノ之さんは春斗と連絡が取れて そして彼に頼んだ……そういう事なんでしょ?」

「い、いや違う! 連絡先など知らないぞ!?」

背筋が薄ら寒くなるような迫力が、正面の相手から発せられている気がした。

「ウソだっ!!」

「ウソではないッ!!」

慌てて強く否定するが、その効力は無かったようだ。

「だったらどうして、彼がそんな物を用意するっていうの!?」

「そ、それは……だって、あいつがくれると言うから……」

モジモジとしながら答える箒。

実際に、箒が春斗のプログラムを使っている以上、言い訳に意味など無いのだが。

「ほらやっぱり! 春斗と話してるんじゃないか!!

「なっ……!?」

シャルロットの誘導尋問に、箒は思い切り引っかかった。

「この試合……僕が勝ったら、春斗の連絡先を教えてもらうよ……!」

「いや……だから、知らないと言っているだろう!?」

「そんなのウソだ!」

「ウソではない! 向こうから連絡が来るだけだ!! そもそも、どうしてそこまでアイツにこだわるんだ!?」

「っ……!? そ、それは…………あ……」

「あ……?」

「―― 逢いたいからだよッ!! 話したいからだよ!! それがいけない事なの!?」

「っ……!? シャルロット……まさかお前は?」

さながら鬼気迫る様相といったシャルロットに、箒は何かを感じた。

それと同時に、あの時感じたものは誤りではなかったと納得した。

二人の間にどんな事があったかは知らない。だが春斗はきっと、彼女のために何かをしたのだろう。

そして、それを切っ掛けにして―――。

「春斗め……私など想わずに、この想いに応えてやれば良いものを……」

シャルロットの真っ直ぐな想いを受けて、箒はつい苦笑してしまう。

「………それ、どういう事?」

「え……?」

嫌にドスの利いた声が箒の鼓膜を揺らした。

その声の主――シャルロットは、ドス黒オーラを立ち昇らせて、アサルトライフルとマシンガンを構えていた。

「『私など想わずに』って……どういう事?」

「いっ……!? いや、それは……」

「篠ノ之さん……まさか春斗に告白されて……オーケーしたの!?」

「ち、違うッ!! 告白はされたがちゃんと断ったぞ!?」

「つまり春斗を振ったって事!? 許せない!!」

「お前は私にどうしろというのだ!?」

「いっそ、全部無かったことにしてよ!!」

そう叫び、シャルロットがトリガーを引いた。

「無茶を言うなっ!?」

襲いくる弾幕を回避しつつ、箒も叫んだ。

 

さて、ここでこのトーナメントのルールの一つを紹介したい。

 

『同チーム内における通信は、個人回線(プライベートチャンネル)を用いるが、対戦チームとの通信は全て、開放回線(オープンチャンネル)を使用しなければならない』

 

箒とシャルロットは敵チーム。当然、そのやり取りは開放回線(オープンチャンネル)で行われている。

という事は、この会話はピットにいる人間にも聞かれているという事である。

「……なんか、痴話喧嘩みたいなのが始まってますね?」

真耶がポツリと呟いた。

「っ………」

千冬は何故か、天井を見上げて目頭を押さえていた。

告白して振られたなどという話を本人の前でされ、不特定の人間に聞かれるなど、拷問以外の何物でもない。

不憫すぎる弟に、涙の一つも溢れそうになるというものだ。

 

「ぐぉぉぉ………! お願い、それ以上はやめて……僕のライフはもうゼロだから……!」

事実、春斗は白式の中で胸を押さえて悶え苦しんでいた。

『春斗、お前……』

「うっさいよ!? 一夏は目の前のとイチャイチャしてりゃいいじゃないか!?」

『俺にキレるなよ!?』

これ以上は触れまいと、一夏はラウラの攻撃を捌く事に集中した。

 

 

 

 

「でも、織斑くんも篠ノ之さんも、良く食らいついていますね……」

「…… 一見すればな」

「というと?」

「デュノアとボーデヴィッヒが、互いに牽制をし合っているからこそ、何とか打ち合えているだけだ。本当の一対一なら、既に押し切られているだろう」

千冬は攻防の入れ替わり著しい戦局を冷静に分析して見せる。

シャルロットは常に、一夏とラウラの戦局に意識の一部を向け、いつでも援護射撃を行えるようにしている。

そして、ラウラはそれに気付いているのか、攻撃の要所要所でシャルロットに意識を傾けている。

「それにしても……相変わらず、戦闘力を強さと思っているのか」

ラウラを見て、千冬は呆れ気味に嘆息する。

ドイツ出向の際、千冬はラウラを鍛えた。その時、何度となく教えたのだ。

力と強さは、似て非なるものだと。

だがやはり、ラウラはそれを理解出来ないでいたようだ。

 

 

「何をやっている……バカ者め」

対する一夏も、妙に動きがおかしい。

春斗のサポートがある以上、ラウラの攻撃の隙を突く事は不可能ではない筈だ。

だが、ここぞというタイミングを、一夏は何度も外していた。

 

(まさか、一夏一人で戦っているのか……?)

 

と、千冬は考えハッとした。

まさか春斗のサポートを得られない事態―― 春斗の身に何事か起こったのではないか。

もしそうなら、今すぐにでも、この試合を止めなければならない。

だが、それなら一夏があんな風に戦っているだろうか。

「何をやっている………バカ者」

同じ言葉に違う意味を込めて、千冬は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

拮抗しているように見えた戦いは、いよいよ動き出す、

「――捕らえたぞ」

「しまった!?」

ワイヤーがついに左腕を絡めとる。そこに襲いかかる、数本のワイヤーブレード。

残る右腕、両足でそれらを防いで捌くが、ガリガリとシールドが削り取られていく。

ラウラは鈴にしたのと同じように、一夏をワイヤーごと振り回した。

「潰れるが良い」

「うぉおおおおっ!?」

白式は大きく上空に振られ、そのまま一気に外壁目がけて投げ飛ばされた。

 

――ズゥゥゥンッ!

 

一夏は為す術も無く、壁と激突。

「がはっ……!!」

ISの防御能力で怪我こそ無いが、だが全身をしたたかに打ち付け、肺から強制的に空気が吐き出される。

「どうだ、苦しいか? ならば今、楽にしてやろう」

ラウラはにぃ、と口元を歪め、レールキャノンの照準を一夏に合わせる。

「クソッ……!」

キャノンが火を噴くと同時に、一夏は離脱。その背を爆発で飛び散った破片が襲ったが、それどころではない。

シュヴァルツェア・レーゲンのレールキャノンは、火薬炸薬と同時に電磁加速をさせるハイブリッドタイプ。リボルバー式を採用しており、弾倉(シリンダー)が回転して連射を可能とする。

一夏は春斗のしてくれた説明を思い出しながら、苦々しく舌打ちする。あれの一発でも喰らえば、戦局は一気に不利になる。

何か、この状況を打破する手立ては―――。

「っ………!!」

一瞬、脳裏を過ぎったのは―――弓を構えるISの姿。

それだけは絶対に駄目だと、頭を振る。

自分だけで、自分の力だけで勝たなければ意味が無いのだ。

だが、実力差は一目瞭然。

ならばどうする。と、思考した瞬間、砲撃が止まる。シリンダーの弾薬が底をついたのだ。

この一瞬。此処こそが勝機だと判断した一夏は、瞬時加速(イグニッションブースト)で急接近。

 

「ハァアアアアアアアアアアアッ!!」

 

気合と共に雪片を振り上げ――――そして、空中で動きを封じられた。

AIC―――”停止結界”。

ラウラは右手を向け、白式を容易く空間に縫いつけてしまった。

「遊びは終わりだ……!」

「クソッ!!」

どうにかしようと足掻くが、白式を捕らえた結界はビクともしない。

その眼前に、暗黒の入口を思わせる不吉な闇が向けられた。

 

「一夏っ!!」

 

「――ッ!!」

彼方から届く援護射撃。

ガルムの砲弾が、勝利を確信したラウラ向かって放たれたのだ。

「ちっ――!」

AICを解いて回避しようとするよりも早く、ラウラを爆発が襲った。

「ぐぉおおおおおっ……!!」

自慢のレールキャノンが爆散。その衝撃でバランスが崩れる。そして、一夏が結界から開放された。

「ウォオオオオオオッ!!」

ここぞとばかりに一夏は咆哮して、展開させた雪片を振るう。

「舐めるなぁああああああああああっ!!」

ラウラが激昂し、六門全てのワイヤーブレードで、白式にカウンターを決める。

装甲を突き刺され、一夏はアリーナの壁に再び叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

箒はシャルロットの、高速切替(ラピッドスイッチ)をフルに使った戦闘術『砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)』に苦戦していた。

 

遠、中距離を射撃で制し、近接戦に持ち込めば近接戦装備で対応。即座に射撃武器で反撃。そして再び間合いを取る。

という、さながら砂漠の幻影に踊らされる旅人の様に、弄ばれていた。

 

「くそっ、何とかしなければ……!」

箒は、ままならない状況に舌打ちした。防御型の打鉄はまだまだ持つ。だがジリ貧でもある。

先程も縮地を使い攻め込んだが、その速度は見抜かれており、あっさりと対処された。

さすがは代表候補生。その実力は自分とは比べものにならない。

だが、だからといって負けてやるつもりなど、毛頭ない。

ほんの僅かな切っ掛けがあれば、この刃を浴びせてやるものと、その気迫が更に高まっていく。

 

「―― 一夏っ!!」

その時、シャルロットはアサルトライフル 《ヴェント》を撃ちながら、アサルトキャノン 《ガルム》をラウラに向けて発射していた。

「ここ―――ッ!!」

わずかに逸れた意識。薄まった弾幕。今こそ、真打鉄の真価を発揮する時。

 

―― 一足 縮地 ――

 

箒は縮地を使い、一気に攻める。

「―――ッ!!」

シャルロットは即座に反応。向かって右へと回避。そのままショットガン 《レイン・オブ・サタディ》を構え―――。

 

―― 二足 風切 ――

 

「―― っ!?」

箒は一瞬で、シャルロットの左側面に踏み込んでいた。

驚愕するシャルロットに、その勢いのまま腰の回転で刃を振るう。

 

が、シャルロットは回避方向を変え、後退。刃は空を切った。

そして今度こそと、レイン・オブ・サタディを箒に向け―――。

 

―― 三足 震雷 ――

 

「ツェエエエエアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

箒はそこから更に加速。正面のシャルロット目掛けて突貫。ブレードを刺突で繰り出した。

今度こそ回避できず、逃げ水はついにその実体を捉えられた。

 

「ぐっ……!!」

箒の一撃はあっさりとバリアを抜け、R‐リヴァイヴ・カスタムⅡのIS装甲に突き刺さる。

「ウォオオオオオオオッ!!」

巨大な弾丸と化した真打鉄の、全ての威力を一点集中させた刺突は、R‐リヴァイヴ・カスタムⅡの防御を上回る一撃。

「うぁあああああああああああっ!!」

シャルロットは為す術無く、派手に弾き飛ばされた。

地面を数度転がって、もうもうと土煙が上がる。そして、シャルロットがその向こうへと消えた。

「はぁ……はぁ………ゴホ、ゴホッ!? ……ペッ!」

箒は乱れた息と共に、咳き込む。そして、地面に赤い唾を吐き捨てた。PICですら制御し切れないGで、気管のどこかを損傷したようだ。

「たかがこの程度で……私もまだまだ、鍛え方が足りないな……」

ダメージを負った自分に苦笑しつつ、箒は太刀を構え直す。

ついに届いた。春斗の思いの込められた一撃が、シャルロットをついに捉えたのだ。

息も上がり、体もGの負荷で震えている。

だが、心はどうだ。何と高揚していることか。

「勝つぞ……私は……勝ってみせる!!」

 

 

対するシャルロットは、その逆であった。

打鉄では―――否、既存するISの何処にも、あんな無茶な機動を行う機体はない。

 

ならばあれは、春斗が作ったオリジナルの機動プログラムだ。

「くっ……!」

ひび割れ、砕けたリヴァイヴの装甲。

まるで、自分の心を抉り取られたようだった。

デチューンされた訓練機を、たった一つのプログラムで専用機並にしてしまう。

そんなとんでもない物を、春斗は箒の為だけに用意して、そして渡した。

「っ………!!」

悔しい。まるで春斗に、自分では彼女には勝てないと言われているようで、たまらなく悔しい。

「負けない……! 絶対に負けない……!!」

機体ダメージは大きい。『砂漠の逃げ水』は無理だろう。

ならば、真っ向から叩き伏せる。

(一夏、ゴメン……そっちのフォローは出来ないかも知れない……!)

砂塵の向こう、死地を踏み越え活を見出した剣士と、シャルロットは正面から対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「な、何ですか……あのとんでもない機動は!? 瞬時加速(イグニッションブースト)の三連発……!?」

ピットの真耶が、そら恐ろしいものを見てしまったように、目を見開いていた。

「アレは瞬時加速(イグニッションブースト)ではない。瞬速超過(オーバーアクセル)というらしい」

「瞬速超過(オーバーアクセル)……?」

聞いたことのない言葉に、真耶は眉をひそめる。

瞬時加速(イグニッションブースト)は、一瞬で最高速に乗る技術だが……あれは一瞬だけ、”トップスピードを超える速度を得る”技術だ」

「なっ……!?」

千冬の説明に更に目を見開く真耶。言葉にするのは簡単だが、それを実現させるとなれば話は別だ。

 

瞬速超過(オーバーアクセル)は発動距離が短い。故に、その真価を発揮するのは連続発動させた時だ」

モニターに映る箒の機動。その跡は地面にまざまざと残されている。

「間合いを一瞬で詰める一足の縮地。回避行動を追撃する二足の風切。そこから更に迫撃する三足の震雷。あの距離で、あの速度を躱せる者はそうはいないだろう」

シャルロットの機動はきれいな流線を描き、しかし箒の追撃機動は全て直線。

それは正しく”稲妻”であった。

「あの一撃……リヴァイヴは、かなりのダメージを負いましたね?」

「だが、PICの保護を越えるGが操縦者を襲う瞬速超過(オーバーアクセル)だ。篠ノ之の体も相当の負荷を負っている筈……勝敗を分けるのは互いの精神力だろう」

モニターには、満身創痍といった風の、しかし闘志を失くさずに睨み合う二人の姿が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「シャルロット……ッ!?」

一夏はその光景に、思わず叫んでいた。

向こうでもうもうと上がる土煙。それを成したのは――箒だった。

突き出したままの太刀を引き戻し、箒は咳き込んだ様子を見せながらも、気丈に踏ん張っている。

 

強い。

 

それだけが、一夏の感じたものだった。

それに比べて、ラウラに一矢も報いることの出来ない自分の弱さに、苛立ちが膨れ上がる。

 

やはり、自分は何も変わっていないのか。

強くなりたいと願い、それでも弱いままなのか。

力が――欲しい。だが、それは自分には無い。どれだけも望んでも、だ。

絶望が、諦めが、一夏の心を屈させる様に伸し掛っていく。

 

 

「一夏ぁっ!! 何だその、不抜けた顔はぁっ!!」

 

 

「―――ッ!?」

開放回線(オープンチャンネル)から響く、怒号。

見れば箒が、激しい表情で一夏を見据えていた。

 

「ほ、箒……?」

「貴様、何時までそんな奴に手間取っている!! お前は……そんな暴力に屈する程度の”強さ”しか無かったのか!?」

「っ………!?」

「諦めるな! 抗え!! 立ち上がって……そして勝て、一夏っ!!」

箒は、シャルロットに向き直り、太刀を正眼に構える。

 

「私は………勝つぞっ!!」

 

箒の瞳は揺るがない闘志に燃え、輝いていた。

あぁ、そうだ。

自分が欲しいと思ったのは、あの瞳だ。

”力”が欲しかったんじゃない。守れる”強さ”が欲しかったんだ。

そんな事を、忘れていた。

 

『春斗……頼みがある』

『何……?』

『俺を一発、ぶん殴ってくれ』

『………良いの?』

『あぁ、思いっきり頼む』

『分かった』

言うや、白式の左腕が黒く染まる。そして拳を握りしめて――。

 

ゴッ!!

 

「ブッ……!?」

その痛烈な一撃に、思わずたたらを踏んでしまう。

『お前……マジで思いっきりやりやがったな……!?』

『当然でしょ。ほーちゃんにあんな顔をさせたんだ……一発で済ませたのを有り難く思ってよ?』

黒が白になり、白式の左腕へと戻る。

 

「でも、サンキュー。目が覚めたぜ……!」

 

自分一人の力など大した事はない。

何故なら、強さと力は同じではないからだ。

自らを蔑む必要など無い。胸を張って誇れ。自分を支えてくれる者がいる事を。

過去に重なる多くの関わりが、今の自分の――織斑一夏の強さになっている。

そして、これから関わる全てが――織斑一夏の強さに変わっていく。

 

白式を与えた束。特訓を付き合ってくれた箒、セシリア、鈴。共にチームを組んだシャルロット。

偉大なる姉、千冬。

 

そして―――ずっと共にある、我が半身。

 

『それで、情報解析はしておいたけど……アドバイスはいる?』

「いいや、要らない」

頼もしき、最高のパートナー、春斗。

 

「――もう、充分にもらってる!!」

 

その全てを賭して、打ち砕く。目の前の相手を。

「待たせたな……ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

冴え渡る脳内に、今までの積み重ねがリフレインする。

「気合を入れ直した、か……下らんな。そんな精神論で戦力差は覆せはせんぞ?」

「そいつはどうかな……?」

すでに、一夏は勝利していた。

零落白夜。それがその手にされた瞬間、一夏はラウラに勝っていたのだ。

「一発逆転……見せてやるぜ!!」

 

―― 零落白夜 発動 ――

 

変換されたエネルギーが、全身から朱いオーラのように立ち昇る。

雪片がその輝きを増し、全てのエネルギーを無力化する力を現出させた。

 

「ふん。そんなもの……!」

ラウラは嘲笑った。

零落白夜の能力は驚異だ。だが、使い手が一夏であるならば、恐れることなど無い。

むしろ、それを使う一夏に愚かさを覚えずにはいられない。

あの力に相応しいのは、世界で唯一人。自分の憧れであり、理想である――織斑千冬だけだ。

汚らわしい偽物の力など、叩き潰す。

 

レールキャノンを失っても、ワイヤーブレードは六門健在。

シャルロットは、あのダメージでは援護は出来ないだろう。

もう、停止結界から逃れる術など無い。

 

「うぉおおおおおおっ!!」

一夏は真っ向から向かっていく。

それに合わせてラウラが右腕を持ち上げ、AICを展開させようとした。

 

「くらぇええええええええっ!!」

 

一夏は雪片を振り抜き―――零落白夜を解放した(・・・・)

 

 

 

「っ……!?」

ラウラは驚愕した。

間合いの外から一夏は刃を振り、それに伴って風が吹き荒れる。

 

AIC―― 無敵の対物理結界は朝日に散る霧の如く、文字通りに霧散したのだ。

 

白式は振り下ろしたままの姿で、突進してくる。

ラウラはすぐにワイヤーブレードを発射しようとする。

「ッ!?」

動かない。正確には射出しようとした瞬間、推力が失われたのだ。ならば回避と、スラスターを噴かせるが、これも推力が失われる。

一体、何が起こったのか。ラウラは理解できず混乱した。

 

 

一夏が行ったのは、零落白夜の解放。

アンノウンとの戦いの際、春斗は雪片の破損を防ぐ為にそれを行った。

そのプログラムは、白式の中に残されていたのだ。

AICの領域は見切れなかった。ならば、全て纏めて叩き潰してしまえばいいだけの事だ。

遮断シールドさえ破壊する零落白夜だ。解放しても、AICを無力化する程度は造作も無い。

更に、あらゆるエネルギーの無効化は推進エネルギーにも及ぶ。

つまりは、相手に反撃と離脱を許さない副次効果をも生んだ。

 

名付けるならば『波動・零落白夜』。

二人の天才によって誕生した白式の新たなる力にして、暮桜を超える新しい零落白夜の姿。

 

時間にすれば一秒程度。推力は直ぐに回復した。が、それだけあれば白式には充分過ぎた。

「捉えたぜ、シュヴァルツェア・レーゲン!!」

「がぁああああああああっ!?」

振り上げられる刃が、ラウラを斬り裂く。

絶対防御が発動し、シールドエネルギーが一瞬で削り落とされる。

「おぉおおおおおっ!!」

「ぬぁああああああっ!!」

更に振り下ろしての二撃目を喰らい、ラウラは吹き飛ばされる。

ここで、雪片が使用限界を迎え、ブレードへと戻る。だが、一夏は構わずに突撃。最高速度で、最短距離を飛んだ。

後、一撃。雪片の刃を二度浴びて、最早シールドは底を尽きかけている筈。

AICは、あのダメージではもう使えない。

迷うな。踏み越えろ。この切っ先を奴にぶつけるまで。

「これで……どうだぁああああああああっ!!」

 

 

だがそれは届くことはなく、一夏は逆に、紫電によって弾き飛ばされていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

シャルロットは 《ブレッド・スライサー》を構え、瞬時加速(イグニッションブースト)で突撃を掛けた。

対する箒も、瞬速超過(オーバーアクセル)で真っ向から打ち合う。

火花を散らせる刃。シャルロットが動く。

左腕部のシールドがパージされ、そこに覗くのは無骨なる弾倉(シリンダー)付の杭打ち機。

第二世代武装最強の威力とされるそれは、六九口径パイルバンカー 《灰色の鱗殻(グレー・スケール)》。

 

別名【盾殺し(シールド・ピアサー)】。

 

「おぉおおおおおっ!!」

シャルロットが吠え、真打鉄目掛けてそれを突き出す。

 

ズドンッ!!

 

「がは――っ!!」

非固定部位であるシールドで受けるも、あっさりとそれを貫いて、衝撃が箒を襲う。

リボルバー式は連射が利く。

そのまま更に弾倉(シリンダー)を回し、次弾を装填。

「舐めるなぁっ!!」

箒は左手に薄刃の刀を展開させ、それを突き出した。

だが構わず、シャルロットが次を撃ち出す。

「グォっ!!」

「―――ッ!?」

シャルロットが更にと弾倉(シリンダー)を回そうとした時、驚愕した。回らない。

視線を移せば、弾倉の僅かな隙間には箒の突き出した刃が突き刺さっていたのだ。

「ハァアアアアアアッ!!」

その動揺を見逃さず、箒はあらん限りの力でシャルロットに向かう。

シャルロットも即座に灰色の鱗殻(グレー・スケール)をパージ。マシンガンを展開させた。

互いに限界は近い。一撃を当てた方が勝利を掴む。

 

 

 

 

だがその勝敗は、突然の事態によって永遠に着くことは無くなった。

 

「グ……ガァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「「―――ッ!?」」

ラウラの絶叫と共に奔る、閃光と紫電。明らかな異常事態に、二人は戦いを止めていた。

「な、何だ……あれは!?」

「シュヴァルツェア・レーゲンが……変わっていく!?」

ISが溶けていき、その中に取り込まれていくラウラ。そして徐々に形を失っていく。

地に堕ちたそれは、早回しのように新たな姿を構築した。

ラウラを模ったような黒の全身装甲(フルスキン)。

腕と足だけに最低限のアーマーを持ち、頭部には顔を隠すようなフルフェイスアーマーに赤いラインアイ・センサー。

とても、シュヴァルツェア・レーゲンであったなどとは思えない変貌を、それは遂げていた。

そして何より、一夏を驚かせたのは――その手に握られた物。

 

「あれは、まさか……!?」

『雪片……っ!?』

 

その手に握られた大刀。和装甲冑を思わせるISアーマー。それはかつて、世界を席巻した最強のIS操縦者の写身。

初代ブリュンヒルデ。その亡霊が今、ここに出現したのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。