IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第19話  VSヴァルキリーファントム/本当に強くなる為に

 

全身に走る衝撃。

それはラウラにとって、絶対に認められないものであった。

二撃。たった二撃で、圧倒的優位は覆された。

それがもしも、シャルロットとの連携であったならば、まだ納得も出来よう。

だが、一対一。真っ向の勝負で、それを覆された。

迫り来る白式。その切っ先にまで闘志を漲らせて、織斑一夏が迫ってくる。

シールドエネルギーはあと僅か。最早、敗北は必至。

 

(認めん……! 認められるものか……っ!!)

 

『お前では、一夏には勝てない』

『お前には力がある。だが……弱い。だから、一夏には絶対に勝てない』

 

(ふざけるな! 私は弱くなど無い!! 力があるという事は、そういう事だ!!)

 

ならば何故、お前は敗北の縁にいる。

 

(敗北の……縁?)

 

あの切っ先、触れれば堕ちる。深い深い闇の中へと。

 

(堕ちる……?また(・・) 、あの”暗闇”に……?)

 

失敗作の烙印を押され、千冬と出会うまで彷徨い続けた――永劫とも思える闇に、また堕ちるというのか。

あの男に、唯一にして完璧なるあの人を揺るがせる――許しがたいあの男によって?

巫山戯るな! 私の力は、いつかあの人になる為にある!!

それを――あの人の栄光を穢したあの男を、壊し尽くすどころか、逆に敗北を刻まれるだと。

 

許さない。許してなるものか。

欲しい。圧倒的で、絶対的で、全てを凌駕する――”力”が。

 

その呼び声に応えるように、何かが脈動する。

 

『願うか? 汝、自らの変革を望むか? より強き力を欲するか?』

 

それ(・・)はラウラに問いかける。

「望む……力を」

それ(・・)がなんなのか、ラウラにはどうでもいい事だった。

『その身の全てを引き換えて、尚も望むか?』

「くれてやる……あの男を破壊できるなら………この”空っぽ”な私など……全て、キサマにくれてやる!!」

 

Damage Level――― D.(ダメージレベル D)

Mind Condition――― Uplift.(精神状態 戦意高揚)

Certification――― Clear.(認証 クリア)

 

ラウラの脳裏に映るそれは、悪魔の契約か。

だが、それでも構わない。

それで、許されざる者を屠れるのならば、そこに我が名を刻む事に躊躇しない。

 

【Valkyrie Trace System】―――boot.(ヴァルキリートレースシステム 稼働)

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ぐぅぅ……ぁああああああアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

ラウラの絶叫。一夏の渾身の一撃を阻むようにして、閃光と雷光が迸った。

「くぅぅ………っ!?」

雪片の切っ先が弾かれ、一夏の進撃も止まる。それどころか、白式は大きく弾かれてしまった。

『一夏、一旦離れて!!』

「くそっ……!!」

何が起きているのか分からず、一夏はそのまま間合いを取り直した。

その目の前で、シュヴァルツェア・レーゲンは見る間に形を失い――そして新たな形を取った。

生まれたのは――その手に世界最強の刃を携えた、漆黒の戦乙女(ヴァルキュリア)

「あれは……まさか!?」

『雪片……っ!?』

「――ッ!!」

一夏は戸惑いと、それ以上の怒りを込めて雪片弐型を構えた。

直後に戦乙女(ヴァルキュリア)は一足で踏み込み、中腰から居合に見立てた繰り出された一撃を放つ。

それは。織斑千冬の太刀筋そのもの。

「グッ!!」

構えた雪片弐型が弾かれる。がら空きにされた懐目掛けて、戦乙女(ヴァルキュリア)は上段に刃を構えた。

「ちぃっ!!」

一夏は即座に緊急回避。唐竹に振り下ろされた一閃は、僅かに胸部のIS装甲を斬り裂く。

「くそっ……! 何でこいつ……ッ!!」

憤りと戸惑いと、混乱しグシャグシャになった頭で、それだけを何とか吐き出す。

今、振るわれたのは一夏が千冬から習った 《真剣》の技。

その時の事を、一夏も春斗も鮮明に憶えている。

 

『いいか一夏。春斗もよく聞いておけ。刀とは振るうものだ。振られるようでは、剣術とは呼ばない』

通っていた剣道場で、一夏の手に握られているのは鈍色の輝きを放つ真鉄。

ズシリとした感触を与え、冷たく光るそれは――人を斬るために生まれ、作られ、磨かれ、鍛えられた存在。

人の命を容易く奪う、美しい凶器。

『重いだろう。それが、”人の命を絶つ”という事の……重さだ』

重い。とても、とても重い。

『この重さを振るうという事。それが、どういう意味を持つのか……良く考えろ。それが”強さ”という事だ』

厳しくも優しく、千冬が説く。

命を絶つ刃を振るう、その意味と意義を。

 

「ふざけやがって……アイツ、よりにもよって……!!」

一夏の内側に、憤怒の炎が燃え上がり始める。

『一夏、落ち着いて!!』

『ッざけんな!! アイツは千冬姉の剣を……あれは、千冬姉だけのもんなんだぞ!?』

『そんな事は分かってるよ!!』

『だったら何で止める!?』

『それは―――ッ!! 一夏っ!!』

「――ッ!?」

春斗の声にハッとして意識を戻すと、戦乙女(ヴァルキュリア)は、その眼前まで迫っていた。

黒塗りの刃が袈裟懸けに振るわれる。

速い。防御も回避も間に合わない。

「一夏っ!!」

直前、影が滑りこんできた。そのまま太刀を持ってその一撃を受け止める。

「ぐぅっ……!!」

「箒ッ!?」

「早く下がれ……! でぇいッ!」

寸での所で割って入ったのは、真打鉄を纏った箒であった。

箒はそのまま戦乙女(ヴァルキュリア)の刃を弾き、戦闘を開始する。

「シャルロット、一夏を下がらせろ!!」

「分かった!!」

すぐにシャルロットが一夏を抱え、後方に退避する。

「待て、シャルロット!! アイツは……!!」

「ダメだよ! 今の白式にそんなエネルギーは無いでしょ!?」

「っ……!」

そう言われて、初めて気が付く。

ラウラとの戦闘のダメージに零落白夜の解放。雪片による攻撃でシールドエネルギーを含め、もう殆ど残されていなかった。

大きく距離を取った所で、シャルロットは一夏を下ろした。

「一夏はここに居て」

「シャルロット……どうする気だ!?」

「僕は篠ノ之さんを援護する……どういう事態か分からないけど、篠ノ之さん一人じゃ持たないだろうからね」

シャルロットが視線を送ったところでは、箒が戦乙女(ヴァルキュリア)の攻撃に押し込まれていく姿があった。

『まずい! あのままじゃ……!!』

春斗は、あれの正体に一つの仮説を立てていた。もしそうなら、あれを一先ず止める方法はある。

だが、もしも間違っていたら―― その瞬間、箒はあの刃に斬り捨てられるだろう。

「ぐっ……ぬぅっ……!!」

飛燕のごとく振るわれる刃。その切っ先が触れる度、装甲が切り裂かれていく。

まるで機械のように正確な動きに、真打鉄を持ちながらも、手負いの箒ではこの場に押さえるだけで精一杯だった。

(このままでは、やられる……!?)

何が何だか分からないまま、一夏が危ない事だけを悟って割って入ったが、もうこれ以上は持たない。

 

「ほーちゃん、太刀を捨てるんだ!!」

 

「―――ッ!?」

突如、開放回線(オープンチャンネル)に届く叫び。その声を聞いた誰もが、驚きと戸惑いを抱く。

「この声……春斗か!?」

「お前……!?」

箒と一夏が、同時に困惑の声を上げる。

「は、春斗……?」

そしてシャルロットは、突然過ぎる出来事に思考を停止させてしまっていた。

「春斗、一体何処から……いや、太刀を捨てろとはどういう事だ……!? そんな事をすれば……!」

「説明してる時間はない! 僕を信じて、太刀を捨てて下がるんだ!! 早くっ!!」

「ッ……!!」

僅かな逡巡。そして、箒は戦乙女(ヴァルキュリア)の一太刀を防ぐと、その手の刃を投げ捨て、一気に後退した。

 

 

「………何?」

箒は、すぐにでも攻撃が来るかと思い身構えるが、しかし戦乙女(ヴァルキュリア)はその場で、まるで目標を見失ったかのようにその動きを止めた。

「お前、あれが何なのか知ってるのか?」

開放回線(オープンチャンネル)では言えない。でも、あれは暴走防止の為、迎撃行動だけに限定されてるんだ」

「だから、箒に武器を捨てろって言ったのか……」

一夏の問いに、春斗は答える。

開放回線(オープンチャンネル)は、秘匿性が低く履歴が残らない代わりに、その会話がピットで記録されている。

なので、下手な事を言えば問題になってしまう恐れがあった。

言い換えれば、それだけ問題のある状態に今現在、一夏達はなっているという事だ。

「春斗っ!」

箒が警戒しつつ、一夏の所まで後退してきた。

「ほーちゃん、怪我はない?」

回線を、個人回線(プライベートチャンネル)を介した会話システムに切り替えつつ、応える。

「あぁ。お前のくれた真打鉄を使っているのだ、問題などある訳がない。それで、お前は何処から……もしかして、この会場に来ているのか?」

「……ノーコメント。ていうか、あんな目に遭って言える訳無いでしょ!?」

「………そうだな、すまん」

先程のシャルロットとのやり取りを思い出し、箒は頭を下げた。そうこうしている間に、警報が鳴り響く。

 

『非常事態発令! トーナメント全試合は中止! 状況をレベルDと判断し、鎮圧のために教師部隊を送り込む! 来賓、生徒は即時避難を!! 繰り返す――』

 

「とにかく話は後だ。一夏、ここから下がるぞ?」

箒は一夏の腕を引き、下がろうとする。だが、一夏はその手を振り払った。

「………駄目だ。アイツは、俺が倒す……ッ!」

「一夏っ!! ……今のを聞いただろう? お前がやらずとも、事態は収拾される。だから危険に飛び込む必要は――」

「それは違うよ、ほーちゃん」

「っ……! 春斗……!?」

箒の言葉を遮るように春斗が言う。そして一夏も、ギュッと拳を握り締める。

「あぁ、全然違うぜ。『俺がやらなきゃいけない』んじゃない。これは、俺が……『俺達がやりたいからやる』んだ。他の誰も関係ない……!」

「一夏……!?」

「ここで退いたらもう、俺は『織斑一夏』じゃなくなっちまうんだ……だから!!」

 

「「奴を……この手でぶっ飛ばす!!」」

 

シンクロする言葉。

余りにもな宣言に、箒は呆気にとられる。

「……で、エネルギーはどうするつもりだ?」

「うっ……!?」

そして、冷ややかな現実をぶつけてやった。

 

「やれやれ、やっぱり一夏は一夏か……」

心底呆れたように、春斗が肩を竦める。

「おまっ!? 俺一人だけかよ!?」

「バカだねぇ。僕がそんな大事な事、忘れてる訳無いでしょう?」

「全くだ。春斗とお前の頭を一緒にするな」

ウンウンと頷く箒。

「なんだと、チクショウ!!」

「それで、一体どうするんだ?」

文句を言う一夏を無視して、箒は春斗に尋ねる。

「……箒、お前だって分かってねぇじゃねえか!?」

「私は良いのだ。何の考えも無いお前の方が、遥かに悪い」

「全く……ほーちゃんに当たらないでよ? 恥ずかしいなぁ」

「お前ら揃うと、本当に俺に優しくないよな!?」

「……優しくする必要があるの?」

「お前は何を言っているのだ?」

「毒舌すぎるだろ! いい加減、俺も泣くぞ!?」

言い合いながら、何時の間にか口元が緩んでいた。

三人揃っての時間。そこに空白の時など無かったかのように。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

『……という事だから、少しだけ僕らに時間をくれる?』

ピットにいる千冬に、個人回線(プライベートチャンネル)を使って春斗は尋ねる。勿論、ログは残さないよう細工してだ。

「……それでいいのか、お前は?」

『前に言ってたよね……「何か、したい事はないのか?」って……これが、そうだよ』

「………」

『我侭言ってごめんなさい。それでも……姉さんの誇りを守るのは……僕達でいたいんだ』

申し訳なさそうに、しかし引く気のない程に強い意思を込めて、春斗は千冬に言い切った。

何を言っても無駄だと、千冬は分かっていた。

だから答える代わりに、一つの指示を飛ばした。

「教師部隊は現状で待機! 指示があるまで、攻撃を禁止する!!」

『――ありがとう、織斑先生』

「……バカ者。”姉さん”で良い」

『ありがとう、姉さん……!』

 

「……あの、織斑先生? 今の通信は一体……誰なんですか?」

「あれは織斑春斗。私のもう一人の弟で、一夏の双子の兄だ」

真耶に千冬はしれっと答える。

「「「「えぇえええっ!?」」」」

真耶とピットにいる生徒が、一斉に驚きの声を上げた。

「お、織斑くんに双子のお兄さんが!?」

「ていうか、何処から通信してるの!?」

「双子……禁断の関係……ジュル」

 

ドゴスッ!!

 

「……言っておくが、これは他言無用だぞ?」

ギロリ、と凄まじい迫力で睨まれ、ピットがシン、と静まり返った。

一人だけ、別の意味で静まっているが。

 

(もしかして、織斑先生って……ブラコン?)

 

スパァアアアアアンッ!!

 

「ヒギャッ!?」

「何か言ったか? 思ったか?」

「な、何も言ってません! 何も思ってませんっ!!」

更に一人の生徒が、尊い犠牲となった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「さてと、それじゃあ真打鉄からコア・バイパスでエネルギーを白式に移す。普通のISだと本当は無理なんだけど……そこは僕に任せて?」

「分かった。私はこのコードを、白式に挿せばいいんだな?」

箒は真打鉄からバイパスコードを抜き、それを振って見せる。

「腰部後ろにコネクタがあるから、そこに繋げて。繋いだら、後はこっちでやるから」

「……よし、挿したぞ」

「これは……ちょっとまずいかな?」

白式内でデータを見ていた春斗が、戸惑いの色を見せた。

「どうした?」

「真打鉄のエネルギーが少し足りない。これだと、一極集中でも零落白夜は使えないな……」

「何……!?」

「じゃあ、どうするんだ!?」

一夏とラウラ、箒とシャルロットの戦闘は二機に予想以上の消耗をさせていた。

こうなれば他から更にエネルギーを取るしか無い。そう考え、真っ先に浮かんだのは鈴であった。

「仕方ない。鈴ちゃんに来てもらって、甲龍から――」

「―― 待って!」

それを止めたのは、ずっと静かだったシャルロットだった。

「……僕のリヴァイヴから、白式にエネルギーを移すよ」

「シャルロット……良いのか?」

一夏が聞き返すと、シャルロットは頷いた。

「うん。僕の方もそんなに無いけど……二機分なら、多分行けると思うから……えっと……」

そう言いつつ、彼女はまだ何か言いたげな様子だった。

「……あの、えっと……」

「悪いけど、今は君と話している時間は無い。後にしてくれるかな?」

「あっ……」

拒絶された。そう感じて、シャルロットの表情が曇る。

箒とのやり取りを見て、そこに踏み込めない壁のようなものを感じてしまった。

幼馴染。知らない春斗の姿を知る存在。

この学園に、それは二人もいる。

篠ノ之箒と、凰鈴音。

エネルギーが足りないと言った時、ここにいる自分ではなく、何処かにいる鈴を頼ろうとした。

それが堪らなくて、思わず声を出していた。

きっと一夏からは、既に自分の事を聞いているのだろう。なら、拒絶されても、それは仕方ない事だ。

「だから一言だけ……ようこそ、僕の祖国へ」

「っ……!!」

続いたのは、優しくて柔らかな声。それだけで伝わってくる、彼の心が。

「うん、ありがとう……”HARU”ッ!」

 

「――それじゃ、コア・バイパスを解放。”真打”を使って真打鉄より白式に、エネルギー移動開始」

「コア・バイパスを解放。リヴァイヴから白式へ、エネルギー流出を許可」

「っ………」

コードを介して、二機のエネルギーが流れていく。

一夏は初めてISを動かした時のような一体感を覚えながら、鮮明になる世界観に集中を高めていく。

そして全てのエネルギーを受け渡し、真打鉄とR‐リヴァイヴ・カスタム?が、強制的に待機形態へと戻った。

「白式を一極限定で再起動。展開は雪片弐型と両腕部……!」

一夏は白式の、武装と腕部ユニットだけを残して他を量子変換する。防御は当然、無い。喰らえば怪我か、もしくは命を奪われるだろう。

圧倒的な危機感に、チリチリと項が焼け付くようだ。

「二人とも……サンキューな」

「礼などいらん。私達と春斗が手を貸したのだ……勝ってこい、一夏!」

「絶対に負けないで………それと、春斗?」

「何……?」

「その……えっと」

言いたい事があるのに、それが多過ぎて全然言えない。

「……これが終わったら、その時に聞くよ?」

「っ……!? ……うん、分かったよ……!」

春斗が言うと、シャルロットの表情がぱぁ、と明るくなる。

『いいのか、そんな事言って?』

『うん、大丈夫だよ。それより今は――!』

未だ動かないままの戦乙女(ヴァルキュリア)を、一夏と春斗は強く見据える。

「……よし、行くぞ!」

一夏は右手に持った雪片を大きく掲げる。そして、それに添えるようにして、”裏白式の左手”で柄を握った。

「行けるか、春斗……?」

「大丈夫、一夏の意識に同調(シンクロ)させるから……遅れは取らないよ」

ならばと、一夏は目を閉じて雪片を展開させる。

一意専心。唯一つの為に、全てを削ぎ落として集中する。

 

―― 零落白夜 発動 ――

 

ヴゥゥゥン……ッ!

 

何時ものように吹き上がる力。だが、それでは駄目だと、一夏は更に集中する。

 

もっと鋭く、速く、細く、何処までも研ぎ澄ませ。

喩えるならば―――世界を覆う闇を斬り裂く、一筋の光のように。

力を、強さを二度と誤らない。その意志を想いを込めて指し示せ。

誰かのために強くある人を知っている。だから、そう在りたいと思うその心。

それを、一振りの刃へと変えろ。

 

スッと、一夏は目を開いた。

果たしてそこにあったのは、光を固めたかのような一振り。

強大な力を放つだけだったそれは、一夏の想いに応えたように、鋭い刃へと生まれ変わっていた。

光の刃を打ち込まれた――日本刀へと。

「ありがとよ、白式。それじゃ……行くぜ、偽物野郎!」

「僕達の前に出てきた事を後悔して……ここで朽ち果てろ!」

二人は雪片を腰に添えて、刃を後ろに引いた――居合の型を取る。

それに呼応するかのように、戦乙女(ヴァルキュリア)は刃を上段へと構え、向かってきた。

 

『いいか一夏。刀とはその重さを利用して振るうのだ。刃を己の手の延長として、その切っ先にまで意識を通せ』

『だから、こうだ!! ええい、ちゃんと見ているのか!? もう一度見せるぞ!!』

 

浮かぶのは、千冬の言葉と箒の姿。

それらが重なり合い、一夏の動きへと変わる。静かなる湖面に、前方から波が立つ。

 

(来る……!)

 

戦乙女(ヴァルキュリア)が袈裟懸けに振り下ろした刃。

それを一合して、容易く薙ぎ払う。

 

ギィイインッ!

 

それだけで、黒い刃は砕け散った。

「「―――ッ!!」」

箒とシャルロットが驚きに目を見開くが、一夏と春斗にして見れば、それは余りにも当然の結果。

すぐさま刃を上段に構え、正中線を一閃した。

一閃二断。

千冬と箒に倣った――戦乙女(ヴァルキュリア)が最初に見せたものと同じ技。

だが、どれだけ忠実に動きを再現しようとも、魂無き模倣品に本物が負ける道理など無い。

光が駆けると、その黒い肢体に亀裂が走り始めた。

「あばよ、模造品(できそこない)……」

「亡霊は亡霊らしく……相応しい地獄へと堕ちろ」

 

『―――――ッ!!』

 

断末魔の悲鳴か。戦乙女(ヴァルキュリア)は、それを上げて砕け散った。

そして霧散していく黒い欠片の中から、抜け落ちるようにして、ラウラが現れた。

瞬間、ラウラと目が合う。

眼帯が外れ、そこに隠されていた【金色の瞳】が、一夏と春斗を映していた。

まるで、世界中の寂しさを詰め込んだような―― 余りにも切ない瞳だった。

 

「「おっと」」

 

雪片を捨て、二人がその手を差し出して、ラウラの体を受け止める。

あれほどに尊大さを振るっていたその体は、少し力を入れてしまえば砕けてしまうのではないかという程に小さく、弱々しかった。

二人はその体を優しく静かに、横抱きにして持ち上げる。

「やれやれ……手間の掛かるお嬢さんだ」

「ま、ぶっ飛ばすのは勘弁してやるよ……ラウラ・ボーデヴィッヒ」

二人に抱かれるその顔が、少しだけ和らいでいたように見える。

果たしてその言葉が聞こえたのか、それを知るのはラウラ本人のみである。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

あの後、試合は中止。

その後の対応を協議するため、学園首脳部はてんやわんやである。

そんな事とは関係なく、一夏と春斗――そして鈴は、廊下を歩いていた。

三人が向かうのは保健室。

あの後、ラウラがそこに運び込まれたので、病院に運ばれる前に見舞いをと向かっていた。

『全く……開放回線(オープンチャンネル)を使うとか、何考えてるのよ!?』

『いや、そう言われても……あの状態じゃ、ああするしか無かったし……』

『だからって、下手したら面倒事になってたのよ!? 少しは反省しなさいよ!?』

『……ゴメン』

鈴に厳しく言われ、春斗も流石に、これには頭を下げるしか無かった。

今やっているのは、声を介さないISの秘匿回線(シークレットチャンネル)を用いた思考会話。

春斗のネットワーク改造の成果である。

『ところで……結局、あの黒いのは何だったんだ?』

一夏が、ずっと疑問に思っていた事を尋ねる。

『あれは【VTシステム】だよ……』

『VTシステム……?』

正式名称【Valkyrie Trace System】。

最強のISを求め、単純明快な答え――最強のISと、その操縦者の複製品を作り出すシステム。

今は国際条約で研究、開発、搭載を禁止された完全な違法品である。

『何だってそんなのが、シュヴァルツェア・レーゲンに……?』

『さぁね。それが軍の決定か……それとも、彼女の知らないままに積まれていたのか? でも、それを使ったのは彼女自身だ』

『どういう事だ?』

『VTシステムはその性質上、暴走の可能性と搭乗者の生命に危険がある。だから行動を迎撃に限定し、更に本人の認証でしか起動できない筈なんだ』

『つまり、あいつは……そこまでして負けたくなかった……?』

『どうだろうね……? 彼女の心は、想像するしか出来ないよ。あ、この事は口外禁止だよ? 鈴ちゃんもね?』

『あぁ、分かってる』

『心配しなくても、言わないわよ。また誓約書なんて書かされたくないし』

鈴はそう言って肩を竦めた。

と、保健室から出てくる人影があった。

「千冬姉……っと、織斑先生」

「ん? どうかしたのか、お前達」

「一応、見舞いって事で……ラウラは?」

「今しがた目を覚ました。だが、今は一人にしておいてやれ……」

千冬はそう言って、首を振った。

今はまだ、そっとしておくべきだという事のようだ。

「分かった。大事ないなら、それで良いよ」

一夏は頷いて、千冬と共に戻ることにした。

 

「ラウラの事もそうだが……春斗。お前、デュノアと何があった?」

「……え?」

言語共有で一夏の口から、春斗の動揺が溢れる。

「あぁ、あたしもそれ聞きたいなって思ってたんだぁ……」

千冬と、そして鈴のジト目が突き刺さる。

「じゃ、俺は下がるから」

「待って一夏!?」

慌てて春斗が止めるも、一夏は容赦なく 《海岸》へと逃げてしまった。

「さぁ、キリキリと話してもらおうか?」

「千冬さん、思いっきりやっちゃって良いですか……?」

「あぁ、許可する」

「いやいや、許可しないでよ!?」

「なら、一つ残らず話せ。隠してもすぐに分かるからな……?」

「………わ、ワカリマシタ……」

結果、春斗は圧力に屈したのだった。

 

「……なるほど、そういう事だったのか」

「道理で、フランスがいきなり第三世代開発を促進できた訳ね……」

春斗は全てを話した。

シャルロットとの関係、そして彼女のために第三世代ISを引換にした事も。

一部始終を聞き、鈴と千冬は呆れ気味に首を振った。

「迂闊過ぎ」

「このバカ者」

「面目次第もありません」

春斗の胸中は、申し訳なさで一杯だった。

千冬は、あの戦いの後に起こった事を語った。

「あの後、デュノアがピットまで来てな。お前の事を何度も聞かれた。通信履歴(ログ)はないのか、どうすればこちらから連絡できるのか……それこそ、必死にな」

千冬のスーツの胸元に皺が出来ているのは、それが原因のようだ。

「どうするのよ、あたしも見てたけど……あれ、相当だったわよ?」

幾ら通信回線を使った会話システムを作っても、肝心のISがエネルギー切れでは使用できない。

結局、シャルロットとの『これが終わったら』という約束は、果たされていないままだった。

「……姉さん。もう一つだけ、我侭を言わせてもらっても良いかな?」

「何だ……?」

 

「シャルロットに………言おうと思うんだ

 

「「ッ……!?」」

何を。などと聞く必要もない。

打ち明ける。その身の事実を、他者に。そう言っているのだ。

「待て、春斗! 落ち着け!!」

「そうよ、何マジになってのよ!? それはマズイって!」

二人が慌てて止めるが、春斗は静かに首を振った。

「シャルロットはね……僕が”体を失ってから出来た、唯一の友人”なんだ。僕は鈴ちゃんと同じぐらい、彼女に救われてきた……だから」

春斗は少しだけ、恐れに震える手を握り締める。

否定される事が堪らなく怖い。それが直ぐにでも、自分の死へと繋がるかも知れないのだから。

「彼女との約束を……ちゃんと守りたいんだ」

友人を疑い、自分を閉じ込め、これ以上はそんな自分で在りたくない。

「信じてもらえないかも知れない。傷つくかも知れない……でも、それでも……このままの自分じゃ、きっとダメだから」

 

『春るんが目覚められないのは、もしかしたら春るん自身の問題なのかもね〜?』

 

世界最高の頭脳を持つ篠ノ之束の言葉が、春斗の脳裏に過る。

一夏は、自分の足で強敵に立ち向かった。

なら、今度は自分が―― 弱さと恐れる心に向きあう時だ。

自分とシャルロットが知り合ったのも、シャルロットがこの学園に来た事も、きっとその為に。

「―― だから、変わるんだ。僕も”強くなる”為に……!」

 

カチリ。と、止まっていた針が一歩、動き出した。

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