翌日。
学年別トーナメントの中止が正式に決まり、発表された。
だが大会自体の目的もある為、その日の午後から一回戦のみが順次行われていく運びとなった。
VTシステムの発動は当然隠され、表向きはシュヴァルツェア・レーゲンの暴走という形で処理がされた。
つまり、『IS学園という、完全なる治外法権の場において、試作ISが暴走してしまった』事にし、各国が自国利益の為に無かった事としたのだ。
『ドイツ第三世代機に違法システムが積まれていた』という事実が明るみに出れば、ドイツどころか欧州連合そのものに大打撃を与えてしまう。
それは国際問題となり、結果として世界経済にさえも深刻な影響を与えるだろう。その裏で、IS学園とドイツ本国との交渉があった事も、想像するに容易い。
トーナメント中止は他の関係各所からの反発があるかと思われたが、そうはならなかった。
何故なら、他の国や研究施設としては行われた一試合だけで、充分な収穫があったからだ。
擬似フォーマットフィッティングプログラム”真打”。
それを用いて、専用機持ちに肉薄した”篠ノ之箒”。
ISの未来に新しい可能性を見せたそれらは、今後の開発に大きな影響を与えるだろうと、誰もが感じていた。
だが、殆どの生徒はそんなドロドロとしたやり取りは無関係であり、ただトーナメントの中止ばかりが話題であった。
「優勝……デート……」
「灰色の青春の脱却が……!」
「全て……消えてしまった……!!」
中止発表後の昼休み。
食堂は何時ものように賑わっていながら、しかし暗かった。
とても、午後から試合を行う意気ではなかった。
「なんだか、壮大な通夜みたいだね……?」
「トーナメント、そんなに楽しみにしてたんだな……」
「いや、そういう事じゃないんだけどね……」
少しばかり、的外れな事を言う一夏と春斗に、シャルロットは苦笑した。
彼女達の落ち込んでいる理由は、勿論”優勝商品”である。
優勝者は、織斑一夏とデートが出来る。
そんな、本人の知らないところで生まれ、本人の耳に全く届かないままに広まった
女尊男卑の風潮が広まり、男子が弱くなっていると言っても、彼女らもやはり乙女なのだ。青春を謳歌したい、恋人を作って素敵な学園生活を送ってみたい。そんな思いは当然ある。
だが、ここは女子高なのだ。しかも全寮制。恋人など、極一部の特殊性癖でもない限りは作れはしない。
そんな中に現れたのが、世界で唯一の男子【織斑一夏】。
彼をものに出来れば、その瞬間には勝ち組確定だ。
本年度の一年は超幸運。二年、三年もまだまだ行ける。青春を上げていくには、まだまだ間に合うのだ。
だがらこそ、トーナメント優勝は是が非でも。
そんな、某メダルの怪人も大歓喜しそうな程にドロッドロな、欲望まみれの思惑は見事に砕け散った。
この後、落ち込みの反動を対戦相手にぶつけてやろうという見事過ぎる八つ当たり精神で、全試合が大荒れになるのは余談である。
だがそんな事、一夏らには全くもって責任も関係もないので、何時ものように日替わり定食―― 今日はさば味噌 ――を買って空いているテーブルに着いた。
「シャルロット、怪我の具合はどうなんだ?」
「うん。顔も腫れは酷くないし、足もそんなに深く切ってないし……普通にしてれば多分、明後日には治ってるよ」
「そっか。痕が残らないと良いな?」
「残ったら……春斗に責任取ってもらうから、大丈夫だよ?
「………そ、そっか」
ニコリと微笑むシャルロットに、一夏は本気か冗談か判断が付かなかった。
ただ、痕が残らないことを切に願った。
「あら、一夏さん。シャルロットさんと二人きりだなんて……随分と楽しそうですわね?」
「………」
と、そこにやって来たのはセシリアと箒。セシリアは笑顔で、そして箒は無言で、しかしどちらも不機嫌さが滲み出ている。
テーブルに四人が掛けると多少手狭だが、それでも詰めて座る。ちなみに席順はシャルロット、セシリア、一夏、箒である。
「昨日は随分と活躍していたようだな……一夏?」
「何でも、外に飛び出したシャルロットさんを追いかけて……彼女をおんぶなさって帰って来られたとか……?」
「………いや、まぁ」
『それ、僕なんだけどねぇ〜』
知られていないのをいい事に、春斗は傍観者を気取った。
あの後、寮に入るや他の寮生に黄色い悲鳴を上げられるわ、シャルロットには「怪我しててシャワー浴びるのも大変なんだ……手伝ってくれる?」などと言われるわ、その上、反省文をしっかりと書かされるわで大変だったのだ。
尤も、後半二つは春斗が相手していたので一夏自身は”肉体的疲労”以外は問題なかったのだが。
それでも、火のあった所に風が吹けば、やっぱり煙はもうもうと上がるのだ。
朝には『一夏×シャルロット』という図式が、実しやかに囁かれる始末。
この広がり方を考えるに、パートナーの申し込みをシャルロットからして、それを一夏が快諾した、という事も遠因のようだ。
「――それで、何か言う事はありませんの?」
「……凄く、狭いです」
ずずい、と迫ってくるセシリアに、一夏はげんなりして言った。
実際、手狭と言っても余裕が無い訳ではない。だがセシリアは密着と言っても良いぐらいの距離にあった。
序に言うと、箒も似た距離である。
「この状況で、言う事はそれだけですの?」
「お前は、そういう所がダメなのだ」
「一夏にそういうのを期待するのは、間違ってると思うけどね〜」
「ぐぅ……っ!」
一言発するだけで、即三倍返しである。
もしかしたら自分は一生、女性に口では勝てないのではないか? そんな事を、一夏は思ったりした。
そんなバカな考えを消し去るように、さば味噌定食をがっつく。味噌の甘めの味付けとホカホカご飯の組み合わせは、正しく至高である。
「そうだ。一夏、あれから春斗とは連絡を取ったのか?」
「っ……!?」
「なっ……何だよ、いきなり……!?」
いきなりの発言に、一夏とシャルロットが驚く。
「いや、せっかくの真打だったのに優勝できなかったからな……というか、そんなに驚く事か?」
「そんな事無いって! ただ、ちょっといきなり過ぎただけだ!!」
箒が訝しんだ視線を向けてくるので、全力で否定する。
「……本当にそれだけか?」
が、そんな態度にさらに怪しいものを感じたのか、箒の視線がますますきつくなっていく。
『あぁ、ほーちゃんは冷たい視線も素敵だね……』
『本当に気楽だよな、こういう時のお前ってさ!?』
「篠ノ之さんがそんな事、気にする必要ないんじゃないかな?
「「………」」
シャルロットがにこやかに言うと、何故か気温が数度下がった。
具体的に言うと、鳥肌が全身に立ってしまう程だ。
「―― ほう、それはどういう意味だ?」
「「ひぃっ……!?」」
箒が静かに返すと、気温が更に下がった。
具体的に言うと、隣のセシリアと身を寄せ合わないと、凍えてしまいそうな程だ。
「どういうも何も、そのままの意味だよ? そんな些細な事、春斗は気にしたりするような小さい人じゃないもの」
「……随分と、知った風に言うのだな?」
「知ってるからね〜………篠ノ之さんよりは」
「……私は幼馴染だぞ?」
「そんな六年も前の話を持ち出して、意味があるの?」
ピクリ。
箒のこめかみに四つ角が見えた。
「ほほう……春斗はその六年も前の関係を今でも大切にしてくれているぞ? 真打鉄の力は正に、その証明だな」
ピキッ。
今度はシャルロットのこめかみに四角が立った。
「ふぅん、そう言えばトーナメントの決着……まだ着いてなかったよね……?」
「そう言えばそうだったな……まぁ、あのまま続けていれば、勝ったのは私だったろうがな?」
「へぇ〜、本気で思ってるの?」
「確かに技量では及ばないだろう。だが、私には負けられない理由がある、だから勝つ。それだけだ」
IS学園の食堂のエアコンはどうやら動作不良を起こしているようで、周囲の気温は、永遠の理力吹雪が吹き荒れそうな程であった。
周囲にいた生徒達は、安全圏である半径3メートルまで退避。
「い、一夏さん……私、もう……」
「ダメだ、セシリア!! 目を閉じるな!! 閉じたら死ぬぞ!?」
脱出不可能な位置に居た、一夏とセシリアは今、正に凍死寸前であった。
「……何、この
「あたしに聞かれても分かんないわよ」
遅れてやってきた鈴と織羽は、その光景に唖然とした。
『織斑一夏くん。シャルロット・デュノアさん。至急、アリーナまでお願いします』
「あ、今日はアリーナの受付するんだったっけ? 行こう、一夏」
「え? あ、あぁ……」
混沌の終わりは校内アナウンス。
呼ばれた二人は食堂を後にし、初夏近い暖かさが学園に帰ってきたのだった。
「むぅ……」
訂正。極一部に寒冷前線は残っていた。
「……何で箒に、あんな喧嘩を売るみたいな事を言ったんだ?」
「何でって……先制攻撃は戦いの基本でしょ?」
「………」
キラキラとした笑顔で、すごい発言をされてしまい、一夏は黙るしか無かった。
『春斗……何とかしろよ?』
『―― こういうのって、絶対に一夏の役回りの筈だと思うんだよね?』
『人聞きの悪いこと言うな!? ていうか、これは明らかにお前の責任じゃねぇか!!』
『くっ……!? 一夏に反論できないなんて……一生の不覚だ!』
『お前……本気で怒るぞ?』
「ねぇ、僕も春斗と話したいんだけど……?」
「……あぁ、
「
「春斗が作った特殊ネットワーク通信で……なんでも、
「そ、それって……とんでもない大発明だよね?」
「多分そうなんだろうけど、春斗は『ただの物真似にさえなってない、出来そこない』だって言ってるからな」
「………えっと、いや、そういう事じゃなくて」
操縦者同士の波長が合うと起こる現象とされているが、そのメカニズムは解明に至っていない。
なのにそれをプログラムで再現した、ということ自体がとんでもない事なのだ。
「はぁ〜、春斗なら仕方ないんだろうね……きっと」
シャルロットは呆れ気味に、そう零した。
そんなんやりつつ、三人はアリーナへの道を行くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
生徒達の荒れっぷり以外はさしたる問題もなく、トーナメントはその日程を順調に消化。
その間、一夏も遊んでいた訳ではない。
割り当てられた雑務や受付を、春斗と共にこなしていた。
(主に事務系を春斗、肉体系を一夏が担当)
全一回戦は三日を掛けて終了。
セキュリティ仕様も通常に戻り、アリーナでもいよいよ訓練解禁となった。
第二アリーナでは一夏が早速、白式を展開させていた。
目的は訓練というよりも、仕様変更された雪片のチェックである。
「―― で、何をどう変えたんだ?」
『まぁ、言うよりは見た方が早いよ。バリア無効化攻撃を起動させてみて?』
「……よし」
一夏は言われるまま、雪片を展開させようとした。
が、何時もならばブレードが開いて、そこからエネルギー刃を出現させるはずなのだが、雪片は僅かに動いて、隙間を作っただけだった。
「あれ……?」
首を傾げる一夏。と、次の瞬間――。
ブゥンッ!!
「っとぁ!?」
その隙間から、全体を包みこむようにしてエネルギー刃が出現。そのまま固着された。
「こ、これは……どうなってんだ?」
『ラウラとの戦いで、一夏が零落白夜を進化させたでしょう? そのデータを基にして、ちょっと改良してみたんだ。少し威力は落ちるけど、その代わりに戦闘可能時間が36%向上している』
「つまり、ガス欠になり難くなったって事か……」
『零落白夜を使う時は、展開装甲が稼動して、ブレード状態で完全に固定されているから』
「展開装甲……?」
一夏は、テキストにさえ載っていない言葉に首を傾げた。
言葉の感じからすると、”装甲”が”展開”する、ということなのだろうが、その意味が分からなかった。
『展開装甲っていうのは、束博士が無換装による全局面展開運用能力の理論を構築して、その為に開発していた物だよ。まぁ、形状変化によって、能力や性能を切り替える……みたいなものと思ってくれれば良いよ』
「それも、第三世代ISなのか?」
『いや、これは言うなれば……第四世代だね』
「っ……!?」
未だ世界中で第三世代が実験中なのに、それを飛び越えて第四世代機。莫大な資金を投入している各国のIS開発をあざ笑うかのような発明である。
「あれ、て事は白式って……?」
『第四世代ISって事になるね。月影にも展開装甲は使われているから、裏白式もね』
「なんか、とんでもない機体なんだな……コレ?」
手の中で新たな光刃を輝かせる雪片弐型を見ながら、一夏はしみじみと思った。
「一夏、お待たせ」
鈴が軽く手を振って、小走りにやって来た。互いに、訓練再開最初の相手となる。
他の面子はこの後に来る予定で、箒のみが真打鉄のレポートを纏める為に一人、悪戦苦闘中である。
「甲龍は直ったのか、鈴?」
「えぇ。早速だけど……慣らし運転に付き合ってもらうからね?」
鈴は待機形態であるブレスレットをかざした。
赤い光の粒子がその身を包みこむと、一瞬で甲龍が展開された。
「それじゃ、始めるわよ!」
「あぁ、思いっきり行くぜ!!」
『それでは……試合開始っ!!』
「「でやぁああああああっ!」」
春斗の声を合図に、二人は同時に突撃した。
―― そして。
「だぁっ! 負けたぁ〜っ!!」
「フフ〜ン。まだまだ甘いのよ、一夏は」
見事に甲龍が勝利。一夏は悔しさに声を上げてしまう。
「あんたの動きは、いちいち読みやすいのよ。そんなんじゃ、この先が思いやられるわね」
『単純突撃のクセは直した方が良いよ、本当に』
やれやれといった風に、二人は首を振った。
「ところで……春斗は全然模擬戦しないけど、良いの?」
『僕は良いよ。練習したって、試合に出れる訳じゃないしね。そんな時間を使うなら、一夏を鍛える為に使うべきだと思うよ?』
「そりゃまぁ、そうなんだけどさ……ちょっと位やっておいたら? あたしも裏白式に興味あるしさ」
「そうだ、やれーっ! そして俺の苦労を少しは味わえーっ!」
『……苦労の残り火は全部、一夏の体に残るんだけど?』
「ハッ!? そう言えば……!!」
内側が変わろうとも結局の所、肉体は一つしかない。つまりは一夏の疲労は二戦やる事と同じなのだ。
『ま、模擬戦に興味がない訳じゃないし……やってみるかな』
「よし。この鈴様がビシビシと扱いてあげようじゃないの!!」
何のかんのと言いつつ、やる気になった春斗と、もの凄く気合の入った鈴に、一夏は一言だけ言った。
「どうか、お手柔らかにお願いします」
だが、その願いは見事なまでに聞き届けられなかった。
具体的に言うと、後からやって来たシャルロットがもの凄く鈴に食い付き、更にセシリアが乱入しての大乱戦となったせいであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ついに……この時が来た……!」
一夏はそれに、感動を禁じ得なかった。
『苦節およそ二ヶ月……長かったね』
そして春斗も、若干ながら興奮していた。
大湯船一、ジェット&バブルバスである中湯船二、檜風呂一に打たせ滝湯が一、サウナに全方位シャワー。
充実過ぎる設備。
そう、此処こそは――。
「THE・大浴場ッ!!」
一夏は両手を上げて叫んだ。当然、腰にタオルを巻くなんて無粋なマネはしない。
今の彼は只の織斑一夏ではない。織斑=フル・フロンタル=一夏だ。
その名に大した意味はない。
本来、大浴場の使用は来月からだったのだが、今日はボイラーの点検があり、元々使用が出来なかったのだ。
その試運転も兼ねて今日、一足早い開放となったのだ。
そもそも、時間さえ決めてしまえば済む事と誰もが思うところだが、なのに何故、今まで使えなかったか。
それは、他の寮生からの強い反発があったからだ。
別段、男子に使わせる事が嫌だった訳ではない。
「男子の後なんて、どうお風呂を使ったら良いんですか!?」
「自分達の入った後に男子が入るなんて、そんなの恥ずかしい!!」
などといった、思春期の乙女の潰えない悩み故であった。
二人的には「普通に使えよ」と言いたいところであったし、「お前ら家でお父さんやお兄ちゃんや弟の前後はどうしているんだ?」と聞いてみたいところであった。
「他人と肉親は違う話だ」と言われれば、それまでだが。
ともあれ、今はこの風呂を堪能する時である。
「まぁ待て、慌てる何とかは貰いが少ないと言うしな。まずは体を洗って
『……温かな風呂場で、肌寒いとはこれ如何に』
高笑う一夏に対して、春斗は本当に冷ややかだった。
「はぁ〜〜〜〜、生き返るなぁ……」
『風呂は良いね。世界が生み出した素晴らしい文化だよ』
「やっぱり日本人は風呂だよな。はぁ〜、泣けるぜ……」
滝湯を浴び、体を洗い、湯に浸かる。
体を洗って入り、また体を洗って入るという、よく分からない拘りを堪能して、一夏は感涙した。
『貸切といえば聞こえは良いけど……誰も居ないのも、それはそれで寂しいね』
「う〜ん、弾とか居りゃあ盛り上がるのになぁ〜」
一夏は中学時代、弾を含めた男子連中で銭湯に行った時を思い出し、ふと呟いた。
その時は大騒ぎしてしまい、銭湯の親父さんにぶん殴られたのだが。
『枯れ木も山の賑わい、か』
男子の肌ばかりを枯れ木と称する辺り、春斗の性格が見えるところである。
大湯船にその身を浮かべながら、湯煙揺らぐ天井を二人は見上げた。
「……トーナメントも、結局中止か……」
『前回のクラス対抗戦も入れて、二度目……行事中止率100%だね。おめでとう』
「めでたくねぇし。………悪かったな、春斗」
『……何の事だい?』
「色々とさ。俺、ずっとイラついてただろ……あぁ、そうだ。千冬姉にも謝んないと……」
『……それで、何でイライラしてたのさ? 確か、ラウラちゃんの時からだろう?』
「あぁ。あいつに思い出させられたからな……あの時の事を」
チャプン、と湯が跳ねる。
「モンド・グロッソ決勝の日……俺が誘拐されたせいで、千冬姉は優勝を逃したし、春斗は危うく消えちまうところだった……」
『………』
当時の春斗は不安定であり、誘拐という精神的負荷の大きい出来事は、春斗の存在を本当に危険な状態まで追い込んだ。
それこそ、あと一歩遅ければ、二度と回復する事は無かっただろう程に。
『あれは別に一夏が悪い訳じゃ……悪いのは、さらった連中だよ?』
「そんな事は分かってるよ。でも、俺がもっとしっかりしていれば、ああはならなかったかも知れない。そう思うと自分が嫌になってさ。ラウラに会ってさ、その時の事がどうにも……今と重なっちまったんだよ」
『一夏……だから、あの試合を自分だけで戦おうとしたの?』
「あの事件が全ての始まりだ。そのせいで、セシリアと鈴が傷ついた。だから、ラウラとの決着は……あの過去との決着だけは、俺の手で着けたかったんだ」
『……どうして、そこまで?』
「―― 偶然ISを動かしちまって、何にも分かんないままこの学園に来てセシリアと戦って、鈴とあの無人ISとやり合って……でも、どっかで春斗に頼ってる自分がいるって気付いたんだ」
一夏の体が湯船に沈み、底に背が触れる。
『最初はそれでも良いかと思った。だってお前と俺じゃ、頭の出来が違うし……でも、それじゃダメなんだよ』
『………』
『いつまでも、このままじゃいられない。
一夏は勢い良く、湯船から体を起こす。
そして乱雑に髪を掻き上げて、湯船の淵に寄りかかった。
「なんて色々言ってもさ……結局は一つなんだよ。俺は……お前の何でも出来る才能が羨ましいんだ。だから、俺だけでも戦えるんだって証明したかったんだ……そうしないと、お前に会わせる顔がない気がしてさ」
一夏は嘆息して、天井を見上げながら可笑しそうに笑った。
全部は下らない意地で、だから強さの意味も、自分の力の意義も見失ってしまったと。
『―― 僕はさ、一夏が凄く羨ましかった……ううん、今でも羨ましいんだ』
「……春斗?」
『どんなに凄いプログラムが作れても、何ヶ国語が分かっても、どれだけの科学式が分かっても……特別な才能なんて欲しくなかった。ただ一つだけ……好きな子の隣を走れる、健康な体だけが欲しかったよ。だから、自分の体から一夏に移って、一時でもそれを得られて……どこかでこのままでも良い気がしてた』
「っ……!?」
『だって、そうじゃないか。二人に負担ばかり掛けて、なのに目覚めない僕。仮に目覚めても、束博士の作った『肉体機能維持装置』に繋がれてるとはいえ、普通の生活に戻れるまでどれだけ掛かる? その上、今の一夏と千冬姉さんはIS学園、僕は医療施設……結局、僕は独りきりだ。だったら……それなら、僅かな時間でも……なんて思っちゃうよ、そりゃあさ』
「春斗……お前、そんなに……?」
初めて聞いた想いに、一夏は何も言えなくなった。
ずっと、目覚めさせる事ばかりを考えていた。だから、目覚めた後の事なんて、きっと誰も考えてなかった。
もしも目を覚ましても、厳しいリハビリがある。
そして一夏と千冬、鈴もそう軽く外に出られる立場ではない。
春斗がISの適性も持っているなら、学園内の医療施設に入れるだろうが、既に簡易検査に於いて、適性無しという結果が出ていた。
つまり―― 春斗は学園には入れない。
目覚めれば孤独。目覚めなくとも―― やはり孤独。
『シャルの為にISを渡したのも、ほーちゃんの為に真打を作ったのも、一夏の訓練のメニューやら考えたり、雪片を弄ったりしたのも……この世界に、自分のいた証拠を残したかったから……言うなれば、”遺産”みたいなつもりだったのかな?』
「春斗……っ!!」
思わず声が荒ぶる。
まるで全てを諦めているような、そんな言葉を認められない。認める訳には行かない。
そんな一夏に、春斗は「クスッ」と笑った。
『”だった”って、言ったでしょ。 ”彼女”に偉そうな事言って、自分がカッコ悪い事、出来ないって……だから、シャルに自分の事を打ち明けたんだし……それと、もう一つ――』
―― ガラッ。
「『え――っ?』」
いきなりした音は、大浴場のドアのある方向から。
だが、今日は男子のみの筈であり、そしてIS学園に在籍している男子は勿論、織斑一夏一人だ。
つまり、湯殿の戸を開ける人間はいない筈だ。
「―― 一夏」
『ほーちゃん……!?』
「ほ、箒……!?」
果たして振り返った先には、長い黒髪をポニーテールに纏めたファースト幼馴染の姿があった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(うぅ……恥ずかしい……!!)
篠ノ之箒は正しく、羞恥の渦の中に居た。
ただでさえ男湯に入るなど、年頃の女子がする事ではない。箒はISスーツを着ていて裸ではない。が、一夏は見事に裸だ。
湯船から覗く濡れた半身を見るだけで、クラクラとしてしまいしまいそうであった。
さて、古風にして武士道一直線な箒が何故、こんな事をしたかといえば、そこには一人の忍の暗躍があった。
時間はその日の放課後。寮の自室に、織羽が帰って来たところまで遡る。
「あの夜以降、デュノアちゃんと織斑君、仲が良いねぇ〜」
「シャルロットは春斗に気があるのだ。問題などない」
「でも、どこかの想い人より近くの彼……なんて事もあったりし………冗談だから、そんな目で睨まないでくれる?」
「……そうか」
と言って日本刀をしまう箒。というか、どれだけ冗談の通じない子なのかと、織羽も冷や汗モノであった。
「でも、最近は凰とも仲が良いよね……もしかして箒、遅れをとってるんじゃないの?」
「なっ……!?」
「だって、約束もご破算だったし。ここらで一気に攻めに転じる時じゃないかしら?」
「せ、攻め……だと?」
何をさせる気だとたじろぐ箒に、織羽はニヤリと笑った。
「今日、大浴場は男子しか使えないんだって――」
それが”悪魔の微笑み”というものだと、箒は初めて知った。
というか、自分が大胆な行動をする時には必ず、彼女が入れ知恵している事にも、早く気付いて欲しいところだ。
そして、あれよあれよという間に、箒は脱衣場まで来てしまっていた。
織羽は入り口近くで待機しているので、逃げようものなら即行で捕まるだろう。
「くそっ、ここまで来ておいて怖じ気づくな……!」
余りにも大胆な行動だが、しかし誰にも邪魔をされないという点は大きい。
「私も……勇気を持たねば……! 私の我侭……そう、その為にだ……!」
決意を固めると、浴衣の帯を解いて、脱いだそれを籠に入れる。
ISスーツとなった箒は、意を決してドアを開けるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「な、何でお前……て、此処は今、男湯だぞ!? 女子は使えないんだぞ!?」
「そんな事は知っている! というか、ISスーツを着て風呂に入る馬鹿がいるものか!!」
「目の前にいるじゃないか!? ていうか、早く出て行けよ!!」
「誰の為に来たと思っているのだ!? 何もせず帰れるか!!」
『何、このむかつく会話は……』
春斗的には「テメェら、いちゃついてんじゃねぇよ!」としか思えない内容であったが、当の本人達は真剣そのもの。
「何をしに来たってんだよ、箒!?」
「そ、それは……お、お前がその……試合がまた中止になってしまった事を気に病んでいるのではないかと思ってだな、その……慰めと、ラウラに勝ったその労をねぎらってやろうと思ったのだ! さぁ、さっさと出ろ、私が背を流してやる!!」
箒は顔を赤くしながら、一息でまくし立てる。
一夏としては、既に体は洗ってしまっているので必要ないのだが、しかし箒の鼻息は荒く、退きそうにない。
こういう時はやるだけやらせて、さっさとお帰り願うのが正しいと判断した。
「………じゃあ出るから、後ろ向いてろよ?」
「わ、分かった……」
箒が背を向けたのを見て、一夏は湯船から体を上げた。
ざばぁ、という水音。そして徐々に大きくなる、ペタペタという素足の音が、箒の心をドキドキとさせる。
本当に来た。
その体から立ち昇る熱気は箒にも伝わり、一糸まとわぬ姿の想い人が直ぐ後ろにいると告げている。
カタン、という音がした。恐らく風呂用の椅子を置いたのだろう。
「……いいぞ?」
「う、うむ……」
箒が振り返ると、そこには思ったよりもずっと大きく、そして逞しい背中があった。スポンジを手に取ると、ボディーソープを付ける。
「ゴクッ……で、では行くぞ……?」
「お、おう……」
充分に泡立てて、箒は一夏の背中にそれを触れさせた。力を入れ過ぎないように気を付けながら、箒は手を動かす。
「どうだ、一夏……痛くはないか?」
「大丈夫……そんぐらいで良い……」
「そ、そうか……」
「……」
「……」
『なに、この夢のようなシチュエーションは?』
背を洗いながら、箒はその後姿に目を奪われていた。
細くもしなやかな筋肉。一朝一夕に鍛えたものではない。恐らくは剣を手放した後も、ずっと鍛える事だけは続けていたのだろう。
そして、所々に見える細かな傷跡。それはISの戦闘で付いたものか、それともそれ以外でか。
背を洗い、首筋から肩、そして腕へとスポンジが動いていく。
洗い続けている内、ドキドキと打つ胸の鼓動はそのままだが、しかし頭に昇っていた血は少しだけ落ちて、冷静さが戻ってきた。
「流すぞ?」
「あぁ」
一夏の方も少しは落ち着きを取り戻したのか、聞く限りでは普通に返事をしていた。
ざぁ、と掛けられた湯が泡を流し落としていく。
「………」
一夏はこれで終わりだろうと、内心で深く安堵した。
誰かに洗ってもらうというのは気持ち良いものだが、しかし恋人でもない女子にそういった事をされるのは精神衛生上、宜しくない。
「…… 一夏」
「っ……!?」
とすん、と少し重く、固い何かが背に当たった。
首だけで振り返ると、直ぐ後ろには箒の髪が見えた。当たっているのは彼女の頭のようだ。
「ど、どうしたんだよ……?」
「お前に聞きたい。私が春斗に告白されたと聞いて………お前はどう思った?」
「え……いや、どうって言われても……あの時はラウラの相手で必死だったから……」
「……そうだったな。なら、そのまま聞いてくれ」
苦笑して、箒は言葉を続けた。
「私はな……一夏、お前が好きだ。幼馴染としてではなく、一人の男として、お前が好きなんだ」
「『っ……!?』」
一夏は思ってもいなかった告白に、春斗は告白した箒自身に驚き、息を呑んだ。
何かを言おうとするが、言葉が引っかかって口から出ない。
「答えなくて良い。そのまま……聞いていてくれ」
「あ、あぁ……」
何とか、それだけを絞り出した。
「春斗に告白されて、私は戸惑いつつもそれを断った……私にはもう、好きな
箒の声が、少しだけ落ち込む。
「最初は春斗への申し訳なさだと思っていた。だけど、違ったんだ……シャルロットが現れたからだ。必死に、縋るように、春斗を求める姿に……私は苛立を感じていたんだ」
「……どうして?」
「その時はまだ、よく分からなかった。だが、あの時……ラウラのISが暴走し、私は突然過ぎる事態に混乱し、不安だらけのまま戦ったあの時……春斗の声がして、それだけで不安が消えて、とても安心した。そして三人が揃って、それだけで何にも負けない気がした………そうして、やっと分かったんだ」
「っ……!」
箒の手が一夏の胸へと回され、ギュッと抱きしめる。
「私は……どうやら、春斗の事も好きだったらしい」
『っ……!?』
「私はお前が好きだ。だけど、お前だけでも……春斗だけでもダメなんだ。今の私はどちらも……誰にも譲りたくないのだ」
『ほーちゃん……』
「箒、俺は……」
「答えなくて良い。本当に節操がないと、自分でも分かっているのだからな……というか、本当に今更だがな」
自嘲気味に笑いながら、箒はすっと体を離して立ち上がった。
その声は少しだけ、涙が混じっているように一夏には聞こえた。
「―― 箒」
「答えなくて良い」
「良いから聞け! ……俺は、お前の事をどう思うかなんてよく分からない。ガキの頃は普通に一緒に居たけど、何時も仏頂面で、不機嫌そうで、人が気を使ってやんないとドンドン一人になっちまって……手間のかかるヤツだったよ、本気でさ」
「……そこまで言うか」
「実際にそうだったろう? そうやって俺が気を使ってやってるのに……お前が素直になるのは、何時も春斗の前だけで……寮の初日だってそうだ。あんだけ機嫌悪かったくせに、春斗の名前が出ただけで直ぐに治ってさ……そういうの見る度に、こう……イラッとしてた」
「っ……!? そ、それはえっと……もしかして、”ヤキモチ”という事か?」
「知るかよ! ただ、そう思っただけだ!!」
そう叫ぶや、一夏は勢い良く湯船に飛び込んだ。
「……長話のせいで体冷えちまったから、もうちょい入ってく。その間に……」
「あ、あぁ……分かっている」
カラカラ、という音がして、気配が浴場から消えた。
そして、一夏はまた湯船の底に沈んだのだった。
「お、どうだった? 上手くいった?」
箒が脱衣場から出ると、そこには織羽の姿。興味の光を隠そうともせずにいるその顔に、全身の力が抜けてしまう。
「ちょっと、大丈夫!?」
「……もう二度とやらんぞ、こんな事。恥ずかしすぎる……」
今更ながら、倒れてしまいそうなほどに恥ずかしく、頭が白くなってしまう。
「よく頑張った。はい、冷たいの」
「あぁ、ありがとう……」
ジュースを受け取って飲むと、少しだけ体が冷えた。確かに恥ずかしかった。だが、それ以上に――。
『こう……イラッとしてた』
『知るかよ! ただ、そう思っただけだ!!』
一夏が、春斗と自分にヤキモチを焼いていた。そう思うとつい、顔がニヤケてしまう。
これはある意味、相思相愛の仲と言えるのではないか、などと思ってしまう。
「ふふ……へへ……えへへ……」
「箒が、壊れた……!?」
織羽は今更に、自分の作戦がやば過ぎたのかと戦慄したのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
大浴場から戻った一夏は、のぼせ気味な体をベッドに横たえていた。
「はぁ〜〜〜〜」
『はぁ〜〜〜〜』
同じ溜め息。なのに、その意味合いは全く違う。
「お前、何で嬉しそうなのさ?」
『そりゃ嬉しいに決まってるよ。ほーちゃんに好きだって言われたんだよ? こりゃもう、嬉しくない筈がないって』
「……あ、そうだな」
本気で嬉しそうな春斗はさておき、一夏は思いっきり悩んでいた。
何であんな事を言ったのか、自分でもよく分からなかったのだ。これではまるで、自分が箒の事を好きみたいではないか。
「………」
本当はどうなのかと、一夏は考える。
箒は幼馴染で、同じ学校、同じ道場に通っていて、親しい仲だった。誕生日やら、クリスマス会やら、新年稽古やら。
そうやって、彼女との思い出を振り返っていっても、やはり分からない。
ただ一つ言えるのは、その時間はとても楽しかった。という事だ。
「なぁ、春斗?」
『何?』
「お前は……箒の何処を好きになったんだ?」
『……最初は誰も寄せ付けないような雰囲気が、気になっただけだった。でも、その裏の弱気な所とか、不器用な所とか、色々見えてきて、何時の間にか……かな?』
「そっか……俺にはよく分かんねぇよ。どう、答えたらいいのかもさ」
『いいんじゃない? これからじっくりと、考えていけばさ。入学前の姉さんの言葉、覚えてるでしょ?』
「あぁ……」
「『求めよ。さらば与えられん』」
入学の数日前。自宅に帰ってきた千冬が告げた言葉。
何処へ行こうとも、日々を充実させるのは、それを求める自分の意志である。だからこそ求めろ、と。
「じゃ、俺も求めるとするか。答えってヤツを……」
『お、ついに朴念神の脱却か!?』
「誰が朴念神だよ!?」
――コンコン。
「ん……?」
ドアのノックする音が響く。
コンコン。……ドンドン。
「このパターンは……!?」
それは以前、箒が尋ねてきた時と似たパターンであった。
あの時はこの後に木刀の一撃が入って、危うくドアを壊されるところだった。
なので一夏は慌てて起き上がり、ドアを開けるべく向かった。が、事態はそんな一夏の想像の斜め上を思いっきり突き抜けていた。
「今開け―― るぶぁっ!?」
ドカーンッ!!
派手にドアが吹っ飛び、一夏はそれの直撃を食らう。更に、そのまま下敷きにされてしまった。
「な、何がどうなって……うぐっ!?」
なんとか起き上がるとした所、ドアが突然、一夏を床へと押しつぶした。
「うぐぐ……苦しい……重い……!!」
「む……? そんな所で何をしている?」
「は……? ら、ラウラ……!? ど、退け……苦しい……」
何とか顔を覗かせると、そこにはラウラの姿があった。しかもISの右腕部を部分展開させ、ドアの上に乗っているのだ。
ラウラはドアから降りると、そのままドアをポイッと、後ろに投げ飛ばした。
「いきなりドアを吹っ飛ばすなよ!?」
「ノックはした。だが開かなかった。だからだ」
「開けようとしたわ!? もうちょっと待てよ!!」
「む、それはすまなかった」
ラウラはちょこんと床に座り、一夏に頭を下げた。
「ところでお前、いつ退院したんだ?」
「今日だ。ISの方が予備パーツの組み上げが遅れてな……こんな時間になってしまった」
あの事件以降、ラウラは検査入院をしていた。なにせ、VTシステムという違法プログラムを使ってしまったのだ。体にどんな悪影響を及ぼすか、詳しく検査する必要があった。
ISもコアが無事だったが、シュヴァルツェア・レーゲンの修理には時間が必要だった。
それが今日、同じ日に終わったという事らしい。
「そっか、そりゃ良かった。……で、なんの用だ?」
「うむ。とても重要なことを伝えたくてな……」
「何だよ重要な――」
事って。と、一夏は続ける事が出来なかった。
何故なら、その唇はラウラによって、塞がれていたからだ。
「…………んんッ!?」
突然の事態に思考停止し、再起動した時にはラウラの唇は離れていた。
「一夏さん……ラウラさん……?」
「あんたら……何をしてるのよ……?」
そして運悪く、騒ぎを聞きつけた寮生が廊下の向こうにいたりした。しかも、ISを起動状態にしてだ。
「せ、セシリア!? 鈴!? 違う、これは違うんだ!!」
「何が違うってのよ! 今、き、きキ………ッ!!」
「キスを……なさって……いましたわよねッ!!」
顔を真赤にしながら、二人が睨みつける。その迫力は、虎やライオンも裸足で逃げ出すほどであった。
「だから、違うんだって!!」
「何も違わん!」
そう言って、ラウラは一夏に向き直った。
真っ直ぐに彼の瞳を見据え、白い肌を羞恥で赤くしながら、ラウラは声高らかに宣言した。
「織斑一夏、お前は……私の”嫁”にする! これは決定事項だ! 異論は認めん!!」
「「「………はぁっ!?」」」
六月最後の波乱が、今更に始まったりする。