IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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Side ラウラ・ボーデヴィッヒ【私という器に】

 

――私は暗闇で生まれた。

影の中で育ち、黒き世界が全てだった。

遺伝子強化試験体として作られ、最強の兵士と成る為だけに生まれた存在。

 

やがて私には【ラウラ・ボーデヴィッヒ】という名が与えられたが、それは単なる識別記号でしか無かった。

強くなり、成果を残す事。それだけが全てであり、自身の存在する理由だった。

そしてそれは順調だった―― あの時までは。

 

IS。

世界の軍事バランスを一変させたそれの出現が、私を奈落へと堕とした。

IS適合性を高める為に埋め込まれた、ナノマシンによる擬似ハイパーセンサー【越界の瞳(ヴォータン・オージェ)】。

理論上の不適合はないとされたそれは、しかし制御不能となった。

赤い瞳は金色に染まり、抑えることの出来ない機能は、全てに於いてマイナスへと変わった。

基準を下回る成績。

最強の兵士となる為に生まれながら、その意義を果たせないままに、私は失敗作とされた。

 

絶望。自分の存在意義を失い、私は闇へと沈んだ。そして、出会った。

 

織斑千冬。

所属していた部隊にやって来たその人との出会いが、私を再び栄光の道へと引き上げてくれた。

強く、凛々しく、完璧なる存在。

それは正に私の理想であり、私が成りたい姿であった。

 

「私には二人、弟がいる――」

 

だからこそ、その教官に汚点を残した者が許せなかった。

 

「もしも会う事があるならば、心をしっかりと持っていろ? 特に一夏の方は、未熟者のくせに妙に女を刺激するからな。油断していると、惚れるぞ?」

 

教官が、完璧でなければならないその人に、あんな優しげな表情をさせる者を許せなかった。

 

「春斗の方はそうでもないが……あれはあれで、さらりと人を口説く癖があるからな。隙を見せると持っていかれるぞ?」

「では、教官も弟に惚れているのですか?」

 

思えばきっと、それはヤキモチだったのかも知れない。そんな下らない事を、聞いてしまったのは。

 

「姉が弟に惚れるものか、馬鹿め」

 

そう言ってニヤリとする教官は、何処か楽しそうで、だから余計にイライラした。

羨ましい。

そう、羨ましかった。会ったこともないその弟達に、私は嫉妬したのだ。

 

 

教官の汚名も、完璧云々もただの口実。

私は私の、この嫉妬心を叩きつけたかっただけだったのだ。

 

 

 

 

 

そして、この国に来て―― 私は出会った。

 

 

圧倒的な実力差がありながら、その瞳は決して怯まず。打ちのめされ、倒れて、それでも立ち上がる。

そう、私は出会ったのだ。そして理解した。

 

「憶えておけ。力があることは、イコール強いという事ではない」

 

あの、教官の言葉の意味を……私は理解した。

強さとは何なのか。そう問いかければ、きっと答えは無数に返ってくるだろう。

 

その内の”二つ”と、私は強烈に出会ってしまったのだ。

 

 

 

 

「何故、お前は強い。どうしてそこまで戦うことが出来る……?」

私は、徐に問いかける。

 

『強さっつーのは心の在処。己の拠り所で……自分がどう在りたいかを、いつも思うことじゃないかって、俺は思う』

『強さは、心から生まれるものだよ。その心がある限り、何度でも立ち上がれる……そういうものじゃないかな?』

 

心の在処……己の拠り所……心から生まれるもの……。それが強さ……?

 

「そう、なのか……?」

『そりゃそうだろ。自分がどうしたいか分からない奴は、強い弱い以前に歩き方を知らないもんだろ?』

「歩き方……?」

『その足で何処へ向かうのか、どうして向かうのか……さ』

 

「どうして、向かうか……?」

私は、何処へ行きたかったのだろう? どうして行きたかったのだろう?

 

『そう、難しく考える事もないんじゃないかな?』

『そうそう。人生やったもん勝ちだぞ? つまらない遠慮や我慢なんてしてたら、人生損するだけだって。やりたいようにやらなきゃ人生じゃないってね』

 

そう言って、そいつはニヤリと笑って見せる。そしてもう一人は、呆れ気味に肩を竦めた。

 

『一夏はもうちょっと、自重する事を覚えた方が良いと思うけどね?』

『何だと!? 春斗、俺の何処が自重してないってんだよ!?』

『……全部?』

『よーし分かった。喧嘩売ってんだな? だったら買ってやるぞ、この野郎!?』

 

彼らは、私そっちのけでいきなり言い合いを始めた。

言葉だけを聞けば、酷い罵り合いの様だ。だが、その顔はとても楽しそうで。この二人の間にある、普遍的な繋がり――絆。

 

あぁ、そうか。多分……これが”強い”という事なのだろう。

 

「お前は……お前達は、だから強いのだな。だから、強くあれるのだな……?」

 

そう私が言うと、二人は言い合いを止めて、目をパチパチと瞬かせて、そして――。

 

『俺は強くなんて無いぞ? 全然、全くな』

『僕は強くなんて無いよ? まだまだ、全然さ』

 

同時に、私の言葉を否定した。

だが、どうしてだ?あれだけの”強さ”があって、どうして強くないという?

 

『だけど、それでも強いっていうんなら……きっと、そう』

『強くなりたいから、だから強いのさ』

 

強く、なりたいから強い……?

 

『それに……俺達には強くなって、やりたい事があるからな』

「それはなんだ……?」

 

私は、その答えを求めた。

それはきっと、私の欲しいもののような気がしたからだ。

 

 

 

『誰かを守ってみたい。自分の全てを使って、ただ誰かの為に戦ってみたいんだ』

 

『大切な人を守りたい。その人の大切なものを、大切な世界を、全身全霊をもって守りたいんだ』

 

 

 

その言葉は、私には眩しすぎた。

何故ならそれは、あの人の様だったからだ。

 

「私には無理だ……空っぽの私には……何も無いから」

 

そうだ。【ラウラ・ボーデヴィッヒ】という器には、何も無い。

だから、強くなんてなれない。

 

 

『それは、違うと思うよ?』

 

「……?」

何が違う? 私は……。

 

『僕の行ってた道場の先生の言葉に、こういうのがあるんだ。【人とは人として生まれるにあらず。皆、未熟なる者として生まれ、学び、感じ、そして人になるのだ。故に人に成ると書き”成人”と読み、人に達すると書いて”達人”である】ってね』

 

人に……成る? 人に……達する?

 

『人は誰でも、最初は空っぽなんだよ。そこにどんな中身を入れていくのかは……君次第じゃないかな?』

「私は……だが、私は……」

 

『あのなぁ、お前にもあるだろう? 中身って奴がさ』

そう言って、そいつは私の胸を指差す。

 

『お前の中にはもう、なりたい自分が……千冬姉がいるんだろう? それに、俺と……春斗もだ!』

『他にも、きっと気付いていないだけで……君は空っぽなんかじゃないよ』

 

私は……私にも……あるのか? お前達のように……?

 

『それに僕達にも、君が中身になっているからね』

『そういう事だ。だから――』

 

そいつは私にまっすぐ、手を差し伸ばして言った。

 

 

『だから俺が、お前を守ってやるよ。ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

 

「っ……!?」

それはまるで、対戦車ライフルを撃たれたかのような衝撃だった。

 

―― お前を守ってやるよ。

 

私は……こいつの前ではただの”女”なのだ。

そう、私は―― ときめいてしまった。

 

『君が迷うなら、その手を引いてあげるぐらいは……してあげるよ?』

 

そう言って優しく差し出される手は、初めて教官と会った時のように、希望を与えてくれる。

 

 

あぁ、なるほど。

これはズルイ。いや、卑怯と言ってもいい。

 

これは―― 確かに惚れてしまう。

 

 

 

 

そして、光が弾けて――― 世界は元の姿を取り戻す。

 

 

ざわめきと土埃の中で、私は強く温かな”二人”の腕に抱き締められる。

その温もりは、私を心安らかにしてくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

ぼんやりとした視界に、光が揺らいでいる。

「気がついたか?」

「きょう……かん?」

ベッドの脇に視線を向けると、そこには千冬の姿があった。

「私は……どうして……ッ!?」

体を起こそうとするが、引きつったような痛みが全身に走った。

「無理な負荷が掛かった事による筋肉疲労と、全身打撲がある。しばらくは動けんだろうから、無理はするな」

「……何が、起きたのですか?」

それでも無理矢理に体を起こし、ラウラは千冬を真っ直ぐに見つめた。

流石に教え子だけあってか、千冬の誘導にそう安々と引っからない。

 

「……一応、機密事項の上に重要案件なのだがな」

眼帯がなく顕にされた、金と赤の瞳に見つめられて、千冬はここだけの話と暗に伝え、言葉を続けた。

 

 

「VTシステムを知っているか?」

「―― ヴァルキリー・トレース・システム。過去のモンド・グロッソの部門優勝者(ヴァルキリー)の動きを再現(トレース)するシステム……ですが、あれは」

「IS条約によって、どの国家、企業、団体でも研究、開発、使用の一切を禁止されている。それが……お前のISに積まれていた。巧妙に隠されて、な……」

「………」

「操縦者の精神状態、ダメージの状態、そして何より操縦者の意思……いや、願望を引き金として、発動するようになっていたようだな。現在、学園はドイツ軍に問い合わせをしている。恐らくは査察が入るだろう」

「………」

ラウラは黙って、しかし目を逸らさずにそれを聞いていた。

「……私が、望んだからですね」

 

織斑千冬になりたいと、そう願って。負けたくないと、そう願って。

自分の弱さが、禁断の果実へと手を伸ばさせた。

 

そう、自業自得だ。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

「っ――!? は、はい!」

いきなり名を呼ばれ、ラウラは驚きつつも返事をする。

 

「お前は誰だ?」

「自分は…………【ラウラ・ボーデヴィッヒ】です」

迷いながら、だけども、ラウラはその名を名乗ることが出来た。自分は自分だと、空っぽではないと教えてくれた声があったからだ。

 

「そうだ。お前はお前であり、他の誰にもなれはしない。それは同時に、他の誰もが【ラウラ・ボーデヴィッヒ】にはなれないという事だ」

「……」

「ならば、ラウラ・ボーデヴィッヒであるように、これからも悩め。その時間はたっぷりとある。この学園にいる間も、その後も……死ぬまでだ」

「……はい。私は【私という器】に、これからもっと……中身を探します。何時か……”人に成る”為に。”人に達する”為に……」

「……そうか。それなら、もう一つだけ言っておこう」

千冬は席を立って、そして不敵に笑って見せる。

 

「お前では、あれの姉にはなれないぞ? こう見えて、心労は尽きないからな」

「……そう言いながら、楽しそうですが?」

「そう見えるか?」

「はい」

「………もうしばらくしたら、医療施設へ搬送される。数日は検査入院だ。覚悟しておけ」

「了解です。教官」

 

千冬は言うべき事はもう無いと、そのまま保健室を出て行った。

 

 

 

 

 

「ふふ…あはは………!」

 

 

本当に、好き勝手言う姉弟だ。

強さでも、言葉でも、完全に負けてしまった。

 

だけども――それが心地良いと感じるのは、どういう事だろうか。

 

「そうか……これが、私の”始まり”なのだな……」

 

作られた存在から、ラウラ・ボーデヴィッヒという人へのスタートは、全身の痛みに祝福されてのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

病院へと移り、一日目。

今頃はトーナメントがどうなったか、発表されている頃だろうか。

そんな事を全く思いもせず、ラウラは悩んでいた。

 

「むぅ……」

初めて抱いたその想い―― 一夏への思慕をどうするべきか。

「やはり、春斗に相談するべきか……いや、それ以前にあの意味も、よく分からないのに……」

 

あの時起きた現象が何か、ラウラには分かっていた。

 

 

―― 相互意識干渉(クロッシング・アクセス)だ。

 

 

相互意識干渉(クロッシング・アクセス)とは、IS同士の情報交換ネットワークの影響とされているもので、操縦者の波長が合うと起こるとされている。

 

だが、具体的なメカニズムは解明されていない。

それを知るのは唯一人―― 篠ノ之束博士だけだろう。

 

 

 

だが、ここは大した問題ではない。

 

問題なのは、あの時の相互意識干渉(クロッシング・アクセス)したのが、一夏だけでなかったという事だ。

 

 

こういう時、誰に相談したらいいか。

悲しくもラウラには、思いつく相手がいなかった。

 

 

 

「―― 仕方ない」

こういった私事のために連絡をするのは気が引けるが、選択肢は他にない。

 

ISは修理中なので、ラウラは端末を手に取った。

 

 

『―― こちら、クラリッサ・ハルフォーフです』

「ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ」

『如何しましたか、ラウラ隊長?』

通信相手はラウラが隊長を務めるIS配備特殊部隊黒ウサギ隊(シュバルツェア・ハーゼ)。その副隊長を務める、クラリッサ・ハルフォーフ大尉である。

「うむ……その……大尉に、部下としてではなく、一個人として聞きたい事がある」

『何でしょうか?』

「………好きな男が出来た。どうすれば良い?」

『………………申し訳ありません。電波が上手く繋がっていないようです。もう一度、宜しいでしょうか?』

「好きな男が出来た。どうすれば良い?」

『…………えっと……それはつまり、あれですか? 所謂一つの……恋の相談、という事ですか?』

「そういう事だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

クラリッサ・ハルフォーフは非常に戸惑っていた。

正直なところ、あのラウラからこんな相談をされるなど、一ヶ月前には思いもしなかったからだ。

鉄面皮、人付き合いに問題多々あり。正直良い印象を抱いていなかった。

 

それがこの変わりよう、何があったというのか。

 

『大尉?』

「いえ、何でもありません。まずはその……どういった経緯でそうなったのか、教えていただけますか?」

だが、どんな経緯でも自分を頼ってくれたということは、少し嬉しく思った。

 

 

 

 

 

 

「………ふむ。相互意識干渉(クロッシング・アクセス)で……しかも、二人とですか……」

『そうだ。これの意味する所も、私には分からないのだが……とにかく今は建設的意見が欲しい』

クラリッサは事の流れを聞き、その事態の複雑さに渋い顔をした。

 

ラウラの恋の相手は、ドイツで教官を務めた織斑千冬の末弟。名前は織斑一夏。

 

そして、その切っ掛けとなった相互意識干渉(クロッシング・アクセス)では、何故かそこにいない筈のもう一人の弟、織斑春斗がいた。

 

 

クラリッサはその全知識(偏り多々あり)をフル活動させて、その答えを求めた。

 

まずは、織斑一夏に対してどうアプローチするべきか。

「隊長。まずはその想い人の方からですが……宜しいですか?」

『うむ。で、どうすれば良い?』

 

「話を聞く限り、どうやら織斑一夏には、他にも何人か想っているものがいるようですね」

『うむ。その通りだ』

 

 

 

「ならばここは………ズバリ、【嫁宣言】ですっ!!」

 

 

 

クラリッサは、あらん限りの力を込めて叫んでいた。

 

『嫁、宣言だと……それは何だッ!?』

「日本では気に入った相手を『自分の嫁にする』という風習があるのです!!」

『なん……だと……!?』

「これをすれば、彼へのアピールは勿論の事、他の者への牽制になるでしょう。更にインパクトを付けるには……ここは一気に、キスでもしてみるのも良いと思います」

『き、キキキ……スス……ぅっ!?』

通信越しの声が面白いぐらいに動揺している。きっと、あの白い肌を朱色に染めているのだろう。

その顔を見れない事が、何とも残念で仕方なかった。

 

 

「そして、もう1つの事ですが……」

『う、うむ……どうなのだ?』

 

 

「それはズバリ……【憑依現象】ですっ!!」

 

 

『憑依現象……だと!? それは一体……!?』

「では、私の全知識をもって……ご説明しましょうとも!!」

 

 

 

 

無数に存在する可能性分岐。もしくは別の繁栄や、文化文明を築く異世界。

 

それらは本来、次元の壁によって阻まれている。

だが、それを超えてしまう事がある。それは召喚、あるいは転生、もしくは憑依という現象である。

 

 

憑依とは別世界で死した、あるいは何らかの切っ掛けで、元の肉体を離れた意識=魂的存在が別世界の人間の体に入り込み、その相手の人格を上書きする事で乗っ取る。という現象の総称である。

 

 

 

『そ、そんな恐ろしい現象が……起こっているというのか……!?』

「残念ですが……日本ではよく起こっている現象のようです」

『な、なんという事だ……!』

ラウラは、その現実に愕然としているようだ。だが、そこに救いがない訳ではない。

「ですが、今回はそれらとは少し違うようですね」

『どういう事だ?』

「本来、憑依現象は別世界から来るものですが、しかし彼の場合、同一世界の存在……しかも肉親で、彼の意識も存在しています。その辺りに、何かしら秘密があるかもしれませんね……」

『秘密とは何だ?』

「それはさすがに……教官辺りに上手く、探りを入れられては如何でしょうか?」

『むぅ……それしか無いか』

「いいですか、あくまでもさり気無くですよ? 織斑教官の怒りに触れれば、どうなるかは……ご存知でしょう?」

『うむ。心配するな、必ず聞き出して見せよう。では、一度切る。そろそろ担当となった医師が来る頃だ』

「担当医ですか? その者は信用なるのでしょうか?」

『教官のお墨付きだ。心配は無用だ。では、また後ほど』

 

 

ラウラが通信を切り、クラリッサは一人考えた。

 

 

憑依。まさか、この目にする時が来ようとは。いや、実際に目にした訳ではないが。

「一度、資料を見直しておくべきか……」

そう独りごちて、クラリッサはPCを立ち上げた。

 

 

 

資料とは、”二次ファン”というサイトであった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ボーデヴィッヒ、入るぞ?」

「織斑教官……? 態々、おいで下さったのですか?」

病室にやってきたのは千冬ともう一人、眼鏡を掛けた中年ほどの男性。彼が担当のようだ。

「こちらがお前の担当をしてくださる、高柳先生だ。挨拶をしろ」

「はじめまして。高柳裕次郎です」

「ッ……もしやあの、”プロフェッサー・タカヤナギ”ですか!?」

ラウラはその名を聞き、驚きと共に目を見開いた。

「おや、私を知っているのかな?」

「知っているも何も、プロフェッサーのご高名は遠く、ドイツ本国にも響きわたっています」

「あはは……いや、これは恥ずかしい事だ……」

高柳は気恥ずかしそうに頭を掻きつつ、ベッド脇の椅子に腰を下ろした。

 

「先生は弟の主治医でもある。信頼の置ける人だ」

「弟……織斑一夏の事ですか?」

「いいや、もう一人の弟……春斗の方だ」

「っ……そう、ですか。教官、一つお尋ねしたいのですが……?」

「何だ?」

 

「織斑春斗は………今、生きていますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それで、どうでしたか?』

「うむ。聞いてくれ」

 

ラウラはその身を犠牲にして得た情報を、クラリッサに伝えた。

犠牲というのは、頭頂部に出来た見事なタンコブである。

 

『………全然、さり気なくないとか多々ツッコミたい点がありますが、一先ずは置いておきましょう』

「うむ」

『織斑教官のリアクションを聞く限り、織斑春斗は生きているようですね。しかし恐らくは……意識不明の状態にあると推察されます』

「何と……そんな事に!?」

『プロフェッサー・タカヤナギ程の方が主治医を務めている以上、事態は深刻でしょうね』

「うむ。私もそう思う。で、今後の対策は?」

『織斑春斗が織斑一夏に憑依している事を、教官がご存知なのかは不明です。しかし、織斑一夏はそれを知っている。ならばこれは使えるかも知れないですね』

 

ラウラには分からないが、クラリッサの瞳が悪巧みでも思いついたかのように、鋭く細まっていた。

 

『隊長。ここは一つ、隊長の度量を見せるべきです』

「度量……?」

『えぇ。秘密を共有する仲となれば、彼の心は隊長に大きく傾きますし、最大の味方である、彼の兄というカードを得られます!!』

「そ、それは本当か……!?」

『勿論。更に、彼を目覚めさせ事態の回復を成したとなれば……最大の障害、織斑教官でさえ、隊長を認めざるをえないでしょう!!』

「っ………!!」

その言葉は、落雷の如くラウラを撃った。

「ありがとう、ハルフォーフ大尉」

『隊長、今後も気兼ねなくご相談下さい。それと……』

「……?」

『私の事はクラリッサと……そう呼んで下さい、隊長』

「………分かった。ありがとう、クラリッサ」

 

 

 

 

それから更に数日が流れ、ラウラは退院。

そして、ISシュヴァルツェア・レーゲンも無事に組み上げられ、受け取れた。

今、彼女は寮の廊下を進んでいる。目指す部屋はすぐそこだ。

 

「始めよう……私という存在の、第一歩を」

 

【ラウラ・ボーデヴィッヒ】という器に、多くのものを入れる為に。

彼女は、その扉をノックした。

 

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