IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第22話  騒がしき夜/星空に紅は呼ばれる

夕方近いドイツ。ここはIS配備特殊部隊黒ウサギ隊(シュバルツェア・ハーゼ)

ドイツに配備されているIS十機の内、三機を配備されているエリート部隊の基地である。

 

「大尉。部隊員、全員集合しました」

 

作戦室に集まったのは皆、うら若き少女達。全員が黒の軍服と、ラウラと同じような眼帯を身に付けていた。

 

集合した面々を見やり、副隊長であるクラリッサはいつになく厳しい表情を見せる。

「諸君。私は、重要事項を伝えなければならない」

そのただならぬ雰囲気に、全員が固唾を飲んだ。

 

「隊長に、好きな男が出来た」

 

 

 

『………は?』

部隊員十数名。全員が心を一つにして、間の抜けた声を出した。このリアクションも仕方ないと、クラリッサは一から説明を始めた。

最初は戸惑い気味だった少女達も、しかし徐々にキラキラとその瞳を光らせた。

「で、ですが隊長は、本気で織斑教官の事を好きだとばかり思っていましたが……?」

「そうだろう、そうだろう。だが、あの隊長が、あの隊長がだぞ? 『好きな男が出来た。どうすれば良い?』と、私に聞いてきたのだ!!」

 

「キャーッ!!」と、黄色い悲鳴が上がった。歳相応の乙女のリアクションである。

 

「だから私は教えた。日本には気に入った者を”私の嫁”と呼ぶ風習があると!!」

「流石は副隊長! 日本に詳しい!!」

「当然だ。伊達や酔狂で、日本のアニメや漫画を愛好している訳ではないっ!!」

「カッコイイです、大尉!!」

日本人が聞いたら即ツッコミか、怒りを抱きそうな内容であるが、幸か不幸か、日本人が此処には居なかったりするので全面スルーである。

 

「ではラウラ隊長は今、その意中の男性に……?」

「正に、嫁宣言をしている頃だろうな」

「くぅっ……そんな可愛い隊長を見られないなんて……!! どうして心を通わせなかったの、私は……!」

「私もそう思う。だからこそ我々は、遠き異国にいる隊長の恋路を祝おうではないか!」

「こういう時、日本では”赤い米”を炊くそうですね」

「その通りだ。おそらくは、”血よりも濃いものがある”という教訓なのだろう」

「流石は日本!」

「そこに痺れる、憧れる!!」

「よし。ではこれより兵舎食堂に向かい、赤い米を炊くぞ!!」

「「「了解ッ!!」」」

 

重ねて言うが、黒ウサギ隊(シュヴァルツェア・ハーゼ)はエリート部隊である。

どこぞの女子サークルでは、決して無い。

正規の軍人であり、エリート部隊に相応しい技術と誇りを持つ、正真正銘のエリート達である。

 

そして、赤い米を炊くのは確かに祝い事のあった時だが、少なくとも彼女達の意味合いは、違うと言わざるをえない。

 

重ねて言うが、此処に日本人は居ない。なのでツッコミ不在のまま、彼女達の間違った上に偏った認識は何処までも突き進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

同時刻。IS学園一年生寮。

 

 

「織斑一夏、お前は……私の”嫁”にする! これは決定事項だ! 異論は認めん!!」

 

 

ラウラの嫁宣言によって、時は凍りついていた。

 

 

 

「「「………はぁっ!?」」」

そして、時は再び動き出した。

 

「な、なんで一夏があんたの”嫁”なのよ!?」

「フッ……馬鹿め。古来より、この国では気に入った者を”嫁にする”という風習がある事を知らんのか?」

「んな風習、初めて聞いたわよ!!」

「そうか、ならば引っ込んでいろ。”私達”は今、とても忙しいのだ」

まるで犬猫を追い返すようなその態度に、二人の怒りが臨界点を迎えた。

「あ……あなたという人はぁ……ッ!!」

「一夏ぁっ! あんたも何か言いなさいよ!?」

「いや、とりあえず落ち着け!? ここで暴れるのは、本気でまずい!!」

もしこのまま暴れられれば、この部屋は数秒と経たずに崩壊するだろう。

それだけは、何とか避けたい。その為には、鈴とセシリアに冷静になってもらわねばならなかった。

 

 

「ふむ。ここでは落ち着いて話も出来んな……よし、何処か”二人きり”になれる場所へ行くぞ?」

所がどっこい、ラウラさんは何処までもマイペースでした。

 

ラウラは両腕にISを展開させると、ひょいと一夏を抱き上げた。

「ちょっ、ラウラ!?」

『最近のドイツ淑女は大胆なんだねぇ〜?』

『わおっ。て、言ってる場合か!?』

そんな事をやっている内に、ラウラがガラリと窓を開け放った。

 

「待ちなさいッ!!」

「お待ちなさい!!」

鈴とセシリアがそれを追いかけるべく、部屋に踏み込もうとした。

 

 

 

ガツンッ!!

 

 

 

しかし、ISを展開しているせいで、互いに入り口でぶつかって引っかかってしまう。

「ちょっと鈴さん!? 邪魔だからお退きなさい!!」

「そっちこそ退きなさいよ!! 無駄なのよ、そのBT兵器が!!」

「鈴さんこそ、衝撃砲が邪魔臭いですわよ!!」

【嫉妬に燃える乙女モード】のスイッチが入ってしまった二人に、譲り合いの精神なんてものはない。

 

「ぐぬぬぬ……っ!」

「ふむぅうう……っ!」

 

ミシミシ、という不吉極まりない音が、壁からし始めた。

 

「待てお前ら! 壊れる、壊れるから!!」

「では行くぞ」

「待ってくれぇええええええっ!!」

「「待てぇえええええっ!!」

 

 

 

ドォオオオオオオオンッ!!

 

 

 

ラウラが窓辺から飛び立ち、一夏の悲鳴が反響した時、不吉なる音は絶望の音を奏でた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「箒……それはダメ過ぎない?」

「それは重々分かっている。だが、その……そういう結論になってしまったのだから、仕方ないではないか!?」

「うん、全然仕方なくないから。ていうか、二股宣言するメインヒロインが何処の世界にいるってのよ!? あんた、この業界をナメてるの!?」

「業界とは何だっ!?」

1025号室では本日の、【篠ノ之箒反省会】が開かれていた。

 

議題は『何故に、告白したくせに、兄の方まで好きとか言っちゃってんのよこの子は!?』となっています。

 

 

「大体、自分で告白蹴っておいて……まぁ、色々と気にしていたみたいだけど……それはちょっと都合良すぎるんじゃない?」

「それも分かっている……だが、その……あの時……」

箒はモジモジとしながら、ポツリポツリと話し出した。

 

「トーナメントの試合中、ラウラのISが原因不明の暴走して、一夏はそれに立ち向かった……その時の事だ」

箒は言いにくそうにしながら、しかし織羽の視線の追求に言葉を続けた。

「雪片を構えた一夏の後ろ姿に……重なって見えたのだ、春斗の背中が……」

 

六年前以降、一度として会った事のない、見た事がない筈の、成長した春斗の背中。

 

それが見えた時、箒は分かったのだ。

一夏との思い出の中に、春斗は何時もいた。春斗との思い出の中に、一夏は何時もいた。

 

だからこそ、それがあるからこそ。篠ノ之箒の想いは、三人でなければならない。

 

勿論、何時かは答えをハッキリさせなければならない事だが、少なくとも今は――。

 

「………はぁ。ま、当座は織斑君対策を続けますか。どっちにしろ、双子兄の方は居ないんだし」

「……すまない」

「別に良いって。それじゃ、早速……」

 

 

 

ドーンッ! ドババババッ!! ちゅどーんっ!!

 

 

 

「何よ、騒がしいわね?」

「……明らかに発砲音と爆発音だぞ? それを聞いてその程度のリアクションなのか!?」

「え? 別に普通じゃない?」

「普通ではないだろう!?」

ともあれ、何事かは気になるところ。カーテンを開けて、二人は外を見た。

 

 

「「………へ?」」

 

 

そこはもう、カオスの極地であった。

 

 

 

何時帰ってきたのか、ラウラが後ろから迫る鈴とセシリアと撃ち合いながら、一夏を抱えて飛ぶシャルロットを追い掛けていた。

 

 

 

「何がどうなって、こうなった……?」

織羽はこの状況がどういう事なのか知る為に、一先ず廊下に出た。

と、丁度そこに同じ2組の子が居たので捕まえた。

「漆原さん、一体何があったの?」

「え!? 何だかよく分からないけど……織斑くんがキスされてプロポーズされて、お嫁さんなんだって!!」

「………はい?」

意味が分からず、聞き返してしまった。

だがしかし、それだけで充分な存在がいたりした。

 

「ふふふ……アハハハ………ハーッハッハッハッ!!」

「ちょ、箒ぃ!?」

「嫁だと……プロポーズだと……キスだとぉ……っ!? 私が、あれだけ恥ずかしい思いをして、あんな……!! 良いだろう、この私が引導を渡してくれるっ!!」

そう言うや、修羅となった箒は廊下を一目散に走っていった。

「ちょっと待ちなさい! 絶対に事態がややこしくなるだけだから!!」

それを止めるべく、織羽もすぐに追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

シャルロットは部屋で一人、備え付けの椅子に座りつつ、ニヤニヤとしていた。

それは、デスクの上にある写真立てに原因があった。

 

「エヘヘ……小さい頃の春斗って、凄く可愛いなぁ〜」

 

そこにあったのは、ねだりにねだってついに貰った春斗の写真。

といっても、中学に上がる前には一夏の中にいたので、写真の春斗は最も新しい物―― 新年に袴姿で撮った写真である。

他にも数枚を見せてもらったが、双子というだけあってやはり良く似ていた。

だが春斗の方が、線が細くて背が少しだけ高かった。

「エヘヘ〜、今だったらどんな感じなんだろうなぁ〜」

妄想の翼は、いよいよもって広がり始めた。

 

「一夏の線をもっと細くして、背を少しだけ高くして、眼鏡なんかを掛けてみたり。

そんな姿で、あの声を響かせて―― きっと、甘い言葉をささやくんだ」

 

 

『可愛いシャルロット。君の全てを……僕だけのものにしたい』

 

 

「やだ、そんな事……でも、春斗がどうしてもって言うなら……!」

イヤンイヤンと、妄想に口説かれて悶える美少女。なかなかシュールな絵面である。

 

――ドォオオオオオオオン!!

 

そんな少女の妄想劇に終止符を打ったのは、突然の爆発音だった。

「え……何が?」

と、窓まで行くと、そこに彼女を凍りつかせる光景があった。

ラウラが一夏を抱えて、夜空を飛んでいたのだ。更にそれを追って、鈴とセシリアが飛び出してきた。

次の瞬間。シャルロットは窓を開け放ち、外へと飛び出していた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ラウラ、一体どういう事なんだよ!?」

「どういう事も何もない。お前は私の嫁だ!」

ワイヤーブレードで鈴とセシリアを牽制しつつ、飛んできた双天牙月をプラズマ手刀で落とす。

「うわぁっ!? 鈴、セシリア、マジで危ないから止めろって!!」

「安心しろ。嫁にも義兄上にも……手は出させんっ!!」

「は、はぁっ!? 義兄上……って!?」

『もしかして……僕の事?』

「この……何言っちゃってくれてるのよ!?」

一夏と春斗が唖然とし、鈴は更なる怒りに身を震わせる。

「ちょっと、私にも分かるように言葉を選びなさい!!」

そして憤りを抱きつつも、しかし意味を理解出来ないセシリア。

 

「何も知らないお前達には関係ない。すっこんでいろ!」

「セシリア、あんたは引っ込んでて!!」

「何なんですの、この扱いの悪さはッ!?」

 

セシリアが文句を言うが、これは仕方ない。何せ、春斗の存在を知らないのだから。

 

『春斗、どういう事なのよ!?』

『う〜ん……鈴ちゃん、相互意識干渉(クロッシング・アクセス)は分かるよね?』

『分かるけど……それが何よ?』

『僕と一夏……彼女とそれ、やっちゃったんだ』

「………」

あっさりと言う春斗に、鈴は一瞬だけ呆然とし、次の瞬間――。

 

 

「――ぶっころす」

 

 

鈴は本気でキレた。

『ちょっ!?』

「待て鈴!? 冷静になれよ!!」

「うっさいわよ!! あれだけシャルロットと大騒ぎした挙句、何であっさりバレちゃってんのよ!? あたしの苦労と心労を利子付けて返せやごらぁあああああああっ!!」

激昂と共に、「ガコンッ!」と龍咆が開かれる。

 

「ふん、そんな攻撃……停止結界の前では!」

「甘いですわよ!!」

「っ……!?」

AICを展開しようとした所をブルー・ティアーズのビームが襲った。

「AICを展開した瞬間、撃ち抜いて差し上げますわ!!」

「おのれ……小癪なマネを!」

ラウラは舌打ちしつつ、龍咆とビームを回避。

 

「危ねぇっ!マジ、危ないって!!」

「心配するな、一夏。嫁の身と秘密は私が守ってみせる!!」

「嫁言うな! そしてこの状況は、明らかにお前が原因だからな!?」

ツッコミ叫ぶ一夏を尻目に、ラウラが声高らかに叫んだ。

 

 

「聞けッ! 私はラウラ・ボーデヴィッヒ!! 嫁を守る剣なりっ!!」

 

 

「『ゼ◯ガー・◯ンボルト!?』」

いきなりの啖呵に、二人は同時にツッコむ。勿論、これもクラリッサ大尉による集中講義の賜である。

 

が、そんな事をやっている内に、更なる参戦者が現れた。

「グゥッ!?」

その人物は一瞬でシュヴァルツェア・レーゲンを吹っ飛ばし、一夏の身柄を確保してみせた。

 

「大丈夫、一夏?」

「シャルロット!? た、助かった……」

「とりあえず、どういう理由かは逃げながら聞くねっ!」

「うぉおおおおっ!?」

シャルがいきなり旋回し、飛んできたワイヤーブレードを回避する。

更にブルー・ティアーズのビームと、龍咆が飛び交う。

「シャルロットさん、一夏さんをお渡しなさいっ!!」

「シャルロット、そいつをこっちに渡せぇっ!!」

「デュノア、私の嫁を返せっ!!」

「一体、どういう状況なの!?」

『一夏がラウラちゃんにキスされて、彼女の嫁になりました』

「何それ!?」

「俺が聞きたいって!?」

「とにかく、今はこの場からの離脱を……っ!?」

離脱を試みるシャルロットだったが、直後、上空から襲いくる機影に気が付いた。

 

「イィイイイイチィイイイイイカァアアアアアアアアアアアッ!!」

「阿修羅が来たぁああああああああああああああああっ!?」

 

月光を背負い、刃を掲げて突撃してくる阿修羅。その名は篠ノ之箒。刃の名は真打鉄。

 

ガキィイイイイインッ!!

 

シャルロットはその一撃を、シールドで受け流して弾く。

「篠ノ之さんっ!!」

「シャルロット、一夏を渡せ……!!」

「嫌だ。一夏は僕が守る……!」

「っ……ならば………織羽ぁっ!!」

「―― っ!?」

箒が叫ぶや、一瞬で影が駆け抜けて、シャルロットの腕から一夏を奪い去った。

そのまま寮の屋上に、影は降り立った。

 

「ふぅ。確保完了……と」

「織羽、そのまま一夏を押さえておけ!!」

「もう、好きにしなさい……」

箒の言葉に、呆れ気味に答える織羽。

 

「おのれ、辰守!! 私の嫁を返せ!!」

「あんたの嫁じゃないっての! 勝手な事言うな!!」

「あー、もう! 面倒ですわ!! ここで全員纏めて、撃ち抜いて差し上げますわ!!」

「全員、斬り伏せる!!」

「もう! 全員ちょっと、頭冷やそうか!!」

 

 

何時の間にか、バトルロイヤルの様相を呈してきた状況に、一夏は最悪の結末を予感した。

「お、織羽……」

「あぁ、大丈夫。箒も手出しはさせないから。ていうか、そろそろ……あ、来た」

『あぁ……来ちゃったよ』

そう、最悪の結末は―― やって来た。

 

 

 

 

 

黒のスーツは死神の証か。

その手に握るは、名刀か、はたまた神刀か。否、それは魔刀にして妖刀である。

 

 

『贋作・之定』

 

 

二代目兼定の贋作の一振りでありながら、狂いし妖刀へと変わったそれは今代、恐るべき使い手を得た。

常人が持てば狂うしか無いとされるそれを、抜き放ち、自在に振るう恐るべき使い手。

 

真の達人は、刃無くとも人を斬り、刃あろうとも人を斬らず。

活殺自在。それを成すは正に剣神。

 

 

しゃらん。と、鈴音の様な音と共に抜き放たれるは氷の刃。

 

 

それは一瞬だった。

しゃらん、と音が響けば箒が倒れ、二度鳴れば鈴が落ち、三度響くとセシリアが崩れた。

 

四度、五度と刃が震えれば、シャルロットとラウラが地面に落下していた。

 

ISの持つ防御機能の全てを無視し、全員を地に打ち伏せた。

 

 

 

 

魔技。

そう、およそ人の技ではない。それは魔人の技だ。

ブリュンヒルデ。その称号は正しく、彼女達をヴァルハラへと運ぶ事さえ容易だというのか。

 

そして魔人―― 織斑千冬は、事態を見守っていた織羽達に、その視線を向けた。

 

―― 降りてこい ――

 

「は、はい……っ!!」

声は聞こえない筈なのに、まるで耳元で囁かれたかのような恐怖だった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「今回の件、お前は一枚噛んでいるのか?」

『今回の件……はて、何の事かな?』

「VTシステムだ」

『あぁ、あれか〜。完璧にして十全たる私が、あんな不細工なのを作ると思うかな? 私が作るものは何時だって、”完璧において十全でなければ意味が無い”』

「………」

『言い忘れてたけど、それを作った研究所は二時間前に、地上から完全に消えてもらったよ? 勿論、死者はゼロ。いや〜、赤子の手を捻るより簡単―― て、赤子の手を捻るのって結構大変だよね? あれ、私だけかな?』

電話越しの相手はお道化たように、けらけらと笑った。

そういう相手と分かっているが、千冬はどうにも疲れてしまう。

 

「……そうか。ならばもう一つ聞こう。”裏白式”とは何だ?」

『裏白式……? あぁ、あれってそんな名前になったんだ〜』

「話を逸らすな。で、どうしてあんな物を用意していた?」

『う〜ん、それを語るにはまだちょっと早いかな〜? 近い内にそっちに行くと思うから、その時にね』

「分かった。では邪魔したな」

『いやいや、ちーちゃんのためなら24時間365日、”えにぃたいむ、えにぃうぇあ”だよ!』

「……ではな」

電話を切り、千冬は深々と嘆息した。

謎と問題は山積み。更には最近、シャルロットとラウラの事もあり、流石にまいる。

 

そんな中で、千冬の耳に飛び込んできたのは―― 爆音だったりする。

「………何処のバカだ」

本気でキレる寸前で、千冬は呟いた。

 

そして、事態の中心が自分の関係者ばかりであると知るや、完全にキレた。

封印してあった刀を取り出し、まるで雑事を片付けるようにして、事態を鎮圧しに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

問題の中心、織斑一夏を始めとし、ほぼ巻き添えの織羽を含めた七人は、絶賛叱られ中であった。

当然、その場で全員正座の上でだ。

怒鳴られる訳でもなく、ただ淡々と、しかしプレッシャーは凄まじく、セシリアなどはガタガタと震えてしまっている。

 

「それで……何か言う事はあるか?」

「はい。宜しいでしょうか」

恐れ知らずか、ラウラが手を上げた。

「何だ、ボーデヴィッヒ?」

 

「今後、教官の事を”義姉上”と呼ぶ事を許可いただけますか?」

本当に恐れ知らずな行動に対する答えは、出席簿による一撃だった。

ちなみに数日前、シャルロットも同じ様な事を言って、それを喰らっていたりした。

 

 

数時間のお叱りの末、更に反省文を書かされ、ようやく一夏らは解放された。

「織斑、ボーデヴィッヒ。お前達は来い」

訂正、すぐに解放とはならなかった。

 

 

場所を千冬の部屋に移し、必要な事を話さなければならないからだ。

 

「さて、ボーデヴィッヒ?」

「なんでしょうか、教官?」

「……お前はどうして、春斗の事を知った? どこまで知っている?」

「試合の時、相互意識干渉(クロッシング・アクセス)で。義兄上……織斑春斗が嫁に憑依している事までは知っています」

ラウラはピシッと背を正して、簡潔に語った。

 

「………」

「………えっと、憑依?」

誰もがどうにもリアクションに困る中、一夏は何とか口を開く。

「うむ。憑依はこの国ではよく起こっている現象だと聞いた」

そうして、ラウラはクラリッサから受け売りの知識を披露した。

 

 

「「………」」

結果、二人は頭を抱えた。

『憑依か……確かに二次創作(ファンフィクション)なんかでは、神様転生に次いでメジャーらしいけど……』

『そして、お前は分かるのかよ!? てか、神様転生って何!?』

 

ともあれ、このままラウラに間違った状態にしておく訳にも行かないと、説明をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

騒動から一日。

星空の美しい夜。篠ノ之箒はアリーナに居た。

 

そこはあの日、トーナメントの試合があった場所だ。だが今はその熱気も、痕跡もない。

吹き抜ける風にまるで、遠い日の夢幻のようにさえ思えてしまう。

 

真打鉄はその期間を終え、箒の手には無い。そうなる事は分かっていたのに、いざこうしてその時を迎えると、途端に寂しくなってしまう。

あの無骨な金属板(プレート)の手触りがない事が、とても寂しかった。

 

 

♫〜♪♪〜〜♪

 

 

ポケットから電子音が響く。携帯を取り出して、箒は通話ボタンを押した。

 

『こんばんは。良い月夜だね、ほーちゃん』

「……あぁ、そうだな。春斗」

『驚かないね?』

「そろそろ、掛かってくる気がしていたからな」

箒は夜空を見上げて、微笑む。

 

「すまなかったな。せっかく、真打鉄を用意してくれたのに……」

『いや。あんな事態が起こったんじゃ、中止もしょうがないよ。むしろ、皆が無事で良かったよ』

「………うん、そうだな」

 

箒はアリーナの席に座り、風になびく髪を押さえる。

こうして声を聞いているだけで、心が温かくなる。

 

 

「春斗、少しばかり聞いてくれるか?」

『……何?』

「私は……ISが嫌いだ。姉さんがあれを作ったせいで、私はお前達と離れ離れになってしまった。その後もずっと、私は独りだった……。だからISを、それを作った姉を恨んでいた」

『………』

「だが、お前からISを受け取った時、あんなに憎かった筈なのに……とても嬉しかったんだ。だから、知りたいんだ。姉さんは、どうしてISを作ったんだ?」

『………ISは、宇宙開発のために作られたのは知ってるよね?』

「あぁ、勿論だ」

『博士はただ、世界を面白くしたくて、ISを作ったんだ。この地球から何処までも遠くに行けたら、きっと自分の知らない場所まで行けたら凄く楽しい……そう考えただけで、ワクワクするって言ってた』

春斗は、夜空を指差して楽しそうに笑う篠ノ之 束の姿を思い出しながら、箒に答えた。

 

『ISが悪い訳じゃない。正しいISの姿が失われた今の世界の方が、きっとおかしいんだと思う』

「……だが、姉さんに果てしなく迷惑を受けたのは事実だぞ?」

『うん。そこは全く、全然、否定しないよ』

「プッ……ククッ……そこまで言うか」

春斗がキッパリハッキリ言うもので、箒はつい吹き出してしまった。

 

ひとしきり笑い、箒は再び夜空を見上げた。

星の海を渡る為の翼―― それがインフィニット・ストラトス。

もしもあの空を飛べたなら、きっと楽しいだろうなと、素直に思えた。

 

「春斗……私に、専用機を作ってはくれないか?」

だから、そんな事を自然に口にしていた。

『……ごめん、今の僕には無理だよ』

「いや、謝らないでくれ。今のは私が悪い」

つい浮かれて、馬鹿な事を言ってしまったと、箒は首を振った。

春斗の才能ならば、ISを作ることは容易いだろう。だが、その身は自由にならない。

そんな事を失念していた自分を、箒は殴りたくなってしまう。

 

『でも、きっと……束博士なら作れるんじゃないかな?』

「っ……!? だが、それは……」

確かに、束ならばそれは出来よう。だがどうしても、躊躇ってしまう。

 

『良いんじゃない? 今まで散々迷惑掛けたんだから、迷惑料にIS寄こせ。とでも言えばさ?』

「………」

そんな軽い発言に、箒は目を瞬かせて―― そして笑った。

 

「ふふ……アハハハ……!! そうか、迷惑料か! なるほどな、それは考えもしなかった……!!」

何とも当然で、何ともらしい答えか。それなら、躊躇する自分が馬鹿らしい。

 

(本当に何時も……お前は私の悩みを、あっさりと消してしまうのだな……)

 

『でも、専用機を持つって事は、イコール相応の責任を持つ事になる。途中で嫌になっても、投げ出す事も出来なくなる……その覚悟はある?』

「……あぁ、大丈夫だ」

『なら、心配ないかな?』

 

 

「……ところで、お前はシャルロットとはどうなっているのだ?」

『えっ!? それを聞くの!? ていうか、脈絡がないよね!?』

「いいではないか。私には聞く権利がある」

『個人のプライバシーは、尊重されるべき事だと思うよ!?』

 

月光の下。箒と春斗の語らいは賑やかに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【END EPISODE  紅は 黒の前に立ち 白と並び立つ者也】

 

 

 

薄暗い部屋の中、床一面には樹海の根のごとく太いコードが無尽に走っている。

そしてその上を、機械仕掛けのリスが動く。

時折落ちているネジやらボルトやらを手にしてはカリカリと齧って、別の物質に再構成している。

 

 

そしてその部屋の主たる人物は暗闇の中で十指を絶え間なく動かし続けている。それと連動して、先端僅か0,37ミリのアームが微細な作業を繰り広げている。

額を伝い落ちる汗を拭うこともなく、ひたすらに。それがどれほど続いたであろうか。指の動きが止まり、アームが外されていく。

そうして出来上がったものを見て、その人物は満足そうに頷いた。

 

「う〜ん、できたぁ! 絶対浪漫ダイゴウラー最終決戦仕様、フルスクラッチ!!」

「何、最新鋭技術の無駄遣いしてやがる」

 

 

ドゲシッ!!

 

 

思いっきりケンカキックを食らって、盛大に吹っ飛んだ。

無造作に積まれている機材やらを引っ繰り返し、その下にうずもれていく。

 

「なーにするのよ、この偽物君っ!!」

「誰が偽物だ!! このパチモンがぁ!!」

 

乗っかった荷物を除けて、這い出してきたのは珍妙な格好をした女性だった。

頭には機械仕掛けのうさ耳カチューシャを付け、青いワンピースを着ており、しかしサイズが合っていないのか、胸元は大胆に開けられている。

 

そしてもう一人は、グレーのスーツを着こなす男性。

背は高く、190近いだろうか。服の上からでも分かるほど、鍛えられ、見事にカットアウトされた肉体をしている。

 

女性はISを開発した天才科学者【篠ノ之 束】。

男性は世界に誇るIS企業辰守エレクトロニクスの若き社長【辰守 束音】。

 

「ぐぬぬぬ……っ!!」

「むむむぅ……っ!!」

 

奇しくも、同じ【タバネ】という名を持つ二人は今、額を磨り合わせて睨み合っていた。

 

 

 

チャーラーチャーラ チャーチャチャー♪

 

 

 

「はっ!? この着信音は……とうっ!!」

その、聞いたら走り出したくなるメロディに反応して、束は散乱するガラクタの中へとダイブした。

 

ガチャガチャとそれらを掻き分け、ようやく携帯を見つけて通話する。

 

「もすもす終日〜! あぁ、待って!切らないで!? ……うんうん、分かっているともさ。欲しいんだよね〜、箒ちゃんの専用ISが!」

 

束はパチンと、指を弾いた。

するとスポットライトが、闇に眠っていたそれを照らし出した。

 

「束さんが作った、箒ちゃんだけのオンリーワン!」

 

火のような赤ではない。

 

代用無き物(オルタナティブ・ゼロ)最高性能(ハイエンド)にして規格外仕様(オーバースペック)!!」

 

日のような朱でもない。

 

「”黒”の前に立ち、そして”白”と並び立つ者。その名は―― 紅椿ッ!!」

 

 

 

 

 

 

それは―― 華の如き、紅のIS。

 

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