既にもの凄く時間が経ったような気もするが、それでも授業はこれからだ。
『……よし、ギブアップ。後はお願い』
『諦めるの早いよ!? まだ開始して10分だよ!?』
早々に教科書とのニラメッコを諦め、一夏は内心の天才にこの場を託そうとする。
『もうダメなんだよ。この……アクティブなんとか広域うんたらとか、訳分かんないし……』
『一夏。参考書をちゃんと読んだでしょ? だったら分かる筈だよ……』
『読んだけどさ……こう、どうにもこうにも……頼む、俺を助けてくれッ!!』
一夏の切実過ぎる祈りに、春斗はちょっとだけ負けそうになるが、いやいや、それでは駄目だと思い直す。
『一夏。ここで僕が助けたら、君の為にならないよ』
『………』
『僕はあの参考書の内容は勿論、二年の修了課程まで頭に入ってる』
『何だとっ!?』
『でもね、僕の記憶や知識は一夏の脳の中にあるんだ。それを引き出せないのは一夏が鍵を持っていないからだ』
『鍵……?』
『そう。分り易く言えば、大きなタンスの引き出しに、いろんな知識が入っている。で、僕は鍵を持っているから、それを取り出せるんだ。
でも、一夏は鍵を持っていない。だから開けられない。じゃあ、一夏はどうする?』
春斗からの問に、一夏は少し考える。鍵を持っていないタンスの鍵を開ける方法を。
『………鍵を、作る?』
『そう。ここでいう処の鍵は、一夏が学んで得たもの。それ自体が当たるんだ』
『何にしても、勉強からは逃げられない、と……』
『大丈夫。一夏には優秀な家庭教師がいるじゃないか。分からない所は随時、説明をするよ』
『……そうだな。ズルは俺も余り好きじゃないしな』
『それに一夏、根本的な事を忘れているよ……』
『何……?』
『前、見てご覧よ』
「ん……?」
春斗が言うので、教科書から顔を上げてみると、そこには黒スーツの女性が一夏を見下ろしていた。
「げぇっ、関羽!?」
「誰が三国志の武将だ!!」
バシーンッ!!
千冬が手にした出席簿が、一夏のこめかみを痛打した。
何で殴られなきゃならないんだ!?
そう言おうとしたところ、また別のものが目に入った。
「グスン……いいんです。どうせこんな顔だから頼りがい無く思われて………どうせ教師なんて向いてないんです……」
副担任の山田真耶が教室の隅で膝を抱えていた。壁にのの字を書いている辺り、かなり重症だ。
『何で……泣いてるの?』
『一夏に無視されたからじゃない? さっきから何度も声掛けてたし……』
『何で教えてくれないの!?』
『だって聞かれなかったし……取り敢えず、フォローしておいた方がいいんじゃない?』
『お前やれよ……』
『僕が……!? やれやれ……』
仕方なく、春斗は一夏と入れ替わった。
「――おい、聞いているのか!?」
「聞いてます、ちゃんと」
「っ……!」
顔を上げた一夏を見て千冬は一瞬、目を見開いた。
(は、春斗……!?)
それが春斗であるとすぐに分かり、動揺を押し殺す。
「……なら、授業内容は耳に入っていたんだろうな?」
「勿論です。授業もしっかりと聞いていました」
「ならば何故、山田先生の問い掛けを無視した?」
「無視はしていません。ただ、集中し過ぎて普通に気付かなかっただけです」
いけしゃあしゃあと言ってのける春斗に、千冬は眉を潜めた。
「ならば講義した内容を言ってみろ」と聞けば、春斗は一言一句間違えず言ってのけるだろう。
だが、それをさせれば他のクラスメートはいざ知らず、窓際にいる篠ノ之 箒はその違和感に気付くはずだ。
彼女は一夏と春斗の幼馴染。二人と親交深かった彼女をその後、誤魔化せるだろうか。
(全く……場を上手く使ってくるな)
仕方なく、千冬は白旗を上げた。
「……だそうだ、山田君。何時までもそんな所でいじけていないで、授業を再開してくれ」
「ふぅぅ……本当ですか、織斑君?」
涙目で振り返られ、春斗は少しの罪悪感と共に、もうちょっと苛めてみたいという衝動に襲われた。
「本当ですから、自信を持って続けて下さい………山田先生」
そんな衝動を抑え、春斗は優しく微笑んだ。しかも先生の部分に強く意思を込めて。
「そ、そうですね……私は、先生なんですよね!」
何か分からないが、立ち直ったようで春斗は一安心と嘆息した。
「では、テキストの25ページを開いて下さい……!」
ただ真耶の頬が若干赤みを帯びているのが気になったが、きっと大した事はないだろう。
どうせ、苦労するのは一夏なのだからと、春斗は一夏と入れ替わった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
授業もどうにか無事に終了して、今は休み時間。
トイレ(職員用を使った)を済ませた一夏は、春斗先生による補習中であった。
『……で、ISの高機動は成り立っている訳。分かった?』
『分かったような、分からんような……』
『一夏の場合、実際にISを使ってみればきっと分かるだろうから、今はそれで良いよ。じゃあ、次ね……』
授業の要点を纏めてから説明されると、一夏にもぼんやりと分かった気がしてくる。
春斗は昔から教えるのが上手い。一夏も箒もよく、春斗に宿題を手伝ってもらったものである。
「ちょっとよろしくて?」
ノートに春斗の説明を書いていると、いきなり誰かが声を掛けてきた。
箒ではない、聞いたことのない声だ。尤も、殆どの声を聞いた事がないのだが。
「んあ……?」
間の抜けた声と共に顔を上げてみると、そこにはブロンドの女性が立っていた。
肌は陶磁器の様に白く綺麗で、少し垂れたような瞳は美しいサファイア。恐らくは
フリル付きのカチューシャと、クルリと巻かれたロールヘアーがバネのように弾み、また見事なものである。
「まぁ、なんてお返事!? 私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、”それ相応の態度”というものがあるのではないかしら!?」
そんなロールさん(仮名)は一夏の返事に大層、驚いた顔をしていた。
『…………邪魔だな』
もしかして有名人なのだろうか。しかし、一夏はそんな事言われても困る。
ただでさえ、授業を邪魔された事で、春斗が不機嫌になり始めているのだ。
さっさと彼女には退散してもらおう。
「悪いな。俺、君が誰だか知らないんだ。ゴメンな」
という事で、補習再開――――とは行かなかった。
「知らないっ!? この〈セシリア・オルコット〉を……イギリスの代表候補生にして、入試首席のこの私をッ!?」
バシン、と一夏の机を叩き、驚きとそれ以上の怒りをこめて、ロールさん――セシリアはずい、と迫ってきた。
「あ、質問」
「フッ、下々の要求に答えるのも貴族の務めですわ。宜しくてよ?」
一秒前までの怒りは何処へやら。セシリアは鼻を鳴らして髪を掻き上げた。
「………ダイヒョウコウホセイって、何?」
ガタタターーーーーーーーーーーンッ!!
本日二度目の新喜劇、頂きました。
「あ……あ………!」
セシリアは余りの事に頬をヒクヒクとさせている。どうやら突発的な出来事に弱いようだ。
それもそうだろう。まさか、そんな事を聞かれるとは思いもしなかったのだ。
というか、これには流石の春斗も頭を抱えていた。
「あ……!」
「あ……?」
「あ……なたはぁっ!!」
キッ! と、再起動を果たしたセシリアが一夏に迫る。
「信じられませんわ!! 日本の男性というのは、こんなにも知識に乏しいものなのかしら!?」
『失敬な。日本人じゃなくて、一夏が馬鹿なだけだ!!』
『お前も大概酷いな!?』
『一夏。代表候補生っていうのは、言葉通り【未来の国家IS操縦者代表】になる候補の事だ』
『ほうほう?』
『ISの世界大会に代表として出場する【国家代表】は、その国の技術力、資金力、なにより国の威信そのものといえる』
『へぇ……じゃあ、凄いんだな』
『千冬姉さんと同じ立場になる人物だからね。それは、467機しか無いコアの内の一機を、個人専用として与えられる点からも分かるだろう?』
『専用機持ちってことか……!?』
『そう。候補生の中でも専用機を持っている………間違い無く、彼女はエリートだよ』
『なるほど。よく分かりました』
『では、講義を終わります』
「―――という現実を、もう少し理解して頂ける!?」
「……え? えっと……そうだな?」
春斗の説明が終わると、何故かセシリアがズズイ、と顔を迫らせていた。
どうやら、一夏の知らない間に色々言っていたらしい。
「………バカにしていますわね?」
いいえ、聞いていなかっただけです。とは言えず、一夏は困ってしまう。
「……お前が理解しろっていうから、そうだなって返したんだろう?」
エリートなのは分かった。それがクラスに居るというのは、彼女の言う通り幸運なんだろう。
だが、それと自分に何の関係がある。
「大体……何も知らないでよく、この学園に入れましたわね? 男で唯一、ISを操縦できると聞いていましたけど……期待はずれですわ」
「俺に何かを期待されてもな……」
一夏はどちらかと言えば、成績は下の方だ。
千冬は、ISの元日本代表でエリート。春斗は将来を期待されていた天才。
こんな出来の良い二人と比べ、自分は平凡な男子で、自慢できるのはその体の頑丈さぐらいだ。
そんな自分に、特別な事など期待されても困る。
すっかり調子を取り戻したのか、一夏の周りをセシリアは優雅に歩く。どうやら、まだ解放されないようだ。
「まぁ、私は優秀ですから……あなたのような人間にも、優しくしてあげますわよ」
「………」
そう思うなら、早く解放して欲しい。
「分からない事があれば……そう、泣いて頼むのでしたら、教えて差し上げても良くてよ?」
『僕に分からない事を、彼女が答えられるとは思わないけどね……』
(あぁ、内側で春斗が毒を吐き出しているぞ……)
これ以上はキツイと、一夏は即時解放を願う。もしくはこの話題がさっさと終わることを。
しかしセシリアの私自慢は終わらない。
「何せ私は入試で唯一、教官を倒した……エリート中のエリートなのですから!」
「あ、俺も倒したぞ」
「は――」
その瞬間、セシリアが凍りついた。
「はぁあああああああああああああっ!?」
またもや再起動した彼女は、一夏に信じられないといった視線を向けてきた。
「いや、倒したって言うか……いきなり突っ込んできたからそれを避けて……そしたら、壁に突っ込んで……で、気絶しちまって……」
『あぁ〜、あれは凄かったね……』
本当ならば絶対防御で気絶する筈もないのに、見事に気絶したのだから。
あの時、二人はしみじみと感じた。
「大丈夫か、この学園?」と。
あれを倒したと言っていいのか不明だが、取り敢えずはそういう事になっているらしい。
「わ、私だけだと聞いていましたが………?」
声が若干上ずり、動揺が耳を通してよく分かる。
「それ、”女子では”って、オチじゃないのか……?」
「っ………!?」
さりげなく一夏は止めを刺した。
「あなたが!? あなたも教官を倒したって言うの!?」
セシリアは自尊心を傷つけられ、感情を吐露して一夏に肉薄した。
怒りに頬を紅潮させ、眉は釣り上がり、目鼻先まで顔が迫っている。
「お、落ち着け……なっ?」
「これが落ち着いて――!!」
その時、救いの鐘が鳴り響いた。休憩時間が終わりを迎えたのだ。
流石にこの場ではこれ以上は無理と、セシリアもすぐに理解した。
「この続きは、また改めてしますわ!!」
だが、次があるらしい。
ズンズンと床を踏み抜くように、セシリアは自分の席に戻っていった。
『流石は一夏。息をするようにへし折っていくな……色々と』
くくく、と春斗は愉快そうに笑っている。
『何が面白いんだよ……』
『いやいや、あの驚きの顔といったらもう………それと一夏?』
『なんだよ』
取り敢えず、次の授業のテキストを取り出しながら返す。
『遅れた分は昼休みと放課後に回すから、そのつもりで』
『おのれ、セシリア・オルコットォオオオオオオオオオッ!!』
怒りをテキストに込めて、一夏は机を叩いていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、二時限目が開始される。
今度は千冬が担当するらしく、教壇には彼女が立っている。
「さて、授業を始める前にクラス代表を決めておく」
クラス代表とは、再来週に行われるクラス対抗戦に出場する選手であり、同時にこのクラスのクラス長も兼任する。
その為、生徒会や委員会など、色々と駆り出されるポジションである。
(うわぁ、絶っっっっ対にやりたくねぇ……!!)
説明を聞き、一夏が思ったのはそれだった。この場にいれば確実に春斗を推薦してやるところだ。
いや、実際は此処にいるのだが。
「自薦他薦は問わない。誰かいないか?」
「はい」
一人の生徒が手を上げた。立候補かと思われたがそうではなかった。
「織斑君を推薦します!」
「なっ……!?」
「私もそれがいいと思います」
「え……?」
「私も〜!」
「えぇ、何で俺っ!?」
「他には居ないか? いないなら、無投票当選だぞ?」
次々に上がる、織斑一夏推薦の声。一夏は納得できず、千冬に抗議しようとした。
「納得できませんわッ!!」
だが、それを遮って凛とした声が響いた。
『うわ、噛み付いてきた……』
その声に、一夏も春斗も嫌な予感しかしなかった。
振り返ればやはり、セシリアが不満ありまくりといった表情で立っていた。
「そんな選出は認められませんっ!」
(お、もしかして意外と良い奴か?)
「男がクラス代表だなんて、いい恥晒しですわ!! このセシリア・オルコットに、そんな屈辱を一年間も味わえとおっしゃるのですか!?」
そんな事を一瞬でも思った自分が馬鹿だったと、一夏は反省した。
彼女はプライドが高い上、どうやら女尊男卑主義者のようだ。
そして彼女の怒りは止まらない。いよいよもってとんでもない所へ走りだした。
「大体、文化としても後進的なこんな国で暮らさなくてはいけない事自体、耐え難い屈辱だというのに……!!」
「……イギリスだって、大したお国自慢は無いだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ?」
流石にこれにはカチンときた一夏は、内心の怒りに任せて暴言を吐く。
「美味しい料理はたくさんありますわっ!!あなた、私の祖国を侮辱しますの!?」
「その侮辱を先にやったのはお前だろうがっ!!」
それが更に、セシリアの怒りに油を注ぐ。
「決闘ですわ!!」
怒りを込めた指先を突きつけ、セシリアが叫ぶ。
「おぉ、いいぜ? 四の五の言うよりは、よっぽど分り易い!」
「私が勝ったらあなたを小間使い……いえ、奴隷にして差し上げますわ!!」
「好きにしろよ。で、ハンデはどのぐらいつける?」
「あら……早速、お願いかしら?」
それをハンデの申し入れと思ったのか、セシリアがフフンと鼻を鳴らした。
「”俺が”どのぐらい、ハンデをつければ良いかって事だよ」
「は……?」
一瞬の沈黙。
そして、クラス中が爆笑した。
「ちょっと織斑君、それ本気?」
「男が女より強いなんて……ISが出来る前の話だよ?」
「もしも男と女が戦争したら、三日持たないって言われてるのに」
次々に飛ぶ言葉。一夏はしまったと自分の迂闊な発言を後悔した。
だが、そう思っていない人物もそこにはいた。
『……… 一夏、ちょっと代われ』
『春斗……?』
『こいつらのバカな勘違いを修正させる』
『おい、ちょっ……!』
突然、一夏の視界が暗くなり、意識が落ちて行く。
それは春斗が一夏と強制的に入れ替わった時の症状だった。
「………随分と酷い勘違いをしているな?」
「え……?」
いきなりの言葉に、笑っていたクラスメート達が静まり返る。
「な、何が勘違いだって言うの……!?」
先程、男女間の戦争について言った女子が不服そうに尋ねる。
「男と女の戦争……それは単純にIS全機と現行の兵器全てを比べた場合の戦力比較だ。
戦争は兵器だけでするものじゃない。それを運用する人間、補給線の維持、必要なものは果てしなく多い。
そもそも、ISのコアは世界中に分散されているんだ。全てが一同に集まって戦力となる訳じゃない。
何より、世界には【戦略兵器】なんて物騒なものもある。単純にどっちが有利なんて話じゃないさ」
「うっ……」
そう言われれば、そういうデータだったと思い出したらしく、彼女は沈黙した。
「で、でもそれだって……ISの能力が低いって事じゃないでしょ!?」
今度は、「男が女より〜」と言っていた女子が、春斗にぶつかってきた。
「確かにその通りだ。じゃあ逆に『ISを使える男は女性より弱いのか』?」
「あっ……!!」
その言葉の意味に、目を見開いた。
男女の強さを分けるのがISなら、それを使える一夏はどうなるのか。
少なくとも、女子より弱いという事にはならない筈だ。
「それにこれは、織斑一夏とセシリア・オルコットの決闘だ。国家だの戦争だのなんて話は、そもそも関係がない。どっちが強いか……それだけだ」
春斗がきっぱりと断じて見せると、クラスに笑う者は最早いなかった。
「……なるほど。学はそれなりにお有りのようですわね」
一人だけ、セシリアを除いては。これほど言われて尚、彼女は余裕を見せている。
「ですが、私は専用機持ち……ハンデはむしろ私がつけるべきですわ」
「………ふっ」
「ッ……!?」
春斗はそれを、華でせせら笑ってやった。
「祖国への愛、自分への挟持、大いに結構。決闘とは己の誇りを賭けて戦うものだからな。だがな、セシリア・オルコット!」
春斗はセシリアに向かって、力強く指を突きつけて見せる。
「だからこそ、誇りと驕りを履き違えているような奴に、俺は絶対に負けない!!」
「ッ……!? 何ですってぇ……ッ!?」
宣戦布告を返され、セシリアはギリッ、と歯ぎしりする。
怒りが今にも吹き上がりそうな心を、彼女は必死に押し留める。
一触即発。誰もがこの睨み合いの行く末を、固唾を呑んで見守った。
「――そこまで!!」
それを破ったのは、千冬の鶴の一声だった。
「それでは、勝負は次の月曜、第三アリーナで行う。織斑とオルコットはそれぞれ、準備をしておけ」
「分かりました」
「承知しましたわ」
春斗とセシリアは一瞥しあうと、席に座った。緊張感から解放されて、何処からとなく安堵の息が零れた。
『どうだい、一夏。口喧嘩ってのはこうやるんだよ』
『お見事。しかし、珍しいな……お前があそこまで怒るなんて』
『別に……ただ、ISって物騒な玩具をもらってはしゃいでいると、危ないって言いたかったのさ』
『危ない……?』
『追い詰められた人間は何をするか分からないからね……本当に戦争になったら目も当てられない』
『起きるのかよ、戦争なんて……』
『たった一発の銃弾が、世界大戦のきっかけになった事だってある。何が原因で起こるか、想像もつかないよ』
出来るなら、ISが正しい運用をされますように。
春斗は、そんな思いを抱かずにはいられなかった。
そんな問題もありつつも授業はちゃんと行われ、次の休み時間。
予告と違い、セシリアはやって来なかった。
あれだけやり合ったのだ。そうなるのも当然であるが。
代わってやって来たのは箒 ――― ではなかった。
「ねぇ、織斑君?」
「ん……?」
テキストを片付けていると、声を掛けられた。顔を上げてみると、それは先程、一夏を笑った女子達であった。
彼女たちはどこか言いづらそうな顔をしていたが、一人がようやく口を開いた。
「さっきはごめんね。その、笑ったりして……」
「あぁ、別に気にしてないよ。ていうか、俺の方こそ考えなしに言っちまったからな……笑われても仕方ないって」
思い返すと、何と短絡的な行動だろうか。恥ずかしくて死にそうになる。
「でも、その後の織斑君は………ちょっとカッコ良かったよ……」
「え……?」
「うんうん。なんて言うか、流石は千冬様の弟〜っ!て、感じだった!!」
「あの『誇りと驕りを履き違えているような奴に、俺は絶対に負けない!!』なんて、チョー決まってたし!!」
「あ、ありがとう……ハハ、ハ……」
なんかもう、笑うしかなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして昼休み。
一夏は箒と共に、屋上に上がってきていた。
購買で買ってきたサンドイッチとコーヒーが昼食である。いつもならもっと食べるのだが、今日はこれが精一杯である。
「……さっきは随分とモテモテだったな、一夏?」
所々に怒気を孕んだ箒の声がチクチクと痛い。
一夏にしてみれば濡れ衣に等しい事なのだが、それを言う訳にも行かない。
「全く……よりにもよって春斗を真似するとは。もう少し自分というものをわきまえておけ、似合わんぞ?」
「………」
『………』
(本人だったんだけどなぁ〜)
(本人なのに………酷いよ、ほーちゃん)
ちなみに、”ほーちゃん”というのは、春斗が箒を呼ぶ時の愛称である。何故かすごく嫌がられるのだが。
「それで? あれだけ啖呵を切ったんだ、勝ち目はあるんだろうな?」
「まぁ、それはこれから次第……かな?」
「………よし、私も協力してやろう。今日から特訓だ!!」
「えぇっ!?」
『一夏。悪いけど今日は断ってくれ』
「えぇっ!?」
「……何故、二度も驚く?」
「何でもないです」
不審がる箒に手を振って気にするなとアピールする。それと同時に、春斗にどういう事かを尋ねた。
『今日は別にやる事があるからね。特訓は明日からにしてもらって欲しいんだ』
「……えっと、箒?」
「何だ?」
「今日の特訓は……無しにして欲しいんだけど?」
「っ……! お前は、代表候補生に勝つ気があるのか!? 一分一秒が惜しいのだぞ!?」
「分かってる!! だからこそ、特訓は明日からにして欲しいんだ!!」
「………勝つ為に、必要な事なのだな?」
「あぁ。絶対に必要な事だ」
春斗の意図は分からない。だが、春斗がそう言うのだから間違いない。それは確信と言ってもいい。
「……分かった。特訓は明日からにする」
箒も納得したのか、承知してくれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そんなこんなで初日の授業を終え、一夏は安堵の溜息を吐いた。
慣れる前に、へばってしまいそうだ。
セシリアは既に教室を出てしまい、箒も早速入った剣道部に向かってしまった。
「……ていうか、あいつ部活あるのに特訓しようとしてたのか?」
『それが愛だよ、一夏』
『なんだよ愛って……?』
『君はあれだ、爆死した方がいいと思うよ?』
『何でだよ!?』
そんな内部漫才をしつつ、一夏も教室を後にした。
『……で、これから何をするんだ?』
『名づけて 《今日から始めるセシリア・オルコット対策!! ポロリもあるよ》パート2!!』
「………パート1は何処行ったよ!? てーか、ポロリって何!?」
『一夏、声出てるよ』
「あっ……!」
慌てて辺りを見回すが、取り敢えず誰もいないようだ。
『それで……1は何処行ったんだよ?』
『1ならもう終わってるよ?』
『………何時やった?』
『二限目の教室で』
『………あ、まさかあれか? あの、お前なんかに!ってヤツ……!』
『ご名答。あれでかなり、彼女は怒っただろうからね……まずは一手だ』
一夏は少し疑問に思っていた。
あの台詞だけは、春斗らしくない気がしたのだ。春斗なら、あんな風に露骨な挑発をしない。
もっと陰湿で重箱の隅をつつきまくる様ないやらしい責め方をする筈だ。
尤も、一夏のふりをしていたという事で納得していたのだが。
『でも、怒りは持続しないんじゃないのか? 勝負は次の月曜……来週なんだぞ?』
『確かにそれだけ時間が空けば怒りも消えるだろうね……でも、鎮火する訳じゃない』
『……?』
『ああいったタイプは、心の奥底で燻らせたままになる事が多い。ちょっと薪をくべてやれば、あっという間に燃え上がる……』
『………』
我が双子ながら、なんて暗い。一夏は頭を抱えそうになった。
『じゃあ、これからどこに行く?』
『
「情報から戦術を考えるか……じゃあ、職員室だな」
ということで、二人は職員室へと向かうのだった。