IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第24話  すれ違い?/勘違い?/入れ違い?

地下鉄、タクシー、モノレール。多くの交通機関と、周辺の地下街とが繋がるショッピングモール【レゾナンス】に集う者達。

 

水着やらを買いに来ている、織斑千冬と山田真耶。

水着やらを買いに来ている、篠ノ之箒と辰守織羽。

水着等を買いに来たという、五反田蘭とその友達。

ラウラの部屋着と、個人的な買い物の為に来た、春斗一行。

そして、それを追う鈴とセシリア。それに巻き込まれた弾。

 

科学と魔術が交差しなくても、物語は結構始まったりするものである。

 

 

 

 

休日のショッピングモールは大層賑わっていた。エントランスフロアは見渡す限り、人だらけである。

この状況では、後ろに追跡している者がいるなど気付こう筈もなかった。

 

『流石に、休日だと人手が多いなぁ』

『そうだな。で、どっから回るんだ?』

『僕らの方はそんなに嵩張らないけど……荷物を持って買いに行くのもあれだよね。どうしようか?』

そんな事を思いつつ、春斗達はモールの広場に降りた。

 

「えっと、部屋着って……四階のフロアで良いのかな?」

案内板を見つつ、シャルロットがお店を探す。

「う〜ん……あ、ここだね。衣料品店があるから」

「では、早速行きましょう」

春斗は二人に引かれるようにして、四階に向かうエスカレーターのある方へと向かう。

 

その途中、左右に並ぶ店を見ていると、一夏がある店を発見した。

『春斗、あの店……!』

「っ……シャル、ラウラちゃん、ちょっとゴメン。僕らも買う物があったんだ。先に四階に行っててくれるかな?」

「買い物? どうせだし付き合うよ。ね、ラウラ?」

シャルロットがラウラに言うが、しかしラウラは静かに、首を横に振った。

「シャルロットよ。男子には”女子に秘密にしたい買い物”というのがあるのだ。気を利かせてやれ」

「いや、そういう事じゃ……」

したり顔で言うラウラに、春斗の言葉は届かなかった。

「女子には秘密にしたい買い物……って、ま、まさか……ッ!?」

シャルロットは、見る間に顔を赤くしていった。

「……言うまでもないけど、それは違うぞ?」

妄想モードのスイッチが入ったシャルロットに、呆れ気味に返す春斗だった。

 

 

 

「なぁ、何で俺まで……?」

「シッ、少しお黙りなさい!」

「もうちょい、下がって! バレるでしょうが……!」

「……はぁ」

五反田弾は、この状況に困惑していた。

というか、自分が何をやっているのが意味不明であった。

 

そもそも一夏が何処の誰と付きあおうとも、妹の蘭が相手でなければそれで良いのだ。

それに特定の相手が出来れば、きっと世界平和にも繋がるだろう。

 

(一夏の奴……どんだけフラグを立ててやがんだ……?)

 

この眼の前の二人を見ただけで、少し見ない間の一夏の行動の全てが何処までも分かってしまう。

何時もの如く、呼吸するように一夏節を炸裂させて、そしてフラグを立てたまま放置しているんだろう。

女子しか居ないIS学園で、世界で一番フラグを立てる男(非公式)の一夏を入れるなど、弾からしてみれば、純粋培養の羊の群れに、無限に食する腹ペコ狼を入れる行為そのものだ。

 

実際に、鈴を含めて四人(シャルロットは違うのだが、弾が知る筈もない)もの美少女(鈴をそのカテゴリに収めて良いか、ちょっとだけ弾は迷った)が、既に一夏の毒牙に掛かってしまっているのだ。

いや、さらにもう一人。噂の”ファースト幼馴染”も、きっとそうであろう。

 

五人もいるなら、さっさと誰か一人に絞ってしまってもらいたい。

そうすれば、蘭も諦めがつくだろう。

などと思いつつも、あれは織斑一夏なのだから、過度な期待は絶対にするべきではない事も、弾は良く分かっていた。

 

「……お、分かれたぞ?」

「えっ、どっちを追う!?」

「とりあえず、私達はこのままシャルロットさん達を追いましょう。貴方は一夏さんを!」

セシリアは弾を指差し、自分はそのままシャルロット達を追いかける。

「一夏に動きがあったら携帯に知らせて! 番号は一緒だから!!」

「え、ちょ……おいっ!?」

弾が止める間もなく、鈴もセシリアに続いて行ってしまった。

「はぁ……何だってこんな事に……」

弾は疲れたように溜め息を吐き、仕方なく一夏の方を追いかけるのだった。

 

 

エスカレーターホール。荷物を抱えて、二階からの下りに乗る少女数人。

その一人は、兄と同じ赤みがかった髪を、カチューシャで止めていた。

「しっかし、蘭ってば……水着買いすぎじゃない?」

「何言ってるの。中三の夏は一度しか無いのよ!? プール用、海用、見せる用、勝負用、超勝負用、超ウルトラ勝負用……これでもまだ足りないぐらいよ」

「……いやまぁ、あたしらは受験ないから良いけどね……でも、蘭はIS学園に入学する気なんでしょ? そんなに遊んでる暇あるの?」

そう心配する友人に、蘭は「チッチッチッ」と、指を振った。

「それとこれとは違うわよ。勉強も、遊びも………恋だって、本気だし」

一万倍近い倍率の超難関校に受験しようというのに、それでも青春を謳歌しようとする、その根性。

友人達には、24時間あっても足りないと思うのだが、もしかしたら彼女の時間は48時間ぐらいあるのだろうか。

そんな世界の不思議を思いつつ、少女達は反対側エスカレーターを見た。

「うわぁ……!」

「何あれ、モデルか何か……!?」

上りのエスカレーターを上がっていく、ブロンドとシルバーブロンドの美少女二人組。

特にシルバーブロンドの少女は眼帯をしている為に、更に目立っていた。

 

蘭や友人を含め、ほとんどが二人に振り返っていた。

 

 

 

「……あっ、更にブロンド美人が来た」

「えっ……て、あれはっ!?」

友人の言葉に視線を戻せば、そこに居たのはブロンドのロングヘアーをロールした、先程とは違うタイプの美少女。

そしてもう一人は、蘭の見知った顔であった。

二人もまた、上りのエスカレーターに乗って上がってくる。

「ごめん、ちょっと背中貸して……!!」

「えっ……蘭!?」

蘭はとっさに友人の後ろに隠れる。それが間に合ったのか、鈴はそのまま、蘭の横を通り過ぎた。

 

「あの二人、一夏さんと別れて何処に行く気かしら?」

「さぁね。でも、必ず合流する筈だし……向こうは弾に任せときましょ?」

「今さらですけど……あの方、大丈夫ですの?」

「多分ね。何だかんだ言って、責任感ある奴だし………」

 

 

そんな会話が、蘭の耳にも届いた。

(一夏さん……!? それに、お兄……!?)

二人はそのまま、二階から三階へと向かうエスカレーターへと乗っていた。

「ごめん、美咲。ちょっと急用が出来たから、これお願い!!」

蘭は一階に降りるや、友人に荷物をしっかと押し付けた。

「えぇっ!? ちょっと待ってよ、蘭〜ッ!?」

友人が止める間もなく、蘭は上りのエスカレーターに乗っていた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

レゾナンスの六階。

とある書店の前に、箒と織羽はいた。

簪への土産にと、彼女の好きなライトノベルの新刊を買いに来たのだ。

「ごめんね、先に回っちゃって……」

「小説一冊程度なら大した荷物にもならないが……流石に荷物が増えてからでは、こっちまで上がるのも面倒だからな」

「じゃ、ちょっと買ってくるから。ここで待ってて?」

そう言い残して、織羽は書店の中へと消えた。

 

「人が、随分と多いな?」

エスカレーターを見ていると、上の階―― イベントフロアに向かう人間が多いように見えた。それも男が殆どだ。

 

一体何だろうかと思いつつ、箒は織羽が戻ってくるのを待っていた。

 

 

「お待たせ〜」

しばらくして、織羽が戻ってきた。

「どんな本を買ったんだ?」

「うん、これよ」

と言って、織羽は袋から買った本を取り出して、箒に見せた。

「『KENPFER(ケンプファー)!』……? どういう話なのだ?」

「えっと、これはね――」

 

 

『KENPFER!』とは、MS文庫の誇る人気作である。

主人公の男子高校生が、腹から内蔵の出ているシュールなぬいぐるみ『ホルモンアニマル』と出会いによって、女性にしか使えないという人型機動兵器『ケンプファー』のパイロットになって戦うという『SF学園ミリタリーラブコメディ』である。

主人公の周りには当然女の子ばかり。なのでハーレム物としても認知されている。

 

ちなみに、今日は第二期アニメ化記念のイベントが、ここで行われる予定となっている。

上に行く人の謎を知り、箒は得心が行ったと頷いた。

 

「女性にしか使えない兵器を使う男……何やら、どこかで聞いたような話だな」

「まぁ、織斑君との違いは……この兵器を使う為に、主人公の子が女子になっちゃうってところかな?」

「………は?」

その言葉に、箒は脳内で一夏が女声になった姿を想像してしまう。

胸も張って、腰がくびれ、そして目がパッチリとして。

「っ……!?」

そして、箒は顔を青ざめさせた。違う。これではただの女装だ。

「何を想像したのか、聞くまでもないのがまた……」

と言いつつ、織羽もちょっと想像してみたりした。意外と似合いそうな雰囲気があるかも知れない。

「まぁ、その主人公の子は好きな子がいるくせに、他の子も気になっちゃったりする辺り……今の箒に近いかもね?」

そう言って、肩を叩いてやる。

「一緒にするな」

不服だとばかりに、箒はジト目で睨んでやった。

「そう思うなら、二股宣言に、決着を、ちゃーんと付けなさいよね?」

「ぐぅ……っ」

ニッコリと返されて、箒は正しくぐうの音しか出なかった。

 

「さ、臨海学校用の買い物に行こうか?」

「……う、うむ」

 

せっかくの買い物も、テンションだだ下がりの箒であった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ここは……おいおい、あの一夏が……!?」

弾は驚愕した。目の前にあるのは、女性用のアクセサリーを扱う店。

そしてそこに、一夏が入っていったのを彼は目撃した。

こんな所に男が来る目的となれば、流石の一夏でも一つしかあるまい。

 

「女への……贈り物だというのか……!?」

中学時代、『悪魔のフラグクラッシャー』とか『立てた対価にフラグを折る、旗の錬金術師』とか『女子限定でヘル・アンド・ヘヴンする男』とか呼ばれ、全校どころか近隣校の男子からさえ恐れられたあの一夏が、女子にプレゼントを買うというのか。

 

「そうか……あの二人のどっちかが、そうなんだな……」

普通、女連れで別の女のプレゼントを買う筈もない。親しい友人というならまだしも、あの様子からそれはないだろう。

弾は神の奇跡に感謝した。

朴念神という神もいるらしいが、そんな事は知らない。

 

どっちとでも良い。どっちもでも構わない。あいつに、義兄(おにいさん)と呼ばれる可能性が潰えた。その喜びに浸ろうではないか。

 

弾が店の前で不審者さながらに感涙している頃、一夏と春斗は品定めの最中であった。

 

『う〜ん。箒の誕生日プレゼント……何が良いかな?』

『ネックレス……ペンダント……指輪……。ほーちゃん、薬指は何号だっけ?』

『お前は何を贈る気だ?』

 

二人は思いっきり、別の女性―― 箒の誕生日プレゼントを買っていた。

弾が感謝した神は、どうやら邪神だったらしい。

 

 

「すみません。これとこれを。誕生日用の贈り物なので、ラッピングをお願いします」

箒の誕生日は七月七日。臨海学校の日程とちょうど重なる。

なので、今日を逃すと用意できなくなってしまう。

「はい、かしこまりました」

店員に、それぞれが選んだ物を指し示して、先に会計を済ませる。

 

包装が終わるまでの間、春斗は店内を何気なく見回していた。

と、外に立つ見知った顔があった。

「一夏、あれ……」

『弾? 何やってんだ、あいつ?』

一夏は春斗と入れ替わって、弾の傍のガラス窓をコンコンと叩いた。

 

「うわぁっ!?」

弾は一夏に気付くと、大層驚いた。一夏は外に出て、しっかりと弾を捕まえた。

「お前、何やってんだよ?」

「ち、違う! 俺はお前の親友の弾ではない!!」

何をしているか聞いただけで、この慌てよう。もう「後ろめたい事をしていました」と、自白しているも同然だ。

しかも、誰も聞いていないのに”弾ではない”とか言ってしまっている。

面白そうなので、もう少しお楽しみ下さい。

「……なら、弾そっくりのお前は誰だ?」

「お、俺は……俺は………ッ!! そう、”Mr,ブレッド”だ!!」

「怒られるわっ!! 主に無許可の意味で!!」

一夏は危険人物()の頭を、思いっきり引っ叩いた。

 

 

 

 

「……で、どっちが本命なんだ?」

「……何の話だ?」

買った物を受け取り、一夏は四階衣料品フロアへと向かう。何故か、弾も一緒にだ。

「とぼけるなよ。あのブロンドの子とシルバーブロンドの子と、どっちかって事だよ!」

「あのなぁ、二人とはそういう関係じゃないっての。それにシャルロットは俺じゃなくて、春斗にだな」

「じゃあ何で、手を繋いでたり、腕組んでたりしてたんだよ?」

「それは……別に良いだろ」

一夏は言葉を詰まらせた。あれをやったのは春斗なのだが、それを言う訳にも行かない。

『ていうか、随分と詳しいね……まるで、ずっと見ていたみたいだ』

「っ……!?」

春斗が言うと、一夏はハッとした。今日は人出が多い。この中で見掛けたにしても、腕やら手やらが見えるだろうか。

見えなくはないだろうが、確実に見えるタイミングはある。

「弾、お前……何時からいた?」

「ッ!? な、何の話だ……?」

「俺が二人と此処に着いた時から……お前、ずっと後ろをつけて来てたな!?」

「あ、俺用事があったんだ! じゃなっ!」

 

 

こ゛たんた゛た゛ん は にけ゛た゛した。

 

しかし まわりこまれてしまった。

 

 

「よーし、キリキリと吐いてもらうぞ〜?」

「クソッ! 離せ、一夏っ!!」

弾がジタバタと暴れるも、しっかりと襟首を掴まれており逃げ出せない。

そのまま引き摺られるようにして、弾はエレベーターフロアまで持っていかれる。

 

「あれ、もしかして蘭のお兄さんですか?」

「離せぇ……て、えっ?」

その声に弾は振り返り、一夏も足を止めた。そこには両手一杯に荷物を抱えた、蘭の友人の姿があった。

「君らは蘭と同じ学校の……あれ、蘭の奴は?」

「それが、荷物押し付けてどっか行っちゃたんですよぉ〜」

そう言って、いっぱいの荷物を見せた。どうやらそれらは、全て蘭の物らしい。

「ったく、蘭の奴……ゴメンな。それは、俺が持って帰るからさ」

と言って、友人から荷物を受け取る。

「……じゃ、一夏! またなっ!!」

「おう………て、弾ッ! テメェッ!!」

そして一目散に逃げた。

あっという間に、人混みの向こうへと消えてしまった。

 

「結局、何しに来たんだよアイツは……」

『さぁ……とりあえず、僕らも四階に行こうか』

謎を残したまま、一夏らは四階へと向かうのだった。

 

 

「……もしもし、鈴か?」

『何かあったの?』

「わりぃ、見つかっちまった」

『ハァッ!? あんた、何やってんのよ!?』

「その代わり、ちょっと……いや、かなり凄い事が分かったぞ?」

『……何よ?』

「あいつ、アクセサリー買ってた。ラッピングもしてたから、多分プレゼント用だぞ?」

『…………ヘェ。デ、ダレニアゲルタメノモノナノカ、シラベタノヨネ?』

「多分、あの二人のどっちかじゃねぇか? 女連れで他の女用のは買わないだろうしさ」

『一番肝心な所でしょうが!? 何やってんのよ、バカ弾ッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「むっ……!?」

四階、衣料品フロア。ラウラは唐突に足を止めて、振り返った。

「どうしたの、ラウラ?」

「今、聞き慣れた声がしたような………気のせいか?」

少し見回したが、何処にもそれらしい人影はない。ラウラは首を捻ってから、また歩き出した。

 

 

「……危なかったわね」

立っていたマネキンの陰から、鈴が出てくる。

「鈴さんがいきなり、大声を出すからですわよ……!」

ハンガーに掛けられた洋服の隙間から、セシリアが顔を出した。

「悪かったわよ。でも、しょうがないじゃない……弾が見つかっちゃったんだし」

「……頼りになりませんでしたわね」

「その代わりに、ちょっと気になる事を教えてくれたけどね……」

「何ですの?」

「一夏が、ラウラかシャルロットにあげるプレゼント買ってたって」

「なっ……!?」

鈴の言葉に、セシリアが凍りついた。まさか、自分でさえ貰ったことがない『一夏からのプレゼント』をあの二人が、ポッと出の二人が、新キャラのくせに貰うというのか。

 

「フッ……フフッ………ウフフフ……!」

セシリアは笑い出した。肩を震わせて、握り締めた金属製のポールがギシギシと音を立てる。

「一夏さん……私という者がありながら、それはどういう理屈ですかしら……?」

「ちょっと待ちなさいよ。何で”私という者”なのよ! たかがクラスメートでしょうが!!」

これは聞き捨てならないと、鈴が食って掛かる。

「お黙りなさい! 鈴さん、あなたは二組でしょうっ!?」

「あたしは一夏の”特別な幼馴染”なのよっ!!」

「幼馴染に、特別も特別でないもありませんわ!! 所詮は過去、今と未来こそが大事なのですわ!!」

「うっさい!! あたしは過去も、今も、未来も! ずっと未来永劫”特別”なのよっ!!」

「ぬぅうっ……!」

「ぐぬぬっ……!」

鈴とセシリアが思いっきり睨み合い、ギリギリと視線をぶつけ合う。

 

「……あれ、何やってんのかしら?」

「正直、関わり合いになりたくないのだが……そういう訳にも行かんか?」

「行かんでしょうねぇ、やっぱり」

上から降りてきた箒と織羽が、軽い人集りに気付いたのは必然だった。

その中心に見えたのは、何処をどう見ても知り合いだったので、二人はそのまま回れ右をしたかったのだが、そうも行かない。

 

いくらギャグ話でも、ここでISを出させたらせっかく再起動(リブート)したのに即刻、打ち切りエンド確定だ。

 

「仕方ない……ちょっと行ってくる」

織羽はそう言って、人集りを割って中に入っていった。

 

 

「織羽!? 何のよ――」

 

 

ドゴスッ!!

 

 

「鈴さん!? あなた、いきなり何を――」

 

 

ズドンッ!!

 

 

 

人集りが海の如くザッと割れる。その間を、鎮圧された二人の襟首を掴んで引き摺りながら、織羽が帰ってきた。

「お待たせ〜。箒はこっち持って?」

「う、うむ……」

頬を一筋の汗が伝う。仮にも代表候補生を一撃とは、何とも恐ろしい女である。

差し出された鈴を受け取って、箒は肩に担いだ。

「じゃ、移動しましょ?」

セシリアを担いで、織羽はベンチのある、エントランスの方を指差した。

 

それと丁度入れ替わるように、一夏―― 否、春斗が四階まで上がってきた。

「何か、随分とざわついてるね?」

『何か事件でもあったか?』

事の顛末を知る者が聞いたなら、こうツッコンでいただろう。

 

「基本、お前らのせいだ」と。

 

「うわぁ……あれも、もしかしてIS学園の……? まさか、あんな凄い事も出来ないと行けないの……?」

別角度からその様子を見ていた蘭は、驚愕していた。

彼女の中で、IS学園は一夏の通う学校にプラスして、魔窟という評価が加わっていた。

 

「あっ、一夏さん……わっ!?」

ちょっとだけ、IS学園に進路を決めた事を後悔していた蘭であったが、直ぐ後にやってきた一夏に、そんな後悔は一瞬で消滅した。

 

 

声を掛けようと動くも、人りが解けて流れが戻った人波に阻まれ、声を掛ける事が出来なかった。

それでも後ろ姿を見失わず、蘭はその後を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

同じフロアでの騒ぎなど気付きもせず、ラウラとシャルロットは買い物の真っ最中であった。

「う〜ん、これなんて可愛いなぁ。でもでも、こっちの方も捨てがたいし……」

「シャルロット、私はどちらでも……」

「でも、そっちの方も良いよねぇ。う〜ん、色的にはあれの方が良かったかなぁ〜?」

「だから、私はどれでもだな……」

正確には、ノリノリのシャルロットにタジタジのラウラという構図である。

最初、ラウラが「これで良い」と手に取ったのは、何の変哲もないグレーのルームウェアだった。

それに対して、「そんなんじゃダメだよ! 女の子なんだから、もっと可愛いのにしないと!!」と、反論。

「お前の部屋着もジャージではないか」と言い返すと「大丈夫。春斗がいると分かった以上、本気で行くし」と笑顔で言い切った。

その笑顔に思わず、冷たいものが走ったのは仕方ない事だ。

 

という事で、シャルロットは十数着もの候補を選び、ラウラと自分用の部屋着兼パジャマをチョイスしていた。

 

 

 

シャルロット・デュノアは可愛い物が好きだ。

甘い物も好きだし、織斑春斗など、この世の何にも代え難いほどに愛している。

ならば、ラウラ・ボーデヴィッヒというキャンパスに相応しい一品を選ぼうとする思いは、あって然るべき。

(むぅ……そんなに重要な物なのか?)

シャルロットの思考が、いまいち理解出来ないラウラであった。

「お待たせ」

「む、義兄上……?」

丁度そこに、春斗がやって来た。カゴいっぱいに積まれた候補に、つい目を丸くしてしまう。

「豪くいっぱい出してきたね……どれにするの?」

「……シャルロットに聞いて下さい」

そう答えるラウラの視線の先に、鼻歌交じりに部屋着を選んでいるシャルロットがいた。

 

 

 

「あれ、さっきの……っ!?」

蘭は声を掛けようとしたが、その先に居た二人に気付いて隠れる。

声は聞こえないが、見た限りかなり親しい間柄の様だが。

(一夏さんと、どんな関係なの……!?)

蘭の瞳はギラギラと輝き、三人の動向を見張っていた。

 

 

 

 

「義兄上。嫁はどのような物が好みですか?」

「一夏の好みか……難しいな。色は黒が結構好きみたいだけど……」

春斗は以前、『裏白式カッコイイよな〜。黒とかこう、男! って感じだよな〜』と、言っていた事を思い出しながら答えた。

 

「黒ですか……」

「後、この間……布仏さんの着ぐるみパジャマを可愛いって言ってたな」

『お前、そう言う事をバラすなよな!?』

「じゃあ、これなんかどうかな?」

 

会話を聞いていたのか、シャルロットが見せたのは正しく着ぐるみパジャマだった。

 

白と黒の、猫耳フード付パジャマである。しかも薄手の生地なので、見かけよりも涼しいようだ。

 

「どう? 春斗はこういうの……好き?」

「そうだね……ラウラに似合うんじゃないかな?」

「……僕には? ていうか、好きかどうかを聞いているんだけど?」

「う〜ん、僕はあ「こいつ、子犬とか子猫とかの小動物大好きだぞ?」って一夏!?」

春斗の台詞を遮って、一夏が口を動かした。

「へぇ。春斗って小動物が好きなんだ……なるほど、これは憶えておいて損はないね」

思わぬ良情報にシャルロットはニコニコとしながら、着ぐるみパジャマを選んだ。

それ以外にも数点、動きやすい物も選ぶ。

 

ラウラよりシャルロットの物の方が多いのは、全然気のせいではない。

 

 

 

 

 

「―― じゃあ、次は水着だね?」

こうして無事(?)に、ラウラの部屋着を購入し終えると、そんな事をシャルロットが言った。

「水着……臨海学校で着る用の?」

「それもあるけど、やっぱり新作を着たいもの」

「……女の子って、ワンシーズン毎に水着買いたがるよね。男子には理解出来ないな」

「男の子は水着の種類、そんなに無いものね〜」

「古人曰く『女に似合う服は星の数ほどあれ、男に似合う服は片手の指程も無い』ってね」

「そんな言葉、初めて聞いたよ?」

「うん。僕が作ったからね」

「それ……古人じゃないよね」

そんな事をやりつつ、三人は二階へと降りていった。

 

 

 

 

その後ろをこそこそと着いて行く、蘭の姿も確認された。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「……で、何であんな所で揉めてた訳?」

「そ……それは、うぅ……」

「い、一夏さんが……ぁう……」

目を覚ました鈴とセシリアに、織羽が尋ねる。が、当身の威力が強かったせいか、未だに顔色が悪い。

 

「ほら、これでも飲め。それで…… 一夏がどうかしたのか?」

箒が買ってきたお茶を飲みつつ、セシリアが答えた。

「一夏さんが、シャルロットさんとラウラさんと三人で、ここに買い物に来ているんですの。それを追いかけて……って、しまった!?」

セシリアはいきなり立ち上がった。が、すぐに貧血で崩れ落ちてしまう。

どれだけ強力な一撃を見舞ったというのか。

 

「くっ……こんな所で、倒れている場合ではありませんわ……!!」

「待てセシリア。そのダメージで無理をするな……!」

「いいえ。ここで行かなければ……ならないのです!!」

箒の言を無視して、それでもセシリアは自らを奮い立たせる。ここで行かなければ、セシリア・オルコットの名が廃る。

「あんた、そこまでして……!?」

その身を顧みない決意に、鈴は目を見張った。これ程に強い決意と覚悟。正しく、代表候補生の名に相応しいと言えるだろう。

「まったく……馬鹿な女だな、貴様も」

そう言いつつ、箒はセシリアに肩を貸してやる。

「箒さん……!?」

「勘違いするな? たまたま、私も行く所が同じだというだけだ」

「……あなたも、大概馬鹿な人なのですね」

「どうやら、そうらしいな」

そして、互いに苦笑し合った。

 

「……いや。これってそんな、壮大な雰囲気を出す所じゃないでしょ?」

織羽のツッコミは尤もだったが、誰も聞いちゃいなかった。

 

 

 

移動後。

「……え? もう買って降りていった!?」

「はい。話からするに……二階に行ったものと思われますが?」

ここには既に居ないという店員の話に、四人は唖然としたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ……確か、今年出来たばっかりの店らしいね?」

「へぇ。結構、綺麗なお店だね」

レゾナンス二階にある水着売り場。

 

混沌は混乱となりうるのか。まだまだ、休日は続く。

 

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