IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第25話  End of Hurried Holiday −慌ただしい休日の結−

 

レゾナンス二階にある水着売り場。

色とりどりの水着の並ぶその場所に、シャルロットと春斗はいた。

「もうっ。ラウラもせっかくだから、水着買ったら良いのに……『私には必要ない』とか言って、どっか行っちゃうし……」

シャルが少し怒り気味に、肩を竦めて言った。

ラウラはきっと、シャルロットのあの勢いに付き合うのがしんどいので逃げたのだろうなと、春斗は思った。

そして、自分はそれから逃げる事は出来ない訳で。

 

「まぁ、良いや。春斗、僕に似合うの……一緒に探して?」

ニッコリと笑うシャルロットに、これから味わう苦労を感じずにはいられなかった。

 

 

 

「じゃあ、今度はこれを試着するね?」

「……うん」

「ちゃんと、そこで待っててよ?」

「……大丈夫。ちゃんといるから」

既に何度目かのやり取り。試着し、見せては新たに試着し。その度にこうやって聞いてくる。

正直、周りの視線が痛い。

ここは”女子用”水着売り場だ。そこにいる男子となれば、否が応でも目立つ。

ちなみに、春斗は一夏の選んだネイビーブルーの、ショートパンツタイプの水着を購入済みであったりするので、逃げる言い訳もないまま、試着室の前に立って待つという、不審極まりない状況に置かれていた。

 

実際、何度か店員に声を掛けられたし。

 

 

「はぁ……」

『千冬姉はこんなに長くないから、流石にキツイな……』

『そうだねぇ……』

女子は買い物が長いという話を聞いたことはあった。だが、最も身近な異性である千冬は、その性格もあってか買い物が早い。

なので、こうして長い事待たされるのは、結構疲れるものであった。思うだけで口に出したりはしないのだが。

 

 

 

 

シャルロットの着替えを待っていると、変な女が近くまでやって来ていた。

「ちょっと、そこのあなた。この水着、片付けておいて」

「………」

「そこにつっ立っている男! あなたに言ってるのよっ!!」

「……何?」

その礼節を欠いた物言いに対して、春斗の声が低く響く。

が、そんな不快さも理解出来ないのか、女はまるで見下すような視線を向けてくる。

「これ、片付けておきなさい」

ISの登場以来、女尊男卑の流れが生まれてきているとはいえ、こうも露骨なのは、そうお目に掛かれない。春斗は嘆息した。

「……馬鹿ですか? 自分でとった物も片付けられないなら、こんな所に来ないで下さい」

春斗は、その女を更に見下すように返すとフイ、と視線を戻す。

「なっ……!? あなた、自分の立場が分かっていないようね?」

そう言って、女は警備員を呼ぼうとする。

「さて、分かってないのはどっちかな……?」

逆に、春斗はニヤリと笑った。

 

「どうしましたか?」

ついにやって来た警備員に、女は出鱈目な事を告げる。それを聞いて、警備員は春斗のところまでやって来た。

「少し話を聞かせていただけますか?」

警備員はそう言って、腕を掴んでくる。その様子に、女がむかつくような笑みを浮かべている。しかし春斗は冷静に対応する。

「その前に、これを見ていただけますか?」

春斗はポケットから”ある物”を取り出し、提示しtみせた。

「………こ、これは!?」

「僕はIS学園所属、織斑一夏です。身分とそれを明かす物を提示した以上……この場での拘束は不当なものとして、そちらを訴えさせていただきますが……宜しいですか?」

春斗が見せたのは、IS学園所属である事を証明する為の”生徒証”であった。

 

後に連絡を取れる事を証明した場合、逮捕権限の無い者による逮捕、拘束は完全な違法行為となる。

ましてやIS学園に所属する男子といえば、世界に唯一人。それを不当に捕まえたとなれば、それだけで警備員の首はすっ飛ばされる事だろう。

 

「……どうしたの?」

更に丁度良くシャルロットが顔を出した。春斗が事情を簡単に教えると、見る間に不愉快さを顕にした。

そして、シャルロットも生徒証を提示して、警備員に向かって言い放った。

「僕は、IS学園所属のフランス代表候補生シャルロット・デュノアです。この拘束、尋問が不当であるならば、大使館を通して強く抗議させていただきます」

「うっ……!?」

その言葉に顔色を悪くしたのは、その女だった。タジタジとする警備員の後ろで、こそこそと逃げていく。

「えっと……お客様、少し聞きたい事が………あっ!?」

警備員が振り返ると、既に女の姿はなかった。

 

 

「本当、ああいうのは同じ女として気分が悪いよ……!」

警備員が平謝りして去ってから、シャルロットの機嫌は悪かった。

せっかくの楽しい時間に水を差されてしまったからだし、春斗をハメようとした事も許せなかったからだ。

「まぁまぁ。ああいう手合はいるものだし、気にしてたらキリが無いさ」

そんな憤慨するシャルロットをなだめつつ、本気で怒ってくれている彼女に、少しばかり嬉しいと思ってしまう。

「ほら。それより、どれにするか決めたの?」

「―― じゃあ、次の水着……っ!?」

と、シャルロットが何かに目を見開いた。

「うわっ!?」

次の瞬間、シャルロットは春斗の腕を掴み、そのまま試着室へと引きずり込んだ。

そのままカーテンを閉め、隙間から外の様子を伺う。

その狭い視界の中に見えたのは、四人の姿。鈴、セシリア、織羽、そして箒。

四人はキョロキョロとして、何かを探している様子だ。水着を買いに来たのか、それとも後をつけてきたのかは分からない。

だが、一つだけ言えるこ事がある。

 

(バレたら、絶対に邪魔される……!!)

 

織羽は箒を応援しているようだし、セシリアは一夏に好意を寄せている。鈴は一夏が好きなようで、そして事情も知っている。

誰に見つかっても、この時間が即終わりを告げる。

しかも、篠ノ之箒に見つかったとなれば――否、春斗が箒を見つけても、絶対にそっちに行こうとするだろう。

具体的に言うなら、尻尾をブンブン振る子犬のように。

悔しいが、まだ自分では彼女に勝てない。

「シャル、一体どうし……」

「ダメっ!!」

「ヘブッ!?」

シャルの上から外を見ようとした春斗の顔を、思いっきり押さえる。勢いが良すぎて、目潰しになったような気もするが、そんな事は重要ではない。

むしろ結果オーライだ。

 

と、ここでシャルロットは、今のシチュエーションに気が付いた。

 

狭い空間に二人きり。手を伸ばさなくても、届く場所にいる春斗。これは、千載一遇の機会(チャンス)なのではないか。

 

「痛ぅ……! シャル、いきなり何を……」

「ダメッ!!」

顔を押さえつつ、春斗が体を起こそうとするので、シャルロットは反射的にそれを押さえ込んだ。

更に口を手で塞ぎ、「シーッ!」と、自分の唇に人差し指を当てる。

「ふが……ふがが?」

「このまま……声を出さないで? もうちょっと、このままで……ね?」

「ふががっ!?」

シャルロットがそのまま、春斗を壁に押し付ける。そしてそっと、塞いでいた手を離した。

わずかに、掌が湿気を帯びている。

「シャル……何を?」

「何って……言ったでしょ? 春斗の中を、僕だけで埋めて見せるって……」

『あ、俺は〈海岸〉まで下がってるから』

『待ってよ、一夏ぁっ!?』

 

 

シャルロットは内心の羞恥を必死に堪え、春斗に迫る。

熱が、息遣いが、その鼓動さえも届きそうな距離。あの月光の下以来だ。

 

息が苦しい。頭がクラクラして、視界が揺らぎそうになる。

 

(幾ら何でも、大胆過ぎた……?)

 

今更に自分の行動を後悔しそうになる。だが、ここまで来て退く選択などあり得ない。

強引にでも攻めなければ、あの篠ノ之箒には勝てっこないのだから。

 

覚悟を決め、シャルロットは春斗の手を取った。そしてそのまま、自分の胸へと導く。

「なっ……!?」

「感じる……? 凄くドキドキしてるの……分かる?」

「っ……」

指先に覚える柔らかな感触に、コクコクと頷く春斗。何時もの澄ました様子とは違う反応を、シャルロットはとても可愛く思えてしまう。

 

もっと、もっと知らない顔を見たい。自分だけが、自分だけが見れる特別な顔を知りたい。その気持ちが強まり、彼女をより大胆にさせる。

 

「春斗、僕は……」

「シャル……待って、落ち着いて?」

「落ち着いて、なんて無理だよ……もう、ドキドキでどうにかなっちゃいそうだもの……」

熱に浮かされたように自然と、シャルロットの顔が春斗へと近付いていく。

「分かった。ならまずは離れよう……僕も外へ出るから、ね……?」

ドギマギとしつつも表面上の冷静さは保って、春斗はシャルロットを優しく押し戻そうとした。

が、シャルロットの細い指が、その手に絡みつく。

「ズルイよ。僕の気持ちは知ってるのに……そんな風に逃げようとするなんて」

そのまま、春斗の手に頬擦りする。

「いや、逃げようとって……そんなつもりじゃ……いや、違わない……いやいや、やっぱり違う……!」

「……どっちでも良いよ、そんな事」

春斗の顔を、両手で挟みこむようにして押さえる。動かないように、逸らされないように。

 

「僕だけを見て……? 他の誰にも余所見しないで、僕だけを見ていて……?」

自然と、シャルロットの顔が春斗へと寄せられていく。

「シャル……!? 待って、これは一夏の体だから……!」

「でも、今は春斗だよ……? だから、何も問題ないよね……?」

「問題あるって……!!」

シャルロットから香ってくる甘い匂いにクラクラとしながら、春斗は何とかシャルロットを止めようとする。

「でも、一夏の体なのが問題なら、僕が良いなら問題ないってことだよね……?」

「うっ……いや、でも……」

それでもキスを拒む春斗に、シャルロットは不安を感じ始める。

「どうして? 僕の事……嫌いなの?」

「いや、そうじゃないけど……」

 

「―― 良かった」

 

シャルロットはその言葉に安心し、更に距離を詰める。

互いに吐く息が頬をくすぐり、熱が届き、前髪が触れ合い、お互いの顔さえもボヤケてしまっている。

 

「シャ……ル……」

「春斗……好き……」

 

 

―― シャアアアアッ!!

 

僅か数センチ。まさに唇が触れ合おうとした瞬間、突如としてカーテンが開かれた。

 

「「――ッ!?」」

 

「な……な……何を……やってるんですか……一夏さん!?」

「ら、蘭……ちゃん!?」

果たしてそこには、この世の終わりを目撃したような顔の、五反田蘭が立っていたりした。

 

 

さて、どうして蘭がこの場に現れたのか。

それを語る為に、彼女の行動を追う事ととしよう。

 

蘭は水着売り場にて、二人をストーキング―― もとい関係調査を行っていた。

水着を試着しては、楽しげにそれを見せる女。

ギリギリと金属製のポールを握り締めて、ガリガリと水着の掛かったハンガーレーンを齧る。

 

そんな時、変な女が一夏に因縁を掛けてきて、警備員を呼んだ。

 

その女の顔が凄くむかつく顔で、蘭は出て行ってやろうとした。が、直ぐにその足は止まる。

 

一夏が何かを見せると、警備員の顔色が変わったのだ。更に試着室の女も何かを見せて、何事かを言っている。

そうしている内に女が逃げて、警備員は平謝り。ざまあ見ろ。

 

「一夏さんは何処に行ったのかしら……?」

「本当にこっちにいるのか、織羽?」

「だって、二階で行きそうな所なんて、ここぐらいでしょう?」

「もう、ちゃんと探しなさいよ……!」

 

と、向こうの方から聞こえてきた声。そして見える人影。

先程、鈴ともう一人のロールブロンドを、あんなエグイ攻撃で沈めた女とその連れだ。

マズイ、もしもここで見つかれば、下手をしたら一夏の後を付けていたことがバレるかも知れない。と思うや、蘭の行動は早かった。

 

一目散にそこから離れ、彼女達の後ろに大きく回り込むようにして再度入店したのだ。

 

 

思惑通り、気付かれる事はなかったが、何故か同時に一夏の姿もなくなっていた。時間と状況的に、この場を離れたとは考え難い。

もしやと思い、勇気を振り絞って―― 蘭はカーテンを開けた。

 

 

 

そして、時は今へと繋がる。

 

『春斗、この子は誰……?』

先日設定したばかりの秘匿回線(シークレットチャンネル)に、凄く冷たいシャルロットの声が響く。

『彼女は五反田蘭ちゃん。一夏の友達の妹さんで……まぁ、例によって一夏に惚れてしまっている可哀想な子だよ』

ちなみに秘匿回線(シークレットチャンネル)は白式、裏白式で違うので、この会話は一夏には聞かれない。

『それは……ご愁傷さまだね』

『ねぇ……で、どうしようか?』

何を、と言うまでもない。この一切合切、誤解さえない完全無欠のシチュエーションの事だ。

 

「えっと……かくれんぼ、かな?」

あっても回らない知恵を引っ張り出して、出た言葉はそんなだった。

「……何処の世界にかくれんぼして、そんな状況になる人がいるんですかっ!! ……いや、一夏さんならあるかも知れませんけど!!」

至極尤もなツッコミだ。だが、一夏ならばあり得ない事もないと知っている辺り、流石だといえよう。

 

 

更に混乱を大きくする者達が現れた。

「あーっ!! あんた達何してんのよ!?」

「って、蘭!? なんでこんな所に!?」

「い、一夏さん……! 何をなさってますの!?」

「一夏……シャルロット……貴様ら、まさか……!?」

「ち、違うよ!! それはまったくの誤解で――」

「そ、そうだ、誤解!! だから待って……!!」

シャルロットと春斗がそう言うも、全員が一斉に言い切った。

 

 

「「「「「嘘だっ!!」」」」」

 

 

ここから先はもう、とんでもない状況へと流れていった。

シャルロットと春斗に四人が詰め寄り、攻めや攻められ、喧々囂々。

 

周囲の目を気にせず、店員の介入さえも一睨みで追い返し、警備員もさっきの事のせいで来る事を拒んだ。

春斗は一夏を呼ぶも、『こんなタイミングで、誰が出ていくか!! お前で何とかしろ!!』とキッパリ言われた。

「あの時の言葉が不服に感じたのは、絶対に間違いでない」と、春斗は後に語っている

「……あぁ、もしもし会長ですか? 今、すっごい面白い事やってますよ………えぇ、マジモノの修羅場ですよ。しかもド修羅場……勿論、映像はバッチリと……いや、本当に凄い迫力ですよ〜!」

織羽は一人、どこかへと電話していたりした。修羅場と称したその様子はしっかりとISを使って記録をしている。

最早止める者なきや。救世主は何処に。誰もがそう願ったその時だった。

 

 

日出る方角より、黒き衣に身を包んだ凛々しくも雄々しき者、現れり。

「カツーン」と、ヒールと響かせ、黒髪を靡かせ、その後ろに従者を従えて。

 

 

「何を――」

 

その手を刀の如く構えるや

 

「――やっている、バカ者どもッ!!」

 

一瞬で、全員を打ち伏せた。

後に残るは死屍累々の群れよ。あぁ、恐ろしくも美しい―― それは、黒き死神か。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

世紀末救世主伝説千冬の拳によって、全員が頭にコブを作り、そして現在。

 

「いいですか。どんな理由があっても、こう言った公の場所で騒いだり、お店の人に迷惑を掛けるような行為はIS学園の、ひいてはあなた達自身の為になりません。そもそも――」

 

と、床に全員正座で『1-1の良心』こと、山田真耶によってお説教を喰らっていた。

「何であたしまで……?」

「黙れ。この馬鹿騒ぎを放置した時点で同罪だ」

「あぎゃっ!?」

不服とばかりの織羽の頭を、一撃。潰れたカエルのような声が出た。

「山田先生、もうそろそろ……」

もう少し説教が続くかと思われたが、それを千冬が止める。どういった風の吹き回しかと、誰もが疑問に思った。

「学園に戻った後、相応の罰を与えるので」

やっぱりかい。一同の心はひとつになった。

 

「私、関係無いんですけど……」

一人、蘭が心の中でシクシクと泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

「では、皆さんは罰として私と一緒に来て、荷物持ちをするように」

「「「「「えぇ〜〜〜!?」」」」」

「だから、私は関係が……!」

「つべこべ言わずに、さぁさぁ……!」

真耶は全員を追い立てる様に、一夏を除く面々をその場から遠ざける。

 

 

「やれやれ、要らん気遣いをする……」

それに、千冬が嘆息した。

「どういう事でしょうか、織斑先生?」

「今は就業中ではないから、名前でいい。この場では、只の姉弟だ。一夏も良いな?」

「分かったよ姉さん…………で、千冬姉。その、何時の間にか持ってる水着は?」

”一夏”は千冬の手に握られていた、白と黒の水着を指差して尋ねた。

 

「率直に聞く。春斗、一夏……どっちが良い?」

「え……? えっと………」

”一夏”はまじまじと二つを見比べる。

 

黒はメッシュ地のクロスがセクシーな、スポーツタイプ。

白は一切の無駄を省いた、機能性重視な実用タイプ。

両方共、露出の多いビキニである。

 

(どっちが良いか……か。どっちもビキニだし……黒、かな?)

一夏はそう思って、考え直す。

こういう物を着ていると、変な男が寄ってくるかも知れない。そう考えるとここは、白の方が良いかも知れない。

 

「じゃあ、白で」

「僕は黒だから、これで二票だね」

「2-0か。では、黒にするか」

「うぉい! ちょっと待てぃ!?」

 

「何だ、一夏?」

「どうしたのさ、一体?」

「おかしいよな!? 俺は白って言ったのに、何で黒に二票入ってるんだよ!?」

「お前は昔から、気に入った方を注視する癖がある」

「黒をジーッと見てたの、バレバレだよ。どうせ、『黒を着たら、変な男が寄ってくるんじゃないか?』なんて、シスコン丸出しの馬鹿な考えでもしてたんでしょう?」

「誰がシスコンだ!? そういうお前は、そういう心配をしないのか!?」

「姉さんがそんな男に引っ掛かると思う? そもそも、心配する程姉さんに男が寄ってくる訳ないじゃな――」

 

 

 

ドゴスッ!!

 

 

 

「「痛ったぁ〜〜〜っ!?」」

容赦なく振り下ろされたゲンコツに、悶え苦しむ二人。

「悪かったな、男の影がなくて。手のかかる弟が自立するまで、そんな事に気を回すつもりはない。人の事を言うよりも……一夏、お前はどうなんだ?」

「俺はって……な、なんでさ!?」

「学園には腐るほど女がいるのだ、選り取り見取りだろう? その気になれば、彼女の一人や二人出来るだろうに、何故作らない?」

「いや、二人は駄目だろ?」

「それを一夏が言う時点でアウトだね」

一夏のツッコミを、更に春斗がツッコむ。

「なんでだよ!?」

「まぁ、こいつの鈍さは今更として……そうだな、ラウラなどはどうなんだ? キスまでした仲だ、色々問題もあろうが……容姿も悪くないし、一途だぞ?」

「いや、まぁ……ラウラは可愛いと思うけど」

「ほう」

「へぇ」

「――って、何言わせんだよ!? ていうか、春斗の方はどうなんだよ!?」

二人の生暖かい声に、一夏がハッとして叫んだ。

「春斗は、お前ほど朴念仁ではないからな。要らん心配だ」

「まったく……一夏にだけは言われたくないよ、僕は」

「……マジでムカつく」

そんな呟きに、千冬はクスクスと笑うのだった。

 

 

 

 

 

「…………」

少し離れた所から、その様子を伺っていた者がいた。

小柄な体格にシルバーブロンド。そして眼帯という、特徴的容姿の持ち主―― ラウラである。

 

あのドタバタを遠巻きに見ていたのだが、千冬達が来たので一足早くその場から離脱することに成功。

騒ぎが収まった頃合いに、こうして戻って来たのだ。

 

そんな彼女に耳に飛び込んできたのが

 

「――ラウラ――可愛い――」

 

という、一夏の言葉だった。

 

(可愛い……誰が?)

 

『――ラウラ――可愛い――』

 

(私が……可愛い……?)

 

 

その意味を理解し始めると共に、ラウラの白い肌が紅潮していく。

アワアワオタオタと挙動不審に動き回り、その場でグルグルと回りだしたりする。

 

そんな彼女の耳に飛び込んできた、新たなる言葉があった。それは水着を買いにきていた、見知らぬ女性二人組の会話だった。

 

 

 

 

「気合入れて選ばないとね〜」

「似合わない水着着てったら、彼氏に一発で嫌われちゃうもの」

「他の事が全部100点でも、水着がダメだったら致命的だよね〜?」

 

 

 

「―――ッ!?」

 

その瞬間、ラウラの胸をアンチマテリアルライフルで撃ち抜かれたかのような衝撃が走った。

あらゆる事が完璧でも、水着一つで全てがダメになってしまうというのか。

まさか、そんなバカな。水着がそれほどまでに重要な物だというのか。

さり気無く、自分は他は満点だと言っているような気もするが、気にするべきはそこではない。

 

『悪ぃ。そんなダサい水着の奴の嫁にはなれねぇよ……』

 

「………!!」

想像した。似合わない水着を着ていった時の一夏の反応を。

 

『ふっ。そんな水着で一夏を嫁にするなどとは……笑止!!』

『ラウラ・ボーデヴィッヒ。所詮は、私の相手ではなかったということですわね』

『うわっ、そんなダサいので一夏の横に立とうとかしないでくれる!?』

『ラウラ、だから言ったのに……もう、それじゃダメだよ』

『ボーデヴィッヒ、お前には期待していたのだがな……そんな水着を着るようでは、一夏を嫁にはやれんな』

 

続いて襲いかかるのは、色とりどりの水着を着こなす幻影達。上から箒、セシリア、鈴、シャルロット、千冬だ。

 

「あ……あぁ………!」

 

行けない。このままでは一夏が、他の()の嫁にされてしまう。

いや、嫁にしようとしているのはラウラ一人であるが。

ラウラはすぐさま端末を取り出し、救援を求めた。

 

 

 

 

「……そういえば、ラウラちゃんは何処に行ったんだろう?」

あの大騒動の中で、ラウラの姿だけはなかった。何処かにいるのだろうかと、春斗は店内を歩いた。

と、売り場の影にラウラを見つけた。どうやら電話中らしい。

「――クラリッサ、私だ! 緊急事態発生ッ!!」

「っ……!?」

その言葉に、春斗は目を見開いた。まさか、こんなタイミングで不倶戴天の敵に繋がろうとは、思いもしなかったからだ。

 

春斗はラウラに悪いと思いつつ、内容を耳立てて聞きつつ、その背後に回った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

ドイツ。シュヴァルツェア・ハーゼ(黒ウサギ隊)基地。

待機中の彼女たちに通信が届く。

 

「――受諾。こちらはクラリッサ・ハルフォーフです」

『クラリッサ、私だ! 緊急事態発生!!』

「「「「っ……!?」」」」

緊急事態。部隊に緊張が走る。

「部隊を向かわせますか?」

『いや、その必要はない……その、個人的な事なのだ……』

「……個人的な、緊急事態だと?」

『う、うむ……実は今度、臨海学校というものに行くのだが……どのような物を選べば良いか、水着の選択基準が分からん。そちらの指示を仰ぎたいのだが?』

不安そうに言うラウラにちょっと萌えつつ、クラリッサは不安を払うように答える。

「了解しました。我々黒ウサギ隊は、常に隊長と共にあります。それで、現在の隊長の所持されている装備は?」

『学校指定の水着が一着のみだ』

「ッ!! 何をバカな事をっ!!」

『――っ!?』

その言葉に、クラリッサが激昂した。

「確か、IS学園は旧型スクール水着でしたね? 確かに、男子のマニア心を擽るそれも悪くはないでしょう……だが、しかし……それでは……!」

「そ、それでは……何だ?」

ゴクリと、ラウラの唾を飲む音が聞こえる。

 

 

 

「それでは――― 色物の域を出ないッ!!」

 

 

 

 

「な―――っ」

色物。

それは、安易なキャラ付けに走ったが故に抜け出れない底なし沼にはまるが如く、目立ちながらもしかし、決してメインに往く事の出来ない存在。精々、いいお友達レベルにしかなれない不遇なるキャラクターだ。

 

ラウラはそうなってしまう自分に絶望し、崩れ落ちそうになる。

 

「では、どうすれば良い……!?」

『ご安心を。私に秘策があります』

 

「―― おっと、その前にお邪魔するよ?」

春斗がヒョイと、ラウラの手から端末を取った。

 

『おっと、その前にお邪魔するよ?』

「っ……!? 貴様は何者だ!?」

『何者か、か……それを語るには通信は都合が悪いね、ミス・クラリッサ?』

「私の名を知っている……? 隊長はどうした!?」

『彼女なら今、僕の脇でピョンピョンと跳ねているよ?』

『あっ、義兄上っ! 端末をっ、返して下さいっ!!』

 

「ブッ――!」

 

その余りにも可愛らしい光景に、クラリッサ以下部隊員が深いダメージを食らった。

特にクラリッサなどは、想像力が豊か過ぎて鼻から忠誠心が溢れ出ていたりする。

 

「クッ……おのれぇ……! 何が目的だ……!?」

鼻に詰め物をしつつ、クラリッサが立ち上がる。

『別に大した事ではないよ。話を聞いた限りでは、貴女が彼女に何やらアドバイスをするようなので……ここは一つ、勝負をしようかと思ってね……?』

「勝負、だと……?」

『そちらが思う彼女に似合う水着を、僕が完膚無きまでに論破して見せよう』

「ほう……面白い。良いだろう、ならば聞くが良い! この私の秘策を!!」

 

 

 

 

*ここからは皆様のイメージ力を必要とします。ご注意下さい。

 

 

 

 

追求開始

 

【ラウラ・ボーデヴィッヒに似合う水着とは?】

 

 

 

「隊長の体型は残念ながら、女性としては幼い。だが、それをここで言っても仕方ない事。ならば、デメリットを逆転させる事で活路を見出す。それが私の秘策だ!!」

 

『待った! デメリットとはどういう事だ?』

「デメリットというのは言葉が悪いか。具体的に言うならば、慎ましきバストとすとんとしたウエスト、小さなヒップの事だ」

『……それは幼児体型……いったぁっ!?』

『義兄上、誰が幼児体型ですか……?』

『ゴメン。いや、本当ゴメン……つ、続きを……!』

 

「つまり、ここで似合う物をと言われれば、必ずと言っていい程にスクール水着に走るものだが、そこをあえて逆転させる! つまり、『逆に、セクシータイプの水着を選ぶ』という事だ!」

『待った! それがラウラに似合うと思っているのか?』

「異議ありっ!! それこそ浅はかな考えだ! 隊長ほどの容姿ならば、似合わないことはない筈だっ!!」

『ぐっ……!』

「私が選ぶのは、露出の大きく、布面積の少ない―― ずばりローライズのビキニだ!! フリルなどのポイントがあれば尚良しっ!!」

クラリッサの脳内に、それを着るラウラの姿が浮かぶ。あぁ、なんて可愛いんだろうか。

 

『では確認しよう……色はなんだ』

「当然、黒だ。隊長の肌の白さとのコントラストを考えれば、それが当然だろう?」

 

コトダマ>織斑千冬

 

『異議ありっ!!』

「何だと……!? 私の選択の何処に問題があるというのだ……!?」

『ミス・クラリッサ。確かに君の選択はベストと言えよう……だがそれは所詮、机上の空論なのだよ』

「何を馬鹿な事を……!」

『では、これを見てもらおうか』

「これは……織斑教官か?」

『一年間、ドイツにいて教官を務めていた彼女の姿は良く知っているだろう?』

「言われるまでもない。だが、それがどうし…………っ!? ま、まさか……!?」

クラリッサは、ある恐ろしい可能性に気が付いた。

『そう。現場に居ない君が知らないのは当然だけど……君の選択は正に、織斑千冬のそれとカブるっ!!』

「ッ……!!」

『ミス・クラリッサ、貴女に問おう。同じ色同じタイプの水着を着て……ラウラ・ボーデヴィッヒが織斑千冬に勝利する可能性があるかどうかを!!』

 

「く……ぅうう………ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

 

 

『……以上、だ』

 

 

 

 

 

 

「はい、もう良いよ」

「義兄上、一体何をやっているのですか?」

「ちょっとね?」

そういう春斗の顔は、もの凄く爽やかだった。

 

「クラリッサ、私だ」

『ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長……申し訳ありません。私では隊長のお力にはなれません……!』

「え? いや、待てクラリッサ!?」

『ですが、何時か必ず……さらなる研鑽を積み、その時こそ……必ずや……!!』

「待て、待ってくれクラリッサ!?」

と、ラウラが止める間もなく、通信は切られてしまった。

 

「……義兄上、どうしてくれるのです! このままでは私は色物で嫁に嫁にはなれないと言われ、誹謗中傷の果てに教官にも愛想を尽かされてしまいます!!」

絶望にガクリと崩れ落ちるラウラ。そんな彼女に、春斗は言った。

「大丈夫。世界で最も、一夏の好みを知っている人間がいるじゃないか?」

「義兄上……まさか!?」

「そう、僕が導いてあげよう……! 君に似合い、かつ一夏に気に入ってもらえるような水着へと!!」

「おぉ……っ!!」

さながら救世主(メシア)のように、ラウラに手を差し伸べる春斗。

その手を、感動に咽び泣きながらラウラは掴んだ。

 

精神的に弱った所を、優しい言葉で付け込む。詐欺の常套手段である。

 

 

「……うん。これなら一夏も絶対に喜ぶよ、間違いない」

「だが、これは似合うのでしょうか?」

「大丈夫。絶対に似合ってるから」

色々と見て回りながら、ついにラウラに合う物を見つける。当然、一夏には下がってもらっているので、どんな物かは分からない。

袋を抱えながら、不安そうなラウラの頭をよしよしと撫でてやる。サラサラな手触りはとても心地良い。

 

「は〜る〜と〜?」

「っ……!?」

ラウラの髪を堪能していると、背後から凄く形容しがたい響きが届けられた。

 

後ろを見てしまったのだろう、ラウラが凍り付いている。

「ど、どうしたのかな……シャル……?」

「えっとね、どうしてラウラの水着を選ぶの……僕の時よりもずっと真剣だったのかなって? 後、どうしてこっちを向いてくれないの?」

「いや……まぁ、ラウラちゃんの件は色々とあってだね……? 振り返らないのは、気にしないで欲しいな……ほら、男は背中で語るものだって、昔から言うしさ……?」

「うん。それは分かったから……振り返ってよ?」

「いや、だからね………っ!?」

二進も三進も行かない状況で、しかし視線の先には姿見があった。そしてそこには、かすかに見える-- シャルロットらしき夜叉の姿が映っていた。

「あ〜……僕もいよいよ、一夏と同じ道に進み始めてしまっていると……?」

「これがそうかは知らないけど……とりあえず、お仕置きかな?」

水着売り場に、春斗の悲鳴が反響した。

後にラウラは語る。

「シャルロット・デュノア。あれを怒らせた者は例外なく、死へと至るだろう」と。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

買い物も無事に終わり、大所帯となった一同(春斗は一夏と交代した)は、地下街で昼食を取り、解散となった。

ちなみに、五反田蘭は途中で弾と出会い、そのまま離脱していった。

 

何故か「胸は大きさじゃない。形だからね!!」と、捨て台詞を吐いていったのが印象深かった。

鈴を除く面々が蘭よりも大きかったのが、痛烈なダメージであったらしい。

 

ちなみに、真耶>箒>千冬≧織羽>セシリア>シャルロット>>>>鈴≧ラウラである。

何がとは、あえて言うまい。

そして、学園に帰ってきたそれぞれは近付く臨海学校に想いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 

「海……それは解放の時ですわ!」

 

 

「ここで一気に他との差を付けなきゃ……!」

 

 

「嫁は誰にも渡さん……!」

 

 

「こ、これを本当に着るのか……!?」

 

 

「着なきゃ、何の為に買ったっての!? 織斑君をこれで一気に落としちゃいなさい!!」

 

 

「何とか二人きりになって、春斗とキ……キキ……キスぐらい……っ!?」

 

 

「ふふ〜ん。いよいよ、この天才束さんの出番が近付いてきたよ〜っ。他にはない斬新かつ、IMPACT MANTEN!! な登場を仕込むよ〜っ!!」

 

 

「隊長は『義兄上』と呼んでいたな……つまりは、あれが織斑春斗……フフッ、この私にこれほどの屈辱を与えるとは……見ているが良い、織斑春斗! 必ずや、貴様を打ちのめして見せるッ!!」

 

 

 

 

「なぁ、春斗……すっげぇ、嫌な予感がしないか?」

『偶然だね。僕もすっごく、嫌な予感がするよ……』

 

 

 

海には魔物が住んでおると、昔の人はよく言ったものである。

一部、臨海学校と関係ない描写もあったが、そんな事ぁ知ったこっちゃ無い。

 

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