IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第26話  海が呼ぶ、嵐の予感?

 

トンネルを抜けると、陽光に煌めくのは見事な海。

IS学園も海に囲まれているが、それとこれとではやはり違うものだ。

 

「おぉ、海だ! 7ね」

と風景に興奮しつつ、織羽は裏返したカードを一枚捨てる。

「やっと着いたの? あ〜、長かったぁ〜……はーち!」

鈴は首をコキコキと鳴らしながら、やはり裏返しのカードを一枚捨てた。

「ふふふ……やっと、このアタシが秘密のベールを脱ぐ時が……9よっ!」

「ダウト」

「ノォオオオオオッ!?」

織羽の情け容赦無い一言で、山盛りのカードを泣く泣く引き取らされる。

 

ここは二組のバス。

生徒達は、もうすぐ到着するであろう場所に思いを馳せ、ワイワイとはしゃぎ始めていた。

 

「海かぁ。織斑くんはどんな水着かな?」

「トランクスじゃない?」

「いや、ビキニかもよ?」

「ブーメランと申したか!? 10!」

「誰も言ってないわよ」

「いっそのこと……赤褌とか!?」

「Oh! Japanese Classic Pantsデスカ!?」

「マニアック過ぎるっての!」

「じゃあ、私は白で」

「そういう問題じゃないっての! 褌から離れなさいよっ!!」

 

訂正。極々一部に対して、思いを馳せていた。

一組ばかりがフィーチャーされるが、二組も大概濃いメンツが揃っていたりする。

 

 

 

「一組のバスは、今頃どうなってるのかね〜?」

「さぁて、考えるだけ無駄だと思うけどね……きっと、ツッコミ疲れするだけよ」

「それもそうね〜」

「今の内、平穏を満喫しておきましょ……11」

そう言いつつ、鈴はまた一枚カードを捨てた。

 

「ダウト」

「チッ……」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

一組のバス内。

二人の思う通り、その中は非常に面白い事になっていた。

 

「海っ! 見えたぁっ!!」

一人の女子が声を上げる。

それを切っ掛けにしてか、多くの生徒が窓際に寄る。

 

「いやー、海が見えるとテンションが上がるな」

「そうだね。僕も楽しみだよ……ウフフ……!」

一夏の隣の席にはシャルロット。何やら不気味に笑っているのが気になるが、どうせ被害を受けるのは春斗なので、あえて放置する。

『いやいや! 放置はだめだよ!?』

『聞こえね〜な〜』

一夏の対応に文句を言おうとしたところ、シャルロットからの秘匿回線(シークレットチャンネル)が届いた。

『春斗〜。僕の水着、楽しみにしててね〜♪』

『……えっと、うん。そうだね……』

『上手く時間作って、一緒に泳ごうね〜?』

『まぁ、一夏次第とだけ言っておくよ……うん、約束は一夏とね?』

『分かった♪』

シャルロットは弾むような声で答えた。

 

 

「という事だから一夏、時間作ってね? 作ってくれなかったら……やっちゃうよ?」

「何がっ!? そして何をっ!?」

改めて言うが、秘匿回線(シークレットチャンネル)での会話は、一夏には聞こえないのである。

 

 

 

「全く……海程度で、皆さんはしゃぎ過ぎですわ。あ、D2です」

「いや〜、セシリアが言うことかね〜。あたしもD2ね」

「水着オーダーメイドの用意するとか、気合入れ過ぎでしょ? はい、スキップ」

「うぉおっ!? とんできたぁ〜! もう一度スキップ〜♪」

「えぇっ!? と見せかけて……D4、青っ!」

「なっ!? 八枚ですって……!?」

セシリアは思わぬ反撃に悲鳴を上げた。

 

 

 

「………」

「………」

箒とラウラは、沈黙の中にいた。別に互いの間に問題があった訳ではない。

 

その証拠に、二人とも俯き気味にモジモジとしている。

(も、もうすぐ着いてしまう……! クッ……本当にあれを着るのか……!?)

 

(もうすぐ到着する……義兄上の選んでくれた水着……果たして一夏は気に入ってくれるのか……!?)

 

内心は似たり寄ったりだったりする。

 

 

 

「――おーい、箒? ラウラ?」

「「――っ!?」」

いきなりヒョイと顔を出した一夏に、二人が声にならない悲鳴を上げた。

「どうした……二人とも顔が赤いぞ?」

「い、いきなり顔を出すな、バカ者ッ!!」

「ち、近い……もっと下がれっ!!」

「どわっ……!」

二人は同時に一夏を押しやる。

 

一夏は病気か何かかと心配したのだが、どうやら元気そうなので一先ず下がる。

「箒、向こう着いたら泳ごうぜ。 遠泳、得意だったろ?」

「ふぇ!? あ、あぁ……そうだな……うむ、昔はよくやったものだな」

と、若干しどろもどろになりつつ、顔を赤く染めて箒が答える。

『そうか……ほーちゃんの水着姿……!! くぅ……テンションが上がるなぁ!!』

春斗がビジュアルにしたら

 

\(^o^)/<ヒャッハー

 

的なリアクションをしているが、一夏は絶対に触れないと決意していた。

何故なら。

 

『は〜〜〜る〜〜〜〜と〜〜〜〜〜?』

『!?』

 

秘匿回線(シークレットチャンネル)は、繋がったままだったりするからだ。

 

『メーデー、メーデーッ!! 一夏ヘルプ!!』

『お掛けになった精神会話は、現在使われておりません』

『ちょっとぉ!?』

『春斗、本当に後で……O☆HA☆NA☆SHI、しようね〜?』

『ジーザス……』

 

近い未来に訪れる何かに、春斗に出来るのは祈る事だけだった。

 

 

 

「そろそろ到着する。全員、席に戻れ」

千冬がそう言うと、立っていた面々が自分の席へと戻る。

程なくして、四台のバスは目的地である旅館の前へと停車した。生徒達は降りると、荷物をそれぞれ下ろしていく。

そして全員が整列した。それを確認すると、千冬が良く通る声を響かせた。

「それでは、ここが今日から三日間、我々がお世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ。挨拶っ!!」

 

『よろしくお願いしますっ!!』

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生もまた、元気があってよろしいですね」

といって、ニッコリと笑う和服姿の女将。三十代程だろうか、しゃんと伸びた背と、しっかりと着こなされた和服に大人の印象を感じるが、しかし仕事柄か、その容姿は若く見えた。

 

「あら、こちらが噂の……?」

「っ……?」

女将の視線が一夏へと向く。

「えぇ、まぁ。男子が一人いるせいで、浴場分けが難しくなってしまい、申し訳ありません」

「いえいえ、そんな。なかなか良い子じゃありませんか。しっかりしてそうな印象を受けますよ?」

「印象だけですよ。織斑、挨拶しろ」

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

千冬に言われるまでもなく、そうするつもりだったので、一夏は深々と頭を下げた。

「これはご丁寧に。花月荘の女将をしております、清洲景子です」

女将もまた、スッと静かに頭を下げる。その見事な様に一夏は思わずドキッとさせられてしまった。

 

何せ一夏の周囲には、こういった大人の女性というのが居ない。

この雰囲気は、最もそれに近いだろう千冬にも、出せはしないものだ。

 

「不出来の弟でご迷惑をお掛けすると思いますが、よろしくお願いします」

と言って、千冬が一夏の頭を鷲掴みにする。そしてそのまま再度、頭を下げさせる。

「いてててててっ!?」

「あらあら。織斑先生は弟さんに、厳しくていらっしゃるのですね」

「いつも、手を焼かされていますので」

『う〜ん。主に女性関係についてかな?』

『それは絶対に、心当たり無いぞ!?』

『ここの温泉って、鈍感にも効果あるのかな?』

『どういう意味だよ!?』

 

 

 

 

「それでは、お部屋にどうぞ。海へ行かれる方は別館の方で着替えができますので、そちらをご利用下さい分からない事があれば、いつでも従業員に聞いてください」

「「「はーい」」」

女将の言葉に返事をして、生徒達は旅館へと入って行く。

何はなくとも、まずは荷物を部屋に持っていかねば話にならない。

 

明日からのデータ取りや訓練に備えて、初日は自由時間となっている。

 

「ね、ね、おりむー?」

と、特徴的な呼び名を呼びながら現れたのは、常人の1/4の時間軸に生きる少女―― 布仏 本音。通称のほほんさん(一夏命名)だった。

常時眠そうな顔と、ダボダボの制服が特徴である。

「その下に隠された至宝こそが、彼女の恐ろしさを物語る」とは春斗の談。

 

「おりむーの部屋はどこ〜? 一覧にもなかったよ〜。遊びに行くから教えて〜?」

本音のストレートな質問に、女子たちの耳が空飛ぶ象の耳になる。

「さぁ、俺も知らないんだ。廊下ででも寝るんじゃないかな?」

などと一夏は冗談めかして言うが、ちょっと有り得そうなのがするのが嫌なところだ。

 

「おぉ〜、いいね〜。私もそうしよっかな〜? 『あ〜、床冷てぇ……』とか言って〜」

「……今、声が変わらなかった? 赤髪黒マント的なヘタレ魔術師みたいな……?」

「ん〜? 何の事ぉ〜?」

とぼけているのか本気なのか、本音は小首を傾げる。

この事は一夏は追求しないことにした。人間、触れてはならない深淵もあるのだ。

「とりあえず、どっかに部屋は用意されるみたいだよ。流石に女子と同じ部屋は出来ないからって」

「一ヶ月も、しののんと一緒だったとは思えないセリフだね〜」

「……それ、山田先生に言ったらダメだぞ? 本気で凹むから」

「りょ〜かい〜」

本音はのほほんとした声で敬礼する。ビッと決まらない辺り、彼女らしいといったところか。

 

「織斑、お前の部屋はこっちだ。付いて来い」

千冬が自分の荷物を持ち、一夏を呼ぶ。

「はい。じゃ、後で」

「じゃ〜あ〜ね〜」

本音はダボ袖を振って、一夏を見送った。

「……これが、おりむーを見た最後だった」

「変なナレーションを入れるな」

ペチン。と、癒子のツッコミが決まった。

 

 

 

 

 

 

さて、一夏が千冬に連れられたやって来たのは大きめの部屋。

二人部屋と言う割には広々とし、東に面したところは一面の窓。海を一望できる眺めは、きっと夜明けの日も見事に見えるだろう。

バス、トイレはセパレート。バスに至っては、一夏が足を伸ばして尚、余裕がある程だ。

 

これ程の部屋が、一夏個人の為に用意された――― 訳ではなかった。

 

 

入り口にはしっかりと『教員室 織斑千冬 織斑一夏』と書かれてあった。

「つまり、俺達は千冬姉と同室……と?」

「織斑先生と呼べ。個室を用意するという案もあったのだがな。お前を個室にすると十割の確率、もしくは100%の確率で、厄介事が起きるとが判断しての処置だ」

「厄介事って……まぁ、この間も部屋壊されたしな……」

「ここを壊されたりしたら適わないわんからな。ま、気を使わんで良いだろう?」

「まぁね。ところで……織斑先生はこの後は?」

「私は他の先生と連絡なり確認事項なりがある。が、まぁ……あれだ、弟の選んでくれた水着ぐらい、着る時間はあるさ」

コホン、と咳払いしつつ言う千冬の頬は、少しだけ赤みが差していた。

『照れるんなら言わなきゃ良いのに……』

 

 

その後、部屋を訪れた真耶と共に千冬が出ていき、一夏は軽めのリュックサックに必要な物を移し、肩に掛けた。

「じゃあ、俺達も行くか?」

『いざ往かん。母なる大海原へと!』

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

キラキラと、海面が陽光を照り返し、まるでミラーのように光を散らす。

既に砂浜には生徒達が出ており、一夏はワイワイと騒ぐ彼女達に肩を竦めた。

「いや〜、元気なもんだなぁ〜」

『青い空、白い雲、眩しい太陽。はしゃがない訳にはいかないさ』

『……そう言いながら、空も雲も太陽も見てなかっただろ?』

『僕にとっての空と雲と太陽は、しっかり見てたよ?』

それは何か。などと説明する気はない。肩より下で、太ももより上というヒントだけを提示したい。

 

 

『一夏は海でも一夏であった。どう一夏だったかと言えば、余りにも内容が多い訳で。

まずは、セシリアさんにサンオイルを塗る事を頼まれた。オイルを手で温める事を知らない一夏は、そのまま塗ろうとしてしまったり。

で、改めて塗っていると何故かセシリアさんが息をハァハァと乱して、周りにいる女子達は一様にしてその光景をエロイと表した。

 

更に暴走を始めた彼女は、手の届かない所―― 脚やお尻までもと注文してきた。

流石の天然、鈍感、にぶちん、唐変木、朴念神、エロプラス+と、様々な称号を欲しいままにする織斑一夏であっても、これにはたじろぐ。

だがしかし、そこに割って入ったのは鈴ちゃんだった。

一夏からオイルを奪い、セシリアさんの水着を捲りあげてワシャワシャとお尻にオイルを塗りたくった。

というか、水着がシミになるのではないだろうか?

とか思っている内に、セシリアさんが「鈴さん、いい加減になさいっ!!」とお怒りになる。

横たえていた体を起こして、無防備にも振り返った。一夏のいる方へと。

オイルを塗るのだから当然、上は外してある。つまり――― そういう事だ。

 

全員がそれに驚き、一夏にいたっては一瞬とはいえ、それを凝視した。僕? 僕はその不可抗力でしか無いよ?

ともかくその後、セシリアさんが取り乱して一夏をISでぶん殴ったり、鈴ちゃんも逃げて海に逃げこみ、溺れて、一夏に助けられてまたデレて。

 

「デレとか言うなーっ!!」

 

そして、復讐とばかりにセシリアさんに連れて行かれ………そして、現在はというと……』

 

 

『お前、何一人で喋ってんだ?』

『これはナレーションだよ。知らないのかい?』

『いや、誰に対してのだよ!?』

 

 

 

 

 

 

「えっと……ラウラか?」

二人の前にはシャルロットと、バスタオルおばけが立っていた。

「もう。恥ずかしがらなくて良いのに……」

「だ、だがこういうのは……ダメだ、恥ずかしい……!」

「ふぅん。じゃあ、僕は春斗と二人っきりになろうっと。一夏、春斗と代わってくれる?」

「ま、待て! それでは話が違う……!!」

「それは、ラウラがいけないんだよ? さ、一夏っ!」

「おいおい、そんなに引っ張るなって!?」

どんな協定を結んだのか、シャルロットはラウラに見せつける(タオル巻きになっているので、ラウラには実際見えないが)ようにして、一夏の腕を掴んだ。

「〜〜〜〜〜ッ! えぇいっ!!」

 

強引に連れていかれるのを察したラウラは、半ばヤケクソ気味にバスタオルをパージした。

 

 

タオルの下から現れたのは、胸元に飾り結びの付いた桜ピンクのワンピース水着。だが只のワンピースではない。

みぞおちからヘソの下までを、大胆にもダイヤモンド状に大きくカッティングしてあり、胸下の膨らみが若干見える。更に引き締まった腹筋やヘソも横まで丸出しなので、可愛さの中にセクシーさも同居している。

しかも後ろは、腰まで紐のみ。背中は丸出し状態で、これまたセクシーであった。

 

白い肌に銀髪というと、黒などの暗色を使ったコントラストが安定しているが、あえて暖色のピンクを使ったこの水着を見つけた時、春斗は天啓を受けた。

ピンクと白は、明るい色同士ながら暖色と寒色なのでコントラストもある。

そして山櫻がそうなように、この二色の色合いはとても合うのだ。

 

「へぇ……」

「あ、義兄上が……これが良いと勧めたのだが……わ、笑いたければ笑え……!」

「いや、笑わないよ。うん、すごく可愛いぞラウラ」

世辞抜きに一夏はそう思った。見た目と違い、普段から大人びた印象の強いラウラだけあって、こういう女の子っぽい格好はとても新鮮だった。

「――― ッ!?」

が、ラウラは正面きって言われたその言葉に、一瞬で脳内容量がオーバーしてしまった。

 

「どうした、ラウラ……?」

一夏がフリーズしたラウラの顔を、ヒョイと覗き込んだ。

「っ………!? あ……あぁ……あぁああああああああああああッ!!」

間近に寄せられたその顔に、ラウラはついに暴走した。砂浜を全力で逃走し、そのまま海に飛び込むとあっという間に、彼方まで泳いでいってしまった。

 

「………えっと、追いかけた方が良いのか?」

その唐突さと余りの速さに、一夏は中途半端に伸ばした手を引っ込める事も出来ずにいた。

「……今は、そっとしておいてあげなよ」

シャルロットはポン、と一夏の肩を叩いた。その目尻にキラリと光るものがあったりした。

 

 

 

 

 

 

 

「織斑君、シャルロット〜っ! ビーチバレーしようよ〜っ!」

「おぉ〜っ。おりむーと対戦だ〜っ! バキューンバキューン!」

「ということで、パース!!」

「おっと」

いきなり飛んできたビーチボールを一夏はキャッチ。向こうでは本音達が手を振っていた。

 

「よしっ、せっかくだしやるか」

「でも、向こう三人でこっち二人だけど……?」

3対2ではさすがに不利だ。誰かもう一人、と一夏は面子を探す。

 

 

「フッフッフ……お困りのようね!!」

 

突如として響き渡る不敵な笑い声。その場にいる全員が周囲を見回すも、何処にもそれらしい影はない。

「誰だ! どこにいるっ!?」

「何処と聞かれたならば、お答えしよう!!」

という声と共に、いきなり砂が爆ぜ襲った。

悲鳴が上がる中、もうもうと上がる白煙の向こうに揺らぐ影。

 

 

「辰守流忍術正統 辰守織羽、ここに参上っ!!」

「お前は……織羽!? それに箒か……!?」

果たしてそこに現れたのは、織羽と箒であった。織羽はチューブトップの水着を着ており、箒はその後ろに隠れている。

 

「何故、煙玉で登場を……」

「いやぁ……最近、忍者らしい事をしてないなぁ〜って」

「いや、だからってここで忍者らしい事をするなよ。……で、箒は何で後ろに隠れてるんだ?」

一夏が言うと、箒はビクッと肩を震わせた。

「あーもう、いつまで後ろに隠れてるのよ!?」

「だ、だが……これは流石に……恥ずかしい……!」

「………とうっ!!」

業を煮やした織羽が、跳躍。一瞬で箒の後ろへと回りこんだ。

「なぁっ!?」

遮るものを失った箒は、ついにその肢体を晒した。

 

「っ……!」

『………!!』

 

箒のそれは白のビキニ。

黒で縁取られたそれは、とてもセクシーなデザインだった。

更に、羞恥に体をよじらせる箒の姿が今までにない印象を与え、一夏と春斗は思わず息を呑んでしまった。

 

「な、なんだ……!? 言いたい事があるなら、言えばいいだろう!?」

まじまじと見てしまったので、箒が照れ隠しに怒鳴る。

「いや、えっと………『凄く似合ってる』ぞ」

「っ……!?」

そう”二人”が言うと、箒の顔はあっという間に真っ赤になった。

「ほら、心配要らなかったでしょ?」

「う、うむ……だが、それはそれとして……やはり恥ずかしい……」

「―― よし、箒を助っ人として織斑君に貸そうじゃないか!」

「織羽!?何を勝手に……っ!?」

「おっ、これで3対3ね。よ〜し者共! 戦の用意じゃっ!!」

「「「オーッ!!」」」

 

 

戸惑う箒を置き去りにして、あっという間に準備は整い、箒はコートに立たされていた。

「……何故、こうなった?」

疑問は多々ある。だが、一夏はやる気であり、シャルロットは向こうのコートで、何故かものすごい殺気を発している。

ちなみにシャルロットは、谷本癒子とチームをチェンジしていた。

 

「行くぞ、箒!」

「……こうなれば、やってやるとも!!」

「よぉし、『7月のサマーデビル』と恐れられた、この私の実力を見よっ!!」

 

 

 

こうしてビーチバレーは始まった。

一進一退の攻防、シャルロットの殺気の込められたスパイクが決まれば、箒のアタックが本音を直撃した。

 

パッタリと倒れた本音の代わりに入ったのは―― 何と千冬だった。

一夏と春斗が選んだ黒のビキニを着た千冬に、一夏は思わず見惚れ、そして他の生徒達も溜め息を吐いた。

その横顔に箒は何かを感じ取ったのか、濃密な殺気を発していた。

 

更にトラブルは起きる。

「お待ちなさい、鈴さんっ!!」

「ワーッハッハッ! 遅い、遅すぎるわよ!!」

と、セシリアと鈴が帰ってきたのだ。何故か追いかけっこをしながら。

『なんか、ああいう光景が昔あったような……』

その光景に、春斗はデジャビュを覚えた。

 

 

 

『待ちなさい、春斗ぉおおおおおっ!!』

『ハッハッハッ! この体の無駄なスペックを見よ!!』

 

 

 

『う〜ん、どこでだったかなぁ〜?』

『いや、思いっきり思い出してたよな!?』

 

一夏のツッコミを、春斗は華麗にスルーした。

 

 

鈴とセシリアの追いかけっこは千冬への激突。そしてその尋常ならざる握力をもって、二人の頭を鷲掴みにして締め上げられる事で終わりを告げた。

 

「あら、皆さん楽しんでますね〜」

と、今度は真耶がやって来た。この凄惨な状況を見て、何故そう言えるのか。

『っ……!?』

春斗は衝撃を受けた。

 

黄色のビキニを身に付けた真耶の恐るべき凶器は、一歩進む度に大きく揺れる。

『な、何という大艦巨砲主義……! 幾ら何でも安全装置を付けていないなんて……危険過ぎる!!』

『―― 春斗?』

『ッ!?』

最近、春斗の思考に対するシャルロットの反応速度が、上昇してきていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「はぁ……」

海岸の端。パラソルの下で溜め息を吐く、セミロングの髪と眼鏡を掛けた、少し暗い印象を受ける少女。

彼女の視線は、騒がしい1組の面々に向けられていた。

「………来なければ良かった……」

少女―― 更識 簪はまた溜め息を吐いた。

本当は来る気など無かった。だが、幼馴染達によって強制的に連れて来られたのだ。

 

勿論、本気で嫌がれば幼馴染達も止めただろう。

だが簪にも興味があった。

 

織斑一夏。篠ノ之箒。

 

簪は自分の指を見る。

右手中指にはめられたクリスタルの指輪。

 

 

白式。真打鉄。

 

未だに未完成の―― 彼女のIS。

 

その原因となった機体と、自分の機体のコンセプトと被りながら、相反する機体。

 

 

「こ〜らっ!」

ペチン、と頭が叩かれた。見上げると、幼馴染の姿。

「……織羽」

「こんな所で、なに一人でやってるのよ」

「別に……」

「せっかく海に来たのに、泳がないの?」

と言いながら、織羽が隣りに座る。

「……日焼けするから、嫌」

「むしろ、もうちょっと日に当たりなさいよ。アニメや漫画も良いけどさ……今度、あたしに付き合わない?」

「織羽に付き合うと………息が続かないから……イヤ」

「いやいや、それはあんたの体力が無いだけでしょ?」

「それ、絶対に間違ってるから」

「いや、そんな事はない……って」

織羽は誤魔化すように笑って、視線を逸らした。

 

「……織羽?」

「何……?」

「あなたは……『辰守』の名を、重荷に感じた事はないの……?」

「……あるわよ、そりゃ。お祖父様も、父様も、母様も、大兄も連兄も皆、凄いもの」

「……うん。おじ様達、皆凄いよね」

「だけど、誰かと自分を比べてばかりいると……いつか、自分を見失うから」

「………」

織羽の言葉に、簪は少し考えるように俯く。

 

更識の名は、決して軽いものではない。辰守の名もまた、軽いものではない。

偉大な家族を持つその重さは、余人には測り知ることは出来ない。

 

(なら………彼らは……どうなのだろう……?)

 

世界最強の称号(ブリュンヒルデ)を持つ、織斑千冬。

ISを開発した世界一の天才、篠ノ之束。

 

ああして普通にしているように見える中でも、何かを感じているのだろうか。

 

 

「………うん?」

織羽のいぶかしんだ声がした。

何だろうかと簪も、織羽の向いている方を向いた。

 

 

 

 

 

 

「……………うさ耳?」

 

 

砂浜に、うさ耳が生えていた。

 

 

「これ、うさ耳……?」

「これがうさ耳以外の何に見えると?」

近づいて見てみるが、やはりうさ耳だった。しかもご丁寧に『これを抜いたら、ちゃんと責任者に届けるよーに♪』なんてタグが付けられている。

 

「………」

簪はとても嫌な予感がした。

このタグに、イタズラを思いついた時の姉と同じ気配をヒシヒシと感じたのだ。

 

これをやった人物は、少なくとも姉並に厄介な存在であると、簪は理解した。

関わるべきではない。このまま見ないフリをして―― いや、砂に埋めてしまおう。面倒事は埋めるに限る。そういうものだ。

 

「これ、誰が用意したのかしらね〜?」

「って、何で抜いちゃってるの!?」

うさ耳を手にした織羽に、思わずツッコミを入れてしまう。

「いや、こういうのは抜くのがお約束でしょ?」

「ここでそういうお約束を求めちゃダメ!!」

近年稀に見るハイテンションで叫ぶ簪であった。

 

 

 

 

「―― と、いう事でお持ちしました」

「…………そうか」

うさ耳を千冬に献上すると、何故か微妙な顔をされた。

 

「ねぇ、一夏……あれって、まさか……?」

「多分……そうなんだろうな……でも、何で?」

「………」

鈴と一夏がそれに嫌な予感を憶えて一筋の汗を流し、箒は気まずさに視線を海へと向けて、遠い目をしていた。

 

「ん……?」

箒が彼方に光る何かを見つけた。それはこちらに向かってくるようで、徐々にその大きさをハッキリとさせていった。

「先生、海から何かが飛んできます!!」

「何だと……?」

千冬が何処からか双眼鏡を取り出し、その飛行物体を見た。そして言った。

 

「織斑、射ち落せ」

「「「えぇ――!?」」」

 

「分かりました」

 

「「「「「「えぇ〜〜〜〜っ!?」」」」」」

 

生徒達の驚愕の叫びも消えぬ間に、春斗は裏白式を起動。そのまま月影を構えた。

箒にバレるかと思いきや、箒は見たくない物を見てしまったという風に顔を伏せていた。

そして春斗は容赦なく、狙いすました矢を放った。

 

光が飛び、飛行物体が爆発。そのまま海に落ちた。

「お、織斑先生……一体何がどうなって……?」

真耶が恐る恐る尋ねる。それはここに居る全員の気持ちであった。

 

「何の事はない。世界が平和になった……たったそれだけの事だ」

千冬はザッと髪を掻き上げた。

 

いやいや、意味が分からないから。と、全員がツッコンだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ドォオオオオオオオンッ!!

 

 

 

 

 

 

「「「「「「ウワァアアアアアアアッ!?」」」」」」

 

いきなり海が爆発したと思ったら、巨大な何かが、まるで急浮上してきた潜水艦のように現れた。

それはそのまま砂浜に落ち、逃げ惑う生徒達を砂埃が襲った。

 

「な、なにあれ……!?」

「鋼鉄の……人参!?」

そう。それは人参だった。正確に言えばデフォルメされた人参を金属で作ったものだ。

何故、鋼鉄の人参が海から現れたのか。IS学園一年生たちはこの最大の謎に今、正に挑まんとしていた。

『フッフッフ……アーッハッハッハッ!!』

突如として響くスピーカーを通したような笑い声。その声がした途端、極一部の面々の表情が曇った。

バカン、ゴゴゴゴ……ッ! と、重厚な音を響かせて、人参が割れていく。

そして顕になった内側には、腕を組んで高笑う影。

極一部の面々は「あぁ、やっぱりか」と思った。

 

「ハーッハッハッハッ! 甘い、甘いよちーちゃん!! ティラミスに砂糖と蜂蜜とあんこを乗せた上からチョコレートでコーティングしたぐらいに甘々だよ!!」

笑う度に、その無駄に大きな胸がプルンプルンと揺れる。

見た目はとても美人なのに―― 不思議の国のアリスだろうか ―― うさ耳とその服装と高笑いから分かる性格が、ゼロを超えてマイナスであった。

これが世に言う『残念な人』である。

「いやもう、最高の掴みだね!! この為に一週間前からスタンバってた甲斐があったというものだよ!!」

再び高笑う残念美人。

と、その笑い声が止まった。

 

 

見れば、箒がボールをトスしていた。

 

 

見れば、千冬がジャンプしていた。

 

 

見れば、スパイクを打っていた。

 

 

「―― ヘボァッ!?」

打ち放たれた剛球は、残念美人の顔面を直撃した。

その余りにも凄まじい威力に、残念美人が吹っ飛び、そして千冬が着地する。

その一連の流れは、まるでスローモーションのように見えた。

 

 

 

残念美人は完全に気絶し、千冬は開かれていた人参を力尽くで閉じた。そしてそのまま、それを海へと押し返す。

波にまかれて、人参はどんぶらこっこと流れていった。

「……これで、世界は平和になるだろう」

一仕事を終えた充足感に、千冬は額の汗を拭うのだった。

 

 

 

「酷いなぁ、ちーちゃん♪」

「っ!?」

背後から声がした瞬間、「パチンッ」と、いう音がした。スルリと落ちそうになる千冬の水着。背中のホックが外されたのだ。

「でぇい!!」

「はぎゃぁっ!?」

千冬は取れそうになる水着を反射的に押さえ、振り返る事もなく、背面蹴りを打ち込む。

 

そこにいる全員が思った。

人間は蹴りだけで、あんなにも高く飛んでしまうものなのだと。

 

見事に頭から落ちた残念美人は、すぐさま復活し、千冬にブーたれた。

「もう、ちーちゃん! 流石に顎を蹴り抜かれるのは、束さんでも痛いよ!?」

「やかましい。何をしに来た、貴様は?」

千冬は残念美人を足蹴にしながら、ホックを付け直しつつ、尋問する。

「イヤだなぁ。束さんが来る理由なんて一つしか無いじゃない……! 私の可愛い箒ちゃんに、誕生日プレゼントをあ・げ・る・為に来たんだよ〜! ね〜、箒ちゃーん!」

 

「箒さん……呼んでらっしゃいますわよ?」

「………頼む、知らない事にしておいてくれ」

セシリアの言葉に、辛いものに耐えるような表情を見せる箒。人間、触れてはならない一線というものがあるのだ。

 

「あの、織斑先生……この人は?」

真耶がまたしても、全員の代表として尋ねる。

「これは篠ノ之 束。ISを作った奴だ」

「イエース! 世界一の超天才、篠ノ之束さんとは私の事さーっ!!」

 

 

 

「「「「「「「「「「「「えぇえええええええええええええええええええええええっ!?」」」」」」」」」」」」

 

 

 

本日一番の驚愕が、海岸に響き渡った。

 

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