IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第27話  邂逅する、天才二人

前回までのあらすじ。

 

臨海学校に行ったら、海から人参が襲ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「篠ノ之束……って、まさか!? でも、何で……?」

真耶はすっかり混乱していた。真耶だけではない。そこにいる全員が混乱していた。

世界中が探す超重要人物、篠ノ之束。

まさかそれが、こんな風に登場するなどとは誰も思わないし、思えなかった。

そして、これ程に変人奇人であったともだ。

 

「篠ノ之さん……ドンマイ」

「大丈夫、あたし達は友達よ?」

以前、1組で起きた出来事をクラスメートは思い出し、箒の肩を優しく叩いた。

「本気で慰めないでくれるか!? 色々突き刺さるのだが!?」

軽く涙目になっているのは、気のせいではないだろう。

 

「さぁさぁ、箒ちゃん。感動の涙を流していないで、こっちに来るのだ〜!」

「……こ、殺したい……!」

ニコニコと手を振る束に、これまでに感じたことのない憤りを覚える。

 

だが、束の来た理由があの事ならば、今ここでそれをするべきではない。

怒り震える心をぐっと沈め、箒は呼ばれるままに向かった。

 

 

 

全員が箒達の後ろに移動し、開けた砂浜が二人の前には広がる。

「……で、ここに来たという事は……例の?」

「そう! 束さんの作った箒ちゃん専用IS『紅椿』のお披露目だよ〜っ!!」

 

「っ……!?」

その言葉に、全員がざわめいた。

「篠ノ之さんに専用機……!?」

「しかも、あの篠ノ之博士が作った……!?」

「でも、篠ノ之さんならあり得るかも……」

「うん。トーナメントの戦いとか凄かったもんね〜! 代表候補生と互角に戦ってたし……!」

 

「………」

千冬は少しばかり驚いた。

専用機を用意したなどと言われれば、身内贔屓だと揶揄されるかと思ったのだが、存外受け入れられているからだ。

 

 

 

 

それというのも、全てはトーナメントで見せた箒の奮闘に起因していた。

あの戦いは一年生は勿論、二、三年生の間でもかなり話題となった試合であった。

それこそ、同じ試合で戦った筈のラウラと一夏の勝負が霞んでしまう程にだ。

 

それに合わせて、打鉄の使用申請も増えていた。

プログラム真打があれば、専用機とも互角に戦える事を箒が証明した。その結果、今後の公式戦の為に打鉄を使いたいという生徒が急増したからだ。

それに対して、ラファールを使用する組は不満を顕にしていた。

どうして打鉄にだけ、専用プログラムを用意するのか。ラファールにも用意して欲しい。という嘆願書が、毎日のように生徒会に届けられ、生徒会長【更識 楯無】は毎日、それを見ない事にしていた。

 

そんな嘆願書出されても、作れない物は作れないのだから仕方ないのだ。

 

 

 

 

 

閑話休題。

 

概ね好意的に受け入れられた箒の専用機だが、千冬には不安があった。

 

それを作ったのが”あの束”である事だ。

個人でISを作れる技術を持つのは、千冬の知る限りでは束と春斗ぐらいだろう。

春斗ならばまだ良い。常識を持っているからだ。

だが束に常識などという言葉はない。世間の常識が自分の非常識であるなら、簡単にそれをぶっちぎる性格なのだ。

 

【世界を自分に合わさせる】という、デタラメぶりでだ。

 

ともかく、今はあれの作ったISを見てみようと、静観することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、早速呼んでみよっか〜♪」

といって、束が取り出したのは大きめのSFに出てきそうな銃。ショットガンのようにポンプユニットの付いたそれは、銃身に隙間が開いていた。

「姉さん、何ですかそれは?」

「フフ〜ン、この束さんが伊達や酔狂でこんなモノを用意したと思うのかな?」

「えぇ、思いっきり」

「さっすが箒ちゃん! よく分かってる〜♪ じゃ、行くよ〜!」

束はその隙間に真円板(サークルプレート)をセットして、ポンプを引く。

そして銃を上に掲げて、そのまま下ろす。

「アクセルぅ……シュートッ!!」

カチッと引き金を引くと、プレートが発射され、それが二枚に分離して砂浜を疾走する。

 

何故、マジ◯ルシュートではないのだろうか。

 

「いや〜、どうも”マジカ◯シュート”よりも”アクセルシュート”の方が言いやすいんだよね〜、不思議と。でもやっぱり、海だからマジカル◯ピンの方が良かったのかな〜?」

 

普通に地の文章に答えないでもらいたいものだ。

 

 

 

などとやっている内に、砂浜には二重真円と六芒星が描かれ、光を放っていた。

プレートが束の元に戻り、彼女はそれを胸元に構えた。

 

「ドー◯・キ◯・ラムーン……光出でよ、汝 グランゾー……じゃなかった。紅椿〜っ!!」

一歩間違えると顔面的な別の物を召喚しそうな呪文と共に、束がプレートを掲げた。するとプレートがまばゆい光を放ち、魔方陣がそれに呼応するように更に輝いた。

 

 

チャ〜チャララ〜♪ チャラララッチャラッチャラ〜♪

 

 

何処からか壮大な、謎のメロディーが流れ、それと共に砂浜から深紅の機体がゆっくりと姿を現した。

 

 

「これが……紅椿……!?」

「そう。これこそが箒ちゃん専用機! 紅椿だよ!!」

ちなみに、これらのギミックを仕込む為に、篠ノ之束は四日間完徹で仕込みをしていた。

 

何故、グラ◯ゾートなのか?

それは別の方が某所で龍◯丸を出したからだ。おかげで、作者が当初仕込んでいたネタが使えなくなってしまったのだ。

 

 

「おっと、それは楽屋ネタだよ〜? さ、箒ちゃん。早速乗り込むんだーっ!!」

「っ……」

色々とツッコミたいところだが、今はISだと、箒は紅椿のもとに一歩踏み出した。

と、いきなり束に肩を掴まれた。

「って、違〜う! 違うよ、そうじゃないでしょっ!?」

「ハ、ハァッ!?」

「箒ちゃん、こういう時は100メートルを5秒で走らないと〜っ!」

「………は?」

「束さんが作るものは、完璧にして十全でないと意味が無いんだよ〜? とはいえ、流石に神顔モードは時間が無かったから出来なかったけど……それ以外はバッチリ!!」

「バッチリじゃないっ!!」

「ふぎゃっ!?」

箒のツッコミ(後ろ回し蹴り)が炸裂した。

「100メートルを5秒など、私は何処の宇宙海賊だ!?」

「……で、でも100メートル5秒で行かないと装着できない仕様に……」

 

 

「今、すぐ、外せ」

 

 

「ら、らじゃ〜っ!!」

束は流石に命の危険を感じたのか、すぐさま紅椿に走っていった。

ベキべキと指を鳴らした箒の顔は、一人百鬼夜行とでも例えられる程に恐ろしいものだった。

 

 

 

こうして、余りにもアホな”100メートルを5秒で走らないと装着できないよシステム”は排除された。

 

 

 

「山田先生、フィッティングはISスーツ無しで大丈夫なんですか?」

「ISスーツは、あくまでもISを効率良く動かす為のものですから、フィッティングに絶対必要、という訳ではないんですよ?」

「へぇ〜」

箒が紅椿を装着し、束がパーソナライズとフィッティングを補佐して行う中、真耶による専用機講義があったりした。

 

 

「う〜ん……これはちょっと時間掛かっちゃうかな〜? もう、”100メートルを5秒で走らないと装着できないよシステム”を外したせいで、プログラミング直さないと行けないし……あ、そうだ〜!」

空中投影ディスプレイと仮想コンソールを叩き続けていた束が、キラリと目を光らせた。

 

「おーい、いっく〜ん!」

「……何ですか?」

もう、嫌な予感しかしない。

「ちょっと、春るん呼んでくれないかな〜?」

 

「『ブッ――!!』」

 

二人は思いっきり噴いた。何言っちゃってんだ、この人。

 

春斗の存在は一応重要事項なのだ。

今や公然の秘密状態であるとはいえ、だからといってヒョイヒョイと出て良い事にはならない。

 

「ほらほら、早くしてよ〜?」

「………」

「束、お前……」

千冬は凄く怖い顔をするが、束はパタパタとうさ耳を振った。どういう仕組みで動くとか、ツッコんではいけない。

「いやだなぁ〜。白式を出して、回線繋げてって言ってるんだよ〜?」

「………」

絶対に嘘だ。と、一夏達は思った。

 

『ハァ…… 一夏、お願い』

「仕方ないな……来い、白式……!」

 

一夏は白式を起動させ、そして束の傍まで向かった。

 

「ハロー、春るん元気かな〜?」

「……元気かどうか、充分にご存知でしょう?」

砂嵐の開放回線(オープンチャンネル)で、テンションの低い春斗の声がする。

「まぁね〜。まだ、そんな所にいるなんて……ちょっと、予想外だったりするけどね〜」

「……さっさと済ませましょう? 一夏にも迷惑だし」

「オッケー。じゃ、白式にこれを繋げるね〜?」

といって、束は何故かスカートから出したコードを白式に繋げた。

 

「システム、コネクトを確認。プログラムロード……確認。作業開始」

「お……早速早いね〜? 流石は春るんだ〜」

「それはどうも」

春斗は短く返すと、黙々とIS空間内でキーを打ち続ける。

「おっと、これは負けてられないね〜」

と言って、束のタイピング速度が更に上がる。

「こっちと並行してるんですから、もうちょっと速度を考えて下さい」

呆れ気味に言って、春斗もタイピング速度を上げる。

 

今、空間投影ディスプレイは12も上がっており、そこに果てしない文字列が凄まじい速さで流れていく。

 

 

「…………」

その余りにもとんでもない光景に、箒や一夏は勿論の事、他の生徒達も唖然としてしまっていた。

 

「……ところで、春るんはいつまで……そんな所にいる気なのかな?」

「………さぁ、何時まででしょうね?」

「………質問に質問を返されるとは思わなかったよ」

「そうですか?」

「………」

「………」

「う〜っ、もうちょっと何か話そうよ〜?」

「………何か」

「……いや、そういう事じゃなくてね」

 

ISのプログラムなんていう物は、一人二人でいじる様な代物ではない。

 

きちんとした施設、確かな技術を持ったプログラマーがチーム単位で、数ヶ月規模で組み上げて動かすものだ。

 

「はい、おっわり〜! いや〜、流石に二人だと早いね〜。束さんも久々に本気になっちゃったよ〜!」

「それは良かったですね」

 

だからこんな、IS―― しかも専用機のプログラムを数分と経たずに修正、再構築、並行してフィッティングとパーソナライズを終わらせる事など出来る筈がないし、出来たらいけないのだ。

 

こんな事が明るみになればそれこそ、他のIS用プログラムチームが全員、即刻失業してしまうだろう。

「じゃ、僕はこれで……あ、ほーちゃん?」

「何だ……?」

面倒事を終わらせ、束がコードを回収している時、春斗は一言だけ、箒に伝えた。

「水着、よく似合ってるよ。じゃ」

「っ……!?」

 

 

 

 

「じゃ、紅椿の性能チェックを……と行きたいけど、それは明日のお楽しみにしておこうね〜。これ以上はちーちゃんが怖いし」

束はうーんと、背伸びをすると、そして人集りへと視線を向けた。

 

「ちーちゃんにいっくんに、箒ちゃん、春るん。後は………おーい、鈴々〜!」

「っ……!?」

こそこそと逃げようとしていた鈴が、ギクリと体を強張わせた。

「ホラホラ〜! そんな所にいないでこっちに来なよ〜!?」

「ッ……!!」

振り返らず、鈴はダッシュ。

 

「おっと、それは想定内だよ〜♪」

 

 

「痛ぁっ!?」 ガチャンッ! ←トラバサミ(安全な物を使用しております)

 

「うきゃあっ!?」 ズドォンッ! ←ウォールプッシュ

 

「いやぁああっ!?」 バイーンッ!! ←スプリングフロア

 

 

 

ひゅるるるる……どぉおおおんっ!

 

 

 

「ハロハロ〜。鈴々、久しぶり〜♪」

「な……何がどうなって………?」

砂浜に叩きつけられた鈴が、フラフラになりながら立ち上がる。

「束さん特製、”三次元座標に色んなトラップを仕掛けちゃうぜシステム”だよ〜! ブイブイ!!」

「あたしは魔神に捧げられる魂か!?」

恐るべきトラップコンボの前に、鈴はもうフラフラだが、それでもツッコミは忘れない。

だが、そんな鈴の気概も束の前には無力だった。

「ウッフッフ〜ッ! さぁ、久しぶりの再会を楽しもうじゃないか〜」

ワキワキと指を自在に動かし、ニタリと笑いながら迫る天才科学者に鈴が悲鳴を上げた。

「ヒィッ!? い、いやぁああああああッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

*ただいま、束が鈴のひんぬーを堪能しております。しばらくお待ち下さい。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ〜、大きいのも良いけど、小さいのもなかなかどうして……うぇっへっへ……」

「っ……汚された……汚されちゃったよ、一夏ぁ……」

さめざめと泣く鈴と、キラリと光る汗を拭う束。何だこの光景。

 

「えっと……鈴……犬に噛まれたとでも思って………な?」

「そんなん思えないわよ!! うぅ……どうしてこんな……」

『ていうか、鈴ちゃんって束博士にこんなに気に入られてたっけ?』

「そういえば……鈴、お前いつからあんなに束さんに……?」

「中国に戻って代表候補生になったばっかりの頃……いきなり呼び出されたのよ……」

 

 

 

『やぁやぁ、元気にちっパイしてるかな〜?』

『………は?』

『束さんは今、中国……というか鈴々の近くにいるので、すぐに来るように』

『はぁ!?』

『という事で、ばいば〜い!』

 

 

 

「……で、指定された場所に行ったら……」

「行ったら……?」

「屋台で串焼き食ってた……あたしのツケで。何か、それ以来あんな感じで……うぅ」

「………ご愁傷さま」

「そう思うなら、あの人何とかしてよ……!」

「無理だな。千冬姉ですら、どうにもならんのに……」

『無理だね。姉さんですら、どうにもならないんだから』

「分かってたわよ、言われるまでもなくねッ!!」

 

鈴、魂の咆哮であった。

 

 

 

 

 

「フフフ……春斗ってば、僕の水着全然褒めてくれないのに……フフフ………アハハ……」

黒シャルモードの発動が近づき、周囲の生徒がざわめく。

「こ、怖い! 怖いよ、シャルロット!?」

「いけないっ! 暗黒面に囚われてはいけないわ!! 帰って来れなくなるわよ!?」

「え……? やだなぁ、僕は別にそんナコトナイヨ……?」

「オーラが! オーラが黒いよ!?」

「駄目だこいつ、早く何とかしないと!!」

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ………何だ、この状況は?」

ザバザバと白波を割いて帰ってきたラウラは、砂浜に広がった惨状に首をかしげた。

「あ、ボーデヴィッヒさんおかえり〜………て、何持ってるの?」

「はぁ……はぁ……カツオだ」

と言って、引きずっていたカツオを持ち上げて見せた。

「何処まで泳いできたのよ……」

「私にも……良く解らん。で、何がどうなって……こんな事に?」

「うん、しっかりするのは難しいから……順を追って説明するね?」

 

 

 

こうして、自由時間は混乱と混迷の色を見せたまま、グダグダに終わりを告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

色んな意味で衝撃的だった時間が終わり、一夏を除く全生徒は温泉を堪能。

そして今は夕食時である。

ちなみに束は「そんじゃ、また明日ね〜」と、いつの間にかいなくなっていた。

 

夕食のメニューは刺身と小鍋、山菜の和え物二つ。赤だし味噌汁とお新香。

メニュー自体は平凡だが、そこに使われてる食材は平凡ではない。

その味わいは正しく、料亭クラスだと言えた。

「うん、美味い! 流石に本わさは違うな……!」

『カワハギに本山葵か……国立とはいえ、これは贅沢だね……』

味覚共有でその味を堪能し、春斗も一夏も舌鼓を打つ。

「一夏、本わさって……?」

右隣に座っているシャルロットが、一夏の言葉に首を傾げる。フランス生まれフランス育ちの彼女には、”本わさ”の意味が分からない様だ。

「本わさってのは、本物の山葵を摩り下ろした物のことだよ。一般的に流通しているのは”練わさ”っていって、山葵大根や西洋わさびを着色して、似せた物のことだ」

『ちなみに、山葵大根と西洋わさびはどっちも英名を”ホースラディッシュ”と言い、実は両方同じもの。 本山葵はホースラディッシュと同じアブラナ科の植物で、山間部の清流においてのみ栽培できる、貴重な物なんだ。本山葵の天然物なんていったら、超高級品だね』

『へぇ……本わさか。凄いんだね』

シャルロットは二人の説明に感嘆の声を漏らした。

「う〜ん、香りが良い……! これは飯が進んでしまうな……!」

『うん……このツンとした感じは、山葵独特の風味だね〜』

 

 

 

「………はむ」

「『……え?』」

 

二人は、チラリと見えたシャルロットの動きに眉を顰めた。

彼女が何か、とんでもない動きを見せた気がしたのだ。それを確認しようと、シャルロットの膳に視線を送る。

 

刺身の盛られた皿にあった筈のわさびが―― 全て消えていた。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

そして、シャルロットは鼻を押さえて悶絶した。

「おいおい! ワサビ丸ごといったのか!? 大丈夫か!?」

「ら、らいひょうふ……ふ、ふ……風味があって……おいひい……よ?」

涙目になりながらも、そう言い切ろうとするシャルロットであったが、強烈な刺激に鼻もズルズルであった。

「………ほら、シャル。顔を向けて?」

「っ……う、うん」

”春斗”は、浴衣の袖口からポケットティッシュを取り出し、シャルロットの鼻を拭いてやる。

「ほら、もうちょっと……これでよし」

「ありがとう……は……っと、一夏」

「………えっと、ワサビはもう、丸ごといくなよ……シャルロット?」

頬を赤らめるシャルロットに、一夏は背中に突き刺さる気配に耐えながら言ってやった。

 

 

「………」

さて、視線の送り主たる箒は不機嫌であった。

一夏がこちらに振り返るや、スッと視線を膳に戻す。

(一夏め……私がどういう想いか知っているのに、どうしてシャルロットに優しくする……!? もしや、これは四角関係というヤツなのか!?)

 

四角関係の内分けは

 

 

一夏→ シャルロット→ 春斗→ 箒→ 一夏&春斗――。

 

 

「………あれ?」

一部、おかしい場所があった。言うまでもない自分の場所だ。

(こ、これでは私と春斗がりょ……両想いになってしまうではないか……!!)

辿り着いてしまった違和感の正体に、箒はその全てを胃に流して消してしまうべく、ガツガツと飯を頬張るのだった。

 

 

 

 

 

「なぁ、セシリア? そんなに辛いなら、席を移動したらどうだ? さっきから全然食べてないだろ……」

「へ、平気……ですわ……。こ、この席を取る為に使った労力に比べれば……これぐらい……!」

左隣に座るセシリアは、正座にうめいていた。

「労力……?」

「い、いいえ! 何でもありませんわ!! い、いただきます……」

味噌汁の碗に手を伸ばし、ず、ズズ……と啜る。

「お、美味しいですわネ……」

セシリアは引きつった笑みを浮かべた。

「ならせめて、膝を崩したらどうだ?」

「そ、そんなはしたない事……出来ませんわ……!」

 

「……はぁ、仕方ないなぁ。ほら、ちょっと箸貸してみろ」

「えっ……えぇっ!?」

一夏はセシリアの膳から箸を取ると、そのままひょいと小鉢の山菜をつまみ上げた。

 

「ほら、あーん」

「っ!?!?!?!?」

 

何この急展開!? 夢!? あぁ、きっと限界を超えたせいで幻を見てしまっているのですね。きっと目が覚めれば布団の中でそれが現実だと思い知らされて深々と溜め息を吐いてしまうのですわ。でもそれでもいいですわならばその現実をぶち壊して差し上げますわ!!

 

などという思考が、セシリアのシナプスを駆け巡った。

「あ、あ〜ん………んぐ!?」

結果、シンプル極まりない行動に至ったのだが、セシリアはその行動の結末に目を見開いた。

 

「………夢では、ありませんの?」

「夢……?」

「っ!? い、いいえ! 何でもありませんわ!!」

セシリアは現実を認識すると、顔を真赤にして手を振った。

 

「うわぁっ! セシリアずるーい!!」

「アタシも織斑君に、あーんして欲しい〜っ!!」

 

「あのなぁ……セシリアは……」

「こ、これは私だけの特権ですわ!! さ、一夏さん。次をお願いします!!」

「お、おう……えっと、何が良い?」

きゃいきゃいと騒がれる中、三箇所から物凄い殺気が立ち上っている。

何処かというのは、説明の必要もない。

 

『さて……そろそろ来るかな?』

『何が来るんだよ?』

一夏は刺身を、セシリアの口に持っていく。それをセシリアがパクリとした瞬間。

 

 

 

「お前らは静かに食事もできんのか!?」

 

 

 

『ほら来た』

鬼教師、千冬降臨。

しかも、その場所は一夏のすぐ後ろの衾が開かれてだ。

 

「織斑、オルコット……お前らが騒動の原因か。仲睦まじいのは結構だが……時と場所を選べよ、ガキども」

「「ッ……!?」」

地獄の鬼すら土下座しそうな迫力で睨まれ、二人はコクコクと頷く。

 

ピシャン、と衾が閉じられると、全員がプレッシャーからの解放に嘆息した。

 

 

「えっと……じゃ、これは返すな?」

「………」

箸を返すと、すっごく膨れられた。正月の切り餅ですらこうも見事に膨れないだろう。

 

「あ〜……その代わり、後で俺の部屋に来てくれるか?」

「っ……!?」

そう耳打ちされ、セシリアはまたも目を見開いた。

「そ、それはつまり――」

 

 

 

妄想開始

 

 

 

『セシリア、さっきはすまなかったな。皆がいるのも忘れちまうなんて……』

『いいえ。それでその……っ!? 一夏さん、何を!?』

『何をって……そんな事、決まってるじゃないか……セシリア……』

『い、一夏さん……』

『ここからは、二人きりの思い出を作ろう……』

『あぁ、一夏さん……!』

『セシリア……!』

『一夏さん……!!』

『セシリア……!!』

 

 

 

 

 

 

 

(って、この先には何が、待っているというんですのぉおおおおおおおおおおっ!?)

 

貴族のお嬢様であるセシリアには、これが限界であった。

 

だが、これはいわゆるチャンスタイム―― 否、スーパーセシリアタイムである事は理解できた。

この機会を、逃す訳にはいかない。

 

 

「一夏さんっ!!」

「お、おう!?」

ガシリ、と手を握られ、一夏は思わず引いてしまいそうになる。

 

「じゅ、準備が色々とありますので……時間をいただけますか……!?」

小声で、しかし熱の籠もった声でセシリアが迫る。

「わ、分かった……良いぞ?」

 

一夏がそう答えると、セシリアは今までの状態が嘘だったかのように、パクパクと食事を食べ始めた。

しかも、超ご機嫌でだ。

 

 

「………」

何でそんなにとか、色々思ったりしたものの、一夏は考えても分からないなと思い直し、自分も食事を再開した。

 

 

『ねぇ、春斗?』

『何?』

『セシリア……絶対に勘違いしてるよね?』

『ちょっと考えれば分かるだろうにね……一夏に限って、そんな事は全然、全く本気でありえないって事ぐらい……さ』

『……ちょっと、同情しちゃうよ』

 

とかいう会話が秘匿回線(シークレットチャンネル)で行われる中、一夏は鍋の下味についてあれこれ思考していた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「はぁ……温泉、最高だな……」

『はぁ……混浴だったら尚良し』

「お前、いつか刺されるぞ?」

『大丈夫。絶対に、一夏の方が先だから』

「何でだよ!?」

『さぁ? その理由が分からないんじゃ……そう遠くないかもね〜?』

 

二人は露天風呂に入っていた。

星空を屋根に、波の音をミュージックにして、貸切状態の温泉を堪能する。

 

「はぁ……良いなぁ……すっごい贅沢な時間だ……」

「そうだねぇ〜。束さんにみたいな天才にも、やっぱり休息は必要なんだよね〜」

「そうなんですか?」

「そりゃあ勿論。でも、天才は思考から逃れられないものなんだよ〜、春るんはその点、思考のオン、オフが出来るからね〜、ちょっと羨ましく思うよ」

「はぁ………………は?」

『おぉっ!?』

いつの間にか温泉にもう一人がいた。裸のくせに、何故かうさ耳だけは付けたままの束であった。

 

「た、束さん……なんで!?」

『クソッ……相変わらず気配がつかめないな……この人!!』

 

「やぁやぁ二人とも、温泉をたんのーしているかな?」

「……えぇ、まぁ……それで、なんの用ですか?」

スイスイと寄ってくる束。一夏はスルスルと後ろに下がる。

浮力で浮く豊満なものが正直、目の毒だ。

 

「いやね、ちょ〜っと、春るんと代わってくれるかな? あ、いっくんは《海岸》まで降りててね?」

「…………分かった。じゃ、代わりますね」

少し逡巡し、一夏は春斗と入れ替わった。

 

 

 

「……で、僕を呼んだのはどうしてですか?」

「いやね、一応確認しておこうと思ってさ……後、三年を切ったよ?」

「えぇ、知ってます」

「確認するけど……私の作った(・・・・・)MSSが使えるのは、いっくんが18歳―― 丁度、IS学園を卒業するタイミングまでかな? それを過ぎたら……」

束は少しだけ、言いにくそうな素振りを見せる。

「その時は容赦なく、僕を一夏の中から消す……ですよね? 覚えていますよ、ちゃんと」

それは一夏も千冬も知らない、二人だけの約束事。

MSSという、一夏の負担が大きいそれを、限界まで使わないようにする為のタイムリミット。

 

春斗がそう続けると、束はいつもの人を喰ったような笑みとは違う、真逆の表情を見せた。

「正直ね、束さんもそうなって欲しくないんだ。ちーちゃんもいっくんも、箒ちゃんも、鈴々もきっと悲しむからね〜」

「束博士は、そう思わないんですか?」

「私? う〜ん、どうなんだろ……私はそういうの、よく分からないんだよね〜」

 

篠ノ之束にとって千冬、一夏、箒、春斗、鈴以外の人間は興味の対象にすらない。

かろうじて両親を認識する程度だ。

 

天才、鬼才と呼ばれながらその実、束は人間として”致命的な欠陥品”であった。

だから、大切な誰かを失うという事の”意味”は理解できるが、感じることが出来ない。

だから、これが千冬であったとしてもきっと、今以上に何かを感じる事など出来ないであろう事は、束自身が理解していた。

 

春斗は精神的部分は普通であるが、肉体的欠陥がある。が、これは徐々にだが克服できる欠陥であった。

 

束にとって春斗はある意味、自分のなりたい姿であった。

理解も、感じることも出来る。同じだけの才能を持っているのに、何故だろうか。

束には理解出来ないが、それは嫉妬に近いものであった。だから、束は他にするような事が、春斗にはできなかった。

 

 

「まぁ、ちーちゃん達を泣かせないようにね〜」

「ッ……!?」

ざばぁっ! と、温泉から出る。隠す事もしないで晒される裸身は、春斗の目に思いっきり映ってしまった。

 

「じゃ、また明日ね〜。おやすみ〜」

ひらひらと手を振って、束は脱衣場へと消えた。

 

 

 

 

「…………っく」

不意打ちとはいえ、モロに裸を見てしまった。

束のスタイルは、運動とは無縁とは思えないほどに整っている。

そしてその豊かな胸部は、箒以上の代物。

一応健全な男子である以上、特定の反応をしてしまう訳で。

 

「もうちょっと……その辺を意識してくれないかなぁ……!?」

羞恥の欠片も見せない束に、逆に恥ずかしくなってしまう春斗。これもまた、春斗が束を苦手な理由の一つであったりした。

バシャバシャと湯で顔を洗い、そして見上げる。

 

「………タイムリミットか。もう、覚悟はできてますよ……大丈夫」

 

その言葉を聞くのは、ただ静かに佇む月のみであった。

 

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