IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第28話  終わる、平穏なる時/彼方にて、天使は歌う

 

「あ〜あ、せっかく織斑君と遊ぼうと思ってたのにぃ……」

「まさか、織斑先生と同じ部屋とは……」

 

とある一室では、残念だとばかりに部屋に転がる者達がいた。

 

そこは癒子と本音、そしてセシリアが割り当てられた部屋。

「♪〜♫〜〜」

不満ダラダラな面子とは対照的に、セシリアは終始ご機嫌だった。

風呂にシャワーに一回づつ、下着も持ってて良かった勝負下着。しかも、英国王室御用達の名店の品である。

更に香水も軽く振り掛け、準備万端どっからでも掛かってきやがれ! と、正しく臨戦態勢であった。

もう彼女の中は、想像の先へと想いを馳せていた。だから、ちょっと考えれば分かることも分からない。

千冬と同じ部屋で、何をナニするとかそもそもあり得ない、と。

 

 

「うわぁっ、せっしーがえっちぃ下着つけてる〜っ!」

「っ……!?」

本音の思わぬ一声に、セシリアは現実へと帰ってきた。どうやら合わせから見えた物を鋭く観察したようだ。

 

万年半月な瞳の何処に、そんな眼力があるのか不明だが、しかし他の面子はそんな事は気にしない。

 

「なんだと〜っ! 脱がせ脱がせーっ!」

「剥け! 身ぐるみ剥いでしまえ〜っ!!」

「ちょっ……やめっ……キャアアアアッ!?」

悪ノリ全開で、セシリアは襲い掛かられた。

 

 

「おおう……こいつぁ、エロいな……」

「まさか勝負下着……? 織斑君の所に行けないのに、そんなのつけちゃうなんて……」

「「「セシリアは、エロいなぁ〜♪」」」

全員が声を揃えて言った。

 

「エロくありませんわっ!! これは……そう、淑女(レディー)としての身だしなみですわっ!」

セシリアは思いっきり反論した。

「イギリスって、身だしなみでそんな、エロい下着つけるんだ〜」

「いや、さすがに貴族階級とかだけでしょ? こんなエロいのつけないって……」

「だよね〜。てか、エロい下着とかって、貴族の人ってどう買うのかな?」

が、全員揃ってエロい下着から離れなかった。

 

「ですから、エロというところから離れてくださいっ!!」

乱れた浴衣を直しつつ、セシリアは叫ぶ。

 

「あっ、せっしーってば香水も付けてる!」

「何だとっ!? ……怪しいわね」

「っ……!?」

ギクリ。と、セシリアは体を強張らせる。

「しかもこれ……いつも使ってるのと違うわよね……怪しい」

「あ、怪しくなんてありませんわ!」

「でもでも〜、これってレリエルのナンバーシックスだよね〜?」

と、本音が切れ味鋭いツッコミを入れる。

 

「レリエルッ!? 一振り十万とかって言われてる、あれ!?」

「毎年百個限定で、シリアルナンバー入りなんでしょ!? ていうか、なんで分かるのよ!?」

「え〜? この間、たっちんに同じの嗅がせてもらったの〜」

ちなみに、たっちんというのは織羽の事である。

忘れがちだが、織羽は社長令嬢。こういった品も手元にやってくるのだ。

 

「ほほう。これはますます……」

 

『エロ怪しい……!』

 

「ですから、何でそこまで”エロ”を付けたがりますの!?」

などというセシリアの訴えは、完全に無視される。

今の彼女たちは、一夏と遊べなかった事で余ったリビドーを、セシリアで解消しようとしているからだ。

 

「さぁさぁ、キリキリと吐きなさい……!」

「さぁさぁ、大人しく嗅がれなさい……!」

「さぁさぁ、よがり喘ぎなさい……!」

 

「ひぃっ……!?」

ワキワキと指を動かし、ジリジリと迫る集団にセシリアはあっという間に袋小路へと追い詰められた。

 

「フフフ……大人しくしていれば痛くしないわよ……?」

「フフフ……大人しくしていれば、天国へと連れていってあげるわよ?」

「フフフ……以下略」

 

「い、いやぁああああああっ!?」

 

どっかの部屋で、椿が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「うぅ……酷い目に遭いましたわ……」

あの後、一体何があったのか。セシリアはフラフラになりながら廊下を歩いていた。

 

「ですが、この程度……! 千年恋物語の勝者たる以上、全く堪えませんわーっ!!」

拳を握り締め、天に向かって突き上げる。決して、天に還る訳ではない。

 

「何、一人で騒いでるのよ?」

「それは勿論、私と一夏さんが―― てぇっ!?」

いきなり、正面から掛けられた声に驚く。果たしてそこにいたのは織羽だった。

棒付きキャンディーを舐めながら、怪訝そうな視線をセシリアに向けていた。

「お、おろはさん……?」

「織羽だって。何で、元ルームメイトの名前間違えるぐらいに動揺してんのよ?」

「ど、どど童謡なんて……歌っていませんわ!?」

「その《どうよう》じゃないっての……」

「そ、そうですかしら……?で、では急ぎますので……!」

これ以上はボロが出ると、セシリアはそそくさとその場を後にする。

 

「な、何でついて来るんですの……!?」

「ん〜……ヒマだから?」

「でしたら鈴さんと遊んでいなさい! 同じ部屋なのでしょう!?」

「いやぁ、凰も部屋にいないんだよね〜」

「なら、さっさとお眠りなさい!!」

ずかずかと廊下を進むセシリア。その後ろを、全く苦も無くついて歩く織羽。

 

非常にマズイ相手に見つかってしまったと、セシリアは内心で己の不覚を呪った。

 

ジャパニーズニンジャは、その能力ゆえに狙った獲物を決して逃がさないという。

何処に隠れようとも、密室に閉じこもろうとも、何処からか侵入する。

そう、喩えるならば今も生き残る黒き古代生物の如く。

 

「……なんか、すっごく不本意な事を思われた気がしたんだけど?」

背中に突き刺さる織羽の視線。どうしてこう、誰もが妙なところだけ鋭く感じるのだろうか。

「っ――!!」

とにかく振り切らなければ。セシリアはダッシュした。が、忍者たる織羽がその程度で振り切れる筈もない。

 

「ねー、何処に行くのよ〜?」

「あなたには関係ない……って、何で普通に天井を走ってますの!?」

「だって忍者だし」

「それだけで理由になると!?」

万有引力を軽く無視する織羽に叫びつつ、セシリアがコーナーを曲がる。

もうゴール=一夏の部屋はすぐそこだ。なんとしても、そこまでに振り切らなければ。

 

「イグニッション・ブーストですわぁああああああああああっ!!」

コーナーの立ち上がり、一気にセシリアが加速する。

「なっ!? なんて無駄に速い……!?」

織羽が曲がる時には、既にセシリアの背中は彼方であった。

 

 

 

 

 

「はぁはぁ……ぜぇ……ぜぇ……ふ、振り切りましたわ……!」

息も絶え絶えになりながら、セシリアがグッと拳を握った。

さぁ後は一夏の部屋に行くだけだと、乱れた髪を直しつつ、足を進めた。

「………何をしていますの?」

せっかく辿り着いた一夏の部屋の前には、何時もの面子がいた。

何時もの面子とは、箒、鈴、シャルロット、ラウラである。ここにセシリアと織羽が加わればパーフェクトである。

「あんたら、何してんのよ?」

「って、織羽さん!? どうして此処に!?」

「いや、行く先なんて簡単に予想できたし……」

「くっ……! さすがはニンジャ……汚いですわ……!」

セシリアはまだまだ、忍者を甘く見ていたようだ。

「しーっ! 静かにしなさいっ……!」

鈴が騒ぐ二人を諌める。

よくよく見れば、何故か四人揃ってドアに張り付いている。

何なのだろうかと、セシリアと織羽もドアの向こうに耳を欹ててみた。

 

 

 

(千冬姉、久しぶりだから緊張してる?)

(そんな訳あるか、馬鹿者――っ!? も、もうちょっと手加減しろ……!)

(はいはい。それじゃ、こっちはどうかな……?)

(っ……! そ、そこは……やめ……あぁっ……!)

(我慢してよ。すぐに良くなるからさ……)

(ふっ……あぁっ………ッ!!)

(ほら……大分、ほぐれてきたよ……?)

(な、ならそろそろ……)

(しょうがないなぁ。じゃあ、ここからが本番……)

 

 

 

「………な、何をしていますの……!?」

セシリアは室内で行われている何かに、顔が赤らんでしまう。表情筋がつったのだろうか、ヒクヒクと痙攣が止まらない。

対して、箒、鈴、シャルロット、ラウラの表情は暗かった。

「う〜ん、これはまさか………ナニをナニしちゃってるのかな〜? なんて………悪かったわよ、そんな涙目で睨まないでよ」

全員が一様に睨んでくるので、織羽はすぐに引いた。

そんな事ある筈無いのだが、実際に耳にしてしまうと、否定し難いものだ。

 

 

鈴とシャルロット、ラウラには、秘匿回線(シークレットチャンネル)という事実確認の手段もあるのだが、それは出来なかった。

 

何故なら、それをしてもし

 

「あぁ、今姉さんと一夏が(以下検閲により削除)だから」

 

などと答えられた日には痛烈過ぎる。

 

 

いや、それだけならいい。もし感覚共有で(以下検閲により削除)などとなった日には、全員纏めてバーボンハウス行きだ。

 

 

 

恋する乙女達にとって、真実を知ることは何よりも恐ろしい事だったりする。

 

 

(じゃあ、いくよ)

(……一夏、ちょっと待て)

 

 

「……あれ?」

いきなり声がしなくなった。織羽を除く面々は、更にドアに密着する。

 

 

ズドンッ!!

 

 

『フギャアアアッ!?』

まるで尻尾を踏まれた猫のような悲鳴を、五人が上げた。

ドアがいきなりブッ叩かれ、その音と衝撃が襲ってきたからだ。

 

「まさかあれは………発勁っ!?」

発勁とは、衝撃を正しく打ち込む為の方法であり、中国拳法では一般的な理論である。

骨格ではなく、筋肉による正しい打法。それが発勁。

 

ドアがガチャリと開き、そこには羅刹教師千冬が立っていた。

「ほう、人の部屋の前で何をのたうち回っている、貴様ら……。丁度良い。全員、部屋に入れ」

耳と頭を押さえてのたうち苦しむ面々に、冷酷に告げる。聞いた者によっては死刑宣告にすら等しいであろう。

「じゃ、あたしはこれで……」

「待て、辰守。お前もだ」

「えぇ〜っ?」

不満アリアリだが、しかし逃げることも出来ない。既に襟首を掴まれているからだ。

 

 

 

 

「お、やっと来たかセシリア。ほら、此処に横になれよ」

と言って、一夏はポンポンと布団を叩く。

「えっ……でも、その……ほ、他の方がいらっしゃいますし……」

チラチラと六人を見ながら、消えそうな声で言うセシリア。

「……マッサージされるの、恥ずかしいのか?」

「えぇ、それはも…………………は? マッサー…ジ……?」

「おう、マッサージだ。結構上手いんだぞ、俺」

しれっと言う一夏に、セシリアは目を瞬かせ、やがてガックリと肩を落とした。

 

 

『セシリアは、エロいなぁ〜♪』

 

 

何故か、この場に居ない筈の面々の声が聞こえた気がした。

 

 

 

『ねぇ、春斗? もしかして中でやってたのって……マッサージだったの?』

『シャル……何を想像してたのかな?』

『そ、それは……その………えっと』

『ふぅん。シャルはそんな事想像しちゃう子だったんだ……へぇ……』

『そ、そんな事なんて想像してないよ!?』

『そんな事って何? 僕は具体的な事は言ってないよ?』

『っ……!? 春斗の意地悪……!!』

 

 

なんてやり取りも、並行してあったりした。

 

 

 

 

 

「どうだセシリア? 痛くないか?」

「え、えぇ……大丈夫ですわ……ぅふぅ……」

最初は落胆気味だったセシリアであったが、いざマッサージが始まると、それも消えてしまっていた。

一夏は俯せになった体にバスタオルを掛け、もみ返しが起こらないように、さするようにして背中全体をほぐす。

そして温まったところで掌から指へと、徐々にピンポイントで圧力を掛けていく。

 

「腰のコリが酷いな……何かやってるのか?」

「嗜み程度ですがヴァイオリンを……あ、その辺り少し痛いです」

「っと、じゃあ、指圧じゃない方が良いか……」

指から掌に変えて、面での圧力を掛けてゆっくりと解していく。

 

心地良い感じに、ついついウトウトとしてしまう。

 

 

グワシッ!!

 

 

「っ――!?」

突如として臀部を鷲掴みにされ、セシリアの意識が一気に覚醒する。

まさか一夏が!? こんな人目をはばからず、余りにも大胆な!?

「い、一夏さ――」

そんな思いで、セシリアが振り返った。

「………ふっ」

イタズラが成功したと、ニタリと笑う千冬がいた。

しかも、凍りついたセシリアに対し更なる追い打ちをかける。浴衣を思いっきり捲り上げたのだ。

「キャアアアアッ!?」

「おーおー、マセガキめ。何を期待していたんだ?」

千冬は―― いや、千冬だけではない。一夏を除く全員が、それを見た。

 

「うわぁっ……エロい」

「こんな下着……見たことないわ」

「というか、売っているのか……こんな物が!?」

「両方とも紐結びか。クラリッサの言っていた”勝負下着”という代物か?」

「黒のレース……はぁ……こういうの、やっぱりないとダメなのかな……?」

 

まじまじとそれを見やり、思い思いの感想を口にする。なんという晒し者であろうか。

 

「………」

『えっと……どんまい?』

一夏は顔を赤くして、「見てしまいました」的な反応を見せ、春斗は届かないまでも、セシリアを慰めた。

 

「教師の前で淫行を期待するなよ、15歳?」

そして、千冬が止めを刺した。

 

「わ、私の純情がぁぁあぁぁ………!!」

 

その日、一人の少女の純情が――― 死んだ。

 

 

 

セシリアへのマッサージを終えると、一夏の額や背には汗がじんわりを浮かんでいた。

「しっかし、二人もやると汗を掻くな……」

「手を抜かないからだ。もう少し、要領良くやる事を覚えろ」

「それは、時間割いてくれた相手に失礼だろ?」

「愚直だな。お前はもう一度、風呂に入ってこい。部屋を汗臭くされたら敵わん」

「そうだな……じゃ、そうする」

一夏はタオルと着替えを持ち、大浴場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

*男の入浴シーンを二度も書く気はありません。なので、飛ばします(キングクリムゾン)

 

 

 

 

 

 

 

一夏が部屋に帰ってくると、丁度何時もの面子が出てくるところであった。

 

「お、部屋に戻るのか? ……っ!?」

と、一夏が声をかけると、全員が一夏に強い視線を向けた。

擬音を付けるなら『ギラーンッ!』といった感じだ。

 

「一夏?」『春斗?』

「一夏?」『義兄上?』

鈴とラウラが、言葉と秘匿回線(シークレットチャンネル)を同時進行しながら来る。

「まだ、一緒に出掛ける約束、果たしてもらってないんだからね?」『あんたは、あたしの味方よね』

「お前は私の嫁だ。他の女に現を抜かす事は許さんぞ?」『義兄上は私の味方……そうですよね?』

 

「『………っ!?』」

 

脇を通り抜けていく二人から、筆舌にし難いプレッシャーが飛び、二人は身を竦ませる。

そして、セシリアが来る。

 

「一夏さんっ!!」

「は、はいっ!!」

ガシッと一夏の手を掴み、真っ直ぐに瞳を見据えてきた。

「私………絶ぇえええええええええっ対に、負けませんわっ!!」

「お、おう……頑張れ?」

「はい……っ!!」

何を頑張るのか一夏には分からなかったが、セシリアの瞳は轟々と燃えたぎっていた。

 

 

「あはは……、皆すごいねぇ」

と、シャルロット。

「俺が風呂に行っている間に何があったんだ……?」

「うん……ちょっと色々と、ね……?」

よかった、シャルロットはいつも通りだ。と、一夏は安堵した。

『春斗。これから先は本当の全力で攻めるから……覚悟しておいてね?』

『は……!?』

 

しかし、そんな事ぁ無かった。

 

そして箒。

「一夏、私は誰にも負けない。我侭に行くと決めたのだからな……?」

 

「じゃ、色々がんばってね……織斑君?」

最後に織羽がポンポン、と肩を叩いて去っていった。

 

 

「……千冬姉、あいつらに何か言ったな?」

「さぁてな。知ったところで意味はないさ」

千冬はそう答えて、都合四本目のビールを飲み干したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

翌日。

臨海学校二日目は、丸一日を使って各種装備運用とデータ取りが行われる。

特に専用機持ちには、多くの装備が用意されている。

それらのデータは今後のIS開発に利用される為、細かいデータ収集が義務付けられていた。

運用試験に使われる場所は四方を切り立った崖に囲まれたビーチ。

形がドーム状であり、どこか学園のアリーナを思わせるなと、一夏は思った。

 

千冬達教師の指示で、一年生の各班が振り分けられた装備データ収集のための準備に入る。そして専用機持ち組は、別個で国から届けられた装備のデータ取りである。

千冬の前には一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラの姿があった。

だが、織羽ともう一人―― 四組の専用機持ちである、更識簪の姿がなかった。

「さて……辰守と更識が遅刻か……更識は仕方ないとして……全く」

 

「はいはーい! 辰守織羽、ここにいまーすっ!!」

と、崖の上に立つ人影。大声で宣言するや、いきなりビーチへとジャンプした。

 

「ひゃぁああああ……っ!?」

 

ドォオオンッ! と、間の抜けた悲鳴と共に砂煙を上げて着地した織羽は、見上げるほどの高さから飛んだにも拘らず、あっさりと立ち上がった。

 

「辰守、遅刻とはいい度胸だな?」

「すみません。これを捕まえるのに時間がかかりました」

と言って、担いでいた物を見せる。

 

それは、一見すると芋虫のようであった。

だが芋虫にしてはデカイ。そしてロープでグルグル巻きにされている。

「芋虫……?」

「いや、蛹かもしれんぞ?」

「蛹は動かないでしょ……」

 

「ということで、辰守織羽と更識簪、到着しました!!」

「うぅ……せ、世界が揺れる……」

どうやら、芋虫の正体は簪のようである。

 

「態々連れてきたのか。素晴らしい友情だな、感動的だ。だが、遅刻だ」

「うはぁ……」

千冬の容赦なき宣告に織羽は、簪を縛ったロープを解きつつ、「やっぱりな〜」といった顔をした。

「では、罰代わりだ。二人とも、ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」

「えっと……コアは宇宙空間における相互位置情報交換の為に設けられたデータ通信ネットワークを持っていて、これは今は開放回線(オープンチャンネル)や、個人回線(プライベートチャンネル)などの操縦者同士の会話などに用いられています」

「それ以外にも、『非限定情報共有(シェアリング)』をISコア同士が独自に行わい……結果、様々な情報を……自己進化の為の糧として吸収……これは、製作者である篠ノ之博士が自己発達の一環として、無制限展開を許可した為で……今もその進化の途中にあり、全容は掴めていません……」

 

二人がそう答えると、千冬は「よし」と言って頷いた。

 

 

「そう、そのとーーーーーーりっ!!」

 

 

「バカが来たか……」

呆れ気味に言う千冬。そして一夏達を含め、全員がその襲来に備えた。

 

 

そして―――。

 

 

ボォオオオオオオオンッ!!

 

 

「キャアアアアアッ!!」

ビーチが爆発した。砂浜からあの金属人参がズドーン、と生えてきた。

「あいつめ……またあんな登場を……」

千冬が頭を抱えた。

「本当にね〜。あんな登場は二度やっても面白く無いのに〜」

隣に立つ束も、あれは頂けないと頷いた。

「なら、お前はどんな登場をする気だ?」

「そうだね〜。意外と普通に出てきたり?」

 

「「「「「………うぉおおおっ!?」」」」」

 

一夏達は驚きの声を上げた。

何故かといえば、普通に束がそこに居たからだ。

 

流石の千冬も、目を見開いてしまっている。

「やったね、大成功〜♪」

束は手を叩いて、作戦成功を心から喜び、はしゃいでいる。

 

ゴンッ!!

 

その頭に制裁が行われたのは、きっと仕方ない事だ。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、紅椿の性能テストしよっか〜。箒ちゃん、ISを展開してくれるかな〜?」

頭にでっかいコブを作り、束は空間投影モニターを出した。

 

「……来い、紅椿!」

箒は左手首に身に付けられた一対の鈴―― 紅椿の待機形態に呼び掛けた。

 

リン、と小さく鳴り響くと、それは紅い光と共に量子変換されたISを展開させた。

「最初は飛行テスト。一気に上空まで上がって、自由に動いてみて?」

「っ……!」

箒が飛行イメージを与えると、紅椿は一気に飛翔する。

「なっ……!」

「なんてスピード……!?」

あっという間に大空へと昇ってしまう。その凄まじい加速力に、全員が驚きの声を上げた。

 

加速、減速、旋回、上昇、下降。

その一つひとつを確かめるように、空を飛び回る箒。

「どう? 箒ちゃんが思ってる以上に動けるでしょう?」

『え、えぇ……確かに』

開放回線(オープンチャンネル)に箒の、若干戸惑い気味の声が届く。

 

「じゃあ、今度は武装ね。ISと一緒に展開されている刀、雨月と空裂だよ。武器特性は雨月は対単一仕様武装で、打突に合わせてエネルギー刃を連続発射。射程はアサルトライフルぐらい」

箒は右の刃―― 雨月を空に向かって突き出した。と、刃から放たれた紅い光刃が白雲を撃ち抜いた。

 

「空裂は集団戦闘用だよ。斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーをぶつけるの。しかも、振った範囲に自動で展開されちゃうから超便利! てな訳で、これを全部打ち落としてみよう〜!!」

などと言って束は、いきなり16連装ミサイルポッドを呼び出した。

「発射〜っ!」

そして容赦なく、箒に向けて全弾発射。

 

「フッ!!」

箒が空裂を一回転するように振るうと、紅い光刃が帯状に展開さて、全てを斬り落としてみせた。

連鎖する爆発。青空に咲いた大輪の紅蓮華の中で、箒はその圧倒的な力に目を見張っていた。

凄まじい力。なんという万能感。これだけで、何事でも成せてしまいそうな気になってしまう。

 

『どうどう? これが箒ちゃん専用機だよ!? 量産型にプログラムを入れただけの出来損ないとは違うんだよ〜!!』

 

「っ……!?」

が、束の発した言葉に、箒の逆上せそうになっていた頭が冷える。

「……姉さん。確かにこの紅椿は凄いです。でも……真打鉄は私の……”最初の専用機”ですから」

『……?』

想いを通す一助となり、箒の道標となったIS。

性能ではない。能力ではない。込められた想いが、それこそが―― 箒の専用機”真打鉄”なのだ。

 

(紅椿……お前は、私の想いを通す一助となってくれるか? 真打鉄のように……)

 

心の中でそう問いかけるが、紅椿は応えなかった。

 

 

 

地上へと戻ってきた箒は、束から驚くべき事を聞かされた。

「この紅椿は、展開装甲によって『パッケージ換装をしない万能機』になっている訳。つまり、これは第四世代ISなのだよ。えっへん」

まるで、『100点を取ったテストの答案用紙を見せる子供』の如く言う束に、一同は唖然とした。

何せその一言は、世界中の第三世代開発の流れを、無駄だと言っているのに等しいからだ。

「ちなみに、白式の雪片にもそれが使われているんだけど……その顔は知っていたな?」

束がジト目になって一夏に尋ねる。

「えっと……零落白夜を使う時に動くあれがそうですよね?」

「むぅ……春るんだな、教えたのは。ま、いっか。雪片には試験的に入れただけだけど、紅椿には全身のアーマーに使ってみました! システム最大稼動時には、スペックデータは更に倍プッシュだ〜っ!」

「………」

「しかも、紅椿の展開装甲はより発展したタイプだから、攻撃、防御、機動と用途に応じて切り替え可能。これこそ第四世代の目標である即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)だよ!! 流石、束さんは凄いぜ!!」

自慢気にVサインする束だったが、正直、誰もがついて行けなかった。

 

『う〜ん……全身に、か……』

一人、春斗だけが何かに頭を抱えていた。

 

「束……やり過ぎるなと言っただろう?」

千冬は呆れと、それ以上に諦め気味に嘆息した。

が、束はそれが不満だったようだ。ありありと「超不満!」だと顔に書いてあった。

「え〜っ!? だって、第三世代ISなんて二年前に春るんが”武竜”を設計した時点で終わってるのに〜?」

『っ………!?』

その一言に、春斗はギクリとした。

 

「武竜……だと?」

初めて聞いた言葉に、千冬の視線が鋭く細まる。

その行き先は―― 一夏の中の春斗だ。

 

「武竜は今”ラファール・ドラグーン”なんて呼ばれて、フランスが自分の所のISだ〜、とか言っちゃてるヤツだよ?」

更に束がぶっちゃけた。

幸いにして、他の生徒達はそれぞれにバラけている為、それを聞いたのはこの場にいる面子だけである。

 

「シャルロットさん、どういう事ですの……?」

「R-ドラグーンは……フランスが作った物ではないのか……?」

同じ欧州連合組の二人がシャルロットに詰め寄る。

「うん。R-ドラグーンは春斗が設計した……曰く、最強の第三世代ISなんだよ。あ、これはオフレコにしてね?」

が、あっさりシャルロットはそれを認めた。

思いっきり国家情報の漏洩であるが、それをバラすような人間が此処に居ない事は、彼女も充分に承知していたからこそだ。

それに、R-ドラグーンは春斗から託された物で、盗用された物ではないのだから、そこに違法性はない。

発覚してもせいぜい、ヒューイック博士が批難されるぐらいだ。

 

「ちょっと待て。それは本当なのか?」

と、ここで割って入った者がいた。篠ノ之箒である。

「フランスの第三世代機が……春斗の設計した物だと……?」

これは聞き捨てならないと、箒が詰め寄る。

「そうだよ? R-ドラグーンは、春斗が僕に託してくれた……彼の”夢”で”彼の翼”なんだ」

ニッコリと、見る者全てを魅了するかのようなスマイルを浮かべて、箒に答えた。

なのに、もの凄く寒いのは何でだろうか。

 

「……一夏、春斗を呼べ」

「ほ、箒さん……?」

「さっさと呼べ」

「あ、白式のフラグメントマップも見たいから、展開よろしくね〜」

凄む箒と、マイペース一直線の束。

そして、すっごくニコニコとしているシャルロット。

 

『春斗……覚悟を決めろよ?』

『………何でこうなった?』

 

一夏は白式を呼び出し、束は早速フラグメントマップを確認する。

「ふんふん……これはまた、不思議なマップを構成しているね〜。見たことないパターン……うわ、展開装甲も随分と書き換えられてる……!?」

「さて春斗……私に何か、言う事があるのではないか?」

「春斗、ハッキリ言ってあげるのも、きっと優しさだよ?」

「………いや、そう言われてもなぁ……」

「春斗。私には専用機を作れないのに、どうしてシャルロットには用意したんだ?」

「いや、僕は設計しただけだし……ていうか、それ一年以上前の話だよ!?」

「そんな事は関係ないっ!」

「そうだよ。春斗は僕を選んだんだから、諦めてよ」

「ちょっとシャルさん!?」

「う〜ん……単一仕様能力(ワンオフアビリティー)もちょこちょこ書き換わってるねぇ〜。むむむ……これはおもしろい……!」

「束博士ぇ!?」

睨み合い、火花を散らす箒とシャルロット。束は一切関知せず、フラグメントマップにご執心。

 

「納得できん! 何故、春斗が設計したISをフランスが作っている!?」

「そんな理由まで教える気はないよ。いいじゃない、箒には篠ノ之博士が作った紅椿があるんだから。R-ドラグーンは僕がちゃんと使うから、心配しなくて良いよ?」

「あ、あの……喧嘩はちょっと……」

「春斗、武竜について……後でゆっくりと聞かせてもらうぞ?」

更に千冬からの宣告を受けて、春斗は深々と溜め息を吐いた。

「……不幸だ」

 

「じゃ、今度は裏白式だね……あ、そのままでいいよ〜」

と、束はそのまま裏白式のフラグメントマップを確認する。

「こっちは、どれぐらい使ってるのかな?」

「えっと……殆ど使ってないですけど……何でですか?」

「いや、こっちも随分、面白い形になってるな〜って。ふむふむ……」

細かく見ている束に、千冬はある事を思い出した。

「束。裏白式について教えてもらおうか?」

そう。以前、裏白式について教えると、束は言っていた。ここを外すと、次に聞けるのは何時になるか不明だ。

「ん〜、別にそう特別な事じゃないんだけどね〜。ただ単に、白式と裏白式は【コンセプトの違う、二機の同型IS】ってだけだし……」

「……何だと?」

「つまり、白式と裏白式はそれぞれ別のISなんだよ。それで片方が起動すると、もう片方も準起動状態に入り、二機が状況によって入れ替わるようになっているんだよ」

「………」

事も無げに言う束に、睨み合いをしていた箒とシャルロットも言葉を止めてしまっていた。

「二機のIS……まさか、コアもか?」

「そうだよ〜。でもでも、裏白式に積んであるのは……まぁ、色々あれなコアだったりするんだけどね〜」

「あれ……?」

「そっ。あ・れ・な・コアだよ〜。よ〜し、チェック確認完了っと。いいよ、もう」

束がコンソールを消し、一夏も白式を戻した。

いきなりぶっちゃけられた裏白式の秘密だったが、一同にはそれを追求する時間など無かった。

 

「織斑先生っ! た、大変ですっ!!」

真耶が大慌てで走ってくる。

「どうした?」

「こ、これを……!」

真耶から渡された小型端末を見て、千冬が眉をひそめる。

「【特命任務レベルA。現時刻から対策を始められたし】……だと?」

千冬はすぐに、真耶に言葉―― そして軍用なのだろうか、手話での指示に切り替える。

「織羽……あれって」

「うん。ちょっとマズイ事態ね……」

と、簪は不安気に、織羽は何時もと違って厳しい表情を見せた。

 

どうやら、あの手話の意味が分かるらしい。

 

真耶が何処かへと走っていき、千冬が回線を使って全生徒に呼び掛ける。

「全員注目ッ!! これより学園教員は特殊作戦行動に入る。本日の予定は全部中止。全員、速やかにISを片付けた後、旅館へと戻り、指示があるまで各々の部屋で待機。これを破った者は身柄を拘束する、以上だ!!」

いきなり過ぎる指示に戸惑いざわめく生徒達。が、そんな時間も惜しいと更に千冬が一喝する。

「さっさと作業に移れ!!」

「「「「は、はいっ!!」」」」

生徒達は怒号に怯え、慌てて片付けに移行した。

 

 

「織斑、篠ノ之、オルコット、ボーデヴィッヒ、デュノア、凰、辰守、更識。以上、八名は私と共に来い」

 

名を呼ばれた者達―― 専用機持ち達は、千冬の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は、特命任務レベルAが来る少し前。

「La〜♪」

太平洋上を、高速で飛ぶ者があった。

歌うような電子音声を響かせて、白雲をはじき飛ばして舞い踊る、銀色の天使。

 

『クソっ……! 駄目だ、振り切られる……!!』

追いすがるように飛ぶ音速戦闘機。だが、それはあっさりとレーダー外へと消えてしまった。

『こちらスティール1。【銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)】を見失った……帰投する』

 

旋回し、戦闘機は戻って行く。

超音速で飛行する空の王者ISの前に、只の戦闘機など競争相手にもならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は歌う。

天に、海に、風に、自由なる空に。

 

操縦者の意思でさえ、止められないままに。

 

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