IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

37 / 97
第31話  VSシルバリオ・ゴスペル/夜天に破壊の翼は舞う

 

海上200メートルの位置に静止していた福音が、不意に顔を上げた。

 

その瞬間、超高速で飛翔した鉄塊が直撃、爆発する。

ラウラによる、5kmもの距離からの砲撃。

 

「初弾命中! 続けて行く!!」

 

直撃のダメージさえ物ともしない福音が、反撃に移ろうとするよりも早く、次弾を発射した。

左右二門から放たれる連続砲撃を、福音は容易に躱して距離をあっという間に詰めていく。

 

(距離4000………3000………チッ、速い……!!)

 

ラウラは内心で舌打ちしつつ、砲撃を連射する。

だが福音は半数を回避し、半数を撃ち落として、あっという間にその距離を2000まで詰めてきた。

砲戦仕様のシュヴァルツェア・レーゲンは、火力維持と反動相殺の為に機動力を犠牲にしている。

対して銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は高機動型。300を切った所から更に加速してラウラに迫る。

右手を伸ばし、一気に叩き潰す算段なのだろう。回避は不可能。砲撃も不可能。AICも間に合わない。

 

―― フッと、ラウラが笑った。

 

上空から閃光が走り、福音の右腕を叩き伏せる。 

その隙にラウラが福音から距離を取る。勿論、砲撃の置き土産も忘れない。

 

上空から急降下しつつ狙撃するのは、強襲用高機動パッケージ【ストライク・ガンナー】をインストールしたブルー・ティアーズ。

ステルスモードで潜行し、不意打ちを叩き込んだのだ。

 

「セシリア、任せる!」

「了解ですわ!!」

 

黒と蒼のISは入れ替わるように飛んだ。

 

ストライク・ガンナーは、ビット六機を腰部ユニットの接続し、推進力として運用する。

それ故に、ブルー・ティアーズによるオールレンジ攻撃は出来なくなるものの、高い機動力を得た。

そして落ちた火力を補う為に、2メートル以上もある大型BTレーザーライフル『スターダストシューター』を装備している。

それと共に超高感度ハイパーセンサー『ブリリアント・クリアランス』が、時速500キロを超える領域での反応を補う為に装備されている。

 

それの送る情報から福音を捉え、一気に反転して射撃する。

 

 

『敵機Bを補足。排除行動へ移る』

「おっと、遅いよ!!」

セシリアの射撃を躱しつつ、迎撃に移ろうとする福音の背部を衝撃が襲った。

彼女の背中にステルスモードで乗っていたシャルロットが、福音に零距離ショットガンを見舞ったのだ。

 

そのまま両手のショットガンを連射。福音のバランスを崩す。

「貰った!」

「頂きますわ!」

そこに挟みこむようにして、セシリアとラウラの射撃と砲撃が叩き込まれる。

 

福音はそのダメージに一瞬たじろぐも、すぐに態勢を立て直し、一番近い距離のシャルロット目掛けて銀の鐘(シルバーベル)を発射する。

 

が、その射線上を紅白の影が通り過ぎたかと思うと、シャルロットの姿が消え去り、福音のエネルギー弾は全て外れてしまう。

 

 

「ギリギリぃ〜ッ!」

「織羽、このまま行くよ!」

「オッケー! ガンガン行こうぜ!!」

紅白の影の正体は、高機動戦闘用オートクチュール【空魔】を装備した舞影であった。

 

空魔は朱い鷹をモチーフにした舞影専用パッケージで、3メートル近いスラスター翼に、機動制御用小型ウイングが左右合計12枚、尾羽型スタビライザーが装備されている。

更に武装もツインランサー『一文字』に、ビーム大筒(カノン)『国崩』を持ち、脚部には格闘専用武装『鷹爪』が追加されている。

舞影の戦闘力は実はそれほど高くなく、これらオートクチュール装備を前提にして開発された機体なのだ。

そして、空魔をインストールした舞影は、今のブルー・ティアーズと同等の速度での戦闘を可能とした。

シャルロットは舞影の背中に乗り、自機のスラスター制御を預ける。

 

 

福音はシャルロットと織羽に向かって、銀の鐘(シルバーベル)を発射。

しかし舞影はそれをヒラリと躱し、躱し切れない攻撃はシャルロットがエネルギーシールドで防いでいく。

「目には目を、弾幕には弾幕を!!」

シャルロットはアサルトカノン『ガルム』、シールド一体型ガトリング砲『ユミル』を展開。それらを福音に向けて発射した。

 

R‐リヴァイヴ・カスタムⅡの高火力重爆撃パッケージ【スカーレット・ガーデン】。

防御パッケージ【ガーデン・カーテン】をベースに、多数の重兵装を加えた機体だ。

その重装備故に機動力が壊滅的だったが、しかしそれを補う空魔の機動力を得て、文字通り”空の要塞”と化した。

シャルロットの弾幕、高速機動からの射撃を行うセシリア、その合間を縫うように砲撃を撃ち込んでいくラウラ。

 

包囲陣形をしく四機の前に、さしもの福音も自身の不利を悟る。

『――― 優先順位を変更。現空域からの離脱を最優先』

グリン、と全身を回転させると同時に全方位に銀の鐘(シルバーベル)を発射。

全員がそれを躱す隙に、福音は一気に加速。包囲陣形の隙間を突いて離脱を計った。

 

「―― やらせるかぁああああっ!!」

 

その向こう―― 海面が隆起し、大きく爆ぜて、二機のISが飛び出した。

箒の紅椿と、その背中に乗った鈴の甲龍である。

 

鈴は箒の背を蹴って上空に上がり、箒はそのまま福音に迫る。

「行くぞ、福音ッ!!」

二刀を抜き放ち、宿敵に挑む。

火花が散り、福音がわずかに揺らぐ。

 

「箒っ!!」

「やれ、鈴っ!!」

 

箒はそのまま福音の脇を抜け、その背に向かって雨月を振るった。

 

そして上空の鈴も、両肩の衝撃砲を起動させた。

甲龍機能増幅パッケージ【崩山】。

計四門となった衝撃砲による、一斉射撃が行われた。

 

しかも通常のような不可視の弾丸ではなく、赤い炎を纏った銀の鐘(シルバーベル)にも匹敵する弾雨。

 

”熱殻拡散衝撃砲”とでも名付けられるだろうそれが、福音を直撃する。

 

『………!?』

 

上方と背後からの同時攻撃を受け、福音が悲鳴に似た声を上げた。

 

 

「やった……!?」

「まだだ、この程度で墜ちる相手ではない!」

箒の言葉通り、福音はダメージを受けつつも更に飛翔する。

そして反転すると――

銀の鐘(シルバーベル)、最大稼働』

すぐにエネルギー弾を斉射した。

 

「くっ!?」

「箒、後ろに!!」

舞影から飛び降りたシャルロットが、紅椿を庇うように動く。

今の紅椿にはエネルギー切れ対策として、展開装甲に制限を掛けている。

本来、展開装甲は攻撃、防御、機動において自立稼働する仕組みで、それ故に最強のISとなりうるスペックを持っている。

 

だが、それはエネルギー切れを誘発する危険なものでもあった。

なので今回は、機動以外の展開装甲にリミッターを掛けてあったのだ。

防御面での不安は大きくなったが、それを補う仲間の存在が箒にはあった。

 

「全員、作戦をサードフェイズに移行する!」

 

ラウラの指示に、全員が動く。

 

先陣を切るのは―― 舞影。

 

「いざ、一文字斬りで勝負っ!!」

両手にツインランサーを呼び出し、一気に突進。福音が迎撃にエネルギー弾を放つ。

「やらせませんわ!!」

その背後から、セシリアが牽制射撃。福音に迎撃行動をさせない。

 

「ちょいさぁっ!!」

一方を投げつけ、もう一方を回転させて遠心力を加えて、福音に振り下ろす。

 

投擲された方を弾くも、振り下ろされた一撃を喰らい、福音が吹き飛ぶ。

そのまま舞影は離脱。鈴と入れ替わるように飛んだ。

 

「シャルロット!!」

「弾幕、行くよ!!」

 

拡散衝撃砲、そしてシャルロットが呼び出したミサイルポッド。それらが同時に発射される。

爆圧で動きを封じられ、そこに衝撃砲を喰らう。

 

「遠慮はいらん。これも持って行け!!」

更にラウラが砲撃を撃ち込んでいく。

「………っ!?」

福音も反撃を試みるも、しかしその度に、どこかから攻撃をされる。狙いを絞り切れないまま、福音は手をこまねくしかなかった。

 

 

孫子曰く。戦いにおいて最も有効な戦術とは、相手よりも多くの兵を用意する事である。

 

数とは単純にして最も強力な力であり、それこそが肝心であると孫子は伝えていた。

その真理は近代になっても変わらない。

ミサイル、戦闘機、空母、戦車。これらを運用する為に、多くの兵士が必要だ。

 

そしてそれらが過去の物となりつつある現在でさえ、むしろ今だからこそ、それは更に。

ISという超兵器は、その絶対数が決まっている。

だからこそ、数が物を言う。

六機のISによる包囲網の中では、いくら福音の多方向射撃能力があろうとも、全機を相手取ることは出来ない。

 

攻撃態勢に入った時、誰かが必ずその範囲外にいるのだ。

一機故にその背を守る者はなく、一機故に抜け出せない蟻地獄。

 

 

対する専用機組も、決して楽な戦闘ではなかった。

常に福音の動きに注意して、その包囲から逃がさないように動き、更に攻撃態勢を取った所を狙って撃ち込んでいく。

それでもやはり攻撃はされるので、ダメージがどうしても積み重なってしまう。

更には仲間同士の動きにも神経を使い、ラウラが遠方から指示を出すも、精神的疲労は積み重なっていく。

物理的蓄積か、精神的疲労か。

ジリジリと、互いに追い詰められていく。

 

 

「ぐっ……!」

シャルロットの物理シールドが一枚、破壊される。

「織羽、シャルロットを!!」

「承知!!」

織羽が一気に加速して、シャルロットを回収。そのまま円周軌道からの攻撃に移る。

 

「セシリアッ!」

「了解ですわ!!」

ラウラとセシリアが、左右からの挟撃を仕掛ける。

「喰らえッ!!」

そこに箒が正面から雨月を振るい、エネルギー刃を撃ち込んだ。

「っ………!!」

三方からの一斉攻撃を受けて、福音がついにその足を止めた。

 

「よし、ファイナルフェイズだ!!」

 

ラウラが、一気に決着をつけるべく指示をだす。

「辰守流忍術―――超煙玉っ!!」

舞影が福音に迫り、対IS用センサー阻害煙幕をぶつける。

そのまま、舞影はセシリアと鈴の間を通り抜けて行く。

 

「これも貰っておくが良いっ!!」

そこにラウラが連続砲撃。福音の離脱を妨害する。

「まだまだっ! これもサービスするよッ!!」

シャルロットがバズーカ砲を構え、福音に向かってトリガーを引く。

放たれた砲弾が真っ直ぐに飛び、そして弾けた。

弾頭から飛び出すのは―― 特殊金属繊維で作られた捕獲ネット。

「―――!?」

それが福音を捕らえ、更に電流を流し込む。

 

「動きさえ止まればっ!!」

「恐るるに足らず、ですわ!!」

煙が晴れ、福音がネットを引き裂こうとする中、鈴とセシリアが背後から接近する。

 

「「やぁああああああああああああっ!!」」

二機が福音の翼目掛けて、舞影のツインランサーを突き出した。

通り過ぎざまに、織羽が二人に投げ渡していたのだ。

銀の鐘(シルバーベル)……!」

「確かに、取ったわよ……!!」

網目を抜けて、ウイングにランサーが突き刺さる。

 

蓋的役割の装甲ごと貫かれ、銀の鐘(シルバーベル)は全砲門を展開出来なくなる。

 

 

そして――― 最後の一押し。

 

 

福音の正面。

突撃を仕掛ける―― 紅と朱。

空魔と一体化して超高速形態になった舞影と、その背に乗って突撃する紅椿だ。

紅椿は空魔に足を固定させ、空裂を両手でしっかりと握り、討ち果たすべき敵を見据える。

「行くぞ、織羽!!」

「今こそ、あたしらの力を見せる時ッ!!」

両機がスラスターを全開にして、速度をグングンと上げていく。

 

福音はネットのせいで動きを制限され、更にランサーのせいで全力攻撃が出来ない。

それでも、開いている砲門からエネルギー弾を発射する。

「止まるな、このままだ!!」

「空魔、突撃ぃ!!」

被弾しながらも、更に速度を上げていく。

空魔はシールドエネルギーを突撃攻撃へと変えるシステムを発動。

そのエネルギーが二機を紅蓮の炎へと変えた。

 

「箒っ!」

「箒さんっ!!」

「一気にっ!!」

「決めてしまえっ!!」

 

「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああっ!!!!」」

 

裂帛の気合と共に、福音に横薙ぎの一撃。そのまま福音を押し飛ばし続ける。

そこから切っ先を跳ね上げて、福音を弾き飛ばし、更に刃を回転させるようにして振るった。

 

「でりゃぁああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

空裂の特徴―― 攻性エネルギーを帯状にして放つ―― が、福音の周囲に渦巻いて、竜巻の如く天を穿つ。

 

「!?!?!?」

荒れ狂う斬撃の嵐で福音の装甲が、ウイングが、シールドが斬り裂かれていく。

そして、錐揉み状態で福音が吹き飛ばされ、そのまま海へと堕ちていった。

ブクブクと泡沫が上がり、そのまま消えて行く。

しばらくの間、全員が注視していたが―― 福音は浮上しては来なかった。

 

「ッ……! ハァッ……! ……はぁ……はぁ……!」

「くはぁ……! はぁ……きつかったぁ〜!」

 

極めるまで息さえ止めていた二人が、ようやくの呼吸をした。

「箒さん、お見事でしたわ!」

「ありがとう、セシリア……」

セシリアは箒の手を掴み、興奮気味に喜ぶ。

 

「つーか、デタラメな攻撃過ぎるわよ、あれ……」

「確かに……あんなの食らったら一気にシールド持って行かれちゃうよね……」

鈴とシャルロットは、あれを食らったのがもしも自分だったらと想像して、ちょっとゾッとしていた。

 

「フム……あの技は、斬艦刀と黒い馬でやるのが正式なのだそうだが……紅椿と舞影に、そういったパッケージはあるのか?」

「あんたは何をやらせる気なのよ!?」

ラウラが真剣な面持ちで何やら不審な事を言い出しているので、織羽はツッコんだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「福音……完全に沈黙しました」

「……そうか」

作戦室の千冬は深く嘆息した。

監視状態にあった福音に、箒達が勝手に戦闘を仕掛けた時には驚き、真耶はすぐに引き返させようとした。

だが、千冬は生徒達に任せる決断を取った。

それは彼女達を信じたからなのか。全く違う理由なのか、千冬にも分からなかった。

だが、いずれは国家を背負って戦うかも知れない少女達だ。この程度をどうにか出来ないなら、この先の未来などない。

それだけは確かな事だった。

 

 

そうして、彼女達はギリギリの戦いを制し、福音を撃墜することに成功した。

しかし一度の作戦失敗と、集団命令違反は残っている。

この後始末に頭を痛めつつ、千冬は戻ってくる生徒達をどう叱ってやろうかと思った。

 

「………え?」

 

真耶が、何かに気付き、計器で測定する。そして―― 目を見開いた。

「福音、再起動! しかもこの反応は……!!」

「っ……!?」

モニターに映る衛星からの映像に、作戦室の空気は一気に張り詰めた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

その変化は突然だった。

パチッ。と小さな音がしたのをセンサーが拾った。

何が、と思うその瞬間。

 

ドォオオオオオオオオオオオオオンッ!!

 

「なっ――!?」

いきなり海面が爆ぜ、球状の光の玉が海を蒸発させながら、上昇してきたのだ。

 

荒れ狂う青雷と烈風。

海を押し退けるほどのエネルギーの中、その中心にうずくまるような格好の銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)

 

「これは……何だ!?」

「まずいっ! これは……『二次移行(セカンドシフト)』だ!!」

ラウラの叫びに反応するかのように、福音がその顔を持ち上げる。

呆然とする敵の顔を確かめるかのように、福音はゆっくりと、その体を立ち上げる。

ISが警鐘を鳴らす中、福音はその姿を変えていく。

 

「kyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

バキン、バキンッ!!

金属を引き裂いたかのような甲高い音―― 咆哮を上げて、福音の翼が砕けた(・・・)

 

そこから現れたのは―― 巨大な幾枚もの光の翼。

更に、斬り裂かれた装甲を埋めるかのように、光の羽根が生えていく。

球体が消滅し、海が大波を上げて元へと戻る。

その飛沫も物ともせず、福音はバサァッ! と、翼を羽ばたかせた。

 

 

「っ――!?」

一瞬だった。

全員の横を抜けて、福音は最初の標的に襲いかかる。

その相手は―― シャルロット。

鋼の手がシャルロットの顔面を捕らえ、そのまま彼方へと飛ぶ。

 

「そんな――!?」

「シャルロット!!」

 

仲間達が叫ぶ中、シャルロットを閃光が襲った。

 

「ぐぅ……ぁああああああっ!?」

 

至近距離からの銀の鐘(シルバーベル)を喰らい、R‐リヴァイヴ・カスタムⅡが海面へと落ちていく。

「デュノアちゃん!? クソッ!!」

「包囲して叩くぞ!!」

全員が動こうとする瞬間、福音が凄まじい弾幕を放つ。

それは今までとは比較にならない程の数で、空間そのものを制圧する程の圧力であった。

 

「くっ……なんて数よ……!!」

「これでは……近づくことも……!?」

回避行動を取りながら接近と反撃を試みるも、福音は更に攻撃を仕掛ける。

 

『エネルギー集束―― 〈銀の息吹(シルバーブレス)〉発射』

 

「「っ!?」」

羽根状のエネルギー弾を螺旋状に集束させて、一点集中で撃ち放つ。

「ぐぁああああああっ!?」

その一撃をラウラはシールドで防御するも、その威力にシールドが耐えられず崩壊。そのまま直撃を受けて吹き飛ばされた。

 

 

福音の猛攻は更に続く。

今度は翼の先端にエネルギーを集中させる。

 

『エネルギー圧縮―― 〈銀の剣(シルバーソード)〉発射』

 

翼で全身を包むような構えから一気に開き、放たれたのは高密度圧縮されたエネルギーカッター。

 

「うわったぁ!?」

「クソッ!?」

八本の斬撃光線を振り回され、四人は必死に回避する。

「キャアアアッ!!」

「鈴さん!?」

甲龍の左部衝撃砲が斬り裂かれ、爆発する。

 

「冗談じゃないわよ!? あんなの食らったら、一発で絶対防御を持っていかれるわ!」

織羽が吐き出すように言う。

「いくら軍用とはいえ、こんな……異常過ぎますわ!」

セシリアが絶望に近い声を上げる。

事実、福音の性能は異常だった。

最初の攻撃―― あれは脚部、腕部の翼から放った瞬時加速(イグニッションブースト)。

 

そして、エネルギー翼によって砲門を必要としなくなったために、自在に放たれるエネルギー弾。

更にそれを集束、圧縮する事で別の攻撃へと変える攻撃性能。これらは全て、福音が彼女らに勝つ為に生み出したものだ。

砲門を封じられ、一点集中の攻撃を喰らい、包囲されての連続攻撃。そして、最後の一撃。

それらのデータを基にして、更なる姿へと変わったのだ。

勿論、それを差し引いても、この性能は異常だった。

 

 

福音はその標的を、セシリアに定める。

「ッ!?」

翼を羽ばたかせて突撃してくる福音。すぐにセシリアも、スラスターを噴かせて速度を上げる。

「いくら速くても、そう易々とストライク・ガンナーに……追いつけるとでも!!」

高速戦闘仕様のブルー・ティアーズに、さすがの福音も簡単には追いつけない。

だが、福音はその速度と攻撃を同時に行い、セシリアはビットが使えない為に反撃が出来ない。

 

「ッ……! しつこいですわね……!!」

「セシリア、無理をするなっ!!」

攻撃を回避しつつ旋回して、ライフルを構えようとするセシリアに、箒が叫ぶ。

「箒、背中に乗って!!」

「行くぞ、飛ばせ!」

再び超高速形態になった舞影。その背に乗って福音を追撃する。

 

しかし、それよりも早く、福音はその翼を大きくはためかせると、一瞬でセシリアの後ろへと回りこんだ。

そして光の翼を一際大きく展開させて、ブルー・ティアーズを包み込む。

セシリアの視界を覆い尽くす、絶望の白銀。

 

「ぁ――――ッ!!」

 

零距離からの銀の鐘(シルバーベル)斉射。

悲鳴さえも呑み込む破壊の嵐が、セシリアを蹂躙した。

「おのれッ!!」

「あいつ……ッ!!」

一気に迫る二機に反応して、福音が翼を広げる。そこから崩れるようにして、セシリアが墜ちていく。

「セシリア……!」

「大丈夫、絶対防御が効いてる!! それより福音を!!」

弾幕に接近さえ出来なかった福音に、今まさに迫る。箒は墜ちていくセシリアにギリッ、と歯ぎしりしながらも、福音を睨む。

今度こそ、復活できないように叩き落す。強い決意で箒が叫んだ。

「行くぞ、織羽!!」

「応さっ!!」

シールドエネルギーを変換し、赤い攻撃エネルギーを纏って突撃する舞影。

交差する二色の閃光。火花が幾度も飛び散り、その激しさを物語る。

「くっ……!!」

「負けるかぁ……ッ!」

高速状態での激突にダメージが積み重なっていく中、福音が更に動く。胸部装甲を破って生まれた翼に、エネルギーが圧縮されていく。

「っ……!?」

それに気付いた織羽は、水平状態の態勢を一気に立ち上げた。

「織羽……っ!?」

箒が叫ぶと同時に、破壊の閃光が舞影を斬り裂いた。

「ウァアアアアアアアアアアアアッ!!」

装甲を斬り裂かれ、舞影が崩れ落ちる。

「織羽ぁっ!!」

「箒………いきなさいっ!!」

墜ちゆく直前、呼び出したビーム大筒(カノン)『国崩』を福音に向かって発射する。

 

その一撃は福音を見事に捉え、おそらくは最後のチャンスを生み出した。

 

「ッ………うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

一人、また一人と墜ちていった仲間達の想いを二刀に乗せて、紅椿が福音に迫る。

 

「落ちろ、墜ちろ、堕ちろぉおおおおおおおおおっ!!」

 

二刀からの連撃を浴びせ、更に、つま先の展開装甲からエネルギーブレードを出して、蹴り斬る。

福音も応戦するも、出力を上げていく紅椿と、箒の阿修羅の如き気迫の前に押されていく。

苦し紛れに繰り出された福音の一撃を紙一重で躱す。リボンが散り、代わりに空裂の一撃が福音を捉えた。

「これで……!」

そして、雨月を刺突に構えて今度こそ、止めの一撃を繰り出す。

「終わり――っ!?」

 

キュゥゥゥゥン……!!

 

ガクン、と力を失う紅椿。

「そんなっ……どうして……!? 後、一寸なのに……!」

残酷すぎる現実に、箒が慟哭する。

「がっ……!?」

だが、現実(福音)は更に残酷だった。

一瞬で福音の腕が伸びて、箒の首を鷲掴みにする。

「が……はっ……!!」

箒をギリギリと締め上げる福音。

呼吸が封じられ、器官が悲鳴を上げる。

 

(死ぬのか……私は……? 皆の想いも届かせられず……やられるのか……?)

 

福音の翼が、箒を包み込む。

 

 

(一夏……春斗………っ!!)

 

まだだ。

 

「ぁ……ぁぁ………!!」

 

まだ、諦められるものか。

紅椿の腕が、首を締める腕を掴む。

 

「……ぁ…………ぅぁ……!!」

 

そして、空いている腕で逆に福音の首を鷲掴みにして、そのまま全力で締め上げる。

 

―― 諦めない。

 

――― 逃げない。

 

―――― 最後まで戦い抜く。

 

胸を張って皆に――― そして、一夏と春斗に逢える自分である為に。

薄れ行く意識の中で、最後の瞬間まで戦う事を諦めない。

だが、それでも現実は残酷で、非情で。

どんなに願っても、奇跡など起きはしない。

「っ………」

やがてその力を失い、箒の両腕がズルリと落ちて―――。

 

 

「っ……!?」

突如として、箒が解放された。

何が? と思うよりも早く、福音を強力な荷電粒子砲が彼方へと吹き飛ばしていたのだ。

それは仲間達の誰も装備していない武装で、一体誰がと、箒は咳き込みながら射線の先を追った。

 

「っ……!? あ……あぁ………っ!!」

 

そこから此方に向かって飛んでくる、純白の機体。

「大丈夫か、箒!?」

『ほーちゃん、怪我はない!?』

 

「一夏……春斗……!!」

 

願っても、奇跡など起きはしない。

何故なら奇跡は、強い意志が起こすものだからだ。

 

 

 

そして奇跡を起こして、織斑一夏と織斑春斗は帰ってきた。

 

皆を守る――その為に。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。