「行くぜ、福音っ!!」
『今度は負けないっ!!』
一夏は正面から襲いくる福音目掛けて突撃。雪片で斬りつける。
が、福音はそれを容易く回避。背後へと回り込んで反撃を放とうとする。
だが、一夏はそのまま体を回転させて、福音を迎え撃つ。
「雪羅、クローモードッ!」
その声に応えて、雪羅の指先から1メートル以上のエネルギー刃が出現。福音の装甲を斬りつける。
シールドネルギーに阻まれるも、福音を確実に捉えていた。
『敵機情報更新。攻撃レベルAで迎撃』
そのまま福音は旋回して距離を取り、光の翼を広げる。
放たれるのは破壊の嵐――
だが、一夏は迷うこと無く正面から突っ込んだ。
「雪羅、シールドモードッ!!」
―― シールドモード 相殺防御開始 ――
キン……ッ!
甲高い音と共に、雪羅が変形する。
そして光の幕が広がり、触れる全ての
雪羅があらゆるエネルギーを無力化する―― 零落白夜のシールドを展開したのだ。
左腕部に発現した
一夏の意思を受けて、幾つかの姿に変形するその武装は、白式を更なる領域へと導く。
シールドモードは消耗が激しいながら、しかし実弾武装を持たない福音にとって、これは恐るべき驚異だった。
「うぉおおおおおおおおっ!!」
一夏は背中の二対の大型スラスター翼を使って二段階瞬時加速(ダブル・イグニッションブースト)を発動。複雑な機動で回避しようとする福音を追撃する。
「逃さねぇっ!!」
振り抜かれた斬撃が胸部の翼を切り裂き、更に白式の脚部装甲に出現したブレード《細雪》によって追撃する。
その一撃が決まり、福音が吹き飛ぶ。
「雪羅、ブレードモードッ!」
それに向かって一夏は雪羅を更に変形させた。
手刀に構えた状態からエネルギー刃が指先から伸びて、一体型ブレードへと変じる。
福音が態勢を立て直した時、一夏は既に眼前へと迫っていた。
「はぁああああああああっ!!」
雪片、雪羅、細雪からの連続攻撃。福音が防御と回避に追い込まれる。
『状況変化。最大戦力での殲滅に移行』
福音の装甲が更に弾け飛び、その速度が更に上がる。そのまま距離を開いた。
「ちぃっ!!」
福音が放つ光弾をシールドで防ぐ。ダメージは無いが、その消耗が著しい。
何とか再び距離を詰めようとするも、福音は増えた光の羽根を使い、一切距離を詰めさせない。
シールドモードで弾雨を防ぐ度、エネルギーが消耗されていく。
『一夏、エネルギー残り50%を切った!!』
「分かってる!!」
一夏は防御から回避へと移った。海面ギリギリを飛び、襲いくる弾雨を躱し続ける。
「くそっ……これじゃ、近づけない!!」
『だったら……向こうから近づいてもらおう?』
「やるのか!?」
『向こうが、この距離で戦いたいって言うんだ……だったら、相手をしようじゃないか!』
「『
瞬間。白式を黒の光が包み、僅かゼロコンマ秒の速度で入れ替わる。
全身を包む、
一対の大型スラスターウイングと、機動制御用ウイング。
頭部には初期型ハイパーセンサーを模したユニットを装備して、左手には月影。右腕には、二次移行して発現した特殊兵装・晨月。
それこそが、裏白式第二形態・晨月。
『春斗、行けるのか?』
と、プラネタリウムの様な場所―― 裏白式の内部仮想世界に取り込まれた一夏が、心配そうに尋ねてくる。
「大丈夫、行けるよ……!」
春斗は不思議な感覚に包まれていた。
裏白式が発現した時でさえ、ここまでは感じ無かった圧倒的な一体感。
まるでこの晨月こそが、”自分の本来の体”のようにさえ、自然と思えてしまう。
故に分かる。動ける。全てが思うままになる。
春斗は自在に空を舞い踊り、襲いくるエネルギー弾を尽く回避していく。
「まずは、ちょっと落ち着いてもらおうかな?」
ぐるん、と逆立ちするように反転させ、月影の弦を引く。
放たれた光矢が、弾雨を抜けて福音を直撃。
更に数発を続けて射る。
月影 短弓形態。
展開装甲を起動させないことで、速射力を優先する。
『敵機情報更新。遠距離武装を確認。
更に襲いくる弾雨。
「晨月、カウンターシステム《双月》! プラス、月之雫起動ッ!」
右手の
そしてスラスター上部、腰部アーマー、脚部装甲外側の一部が動き、鋭角なユニットを突き出す。
「攻撃軌道確認―― 迎撃っ!!」
合計八門。そこから一斉に、エネルギ―弾を撃ち放つ。
連射される迎撃弾は、命中軌道上にある全てのエネルギー弾を、一発残らず撃ち落とす。
「そんな程度の攻撃で……この裏白式を墜とせるとでも思ったか?」
春斗は月影を展開。大弓モードへと切り替える。
「晨月、システムチェンジ! 《
更に晨月を変形させる。そして弦を引くと、四つの矢が一度に弓掛けられた。
「ハッ!!」
それを一気に射ち放つ。一直線に飛ぶ四矢。が、福音はそれをあっさりと回避し――。
ドドドドォオオオオン……ッ!!
「……ッ!?」
その全てが直撃した。
攻撃を回避して、反撃に転じようとした福音目掛けて、全ての矢が追尾してきたのだ。
「まだまだ……今度は、これだ!」
更に弦を引くと、今度は丸太の様に太い矢が生まれる。
弓を思いっ切り引き絞り、そして射ち放つ。
バァアアアアアアアアアアアンッ!!
放った瞬間に矢が弾けて、散弾となって福音を襲った。
その数は、
月影用特殊射撃システム《虚月》。
威力はあるが、しかし単発でしか攻撃できない月影を補助する為のシステム。
『敵能力情報更新―― 集束攻撃にて対応』
ならばと福音は、集束攻撃――
「システムチェンジ、《月暈(げつうん)》ッ!!」
春斗の言葉に、晨月がまたしても変形する。掌が開き、そこからレンズ状のユニットが出現する。
そして空間に銀色の波紋が広がり、
「くう……っ!」
攻撃圧力に耐える晨月の装甲が開き、そこにあった金色のラインが強く光る。
数秒の拮抗。やがて
―― ダメージ軽減率61.37% 変換率33.77% ――
「どう、一夏?
『53%……まぁまぁってところか?』
「いまいち効率が悪いなぁ。これだから未調整の武装ってヤツは……」
春斗は、あまり満足出来ない結果に嘆息した。
「まぁ、良いか。ダメージは大して無いしね………さぁっ!」
春斗は徐に夜天を―― その中心に輝く月を指差した。
「千変万化の月に挑む愚かさを……とくと刻め!!」
―― 特殊戦術システム『百目』展開 ――
初期型ハイパーセンサーを模したユニット【百目】が、春斗の顔半分を覆い隠す。
「舞い踊り、そして穿て……月之雫(ムーン・ティアーズ)ッ!!」
その掛け声と共に、六つの砲台が切り離されて飛翔する。
BT兵器ブルー・ティアーズ。
かつてそのデータを解析した記録から生み出された、多角援護射撃ユニット月之雫(ムーン・ティアーズ)。
高速複雑機動を行う福音だったが、その行く先を尽く射撃が撃ち抜く。
特殊戦術システム百目は、
それを通す事で、六機のビットを制御しつつ更に自由に行動する事が出来る。
そうして動きを止められた瞬間、福音を光の矢が射ち抜く。
回避予測と誘導による、先置き射撃である。
『敵機情報更新。遠距離戦闘から、近距離戦闘による殲滅に切り替え』
多方からの攻撃を受けて、福音が遠距離での戦闘を不利と判断し、一気に加速して距離を詰めようとする。
「くっ……!」
月之雫による牽制射撃を物ともせず、福音が迫る。春斗はすぐさま回避行動に移った。
後方から追いすがる福音の射撃を滑るように躱し、ビットによる迎撃を行う。
だが、福音の射撃力はずっと高く、それを撃ち落として裏白式を更に背後から襲撃する。
春斗は制御用ウイングを巧みに操り弾雨を回避するが、どうしても直撃を受けてしまう。
「ぐぁっ……くっ!」
白式に比べて、裏白式は防御力が低い。その為、一撃に食らうダメージも大きくなってしまう。
その一瞬の隙に、福音が瞬時加速(イグニッションブースト)で裏白式の前に回り込む。
「ッ――!?」
春斗が動くよりも早く、光の翼が巨大になって包みこむ。そして―――
バキィイイイインッ!!
―― 翼が、
「よう、久しぶり――」
光の翼がガラスのように砕け散り、雪羅ブレードモード、そして雪片を振り抜いた白式が姿を現す。
二刀による零落白夜は、エネルギーの塊である福音の翼を容易に打ち消した。
「―― だなっ!!」
「――!?」
大型推進力を失った福音に、一夏は雪片を振るう。
「でりゃああっ!!」
残った翼で福音がギリギリ躱すも、更に細雪の零落白夜がまた一つ翼をもぎ取った。
福音はすぐに翼を再生。一気に加速して白式の間合いから離脱を計る。
「離脱なんかさせるかッ!」
白式はすぐさま、それを追撃した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「白式第二形態【雪羅】、裏白式第二形態【晨月】……!」
作戦室では真耶が、モニターに上がるスペックデータに、驚愕していた。
「二次移行に合わせて、今まで白式の分しかなかったエネルギーが、完全に別れて存在している……!? しかも、裏白式の能力……攻性エネルギーの軽減・吸収!? それをコア・バイパスを通して白式のエネルギーに変換……こんなの、どの国家も研究施設も実験さえ出来ていないのに……!!」
二次移行を果たした事で、二機のエネルギーは完全に別の物として区分された。
白式600、裏白式700。合計1300。単純計算で2倍の容量である。
更に、それが常にコア・バイパスを繋げてエネルギーをやり取りしているなど、前代未聞の事だ。
ISは、単純にコアを増やせば出力が上がるのかというと、そうではない。
コアが複数あると、搭乗者とのシンクロニティが阻害される事が分かっているからだ。
これはコアの深層にあるとされる意識が、もう一方のコアを異物として認識してしまう為に起こるらしい。
俗的に言うなら、『浮気者にはそっぽを向く。』という事だ。
現在、『コアを複数積んだIS』というのは存在しない事になっている。
しかし白式と裏白式は、二機のコアを別のISにする事で、これを解決したというのか。
「………」
千冬は興奮している真耶を尻目に、ただ戦闘を見守り続ける。
その瞳は『教師 織斑千冬』ではなく、『一人の姉 織斑千冬』であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「―― ロット……シャルロット……ッ!」
「………ぅう……?」
PICで海面に浮かんでいたシャルロットが、うめき声を上げてうっすらと目を開く。
「り……ん……?」
「おはよ、シャルロット」
鈴に手を引かれ、シャルロットが海から上がる。
「っ……福音は?」
「―― あそこだ」
「ラウラ?」
代わって答えたラウラが指差す方向。夜の闇を切り裂いて激突する銀と白。
「一夏………ッ!?」
間合いが離れた瞬間、裏白式の射撃が飛ぶ。
それを回避すると、福音は再び接近する。それを白式が迎え打つ。
次々に二色が入れ替わり、福音を翻弄する。
「どうやら、大事無かったようだな」
「ほ~ら、あたしの言った通りだったでしょ…………シャルロット?」
と、内心の動揺を抑えながら胸をはる鈴。
「………」
「……?」
てっきり大喜びするだろうと思っていた鈴は、静か過ぎるシャルロットに首を捻って、その顔を覗き込んだ。
「あっ……」
ポロポロと、シャルロットの瞳から零れ続ける雫が見えた。
「良かった……春斗……本当に………っ!」
シャルロットは口元を押さえて必死に堪えようとするが、それでも嗚咽は零れて落ちて行く。
「気持ちは分かるが……その涙は取っておけ。今は、福音を止める事が先だ」
「っ………うん、そうだね……!」
ラウラの言葉にシャルロットは涙を拭い、そして強い輝きを瞳に宿す。
「行こう、僕達も……!」
三機は再び、戦いの空へと昇った。
ざばぁ、と海から上がる影は二つ。
ブルー・ティアーズと、それを抱える舞影だ。
「ったく、何で沈んでるのよ!? PICはどうしたのよ!?
「そんな事言われましても、システム復旧が上手くいかないのですから仕方ないでしょう!?」
「うっさい! さっさと復活させないと部屋にあるあのポスター、全部ひっぺがして手裏剣打ちの的にするわよ!?」
「なっ!? あれは私の個人的家宝ですのよ!?」
「織斑君にお姫様抱っこされてるあの写真が? てか、お手製でポスターにするな!!」
「ほっといてくださいましっ! ……これで行ける筈………っ!!」
やっとシステム復旧を果たして、ブルー・ティアーズが推力を取り戻す。
「ったく………どうやら、クライマックスには間に合いそうね?」
「あれは、一夏さん……!? どうしてここに!?」
上空で戦う白式を見やり、セシリアが驚く。
「さぁ? でも、こっからが勝負って事は確かね……じゃ、行きますか!!」
「……えぇ、ここからが反撃のお時間ですわっ!!」
ブルー・ティアーズと舞影が、再び戦場へと向けて飛び立った。
「くそっ、エネルギーが30%を切った……!」
『裏白式の方ももう残り少ない……くそ、リミッター無しとはいえ、どれだけの容量なんだ!?』
コア・バイパスから白式にエネルギーを渡しつつ戦闘を行って来たが、いよいよ限界が近づいてきた。
ISコアには通常、リミッターが設けられているが、軍用ISにはそれが無い。
その違いは、運用の目的そのものにある。
白式や他のISは競技用仕様。
ISコアのエネルギー制限を掛ける事で、回転率を上げている。
このメリットとしては、ISのエネルギー回復の早さがある。
コアの全容量を100とし、リミッターを40で定めた場合、消耗した40に対して60からの供給が入る為、その分エネルギー回復が早まるのだ。
対する軍用は、100をそのまま100として運用する為、その容量が半端ではない。
代わりに、エネルギー回復が競技用よりも遅くなるデメリットがある。
運用時間と運用回数。
それがリミッターの有無の意味である。
とはいえ、零落白夜を何度も受けながら、一向に力落ちしない福音に流石の春斗も焦る。
(やっぱりこれは……あの人が関わってるとみるべきだな……くそ、厄介な事をしてくれる……!)
春斗は、この事件を仕組んだであろう”黒幕”に対して、思わず舌打ちする。
福音の弾幕を、一夏はシールドモードで受け止める。
「まずい、これ以上は……!」
消耗がいよいよ限界。それでも尚、攻撃を続けようとする福音。
「ッ!?」
そこに届いた海上からの、二発の射撃が福音を捉えた。
「お待たせしました、一夏さん!!」
「やっほー、織斑君! 助っ人は如何かな?」
セシリアと織羽―― ブルー・ティアーズと舞影からの援護射撃である。
更に福音目掛けて、拡散衝撃砲とマイクロミサイル、レールカノンが一斉発射された。
大火力の集中砲火を浴びて、福音が瞬く間に炎に呑み込まれていく。
「お待たせ!」
「すまん、回復に手間取った……!」
更に鈴、ラウラ、シャルロットが戦線に復帰する。
『春斗……大丈夫なの?』
秘匿回線(シークレットチャンネル)を使い、シャルロットが不安気に尋ねる。
『うん……ただいま、シャル』
『っ………おかえり、春斗……!』
その声を聞き、シャルロットはまた涙が零れそうになる。
「エネルギーは充分。さぁ、一気に終わらせるわよ!」
「嫁に、私の良い所をしっかりと見せてやろう」
「ブルー・ティアーズが魅せる麗しきワルツ……ご覧入れますわ!」
「出し惜しみ無しで、全弾持って行ってもらうからね……!」
「さっさと片付けて……美味しいご飯、食べに帰りましょう!!」
五人それぞれに決着への意思を示し、そして一夏がギュッと顔を引き締める。
『遠距離のフォローは大丈夫だね……ギリギリまで白式にエネルギーを回すよ』
そうして、裏白式から活動限界ギリギリまで、エネルギーが送り込まれる。
正真正銘、これが最後の補給。一夏は少しばかり回復したエネルギーを確認し、そして上空を見上げる。
「―― よし、行くぞ皆ッ!!」
爆煙の向こう、姿を表した福音に最後の戦いを挑む。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「一夏……春斗………皆………!」
箒の見つめる視線の先。復活した白式と、撃墜された仲間達が復帰し、福音と激突を繰り返している。
箒は一人、そこに行けない自分を歯がゆく思う。
起動状態からのエネルギー回復はかなり遅い。前線に出るのは間に合わないだろう。
「っ……!」
誰でもいい。悪魔でも構わない。今すぐ、戦う為の力を自分に与えてくれ。
―― 力が欲しい?
誰かが、そう問いかける。
(あぁ、欲しい……今すぐに!)
―― 何の為に?
(守りたい……皆を! 大切な人の背中を支えたい……その為に!)
―― それが、貴女の想いだというのなら……。
「っ……!?」
突如として紅椿の展開装甲が全て開き、そこから全身を包み込むようにして、紅い光と共に金色の光が溢れ出す。
―― 単一仕様能力(ワンオフアビリティー)《絢爛舞踏》発動。展開装甲とのバイパス接続 ――
「これは……エネルギーが回復していく!?」
通常ではあり得ない速度で、紅椿が力を取り戻していくのを目の当たりにして、箒が驚きの声を上げる。
――― 黒の前に立ち、そして白と並び立つ者。
不意に、束の言葉がリフレインした。
「そうか、そういう事なのか……紅椿よ!」
今、箒の昼間の問い掛けに、紅椿が答えてくれた気がした。
「行くぞ、紅椿ッ!」
キッと、夜空に咲く閃光を睨み、その翼を広げて飛び立った。
「ラウラ、頼む!」
「任せろ!!」
ラウラは両砲門から、牽制砲撃を連射する。それを回避する福音に一夏は一気に接近する。
「ハァッ!!」
袈裟懸けに振るう一撃。しかしそれをクルリと回避し、福音が舞い踊るように飛ぶ。
『エネルギー圧縮――
バシュウウウウウウッ!!
十二本もの斬撃光線が海を、そして星空を切り裂く。
全機、その機動予測から回避行動を取る。
その隙に福音は高く舞い上がると、その翼を大きく広げた。
そして、その身をグルンと回して翼を振るった。
舞い散って襲いくる――
「雪羅ぁっ!!」
一夏はシールドモードの雪羅を横薙ぎに振るい、零落白夜を解放。
広範囲障壁を展開して、それらを打ち消していく。
『まずい、今のでガス欠寸前だ!!』
エネルギーゲージが限界を告げ、赤く警報を鳴らす。
「ヤバい、また弾幕が来る……!!」
「一夏、僕の後ろに!!」
再びの弾雨の予兆に、それぞれが動く。が、福音はそれを撃たなかった。
何故なら、それを妨害する影があったからだ。
「ハァアアアアアアアアッ!」
紅い影は福音に自立攻撃ユニットを飛ばし、更に斬撃エネルギーを撃ち放って福音を牽制した。
「あれは紅椿……箒か!?」
「皆、大丈夫か!?」
向こうから向かってくる紅いシルエット。箒はそのまま皆に伝えた。
「皆、少しの間だけ福音を押さえてくれ!」
「何をする気ですの……?」
「説明をしている時間はない……私を信じてくれ!」
「何をする気かは知らないけど……急ぎなさいよ! モタモタしてたら、あたしが福音墜としちゃうんだからね!!」
「ちょっと、待ちなさいよ織羽!!」
「純粋に疑問を呈した私が、”ケーワイ”みたいなリアクションを取らないでください!!」
先陣を切って、織羽が福音に向かう。その後を追って、セシリアと鈴が飛んだ。
ラウラとシャルロットは、すでに遠方からの援護射撃を行っていた。
福音の注意が逸れたのを確認し、箒は一夏の両手を掴んだ。
「箒、何を……?」
「いいから、そのままだ……!」
箒は瞳を閉じて、意識を研ぎ澄ます。
(思い出せ……あの感覚を……)
すると、展開装甲が開き、金色の光が溢れ出た。それはそのまま、白式を包みこんで行った。
『こ、これは……!?』
驚いたような一夏の声が、脳内で響く。
『白式と裏白式のエネルギーが……回復していく!?』
今度は、一夏に似た声が脳内で響く。
(………?)
うっすらと目を開く。紅椿の腕が見えて、そして―― それと繋がる二つの腕が見えた。
箒はそこで、奇妙な事に気が付いた。
左手と繋がっているのは白い手で、右手と繋がっているのは黒い手だったからだ。
どういう事だろうかと、箒がその視線を持ち上げる。
(……っ!?)
そこにいたのは、二人の一夏。
一人は白のISを身に纏い、もう一人は黒いISを身に付けていた。
何がどうして?
そう言葉にしようとするも、声が出ない。よくよく見れば、その場所は奇妙な世界だった。
白と、黒と、紅の粒子光の混じり輝く場所。おおよそ、現実とは思えない世界だった。
『これなら……行けるよ、一夏!』
黒いISの少年が言う。
『あぁ、行こうぜ春斗!!』
白いISの少年が応える。
(一夏………春斗……!?)
「―― 箒?」
「は――っ!?」
突然掛けられた声に、箒がハッと我に返る。
「サンキュー。理屈は分からないけど……エネルギーは満タンだ!」
「う、うむ……そうだな」
そこはさっき見たような世界ではなかった。いつも通りの現実の世界で、箒は自分が夢でも見ていたかのような気持ちだった。
キィィ……ィン。
紅椿が―― 鳴いた。
夢ではない。あれは現実だと示すかのように。
(紅椿……私に教えようとしたのか………? あれが、”真実”なのだと……?)
もう一度だけ、紅椿が鳴いた気がした。
『熱いね……一夏』
『あぁ、凄く熱い……』
熱い。体が、血が、心が、魂が震えて、マグマよりも朱々と燃え滾る。
『負けらんないね……これはさ!』
『あぁ、負けられるもんかよ……ッ!』
二人はその滾りに身を任せる。
―― 搭乗者マインドリンク上昇 ――
二人は願う。絶対無敵の力を。
最強の剣を。
最強の盾を。
最強の翼を。
最強の鎧を。
汚れも知らぬ子供の夢が描くような、矛盾に満ちた存在。
それを純粋に、二人が願う。
―― コア・シンパレート上昇。120……135……146……173…… ――
そしてその願いを叶える為に――― 更なる覚醒が始まる。
―― コア共鳴起動(シンクロニティ) 月華白雪 ――
それは突然だった。
白と黒の光が、白式から溢れ出たかと思うと、それが一瞬にして天と海を貫いた。
「これは……何!?」
「ISが……震えているの!?」
「まさか、三次移行(サードシフト)なのか……!?」
突如として制御不能となったIS達。それは福音さえも例外でなく、ただ呆然とそれを見ているようだった。
やがて光が細まり、そこに現れたのは―― 一機のISだった。
白地に黒のラインが幾重にも走り、大型ウイングは黒白の翼がバツの字に配置され、そして十字型に機動制御用ウイングと、合計八つのスラスター。
当然、月之雫も装備されている。
頭部には、裏白式のそれの色違いになった百目。黒の多い脚部には、細雪と月之雫。
そして、右腕部には黒地に白の混じった晨月。左腕部には白地に黒の混じった雪羅。
その翼は、誰よりも早く駆けつけて、溢れる涙を拭うために。
その腕は、何者にも打ち勝って、悲しみの全てを打ち砕くために。
ただ純粋に、願いを叶えられる姿となった――― その名を”彼”は高らかに告げる。
「「月華白雪(げっかしらゆき)……!!」」
その名に恥じない、白い光子を散らしながら―― 月華白雪が舞う。
『―――っ!?』
一瞬にして仲間達の横を抜けたかと思うと、すでに福音に一撃を見舞っていた。
その右手には雪片弐型。しかも、通常のブレード形態だ。
「「……ッ!」」
背中のウイングが開き、一瞬で姿が消える。
その度に白い輝線だけが残り、福音が踊らされるかのように弾かれる。
上下左右360度全ての方向から、月華白雪が福音を斬りつけていく。
「なんて速さなのよ……!?」
高感度ハイパーセンサーでさえ、その機動を追うのが精一杯であった。
『敵機最高速度、当機の141%。離脱成功確率0,0000000024%』
福音は攻撃の嵐の中で、絶望的な戦力計算を行っていた。
『敵機攻撃能力未知数。撃墜可能確率0,0000000077%』
どちらもゼロに等しい数字ながら、福音は月華白雪の撃墜を選択する。
出来る限り最高の加速で距離を取ると、全エネルギーを眼前へと集束させた。
『
バチバチと限界を超えて集中していく銀色の光。
そのチャージタイムの時間で、月華白雪は簡単に―― いや、そもそも距離を取ることさえ不可能であった筈だ。
なのに、相手はあえて追おうとしなかった。
その意図は、人ならざる福音には理解できなかった。ただ―― チャージが終了した事だけが全てであった。
「いかん、あれを撃たせたら……!」
ラウラがチャージを続ける福音を砲撃しようとした。が、スッと腕が伸びてそれを制した。
「一夏……!?」
「大丈夫。皆は離れててくれ……」
”彼”は真っ直ぐに福音を捉えたまま、視線を外さない。
そしてついに、破壊の息吹が撃ち放たれた。
『来る……あれが恐らく最後の一撃……!』
『なら、真っ向から叩き潰す!』
「晨月、ドレインシステム《月暈》!」
右手の多機能武装腕(タクティクスアーム) 晨月を変形させる。
そして力場を形成して――― 破壊の奔流を受け止めた。
ズズゥウウウウンッ! と、響く波動。
押さえ込まれなかったエネルギーが飛び散り、周囲を無作為に破壊していく。
晨月のエナジーラインが、今にも焼き切れてしまうのではないかという程に輝く。
”彼”はその状態のまま、
「雪羅、カノンモードッ! オーバーチャージッ!!」
雪羅の装甲が開き、真紅のエネルギーラインが光り輝く。
―― カノンモード、出力155% ――
”彼”は破壊の息吹が消え去ると同時に、右腕を引いて入れ替えるように左手を突き出した。
「全部纏めて……そっちに返すぜッ!!」
カノンモードから放たれた閃光が、福音を呑み込む。
ギリギリで翼を用いて防御をしたようだが、それさえも纏めて、破壊の閃光が福音を蹂躙した。
「!?!?!?」
絶叫さえ掻き消して、大爆発が起こる。
『敵機情報更新。本機のスペックにての撃墜可能確率――― 0%』
その黒煙を抜けて、福音が離脱を計る。
「ッ―――!?」
その翼を、飛翔して貫く刃。
雪片弐型と弓剣月影が、残っていたウイングの装甲を貫通していた。
そして、福音の上空―― 月を背負って立つ黒白のIS。
頭部バイザーユニットが降りると、両手を翼の如く広げた。
「晨月、アクセスシステム《月虹(げっこう)》ッ!」
”一夏”が命じると晨月の装甲が開き、金色の光が溢れ出した。
「雪羅、ブレイクモードッ!」
”春斗”が命じると雪羅の装甲が開き、純白の光を溢れさせた。
ブゥン、とバイザーに光が生まれる。
福音は、それが凄まじく、そして恐ろしい力であることを悟る。
そしてそれは、『どれだけ逃げようとしても、必ず自分を捉える』事も理解した。
スラスター翼が光を放ち、月光に反射して煌めき、二色の残光と共に月華白雪が突撃する。
そして、閃光が世界を昼へと変えた。
「コア・アクセス……ッ!!」
一撃。晨月を振りかぶり、頭部に叩きつける。
バイザーに見える、電脳の世界。
その奥―― 断絶されたネットワークを強制接続して、その全てを支配する。
『コネクト確認……春斗ッ!!』
ネットワークを抜けて迫る。福音の世界。
『見えた……あれだ!!』
暗く淀んだ、黒い霧に包まれたコア目掛けて、春斗は雪羅を振り上げる。
「プログラム……ブレイクッ!」
引き裂くように斬光を刻む雪羅。一瞬の間を置いて、霧に亀裂が走っていく。
―― パキィイイイイイィィン。
そして済んだ音を立てて、それは砕け散った。
闇を払拭され、蘇るのは美しい銀色の世界。鳴り響く鐘の音は、その名の如く福音の調べ。
―― ありがとう、新しい騎士様 ――
幼い少女の声が、そう告げたような気がした。
まばゆい閃光が消えると、白式へと戻った一夏が、力を失い眠る福音を抱き上げていた。
「一夏……?」
「終わった……の?」
一夏の腕の中で、
意識は失っているようだが、呼吸はしっかりしているので命に別状はないようだ。
そして福音もまた、破壊まで行かずに停止していた。
「任務完了。福音の停止を……かく……にん……」
ぐらリ。
一夏の体が揺れ、そして福音の操縦者ごと海へと墜ちていった。