IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第33話  月下の語り部は秘密を語る

 

星空には満月。

たゆたう波の調べに、黒の少女は耳を傾けていた。

 

「………珍しいわね、私の世界(ここ)に来るなんて?」

振り返らずに、少女は後に立つ騎士に言う。

「あなたが、ついに目覚めたのですから…… 一言なりとも、言いたいことはあるのですよ?」

「そう? こっちには無いんだけどね」

悪びれもなく言いながら、少女は肩を竦める。騎士はそんな様子はいつもの事と気にせず、少女の横に進み立った。

 

「あなたは何故、あの少年を選んだのですか? 誰も認めなかった(・・・・・・・・)あなたが、どうして……?」

「う~ん……別に選んだって程じゃないけどね。最初は単なる興味。そこからずっと見てきて……うん、気に入ったからかしらね?」

ざざぁああん、と波が大きく飛沫を上げる。

 

「人はね、すっごく面白いのよ。小さな事で一喜一憂して、笑って、泣いて、怒って……誰かを好きになって、その人の為になら、全てを懸けて戦う事だって出来る」

少女が黒のキャプリーヌを脱ぐ。月光のブロンドが風にゆらぎ、そしてそこに現れたのは――― 黒い魔術師(・・・・・)

 

「だから、私は行く事を選んだのよ。あの子の未来を切り開く為に」

「………あの子も、同じような事を言っていましたね」

「そうでしょうね。でなきゃ、あんな無茶苦茶出来っこないもの」

魔術師がそう言って笑うと、騎士はフッと小さく微笑む。

そして、その踵を返した。

「では、私は行きます。いずれまた、会う事もあるでしょう……」

「その時は、菓子折ぐらい用意する事。それが人の常識よ?」

「……努力はしましょう」

 

風が吹いて、騎士の姿が溶けるようにして消える。

 

 

「―― さて、そろそろお出かけしますか……ねっ!」

海風が強く吹き抜けると、それに乗って、魔術師は天高く舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

花月荘の教員室。

福音との戦いを制した後、意識を失った一夏はそのまま部屋へと

運び込まれ、福音の搭乗者は学園の手配した医療施設へと運び込まれた。

 

 

そうして、少しばかりの時間が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……んん……?」

かすかに呻きながら、一夏は目を覚ます。

煌々と室内を照らす蛍光灯の明かりを眩しがりつつも、ダルさの残る体を起こした。

 

「あ~……あ?」

ぼんやりとしている頭を振って、意識を揺り起こす。

そうしてから周囲を見回して、そこが何処かに気が付いた。

「ここは……旅館の部屋? 何でこんな所に……?」

どうしてここで布団に寝かされているのか、思い出そうとするが、どうにもはっきり思い出せない。

 

(確か、箒にエネルギー貰って……で、なんか、凄い体が熱くなって、力がすっごい溢れてきて………そうだ、俺は……)

 

順序立てて思い出していく中で、そこに思い立った。

 

 

(俺は……春斗と一つに(・・・・・・)なったんだ(・・・・・)

 

 

今までも意識リンクをした事はあった。だが、あれはそんなレベルではなかった。

身も心も融け合って、文字通り一体化していた。

 

そして、大凡不可能な筈の出鱈目な機動力。絶大なる攻撃力と防御力。

何より圧倒的なエネルギー出力は、恐らくリミッターが一時的に解除されていたのだろう。

 

脳裏に走った、二機のISの長所のみを寄せ集めた様な―― 全領域において一切揺るがない最高のスペック。

 

 

月華白雪。

 

 

その力の終わりと共に、自分は意識を失ったのだ。

 

 

 

「………やっぱ、アレのせいだよなぁ~? なぁ、春斗はどう思う?」

一夏は春斗なら何か分かるだろうかと、声を掛ける。

 

「…………春斗?」

覚醒している気配はあるのに、返事が帰って来ない。もう一度、一夏は呼び掛けた。

『……………え、何?』

『何って……おいおい、大丈夫か?』

『……大丈夫だよ。ちょっと、ぼんやりしていただけさ』

『……そうか、珍しいな』

春斗がぼんやりとするなど、一夏の知る限りでは片手で足りてしまう程だ。

 

 

本当に大丈夫なのかと、一夏は不安を覚える。

恐らくは月華白雪の影響で、自分は意識を意識を失ったのだ。そして今も、少しばかりダルさがある。

 

その影響を春斗が受けていないとは、とても思えなかった。

 

「一夏、目を覚ましたのか……!」

「箒……?」

鍵が掛かっていなかったのか、ドアが開いて入ってきたのは浴衣姿の箒だった。

その手には大皿が乗っていた御盆がある。

「良かった……体は大丈夫か?」

「あぁ。箒、俺はどれくらい寝てたんだ?」

「ほんの一時間ほどだ。だが、本当に驚いたぞ? いきなりISまで解除されて、真っ逆さまに海に落ちていったのだから……」

「……紐なし空中バンジーは勘弁して欲しいなぁ」

あの高度から落ちたら海面はコンクリートだ。きっと朝刊のトップニュースにでもなってしまうだろう。

 

いや、むしろならないかも知れないが。

 

「それで、福音の操縦者は……?」

「病院に運ばれた。意識はなかったが、特に異常は無いらしい」

「そっか……良かった」

「……良くない」

一夏がほっと胸を撫で下ろしたところ、箒が途端に不機嫌となった。

一体何が良くないのか。でも、それを聞いたら絶対に睨まれて怒鳴られるんだろうなと一夏は思ったので聞かなかった。

「お前はあんな怪我をしていて……なのにあんな所に出てきて……その上、福音を倒したらそのまま意識を失って……私が……皆がどれだけ心配したことか……!」

聞かなくても、同じだったようだ。

「いや、怪我治ってたし……」

「それは知っている! だが、そういう事ではないだろう!?」

「んな事言われたって……ていうか、お前らが福音に喧嘩売りに行ったって知った時は驚いたんだぞ? 俺が駆けつけなかったら、マジで危なかったんだから……その辺は反省しろよ?」

「むぅ……確かに事実だが、どうにも釈然としない」

箒はいまいち納得行かないという風に、顔を顰める。

 

 

 

ぐぅぅ~。

 

 

 

「っ……!」

一夏の腹の虫が、突然鳴き出した。

何せ昼の出撃前に最低限の水分以外は摂取していない。つまり朝以降、何も食べていないのだ。

そんな状態であれだけ体力を使う事をすれば、空腹も限界。意識すれば胃がキリキリと痛い。

 

貧すれば鈍する―― 別に貧してはいないが―― とも言うし、空腹過ぎて動けなくならない内に、何かを食べたいところだ。

 

「やれやれ、目を覚ませば早速か? ほら、これを食え」

箒が差し出したのは持ってきた御盆だった。大皿には、大きめのおにぎりが四つ。それと漬物の乗った小皿。そして、ペットボトルのお茶だった。

 

これらは女将が事前に用意してくれていたの物で、すでに自分達は食事を済ませたと、箒は言った。

あの後、帰還した面々を待っていたのは千冬からのお叱りだった。

一夏が気を失ったままだったので、小言は無しに七人全員に拳骨が振り下ろされた。

 

その一撃が強烈すぎたせいで簪が一時、呼吸停止してしまい、大慌て吹き返させたりしたらしい。

 

後は学園に帰った後、反省文と懲罰訓練が待っているとの事だ。

 

 

そんな事を聞きつつ、一夏はあっという間におにぎりと漬物を平らげてしまった。

何時もならば、しっかり噛んでと気を使うところなのだが、今の胃にそんな余裕はなかった。

「ふう……ごちそうさまでした、と」

空腹を満たして、ようやく一夏は人心地ついた。

 

 

ふと時計を見ると、もう午後8時を回ろうとしていた。

「おっと、そうだ」

一夏は大事なことを思い出し、自分のバッグを漁りだした。

 

そうして取り出したのは包装された二つの箱。

「箒。はい、これ」

「これは……?」

「誕生日プレゼントだよ。今日は七月七日……箒の誕生日じゃないか」

「あっ………覚えていてくれたのか?」

「忘れるかよ。大事な幼馴染のことなんだし……これは俺からだ」

そう言って一夏は、まず正方形の箱を手渡した。

「開けて良いか?」

「おう」

箒が包装を解いて箱を開けると、そこには真新しい白いリボンがあった。

手触りは心地良く、それなりに質の良い物だというのがすぐに分かった。

「何にしようか迷ったんだけどな……普段使う物の方が良いだろうって思ってさ。そういや、前にしてたリボン……どうしたんだ?」

「あぁ……あれは福音との戦いで無くしてしまったのだ」

「そうか、じゃあ丁度良かったな。あ、結んでやろうか?」

「いい、自分でする」

箒は早速、白のリボンで髪をポニーテールに纏め上げた。

「……うん、やっぱ箒はその髪型だな」

「それは褒めているのか?」

「一応、そのつもりだぞ? で、こっちが春斗のやつだ」

一夏は箒に、長方形の箱を差し出した。

「っ……」

「……箒?」

一夏は、箒の様子が妙な事に気が付く。ただジッとプレゼントを見たまま、受け取ろうとしない。

 

「なぁ、一夏……少し、外へ出ないか?」

徐に箒は立ち上がって、そう言った。

「え? ……あぁ」

一夏も意味が分からなかったが、それに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

静かな夜の砂浜に、波の音だけが響く。

星は降ってきそうな程に瞬き、月は優しく二人を照らす。

 

「………」

箒に連れられてやって来た一夏だったが、どうにも居心地は悪かった。

ISスーツのまま寝ていたので、取り敢えず浴衣を上に着てきたのだが、その襟を何度も触っている。

着付けが悪い訳ではない。ただ只管に続くこの沈黙に居心地が悪かった。

 

 

「……なぁ、どうかしたのか?」

ただ海を見つめ続ける箒に、一夏は声を掛ける。

「………なぁ、一夏」

振り返ることなく、箒が言葉を紡ぐ。波が少しばかり、大きく音を立てる。

 

箒は何か言葉を選んでいるのか、時折、息を呑む音が聞こえた。

そして、少しの間を置いてから―― 振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

「春斗は………何故、お前の中にいるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………え?」

動揺の余り、声が上ずってしまう。

「な……何をいきなり……?」

「……裏白式」

「えっ?」

『……っ!?』

春斗も言葉を失ってしまう。

「あれは……春斗のISなのだろう?」

そう問い掛けながら、しかし確信に近い自信を持って、箒が真っ直ぐに一夏を見据える。

 

『まさか……あの速度の戦闘で……? いや、そんな筈は……』

弓の型を見てならば分かるが、ISの戦闘―― しかも高速戦闘状態での動きに、バレる要素など無かった筈だ。

 

ならば、一体何故。

 

 

「あの時……私が白式のエネルギーを回復させた時に、見えたんだ。不思議な世界で、白式と裏白式を纏った……お前達の姿を」

『まさか、相互意識干渉(クロッシング・アクセス)……!? いや、そんな筈は……それなら、僕らが気付かない筈がない……特定意識受信(スペシフィック・レシーブ)か……!?』

 

「理屈なんかは私には分からない。常識的に考えて、そんな事はある筈ないという事も理解している。それでも………聞きたいんだ。どうして、春斗が一夏の中にいるのか……」

 

真っ直ぐに見つめるその瞳は、まるで世の秘密の全てを見通す水鏡の如く、一夏を捉えていた。

 

「…………」

 

箒はただ、一夏の言葉を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あは……ははは……はははは………っ!」

突然、一夏が笑い始めた。

 

「なっ……何を笑うっ!?」

箒はムッとして一夏を睨みつけた。こっちは真剣に、どう言おうかと考えに考えて言ったというのに、それを笑うとは。

「いや、ゴメン……くくっ………そんなつもりは……ははは……無いんだけど……」

などと言いながら、しかし笑いは止まらない。ついには涙まで流し始めたではないか。

箒が怒りの余り、ぶん殴ってやろうと思うのも仕方ないことだ。

 

「お前という奴は……!」

ズンズンと砂地を踏み散らして、箒は一夏に迫った。

そして、右手を思いっ切り振り上げた。

「―――ッ!?」

だが、それは振り下ろされなかった。

急に伸びた腕が箒を捕らえて、そのまま胸に抱きしめたからだ。

「なな……何をいきなり……っ!?」

いきなりそんな事をされ、箒は怒りの余り赤くなっていた顔を、今度は羞恥で赤くした。

 

「ごめん………本当……そんなつもり…………なかったんだけどなぁ………」

「……?」

箒の頬にポタ、ポタと落ちてくる雫。埋められた顔を上げた。

そこには、瞳をいっぱいの涙で濡らしながら、ギュッと何かを堪える少年の顔があった。

「………やれやれ」

箒は振り上げていた手を、そっとその頭に乗せてやる。

「男がそんな簡単に泣くな………そうだろう、春斗?」

「……! ……ゴメン……でも、ごめん………!」

零れていく涙を、嗚咽を抑えられず、春斗はギュッと箒を抱き締めた。

「うぐ……ァあああ………!」

「全く……これでは図体の大きい子供だな?」

 

そんな春斗の背中をポンポンと、優しく箒は叩いてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。その妙な状態の原因は、姉さんだったのか」

「いや、まぁ……原因と言えば原因なんだろうけど……なにか違うような……?」

この状態に至る道程を説明し、箒が出した結論はそれだった。

「しかしあれだな……こう、一夏の顔で喋られると………こう、違和感があるな」

「あ、僕もそう思う」

「何だとぉっ!?」

「!? ……まるで、出来のいい一人芝居のようだな……」

滑稽な光景に、箒はついつい噴き出しそうになってしまう。

 

そんな風に他愛ない会話を少しばかりして、春斗は浴衣の袖に入れてあった物を思い出した。

「そうだ……はい、誕生日プレゼント。さっき受け取らなかったから……改めて」

「あっ……ありがとう。開けて良いか?」

「勿論」

箒は包装を解いて、それを手に取った。

「これは……髪留めか。この石は何だ?」

「それは薔薇水晶(スターローズクォーツ)だよ」

春斗のプレゼントは彗星を模った髪留め。星の部分には薔薇水晶(スターローズクォーツ)があしらわれている。

「薔薇水晶は七月七日の誕生石で、それと彗星……つまり”箒”星……なんてね」

春斗は自分で選んでおいて、今さらながら恥ずかしかったりした。

別段、この物自体に自信がない訳ではない。

ただちょっとだけ、洒落を入れ過ぎたような気がしたのだ。

「……シャレだな?」

「…………はい、その通りです」

若干、箒の視線が痛い。

 

「でも、髪結んでるから一緒は合わないかも……ちょっと貸して?」

「……?」

春斗は箒の手から髪留めを取ると、それを箒の浴衣の合わせに差し込んだ。

「これは、こんな風にも使えるんだよ?」

「ほう……そうなのか」

「……ところで、ほーちゃん。今のところ、一夏と僕……どっちの方が好きなのかな?」

「っ!? なっ……何……何を……いいい言って……!?」

いきなり過ぎる春斗の言葉に動揺して、箒がどもる。

「だって、寮の大浴場で僕の事も好きだって言ってくれたじゃない?」

「ななな……何でそんな事を知っているんだ……!?」

「何でって……僕は一夏の中にいるんだから、聞こえたに決まってるじゃない」

「あぁっ……!!」

確かにそうだと、箒は顔を真赤にする。

「それで……どうなの、ほーちゃん?」

クスクスと笑いながら、春斗は再度尋ねる。その底意地の悪い笑い方は、正しく弄りモードの春斗の笑い顔だった。

それを見て改めて、それが一夏ではないのだと理解する。

 

だから箒も一つだけ、聞いておきたいことがあった。

「そういうお前は……シャルロットとはどういう関係になっているのだ? 随分と慕われているようだったが……?」

「うっ……このシチュエーションでそんな事を聞くの?」

「先に聞いてきたのは、お前だ」

今度は箒が、意地悪く笑う。だがしかし、底意地の悪さは春斗の方が上だったりする。

 

「ふぅん……そんな事言うんだ……」

「えっ……!?」

ガシリと箒の両肩を掴んで引き寄せる。

「そんな事言う口は……しっかり塞いじゃった方が良いね?」

「なっ……ははは春斗……!?」

「ほら、目を閉じて……?」

春斗は真っ直ぐに箒の瞳を見つめ、その唇を寄せ始める。

「あ……っ………!」

つい、ギュッと瞼を閉じる。熱と吐息が顔に触れるのを感じた。

 

そして、柔らかいものが箒に触れた。ただし――― その額に。

「っ……!?」

箒が戸惑いのままに瞳を開くと、そこには悪戯が成功した子供のように笑う春斗の顔があった。

「もしかして……期待しちゃった?」

「なっ――!?」

「でもごめんね。これは一夏の体だからさ……」

スッと伸びた人差し指が、箒の唇に触れる。

「ここには……もうちょっとだけ、待ってて?」

「~~~~っ!?!?」

その一言に、箒は耳までも赤くなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっどぉおおおおおおおおんっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………はい?」」

いきなり、海面が爆発した。

 

一体、何が起こったのかと呆然とする二人であったが、その疑問はすぐに解消された。

 

「何………してるのかなぁ……?」

それはさながら、地獄の底からやって来た悪鬼か幽鬼か。

灯台の光が映し出すのは―― 三色のIS達。

「シャルロット、鈴、ラウラ……!?」

「な……何でここに……?」

「部屋に様子見に行ったら誰もいなくてさぁ……で、探してたのよ………まさか、こんな事になってるとは思わなかったわよ……ねぇ、春斗?」

「っ……!?」

「お前達、知っていたのか!?」

「うん、知ってたよ?」

「それがどうかした?」

鈴とシャルロットの瞳にハイライトが全く無い。

「それよりも……随分と気になる事を言っていたな……『寮の大浴場』がどうとか……あれはどういう意味だ、箒よ?」

「いや……大した意味は……」

「嘘だな」「嘘だね」「ウソね」

何か、絶望的な物が見えてきた。

具体的には、シャルロットのライフルと、ラウラのレールカノンと、鈴の衝撃砲の辺りに。

 

「ねぇ……箒は春斗のことを振ったのに……どうして、そんな風にイチャイチャしてるのかな?」

「いや……それは……」

「春斗……あんた、実は態とやってんじゃないんでしょうねぇ……?」

「いや、そんな事はないよ!?」

「だったら何でこんなにヒョイヒョイとバレてるのよ!? 中学時代のあたしの必死のフォローの努力の全てを返しなさいよ!!」

「そうだよ! 僕がキスしようとしたら絶対に拒むのに、箒には自分からキスするってどういう事!?」

「いや、おでこだよ今の!?」

「だったら僕にもしてよ!! おでこでもほっぺでも唇でも!!」

「いや、最後のは駄目じゃない!?」

「どうしてダメなの!?」

「そんなのダメに決まってるだろう!?」

「箒は引っ込んでて!!」

「というか、貴様は私の質問に答えろ! 大浴場で、私の嫁にナニをした!?」

「微妙にイントネーションがおかしかったぞ!?」

 

「あ~、もうさ……何もかも面倒くさくなってきたわ………よし、殺そう♪」

「また極端な結論に達したね、鈴ちゃん!?」

「あぁ、何かそれが一番早い気がしてきた」

「多少……いや、多々痛い目に遭わねば、反省はせんだろうな……」

残る二人も、殺る気満々であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさ……あたしらにもその辺の事情っての……教えてくれるかな?」

「具体的には、春斗さんの状態に関しての辺りを特に詳しくお願いしたいですわね?」

「………二人で一人………ダブル? バロム?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂浜にはいつの間にか、織羽にセシリア、簪の姿があった。

「な、何でお前達までここに………?」

「いやぁ、あたし達もちょっと探してたのよ。そうしたらいきなり爆発音がしてさ……」

搾り出したような箒の問に、織羽が頬をポリポリと掻きながら答えた。

「それで、一夏さんの中に……というのはどういう事ですかしら?」

「フィギュア? それとも鉄腕?」

 

 

 

 

『なぁ、これはあれか……?』

『うん、これはあれだね……』

 

 

 

一息吸い込んで、そして思いっ切り魂の叫びを開放した。

 

 

 

「『なし崩し的にモロバレしたァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』」

「春斗ぉ! あんたマジ殺す!! あたしの苦労と涙を返せぇ!!」

「春斗のバカァアアアアアアアアアアッ!!」

「ちょっと!? 説明を……!」

「ねえねえ、ふたり一緒に喋ったり出来るの!?」

「怒りの王子? 悲しみの王子?」

「箒っ! 私の質問に答えろ!!」

 

 

 

「ぅう………ぁあああああああああああああっ!!」

 

 

 

「うわっ、箒がキレた」

箒はいきなり紅椿を展開。そのまま春斗を抱き上げて飛んでいった。

「あぁっ!?」

「こら~っ! 待ちなさーいっ!!」

「おのれ、逃がさんっ!!」

「お待ちなさい、箒さん!!」

セシリア達もすぐさま追いかけていく。

 

「あたし達も追うわよ、簪! 弐式を出しなさいっ!!」

「えぇっ……!? でも、あの子は飛べない……」

「フフフ……私にいい考えがある」

「それ……確実に失敗フラグ」

 

 

 

 

かくして、夜の海を舞台にした壮大な追いかけっこが始まったりした。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

30メートル近い、切り立った崖の上。そこに設けられた柵に腰掛け、足をプラプラとさせる人影。

「絢爛舞踏を含めて、紅椿の稼働率48%……予想よりちょっと高いかな?」

空中投影ディスプレイに映る紅椿のデータを見て、そう呟いたのは篠ノ之束であった。

無邪気にほほえみ、何処か少しばかり退屈をしているような、そんな表情。

 

そのデータを消して、別の映像データを出す。

映しだされたのは、白式第二形態・雪羅と裏白式第二形態・晨月。そして、月華白雪の戦闘映像。

正規にではなく、ハッキングによって入手したものである。

 

「しっかし、この二機には驚かされちゃったなぁ~。特に白式は生体再生まで可能だなんて……まるで」

「――まるで《白騎士》のよう……コアナンバー001にして、初の実戦投入機。お前が心血を注いで創り上げた一番目の機体……みたいか?」

「やぁ、ちーちゃん」

振り返ることなく、束は背の人物に応え、千冬は樹の幹に背を預けたまま。互いにその顔を見ることはない。

どんな表情をしているかなど、見なくても分かるからだ。

 

「さて、ちーちゃんに問題です。白騎士のコアは何処へいったでしょう?」

「白式を『しろしき』と読めば、それが答えなんだろう?」

「流石はちーちゃん。白騎士を乗りこなしていただけの事はあるね~」

事件後、白騎士はその機体はIS開発の為に解体され、大きく貢献する。そしてコアは、とある研究所襲撃事件の際に紛失し、いつしか白式のコアとして組み込まれていた。

 

「もしもの話だけど、白騎士と暮桜……ちーちゃんの最初の機体と二番目の機体がコア・ネットワークで情報をやり取りしていたとしたら……同じ単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を開発したとしても、おかしくないよね~?」

「………」

千冬は答えなかった。が、そのまま気にせず、束は続ける。

「でも、あのコアは分解前に、私が初期化した筈なんだけどね~」

「不思議な事もあるものだな」

その辺りは、束も分からないというのは本当だ。だがしかし、それでも束には問題はない(・・・・・・・・)のだ。

 

 

「……私も、例えばの話をしよう。とある天才が、妹の華々しいデビューさせたいと考える。その為に用意するのは最新鋭の専用機、そしてISの暴走事件だ」

「ほうほう」

「その妹は専用機と共に作戦に参加。見事華々しいデビューを飾ることになる」

「へぇ……すごい天才がいたものだねぇ」

「そうだな。12ヶ国の軍事コンピューターを同時にハッキングした、自作自演の天才がな……」

千冬は呆れているのか、肩をすくめた。

 

「まだ、例えよう。とある天才が、一人の男子受験生をISのある場所まで誘導する事が出来るとする」

「ふむふむ」

「そこで使われるISをその時だけ、動くようにする。と、男が使えないISを使える事になる」

「でも、それだとその時だけだよね?」

「お前は一つのものに、そこまで長い時間手を加えることはしないからな」

「エヘヘ……飽きちゃうからね~」

「で、どうなんだ?」

「う~ん、どうなんだろうねぇ~? でも、白式がどうして動くのか……私も分からないんだよね~。春るんが使える理由なら、もう分かってるんだけど……」

「なんだと……?」

ポツリとこぼした言葉は、千冬を動揺させるには充分だった。

 

春斗と一夏。二人がISを使える理由が、実は全く異なるものだと言ったのだ。

 

「折角だから私からも例え話ね。昔々ある所に、誰にも使えないISコアがありました~」

「っ……!?」

「そのコアはそれを作った天才でさえ、どうにもならない我侭な子で、ずっとずっと閉じ込められていました。ところがある日、その子はいきなり機能停止してしまいました」

「……コアナンバー《002》影法師……!?」

かつて、白騎士の影として作られた世界で二番目のIS《影法師》。しかしそれは、誰にも扱えない完全なる欠陥機であった。

結局、機体は解体され、コアはある研究施設にて厳重に保管されていた。

そしてある日、世界を襲ったワールド・コア・サイレンスという現象を同じタイミングで、機能停止してしまったのだった。

 

 

「でも、そのコアは、実はずっと稼動状態にあったのです……一人の男の子の意識として」

 

 

「なんだとっ……!?」

「ちーちゃん。ISを動かすって、どういう事だと思う? ISとの相性って何?」

「――ISのコアとの意識リンク。搭乗時間の積み重ね……だろう?」

「そう。そんな曖昧なもので、ISは動くの。だからもしも、コアの意識が人と深い場所で繋がって一体化していたとしたら……?」

世紀の天才は続ける。余りにも荒唐無稽な話を。

 

「人とコアの意識が一体化するだと……そんな馬鹿なことが……!?」

「あるよ。MSS……あれがその証拠。ちーちゃんはあれの基が何なのか、知ってるよね?」

「操縦者とコアとの意識リンクテスト用の……っ!?」

ハッとして、千冬が目を見開く。その気配を背中に感じて、束は笑う。

 

「そう。操縦者はいっくん……なら、コアに相当するのは当然、春るんなんだよ」

束は星空を見上げる。

「ISの稼働時間を、コアの稼働時間と同義と捉えるなら……春るんの稼働時間はおよそ52,000時間。世界中、何処を探したってこんな時間はない。勿論、ちーちゃんでもね。これだけの時間を重ねているからこそ、意識はすでに深い繋がり方をしてしまっているの。それこそ、元の体に戻る弊害になるぐらいに」

「何……ッ!?」

「だから、私は裏白式に002のコアを組み込んだの。そして一次移行で、コアが意識を取り戻し始め……そして今日、二次移行と共に完全に覚醒した」

「あの”月華白雪”というのも……お前の仕込みか?」

「あれは本当にイレギュラーだよ。いっくんと春るんの意識融合、白式と裏白式の量子レベルでの融合、001と002のコア同士の共鳴現象……それらが揃った事で起こった、束さんでも予想できない出来事だったんだよ? 本当だよ?」

「……つまり、他のはお前の仕業ということでいいんだな?」

とすんと、また木にもたれる。

「あはは~……さぁて、束さんも忙しいのでそろそろ行こうかなぁ~!」

ごまかしか、束はうーんと背伸びをして態とらしい声を出す。

 

「ねぇ、ちーちゃん?」

「なんだ?」

「今の世界は……楽しい?」

「そこそこにな」

「……そうなんだ」

 

岬を吹き上げる風が強くうねりを上げた。

 

「―――」

 

その中に、束の小さな呟きが溶けて消える。

 

「ッ……」

千冬がその方を向くと―――。

 

 

 

「なっ……!?」

束が全力で走ってきていた。

そしてそのまま千冬目がけて、レッツダイブ。

「なっ、なにをしてい……っ!?」

る。と続けるよりも早く、何かが地面を弾いた。

そしてその真上を飛ぶ―― とっても良く見慣れたIS達。

 

「逃がすかぁあああっ!!」

「落とすんだ……君だけは、今日ここで!!」

「いい加減、説明なさい!!」

「しつこい連中だな……! 諦めろ!!」

「いや、ここはしつこくいかないと!!」

「何故お前まで参加してるんだ!?」

「その方が面白いからよ!!」

「キッパリと言い切るな!!」

「うぅ……もうちょっとゆっくり飛んでぇ……」

「お前らいいかげんにしろ!? 先月の焼き増しじゃねぇかっ!!」

 

 

 

 

 

「あ、あいつら………」

千冬は怒りに震え、その背中からかの妖刀を取り出す。

「お前達ぃいいいいいいいいっ!! 今すぐ、そこに直れぇえええええええええっ!!」

激昂して、千冬がその後を追って走っていく。

「うわっ、鬼神が来た!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフ……あはは………!」

そうして一人残った束は目をパチパチとさせて、そして笑った。

「うん、ちーちゃんの言う通り……世界はそこそこには(・・・・・・)面白いかもね」

 

 

 

風に揺れる髪を押さえながら、そう呟いた束の瞳は、少しだけ退屈を失っていたのだった。

 

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