ISスーツに着替えた一夏がアリーナに出ると、鈴とシャルロットの模擬戦が丁度終わったところだった。
勝負は、至近距離からのアサルトキャノンを直撃させたシャルロットの勝利。
だが、鈴もあと一歩というところまで追い込んでいたので、実際は引き分け相当であろう。
「盛り上がってるなぁ。この空気も久しぶりだ」
『しっかり準備運動しておきなよ? 僕の調整したISを相手にするんだから苦戦は必至。しかも相手は”生徒会長”なんだからね?』
「まぁ、一年先輩だし……組み手のあの強さを鑑みるに、きっとISも相当に強いんだろうなぁ~」
そう言いながら、一夏の口元が自然と笑う。
ウズウズとする体を静めるように、ストレッチを開始する。
『楯無先輩のIS 《ミステリアス・レイディ》はナノマシンを通して水を操る能力を持っている。初期武装(プリセット)は機関砲(ガトリングガン)装備の突撃槍(ランス)と蛇腹剣』
「蛇腹……って、あれか? こう……前に見た魔砲少女何とかってアニメにあったみたいな、連結刃ってのか?」
一夏は深夜にたまたま見たアニメで、主人公と敵対する魔法騎士が、何十メートルにも伸びた、ワイヤーに繋がれた刃を振るっていたのを思い出した。
そういえば、あの主人公の女の子はどこかで聞いた事のある声だったなぁ。とか余計な事まで思い出してしまった。
『まぁ、あそこまで行かないだろうけど……使われると厄介かな?』
「それと槍か……俺も槍とは――」
『あっ、ほーちゃんだ』
「最期まで言わせろよ!?」
どうせ下らない一夏の言葉は切り捨てて、春斗は此方に来る人影に声を弾ませた。
「一夏、もう……大丈夫なのか?」
少しばかり不安気に尋ねる箒に一夏は首を傾げる。
「……何が?」
「いや、その……ここ数日、元気が無いように見えたのでな。大丈夫なら、それで良いのだ」
誤魔化すように笑う箒に、一夏は周囲に心配を掛けてしまっていた事を改めて知った。
「悪ぃな、心配掛けて。でも今日からまた、気合入れ直していくぜ!」
もう心配は要らないとばかりに、一夏は笑って見せる。
「そうか。なら、仕切り直しに私と一戦しようではないか」
いうや、箒は一夏の手を掴んで引っ張る。
「え? いや……」
「ちょっとお待ちなさい!!」
「っ!?」
その前に立ち塞がる金髪ロール。英国淑女(ちょろいさん)と名高いセシリア・オルコットである。
「一夏さんの復帰第一戦は、その初陣と同じくこの私、セシリア・オルコットが務めるのが筋というものですわ」
「何処のスジだそれは。それならば、私が嫁の相手をするのがスジだろう?」
と、セシリアを押し退けてラウラが進み出た。その歳不相応に残念な胸をドヤ顔で張っている。
「ちょっと待ちなさいよ! だったらあたしがやるわよ!!」
「鈴さんは今、模擬戦をやったばかりでしょう!?」
「そうだな。お前は確実にない」
「なんだとーっ!?」
「あー、ほら。戦闘記録チェックするからこっちに来て」
「ちょっと、離せーっ!!」
ズカズカとやって来た鈴は即座に退場。シャルロットに連れて行かれてしまった。
そうして残るは四人。
「ん?」
「何?」
いつの間にか、織羽もそこ―― 具体的に言うと一夏の隣にいた。
「ちょっと、織羽さん!?」
「貴様、いつの間に!?」
正面に立っていたセシリアとラウラが、驚きの声を上げる。本人たちにすれば気配も無く、瞬きの一瞬でそこに現れたようなものだ。
「いや~、織斑君とやり合ったことなかったなぁ~って。折角だし、立候補するわ」
「なっ……!?」
「あたしと箒はどっちも戦ったこと無いけど、二人はそれぞれやり合ってるんだし……なら、どっちかがやるべきだと思うのよね?」
「うむ、その通りだ!!」
うんうんと、これでもかという程の勢いで頷く箒。
「お待ちなさい! 何を勝手な事を!!」
「そうだ! 嫁の相手は夫がするものだ!!」
「聞く人間に誤解を招くような言い方をするな!?」
一夏を余所に、ぎゃーぎゃーと言い合いを始める四人。非常に日常的な光景であり、誰も触れようともしない。
『あ~、一夏? そろそろ止めないと……』
『俺がやるのかぁ?』
『他に誰がいると?』
『春斗』
『豆腐の角にでも頭ぶつけちゃえば?』
『久々にヒデェな!?』
「はいはい。ちょっと御免なさいね?」
そこに颯爽と現れた一つの影。するりと一夏の腕を取ると、そのまま引っ張っていった。
「―― って、ちょっと待て!!」
がしぃ! と、その肩を箒が掴んで止める。
「あなた、一体誰ですの!?」
「何処の誰か知らんが、私の嫁から離れろ!」
「だから、貴女の嫁ではないと言っているでしょう!? 何度言わせる気ですの!?」
「貴様もしつこいな。一夏は私の嫁だと言っているだろう!?」
「……で、一夏。誰なんだ一体?」
ギャーギャーやり出した二人は無視して、箒が睨みながら尋ねる。
「あぁ、この人は――」
「ごめんね。一夏くんの(二次移行してから)初めては、もうおねーさんに決まってるの。ね、一夏くん?」
「え? まぁ……そうですね」
「なっ……!?」
まさかの肯定に、箒が目を見開いて凍りつく。
「しかもあんなにお願いされちゃったら……断れないわ」
「いや、あれはもう忘れてくださいよ!?」
「「「「「なぁっ!?」」」」」
これにはやり合っていた二人も、更にシャルロットと、彼女に連れて行かれた鈴も帰ってきた。
あっという間に囲まれそうになるが、スルリスルリとそれを抜けていく。
「じゃあ、おねーさんは先に降りてるから。急いで来てね~?」
「一夏ぁ、どういう事だ!?」
「一夏さん、どういう事ですの!?」
「説明しろ一夏!!」
「何時何処で何でそんな事になってるのよ、バカ一夏!?」
「……これはちょっと聞き捨てならないんだよね、僕としても」
「えっ!? この状況を放置っ!?」
『あの人、何の恨みがあるんだ!?』
『明らかにさっきの仕返しだろ!?』
『……思い当たる事がないんだけど?』
『本気で言ってるなら、ちょっと馬にでも蹴られてこいよ?』
『やだなぁ、それは一夏の仕事だよ?』
『そんな上級職に着いた覚えはないっ!!』
なんて内側に逃げたところで、事態は一切の好転を見せたりしないのだった。
『春斗、ちょっと答えなさい!』
『義兄上、どういう事ですか!?』
『まさか、春斗も関係してたりするのカナ……?』
『こっちにも飛び火したっ!?』
まさかの展開に、春斗は驚愕した。
「あ~、会長の言葉をいちいち本気にしてたら身がもたないわよ?」
と、苦笑いを浮かべながら織羽が言うと、グルンと全員の視線がそっちに向けられた。
「織羽、お前はあれが誰か知っているのだな?」
「まぁね。取り敢えずこっちは説明しとくから、織斑君はアリーナ・ステージに行ってきて良いよ。あの人ほっといたら、また何言うか分からないからさ?」
「サンキュー、恩に着る!」
「あっ、一夏っ!!」
一夏は渡りに船とばかりにスタコラサッサとステージに降りてしまった。
さて、残された者達はといえば
「織羽、説明してもらうぞ?」
「あの会長ってのは何者なのよ!?」
「一体、一夏さんとはどのような関係にあるんですの!?」
「知っていることを洗い浚い吐け。吐かんというなら、吐かせてやろう最上川というヤツだ」
「ラウラ、それ色々間違ってるから……」
「あんたらねぇ……ちょっとは離れなさいよ、暑苦しい!!」
にじり寄る集団。流石に六人も集まれば、夏の外気と相まって非常に暑苦しいのであった。
さて、ステージに降り立った一夏は楯無と対峙する。
「あら、随分と早かったわね?」
「そりゃどうも」
「じゃ、早速始めましょっか。時間は有限、効率良く使わないとね」
と言って、楯無はミステリアス・レイディを起動させる。水のヴェールを纏った、神秘性を孕んだISが現出する。
「行くぞ、白式!」
一夏も白式を起動。
「あれが、白式の第二形態……?」
「入学してから数カ月で、本当に二次移行(セカンドシフト)したんだ……凄い!」
疎らにいる生徒達は、二次移行を果たした白式・雪羅に興味津々といった視線を向けている。
「ふふ……第二形態の力、楽しみだわ」
楯無は、初期武装(プリセット)のランスを展開して構える。一夏もまた、雪片を展開して構えた。
「楽しませてあげますよ……俺の全力でね」
『対峙しただけで分かる。この人、とんでもなく強い』
『あぁ。だから本気でやるぜ……!』
試し。小手調べ。様子見。そんな余裕などない。実力は今の一夏では及びもしない。
だからこそ、本気。だからこそ、全力。今の自分の全てを振り絞って戦うのみ。
「行くぞぉおおおおおおおおっ!」
スラスター翼を一気に噴かし、突撃を仕掛けた。
「フフッ……」
真正面、正眼の一刀を楯無はスルリと躱す。が、それは一夏も読んでいた。すぐさま躱した楯無の方向に切っ先を跳ね上げる。
ギィンッ!
ランスを横手に構えて、一撃を防ぐ。そのまま楯無は後に下がり、間合いを取る。
「荒々しいわね。でも、嫌いじゃないわよ、そういうの」
「そりゃ良かった!!」
余裕綽々で躱す楯無。一夏はそれさえも想定の範囲内とばかりに、尚も攻勢を崩さない。
「だりゃぁっ!」
真正面に刺突。
「でも、それだけじゃダメよ?」
楯無は槍の穂先でそれを受けるや、クルンと返した。雪片が大きく上に弾かれる。
「こんな風に、がら空きになっちゃうから」
「っ……!?」
がら空きにされた懐に、ランスを返して石突の一撃を見舞う。胸部に打ち付けられた一撃に、一夏の表情が歪む。
「……でも、それでも!」
「っ……!?」
ガシリと左手で槍の柄を掴み、一夏は跳ね上げられた雪片を力尽くで引き戻す。
「攻めるしかないっ!!」
白式とミステリアス・レイディでは、単純なパワー差がある。柄を掴まれては、ミステリアス・レイディのパワーでは振り払えない。
「……なるほど。でも、攻め方が甘いわ」
楯無は槍から片手を離して、一夏の腕に向かって手を伸ばす。そのまま右腕を止めてみせるや、アクア・クリスタルのヴェールをまるで渦潮のように回して、一夏の腹部に向かって叩きつける。
「グハッ!?」
一点集中の一撃を喰らい、白式が吹き飛ぶ。地面に叩きつけられる前に、PICで浮力を得て飛翔する。
「さぁて。まだまだこれからだけど……大丈夫?」
フワリと浮かび上がるミステリアス・レイディ。ランス〈蒼流旋〉の刃を水が纏い、螺旋を描き始める。
「勿論……!」
雪片の刃を淡い光が包み込み、シールドを切り裂く必殺の刃を生み出す。
それだけでは足りないと、雪羅を基本モードから切り替える。構えるのは格闘戦用エネルギー爪のクローモード。
『一夏、あの水もナノマシンでコントロールされてる。気を付けて』
『了解!』
白式のスラスターが火を噴いて、一気に距離を詰める。
「うぉおおおおおおおっ!!」
「熱いわねぇ。でもそういうの、おねーさん好きよ」
水の槍を振るい、楯無も距離を詰める。あっという間に近接の間合いに入り、二機は激突した。
「強い……!」
ラウラは初手の攻防を見て、その実力に驚愕した。一夏の太刀筋は荒々しく、決して洗練されたものではない。だが、振り抜きの剣速と、そこに込められた威力は間違いなく一級品だ。
それを事も無げに受け止め、弾き上げてみせる技量。その体捌きからも、生身でさえ相当の実力があると分かった。
「第二形態になった白式は、あの福音とさえ戦えたというのに……」
セシリアは、二次移行したことで性能を高めた白式有利と読んでいたので、まさかの光景に驚きを隠せなかった。
それは、織羽を除いた全員の共通の感想であった。
「そりゃあ、伊達に生徒会長してないわよ」
「あの人、生徒会長なの?」
シャルロットが聞き返す。
「更識楯無。IS学園二年生。そして、ここの生徒会長」
「更識って……まさか、4組の更識さんの?」
「そ。簪のお姉さんで、あたしとも幼馴染……なのかな? でもって、もう一つ。この学園の生徒会長って、なる方法がたった一つなのよ。何か分かる?」
「……?」
シャルロットは首を傾げる。正直、日本の生徒会など興味も無かったので分からなかったのだ。
「それはあれだろう。選挙でトップになれば、なれるんではないのか?」
箒が当然そうだろうという口ぶりで言うが、織羽は首を振った。
「IS学園の生徒会長になるには唯一つ……【学園最強】を示す事」
「じゃあ……もしかして!?」
「そう。会長は現IS学園最強の操縦者よ。なにせ、自由国籍持ちで、既にロシアの国家代表なんだから」
「「「「「―― っ!?」」」」」
織羽の告げた事実に、全員が目を見開く。
「待て、織羽。代表”候補生”の間違いではないのか?」
「残念ながら、”候補”じゃないのよ。でもありえない訳じゃないわよ。だって織斑先生が代表になったのも、会長と同じぐらいの頃だし」
「………」
確かに、言っている事は間違っていない。
だがそれは、イコール楯無の実力が
「………」
各国の代表”候補生”達は、その視線を楯無と一夏の戦いに向ける。それは、いずれ戦うであろう相手を見据える瞳であった。
「ちぃっ!」
一夏は思わず舌打ちする。蒼流旋に内蔵されたガトリングガンが斉射され、回避と防御に回されてしまう。
「だけど、こっちにだって!」
一夏は雪羅をカノンモードに切り替えて、トリガーを引く。射撃に関しては素人同然の上、元よりセンスが無い。だからこれはあくまでも接近するための布石だ。
「おっと」
荷電粒子砲は蒼流旋の弾幕を吹き飛ばし、楯無も直撃はマズイと回避する。
その余波をヴェールで防ぎ、エネルギーを少しばかり削られるが、ダメージは皆無。
その一瞬を突いて、一夏が瞬時加速(イグニッションブースト)。最高速で間合いを詰める。
「このタイミングなら!」
「―― 甘いわよ♪」
楯無はクルリと身を回すや、その勢いを利用して蒼流旋を繰り出す。螺旋に渦巻く穂先が一夏に迫る。
「どうかなっ!?」
一夏はクローモード切り替えた雪羅で、それを鷲掴みにする。更にそのまま零落白夜を発動する。
全てのエネルギーを無効化する零落白夜。その力をまともに喰らったランスがその力を失う。水が解けて地上へと降り注ぐ。
「あらら」
「これならどうだ!!」
一夏は今度こそはと雪片を振るう。しかも、その一撃は零落白夜の刃だ。
これが届けば、楯無のISは一瞬でシールドエネルギーを食い尽される。
―― 届きさえすれば、である。
『一夏っ!!』
「―― っ!?」
突然、白式の腕が止まる。押しても引いても、ビクともしない。
「良い攻撃だったけど……でも、まだまだね」
見れば、アクア・クリスタルが一夏の周りにあった。水のヴェールが解けて、白式の四肢を霜が覆っている。そしてピキピキと音を立てて、白式の装甲が凍っていく。
『ナノマシンを利用した熱運動!?』
「白式を凍りつかせた……っ!?」
「これがミステリアス・レイディの力。名付けて【
その隙に楯無はランスを引き戻して、再び水を纏わせる。と、今度はその水が凝結していく。
「そしてこれが……【
その名の通り、凝結した水はまるで大輪の花のようになる。ランスから打撃武器へと変じたそれを、容赦なく白式に叩きつけた。
「ぐあぁッ……!」
『一夏、僕と代わって!!』
『春斗!?』
『このままやられっぱなしは、僕も面白くないからね!』
『……頼む!』
地上に向かって落ちる白式を、黒い光が包みこみ、その姿を変える。
「この距離は、こっちのものだ!」
「っ……!?」
春斗はすぐさま月影を構え、矢を放つ。楯無は驚きながらもそれを躱し、水のヴェールを纏って一気に裏白式に接近する。
「飛べ、月之雫(ムーン・ティアーズ)っ!」
百目を起動させ、裏白式から切り離された六つの自立砲台が舞い、放たれる閃光が楯無の進行ルートを潰すように飛ぶ。
「おっと、正確無比の射撃ね。これはちょっと厄介かしら?」
流麗なるターンでそれらを躱し、距離を更に詰める。
「そこっ!」
「っ!?」
月影を大弓に変えて、巨矢を射ち放つ。弾けて散弾となったそれが、楯無を捉える。
『やった、直撃だ!』
「いや、あれは………やばいっ!!」
すぐに春斗は月之雫を戻して、集中砲火を構える。直後、楯無がダメージなど無いかのように突撃する。
「制圧力はあるけど……威力が足りないわね?」
「ヴェールをシールドにして、威力を減衰させられたか! だけど!」
放たれる無数の光矢。防ぐヴェールが弾け、周囲に噴霧状に飛び散っていく。
その中で、春斗が必殺必中の一矢を構える。
―― 単一仕様能力〈月華白麗〉発動 ――
「っと、それは流石に壊れちゃいそうね」
「遠慮無く……どうぞ!」
春斗は楯無目掛けて、引き絞った弦を解き放つ。薄霧を貫いて、閃光がミステリアス・レイディを撃ち抜いた。
―― バシャァッ!!
「っ……!?」
途端、姿が崩れ落ちるそれは、まるで水の人形。そして楯無は、そこから僅かばかりズレた所に姿を現した。
「まだまだ、甘いわね……」
水を使った分身。そして蜃気楼を応用した隠行の術である。
「周囲にエネルギー反応!? マズイ!」
春斗は、自機を囲む霧に込められたエネルギーに気付く。ISのエネルギーで動くナノマシンを含んだ水。
「【
ズドォオオオオオオオオンッ!!
爆裂する霧。白煙と防風が吹き荒れ、アリーナを揺るがす。
「さて、これで………っ!?」
楯無が詰めに入ろうと動く。が、そこに吹き荒れる一陣の風が、楯無を釘付けにした。
吹き飛ばされた白煙の向こう、白式が零落白夜を発動させた雪片を振るっていた。
波動・零落白夜。エネルギー無効化の風を撃ち放つそれは、喰らえば敵を僅かながら無防備にしてしまえる。
「あらら」
楯無はそれでも余裕を崩さない。その余裕の訳も考える時間はない。
距離を詰める間に向こうは動きを取り戻す。ならばと、一夏はカノンモードを最大出力で構えた。
「いっけええええええええええっ!!」
叫びをも呑み込んで、閃光が放たれる。それをさしもの楯無も回避出来ずに喰らう。それでもギリギリのタイミングで防御した辺り、流石は学園最強であろう。
だが、ダメージが無い訳ではないし、軽いものでもない。一気に攻め抜けば、まだ勝機はある筈。
一夏はここぞとばかりに突撃を仕掛け――― られなかった。
「なぁ――!?」
水が細い糸のようになって、白式を縛り上げる。
「は~い、本日の天気は晴れ時々【氷塊】。頭上にはご注意くださいね~♪」
「頭上!?」
『氷塊!?』
ハッとして、上を見上げる。
そこには、これでもかという程のデカさの氷の塊があった。
「『あれかぁあああああああっ!?』」
アクア・クリスタルが形成する氷塊が、ガクンと揺れて動けない白式に迫る。
一夏は拘束を雪羅をシールドモードに切り替えて引き剥がす。しかし既に氷塊は目の前、回避は間に合わない。
ならば、叩き斬る。一夏は雪片に全力を込めて、斬岩斬鉄の一撃を見舞―― えなかった。
パァンッ! という音がして、右手が弾かれたのだ。それを行った楯無は、硝煙上がるランスを持ち上げ、ニッコリと笑った。
「女の子からの贈り物を、無下にしちゃダメよ?」
「知るかぁあああああああああああああああああっ!!」
ドガシャァアアアアアアアアアアアアアンッ!!
氷塊ごとステージに落とされた白式は、絶対防御を発動。
後に残ったのは砕け散った氷の欠片と、クレーターの中心で埋まる一夏の姿であった。
「あれが、学園最強の実力……」
「なんて凄まじい上に、なんて鬼畜な……」
「一夏……死んでないわよね?」
なんて感想を抱きつつ、戦慄する面々の見守る中で、楯無は埋まった一夏を引っ張り出したのであった。
気絶した一夏をピットに降ろして、楯無はその間にデータをチェックしていた。
(ナノマシンの稼働率がとても高いわね。私の組んだプログラムが修正されているから……? それにヴェールの防御能力も22%向上している……)
実戦データを確認し、改めてミステリアス・レイディの完成と、自分の想定以上の性能に表情に出さないまま驚く。
そして、戦闘で見た白式と裏白式の戦い。粗い部分があるが、その素質は高いとすぐに分かった。
「これは本当に……鍛え甲斐がありそうだわ」
そうしてデータを見ている間に、箒達がピットに駆けつけ、一夏もタイミング良く目を覚ました。
「うぅ……頭がくらくらする……」
「一夏、大丈夫か?」
「箒か……まぁな」
頭を振って、ふらつきながらも一夏は立ち上がる。
「流石に強かった……ていうか、完敗だったな」
『流石は”生徒会長”。このIS学園で最強なだけあるよ』
『そうなのか? そりゃ強い訳だな……』
「ところで一夏。一つ聞きたいのだが?」
「何だ? 楯無先輩の事は、織羽が説明してくれたんじゃないのか?」
「いや、説明はしてもらった。IS学園生徒会長で、現最強の生徒だとな。だが、それだけでは説明されんのだ」
「なにが……って、何でお前ら囲んでんだよ!?」
気が付けば、五人が一夏を囲んでいた。
「一夏さん、一体どのような経緯の下、会長とお知り合いになられたのですか?」
「でもって、何でいきなり戦ったりしたのか……分かんないのよねぇ」
「分かった。説明するから下がってくれ! 熱いから!!」
ジリジリと詰め寄る面々に、一夏は悲鳴に近い叫びを上げた。
「それはね、私が一夏くんの専属コーチになったからよ? しかも、熱烈に申し込まれちゃってね」
「ちょっ!?」
更識楯無、ここで容赦なく火に油を注ぐ。
「はぁ!? どういう事よ一夏!?」
「そんな事、聞いていませんわよ!?」
「一夏、私の嫁のくせに浮気か!?」
「お前ら落ち着け!!」
一瞬の間を置いて、発火した。
『春斗、これはどういう事なの?』
『色々あってね、そういう事になったんだ。だからねシャル、そんなドスを聞かせた声を送らないでくれるかな?』
『やだなぁ、ドスなんて聞かせた覚え無いよ……? うん、全然、そんな事なんて無いんだから』
『………うん、そうか。これ以上は触れないよ』
春斗は春斗で、なかなか大変だったりする。
「……で、会長。何でそんな事になったんですか?」
「う~んとね、色々とあるんだけどねぇ~」
楯無がそこに至る経緯を(春斗の事は除いて)掻い摘んで話すと――。
「ならば、一夏さん! あなたに決闘を申し込みます! 私が勝ったら、私が専属でコーチになりますわ!!」
「いいや、一夏。私と戦え! 私が勝ったら、専属コーチは私だ!!」
「あんたら黙りなさい! 一夏はあたしがコーチするんだから!!」
「貴様ら、私を忘れるなっ!!」
「箒さん、あなたはむしろコーチされる側でしょう!? お黙りなさい!!」
「何だと!? ならばセシリア、表へ出ろ!」
「宜しいですわ! こうなれば、誰が一番かハッキリさせましょう!!」
「面白い。一番になった者が、一夏をものに出来るという事だな?」
「上等! あたしが一番だって教えてやるわよ!!」
「皆、盛り上がってるね~。僕には関係ないけど」
「あら、デュノアちゃんはやらないの?」
「だって、春斗の専属は僕で決定でしょ?」
「………あ、そう」
にこやかに笑うシャルロットに、織羽は何故か冷たいものを覚えたのだった。
「あらあら。モテモテね~、一夏くんってば」
ステージで巻き起こるバトルロイヤル。楯無はそれを見てコロコロと笑う。
「いや、そんなんじゃないですよ。ただ、二年生に口出しされるのが気に食わないんじゃないですかね?」
「………君さぁ、よく鈍感だとか言われない? あと、いつか刺されるぞ、とかって?」
「何でその事を!?」
「一夏くんって、凄く分かりやすいからね~。これは面白……じゃなくて、苦労しそうね~」
「???」
『……今、面白って言ったぞ、この人』
夕日差すアリーナに、爆音と閃光とが絶え間なく響き続ける光景。それはなかなかに圧巻であった。
暗い部屋の中に、淡い光が灯る。天井には幾本ものパイプが走り、床には太めのコードが整列して走る。
部屋の中心には、溶液に満たされた大型のカプセルがあり、そこに一つの肉体が浮かんでいる。
「―― これ、クローン培養技術の応用だっけか?」
「えぇ、そうよ。ナノマシンの治療では間に合わないようなものも、これで治療できるし……強化も出来る」
そこに現れる二つの影。一人は黒のスーツを着た女。美麗ではあるがその瞳は冷たく、大凡、人のものとは思えない輝きを宿している。
もう一人はグレーのスーツの上に白衣を纏った女。
見た目、40代程だろうか。顔の所々にシワが寄り、痛みの入った赤い髪を乱雑に纏め上げている。
「こんなガキ……IS使ってまで攫ってくる意味があったのかよ? えぇ、”Dr,ファウスト”?」
「フフフ……貴方のようなエージェント風情には、この体の価値は分からないわよ、”オータム”?」
「価値ねぇ……IS適正もない、単なるその辺の男と同じじゃないってのか?」
オータムと呼ばれた女は、いまいち面白くなさそうに肩をすくめる。
彼女にとって、男はどれも同じ。粗野で何の価値もない、そんな存在でしかない。だからこそ、理解出来ない。
「えぇ。これこそ……私がずっと探していた『パンドラの鍵』……オリジナル・ドライバーなのよ……!」
だからこそ、ファウストと呼ばれた女の執着が理解出来ない。
彼女はこれを見つける為に、何年もの時間を掛けてきた。そのこだわりの理由、もしもあるとするならば――。
「もしかして、
「……ククッ。まぁ、いずれ分かるわよ。それより、スコールから新しい指示が届いているわよ」
ファウストは白衣のポケットから取り出した手紙を、オータムに見せる。
「何だとっ!? よこせっ!」
オータムは奪うようにして手紙を取ると、すぐにそれを開いた。
「………チッ」
オータムは非常に不愉快だと言わんばかりに、顔を歪める。
「何て書いてあったのかしら?」
「……もう暫く、テメーの所にいろってよ。クソッ、面白くねぇ……」
「―― なら丁度良いわ。例のあれをテストするから、仮想敵をしてくれるかしら?」
「……いいぜ。ただし、全部スクラップにしてやるけどなぁ!」
「それは頼もしいわね。では、行きましょう」
二人は溶けるようにして闇の中に消える。
そして、残されたそれはただ、低い音を響かせ続けるのであった。