IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第39話  特訓、更識ブートキャンプ!

 

「さて、今日から本格的に訓練を開始するわけだけど……何か視線が多い気がするわね?」

放課後のアリーナにて、いよいよ楯無の訓練が始まる。だがしかし、同じようにアリーナに居る面々の視線がどうにも強い。

具体的に言うと、鈴、セシリア、ラウラの視線がもの凄く強く、逆に箒とシャルロットの視線はとても弱かったりする。

唯一、織羽だけは違った反応を見せ、視線が合うと何故か苦笑いした。

はて、これはどういう事なのだろうかと、一夏は首を傾げた。

「なぁ、セシリア?」

「っ!? ひゃいっ!?」

「………」

何故か声を掛けただけで、珍妙な声を上げられた。しかも、セシリアの顔はどうしてか赤くなっている。

「えっと……鈴?」

「にゃっ!? にゃによっ!?」

「………」

こっちは噛んだ上に猫みたいになっている。やっぱり顔は赤い。

「えっと………ラウ」

「っ……!!」

「ら………」

こっちは珍妙な声もなければ、噛みもしなかった。ただその代わりに、もの凄い力の篭った瞳で睨まれた。ただ、やっぱり顔は赤い。

 

 

 

 

 

さて、アリーナに来ているという事は当然、一夏もISスーツを着ている。

ISスーツはその特性上、”素肌に直接身につける物”だ。

「「「………」」」

鈴達は、今まで全くと言っていい程に意識しなかったのだが、昼休みの一件のせいで、思いっ切り一夏の体を凝視してしまっていた。

 

(今さらですけど……あのスーツの下には何も付けていませんのよね……つ、つつつまり……!?)

(て事は、あそこには……いちちちちちちちかののののの………生がっ!?)

(駄目だ見るな想像するな考えるな……あぁ……駄目だというのにどうしてそっちにばかり思考が傾いていくのだっ!?)

 

今まで一切意識していなかった一夏のISスーツの姿であったが、事此処に至って途方も無いリアリティを発揮していた。

 

シャルロットが食堂で口を割らされた、ネイキッド一夏の詳細過ぎる説明。

というか、気を失ったくせに見ていた所は完全に記憶している辺り恐ろしい話である。

 

目の前にある一夏の体の見えない部分を、シャルロットの言葉が補完し、三人の瞳には織斑=フル・フロンタル=一夏がボンヤリとだが姿を現そうとしていた。

そんなタイミングで声を掛けられれば、奇妙珍妙な反応をとっても可笑しくはない。

 

 

 

 

「お前ら、どうかしたのか? ていうか、俺に何かあるのか?」

「「「―― っ!?」」」

言うや、三人がビキッと固まった。もう、輪郭とかガチガチに直線だけで書いてんじゃねぇ? とか思うぐらいのガチガチ具合だ。

 

「……おい」

「何でもありませんわっ!!」「何でもないわよっ!!」「何もあるわけがなかろうっ!!」

顔を真赤にして、同時に叫ぶ三人。鼻息は荒く、とても残念美人状態だ。

 

「………」

『……もう、ほっとこう? きっと夏の太陽にでもやられちゃったんだよ』

『どうにもこう……腰の辺りが落ち着かないんだけどなぁ……?』

この三人は放っておくとして、一夏は楯無と共にアリーナステージに降りた。

 

 

 

ちなみに、シャルロットの説明を聞いていたのは何時もの面子だけではない事を、ここに記しておきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未だ腰回りに異様な気配を感じつつ、一夏はISを起動させる。量子変換された白式が、一夏の身を包み込む。

「さて……まずはこれからやる事の説明をするわね」

「はい!」

一夏は気合の入った返事を返す。それを聞いて、楯無は少しばかり嬉しそうに笑った。

強い意志に光る瞳は、未来を掴み取る為の輝き。こういう目をした人間はとても強いと、楯無は知っていた。

「一夏くんは……自分が歪だって事は理解しているかしら?」

「歪……ですか?」

「そう。IS戦闘の経験に比べて、基礎的な技術が殆ど出来ていない。普通ならその逆なのにね」

「……なるほど」

確かに、一夏はその始まりからして歪である。

入試会場でのIS起動から始まり、入学してすぐのセシリアとの決闘。そして鈴との戦いに無人機〈ゴーレム〉との死闘。次はラウラとVTシステムとの激突。

 

臨海学校では銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)と戦い、一度は敗れるも、二次移行した白式・裏白式と共に再戦。覚醒した〈月華白雪〉で、これを撃破した。

 

思い返せば、他の候補生に比べて遙かに基礎の劣る自分が、これだけの戦いを生き残ってこれたのは、以前に楯無が言ったように運が良かったというのが正しい気がしてきた。

 

「経験は充分。だからこそ、ここからは基礎を固めるべき」

「………」

剣道を学んでいた一夏には、基礎の大事さが良く分かっていた。

基礎とは全ての始まりであり、全てを支えるものだ。一夏には、圧倒的に基礎が足りていない。

剣道に喩えるならば、剣の握りから振り方、体の運びまであらゆる事を知らないというのと同じである。

 

 

「……という事で、まずは白式のオートPICをカットしましょっか♪」

「え……?」

「ほらほら、早くっ」

急かされるまま、一夏は白式のPICの設定をいじる。

「よし、それじゃあ……あの的を荷電粒子砲で撃ってみよう」

「……は??」

「ほらほら、早くするっ」

『………』

春斗は何となく、楯無のしようとしている事が分かったので、敢えて黙った。

「―― 雪羅、カノンモード」

一夏は雪羅をカノンモードに切り替え、100メートル程先の標的をしっかりと狙う。

楯無はその間、一夏の後ろにいる生徒を手振りで避難させていた。

 

一夏の射撃能力はとても低い。第二形態になった事で射撃管制プログラムも発現しているのだが、しかしそれでも命中率は低い。

低いと言っても、こうしてじっくり狙いを付ければ当たらない訳ではない。ただ、実戦こんなに時間を掛けられる筈もなく、結局の所、射撃センスが無いという事なのだ。

「行きますっ!」

気合を入れて、荷電粒子砲を発射した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きてる?」

「……今日ほど、生の実感を味わったことはありませんね」

見事に壁にめり込んだ一夏は、自分を見上げる楯無にそう答えた。

通常、PICはオート設定されており、自動で機体を制御しており、それは射撃武装の反動相殺にも当て嵌っている。

しかし今、白式はそれをカットしている。つまり、一夏自身が制御しなければならないのだ。

 

それを見事に忘れていた一夏は、発射と同時に後に飛ばされ、壁の一部と化したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、痛い目にあったところで……これからやるのは、PICのマニュアル制御、その為の訓練よ」

「それって、基礎でしたっけ?」

「これも基礎よ。ただ、高度なレベルになると難しいだけ。でも、代表候補生クラスなら、誰でもやれることだもの」

「……で、まずは何をすれば?」

「まずは、マニュアル制御に慣れる事からね」

楯無はISを起動させると、一夏の手を掴んだ。

「一夏くん、アイススケートの経験は?」

「いや、無いですね」

「マニュアル制御技術の一つ『流動射撃制御(シューター・フロー)』は、良くそれに例えられるのよ」

「シューター・フローって……射撃型のスタイルですよね?」

「えぇ。でも、一夏くんとしては覚えておくべき技術でもあるわ。まぁ、それは追々として……今は機体制御だけに集中しなさい」

「はい」

楯無は一夏の手を掴んだまま、ミステリアス・レイディを加速させていく。

 

PICの基本機能、慣性制御。

楯無によってステージの壁沿いを飛んでいく白式。加速していく機体にかかるGを、一夏は必死に制御する。

「くっ……!」

「ほらほら、もっとちゃんと意識を集中させなさい」

「ぬぅ……!」

楯無に引っ張られるだけから、白式もスラスターを起動させ、その制御は更に難しくなっていく。

 

必死に意識を集中させる一夏。徐々にだが、マニュアルの制御のコツを掴み始める。

「……じゃあ手を離すから、ここから自分の出来る最高速度での制御に挑戦しなさい」

「……はいっ!」

楯無は一夏の手を離し、白式はそのまま壁際スレスレを飛ぶ。

ガリッと、わずかに腕の装甲が触れ、バランスが崩れそうになる。

「っ……!!」

ギリッ、と歯を食いしばって耐える。

マニュアル制御は難しいが、覚えればそれだけ微細な機体コントロールを可能とする。

それだけで、自分は更に強くなれる。

『一夏、まだこれ以上は無理……!』

「まだ……まだ……っ!」

今以上の速度での、直線の加速状態から円状制御機動(サークルロンド)による遠心力制御への切り替えは、今の一夏には無理だと春斗は止める。

が、一夏は更に加速する。今の速度は白式の最高速の半分程度だ。この程度の制御で躓いていたら、先になんて進めやしない。

 

「ぐぅうううううう……っ!!」

 

遠心力に引き摺られ、スラスター翼が壁を掠める。それでもギリギリで制御し切り、再び直線機動。

「もっと、もっと速く……っ!」

一夏は更に速度を上げて、コーナーに飛び込んだ。

『一夏ッ!』

「っ――!?」

 

全身に走る衝撃。マニュアル制御をミスして、壁に激突したのだ。しかもそのまま壁に沿って飛び続け、スラスターとの接地面から火花が散り続ける。

『一夏、減速して態勢を立て直して!!』

「こなくそぉっ!!」

『ちょっ……!? 無茶苦茶だよ!?』

気合と根性だけで、その状態のままコーナーを回り切る。と、そこまでだった。

「はーい、ストーップ!」

「………」

楯無の声に、一夏は速度を落とす。そしてゆっくりと彼女の前まで行った。

 

「どうやら、今の速度が制御の限界みたいね?」

「……そうですね。でも、次は成功させます」

「チッチッチ、甘いわよ」

そう言い切る一夏に、楯無は立てた指を振ってみせた。

「今のはあくまでも、機体の制御だけを意識していたから出来た事よ。今の速度でのコントロールを、戦闘時でも出来る?」

「うっ……」

「今はまだ、あれでも良いのよ。頂を目指すにも、まずは自分の足元を見ておかないとね」

「……はい」

「じゃあ、次はお手本を見てみましょっか。えっと……シャルロットちゃんとセシリアちゃん、ちょっと来てくれるかしら?」

楯無は、ISを展開させたままピットに居た二人を呼んだ。

「……何で二人の名前知ってんだ?」

『僕らの関係者だからじゃない?』

「あぁ、なるほど」

素朴な疑問に答えを得ると同時に、呼ばれた二人が楯無の前に降り立つ。

 

「何の用ですか?」

「二人に『シューター・フロー』で円状制御機動(サークルロンド)をやって見せて欲しいの」

「でも、それは射撃型の戦闘動作(バトルスタンス)ですよ?」

「やるのは良いですが……お役に立つんですか?」

セシリアは出来る限り一夏を見ないようにして、楯無に尋ねる。が、ハイパーセンサーの機能のせいで否応無く、一夏が見えてしまう。

「立つわよ。だって白式にも射撃武装が追加されてるんだし……まぁ、それだけじゃないんだけどね?」

「どういう事ですか?」

シャルロットも、どうにも気まずそうに、一夏から視線を逸らしている。

 

『一体、何なんだ?』

『シャルはまぁ……昨日の事もあるから分かるんだけど……』

考えても出ない疑問に首をひねる二人であった。

 

「射撃で重要なのは、弾幕―― つまり、面での制圧力で相手を近寄らせない事。でも大出力の荷電粒子砲は連射ができない……どちらかと言えば、狙撃銃(スナイパーライフル)に近い。つまりは一点突破の破壊力。でも、一夏くんの射撃センスは……可哀想な訳で。とても射撃戦は出来ない」

「……悪かったですね」

自覚している事だが、人に言われるとちょっとムカつく。

「でも、威力は捨てがたい……だから、ここは」

「―― あえて、近距離から撃ち込む」

いつの間にか来ていたラウラが、楯無の言葉に続ける。

「その通り。流石ね、ラウラちゃん」

楯無はバッと扇子を開く。そこには達筆で『大正解』の文字。

 

「という事で、ふたりともお願いね?」

「分かりました」

「まぁ、一夏さんのためですし……」

セシリアとシャルロットはアリーナの中央へと向かった。

 

 

「………」

一夏は真剣な面持ちで二人を見る。これから行われる二人の機動の全てを見逃さないように。

「………」

そんな一夏の真剣な横顔を、ラウラはジッと見ていた。

(真剣な表情の一夏……うむ、良いものだな)

白い肌がほんのりと朱に染まり、そしてその視線は自然と下へと――。

「ッ……!!」

といったところで、ブンブンと頭を振った。ラウラの煩悩は思いの外、根深いようだ。

 

 

それはさておき、二人は早速、円状制御機動(サークルロンド)を開始した。

二機のISはアリーナの壁を背にして互いに向き合い、それぞれ右方向に動き出すと互いに銃口を向け合い、徐々にその速度を上げていく。

ある程度の速度に達すると、互いにトリガーを引く。

互いに向かって飛び来る弾丸を不規則な加速で回避し、しかし速度は落とさない。

『流石だね、セシリア……っと』

『シャルロットさんこそ……第二世代機とは思えない機動ですわ』

そんなやり取りを交えつつ、更に銃を撃ち合い、加速していく二人。

『これは……凄いね』

「あぁ……どっちもな」

一夏も春斗もその機動に目を見張った。

二人がやっているのは射撃と機動コントロールの両立。

PICをマニュアルにしている為、常に掛かるGとのバランスと、射撃による反動の相殺。それに加えて攻撃回避の加速と、それに合わせての対Gバランスの修正。

それらを照準を狙いすました状態で行っているのだ。常に冷静で感情を揺らさず、同時に二つ以上の思考を留めること無く行い続ける。

 

今の自分にそれがとても難しい事であることは、一夏もよく分かる。

だが、この機動をものに出来ればもっと自由自在に―― 例えば狭い空間などでの戦闘もあるだろう、そういった時に堅実な戦いが出来るようになるだろう。

 

 

「どうやら、あの凄さが分かるみたいね。あれは、完全に機体を自分のものとしていないと出来ない事なのよ」

「………」

「君にはああいった、高度なマニュアル制御の技術が必要なのよ。わ・か・る?」

すすっと、楯無は一夏の後ろに回って、その背中に指を伝わせる。

「うはぁっ!?」

集中し過ぎて不意を突かれた一夏が、素っ頓狂な声を上げる。

 

『『っ――!?』』

 

その声に一瞬、意識を取られた二人が互いの撃った攻撃に当たる。

「キャアアアアアッ!?」

「わぁあああああっ!?」

マニュアル制御のバランスを崩して、二人はアリーナの壁目掛けて落ちていった。

 

 

 

 

ズズゥウウウウウウウン……ッ。

 

 

 

 

「『あ……』」

「あらぁ……」

「………死んだか?」

もうもうと上がる土煙に一夏と春斗は唖然とし、楯無は【鬼乃霍乱】と書かれた扇子を広げ、ラウラはポツリと呟いた。

瞬間、ボォンッ! と砂煙が上がったかと思うと、墜落したばかりの二人が瞬時加速(イグニッションブースト)で突進してきた。

「一夏さぁあああんっ!!」

「何やってるのぉおおおおっ!!」

「どわぁああああっ!?」

「一夏くんブロック!!」

「楯無先輩!?」

『最低だ、この人っ!?』

楯無は一夏の背に隠れ、ラウラは巻き込まれないようにと、コソコソと逃げた。

 

「どういうつもりですの、一夏さん!?」

「僕達が真面目にお手本見せてるのに、会長と遊んでるなんて!?」

「いや、遊んでないぞ!?」

「「遊んでる!!」」

「うっ……!?」

凄まじい圧力に、一夏は次の言葉を詰まらせる。

「春斗さんっ!」

『は、はいっ!?』

「双子とはいえ、兄である貴方が一夏さんを注意されないでどうするんです!?」

『えっ、僕まで怒られるの!?』

「当然だよ! 僕の事を無視して、こんなポッと出な年上キャラとイチャつくとか、どういう事なの!? 胸なの!? やっぱり巨乳がいいの!? 僕だって春斗がその気になってくれれば、半年でGぐらい行くんだからね!?」

『何を言ってる!? 何を口走ってる!? 何を考えているんだいシャルさんや!?』

 

「一夏さん! そもそも、私に言ってくだされば、24時間365日、一秒たりとも離れること無く、御教しますものを!!」

「いや、そこまでは……」

「春斗が言ってくれれば、50、80喜んでだよ!?」

『言ってる意味が分からないよ!?』

 

 

 

 

 

 

「……ほらね。ああやって、関わった人間が面白く弄られていくのよ」

「……なるほどな」

ピットからその様子を見ながら、箒は得心がいったと頷く。真面目にやっていたかと思ったらあれだ。あの渦中にいたら、きっと酷い目に遭っただろう。

「でも、教えている事は間違ってないのが……また質の悪いところなのよ」

「私の知り合いにも約一名、そういう奴がいるな」

「へぇ、誰なの?」

「………」

「………」

「………」

「……こっち見なさいよ?」

 

ごきゅ。

 

「っ~~~~~っ!?」

箒の首があらん方向に曲がって、声なき絶叫が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―― さて、小休止もしたところで」

「「「何処がですか!?」」」

息も絶え絶えになった一夏達が叫ぶ。正直、休んでいたのは楯無だけである。

「今度は、裏白式の方でやってくれるかしら?」

『裏白式ですか? まぁ、良いですけど……』

春斗は一夏と入れ代わり、裏白式が起動する。

「じゃあ、さっきみたく壁面に沿って飛んでくれるかしら?」

「分かりました」

春斗は早速、裏白式を浮かせる。二機の大型スラスター翼が開き、飛行を開始する。

 

 

直線で一気に加速すると、その速度を維持したまま、制御用スラスターを動かしてカーブを危なげなく曲がる。

再度の直線。そこで一気に、一夏のミスした以上の速度まで加速した。

『おい、春斗!?』

「大丈夫だよ、このぐらいは」

速度を落とさないまま、春斗はコーナーに入る。全身に掛かるGをマニュアル制御で完全に制圧し、そのまま一気に抜けていく。

『なっ……!?』

自分よりも起動時間で劣る筈の春斗が、自分よりもマニュアル制御をコントロールし切っている事に驚きの声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは驚いたわね……マニュアル制御、完璧じゃない?」

流石の楯無も、予想外の結果に驚きを隠せないでいた。

「裏白式のPICの基本設定は、最初からマニュアルになってるんです。一度、オートにした事があったんですけど……こう、体が重くなる感じがして気持ち悪くて……で、ずっとマニュアルで」

『そ、そうだったのか……』

 

春斗がオートモードの反応を嫌った本当の理由は、春斗と裏白式の関係そのものに原因があった。

本人すら知らない事だが、春斗はコアの深層意識と融合しつづけていた。その結果、ISそのものの起動時間が短くても、コアとの相性は世界中のどれよりも高くなっている。

そして、それがISそのものとの一体感をより強固なものとし、マニュアル制御の反応をオートモードの反応よりも遥かに早く、細かく、正確なものへと変えていた。

 

『マニュアル制御は機体を自分の物にしなければ出来ない』と、楯無は言った。

春斗は機体を自分の物どころか、自分自身と相違無いレベルでものにしているのだ。

 

そしてその事をISが理解し、マニュアルモードをデフォルトとして設定したのだった。

 

 

「……まぁ、それならそれで手間が省けるわね。じゃあ、裏白式には別メニューをやりましょ?」

楯無は自分の立てたプランを修正しつつ、パシンッ、と扇子を打った。

「別メニュー?」

楯無の笑顔に嫌な予感を感じながら、春斗は首を傾げた。

「そうよ。おねーさんと、素敵なダンスのじ・か・ん♪」

「うわ~~~~い……」

嫌な予感的中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ上空を舞う、二機のIS―― ミステリアス・レイディと、裏白式。

楯無の操るミステリアス・レイディが、裏白式の繰り出す多角射撃を掻い潜り、接近する。

「ほらほら、また接近された! 二手先三手先よりもっと先、四も五手先までを読みなさい!」

「くっ……!」

ばん、と楯無が裏白式にタッチする。と、そのまま離れていく。

「君に足りないのはとにかく経験っ! 射撃型が接近されたら、その時点で終わりなんだからね!?」

「分かってますけど……くそ、これならっ!」

春斗は月之雫を切り離し、オールレンジ射撃を行う。それに対して楯無も回避行動を取りながら、アクア・クリスタルから〈氷雨の弾丸(ヘイル・バレット)〉を発射して反撃。そのまま、接近を試みる。

しかし、春斗はその行動を予測して、先置き射撃で牽制。行く手を遮るように、光線が飛んだ。

「おっと」

「そこっ!」

楯無が動きを止めた瞬間を狙って、月影が一矢を放つ。蒼白の光刃が蒼空を切り裂く。

「甘いわよ」

楯無はその一撃を身を一捻りするだけで回避し、同時に蒼流旋のガトリングが火を噴く。

「っ……!?」

連射される弾丸が、裏白式のシールドを削る。更に、〈ヘイル・バレット〉が同時攻撃を仕掛ける。

春斗はすぐに回避。その弾雨をギリギリで躱す。

「逃がさないわよ」

「でしょうね!」

右腕の多機能戦術腕(タクティクス・アーム)・晨月を双月に切り替え、牽制射撃。接近を計る楯無を牽制する。

同時に切り離していた月之雫(ムーン・ティアーズ)を戻して、弾幕を展開する。

「これなら……どうだっ!!」

晨月を切り替え、月影を引いて追尾矢を放つ。

「なかなか良い攻撃ね。でも、まだまだよ」

蒼流旋を構成する水の槍を、螺旋回転。自分に向かってくる矢を払い落とす。

「なっ……!?」

「自動追尾って事は、どんな軌道を描いても結局は終点は一緒って事よ」

「だからって……非常識な!」

「非常識まんまの君に言われたくはないわよ」

アクア・クリスタルのヴェールで身を守り、自在に舞う姿はさながら天空の人魚(マーメイド)。

「ほい。これで撃墜よ」

瞬時加速(イグニッションブースト)から一気に距離を詰めて春斗にタッチし、楯無は宣言した。

 

 

 

 

二人がやっていたのは、相手を接近させない為の模擬戦闘訓練。

春斗は如何にして楯無の接近を防いで攻撃を当てるか。楯無は射撃武装のみの攻撃で、接近したら攻撃代わりに機体に触れる。

こうして規定数を触れられた時点で、模擬戦は終了。春斗は撃墜となった。

 

 

 

 

 

ピットに降りた二人は早速、今の戦闘を振り返りつつ、反省会である。

「射撃パターンはどれぐらい考えている?」

「相手の動きに合わせて大体……20ぐらいですかね?」

「少ないわね。その倍は無いと。相手によっては防御力に任せて強引な突撃をしてくるのだっているわよ? ……白式みたいに」

「………」

そう言われると、裏白式と白式はかなり極端な相性である。

多角射撃と追尾、弾幕射撃の出来る裏白式と、エネルギー相殺武装を有し、接近戦で無類の強さを発揮する白式。

 

しかも、お互いの切り札はどちらも”エネルギー無効化攻撃”。

 

現状は―― 裏白式不利、であろうか。

 

 

 

「裏白式はフィジカル面が圧倒的に弱いからね。距離を常にキープ出来るように、パターンを増やしなさい」

「分かりました」

「じゃあ、今度は白式で戦闘訓練ね」

『え゛っ……!? マニュアル制御訓練の筈じゃあ……?』

「確かにそれが重要とは言ったけど……やらないなんて言ったかしら?」

『ぐっ……!』

確かに言っていないので、一夏は黙ってしまう。

「じゃ早速、準備に入りましょう♪」

『うわぁ……ノリノリだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁああああっ!? たぁ!? どあぁっ!!」

四方八方から襲いくる弾雨に、一夏の悲鳴が木霊する。

必死に機体をコントロールして、それを回避。目標であるバルーンを一機破壊する。

『残り7つ』

「くっそぉ~っ、セシリアシャルロットも手加減しろよな!?」

今行われているのは、セシリア、とシャルロットから来る弾幕を回避しつつ、10機のバルーンを破壊するというもの。

白式は勿論マニュアル制御。常に意識を集中させていなければならない。

 

セシリアの攻撃はシールドモードで防げるが、シャルロットの攻撃はそうは行かない。

防げるといっても、エネルギーを喰らうシールドは多用すれば、それだけ撃墜に近付いてく。

 

つまり、どれだけ回避できるかが重要になる。

 

「ぐあぁあああっ!?」

シャルロットのライフル弾が白式を捕らえ、一夏は地面に落とされる。

「ほらほら、早く立ち上がりなさい。まだ7つも残ってるわよ。二人も、もっとガンガンやりなさい。情け容赦は一切無用、日頃の鬱憤、纏めてぶつけてやりなさい」

「『とんでもない煽り方してるし!?』」

「日頃の……」

「鬱憤……」

二人はふと、考える素振りを見せる。

今がチャンスだと、一夏は姑息にも瞬時加速(イグニッションブースト)で一気にバルーンに接近。が、その背中を閃光が撃ち抜いた。

「ぐわぁあああっ!?」

撃ったのはセシリア。落ちた一夏にさらに追撃を仕掛ける。

「一夏さん、何時も何時も何時も色んな方とばかり……! 私がこれほどに………!」

「……?」

「その『意味が分からないよ?』的な顔が……可愛さ余って憎さ百倍ですわぁあああああっ!!!」

「のわぁああああああっ!?」

逃げる白式。襲うライフルと、ブルー・ティアーズ。

その行く先を塞ぐように、マシンガンの弾幕が襲う。

「臨海学校の恨みぃいいいいいっ!!」

「ここでそれを持ち出しやがりますか!?」

 

 

 

ズドドドッ!! チュドーンッ!! バラララララッ!!

 

 

 

 

 

後に、凰鈴音は嬉しそうな苦笑いで語った。

「二人がさ、泣くのよね……あの時の事を夢に見るって。いや、あたしはもう慰めてやるしか出来ないし……まぁ、ちょっと役得っていうか……昔から、そういうのはあたしの役目だし」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げ惑うこと12分。

黒焦げのクレーターの中心部に、こんがりと焼けた男子高校生が一人あったと。

 

楯無はぽん、と手を打った。

 

「これにて、訓練一日目終了。明日も頑張りましょうね」

「『死ぬわ、本気で!?』」

 

 

まだまだ、二人の戦いの日々は終わらない。

 

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