IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第42話  狙われた”竜”

「そろそろかしらね……」

街灯の下、車に背もたれながら紫煙を燻らせ、時計を見る一人の女性。左腕を動かす度、関節部に仕掛けられたモーターの駆動音が聞こえる。

炭素骨格(カーボナイト・ボーン)によって作られた機械式義手。外見は人工皮膚で覆われており、一見すると生身とは区別がつかない出来栄えである。

彼女の前には闇夜に輝く国際空港。

待ち人を乗せていただろう飛行機は、彼女の上空を先刻通り過ぎた。ということは、もう少しで出てくる筈だ。

吸殻を携帯灰皿に捨て、新たな煙草をポケットから取り出す。

「―― フィリーさん、煙草を吸い過ぎですよ?」

「む……っ」

フィリーは掛けられた声に、煙草を咥えようとした手を止める。声の方を向けば、そこにはキャリーケースを引く弟子の姿があった。

「別に良いでしょ? これでも本数減ってんのよ」

「どうせなら、禁煙したら良いじゃないですか。その方が健康的ですよ?」

「良いのよ、別に。今更、健康に気を使う歳じゃないのよ」

「歳じゃないって……フィリーさん、まだ25じゃないですか……」

「うっさいわね。トランク開けるから、さっさと荷物積みなさい―― シャル」

 

 

キャリーケースを後部トランクに乗せて、車は夜道を走る。

「しっかしまぁ……もう少し日本に滞在する予定だったのを、切り上げてくるなんてねぇ~」

「すみません。でも何か……居ても立ってもいられなくって……」

「まぁ、気持ちは分かるけどね。なにせ……愛しの彼のISがいよいよってなればね~」

「い、愛しの彼って……ち、違いますよ! 春斗はまだ――」

「―― まだ……何?」

「あ、あぁ………ぅう……」

助手席のシャルロットを横目にするフィリーに、言葉を続けられず、顔を真赤にするシャルロット。

「だって、電話では『すごく素敵な人』とか言ってたじゃない? それなのに?」

「うぅ…… 一度、振られました」

「振られたって……それで?」

「まだまだ挑戦中です。強敵がいますけど……負けません」

「だから言ったじゃない。男を落とすんなら(CYCLONE!)を(JOKER!!)して(EXTREME!)すればいいって」

「っ――!? そ、そんなの出来る訳無いじゃないですか!?」

顔を更に真赤にして声を荒げるシャルロットに、ニヤニヤとした笑を向ける。

「でも、妄想ぐらいはしてたんじゃない? シャルはエッチぃ子だからね~」

「え、エッチぃって……そんな妄想してませんっ!? なっ、何を言ってるんですか!!」

「ほほう~。彼からメール貰う度に、ニヤニヤしながらモニターの前で悶えてたのは誰だったかしらね~?」

「っ~~~~~~~!?」

『何でそんな事知ってるんですか!?』と、声にならない悲鳴を上げて髪を振り乱す。

シャルロットの留学の経緯を知っているフィリーだからこそ、その言葉はとてつもなくいやらしい。

 

茹で上がったタコよりも真っ赤になって、頭を抱える愛弟子(シャルロット)を尻目に、フィリーはアクセルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

今年の二月半ば頃。

世界中が初の男子IS操縦者発見に揺れる中、突然デュアン・ヒューイックが倒れ、プロジェクトチームは騒然とした。

とある軍施設で訓練中だったシャルロットも、訓練を切り上げて病院へと向かった。

 

シャルロットが病院に駆けつけた時には、デュアンは意識を取り戻しており、彼女も安堵して胸を撫で下ろした。

 

だが、事態はそれでは終わらなかった。

「―― シャルロット。私はもう、永くはないだろう」

「………え?」

突然の告白。最初は理解できず、聞き返してしまった。

そしてその意味を理解すると、シャルロットの全身から血の気が引いていくのが分かった。

デュアンによれば、その身は病に侵されており、もう手の施しようもないという。

 

「だから死ぬ前に……君に打ち明けなければならない事がある」

「や……やめて下さい! そんな……縁起でもない事……言わないでください!」

「シャルロット。君はきちんと知らなければならない……ラファール・ドラグーンの真実を」

「ラファール・ドラグーンの……真実?」

デュアンは静かに語り始める。

 

日本に、彼と手紙をやり取りしていた一人の少年がいた事。そしてその少年がある日、一機のISの設計図を贈って来た事。

それを基にして、ラファール・ドラグーンは開発されているという事を。

 

「そんな……それじゃあ、あのISは……!?」

「あれは、私の設計したものではない。君と同い年の…… 一人の少年が作り上げたものだ」

「っ……!」

「シャルロット、日本へ行きなさい。そして彼を探し出して……〈リンドブルム〉を完成させるのだ」

 

ラファール・ドラグーン開発最大の障害は、〈リンドブルム〉の制御プログラムだった。

イメージ・インターフェースと直結させた新機軸のシステムは、そのプログラム構成が複雑であり、今これを作れる人間はデュアン・ヒューイックを除いて他にいない状況だった。

 

「でも……何の手掛かりもないのに……」

「手掛かりならばある」

デュアンは小棚の引き出しから、カギを取り出した。

「これは……?」

「私の執務室の引き出しのカギだ。そこに一通の手紙が入っている」

「それが……手掛かり?」

デュアンは頷く。

「彼を見つけ、事情を話せば……きっと、力を貸してくれる筈だ」

「でも、もし見つからなかったら……?」

「今はそんな事を考える時ではない。必ず見つける、絶対に見つかると信じるのだ」

「……はい」

渡されたカギをジッと見つめながら、シャルロットは頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

科学技術局に戻ったシャルロットは、その足でデュアンの執務室へと入った。

机の引き出しの鍵穴に受け取ったカギを挿し込み、グルリと回す。

ガチャッ、という音と共にロックが外れ、シャルロットは引き出しを静かに開けた。

 

果たしてそこにあったのは数枚の書類と、開封された一つの国際郵便封筒。

シャルロットは封筒を手に取ると、その宛名を見た。

 

「ハルト・オリムラ……? ”オリムラ”って……まさか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『へぇ~、ISを使える男か……しかし、”オリムラ”って……また』

『フィリーさん……?』

『いや、ちょっと昔の顔見知りを思い出してね……”オリムラ”って名前は日本でも珍しい名字(ファミリーネーム)だからね。他人って訳は無い筈……ククッ』

『……?』

 

 

 

 

 

 

 

 

日本で見つかった、世界唯一の特異ケース『イチカ・オリムラ』。

彼の名字(ファミリーネーム)と同じ差出人。

シャルロットの手は自然と、中の便箋に伸びていた。三つ折りにされた手紙をゆっくりと開いていく。

 

『拝啓 デュアン・ヒューイック様

 

まずは久しく手紙を送れなかったことをお詫びします。その上で不躾ながら、博士に一つお願いをしたいのです。

 

フランスのIS企業のデュノア社はご存知でしょうか?そこに一人の少女がいます。名前はシャルロット・デュノア。

彼女はデュノア社の社長令嬢でありながら、その生まれと高いIS適正故に、デュノア社のテストパイロットとして冷遇されています。

 

私はある理由から彼女の境遇を知り、そして彼女を助けたいと思いました。

ですが、私は自由に動くことの出来ない身。そこで、どうか博士に彼女を助けて欲しいのです。

身勝手な願いだというのは重々承知しています。ですがそこを曲げて、どうか彼女が自分の生き方を選べるように力になって下さい。

交渉の助けとなれるよう、切り札(カード)を同封します。

 

                ハルト・オリムラ』

 

 

「………」

これはどういう事だ? どうして日本にいる見ず知らずの人間が、自分のことを知っている? どうして、自分を助けたいなどと言う?

 

シャルロットの手は自然と震えていた。

デュアンの話を合わせれば、この切り札というのは〈ラファール・ドラグーン〉の設計図だろう。

新技術の塊である新型ISの設計図ともなれば、その価値は黄金よりも遥かに高い。

ましてあれ程のISを設計したとなれば、世界中に彼の名前を知らしめることが出来る筈だ。

 

なのに、その設計図と引換にしてまで何故、自分を助けようとするのか。

 

 

「ハルト・オリムラ……。……? ハル、ト……?」

それは殆ど無意識の呟きだった。その直後、戦慄が彼女の中を駆け巡った。

 

一人だけ居るのだ。彼女の生まれや境遇、その全てを知る唯一の日本人が。

 

HARU。

顔も声も知らない、ネットワークの向こうの友人。いや、彼女の中では友人というカテゴリには収まってはいなかった。

彼のハンドルネームが、本名から取ったものであることは知っている。

ならば、これが偶然である筈がない。

 

「ハルト・オリムラ……」

 

ギュッと、その手紙を抱きしめる。世界的名誉と引き換えに今の自分がいるのだと、痛い程に分かってしまった。

嬉しい気持ちと、申し訳ない想いとが混ざり合い、グチャグチャになってシャルロットの瞳から零れて落ちて行った。

 

 

 

 

この数日後。シャルロット・デュノアは日本のIS学園へと行く為の手続きに入る。

だが元々は彼女の入学予定は無かった為、入学申し込みの期限はとっくに過ぎてしまっていた。

更に竜騎士計画(プロジェクト・ドラグーン)はIS操縦者育成も目的としている為、現時点でのシャルロットの留学にはフランス政府が難色を示していた。

 

そこをデュアンが押し通す形で、彼女はついに六月、日本へと旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

フィリーの運転する車はゲートを抜けて、いよいよ施設内に入る。

おそよ2ヶ月ぶりのそこは、留学当時は建設中だった施設が幾つか完成していた。

 

「あそこって、ドラグーン用の新しい武装実験施設でしたよね? 何時、完成したんですか?」

「あぁ、ついこの間ね。ラファール・ドラグーンも明後日のデビューに向けて、あそこで最終調整中よ」

「明後日? 明日じゃないんですか?」

「あのねぇ、本当ならもう少し後だったのよ? それを無理矢理に前倒しさせたんだから……誰かさんの為にね?」

呆れたとばかりにフィリーは肩をすくめる。元々の予定を前倒しさせた原因であるシャルロットは、申し訳ないと助手席で小さくなった。

 

 

車は最も高い建物―― 第三技術研究棟の前で停車する。

 

 

 

 

 

「―― おぉ、もう帰ってきたか」

 

 

 

 

 

「っ――!?」

あの時の焼き直しのように、入り口には一人の老人が立っていた。

「ヒューイック……博士……!?」

驚きに目を見開くシャルロット。彼が退院しているなど聞かされていなかったのだから、それも当然の事だ。

「うむ。久しぶりだな、シャルロット」

「久しぶりだなって……何時、退院なされたんですか!? 僕、全然知らなかったですよ!?」

「あ~……うむ……まぁ、あれだ。色々とあれが何な事情がだな……」

ヒューイックは何故か言葉を濁す。それを見て、フィリーは溜息を吐いた。

「博士、正直に言った方が良いですよ?」

「う、むぅ……」

「……どういう事ですか?」

怪訝な表情で尋ねるシャルロットに、フィリーは何とも言えない複雑な顔を見せた。

「博士が倒れたのはね……単なる寝不足と過労よ」

「……は? いや、だって……もう永くないって……? ずっと入院もしてたのに……?」

思わず聞き返す。あれだけ深刻そうに言っておいて、それはないだろう。

「そりゃ、70を超えれば先なんて永くないでしょうよ。入院は単なるパフォーマンスだったようよ?」

「………」

言われれば確かにそうだ。酷く当たり前のことだ。シャルロットは呆然とし、そして――。

 

 

 

―― ガチャン、パァンッ!

 

 

 

「ちょっと待て!? 何故、灰色の鱗殻(グレー・スケール)を用意する!? 流石にそれは即死するぞ!?」

「博士……僕がどれだけ心配して……なのに、ただの寝不足と過労……!? どうして、そんな大嘘吐いたんですか!?」

「分かった! 言うから……それはしまえ!?」

「ですが断ります。返答次第でドスンと行きますから」

「だから、それは死ねると言うとるだろう!?」

「70過ぎたら先は永くないんですから、今亡くなっても同じだと思いませんか?」

「思わんわっ!! とにかく話を聞けいっ!!」

ジリジリと距離を詰めてくるシャルロットを何とかなだめようと必死に叫ぶと、シャルロットはとりあえず灰色の鱗殻(グレー・スケール)を引いた。ただし、展開状態はそのままだ。

 

「実際、私が倒れたことでR-ドラグーンの完成が大幅に遅れる可能性があったのは事実で、彼を探してもらって協力を仰ぐよう言ったのも明確な事実だ。だが、それだけであんな芝居はせんし、元々の入学予定者に密かに指示するのでも、事足りたのだからな」

「だったらどうして……?」

「どうしても何も……好いた男に会いたいんじゃないかと思ってな?」

「なぁっ……!? なななな……何で博士まで知ってるんですか!?」

「そりゃあ……のぉ?」

と、デュアンの視線がシャルロットの後ろのフィリーに向かう。

「……フィリーさん?」

ガチャン、とハイライトの消えた瞳でシャルロットが振り返る。

「いや~……つい、博士にシャルのメールフレンドの事言っちゃって……おっと」

バコーンッ!! と、バンカーがアスファルトを砕く。因みにその場所に居たフィリーはひょいと飛び退いて躱している。

「危ないじゃない。それ当たったらさすがに痛いわよ?」

痛いどころか普通なら死にそうなものだが、フィリーは涼しい顔でシャルロットを諌める。

「当たったら、でしょう? 当たらないように、躱し続けてれば良いじゃないですか?」

「う~ん、そりゃしんどそうね~」

ジリ、ジリと距離を詰めるシャルロット。対するフィリーは余裕の表情で、煙草を取り出して火まで点けている。

 

 

「ふんっ!!」

 

ドガーンッ!

 

「でやぁっ!!」

 

ズガーンッ!!

 

「とりゃあっ!!」

 

ボガーンッ!!!

 

 

地面に次々と開けられていく穴。そして走る亀裂。しかし一発もフィリーには当たらない。

「ほらほら、もっと腰を入れて打ちなさい。手だけで振っても当たんないわよ?」

「ずっと思ってましたけど、本当に人間ですか!?」

「失礼ね。チフユに比べたら遙かに人間やってるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 日本。

 

―― ピシッ。

 

「っ!? あの……織斑先生?」

「何故か突然、昔の知り合いと話をしたくなったな……」

「だからって、握力だけで強化プラスチック製の湯のみに亀裂を走らせないでください!!」

 

 

 

 

 

「―― えー、床の修繕の手配はいつも通りとして……シャルロット、ISを渡しなさい」

「はぁ……はぁ………え? リヴァイヴをですか?」

予備弾薬全てを使い切ったところで追いかけっこは終了し、デュアンは息を切らしてうずくまるシャルロットに言った。

「そうだ。もうすぐ専用機が入れ替わるし、データも今の内に解析しておきたいからな」

「あぁ、そうですね。……はい」

シャルロットは、ネックレスを首から外して渡す。

「では、今日はもう休みなさい。明後日には忙しくなるのだからな」

「……はい」

首から消えた感触に指を這わせながら、シャルロットは答えた。

 

 

 

「相変わらず、書類が山のようになってますね~」

施設内、局員寮。シャルロットとフィリーは部屋へと入る。

シャルロットがチームに所属していた時から、二人は師弟として同室で寝起きをしていた。

というよりも、フィリーが使っている部屋は3LDKの広さで、およそ一人で使うには広すぎる。

それと共に、身体的ハンデを抱えるフィリーを補助する意味もまた、同室の理由である。

 

「さぁて、まずはシャワーでも浴びてきなさい。その間に、軽く食べれるものでも用意するから」

「はい。ありがとうございます、フィリーさん」

「その代わり、明日の朝食はあんたが作りなさいよ?」

「寮にも食堂あるのに……相変わらず妙な所は拘るんですね?」

「生憎とこの国のコースの拘りとか合わないし、それにあの(・・)チフユが家事が全くできないって知ったら……そりゃあ、拘りたくもなるわよ」

 

♪~♫~♫~

 

などと言って、笑いながら冷蔵庫の中身を漁っていると、突然フィリーの端末がメール着信を知らせた。

「ん……何かしら?」

端末を取って、メールボックスを開く。そこにあったのは一文だけ。

 

 

 

『―― お前か?』

 

 

 

「………」

送信者は織斑千冬だった。

しかも宛先を見るに、ピンポイントで送信している。

 

「……ほらぁ。あたしはまだ、普通に人間してるでしょ~?」

 

と、シャワールームの弟子に呟いたフィリーだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

翌日の朝。

部屋に揺れるコーヒーの香り。

「おまたせしました」

食卓にはフィリーの好みに合わせた朝食が並ぶ。

といっても、トーストにハムエッグ、サラダとデザートにフルーツの缶詰だが。

「おぉ、久しぶりのシャルの料理! いやぁ、楽しみにしてたわよ」

フランスの伝統的朝食は甘い物が並ぶ上、コースのように食べるために同じ皿に二度もフォークを付けない。

そういった国民性に関してだけは、フィリーは未だに馴染めなかったりする。

同居当初に始めた事は、シャルロットの脱フランス式であったりする。

 

 

「―― ところで、今日の予定はどうなってるんですか?」

「とりあえず、午前は空いてるわよ。午後からは明日のデモンストレーションの為の打ち合わせよ」

「式典やるんですよね……やだなぁ」

「あくまでも主役はISだから良いじゃない。あたしなんて、自分がメインの式典なんて何回やらされたか……」

「……あぁ~、そうですね~」

トーストをかじりながら、シャルロットは同情の声を上げた。

「な~に他人事みたいに言ってんのよ? あんたが代表になったら、そんな目にあんたが遭うのよ?」

「う゛……」

トーストをかじる口が止まる。どうやら想像してしまったようだ。

「ま、折角の半休だし……買い物にでも行ってみる?」

「買い物……はい、行きましょう!」

張り切った返事を返して、シャルロットはハムエッグにナイフを掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

科学技術局から数キロ離れた高台の上。二人の人物がそこにはいた。

一人は双眼鏡で施設を注意深く見ていたが、やがてそれを外した。

「……あそこに例のISが?」

「はい。ですが警備は厳重で、そう易々と潜入は出来ません」

「だろうな。仮にもフランスの国運を懸けた第三世代ISだ。生半可な警備なんざしてねぇだろうさ」

そう言いつつも、女の顔は凶悪に歪む。それだけ重要かつ重大な物を、これから奪い去ってやろうという愉悦。

そして、そんな途方も無い力が自分の物になるという、恍惚。

「明日、あの施設では披露式典が行われます。そこが唯一、潜入のチャンスです。必要な物は全て揃っています」

もう一人の女は持っていたA3サイズ程の封筒を渡した。

「あぁ、ところで……一つ、確認しときたんだけどよぉ」

「何でしょうか?」

「―― 多少なら、暴れるのは……ありか?」

「人的被害は極力避けるようにとの事です。施設に関しては言及されていません」

「オーケー、よく分かった……くくっ、楽しくなりそうじゃねぇか……!」

 

さぞ楽しそうに、嬉しそうに、女―― オータムは堪え切れない笑いを零すのだった。

 

 

 

 

第三技術研究棟、地下ISルームにおいて、とある作業が行われていた。

装甲を外され、コードを何本も挿されたオレンジのISが、そこにはあった。

「―― では、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡのコアブロックの接続を解除します」

「慎重にな」

デュアンの見守る中、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡからコアが、ブロックユニットごと外されていく。

 

「ですが博士……この実験は成功するのでしょうか?」

「もとより理論証明の為の実験だ。失敗してもどうという事はない。それより、R-ドラグーンの最終調整はどうなっている?」

「そちらは滞り無く。全ユニットは正常に機能しています」

「うむ。ならばよし」

やがて外されたコアブロックが、数人の手によって台へと乗せられた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

時は過ぎ、いよいよ式典当日の朝である。

シャルロットはISスーツに着替え、その上から軍用の制服を着ていた。

IS開発に遅れていたフランスにとって、この時はいよいよ待ちわびた瞬間であった。それ故、大統領を含め、各界の要人も多く式典に参加する。

科学技術局の敷地内に設けられた特別会場では警備に関する最終確認と、式典の予行が行われていた。

 

「いよいよね」

「はい。やっと、ここまで来ました……」

同じく制服を着たフィリーの言葉に、シャルロットはギュッと顔を引き締める。

 

ラファール・ドラグーンが、ついに世界に向けてその翼を広げる時だ。

 

 

 

 

同時刻。ミラーシェードに赤いスーツの女性が、敷地内を歩いていた。首から下げているのはマスコミ用のIDである。

「ふぅん。無駄に広いだけじゃないわね……警備もしっかりしてるじゃない?」

などと言いながら、周囲を見回す。式典は午後からである為、要人はまだ表に出てきていない。

だが、今回の彼女の目的はそれではない。

 

「さぁて……お仕事開始、しようかねぇ」

 

―― ドォオオオオオオンッ!!

 

ニタリと笑ったその瞬間、爆音が施設全体を揺さぶった。同時に黒煙と紅蓮の炎が第二研究棟から噴き上がった。

 

 

「っ!! 今の音は……!?」

「爆発……!? 場所は第二研究棟か……!?」

「行ってみましょう!!」

二人は現場に向かって走りだした。

 

到着した時には既に火の手は大きく上がっており、警備に付いていたISと、職員らが消火活動を開始していた。

「フィリーさん、私達も!」

「―― 待ちなさい、シャル」

すぐさま消火活動を手伝おうとしたシャルロットだったが、フィリーはそれを止め、何かを思案するように指を顎に添える。

(警備が緩くなるこのタイミングで、一番端にある施設で爆発……?)

爆発の起こった第二研究棟の位置はラファール・ドラグーンのあるIS武装実験施設の反対側である。

 

フィリーは周囲を見回す。派手な爆発と轟々と上がる炎、そして黒煙に誰もが注意を引かれ、ここに人が集まりつつある。

 

「シャル、あんたは博士の所に行きなさい! まだ第三研究棟にいる筈だから!!」

「えっ!?」

「嫌な予感がするの! あたしは格納庫に向かうから、ISを受け取ったらすぐに出て!!」

「っ……分かりました!!」

シャルロットは返事をするや、その足を返して走りだした。フィリーも近くにあった車に乗り込んで、IS格納庫へと走らせた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

IS武装実験施設。その入口を固めるのは武装した軍の兵士だ。

「爆発か……テロのたぐいじゃないだろうな?」

「まさか。ここは国の重要施設だぞ? そんなところに何処が……誰だっ!!」

兵士が正面に現れた女に気付き、銃を向ける。

「報道関係者か……ここ一帯への立ち入りは許可されていない筈だ。即刻もどれ! さもなければ身柄を拘束することになるぞ!?」

「あら、それは困ります。でも、私もそう引くことが出来ないんですよ?」

困ったようにいう女だったが、その口元がわずかに哂いに歪んでいた。

「っ――!」

瞬間、兵士は女に向けて発砲していた。連続して炸裂音が響く。

警告ではなく、完全に殺害を狙った射撃。普通ならば、既に事は終わっている―― 筈だった。

 

「はっ、いきなりぶっ放してくるたぁ……死んだぞ、テメェ!!」

しかし、それは一発も女には当たらなかった。その身を、まるで蜘蛛の足ような物が守ったのだ。

「あ、IS……だと!?」

「―― 死ね」

開かれた蜘蛛の足の先端から、閃光が走った。

 

 

門ごと兵士を吹き飛ばしたオータムは、いよいよその中へと足を踏み入れる。

中にも当然、警備の兵士や最終チェックをしている研究員らの姿もある。

そして、施設中央。そこにあったものを見つけ、オータムは狂喜と狂気の声を上げた

「見ぃつけたぁ……っ!!」

 

 

 

IS格納庫にあった量産型ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅠに制服のままで乗り込み、フィリーは急いで向かう。

行く先はIS武装実験施設。これが事故でなく、故意に起こされたのであれば―― その目的は一つしか無い。

「っ……やっぱりか……!」

ハイパーセンサーが見せるのは、破壊された施設。もうもうと煙が上がっている。

スラスターの出力を上げて、破壊されたゲートから中に滑りこむと、そこからの急停止に踏ん張った脚部ユニットと床が擦れ、火花を散らす。

「っ……これは……」

そこは余りにも酷い状況だった。兵士、職員がそこら中に倒れている。偶然が故意か、しかし全員がギリギリで死なないでいる。

すぐにでも救助をしたいところだが、事態はそれを許しはしない。

 

「こいつがフランスの第三世代機………いいねぇ、最高だ……!!」

 

何故なら、乗り手のいない筈の〈ラファール・ドラグーン〉に、乗り込んでいる者がいたからだ。

 

そいつは、R-ドラグーンの状態を一つ一つ確認するかのように、指を、スラスター翼を動かしている。

「なぁ、あんたもそう思わないか? このIS……すげぇよなぁ……フランスなんかに使わせるにゃ、勿体無いシロモノだぜ……!」

間違いない。この女が全ての犯人だ。フィリーはそう直感した。

 

「その機体は……あんたみたいなのが、使って良いもんじゃないのよ!!」

 

フィリーはアサルトライフルを右手に、ISアーマー非装備の左手にはマシンガンを展開する。

 

「はっ! 第二世代のカスタム機か……丁度良い、こいつの遊び相手になってくれよ!!」

 

 

狂気の声と共に、リングユニット〈リンドブルム〉が稼働を開始する。

それと共にリングが発光し、スラスター翼が開く。

「すぐに壊れんじゃねぇぞ……? しらけちまうからなぁっ!!」

その手にエネルギーライフルを展開し、オータムは引き金を引いた。

 

夢の翼は狂者によって奪われ、凶悪なる破壊者へと姿を変えた。

 

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