ごう。と一陣の風が吹き抜ける。
睨み合うのは、背中に光り輝くリングを背負う二機のIS。
天空にて緑白の竜を駆るのは、亡国機業エージェント〈オータム〉。
地に在って橙白の竜を駆るのは、フランス代表候補生〈シャルロット・デュノア〉。
「シャル……あたしが前菜(オードブル)になってあげたんだから……主菜(メインディッシュ)はきちんと務めなさいよ……?」
「了解です。最高のメインディッシュ……ご馳走して見せます」
ボロボロになりながら煙草を吹かすフィリーに、シャルロットは力強く答え、その手にアサルトライフルとマシンガンを展開させる。
「何処の誰だか知らないけれど……覚悟は出来てるよね?」
「―― ハッ。同型機だと思って警戒してみりゃ……汎用武装かよ。このドラグーンにゃ、そんなもん通用しねぇぞ?」
「……まさか、たったそれだけで勝った気でいるの?」
ドラグーンⅡのウイングが開き、オレンジの光が放たれ始める。
「実際に勝ったぜ……そこのロートルになぁっ!!」
ドラグーンⅠが力強くリンドブルムを発光させ、その手にエネルギーライフル〈アヴェルス〉と、エネルギーショットガン〈タンペット・ドゥ・ネージュ〉を展開させた。
戦闘開始の合図は、オータムの砲撃。〈グロワール〉が閃光を放ち、シャルロットを襲う。
すぐさまシャルロットは急上昇。攻撃を躱す。大地が爆ぜ土が舞い上がる中、それを抜けてオレンジの光が舞い上がった。
それを追って、白の光も上空に上がっていく。
そして、地上に一人残ったフィリーは――
「ゴホ、ゴホッ……! 義手はオシャカで落とされて、更に土まみれに泥まみれって………ホント、最悪だわ」
―― などとブツクサ言いつつ、火の消えてしまった煙草を放り投げた。
〈ヴェント〉が火を噴き、鉛の矢がドラグーンⅠを襲う。だが、オータムは同質の装甲で作られたシールド〈デュール・ポルト〉を展開し、その尽くを阻む。
「〈アイギス・ドライブ〉……まさか、使いこなしている!?」
イメージ・インターフェースをトリガーとする〈アイギス・ドライブ〉は、相手の武装に対する認識が鍵となる。
つまり、どういう特性を持った武器なのかを操縦者が瞬時に判断し、それが〈アイギス・ドライブ〉を起動させる為、生半可な戦闘経験では完全に使いこなす事は出来ない機能なのだ。
「何、驚いてやがる! 動きが鈍いぜ!?」
オータムは〈タンペット・ドゥ・ネージュ〉をシャルロットに向ける。銃口に光が集束し―― 一気に弾けた。
「っ――!」
放たれるのは白いエネルギーの散弾。タンペット・ドゥ・ネージュ―― ”吹雪”の名に相応しい、物理弾には不可能な圧倒的な面制圧力。
シャルロットは左の雫型装甲盾〈レフト・シェル〉とシールドを展開して防御するが、全身を撃ちつける弾雨が機体を押し流す。
「くっ……!」
バランスを崩しながらも相手に攻撃をさせまいと、マシンガンを撃つ。だが、アサルトライフルよりも攻撃力の低いそれが、ドラグーンⅠの侵攻を制するなど出来はしない。
逆に、〈アヴェルス〉の閃光がシャルロットのマシンガンを粉砕した。
オータムはそのまま、あっという間にシャルロットを追い抜き、〈マチエール・スライサー〉を振り上げた。
「速い……!」
「テメェがおせーんだよ!!」
完全起動状態のリンドブルムを持つドラグーンⅠの出力は、今のドラグーンⅡを上回る。
それはスラスター出力にも、如実な差として現れている。
ラファール・ドラグーンのハイスペックは、リンドブルムの使用を前提としている為、レベル1でしか使用できないシャルロットは必然的にスペックで劣ることになる。
ガキィインッ!!
差し込んだシールドが容易に斬り裂かれ、あわや腕を斬り落とされそうになる。
ギリギリでそれを躱し、シャルロットは高速切替(ラピッドスイッチ)したショットガンを乱射。狂竜の侵攻を阻む。
対するドラグーンⅠの〈アイギス・ドライブ〉も、絶対無敵という訳ではない。
物理ダメージを最低限に抑えるが、ノーダメージという訳ではない。
そして、ショットガンクラスの攻撃を至近距離で受ければ、その衝撃に足を止められてしまう。
これはISが回避行動を前提で作られた物であることと、一定以上の衝撃に対してオートで緩和を行うからだ。
ラファール・ドラグーンは無敵ではない。だが、最強になりうるだけの潜在能力を秘めている。
それを引き出すのは、操縦者の能力次第。
そして最悪にも―― オータムはその能力を持っていた。
シャルロットはショットガン、そしてアサルトカノンという高火力で対抗する。
だが、高火力は連射力に劣り、それはすなわちシャルロットの戦闘力を大幅に殺す。
彼女の強みはその器用さにこそある。それは
だが、ドラグーンⅠは僅かのダメージを覚悟して飛び込むだけで、その殆どを殺してしまえる。
模擬戦で一夏がやった突撃などとは比べものにならない、圧倒的脅威。
なぜなら、一夏が一か八かで突撃するのに対して、オータムは完全なる確信の下に突撃を仕掛けてくる。
そう、竜の鱗に傷を付けられるものなどいないという確信だ。
その確信があるからこそ、心理的ブレーキなど踏まない。そして、その確信は真実であった。
シャルロットは残弾とダメージ率を計算し、内心で舌打ちする。
ドラグーンⅠを落とすには、シールドエネルギーを削り切らなければならない。
だが、〈アイギス・ドライブ〉のせいでライフル、マシンガンの攻撃では殆ど効果を出せず、牽制にすら使えない。
有効打は、至近距離のショットガンとアサルトカノン。後は
どう計算しても、弾が足りない。
(せめて……リンドブルムを使えるようになれば……!)
リンドブルムの最適化が終われば、現在封印されている機能を全て開放できる。
そうなれば、対等に戦うことが出来る。
なんとしても、それまでの時間を稼がなければならない。
空に舞い踊る二つの光に、フィリーは顔をしかめる。
「……どういう事?」
フィリーはデュアンに通信を入れる。
『おぉ、生きていたか』
「博士、どういう事ですか? タイプⅡの機動力……あんなものの筈がないのに」
『未だ、リンドブルムがコアに最適化されていないのだ。稼働率は40%程度だろう』
「40%……なるほど、道理で」
ラファール・ドラグーンは基の設計図から、二つのタイプが派生している。
性能はクセのない安定型で、リンドブルムを武装面に重視したラファール・リヴァイヴの後継機であるタイプⅠ。そして、リンドブルムを機能特化に傾け、機体スペックを重視したカスタム機の後継でもあるタイプⅡである。
「……てことは、〈ドラゴン・スケイル〉も起動していないんですね?」
『うむ。何とか最適化までの時間を稼げれば、あるいは……。そっちで何とかフォローできんか?』
「リンドブルムの事をシャルは?」
『出撃前に言ったから把握している』
「―― なら、必要ありませんね」
『……?』
「知らないなら問題ですけど……知ってるなら大丈夫です。それに、ちょっとやそっとでやられるような……そんな柔な鍛え方はしてないつもりですから」
ニヤリと笑うフィリーは、空を改めて見上げた。
光が爆発し、オレンジの機体が地面へと落ちて行く。それを見ても尚、フィリーはシャルロットへの確信に近い自信を持っていた。
戦うべき理由と、真に得るべき翼を得た彼女に―― 敵などいない。そう思っていた。
「―― ぐぅううう……っ!!」
全身を襲う衝撃。大砲の直撃を受けて、シャルロットは大地へと叩き付けられた。
グラリとする体を何とか支えながら、立ち上がる。
ズドォオオオオオオン!
「―――っ!!」
ドラグーンⅠの放った破壊の閃光が、シャルロットの周囲に降り注ぐ。
地面が爆発し、シャルロットの体を揺さぶる。
降りつける砂塵をそのままに、シャルロットは空を―― そこにいる敵を睨む。
「ハッ、とんだ拍子抜けだぜ。第三世代系武装はどうしたよ? 使わないのか?」
「っ……黙れ!」
今のドラグーンⅡには、ドラグーンⅠのような武装は一つもない。もし在ったとしても、今の状態では使用できない。
「まぁ、良いか。さっさと終わらせて……そいつも頂いていくぜ」
「っ……!?」
にぃ、と笑うオータム。それは余りにも凶悪で。
「ドラグーンは絶対に渡さない……! その機体も取り返す……!」
「ほう? どうやって―― だよ!!」
〈アヴェルス〉の最大出力射撃が地を薙ぎ払うように放たれ、大波のような土砂が舞い上がり降りつける。
「この力……気に入らねぇもん全てをぶっ飛ばして、何もかもをぶっ壊す……この最高の力はぁっ!!」
更に〈グロワール〉の砲撃が、彼方の森目掛けて放たれる。高エネルギーは木々を吹き飛ばし、紅蓮の炎を容赦なく灯す。
「お前らみたいクソが持つべきじゃあない、この〈オータム〉様が持つに相応しい力なんだよぉ!!」
高笑い、嘲笑い、オータムは狂竜の力を見せつけるように撃ち放つ。
(何もかもを壊す……破壊の……力……?)
『ねぇ、春斗の夢って……何?』
『いきなりどうしたの、そんな事聞くなんて?』
『だって、ラファール・ドラグーンは自分の夢のために作ったって言ってたから……その夢って、何なのかなって?』
『夢、か……この状態で言うのもあれだけど……宇宙に行くこと、かな?』
『宇宙に?』
『そう。いつか人類を宇宙に進出させる……ISには結局出来なかった事。リンドブルムはその第一歩だよ』
『人類を宇宙に……って、そんな凄い夢を持ってたの!?』
『まぁ、実現出来るかどうか……難しい夢だけどね』
『大丈夫、春斗なら絶対に叶えられるよ!』
『……そうかな? というか、まずは自分の体に戻るのが先だけどね~』
『それもきっと大丈夫だよ。必ず戻れるから……!』
『―― ありがとう、シャル』
「―― かじゃない」
「……あ?」
「破壊のためなんかじゃない……!! この力は……いつか人類を星の海に導くためのものだ! そのための翼を……彼の夢を……これ以上、穢させたりしない!!」
「はぁ、何言ってんだ?」
「そして、彼の夢を穢したお前だけは……絶対に許さないっ!!」
「―― うるせぇよ、クソガキ」
オータムは冷めた目付きでシャルロットを見下し、唯一積まれていた実弾武装―― 連装ミサイルランチャー〈スルト〉を展開した。
引き金が引かれ、解き放たれた破壊の矢が容赦なくシャルロットに襲いかかる。
「うぉおおおああああああああああああああああああっ!!」
シャルロットの魂の咆哮。それさえも呑み込んで、爆炎が彼女を周囲一帯もろともに吹き飛ばした。
『――――』
「……ちっ。これじゃ機体回収は無理かもな?」
もうもうと上がる黒煙にオータムは頭を振った。夢だのなんだのと青臭い台詞に苛立ったとはいえ、せっかくの新型をもう一機手にできるチャンスを壊してしまった。
「ま、一機あれば充分だな。さっさと引き上げるか」
『おやおや、何処に行こうとしてるの?』
「―― フィリー・ミヤムラ……どうやら、殺されたいらしいな?」
『冗談。ただ一つ、良い事を教えてあげる』
「……?」
『あたしの弟子は、あの程度で死ぬタマじゃないわよ』
「っ……!?」
フィリーの言葉に、オータムはハッとして黒煙の中心を見やった。
「まさか――?」
―― 敵性IS 存在確認。エネルギー反応急上昇 ――
「―― っ!?」
黒煙を穿ち、
そして現れる―― 竜の名を冠するISと、その操者の姿。
「上等だよ、シャルロット・デュノア。コイツで直接ぶった切ってやるよ!!」
オータムが〈マチエール・スライサー〉を展開し、一気に加速。獲物を狙って襲いかかる猛禽の如く、飛び掛った。
―― リンドブルム最適化完了。可変装甲〈ドラゴン・スケイル〉起動開始 ――
シャルロットは左手のシールド装甲を掲げる。
―― レフト・シェル ガードモード ――
装甲が開いて、そこから強力なエネルギーシールドが構築される。シールドは振り下ろされた〈マチエール・スライサー〉を正面から受け止めた。
激突した瞬間、拮抗するエネルギーが反発し合って閃光が飛び散る。
「何だと……!?」
驚きに目を見開くオータム。今までどんな装甲も斬り捨てた刃が、一切進まない。力で押し込むことも出来ない。
「……見せてあげるよ」
「ッ……!?」
「ラファール・ドラグーンの……本当の力を!!」
―― ライト・エッジ ブレードモード ――
右翼型装甲が上下入れ替わるように動くと、マテリアルブレードが出現。更にそれを包み込むようにして、オレンジのエネルギー光が輝く。
「何っ!?」
「たぁああああああっ!!」
本能的にその危険を察知したオータムは咄嗟に反応。半身を引くように躱す。
―― ギィィィンンッ!
切っ先がドラグーンⅠの装甲を掠め、斬り裂く。
「物理とエネルギーのハイブリッドブレード……!?」
「驚くのは―― まだ早いよ!!」
「っ……!」
切り返して振るう斬裂。肩部装甲に深い爪痕が刻まれる。
オータムはそのまま、スラスターを全開にして上空に飛び上がる。そして〈アヴェルス〉を展開した。銃口がシャルロットを狙う。
シャルロットはキッとオータムを睨んだ。
今までならば、追いつくことも振り切ることも出来なかった。だが、今は違う。
「―― 飛ぶよ、ラファール・ドラグーンッ!」
―― ウエスト・ガスト レッグ・ゲイル 起動 ――
スラスター翼と同時にウエストアーマー、レッグアーマーが開き、光波を巻き起こして一気に飛翔する。
「ソイツはまさか……展開装甲か!?」
「可変装甲〈ドラゴン・スケイル〉。ドラグーンのオートクチュールだよ!!」
可変装甲。それはかつて、篠ノ之束によって開発されながら放置されてた物を、春斗が完成させた特殊兵装である。
能力の違う複数のユニットを拡張領域に収め、リアルタイム換装を行うことであらゆる状況に対応する。
後の展開装甲へと繋がるミッシングリンク――武装一体型装甲。それが可変装甲〈ドラゴン・スケイル〉である。
本来、三つのパターンが開発される予定であったが、開発の遅れを懸念し、シャルロット用に最もバランスのとれた組み合わせを選び出し、このドラグーンⅡは完成したのだ。
ウエスト、レッグの高機動ユニットは降り注ぐ光弾の雨を躱し、レフト・シェルの防御シールドは光弾を弾く。
そしてライト・エッジのブレードは、陽光を写したかのように煌々と煌く。
「この……ヤロォッ!!」
風をまとい、自在に舞い踊るシャルロット目掛けて何度となく連射。しかし、直撃の一つすら行かない上、あのシールドが攻撃を完全に防いでいる。
それどころか、最初に離した距離が徐々に詰められている。接近戦はあのブレードが厄介で遠距離を選択したが、これではまるでさっきの焼き増し―― 否、立場が逆転しているから焼き増しではない。
シャルロットはスラスターを全開にして一気に距離を詰める。
「なめてんじゃねぇぞ!!」
カウンターのように、〈アヴェルス〉を高出力で撃ち放つ。が、シャルロットの姿が一瞬で射線上から消える。
「後ろだと……っ!?」
ハイパーセンサーが背後の反応を示す。
オータムが振り返ると、光刃を刺突で繰り出すシャルロット。反射的に〈アヴェルス〉を盾にする。
「っ……!?」
突き刺さる刃。
「ハァアアッ!」
シャルロットはブレードを横に振るい、〈アヴェルス〉を斬り捨てる。バチバチとスパークし、爆発。
「この……ガキがァッ!!」
オータムがエネルギーカタール〈リュミエール・ラム〉と〈デュール・ポルト〉を展開。
至近距離で光刃が激突し、火花が散る。
「とっとと潰れちまえ、ガキが!!」
「負けないよ! 何があったって……負けるもんか!!」
二機のパワーは互角で、掠める刃が互いの装甲をえぐり、傷つける。
ならば、その差を決定づけるものは何か。
「オラオラ、どうしたっ!!」
「くっ……! このっ……!」
元の技量か、実戦経験の差か。徐々にシャルロットが押され始める。
「くぅっ……はぁあああっ!」
起死回生。振り上げた一撃が〈リュミエール・ラム〉を弾き飛ばす。
ここがチャンスと、シャルロットはブレードを振り下ろす。が、それを左手で受け止める。
「潰れろっ!」
放たれた〈プレ・クラテール〉の波動がライト・エッジのブレードを粉砕する。
更に、シャルロットの顔面を左手で鷲づかみにした。
「っ……!」
―― ライト・エッジ ナックルモード ――
粉砕されたブレードに代わり、打撃用ユニットが出現。エネルギーを纏った、文字通りの鉄拳がオータムの狂爪を砕いて弾く。
「ぐぅあああああっ……!?」
「もう一発だぁああああああああっ!!」
渾身の力を込めて、ナックルをオータムに叩きつける。咄嗟にシールドでブロックするも、その打撃痕が刻みつけられる。
「糞が……! これ以上、新型を傷つけられてたまるか……!」
追撃を仕掛けようとするシャルロットに向かって〈プレ・クラテール〉を発射。
エネルギー波を受けて、シャルロットの足が止まった瞬間を見計らい、空域を離脱するべくスラスターを噴かせた。
「っ……逃さないっ!!」
シャルロットもすぐにスラスターを全開にして、それを追った。
全力で飛翔する二機。機動力で勝るドラグーンⅡが段々と、その距離を詰めていく。このまま行けば、あと少しで追いつける。
が、シャルロットはそこでとんでもないものを見てしまった
「町っ……!?」
そう。向かう先には小さな田舎町があったのだ。もしあそこに入られたら、間違いなくそれを人質に取られる。
オータムの狙いは撤退ではなく、こちらが全力で戦えない状況に持ち込む事だったのだ。
「やらせない……ラファール・ドラグーンッ!!」
―― リンドブルム レベル3 ――
更に眩く輝くリンドブルム。それに合わせて、ウエストアーマーとレッグアーマーが強烈なエネルギーを放ち、更にチェストアーマーとショルダーアーマーが開き、そこからもエネルギーが溢れ出す。
〈ヴェール・オブ・アテナ〉。
リンドブルムの生み出す強大なエネルギーでドラグーンⅡの全身を包み込む、攻防一体のエネルギーフィールド。
それは螺旋を巻いて、さながら橙の弾丸の如くドラグーンを変える。
更なる速度で、シャルロットはオータムとの距離をグングン詰めていく。
「ここで……落とす!!」
シャルロットはナックルをギュッと握り固める。この速度からの一撃ならば、間違いなく叩き落とせる自信があった。
「―――ハッ!」
あざ笑うような声。瞬間、オータムはインメルマンターンでシャルロットをやり過ごすと、その場で停止。同時に〈グロワール〉にエネルギーをチャージする。
シャルロットもすぐさま停止し、切り返して反撃をしようと動く。
「おっと、そっから動くと町が大変なことになるぜ!?」
「なっ……!?」
今、ドラグーンⅡがいる場所は、ドラグーンⅠと町の間。つまり、この攻撃を躱せば町が被害を被る事になる。
「大変だよなぁ……守るもんがあるってなァよ!?」
バチバチと、砲身がスパークを起こす。最大出力で撃ち放つつもりだ。
最大出力を相手にしては、ガードモードでも防ぎ切れない。
だが防ぎ切らなければ町が破壊される。
「やらせない……これ以上はっ!!」
―― レフト・シェル レイモード ――
ガキン、とレフト・シェルの先端部が開き、現れた空間に、エネルギーが集束していく。
「おもしれぇ……撃ち合おうってか!!」
「お願い……ラファール・ドラグーンッ!」
「消えちまえぁああああああああっ!!」
ドラゴンブレスと見紛うほどの強烈な光。全てを呑み込んで破壊する、悪意の奔流。
「行けぇえええええええええええっ!!」
レフト・シェルから光線が走る。それは〈グロワール〉と比べて細く弱く見えた。
だが、ぶつかり合う二つの力は拮抗する。
濁流の如き高出力エネルギーと、ウォーターカッターの如き高圧縮エネルギー。
激突が生み出した閃光は、まるで第二の太陽のように周囲の影を消し去る。
レイモードから放たれた光は、〈グロワール〉の砲撃を真正面から撃ち抜き、その破壊を穿ち散らす。
弾かれたエネルギーが飛び散って周囲を次々に破壊するが、シャルロットの背にある町だけはその被害から守られる。
「こぉのぉおおおおおおっ!!」
「ドラグーン……もっと、力を……っ!」
その意思に応え、リンドブルムが輝きを増す。
異変はその直後、〈グロワール〉に起こった。砲身が急激な出力上昇に対応しきれず、異常を起こしたのだ。
「やべぇっ……!?」
本能的に、〈グロワール〉をパージ。一瞬遅れて銃身が爆発する。
そしてシャルロットもまた、同時に限界を迎えていた。圧縮エネルギーを撃ち放つレイモードは、発射時間が〈グロワール〉よりも短い。
最後の一瞬、シャルロットは砲撃をついに押さえられず、直撃。大空に爆炎の華が咲いた。
「くそっ……ムカつくが、マジで撤退するか……」
受けたダメージは決して軽くない。この憤りを晴らしたい衝動に駆られるが、それを押し殺して、オータムは今度こそ撤退を――。
ギュォオオオオオオオオオオッ!!
「なっ―――」
爆煙を貫いて何かが飛翔し、オータムの左腕を襲った。それは半円状のブレードを重ねたような型―― 喩えるならばクワガタのハサミ。
それががっしりと左腕を拘束し、そこからワイヤーが彼方に伸びている。
「―― 捕まえた」
「テメェ――!!」
風が煙を押し流し、そして向こうにいる存在を見せる。
ワイヤーはドラグーンⅡのライト・エッジから伸びていて、シャルロットはニヤッと笑った。
「僕は言ったよね……」
「っ……!?」
「お前を、絶対に許さないって……?」
「っ――!!」
ガクン、とオータムの体が揺れる。ワイヤーがすごい勢いで巻き取られているのだ。
「舐めてんじゃねえぞ……このクソガキがぁああああああああっ!!」
オータムの怒りは一瞬で頂点に達する。逆にスラスターを全開にして、突撃する。
〈マチエール・スライサー〉を刺突にして構え、シャルロットを串刺しにするべく襲いかかった。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
対するシャルロットもワイヤーを巻きながら突進。そして、左腕を大きく引いた。
レフト・シェルの先端が開いて装甲全体が後ろに下がり、そこに突き上がるように出現するのは―― 一本の杭。
―― レフト・シェル バンカーモード ――
「リンドブルム、フルドライブッ!!」
―― IGNITION ――
出現した新型バンカー〈ドラゴン・ホーン〉に、リンドブルムのエネルギーが集中する。
「「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」
裂帛の咆哮。激突する力。そして――― 狂竜の刃が砕けて散った。
「ぐぁううあああああああああっ!!」
オータムの右腕を引き千切らん程の衝撃が空間を撃ち貫き、ブレードと共に腕部装甲を粉砕する。
更にシャルロットは左腕を引いた。渾身の一撃を叩きこむ、その為に。
「どんな装甲だって……打ち貫くっ!!」
――― ドォォオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
振り下ろすようにして、容赦なく撃ち込まれる最後の一撃。
それは〈アイギス・ドライブ〉さえも軽々と突破し、装甲を粉砕して、狂竜を大地へと叩きつけた。
「ぐはっ……ガァッ、ぐぉあああああ……っ!!」
大地にぶつかり、跳ね返り、転がって、土煙を上げて大地を削り、そしてようやく止まった。
「……でだ? 何で……私が……負ける……あんなガキに……?」
ギリギリで意識をつなぎとめていたオータムが、呪詛の如き言葉を呟く。
『……なんだ、そんな事も分かんないの?』
「っ……フィリー……ミヤムラ……!?」
届くのは、オータムを嘲笑うようなフィリーの声。
『虎ならぬ【竜の威を借るだけ】のあんたと、【風に愛され、竜に選ばれた】あの子と……どっちが勝つかなんて自明の理じゃない?』
「糞……が」
ギリ、と怒りを噛み締めて、オータムは意識を失った。
「僕の〈竜角〉に、貫けないもの無し……だよ」
それを見下ろすシャルロットの左腕から、急速冷却のスチームが勢い良く噴き出した。
遠くから、サイレンの音が響いてくる。軍や消防がようやく到着したようだ。
ハイパーセンサーの見せる映像には、森の火災の消火活動を始めた様子も見えた。
「ふぅ……」
シャルロットはようやく安堵の溜息を吐き、空を見上げる。緊張から解放された体に、ドッと疲労が溢れ出した。
(それにしても……あれは何だったんだろう?)
『力を貸してあげる』
オータムとの戦いの最中に聞こえた声と、過ぎった幻影。
まるで―― ファンタジーに出てくる魔法使いのような姿をした、綺麗な女性。
その直後、リンドブルムが最適化を完了して、オータムを倒すことが出来た。
まるで、あの魔法使いが力を貸してくれたような―― そんな不思議な感覚。
「……まさかね」
そんな馬鹿な事がある筈がない、とシャルロットは頭を振った。
きっと、戦いの中で見た白昼夢か何かなのだと、そう結論付けて、シャルロットは大地へと降りていった。