IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第47話  乙女たちのサマーデイズ

 

夏休みに入ったIS学園。一年生寮の廊下を歩く生徒が一人。

1年2組所属、凰鈴音である。

 

「あっつぅ……何で日本の夏ってこんなに暑いのかしら?」

 

夏を迎えるたびに飽きもせず同じ事を言いつつ、じんわりと滲む汗を拭いながら、鈴は冷房のない廊下を行く。その目的地は一夏の部屋だ。

「ったく、何であたしが誘わなきゃいけないのよ……」

ぶくつさと言いながら、鈴は手に持っているチケットをヒラヒラとさせた。

 

鈴が持っているのは【ウォーターワールド】という、今月オープンしたばかりのプールリゾートだ。

広い敷地内には数多くの施設。屋内設置故に一年中楽しむことが出来るとあって前評判も非常に高く、すでに前売り券は今月分は完売。当日券の購入も数時間待ちという人気ぶりだ。

 

そのチケットを、鈴は何故か二枚持っていた。一枚は自分として、もう一枚は誰のためか。

まぁ、言う必要は全くないが。その為に一夏の部屋に行くのだから。

 

 

さて、そんな鈴だがクルリと踵を返した。

「あ~、もう。何であたしが一夏を誘わないと行けないのよ! こういうのは男の役割でしょうが!」

「―― 何がだ?」

「そりゃ、あんたが――― あぁっ!?」

「……何で、そんな素っ頓狂な声出すんだよ?」

鈴はなんか片足立ちになって固まった。文字媒体であることが救いな程に面白い顔のおまけ付きだ。

 

「あ、あんた! 部屋にいたんじゃないの!?」

「レポート提出忘れと、倉持技研のISデータ収集の日程確認にな。いや参ったぜ……今週の土曜にデータ取りだってさ」

「………え゛?」

ポリポリと頭を掻く一夏に、鈴はピシリと固まった。手にしたチケットを思わず握り潰してしまう。

「あ? そのチケット何だ?」

「っ――! 何でもないわよぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

ズドドドドドド―――ッ!!

 

 

「ふぎゃあっ!?」

「みぎゃぁ!!」

「ドンタコスッ!?」

鈴は来た道を凄まじい勢いで駆け抜けた。途中何人か轢いたような気がするが、そんな事は無かった。

 

無かったったら無かったのだ。

 

 

 

 

さて、超特急 凰鈴音号が停車した駅は1025号室前であった。

「織羽ぁっ!!」

ドアを開けるや、鈴は室内にズカズカと踏み込んだ。そしてベッドに転がる部屋の住人を見つけ、声を荒げて詰め寄った。

「おや、いらっしゃい……て、どうしたの?」

「このチケット、日曜のに変えて!!」

鈴は突き付けるように、ウォーターワールドのチケットを織羽の眼前に出す。

そこに刻まれている日にちは―― 今週の土曜であった。

 

「はい、毎度。一枚5,000円ね」

「な――っ! 何で倍額になってのよ!?」

ウォーターワールド前売り券は一枚2,500円である。織羽の提示した金額は鈴にしてみれば、ボッタクリもいいところだ。

「別に嫌ならいいのよ? あ~、これを箒に売ったらあの子、どうするのかしらね~?」

「ぐっ……!」

紛れもない脅迫である。

「2,800!」

「4,700」

「3,000っ!!」

「4,600」

「3,200……!」

「4,500~♪」

「さんぜんはっぴゃく……五十円っ!!」

「―― ま、クラスメイトのよしみとして、その金額で手を売ってあげましょ」

やれやれと頭を振って、織羽は何処からかチケットを二枚取り出した。

「あ、ありがとう……本っ当に、嬉しいわ……この強突張りっ!」

口元に引きつった笑みを浮かべながら、頭に四角を三つばかり浮かべて、鈴は財布を突き出した。

 

「あ。当然、チケットの下取りはしないからね?」

 

「――― ふっ」

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、1025号室に激震走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、鈴のヤツ……何がしたかったんだ?」

ドアノブに手をかけて、ふと一夏は思う。

『何しに来たのかはともかく、何しに行ったのかは全然分からないね』

春斗は春斗で、鈴が何故走っていったのか分からず首を傾げた。

 

「ぃぃぃぃちぃいいいいかぁああああああああああああっ!!」

 

超特急 凰鈴音号。折り返し運転です。

「鈴……!?」

目の前にズザーッ! と滑りこんできた鈴に一夏は驚き目を見開く。

「……お前、何でそんなボロボロなんだよ?」

『全く、訳がわからないよ』

数分前まで普通だった筈なのに、今はボロボロになっていた。まるで、何処かで一戦やらかしてきたような感じだ。

「そんな事はどうでもいいのよ! これを見なさい!!」

ずい。と、一夏の鼻先に突き出したのは二枚のチケット。勿論、ウォーターワールドの前売り券だ。

「何だ、これ?」

『ウォーターワールド……先月できたプールリゾートだね』

「―― で、それがどうかしたのか?」

「今週の日曜、あたしに付き合いなさい! チケットが余っちゃって勿体ないのよ!!」

『いや、どう見てもむしり取ってきた感がバリバリだよ?』

『うっさいわよ、春斗!』

秘匿回線(シークレットチャンネル)に届くツッコミに、鈴が吠える。

「で、いくらだ?」

「3,850円」

「何で端数なんだよ……?」

『しかも1,350円も高いし……』

「お前、ボッタクる気かよ!?」

「違うわよ! 人聞きの悪いこと言わないでよね!?」

鈴は必死に否定するが、実際提示した価格が高いのだから仕方ない。

 

「あー、もう! 2,500円でいいわよ!!」

ヤケクソ気味に叫ぶ鈴。本当ならタダでも良いと思っているのだが、その思いを見せたりはしない。

 

 

 

 

全ての始まりは、初めて一夏達が鈴の実家である中華料理屋に言った時だ。

二人は鈴の父親の料理を絶賛し、それが嬉しくて、また来てほしくてタダでいいと言った。

だが、一夏はそれに首を振った。

「折角なんだし、好意に甘えたら?」

「いやいや。タダより高いもんは無いって言うし、それにりんの親父さんの料理スッゲー美味かったからな。ちゃんと払うべきだろ?」

「……ま、正論だね」

そう言いつつ、春斗も最初から支払うつもりだったのだろう、あっさりと一夏に乗っかった。

 

ちなみに、この出来事が原因で鈴は両親に自分の気持を悟られることにある。

 

 

閑話休題。

鈴は一夏から代金を受け取り、チケットを手渡す。

「じゃあ、当日10時にウォーターワールド前に待ち合わせね。遅れんじゃないわよ? あんた、肝心な時に遅れるから油断ならないのよ」

「遅れねぇよ。てかそもそも、遊びに行くのがそんなに気合入れる事なのか?」

『そりゃ、女子にしてみれば気合を入れざるをえないだろうね。何せデー』

「春斗ォおお! 余計な事を言うなぁっ!!」

「ぐぉおお!? 俺の首を締めるなぁ!?」

一夏の顔が赤から青に変わるのに、そう時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

IS学園入口に、一台の白いリムジンが止まる。そのリムジンはチャーターした小型フェリーでここまでやって来たものだ。

そんな金を無駄に使うような帰還方法を選んだ人物が、リムジンから降りてきた。

 

「ふう。やっと戻ってこれましたわ」

 

降車してきたのは金髪ロールが今日も見事なセシリア・オルコット嬢。

冷房の効いた車内から出るや早速襲ってきた熱気に、陰鬱な溜め息を吐く。

 

セシリアがイギリスに帰ると、それはもう目の回るような忙しさであった。

溜まっていたオルコット家の執務にバイオリンコンサート参加、旧友との交友、代表候補生としての報告、ブルー・ティアーズの再調整、両親の墓参り。

それに加えて、BT二号機〈サイレント・ゼフィルス〉強奪に関する報告である。

 

強奪されただけでも問題であるのに、その機体がフランス国内で使用された記録があるという。

 

しかも、その機体がフランス第三位世代機強奪犯の逃走幇助を行なったとなれば、フランス政府も黙っていない。

シャルロット達の活躍で奪回に成功したとはいえ、その背後組織を掴むのに犯人逮捕は必須であり、あと一歩というところでイギリスの失態がそれを邪魔をしたのだ。

イギリスは自国の恥を晒した上、フランスに対して強い外交的イニシアチブを取られている。

 

今も、両国間では極秘会談が持たれている最中だ。

 

 

果たして、それをイギリスが良しとするだろうか。

答えは否である。

 

外交的面から立場を取り返す事は難しい。ならば、ISではどうだろうか。

 

セシリアが本国から課せられた使命は『フランス製第三世代ISの打倒』である。

つまり、フランス自慢のISを撃破すれば技術的側面から巻き返しを図れるという事だ。

 

だが、セシリア自身はこれをよく思えなかった。

ブルー・ティアーズが劣っているとは言わない。だが、シャルロットの技量に加え、フランスから開示されたデータはISとしての完成度が余りにも違い過ぎた。

春斗の設計した機体がこれ程のものとは、セシリア個人もだが、ヨーロッパ各国共に想像していなかった事であった。

 

偏向射撃(フレキシブル)の使えない現状、ラファール・ドラグーンに対抗できるスペックはブルー・ティアーズには無い。

 

そもそも、そんな事よりももっと優先させることがある筈なのだ。

奪われたBT二号機〈サイレント・ゼフィルス〉の捜索、及び奪還。そして犯人の逮捕。

そうして初めて、フランスに対して物を言えるようになろうというものだ。

 

「ふぅ。考えても仕方ありませんわね」

 

IS操縦者である以上、彼女はいずれ戦う事になる相手だ。政治屋の思惑など知った事ではない。

 

なるようにしかならないと、セシリアは割り切ることにした。

 

 

「お嬢様。どうかされましたか?」

「―― いいえ。何でもなくてよ」

振り返るとメイド服に身を包んだ女性が立っていた。

彼女はチェルシー・ブランケット。オルコット家に仕えるセシリア専属メイドで、彼女にとっては幼馴染であると同時に姉のような存在である。

 

「では、お荷物の方は私どもでお部屋に運んでおきますので」

ピッと伸ばした姿勢を崩さないまま、チェルシーは恭しく頭を下げる。

そして頭を戻すと、もう一人のメイドと共に荷物を運び始めた。

 

さて、自分はどうしようかとセシリアは考え、折角だから一夏の表情を見たいと思った。

思えば早いセシリア。早速一夏を探すべく足を踏み出す。

「早速、織斑様に逢いに行かれますか?」

「っ――!?」

荷物を運んでいて此処にいない筈のチェルシーが真正面に立っていて、セシリアはビックリする。

「チェ、チェルシー!? 荷物を運びに行ったのではなかったかしら!?」

「実は、一つご確認しておく事を恥ずかしながら失念しておりました」

「何かしら?」

「こっそりとネット通販で買ってスーツケースの二重底に隠してあった白いレースの下着は、織斑様用ですか?」

「……………………え?」

何故、どうして、何で知っているのか。チェルシーの言葉にセシリアは凍りついた。

「老婆心ながら、派手過ぎる下着は却って逆効果だと思われます。では」

チェルシーはフリーズしたままのセシリアに一礼すると、踵を返して行ってしまった。

 

 

みーんみーん。

 

 

蝉時雨が正門前に降り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、セシリア?」

「―――――はっ!?」

掛けられた声に我に返ったセシリアは振り返る。そして、また凍りついた。

「い、一夏さん……!?」

「よぉ、一週間ぶりだな。里帰りはどうだった?」

「え、えぇ……有意義なものでしたわ。それで、一夏さんはどうして此処に?」

「いや、ラウラの奴が『もうすぐ着くから迎えに来い』ってメールしてきてさ……あ、来た」

一夏がモノレールの方から来る人影に気付き、指差す。

セシリアもそっちを向くと、身の丈に合わない大きなスーツケースを引きながら、こちらに歩いてくる少女が見えた。

 

「おぉ、一夏。迎えに来てくれたか…………何故、お前まで居る?」

「それはこちらの台詞ですわ、ラウラさん」

 

再会早々、二人は火花を散らす。夏の暑さ真っ盛りなのに是非とも、止めて欲しいものだ。

 

『一夏。そろそろ時間じゃないかな?』

「あぁそうだな。じゃ、アリーナに行かないとな」

春斗に言われて一夏は時刻を確認する。と、そろそろアリーナに行く時間であった。

「一夏さん、どちらに行かれるのですか?」

「一夏、何処に行く気だ?」

睨み合っていた二人が、その視線を一夏に揃って向ける。悪い事をしていないのにたじろいでしまったのは、きっと仕方ないことだ。

「いや、シャルロットに『アリーナで模擬戦するから見に来て欲しい』って言われてるんだよ」

「シャルロットさんが模擬戦? 相手はどなたですの?」

「箒がやるらしい」

「第四世代ISとか……ふむ。見ておいて損はないな」

「一夏さん、ご一緒してもよろしいですか?」

「あぁ、別に構わないけど……時差とか大丈夫か?」

「大丈夫ですわ。問題ありません」

「善は急げという。さっさと行くぞ」

ヨーロッパ組にとって、ラファール・ドラグーンをその目で見れるとあれば足を運ぶ価値はある。

二人は早速、アリーナへと向かった。

 

「おーい、何処のアリーナか分かってるのかー?」

 

 

 

ズカズカズカ。

 

 

「一夏さん! 何をぼさっとしていますの!?」

「全く、しょうがない奴だな、嫁は!!」

 

足を踏み鳴らしながら戻ってきた二人は、一夏を両サイドから挟み込んでズルズルと引き摺っていく。

「あれ? 俺が悪いのかこれ!?」

 

「「その通り!」ですわ!!」

 

哀しいかな、今は男子が女子に勝てない時代。

 

 

 

「これ、時代関係ない」とか言ってはならない。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

第二アリーナには、学園に残っていた生徒の多くが集まっていた。

ド派手にデビューを飾ったフランス第三世代機が模擬戦を行うとなれば、野次馬根性―― もとい注目度は高い。

グラウンドには箒とシャルロットがおり、いつ何時試合開始になろうとも可笑しくはない状況であった。が、しかし試合はまだ始まらない。

それどころか、両名ともISを起動させてもいない。

 

「シャルロット、そろそろ始めないか? 流石に暑いのだが……」

「まぁ待って……あ、来た!」

シャルロットはアリーナ客席に人影を見つけ、箒もそこを見た。

 

出入口から一夏、セシリア、ラウラが出てきたのが見えた。

 

箒は、セシリア達が帰ってきたのかと思いつつ、シャルロットが何故開始を遅らせていたのかを理解した。

「わざわざ、春斗に見せるためか……?」

「うんっ。初めてをちゃんと見て欲しいから……なんて、やだもう、何言わせるの箒!?」

「……お前、そんなキャラだったか?」

両頬に触れながら悶えるシャルロットに、箒は若干引いた。

「―― さぁ、模擬戦を始めよう!」

「調子狂うな、本気で!? ……来い、紅椿!」

いきなり戻ったシャルロットに箒はペースを乱されながらも、紅椿を起動させる。

シャルロットはネックレストップの握り締め、深く息を吸い込んだ。

本国での最終調整後、待機形態プログラムインストールしてから初めての起動。

 

「さぁ、お披露目だよ……ラファール・ドラグーン!」

 

高揚する心を抑えながら、新しき愛機の名を蒼穹に向かって高らかに叫ぶ。

 

紅と橙の量子光が輝き、鋼鉄の翼を顕現させた。

「あれが……フランス第三世代機!」

「凄い……! 背中のリング目立ってる!」

「ラファールに似てるようで、やっぱちょっと違うわね」

IS学園初見参のラファール・ドラグーンに客席の生徒達が色めき立った。

 

 

「ほぉ。あれが義兄上が設計したISか」

「ラファール・ドラグーン……どれ程か見せて頂きますわ」

ラウラとセシリアが興味深げに視線を送る仲、一夏は春斗に尋ねた。

『正直どうなんだ? ラファール・ドラグーンのスペックは?』

『シャルのドラグーンは脚部と腰部は高機動で両腕部は近接設定、スラスターは出力強化タイプ。ほーちゃんには悪いけど、展開装甲をフルに使えない今の紅椿じゃ、一分の勝機さえ無いね』

『ハッキリ言うなぁ』

『事実は事実として、客観的に受け止めるべきだからね。そろそろ始まるよ』

春斗に言われ、一夏は視線をグラウンドに戻した。

 

 

 

「行くぞ、シャルロット!」

二刀を抜いた紅椿が、地を蹴って一気に接近する。

「ライト・エッジッ!」

 

―― ライト・エッジ ブレードモード ――

 

シャルロットが右腕を振り上げると、マテリアルブレードが展開。空裂の一撃を正面から受け止める。

「はぁっ!」

すぐさま箒は雨月を横薙ぎに振るう。が、それをレフト・シェルで受け止める。

「だぁっ!」

シャルロットは刃を弾くや、ライト・エッジの切っ先を返して斬りつける。

ヒュン、と空を切る音が響いた。

紅椿は回避の回転と共に爪先の展開装甲を開き、エネルギーブレードを現出。その勢いのまま、カウンターの回し蹴りを打ち込む。

が、そこに既にドラグーンの姿は無く、砂塵のみが残されていた。

「上か!」

ハイパーセンサーが上空の機影を捕捉する。地上43メートルまで一瞬で上がったシャルロットを追って、紅椿がスラスターを噴かせる。

「なるほど! 加速はなかなかだな!!」

「加速? 最速の間違いだよ!!」

 

―― ウエスト・ガスト レッグ・ゲイル 起動 ――

 

ドラグーンの脚部、腰部装甲が展開し、リンドブルムの生み出すエネルギーの光波が放たれる。

瞬間、残影を残してシャルロットの姿が消えた。

「っ――!?」

箒が二刀を交差させて防御。直後、火花が散った。ビリッと両腕が軽く痺れる。

「やぁああああッ!!」

シャルロットはそのまま通り過ぎるとすぐに反転。スラスターから一際強い輝きが放たれた。

「っ……紅椿!!」

箒は背部と脚部展開装甲を起動し、高機動モードに移行する。そして一気に加速、上昇する。

シャルロットもそれを追って、上空に上がる。

「紅椿に付いてくるだと? なんという出力だ……!」

箒はラファール・ドラグーンの大出力に驚きながらも、ひとつの疑問を持つ。

「シャルロット! どうして銃火器を使わない!? 私を侮っているのか!?」

そう。本来ならばこの状況は豊富な銃火器を誇るラファール有利の筈だ。

勿論、ドラグーンにはリヴァイヴ時に使用していた武装全てがインストールされており、箒もそれを知っている。

だからこそ、この状況にあってライフル等を使用しないシャルロットに憤った。

最新鋭機を―― 春斗のISを得た途端、自分を侮るのかと。

 

「侮る? そんな気は更々無いよ。箒には学年別トーナメントで不覚を取ってるし、何より福音との戦いで見せた土壇場での強さはハッキリ言って怖いよ!」

「なら何故だ!?」

箒はわずかに振り返りながら、自立攻撃ユニットを切り離した。

「それは箒と同じだよ。一日でも早く、このドラグーンを完璧に使いこなせるようになる為だよ!」

自立攻撃ユニットからの攻撃を回避しつつ、シャルロットはレフトシェルをレイモードで起動させた。

 

―― リンドブルム レベル2 レイ・モード メテオ ――

 

メテオと命名された、高圧縮エネルギーを連射する攻撃が紅椿を襲う。

「っ……!? エネルギー武装だと!?」

突如放たれたオレンジの光弾の嵐に箒は驚愕しつつ、回避行動に移る。

(このままでは埒が明かんか……なら!)

箒は展開装甲に更にエネルギーを向け、一気に最高速に乗ってドラグーンを突き放す。

そして反転すると同時に、雨月と空裂を同時に振るった。刃からエネルギー刃が撃ち放たれる。

 

「レフト・シェル!」

 

シャルロットが左腕部装甲を前面に付き出した瞬間、爆炎が巻き起こった。

「直撃? ……いや、防がれたか。だが、多少のダメージは通った筈だ」

自立攻撃ユニットを回収し、箒は油断なく構えを取る。適度な脱力をして二刀をダラリと下げ、すぐに反応できる態勢を整えた。

直後、爆煙を貫いて突撃する機影。

「やはりな!」

箒はすぐさま雨月を振るい、カウンターでエネルギー刃を飛ばす。

「甘いよ、箒!」

シャルロットは更に速度を上げ、左腕部のシールドを掲げる。触れ合った瞬間、雨月の攻撃をレフト・シェルは容易く弾き飛ばした。

「なっ!?」

「エネルギーの密度が違うんだ! その程度じゃ足止めもできないよ!!」

シールドをそのままに突進するシャルロット。箒は旋回軌道を取りつつ、ドラグーンと激突した。

 

 

 

 

上空で繰り広げられる、紅と橙の光の輪舞曲。

観客たる生徒達は皆一様に魅入られたように、瞬きすることも忘れて魅入る。

「凄いですわね……あの機動力もそうですが、何よりあの防御性能。生半可な攻撃では一切止められそうにありませんわ」

「リンドブルムの生み出す潤沢なエネルギー。それを使っての高機動と防御力。捉えるにも突破するにも厄介だな」

セシリアとラウラはラファール・ドラグーンの性能に目を見張った。

同時に、自分ならばどう戦うかを脳内でシミュレートする。

『箒、完全に押されてるな……』

『紅椿の高スペックは、実は展開装甲に依存している部分が大きいからね。エネルギー切れを考えるとフル稼働では使えない上、パイロットとしての技量も違う。逆転は難しいね』

そう言いつつ、逆転を不可能と言わない。一つだけ、逆転を狙える布石があるのだ。

(後は、ほーちゃんがそれを打てるかどうか……だね)

 

 

 

 

「くそっ……このままではジリ貧だ!」

疾風の竜の名を冠するISの力。そしてそれを自在に操るシャルロットの技量。

箒の瞳には、シャルロットが宛ら雄々しき飛竜に跨る竜騎士の如く映った。

(このまま戦っても押し切られる……ならば!)

箒は紅椿の展開装甲を一気に開き、短期決戦を挑む。

「それは読んでるよ!!」

シャルロットも、それを予測しており、脚部のドラゴン・スケイルをフル稼働させた。

「ハァアアアアッ!!」

「ダァアアアアアアッ!!」

激突する刃。火花が幾重にも散り、青空に消える。

幾度と無くぶつかり合い、ついにその均衡は崩れる。押し負けたのは――― ラファール・ドラグーン。

 

「っ……!」

「もらったぞ、シャルロット!!」

箒が一気に攻めかける。が、シャルロットはそれさえも予測の範囲と口元を歪ませた。

「ラファール・ドラグーンッ!!」

 

―― ライト・エッジ スタッグモード ――

 

右腕部ブレードが収納されると同時に、装甲全体が前面にスライド。更にそこから、スタッグエッジ―― 大鋏を展開する。

 

―― ワイヤード・スタッグ ――

 

「何っ……!?」

勢い良く射出されたスタッグエッジが、箒の体を捕獲して締め上げる。

「くッ! こんな武装もあったのか!?」

オレンジに光るスタッグエッジが、紅椿のシールドを締め上げて削り落とす。

箒はすぐさま、ワイヤーを切り落とさんと空裂を振り上げた。

「おっと!」

「ッ――!?」

シャルロットはワイヤーを巻き戻すと同時に、右腕を大きく振り抜いた。同時にスタッグエッジを開いて、箒を地面に向かって投げ飛ばした。

 

「ぐぅううっ!」

地面を転がりながらも、箒は自立攻撃ユニットを切り離しながら体勢を立て直す。

「ドラグーンッ!」

 

―― レフト・シェル バンカーモード ――

 

左腕部にバンカーが突き出て、エネルギーが収束していく。

「バンカーを出した以上、シールドは使えまい!!」

箒は二刀を構え、一気に突撃する。堅牢な防御も、使えなければ意味などない。

 

ただし、その判断はドラゴンホーンが普通のパイルバンカーであったならだ。

「接近なんて、させるものかっ!!」

シャルロットはバンカーを、眼前の空間(・・・・・)に打ち込んだ(・・・・・・)

 

「何を―― ぐあぁっ!?」

直後、全身を貫く衝撃。宛ら巨人の拳を喰らったかのような強烈な一撃に、箒は自立攻撃ユニットごと吹き飛ばされた。

再度地面に叩きつけられた紅椿は、そのシールドエネルギー残量がついにゼロになったことを告げた。

「っ……くそっ! 何だ最後の一撃は!?」

「このドラゴンホーンは、衝撃砲と同じ〈空間圧兵器〉なんだよ」

「空間圧兵器だと……!?」

緩やかに地上に降下しながら、シャルロットはバンカーを格納する。

 

ドラゴンホーンは、先端部から収束したエネルギーを開放することで空間に圧力を与える。

圧力を加えられた空間は、波紋のようにうねり拡がって行き、その衝撃で攻撃する武装である。

勿論、範囲が広がれば威力は減衰するし、単発でしか使えない。そして最も威力の高いのは通常のバンカーと同じゼロ距離だ。

だがそれを差し引いても、空間攻撃には多くのメリットがあった。

それがこの、『空間制圧範囲』の広さである。

ラファール・ドラグーンの前面に位置取っていたならば、その攻撃範囲から絶対に逃れることは出来ない。

 

「ぬぅ……読み違えたか」

「まぁ、まさかの武装だからね。勘違いしても仕方ないよ」

唸る箒にそう言って笑いつつ、シャルロットは客席に視線を送る。

その先に居る一夏―― 春斗に向かって、右手を掲げてみせた。

 

(見てくれた、春斗? 君の夢の翼は、ちゃんと此処にあるよ……!)

 

「っ……」

誇らしげに微笑むその横顔に、箒は胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。

もしも何かが違っていたなら、あの機体を使っていたのは自分だったかも知れないという思いと、そこに込められた想いの強さを感じてしまう。

 

箒は立ち上がり、ピットへと足を向けた。

(まだ弱いな……私は。こんな事では何も守れん……)

敗北から自身の足りない部分を省みながら、拳を握り固めた。

 

 

 

 

 

 

模擬戦を観戦していた一夏達は、予想以上の結果に驚きを隠せないでいた。

「むむっ……」

特にラウラは、機動力が低めのシュヴァルツェア・レーゲンで如何にして対抗するか頭を悩ませていた。

 

「なんつーか……シャルロットの奴、滅茶苦茶強くないか?」

『自分で設計しといてなんだけど……あれ、性質が悪いね』

「………」

「セシリア。どうかしたのか?」

「え? いえ、ちょっと考え事をしていただけですわ」

心ここにあらずといった感じのセシリアだったが、一夏が声を掛けると慌てて頭を振った。

 

(ラファール・ドラグーン。あの機体に勝つには、どうあっても偏向射撃(フレキシブル)を会得しなければ……!)

 

内心の焦りを抑えつつ、セシリアもまた自身に足りないものを模索していた。

 

 

 

 

 

 

 

箒らと合流した一夏達がアリーナを出ると、ゲート前に人影があった。

「あれ? メイドさん?」

「チェルシー?」

そこにいたのはセシリアのメイドのチェルシーであった。

「お嬢様。荷物の運び込みが終わりましたので、ご報告をと」

「そう。ご苦労様」

「セシリア、この人は?」

他のメンツを代表して、一夏はセシリアに尋ねた。すると、チェルシーはすっと佇まいを正し、深くお辞儀をする。

「申し遅れました。セシリア様にお仕えしておりますメイドの、チェルシー・ブランケットと申します。以後、お見知りおき下さい」

「あぁ、あなたが。前に一度、セシリアから話を聞いてます。初めまして、織斑一夏です」

「これはご丁寧に。時に織斑様、お嬢様は私のことを何と?」

「えっと、とても良く気が利く方で、優秀で優しくて……美人だって」

「まぁ」

柔らかく笑みを浮かべるチェルシーに、一夏は深くにもドキッとさせられてしまう。

そしてセシリア達の視線が一夏に厳しく突き刺さる。

「私も、織斑様の事をお嬢様からよく聞いておりますわ」

そんなヤキモチを感じ取ったのか、チェルシーはまた微笑みながら言った。

その瞬間、セシリアの顔が真っ赤になる。そして視線が突き刺さった。

「へぇ、そうなんですか。ちなみに、何て言ってるんですか?」

背後の修羅場など気付きもせず、一夏はチェルシーに尋ねた。

 

(お願い、チェルシー! 言わないで……!)

セシリアは顔を赤くしたり青くしたりしながら、チェルシーに目で訴える。

「くすっ。それは――」

そんな願いを聞き取ったのか、チェルシーは茶目っ気をタップリと含んだ微笑と共に、ウインク一つと人差し指を唇に添えていった。

 

「―― 禁則事項です」

 

意味は合ってるけど、作品が違う。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

何やかんやとありつつ、チェルシーは帰っていった。

が、それだけで終わるほど甘くはない。

 

その日の夜。寮の大浴場のサウナから出たセシリアはロビーの自販機で何か飲み物を買おうとしていた。

 

そこでロビーのソファーに座る一夏に気付き声を掛けようとした。

 

だが、すぐにその足を止めて近くの観葉植物の影に隠れた。

一夏が一人ではなく、鈴と一緒だったからだ。

「なぁ、何でウォーターワールドで待ち合わせなんてするんだ? 一緒に行けば良いじゃないか?」

「ばっか! そんなの……恥ずかしいじゃないのよ」

「そうか? 俺は別に恥ずかしくなんてないぞ?」

「あたしが恥ずかしいのよ!」

「何だよ。俺と一緒だと恥ずかしいのか?」

「っ~~! あんた、わざと言ってるでしょ!?」

「は?」

「……とにかく、待ち合わせだからね。日曜10時、遅刻するんじゃないわよ?」

「分かってるよ」

 

 

「………」

セシリアはショックに思わず、観葉植物を握り潰すところだった。

二人に気付かれないようにこっそりと部屋に戻ると、すぐにパソコンを起動させた。

 

「キーワードは、『ウォーターワールド』『日曜10時』『待ち合わせ』ですわ!!」

 

 

 

その日、セシリアの部屋から明かりが消えることはなかった。

 

 

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