IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第51話  災いの終息

 

沿岸部にある大観覧車。停止状態にあるそこに、学園のISが駆けつける。

親子連れの乗ったゴンドラのドアを開き、落ちないように機体を少し下に滑り込ませる。

「さぁ、こっちに手を伸ばして。大丈夫だから」

「……ぅう」

「大丈夫よ。さぁ、お姉ちゃんに手を出して?」

母親に抱き上げられ、子供が恐る恐る伸ばされた手を取る。子供をしっかりと受け取り、今度は親に手を伸ばした。

「膝を足場にして下さい。そのままこっちに……」

言われた通り、ISの膝関節を足場にして、母親が移動する。

 

「じゃあ、しっかり捕まってて下さい」

親子を救出したISは、ゆっくりと地上へと降りていく。

 

別のゴンドラでも、同じように救助が行われていた。

「はぁ……流石はIS。あんな風に空を自由に飛べりゃ、こっちも楽なのになぁ」

はしご車を使って救助活動をしている隊員が、呆れとも羨望とも取れる溜め息を吐く。

「確かにな。だが、こっちにはこっちのやり方がある。届かない所は任せときゃいいさ」

もう一人が言うと、目一杯伸ばされたレールを救助用ゴンドラが上って行った。

 

 

 

 

 

 

IS学園司令室には多数の情報が寄せられ、次々に処理されていく。

「大観覧車の救助、順調に継続中です」

「B‐1から7の作業は終了。C‐8方面に回れる小隊はありますか?」

「展望エレベーターの救助完了。引き続き救助要請が来ています。次のポイントへ移動します」

「指定ポイントに、補給用トレーラー到着。消火用グレネード及び携帯式酸素ボンベの補充を行なって下さい」

「ポイントE‐3より、援助要請。至急向かって下さい」

「江戸川にIS整備空母到着。補給作業を必要とする隊は、事前連絡をお願いします」

 

 

 

「どうやら、何とかなりそうだな」

三年前に起こった惨状を知っているだけに、規模に対しての被害を大きく抑えられるだろう事に千冬は安堵する。

 

「問題は……フェリーの方だな。山田先生、通信は?」

「ダメです。衛星からも現場の映像を取れません。どうやら、現場海域に強力なジャミングが施されているようです」

「……つまり、何者かが全てを仕組んだということか」

「だとしたら、一体、誰が……?」

「分からん。だが、今は事態の終息が先決だ。引き続き呼び掛け続けてくれ」

「はい」

言葉では冷静さを保っているようであるが、その心中は焦りがあった。

 

嫌な予感がする。何か、取り返しの付かない事態が起こっている。そんな予感だ。

だが、今の千冬に出来る事などたかが知れている。

一夏らを信じて、今はただ待つだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「くっ……!」

セシリアはギリ、と歯を食い縛る。視線の先には破壊の光を集束する長尺の砲身。

 

食らえば落ちる。

落ちれば2対1になり、劣勢は更に顕著となる。

躱せばフェリーが沈む。

フェリーを止めるためにここに来たのだ。それでは何の意味もない。

 

進退窮まるセシリア。1秒さえも異常に長く感じる。

せめて、ブルー・ティアーズにシールドがあったならば、多少ならずもダメージを軽減出来るというのに。

 

そう。サイレント・ぜフィルスに搭載されている〈シールド・ビット〉があれば。

だが、守りの術を持たない以上、その身にて受けるしか無い。

 

「ッ――!!」

覚悟を決める。同時に光が弾け、セシリア目掛けて閃光が走った。

視界全てを覆い隠す、深紅の輝き。出来ることは、ただ耐えることのみ。

 

ギュッと瞳を強く閉じ、両腕をクロスさせてガード。全身を襲う衝撃に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―― ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

海面が隆起し、弾ける。白波を噴き上げて飛び出した白影はセシリアの前へと躍り出た。

そして、その手に握る光の刃を、迫り来る悪意目掛けて振り下ろした。

 

触れた瞬間、深紅と蒼白の光が互いを屠らんとし、バチバチと吠え猛る。

「一夏さんっ!?」

「ぐぅううううううう……っ!!」

零落白夜を打ち砕かんとする圧力を受けてガタガタと揺れる腕を、必死に御する。

少しでも気を抜いた瞬間、あっという間もなく呑み込まれそうだ。

 

「―― ぉおおおりゃあああああああっ!!」

一夏の咆哮と共に、零落白夜に触れた閃光は二つに斬り裂かれ、フェリーの後方と左側面近くに着水。

衝撃が大波を起こし、船体を大きく揺るがした。

 

 

 

 

 

 

衝撃と共に、大きく揺さぶられるフェリー。倒れそうになる体を必死に押さえる。

「ぐぉぁああああ……っ!」

「くそっ……何でこんな所でISが戦ってるんだよ!? 助けに来てくれたんじゃないのか!?」

船員が悲痛な叫びを上げる。その視線の先にはIS。

コントロールを失い暴走状態にあるだけでも手一杯なのに、そこにIS同士の戦闘など、泣き面に蜂が優しくさえ思える。

何せ、向こうは世界最強の存在だ。フェリー一隻、数秒と経たずに海の藻屑にしてしまえる。

 

「とにかく今は、流れ弾で沈まないことを祈ろう。復旧作業を続けろ。それと、今の揺れで怪我人が出ていないか確認を」

「了解」

フェリーは進む。

船速は45ノット。時速換算約83キロで、破滅のゴールへと迷い無く。

 

 

 

 

 

 

「無事か、セシリア?」

「は、はい……でも、一夏さんは!?」

「シールドエネルギー残量25……ギリギリだったな。雪羅で受け止めてたら、確実に落ちてたな」

雪片をブレードに戻し、一夏は嘆息する。

 

『雪羅は効果範囲が広い分、消耗が雪片よりも激しいんだ。使用には充分注意しないとダメだって言ったろう?』

「いやぁ、そういやそうだったな~。すっかり忘れてたぜ、サンキューな春斗」

 

「っ……春斗さん!?」

「春斗!? あんた、大丈夫なの!?」

復帰した鈴が、心配そうな声を上げる。

『まぁ、何とかね……ISで戦闘はできないけど、サポートなら、なんとか出来るよ』

今の春斗は白式の内部世界で、かつてのように白コート姿であった。

裏白式は待機状態のままであり、それはつまり、春斗のダメージが軽くないことを示していた。

 

『しかし、派手にやられてるね。まぁ、向こうの能力を見る限り、仕方ないかもだけどね』

白式のエネルギーメーターが急速に回復していく。裏白式からのコア・バイパスによるエネルギー供給だ。

「あいつの能力……どういう事だ?」

『あのアーマーに付いているキューブ状の物体……あれは多分、全部ISコアだ』

「なっ……!?」

「全部……ISコア!?」

「そんな馬鹿な事ある訳が……コアは複数搭載できないって……!」

『ごめん。ちょっと言葉を違えたね。正確には”コアと同質の物”ってことだよ』

それぞれのモニターに浮かぶデータ。エネルギー波形が全て、ISコアと同じであることを教えていた。

 

 

〚ターゲット、戦闘継続可能状態確認。実験を継続〛

 

 

そうこうしている間に、〈悪魔〉はスラスターからバックファイアを噴出し、一気に距離を詰める。

三機は散開し、目標を絞らせないように動く。

 

『向こうは恐らく、それぞれのアーマーに独立したエネルギーユニットを持っているんだと思う』

「キューブの数は7つ……ということは、こちらの7倍ものエネルギーを保有している事に……!?」

「何よそれ!? そんなの落とせるわけ無いじゃない!!」

セシリアと鈴が、絶望的な状況に声を荒らげた。

7倍のエネルギーを削り落とすなど、それこそ一夏の零落白夜でも、容易い事ではない。

『ところが、事態はそう単純じゃあないんだ』

春斗は、二人の言葉をあっさりと否定する。

「どういう事だ?」

『あの機体、さっきから高機動のウイングを一切展開してないよね。どうしてだと思う?』

「そういえば……どうしてだ?」

そう。〈悪魔〉はあの、一夏の斬撃を躱した高機動を見せていないのだ。

『強力なエネルギーは、それだけで制御が難しくなる。あのウイングは今、使用できない状態にある可能性が高い』

一度見せてしまった以上、隠す必要性は殆ど無い。となれば、あえて使わないか―― それとも使えないのかの二択。

そして、あえて使わない理由も無い。となれば答えは一つ。

『多分、エネルギー制御がかなり難しいから、一度に使用できる限界があるんだ。今はあの頭部のヤツが起動しているせいで高機動は使用不能にあると見て間違いない』

「―― つまり、頭を潰せば奴は良いんだな?」

『そういう事。向こうは恐らく、何か特殊な戦術システムを使って、こちらのスペックに対して適切な反撃を行なっている。あれを潰せば、攻撃を通せる筈だ』

「ですが、問題はそこではありませんわ。攻撃が完全に見切られていて、全て躱されてしまうことですわ」

「そうよ! さっきから何度も何度も、反撃ばっかりバカみたいに喰らってるんだから!」

『……二人とも、ちゃんと話を聞いてた?』

「聞いてましたわ!」

「聞いてたわよ! その上で無理だって言ってんの!!」

「当てられない攻撃を当てられるようにする為に、攻撃を当てろなんて……ネズミが食われない為に、猫に鈴を着けようとするのと同じですわ!!」

弾幕を回避しつつ、二人が叫ぶ。こちらから攻めに掛からない限り、向こうも積極的には仕掛けてこないようだ。

だが、結局はジリ貧である。

逆転の一手たる零落白夜も、一夏の剣をあっさりと往なして、カウンターを決める〈悪魔〉相手では決まるべくもない。

 

「こっちのスペック……適切………反撃……?」

 

一夏はブツブツと呟きだす。そして、ハッと目を見開いた。

「そうか、そういう事か……! でも、どう積めば良い……?」

『戦術はある。でも、問題が一つ……セシリアさん?』

「何ですか?」

『勝利のために………死んでくれるかい?』

 

 

 

 

 

〚敵行動に変化を確認。V・T・M・Sにより、防御反撃体勢〛

〈悪魔〉は動きを変えた三人に対し、警戒態勢を取る。

眼前にはセシリア。何故かライフルを格納し、右手を付き出した。

「インターセプターッ!」

光が集まり、ショートブレードが展開される。

「ブルー・ティアーズ!」

セシリアは叫び、ビットが切り放たれて舞い踊る。

 

〚敵BT兵器展開。回避の後、近接戦で反撃〛

 

ビットから放たれた閃光を苦もなく躱し、〈悪魔〉はクルタナを構えて距離を詰めるべく動く。

 

「―― ハァアアアアアアッ!!」

 

だが、その刃を強く叩くものがあった。セシリアのインターセプターだ。

遠距離型のブルー・ティアーズで、無謀にも接近戦を挑んだのだ。

何度となく振るわれるインターセプター。激突する刃が火花を散らし、ギシギシと軋む。

 

〚脅威度低ながら、即刻排除推奨〛

 

〈悪魔〉は一切動揺無く、セシリアを左手に生み出したブレードで叩き落とさんとする。

 

『一夏、撃て!!』

「やらせるかよ!!」

その時、雪羅が吠える。カノンモードの砲口が光り輝く瞬間、セシリアがその身を〈悪魔〉のサイドを滑るように抜ける。

 

〚敵砲撃。防御体勢〛

 

〈悪魔〉はブレードを消して、シールドを展開。真っ向から受け止める。

「まだまだ!」

鈴がそこに、衝撃砲を撃ち放つ。〈悪魔〉は半身を返して、大剣を盾に、それを受ける。

 

雪羅と龍咆の挟撃。しかし、〈悪魔〉の牙城は揺るがない。

だが、そこに〈悪魔〉の正面から突撃を仕掛けるセシリア。武装はやはりインターセプターだ。

「これで……落としますわっ!!」

 

 

ブルー・ティアーズに対処する瞬間、甲龍と白式が接近。近接戦闘を仕掛け、そこを突いてブルー・ティアーズがBTライフルによる射撃を近距離で撃ち込む。

 

 

〈悪魔〉はそう、即時に判断を下す。

 

そんな予測を肯定するかのように、左右からの攻撃が止み、二機が距離を詰めだした。

〚敵誘導を第2行程で排除。然る後、各個迎撃〛

〈悪魔〉はまず、セシリアに向かう。ブレードの一撃を大剣で受け止め、横腹目掛けて蹴りを打つ。

「がはっ……!」

鋭角な装甲が、セシリアの細い腰に深々と突き刺さる。絶対防御がなければ、一撃で内蔵が潰されていただろう。

「セシリアッ!!」

鈴が双天牙月を振り上げつつ、スラスターを全開にする。

「でぇえええいっ!!」

二刀が大剣と激突する。だが、パワーで勝る〈悪魔〉は甲龍に一切押しこませない。

 

後は白式と、〈悪魔〉は二機を払いのけるべく動く―― が。

 

〚……っ!?〛

 

「動揺、しましたわね……?」

セシリアはめり込んだ〈悪魔〉の足を抱え込み、ニヤリと笑っていた。

「これで動けないでしょ!」

そして鈴も、〈悪魔〉の左腕をガッシリと押さえる。

「今よ、やっちゃえ!!」

「一夏さん、今ですわ!」

「うぉおおおおおおおおっ!!」

 

その雄叫びに、〈悪魔〉は視線を白式へと送る。

 

 

 

 

 

 

 

「―― 引っかかりましたわね」

 

ここで、セシリアが動く。

足を抱えたまま、右腕を真上に振り上げ、〈悪魔〉の頭部目掛けて振り下ろした。

 

狙いは一つ。頭部のキューブユニットだ。

 

 

 

ドガァアアアアアアアアアアアンッ!!

 

 

 

 

セシリアの手中にあった”それ”が、激突した瞬間に大爆発を起こした。

 

 

「――― ッ……あぁああああああああっ!!」

悲痛な声を上げて、セシリアの右腕部がひび割れ、焼け焦げ、崩れ落ちていく。

「うわっ!!」

そして爆風におあられ、鈴も吹き飛ばされる。

 

敵が機体能力に対して常に適切な反撃をするのなら、その逆を行えば良い。

スペックによる対処をしているならば、それで一瞬でも思考のブランクを生み出せる。

遠距離型のブルー・ティアーズで接近戦を。近距離格闘型の白式に遠距離射撃を。

そして甲龍は敵の思考を狂わせるために、あえて同じ行動を取らせる。

 

全てはこの、捨て身の一撃を叩き込むために。

 

 

〚頭部〈コア・キューブ〉ユニット破損。V・T・M・S、プログラム損傷。通常戦闘モードへ移行〛

 

爆風はすぐに海風が浚い、現れたのは頭部にダメージを負った〈悪魔〉の姿。

幾ら7倍のエネルギーを持っていようと、そのエネルギー発生源、そのユニットにダメージを与えれば良い。それだけで7倍の差は、無いに等しくなる。

 

『一夏、今だ!!』

「あぁ! これで終わりだ!!」

コアは特殊金属で作られており、生半可な攻撃では破損すらしない。

〚戦闘システムに異常発生。機体稼働率低下〛

だが、一夏にはある。コアを破壞できる〈生半可ではない攻撃〉が。

 

雪片が展開し、一斬必滅の刃を生み出す。

零落白夜。その一撃は、コアの両断さえ可能とする。

 

「うぉおおおおおおおおっ!!」

 

この瞬間のために、セシリアは犠牲になった。

ここで決められなければ、男がすたる。

 

〈悪魔〉はそれでも、左腕部にブレードを展開。雪片を防がんとする。

『一夏、零落白夜で消すんじゃない。技で斬り捨てるんだ!!』

「ッ――!!」

一夏の集中が、一気に深まる。無用の感覚が削ぎ落とされ、全身がただ、刃を振るう為のものへと変わる。

 

 

――― ギィン。

 

 

軽い音と共に、ブレードを斬り捨てる。そのまま刃を上段に振り上げる。

一閃二断。全てを断ち切る斬撃。

 

〈悪魔〉も、白式を落とさんと、鏡写しのように大剣を振り上げる。

 

 

 

――― ギャィイイインッ!!

 

 

 

交差する斬撃。重厚に響く、金属の断裂音。

 

飛び散る―― 白の装甲。

 

「ぐっ……!!」

左肩から大きく斬り裂かれ、白式の装甲が砕けていく。

肉体に走るダメージに、一夏の体が揺らいだ。

『………お見事』

 

バチバチ、と〈悪魔〉の装甲が斬り裂かれている。その斬撃は綺麗に、胸部のコア・キューブを両断していた。

「!?!?!?」

初めて、〈悪魔〉が大きく揺らぐ。胸部を抑えながらグラリと崩れるのを堪えている。

〚胸部ユニット、ダメージ。エネルギーバイパスに異常発生。戦闘継続に問題あり。撤退行動に移ります〛

『一夏!!』

「逃さねぇっ!!」

逃走の気配を察した春斗が叫び、一夏が雪片を返して斬り上げる。

〚〈コア・キューブ〉ユニット、エネルギー全開〛

「っ……!?」

突如として、〈悪魔〉のボディが凄まじい発光をする。直後、眼前から機体が消えた。

「っ……上か!」

見上げれば、オーラの如き真紅の輝きに身を包む〈悪魔〉の姿。そして、〈悪魔〉が両手を広げる。

 

〚バーステッド・ローズ展開〛

 

何を仕掛けるかと注視する三人の前で深紅の光が集い、クリスタルを形成していく。それはまるで花弁のように形取り、組み合わさっていく。

『マズイ!? 一夏っ!!』

「二人共、俺の後ろに! 雪羅、モード切替!!」

 

―― シールドモード ――

 

それが何を意味するかに気付き、春斗と一夏が焦りの声を上げる。

一夏はシールドモードを起動させ、セシリアと鈴を庇うように動く。

 

瞬間、大空に大輪の華が咲き――― 爆ぜた。

「吹き飛ばせぇえええええっ!!」

雪羅を振り抜き、零落白夜のシールド〈霞衣〉を解放展開する。

吹き抜ける烈風が花弁を打ち払い、海面に落ちた花弁は次々に爆発し、海面を叩きまくった。

高々と吹き上がる水柱が、すぐにスコールとなって局所的に降り注いだ。

 

「くそっ……まだこんな攻撃を……!」

『奴は……っ!』

上空を見る、が、既にその姿はなく、ハイパーセンサーも反応をロストしていた。

『……完全に読み違えてた。出力制御をしなければ、全起動を可能だったんだ……ごめん』

「いや、謝ることはないだろ?」

『だけど、下手をしたら全滅していたかも知れない……これは、僕のミスだ』

春斗は悔しさと申し訳なさに、ギュッと拳を握る。

今更言ってもどうにもならないが、それでも慙愧の念を持たずには居られない。

『セシリアさんに身を呈してもらっていながら……クソッ!』

ガンッ。と、キーボードを殴りつける。仮想世界では痛みさえ感じなかった。

 

「そうだ。セシリア、体は大丈夫か?」

「えぇ。絶対防御のお陰で……でも、流石にダメージは深いですわ」

ダラリと下がった、ボロボロの右腕部。左手で押さえられた脇腹。

「ですが……まさかブルー・ティアーズを素手で叩きつける事になるとは、夢にも思いませんでしたわ……痛た」

セシリアは痛みに呻きながら、苦笑う。

 

〈悪魔〉に食らわせた一撃は、弾頭タイプのブルー・ティアーズ。砲身から抜き取ったミサイルを、鷲掴みにして頭部にぶつけてやったのだ。

どんな思考ルーチンをしていようとも、まさかゼロ距離から素手でミサイルをぶつけてこようなど、読み切れはしない。

 

その代償は大きかったが、だが得た結果もまた大きかった。

 

「春斗さん。後悔をなさる前に、まだすべき事がありますわ」

『……分かってる。すぐにフェリーを止めよう!』

「頼むぜ、天才!」

フェリーは、先刻の爆発の巻き添えをギリギリで食らわず、しかしとっくに相模灘に入ってしまっている。

「急ぎましょう!!」

三機は今度こそ、フェリーへと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

ジャミングの消えたIS学園のモニターにも、映像が復活する

「レーダー復活しました。フェリーは現在……初島に向かっています!」

真耶は千冬に、現在の情報を慌てた様子で告げる。

「あの辺りは観光地だな。下手をすれば被害が大きいぞ」

初島はリゾート地として知られており、現状どうなっているかは不明だが、行き交う船も多い。

そこに大型フェリーが割って入ろうものなら、どれ程の被害になるか。

 

「白式、ブルー・ティアーズ。甲龍のシグナル確認。フェリーに到着したようです」

「……今まで何をしていた? だが、今は船の停止を最優先だ」

千冬はロストしていた間の空白に、何かを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「船長、先程のISがこちらに!」

「報告! 通信回線復旧しました!!」

「ISに通信。コントロールの復旧はまだか?」

「了解!」

「ダメです。インストールは受け付けていますが……この速度では間に合いません!」

船長の指示に、船員が即座に動く。

「回線、繋がりました! オープンチャンネル、開きます!」

「こちらは船名〈ひなた〉。船長の伊佐木です。そちらの所属を明らかにされたし」

『こちらは出動要請を受けて来ました、IS学園所属IS機体名〈白式〉。織斑一夏です』

「……なるほど、あの世界唯一の……。失礼ですが、先程の戦闘行為について説明を願いたい」

『要請を受けて出動したところ、突如攻撃をされたため応戦しました。通信が戻っている状況から、恐らくは暴走の犯人であると思われます』

「こちらも、操舵システムの復旧を開始しました。が、どうやら状況は悪くなっているようです」

『どういう事ですか?』

「復旧まで時間が掛かり過ぎる。機関室からの報告で、エンジンもまだ制御を失ったまま。いつ爆発を起こすかも分からない状況とのことです」

『分かりました。到着次第、操舵室に向かいますので、後ほど』

 

通信が切れ、船長は「フゥ」と溜め息を吐く。

IS学園にいる世界唯一の男子の事はニュースで知っている。

だが、いくらISを使えるとはいえ、一介の学生にこの業況を打破できるとは思えなかった。

 

ISの性能を否定しているのではない。伊佐木はかつて自衛隊に所属し、かの”白騎士事件”の目撃者でもあった。ISの性能は嫌というほど目の当たりにしている。

だが、いかにISでも40ノットを超える、14,000トンの大質量を止められるだろうか。

 

未だ、天命を待つ以外ない。それが正直な感想であった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

『―― ということで、一夏は到着し次第、すぐに操舵室へ。二人は外から、少しでも良いから船の減速とコースの修正を』

「分かった」

「減速はわかるけど、何でコースの修正?」

『これを見て。さっきの戦闘で船が波に煽られて、コースが陸地側にずれ込んでいるんだ。このままだと不味いことになる』

表示したマップに、船のコース予測が加えられる。逗子方面に向かっていた船は、大きくコースを変えて初島に向かっている。

「船を止めるにも距離が必要……それを稼ぐのですわね」

『正直なところ、セシリアさんにはこれ以上の無理はさせられないんだけど……余裕が無い。もう少し、付き合ってくれる?』

「当然の事を言わないで下さい。もとより、その為に来ているのですから」

 

セシリアは力強く答える。

右腕部はボロボロで、まともに可動も出来ない。

だが、左腕部は動くし、スラスターも正常。出力系に異常はない。

 

やれることをやらなければ、後悔は果てしない。

(止めますわ……何としても!)

 

 

 

フェリーを追い越すように三機は飛び、白式はそのままデッキに降り立つと、中へと入った。

 

 

「さて、コースを変えるたって……どうする?」

「勿論、力尽くで変えるまでですわ」

「ま、そうなるわよね。取り敢えず、押してみますか!」

鈴とセシリアは船の先頭部に回りこみ、船体を押し始める。船首を右に曲がらせるようと、スラスターに力を込める。

 

 

 

 

操舵室へと入った一夏は、言葉をニ、三交わしてから、操舵システムの前に立った。

『ここからは僕の仕事だね』

『大丈夫なのか?』

『大丈夫……これぐらい、全然余裕だよ』

入れ替わった春斗は、百目と晨月を部分展開。アクセスモード〈月虹〉を起動させる。

「プログラム……アクセスッ!!」

バイザーが降り、コア・ネットワークを介して、航行プログラムが春斗の前に出現する。

(プログラムがズタズタにされてる。これじゃ、暴走しても当たり前だな)

春斗は破損したプログラムの中から、重要度の高い物を選択し、選り分けていく。

(時間がないから、航行システムとエンジンコントロールだけをまず優先して……)

 

 

「「「………」」」

唖然としていた。

モニターに映る無数の文字の羅列が、まるでパズルのように組み合去っていく。

コンソールに添えられた右腕は光を幾度も走らせ、バイザーに隠れて覗く口元は何かを呟いているのか、小さく息を吐き出しながらせわしなく動く。

 

時間にして10分も経たず。春斗はバイザーを上げ、晨月を離した。

『そっちは……まだダメなの!?』

『この船……ビクともしませんわ……っ!』

「ちょうど終わったところだよ」

通信に短く答え、春斗は船長に向き直る。

「エンジンと操舵システムはこれで何とか出来ると思います。後はお願いします」

そう言い残し、操舵室を出る春斗を唖然としたまま見送る面々。

「……ハッ! いかん、ボサッとするな! すぐに減速、舵を主導に切り替えろ、面舵だ」

「は、はいっ!」

「機関室から報告……エンジン停止しました。応急修理を開始するとの事です」

「わかった。舵が戻っただけも十分だ。このまま相模湾を周り、自然減速する」

「了解。面舵いっぱい」

窓に見える風景が、ゆっくりと横に流れ始めた。

 

 

 

「またせたな、二人共」

白式を纏った一夏が、船体に張り付いていた鈴達に声をかける。

舵が戻ったことを知らせると、二人は顔を見合わせて深い息を吐いた。

「ったく……こんなにすぐ終わるなら、あたしら要らなかったんじゃない? 無駄に体力使っちゃったじゃないのよ」

「うぅ……今更ながら痛みが……」

ズキズキと痛み出す体に、苦悶の声を漏らすセシリア。

「大丈夫か? ほら、肩貸すぞ?」

「ありがとうございます。でも……今は遠慮しますわ」

「……? どうしてだ?」

「―― まだ、船が止まった訳ではありませんから」

そう言って、セシリアは高度をゆっくりと上げる。

徐々にだが、船は速度を緩めていっている。だが、まだ止まった訳ではない。

安全の確認がされるまで、誰かの肩を借りる―― 油断することはできなかった。

 

 

セシリアの心配を余所に、フェリーは無事に停船。エンジンの応急修理と三機による牽引によって微速航行。

三浦半島近くまで移動すると、そのまま海上自衛隊へと引き継ぎ、一夏達は学園へと帰還する事になった。

 

 

 

陸地で起こっていた事件の事を知るのは、もうすぐの事である。

 

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