IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第60話  学園祭開幕!

 

第60話  学園祭開幕!

 

轟々と鳴り続ける残響。海上で燃えるそれらが黒煙を上げて、大気を薄黒く染める。

「ラウラ、まだ行ける?」

「あぁ。問題はない……今のところはな」

鈴とラウラは背中合わせになって、自分達を囲む者達を見据えた。

敵はザッと見回すだけでも100を超える。その一機一機は、弱いながらISシールドを有する。それらが二人の周りをグルグルと、獲物を狙う瞬間を待ち構える。

「ったく、弱いくせに数ばっかり揃って……幾らこれが役割でも、うざったいわね!」

「そうだな。だが、数は最も単純にして、最も有効な戦力比だ。油断は出来んぞ?」

「しないわよ……する訳無いじゃない。あたしはマジでキレてるんだから……っ!」

ガチャリ。鈴の双天牙月を握る手に力が篭る。

「あぁ、そうだな。私も……全てを灰燼に帰してやりたい衝動を抑えるので精一杯だ……!」

ギリッ。と、ラウラの奥歯が鳴る。

「巣穴をつついて、本命が出るのを待つ……本気で暴れるのはその後だ」

「オーケー。それまでじっくり……破壊衝動を溜めさせてもらうわ!」

周囲から一斉に、深紅の光線が飛ぶ。二人は互いを弾くようにして一気に離れる。標的を失った光線がぶつかり合って弾け飛んだ。

 

「「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」」

二人の咆哮と共に、空に爆炎の連華が咲き誇った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

雲一つない快晴の下、学園祭当日はやって来た。

正門前に設けられた受付、特に関係者受付は多くの人がいた。毎年のことながら、特に今年は様々な意味での注目がある。

だから受付担当の生徒は、次々に記帳される来賓のチェックに大忙しである。

 

入り口がそんな様子である以上、学園内にも大勢の人間がいる。

まだ一般来場は殆ど無いが、こっちも本格的になれば更に忙しくなるだろう。

さて、そんな中で我らが一年一組はといえば――。

 

「はい、こちらに一列で御並びくださーい」

メイド服姿の癒子が、乱雑になった列を整えるべく声を張る。自由行動中の生徒の多くが、ここに集まりつつあり、一組前の廊下には大勢の生徒が軽い行列をなしていたのだ。

そして今も、その人数は着実に増えている。その原因はといえば当然、一つしか無い。

「本当に、織斑くんの接客が受けられるの?」

「本当よ。しかも燕尾服姿で、執事やってるんだって!」

「つまりあれ? あたしも『お嬢様、お帰りなさいませ』とか言われちゃうの? うっは~! あ、涎が」

「お嬢様は阿呆でございますか?」

「まぁ、これはほっといて。なんかゲームに勝つと写真も撮れるらしいよ?」

「知ってる! しかもツーショットでしょ!? うっし、絶対に勝つわよ!」

気合を入れる少女達。フルオープンの入り口に白のレースカーテンを掛けたその向こう側は、正に戦場であった。

まぁ、それは極々一部の人間だけなのだが。

「いらっしゃいませ、どうぞこちらのお席にお着き下さい」

と、ヒマワリのような笑顔で接客するのはシャルロットだ。

「水だ。注文はさっさと決めるがいい」

その向こうでは、ラウラが冷徹な感じで接客していた。

そんな態度で大丈夫かと心配されたが、しかし無用であった。

「いやぁ、可愛いわねぇ」

「いい子いい子したくなるわ」

その容姿と掛け合わせで、えらく可愛がられていた。

そして一夏はと言うと、こちらは悪戦苦闘していた。

「では、ゲームはじゃんけんですね。それではお……私に勝ちますと、ツーショット写真を撮ることが出来ますで、がんばって下さいませ。それでは――」

 

じゃんけん、ぽん。

 

「え~……お嬢様の勝ちでございます。何か撮影するものがあればお出し下さい。なければこちらのカメラで撮りますので、その際はクラスとお嬢様のお名前をお願いします」

慣れない言葉遣いで、何とか覚えた台詞を口にする一夏。その裏で、春斗がカンペを出していることは想像に難くない。

メイドの一人が客から携帯を受け取り、一夏と隣合って立つ。

『ほら、一夏。もっとくっついて。それと笑顔もね』

『出来るか! ていうか、向こうからくっついて来るし。なんか箒とかすっげえ睨んでね?』

『当たり前だろう? 好きな相手が他の女子に鼻の下の場してれば、いい気はしないよね』

『伸ばしてねぇよ。てか、セシリアとラウラもなんか機嫌悪くねぇか?』

『-―ほら、そろそろ撮られるよ』

『おっと』

「それじゃいきま~す。はい、チーズ!」

カシャリ。シャッター音がする。写真を確認してみると、一夏の顔の何とひどい事か。

口元は笑おうと努力したのか、ヒクヒクと引き攣ってしまい、台なしである。

しかしそれを見て何故か客は「やだ、一夏くん可愛い!」などと言って喜んでいた。

一夏にしてみれば、こんな物はさっさと消してもらいたいところであるが、サービスである以上は言う事も出来ない。

「はぁ~。これが後、何時間続くんだ?」

サービスとい名の接客を終え、一夏はつい、ため息を吐いてしまう。

教室内はメイド服のクラスメイト達がせっせと動き回っている。

弾曰く『メイド服とスクール水着、ブルマに反応しない男はいない!』との事だが、正直、そんな物を感じる余裕はない。

(それに何時、亡国機業の奴が来るか分からないんだ。油断できない)

『一夏。あんまり、気負い過ぎないようにね。何かあれば、会長の方から連絡があるし』

『分かってるさ。……それでも、今日だけは油断なしだ』

一夏はギュッと口を真一文字に結ぶ。今日がきっと、全てを取り戻す最初の一歩だから。

 

『はい、一夏くん。7番さんに『執事とティータイムセット』入りましたよ~』

「……了解」

シリアスというヤツは存外、長続きしないもののようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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さて、隣のクラスである二組はというと、中華喫茶は見事なまでに一組に客を取られてしまい、酷く暇であった。

「いやぁ、見事に暇ねぇ~」

「さすがに織斑くんを擁する一組と同じ喫茶店はまずかったぁ~」

客のいない教室内にはカラフル、そしてセクシーなチャイナ服の乙女達が、全部台無しになる様なだらけっぷりでダベッていた。

「やっぱり、アリーナ使ってトラップハウ……からくり屋敷にするべきだったのよ」

織羽は客席に座って、今更ながらに言った。

「今、トラップハウスって言おうとしたよね? やっぱり潰して正解だったわ」

「このクラスに団結力はないのか!?」

「むしろ、ちょー団結していたと思うけどね~?」

「くっ……これがイジメというやつね!?」

「いやぁ、全然違うし」

別段本気で言っているわけではない。ただ、からくり屋敷は本気で止めに入ったが。

「さて、それじゃ客寄せにでも出てみますか。チケット招待の客も、良い感じに入ってきているだろうしさ」

そう言うと、織羽は立ち上がった。

「凰はどうする? 一緒に来る?」

「行かない。その代わり『真面目に』宣伝してきないさいよね?」

鈴はジト目で、しっかりと釘を刺した。この忍者は油断すると、何をやらかすか分かったものではないからだ。

「もち、Gallonよ」

「……は?」

「モチがロンならぬ、もちガロン……なんちて」

「双天牙月で斬られるのと、龍咆でぶっ飛ばされるの、どっちが良い?」

「宣伝行ってきまーす!」

どっちも御免こうむると、織羽はさっさか教室を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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「ついに……ついに来たんだ。俺は……本当に……夢じゃないんだな……っ!」

レールウェイの駅を降りた所で、長い赤髪をした一人の少年が、学園正門を見上げながら感涙の涙を押し殺していた。

ググっと固く握られた拳は爪が痛い程に食い込んでいるが、それさえ、彼にこれが夢ではないという事を教えてくれているに過ぎない。

彼の名は五反田弾。一夏や鈴と、中学からの友人である。彼が何故ここに来たかというと、一夏からチケットが贈られてきたからである。

「一夏よ……サンキューな。お前という友人、いや親友……否、心の友を持った俺は幸せ者だ!」

何処かのジャイアニズムの伝道師のようなことを言いながら、弾はチケットの入った封筒をギュッと抱きしめる。

何せ、一般人にはお目に掛かることが無い、IS学園のロゴ入りの封筒だ。それさえもお宝である。

そこに書いている一夏の字も、もしかしたらチョットぐらいの価値はあったりするかも知れない。

ただし、学園で真新しい封筒なんかが手に入ったらその限りではないが、とか思っていたりする。大した友情である。

「さぁ、行くぞ。いざ、秘密の花園へ!」

駅から学園正門までは数分程度の距離だ。弾は気合を入れて足を踏み出した。

だがしばらくして、弾はふと足を止める。

「……この格好で大丈夫だったか?」

弾は自分のジャケットを摘んで独りごちた。今日という日のために目一杯、ファッションに気を使ってきたのだが、どうにも場違いな感じがしてならない。

周りにはやはり女子が多い。関係者家族なのだろうか、親子連れもいる。

他にはピシッとしたスーツ姿がチラホラとある。恐らくは何処かのIS関係企業の人間なのだろう。

様々な人間がここを訪れているが、その誰もが自分よりも上等な格好をしているような気がしたのだ。

若干弱気になりつつも、弾は再度、受付のある外門に向かった。

「――はい。チケットを確認しました。立ち入り禁止区域内には決して入らないよう、気をつけて下さい。最悪、身柄拘束もありますので」

「分かりました」

受付を済ませた弾は、ついに学園内に入る。

「おぉ、すっげぇな。うちの学校とは段違いだぜ」

弾は早速、IS学園の外観に先制パンチを喰らった。世界中から学生の集まる学園だ。設備もその管理も他の学校と比べるべくもない。

「うちも、これぐらい綺麗だったらなぁ~」

そう言いながら辺りを見回せば、女子女子女子。しかも、誰も彼もがレベルの高い子ばかりだ。

「さすがIS学園。レベルが半端じゃねぇ……くそ、今からでも俺もIS動かせねぇかな?」

取り敢えず、こんな天国のような場所にいる一夏を殴ってやろうと決めて、弾は校舎の方に向かった。

校舎に近づくに連れて、女子の声が耳に届き始める。

「ねぇねぇ。あの男子って、誰かの彼氏?」

「ちょっと格好良くない?」

「えー? 織斑くんの方が格好と思うよ~?」

(うおっ? ちょっと待てよ……もしかして俺、良い感じに注目とかされてね!?)

弾はついついニヤケそうになる顔を、ギリギリで押し留めた。

一夏の影に隠れがちではあるが、彼の容姿は元々整っている。背も高く、足も長いモデル体型。顔も、一夏とは違う意味での甘い顔立ちをしている。

要は、弾はモテる方なのだ。だが悲しくも、星の光は太陽の光に消えてしまうものなのだった。

(これはあれか? 俺にもいよいよ、その時が来たって事なのか!?)

弾の脳内では、可愛い彼女との運命的な出逢いがフルカラー、ドルビーデジタル7.1Chサラウンドで始まっていた。

「――ちょっと、そのあなた?」

「は、はいっ!?」

と、妄想が翼を広げた瞬間、いきなり背後から声が掛けられた。まさか、顔に出ていたのかと弾はギクリと顔を強張らせた。

「な、何でしょうか……?」

恐る恐る弾は振り返る。そして、彼は息を呑んだ。

そこに立っていたのは、長い髪をアップにし、前髪をカチューシャで持ち上げ、キラリとフレーム無しの眼鏡が光る、IS学園生徒会最後の砦にして、学園裏番長と噂される布仏虚であった。

「あなた、誰かからの招待? チケットを確認させてもらえるかしら?」

「――へっ!? あ、はい。チケットですね!? ……えっと、これです」

弾はあたふたとしながら、チケットを差し出す。虚はそれを受け取ると早速、配布者を確認した。

「あら、織斑君からなの?」

「え? し、知ってるんですか、アイツの事?」

つい上ずってしまいそうになる声を何とか抑えて、弾は尋ねた。

「えぇ。彼は色んな意味で有名人だから、学園内で知らない人はいないと思うわよ」

そう答えながら、虚はチケットを弾に返した。

「そ、そうですか……」

ただでさえ、中学の頃から目立っていた一夏だ。そこに世界唯一の男子IS操縦者なんてものが付けば。知らない者はいないだろう。

だが、そんな事は今の弾には酷くどうでも良かった。

(うわぁ、うわぁ……! この人、メチャクチャ美人、ていうか可愛い……ていうか、超俺好み過ぎるんだけど……!?)

弾の脳内は暴走モードに絶賛突入中であった。

(うわぁ……まつ毛なげぇ……て、そうじゃない! 何とかお知り合いに……話題、話題は……!)

働かない思考で、ひたすらに考える。

「あ、あのっ!」

「? 何かしら?」

「きょ……今日はいい天気ですね!」

「えぇ、そうね」

会話終了。

弾は泣いた、心の中で。今の心中は土砂降りの雨だ。何で自分はこうもセンスがないのか。

一夏だったらきっと、無駄にスラスラと言葉を繋げて、あっという間に心の中に忍びこんでいただろう。

だがもう遅い。自分はもう、敗北したのだ。敗者はただ去るのみ。

「おーい、虚ね~さ~ん!」

そこに、更なる来訪者が現れた。

 

 

 

 

 

 

「さ~て、客寄せと言ったは良いけど……どうしたものかしらね~?」

外に出た織羽は、適当にブラブラしていた。切れ込み鋭い&背中フルオープンなチャイナ服姿の人間が歩いているだけで目立ちまくっているのだが、それがクラスの宣伝になっているかといえば正直、微妙なところである。

そんな感じで単なる散歩になりつつあったが、織羽は向こうの方に見知った人間を見つけた。本音の姉の虚である。

「おーい、虚ね~さ~ん!」

織羽がヒラヒラと手を振って声を掛けると、何故か虚がピクリを体を震わせた。

「あ、あら織羽さん……どうしたの?」

「いや、見掛けたから声をかけただけで……あれ、もしかして君は……そう、ダンダダン君!」

「いや、俺は五反田弾で……って、うわっ!? なんて格好……! いや、そうじゃなくて何で俺の名前を?」

「ほら、レゾナンスで会ったでしょう? 憶えてない?」

「レゾナンス……あぁっ! あの時の!」

弾はその顔をジロジロと見て、そして声を上げた。あの時は知らない顔ばかり(しかも美少女ばかり)だったことが強く印象に残っていたせいでピンとこなかったが、こうして顔をしっかりと見れば、確かに会っている。

「辰守織羽よ。改めてよろしくね、ゴーダダン君?」

「……何すかその、血流をコントロールする格闘術使いそうな間違え方は? しかも親父の方だし。ていうか、態とですよね?」

「勿論っ!」

「うわっ、超いい笑顔だし!?」

「……ごほん。織羽さんはここで何を?」

何故か咳払いして、虚が割って入ってくる。

「え? いやぁ、うちのクラスが暇すぎて……で、ちょっと客引きの一つでもと。虚姉さんは?」

「私は見回り。ところでお嬢……会長を見なかった?」

「うんにゃ、見てないよ。どうせ、その辺をぶらついてるんじゃないかな?」

「そう。見かけたら教えて頂戴」

「りょーかい」

「あ……あのっ!?」

「「……?」」

今度は弾が割って入ってきた。興奮しているのか、微妙に息が荒い。

「あの……二人は姉妹なんですか? さっき”姉さん”って言ってましたよね?」

弾は虚に尋ねた。彼にしてみれば、織羽の登場で首の皮一枚繋がったようなものだ。

さっきのミスを何とか取り返したいと、話題に食い込むのも当然である。

「いや、虚姉さんには妹いるけど、あたしじゃないよ。その妹があたしの幼馴染で、その関係でそう呼んでるだけよ」

「あ、そうなんだ。えっと……」

「………この人は、布仏虚さんだよ」

「えっ……?」

「だから、虚姉さんの名前。知りたかったんでしょ?」

「うぐっ……!」

織羽がいたずらっ子のようにチロッと舌を出すと、弾の顔が紅潮した。

「そ、それよりも一夏のクラスって何処ですか!? ここ広いから道分かんなくなりそうで……!」

ごまかす為か、弾の声が大きくなる。織羽はニヤニヤと笑いながら、虚に向いた。

「……だって、虚姉さん?」

「ど、どうして私に言うの?」

「いやぁ、別に。それで、虚姉さんが案内……する?」

「っ……!? わ、私は生徒会の仕事もあるし、織羽さんに任せます。それじゃ……五反田君、学園祭をどうぞ楽しんできて」

「あ、はい……ぁ」

虚は背を向けて、足早に去っていく。その背に伸ばされた弾の手は、虚しく落ちたのだった。

そして何故か、織羽はニヤニヤと笑いながらその背中を見送っていた。

「はいはい。いつまでも立ってないで、さっさと行きましょう?」

「……はぁ~あ」

織羽がペシペシと肩を叩くも、弾の反応は薄い。

「そんなに落ち込まなくても良いと思うけどねぇ~。」

「……何で?」

「虚姉さんが初対面の男子に、あそこまで興味見せるなんて、むしろ自分の目を疑ったくらいだし。ほら、そんな事はいいから。織斑君のクラスに行くんでしょう? なら、ちゃっちゃと歩く!」

「いぃっ!?」

グイ、と腕を引かれた弾は、おかしな声を上げた。というのも、織羽が彼の腕を、抱えるようにして引っ張ったからだ。

そんな事をすれば当然、腕は胸に当たる。しかも織羽のはIS学園でも上から数えた方が早い順位だ。触れて歪むどころか、谷間に挟まってしまっている。

それを薄地のチャイナ服越しに感じるのだから、D・Tな青少年のリビドーは一気に振り切れそうになる。

「ん? どしたの?」

「む、胸が……当たって……るから!」

小首を傾げる織羽に、弾は何とか理性を繋ぎ止めつつ言う。すると織羽は目を瞬かせて、そして言った。

「うん、わざとだし」

「わざとかいっ!!」

織羽は別に天然ではない。やらかすことは大体、分かっててやっているのだから。

「ははは! ドキドキするのは良いけど、そのまま宇宙まで飛んでっちゃダメだからね?」

「禁じられた合体なんてしないけどね!?」

ちょっと古めなネタを挟みつつ、弾は織羽に引かれるまま、校舎へと入っていった。

 

 

 

 

さて、二人が校舎に入っていくのを、植え込みの影から覗いている女生徒がいた。

「織羽さん。彼と随分と親しそうにしているのね。あんな腕まで組んで……っ」

誰あろう、布仏虚である。

「なんですか、だらしなく鼻の下を伸ばして……ていうか、どうして私はこんな所からコソコソと覗いているんでしょう?」

ふと、自分の行動に疑問を持った。何故、出会って間もない男子の事でこんなにやきもきした上に、覗き行為に走っているのか。

「あ、先輩」

「ひゃっ!?」

いきなり背後から声を掛けられた虚は、可愛い悲鳴を上げた。そんな虚に、怪訝な視線を送る女生徒。

「……何してるんですか?」

「い、いえ。なんでもないわ。ところで何かしら?」

心中のモヤモヤを何とか誤魔化しながら、虚は笑顔を貼り付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

正門に設けられた受付では、軽い騒動が起こっていた。

関係者としてやってきた人物に記帳をしてもらったのだが、その名前に誰もが驚き、そしてざわめいた。

「え、えっと……そ、それではどうぞ」

「Thanks。受付、頑張ってね」

そういって、ライトグレーのスーツにサングラスを掛けた女性は、学園に入っていった。

 

 

それから10分後。

「全くどういう事だ? 通路が生徒で封鎖されているだと?」

「一体、何があったんでしょうか?」

巡回中の千冬と真耶は、廊下を早足で歩いていた。というもの、一階の廊下に生徒が集まって、通れないというのだ。

ただでさえ、1組前の廊下の混雑に頭を痛めているというのに、他にもこんな事が起こるのであれば、苛立ちも仕方ない。

やがて二人は問題の場所に辿り着いた。

「うわぁ……なんですか、これ?」

真耶は驚きの声を上げた。古今東西、国際色豊かな色がそこには勢ぞろいしていた。よく見れば生徒だけでなく、他国や企業関係者の姿もある。

「ったく、バカ者共め……貴様ら、何をしている!!」

「っ……!? 織斑先生……っ!」

「ブリュンヒルデ……!」

千冬の一喝に、しかしざわめきは大きくなった。千冬は怪訝に思いつつも、その中心――騒動の大元に向かって、一歩足を踏み出す。すると、人混みがモーゼの十戒の如く割れていった。

果たしてそこには、スーツにサングラス姿の女性が、生徒と一緒に写真を撮っていた。

「はい、オッケーね」

「ありがとうございましたっ!」

生徒は感激のあまり、ペコペコと何度もお辞儀をした。それを見て、千冬のこめかみがピクピクと痙攣する。

「お前……何故、ここにいる?」

「ん……あら、チフユ。久しぶりね」

そう言ってサングラスを外す女性。その顔が顕になると、真耶が目をこれでもかという程に見開いた。

「あ……あぁ………ふぃ、フィリー・ミヤムラさん……!? そんな、どうして……IS学園に……!?」

あわあわと慌てふためく真耶。IS代表候補生であった彼女からすれば――いや、ISに関わる人間ならば、彼女を知らない者などいない。

 

ブリュンヒルデ――織斑千冬。彼女の事を語るならば、絶対に外すことの出来ない人物がいる。

フィリー・ミヤムラ。元日本代表候補にして、元イギリス代表候補生にして、フランス国家代表という複雑な人物。

第二回モンド・グロッソ総合部門準決勝第二試合。それを見た誰の記憶に残る壮絶な試合。その相手が彼女であった。

先に決勝に駒を進めていた選手はイギリスの代表であったが、射撃部門決勝においてフィリーに敗北した選手であった。

そして両者は各部門の優勝者。この試合を制した方が、大会を制すると言われていた。

だが、フィリーは敗退。千冬は決勝辞退。これが千冬最期の公式戦となってしまった。

不遇なのは二代目ブリュンヒルデとなった選手だ。千冬が辞退していなければ、もしくはフィリーが勝利していたならば、彼女の総合優勝はなかっただろうと噂され、〈仮初のブリュンヒルデ〉とまで揶揄されたのだ。

その汚名を濯ぐチャンスも千冬、フィリーの相次ぐ現役引退で叶わないでいた。

 

閑話休題。

ともかく、千冬の活躍を語る時には絶対に外せない相手。それがフィリーなのだ。

ブリュンヒルデとヴァルキリー。かつて死闘を演じた宿敵同士。その接触に、この場にいる全員が息を呑んだ。

千冬は冷徹に、フィリーは不敵に笑み、互いを見据える。

「ミヤムラ……答えろ、ここで何をしている?」

「ファンを大事にしているわ」

「誰が上手い事言えと言った? 座布団を取るぞ?」

「なんて横暴な司会者なのかしら。そんなんじゃ、山田君も来ないわよ?」

「安心しろ、山田ならここに居る」

ベシ。と、真耶の背を叩くようにして前に押し出す。

「さぁ、遠慮なく座布団を取ってこい、山田君」

「ふぇ……ぇええええええぇええぇえええ~~~~っ!?」

色んな意味で無茶振りである。真耶から見れば、千冬と同じく天上の人であり、更に座布団はない。どうしろ言うんだとばかりに、真耶は涙目になった。

「へぇ……あたしから座布団を取ろうだなんていい度胸ねぇ、山田君?」

「えぇ……えええええええっ!?」

猛禽の如き瞳に捕らえられた真耶が、マジ泣きした。

 

「……仲、良いんだ」

 

あまりにも予想外の展開に、周りもついて行けなかった。

 

 

 

 

「それで、どうしてIS学園に?」

「どうしても何も、昔は日本に住んでいたし……何より、弟子の顔を見に来ただけよ」

真耶は首を傾げた。フランスから学園に来ている生徒は何人もいる。その誰も優秀な成績を修めているが、誰がそうなのだろうかを考えた。

「なるほど。デュノアはやはり、お前の直弟子だったか」

「えっ、デュノアさんがそうなんですか? でも、どうして分かったんです?」

「高速切替(ラピッドスイッチ)には展開、収納する武装の順番によって、極僅かだがタイムラグが生じる。だが、デュノアの高速切替(ラピッドスイッチ)は、タイムラグの起こる展開パターンを全て外している。そんな人外の芸当を教えられるのは、銃器を知り尽くした|硝煙の魔女(ガンスモークウイッチ)以外にはいないだろう?」

「………そ、そうですか」

真耶は思った。タイムラグの事はともかく、そんなものを見極めている千冬もまた、充分に人外なのではないだろうかと。そして、それも今更だなぁ、と。

 

「それにしても、なかなか面白い学園ねぇ~。教員の要請、受ければ良かったかしら?」

「お前が来たら学園が崩壊する。絶対に来るな」

「ハハハ。脳筋のチフユが教師出来るんだし、余裕でしょう?」

「はっはっは。脳内硝煙だらけになって、思考まで曇ったか?」

「ハハハ。似合いもしない教師なんてやってるから、頭が錆び付いたんじゃないの?」

「はっはっは。教官なんて柄にもない事をやっているせいで、完全に脳みそが発酵を始めたようだな?」

「ハハハ」

「はっはっは」

 

――ゴキャッ!

 

「ひぃっ!?」

真耶が短く悲鳴を上げた。二人がいきなり頭突きし合ったのだ。

「何? 喧嘩売ってるの?」

「お前こそ……もう一度、地面にたたき落としてやろうか?」

「はっ。弾切れになってなきゃ、あたしが落としてやってたわよ」

「ふん。残弾も計算に入れられとは、大したものだな?」

「そっちこそ、自分の得物ぶっ飛ばされておいて、偉そうなこと言うじゃない?」

ゴリゴリと額を擦り合わせながら、地を這うような声で笑い合う二人。

(だ、誰か助けて下さいぃ~~~っ!)

真耶は心の中で助けを求めるが、誰もが見ないフリをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「駄目だ……もう限界だ。肉体的じゃなくて精神的に駄目だ」

一組の目玉、織斑一夏は早くも疲弊していた。

段々とエスカレートしつつある、果て無く続く女子達の猛攻。

そして、その度に箒、セシリア、ラウラの冷たい視線が突き刺さる。

シャルロットが慰めてくれるが、それももう限界であった。

『頼む、俺に休みをくれ! これじゃ、本番が来る前に戦えなくなる!!』

割と切実に、一夏は春斗に訴えた。

『別に良いけど……どっちにしろ、体は疲れるよ?』

『それはまだいい。精神疲労だけはどうにもならん。ていうか、マジ疲れたんだよぉ』

『気持ちはわかるけど……仕方ないなぁ』

入れ替わって、春斗は乱れていた燕尾服の襟を整える。そして、髪をグッと掻き上げた。

「さぁ、ここからは僕の時間だ……いらっしゃいませ、お嬢様」

気合を入れて、春斗は来客を出迎えた。

席に案内すると、早速注文が入った。

「8番テーブル、『執事にご褒美セット』入りました。お願いします」

「了解。すぐに行きます」

インカムに入った声に答え、春斗はバックヤードに行く。

執事にご褒美セットとは、執事――つまり一夏に、食べさせてあげられるというものだ。

ちなみに、似たものに『メイドにご褒美セット』というのもある。こちらは主に、本音とラウラが指名の人気である。

春斗はセットの乗ったトレーを受け取り、早速8番テーブルに向かった。

「お待たせしました。『執事にご褒美セット』です」

「きゃーっ!本当に執事だ~! 織斑君、すっごく格好良い~っ!」

「ありがとうございます、お嬢様」

やたらハイテンションな女生徒に恭しく頭を下げ、春斗はトレーの物を置き始めた。

内容はアイスハーブティーとチョコレートプレッツェル。価格は300円。

問題はその内容だ。

「では、失礼します」

春斗はテーブルにそれを置くと、女性客の向かいに座った。

このセットは『執事に食べさせられるセット』なのだ。何故客が金を払ったものを、従業員に食べさせなきゃならないのか一夏は理解出来なかったが、先程から何度も、この注文は入っていた。ただ一つの救いは任意である事なのだが、どういう訳か注文した女子は喜んでやるのだ。そこもまた、一夏には理解出来なかった。

「はい、一夏くん。あーん」

といって、女生徒はプレッツェルを口に咥えた。その瞬間、教室内がざわめいた。

祭りのせいだろう、テンションがおかしくなって悪乗りしているだけだろう。

流石にこれはダメだと、箒が動こうとする。が、その足が止まった。

「――では、失礼します」

春斗が身を乗り出して、右の指先で女生徒の顎を軽く上げたのだ。

「へ?」

やや上向きになったところに、今度は左手が頬に添えられる。そして、春斗は一気に顔を近づけた。

 

「っ――!?」

 

がらぁぁああああああん……。

 

誰かが、トレーを落とした。その音が異様に響く程、一組は静寂に包まれた。

「――ご馳走様でした、お嬢様」

そう言って顔を離してクスリと微笑み、春斗は指先で女生徒の唇を拭う。まるでプレッツェル以外の”何か”を貰ったかのように。

「あ………あぁ……………きゅう」

顔を真赤にして震え、そして女生徒は気を失った。

勿論、本当にキスをした訳ではない。寸前でプレッツェルを折った。悪乗りしたこの女生徒にちょっとしたお返しをしただけだ。

だが、彼女からすれば鼻先が触れて息が届く距離まで顔が近づき、周りから見れば左手で口元を隠されていたのだ。

その後の春斗の行動も、完全にキスをしたとしか思えないアクションであった。

 

周りの客も、顔を真赤にしている。一部は無意識にメニューに手を伸ばしている。何をする気なのだろうか。

 

 

「あんたは‥‥何やってんのよ!?」

「うごっ!?」

ゴキャ! ゴンッ! と、後頭部に痛打を喰らい、その勢いで額をしたたかにテーブルにぶつけた。

「痛ぁ……! ま、前も後ろも痛い……っ! 誰だ、こんな………っ!?」

春斗が頭を摩りながら涙目に顔を上げると、そこにはチャイナ服の羅刹が立っていた。

「り、鈴ちゃ……鈴……?」

思わずちゃん付け思想になったのを押さえる。鈴はもの凄く怖い目で春斗を見下ろしていた。

ハイライトなんて何処にもない。

「一夏、お前……ついに覚醒しやがったのか……!?」

その後ろから、驚愕の表情を見せるのは弾であった。

「……なんの事だ?」

春斗と変わった一夏は、意味が分からないと首を傾げる。

「ふざけんなよ! この超ハーレム人が!」

「伝説の戦士見たく呼ぶな! ……ったく、相変わらずだなお前は」

「うっせぇ。それより、その子どうすんだよ?」

「……あ」

弾が指差すその先には、春斗が気絶させた女生徒が未だに目を回していた。

大急ぎで保健室に運んだりしたせいで、この後、学園内では一つの噂が立つことになる。

 

 

織斑一夏は、『全国的に鈍感、ところによりドSである』と。

 

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