IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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Another Side  弾のハーレム体験記

 

校舎に入った弾と織羽は、1組のある3階までの階段を登っていた。

「――じゃあ、辰守さんも一夏のこと知ってるんだ?」

「まぁねぇ。一年の専用機持ちは大概、一緒にいることが多いし。あ、あたしの事は織羽でいいわよ」

「あぁ、それなら俺も弾で良いぜ。……でさぁ」

「何?」

「そろそろ……腕組むの止めてくれない? さっきから視線が痛いんだけど!?」

途中で何人もの生徒とすれ違ったが、その全員が軽く目を見開いていた。その原因は織羽だった。

「別に良いじゃない。弾君はあれでしょ? ハーレム願望持ちってヤツ?」

「ぶっ――!」

弾は噴いた。何故それを知っているのかと。

「織斑君から聞いたわよ。『弾の奴、俺がハーレムで羨ましいって毎度言ってるんだ』って」

「あ、あのやろぉ……!」

言ったのは事実だが、それを学園の生徒に言うか普通。弾は久々に一夏を殴りたくなった。

「まぁ、ハーレムでも何でも、大事なのは相手を愛する器量と気持ちよ。自信がないなら、止めた方が無難よ」

「……まさか、マジで答えられるとは思ってもいなかった」

「そう? 別に普通じゃない?」

「いや……普通なら『最低』とか『マジキモイ』とか言うもんじゃないか?」

「そうかしらねぇ……別に、あたしは気にしないかなぁ。……どうしたの?」

「ごめん……ちょっと感動した」

織羽の言葉が心に響いたのか、弾は目頭を押さえた。

 

 

 

 

 

「――はい。ようこそ我が『中華喫茶』へ!」

弾はさっきと違う意味で目頭を押さえた。

「あのさぁ……俺は一夏のクラスに行きたかったんだけど?」

「うん。知ってるわよ」

「じゃあ……なんで、俺は君のクラスの前に来ているんだよ!?」

弾は叫んだ。そりゃもう見事なものだ。きっと、ツッコミレベルは相当のものだろう。

「だって、隣が織斑君のクラスだもの」

「……隣?」

織羽の指差す方に視線を動かした。そこにはズラリと並ぶ女生徒の群れ。そしてそれを整理する、髪を二股に結んだメイド服の子。

「……あれ、全部客なの?」

「そっ。ほぼ全員、織斑くん目当てよ。そのせいでウチはもう暇で暇で……そこで弾君よ!」

ズビシッ! と、SEが付きそうな勢いで、織羽が弾を指差す。

「君はウチの客になる! 君は夢が叶う! 需要と供給の一致! 正に痒い所に手が届く!」

「いや、意味が分からないし……ていうか、夢?」

織羽の熱弁に、弾は首を傾げた。夢が叶うとはどういう事だろうか。

そんな内心を見透かしたのか、織羽がそっと耳打ちする。

「クラス全員、あたしと同じ格好してるの。そして客は君一人……意味、分かるかしら?」

「っ……!?」

その異様に色気の篭った囁きに、背筋がゾクゾクとする。視界の端には、さっきまでと同じ人間とは思えない程に怪しい輝きを宿した瞳があった。

 

女子多数に対して、男一人。つまりそれは――。

 

「そう。弾君だけのハーレムよ。織斑君の休憩時間まで、まだあるし……何処かで時間、潰さないといけないよねぇ?」

「っ~~~~っ!!」

フッ、と掛けられた吐息に、背筋がゾワゾワっとした。おおよそ15、6歳の少女とは思えない色気に、D・Tの弾が堪えられる筈もなく――。

「じゃ、じゃあ……せっかくだし……おじゃましようかなぁ~」

あっさりと陥落した。

 

「はーい、一名様ごあんな~い♪」

 

耳元で囁き、色気で相手を惑わす。典型的なハニートラップの手口である。

 

 

 

 

 

「「「「「いらっしゃいませ、ようこそ中華喫茶へ!」」」」」

「っ……!?」

弾が2組に足を踏み入れた瞬間、揃った声が響く。入口前には左右に十人ずつ、色取り取りのチャイナ服を着た生徒達が、弾を迎えていた。

その光景、まさにハーレム。その威力、まさにプライスレス。

綺麗にお辞儀されたその屈んだ体にたわわに実る果実、果実、かじ……。

「あ?」

弾は訝しげな声を出した。何か、一つだけ異常に小さいのがあったのだ。

そして、それにすっごく見覚えがあった。一際小柄で一際小さいその胸。間違いない。

「おい、何やってんだよ鈴?」

「イヤ、ワタシリンチガウアルヨ?」

片言で答えるひんぬー娘。

「……その貧乳はどう見ても鈴だろ?」

「誰が貧乳だぁっ!? ぶっ殺すわよ、弾っ!!」

「やっぱり鈴じゃねえか!? こんな所で何やってんだよ、お前?」

「ぐっ……! ここはあたしのクラスなのよ。居て当たり前じゃない……!」

「そうなのか? ……あぁ。そういえば一夏が『鈴のやつは2組だからいない』って言ってたな」

「そのフレーズに、物凄い悪意を感じるのは何でかしら……?」

2組だからいない。それは世界の真理だから仕方ないのだ。

 

 

適当な席に座った弾は早速メニューを見た。

「へぇ。なかなか本格的じゃないか?」

「あんたね……本場の中国人がいて、いい加減な物なんて出すわけ無いでしょ?」

と、向かいに座った鈴が呆れ気味に言う。

「何でお前は、俺の向かいに座ってるんだ?」

「知らないわよ。織羽が『は~い、凰さんご指名で~す♪』とか言って無理やり…………何よ?」

「いや、何でもない」

織羽の言い方が、まるでいかがわしい夜のお店のようだなとか、指名するなら大きい方がいいなとか思ったが、口にせずにメニューに視線を戻す。誰だって、死にたくはないのだ。

 

取り敢えず、点心セットを注文する。

「ねぇねぇ。君って織斑君と友達って本当?」

品物を待っている弾の所に、数人の女子がやって来た。全員、興味津々といった顔だ。

「まぁ、そうだけど誰から……あ~、織羽からか」

見れば、向こうで織羽が手を振っている。凄くいい笑顔だ。

「ねぇねぇ、中学の頃の織斑君ってどんなだった? やっぱりモテてた?」

「そりゃそうさ。上級生も同級生も下級生も教育実習生も、他校の生徒に至るまで、超モテまくりだったぜ」

「やっぱりそうなんだ~。じゃあ、彼女とかいたの?」

「いや、全然。ていうかアイツ鈍すぎて尽くスルーしまくってたしなぁ……で、でも何でそんな事を?」

向かいからの視線が痛くなったので、弾はごまかし気味に尋ねる。

「え~、だってさぁ……ねぇ?」

「織斑君って、やっぱりイケメンだし」

「入学してすぐに、代表候補生を倒しちゃったし。敵を知りて己を知れば百戦危うからずってやつよ?」

「いや、最期のそれはどっちの意味で!?」

弾は思わずツッコんだ。

「ねぇねぇ! 織斑君の写真とかある!?」

「写真……えっと、携帯に幾つかあると思うけど……どわっ!?」

「ウソウソ!? ちょっと見せて!?」

「ずるーい! あたしも見たい!」

どやどやと押しかけて弾を囲むおっぱい――ではなくて女子達。織羽は何故かウンウンと頷いている。

 

「ねぇ、これは何時の?」

「こ、これは5月頃……あいつの家で」

「きゃーっ! 織斑君の半裸! これあたしにも頂戴!?」

キャイキャイと、更に群がるおっぱい――ではなくて女子達。

(うぉおおお……っ! 良い匂いだ……いっぱいがおっぱい~~~っ!)

肩越し背中越しに感じる柔らかな何か。そして、女子特有の甘い匂い。

一夏を出汁にしているとはいえ、これはまさしくハーレムである。

「でも、五反田君だっけ……五反田君も結構格好良いよね~?」

一人がそんな事を言い出し、弾はドキッとする。

「あぁ~! 織斑君とは違うタイプだよね~。背も高いし、足長いし~、やっぱりイケメンにはイケメンが集まるんだね~」

「いや……そ、そんな事無いって………はっ!?」

「………」

向かいの鈴の視線の、何と冷たい事か。

 

「は~い、皆こっち向いて~♪」

「「「「イエ~イ!」」」

「へ?」

カシャリ。

 

シャッター音がしたかと思うと、織羽が何故か携帯持っていた。しかし何故か、弾はそれがひどく見慣れた物の様な気がした。

「――って、それ俺の!? あっ、無い!? いつの間に!?」

「さっきスリ取っておいたのさ!」

「な、なんだってーっ!?」

「そしてこれを添付して、メール送信!」

「なんだってぇえええええっ!?」

弾の悲鳴と共に、ピロンピロンと電子音が続く。織羽から携帯を取り戻し、それを恐る恐る開く。

 

 

『From:御手洗数馬 

 本文:テメェ……生きて明日の朝日を拝めると思うなよ?』

 

 

『From:蘭

 本文:お兄、もう帰ってこなくて良いよ。うん、マジで』

 

 

それ以外にも、中学の友人に高校からの友人と、どんどんと呪詛のメールが返ってくる。

あっという間に20件を超えた。

「………」

「おやおや、人気者ねぇ~」

「神は死んだ……っ!」

ガンッ。と、テーブルを叩き、がっくりとうなだれる。そう言いながら、しっかりと写真はフォルダに移し替えるあたり、結構余裕があるのかもしれない。

 

「は~い、点心セットお待ちどうさまです~」

「……はぁ~あ」

やっとやって来た点心セットだが、弾はもうお腹いっぱいだった。

「おやおや。仕方ないわね……総員、フォーメーション『GSS』発動よ!」

「「「ラジャー、了解!」」」

ズザッと動く者共。何が起こるのか、弾は身を強張らせる。そして――。

 

「な、なぁあああああっ!?」

「はい、ご主人様。あ~ん♪」

「ご主人様……はい、お茶です♪」

一人が弾の足の上に座り、もう一人は後ろから腕を回す。更に左右を挟まれる。

「これぞ禁じ手……フォーメーション『GSS(ご主人様)』よ!」

正に完全包囲網、四面楚歌とはこの事か。

さっきとは違い、全身に感じる女子の気配。これこそハーレム・オブ・ハーレムだ。

「うぉおお……はは、あははは……!?」

――そして、弾は軽く壊れた。

 

 

「………男って、ほんとバカばっか」

チゥー、とアイスウーロンを飲みながら、鈴は心底呆れるのだった。

 

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