IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第61話  まだまだ学園祭!/バトルロイヤル・シンデレラ

 

夜明け前。”その場所”へと向かう船舶。辰守家所有の巡洋艦『甲武』である。

「………」

その甲板に立ち、潮風に黒髪を流すのは織斑千冬である。

「随分と寒いわね。もう秋も近いってことかしらね?」

そう声を掛けてきたのは、フィリーであった。千冬にホットコーヒーの入った紙コップを渡す。

「ミヤムラか。お前も大概、物好きだな……戦場に態々、進んで行きたがるのだから」

それを一口啜り、千冬は呆れ気味に言う。

「いいじゃない。滞在予定はまだあるし……亡国機業に対することなら、フランスは協力するわよ?」

「そういえば、フランスも奴らの襲撃を受けたのだったな」

「まぁね。でも、優秀なうちの弟子のお陰で事無きを得たわ」

「そうか……」

それっきり、言葉が止まる。ただ、波の音とコーヒーを啜る音だけが、黎明の空に流れる。

「……そんなに心配?」

「当然だ。専用機持ちとはいえ、全員ガキだ。ましてや、敗北は許されない……文字通り、世界の命運が左右する戦いに……アイツらを出したくない」

「それはまた、どうして?」

「かつて……『白騎士』という者があった」

「………」

「世間では日本を守った英雄だとか言われているが……それは間違いだ。英雄どころか、ドン・キホーテが精々……いや、喜劇にもなれない分、ずっと性質が悪い。

今、こんな状況になったのも……全ては『白騎士』のせいだ。自分を選ばれた人間などと思い上がったバカが犯した罪が今、こうして巡ってきている。

だというのに、それの尻拭いをするのは『白騎士』とかいう愚か者じゃない……それをお前は納得できるか?」

ギリ。と、奥歯を噛み締めて、千冬が吐き出す。

「……プッ! ククク……ハハハッ!」

そんな千冬に、フィリーはつい噴き出してしまった。

「……何が可笑しい?」

不機嫌に睨む千冬に、フィリーは尚笑った。

「何がって……あんた、ちょっと過保護過ぎでしょう? ダメよ、引退した人間がいつまでも現役気取っちゃあ」

「これは遊びじゃない、実戦なんだぞ!? 表向きとはいえ、ISの軍事利用の禁止されている中……戦えるのかと、不安にもなる」

「それでもよ。あたしらロートルが、いつまでも幅を利かせてたらダメなのよ。一度道を譲った以上、後は信じて見送るだけ……それで充分なのよ」

「……そういうものか?」

「そういうものよ。それにね、ガキだガキだと思っててもさ、気が付いたら自分よりも、ずっと高い空を飛んでいたりするものよ」

空を見上げて、フィリーは笑う。千冬も空に視線を向ければ、海鳥が数羽、飛び行くのが見えた。

「『白騎士』がどうのとか……いいじゃない、世界の命運なんて、これからを背負う若者に全部任せちゃえばさ。なんたって、あの子達がこの先を作っていくんだから。良くするも悪くするも皆、任せて良いのよ」

「……私は、お前のようには考えられない」

 

 

水平線の向こうに昇る太陽が、この先に待つ戦いが近い事を告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

『ねぇ、さっきの”あれ”はどういう事かな? 僕に納得できる説明をしてくれるかな? ねぇ、してくれるよね?』

『オーケー。落ち着こう、シャル。今、君は冷静さを欠いているんだ』

『うん。そんな事はどうでもいいんだ。だから説明をしてよ。ほら、早く』

『特に他意はないよ。普通に悪乗りした相手にお仕置きしただけだし……ね?』

『それなら言葉で言えばいいだけだよね? それなのにあんな事した理由は何かな? 大丈夫、怒らないから言ってよ?』

『いや、だから――』

などというシャルロットのエンドレスアタックに晒されている春斗を、一夏はサラっと無視する。

「いやぁ、よく来たな弾」

「それはいいけど……何かすっげぇ怖い笑顔の子がいるんだけど?」

弾が眉を潜めて尋ねてくる。春斗のせいで今、好奇と期待の入り混じった視線がそこら中からぶつかってきているのだ。精々、苦しんでもらおう。

「………それにしても弾?」

「何だよ?」

「何か、軽くやつれてないか?」

「ほっとけよ!? むしろ今、お前をすげぇと思ってるよ!」

「意味が分からんわ!?」

弾のツッコミに、一夏のツッコミ返しが光る。

『ん? 一夏、メールが来てない?』

「メール……?」

一夏は携帯を取り出し、それをチェックした。

「……お前、何やってんだよ」

添付されていた写真を見せながら、一夏は弾をジト目で見た。

そこには女の子に囲まれ、だらしない顔をした弾が写っていた。これはひどい。

「うっせぇ! 俺だって……俺だってなぁ……いいや、男はやはり真摯であるべきだ! 紳士じゃねぇぞ!? お前とは違うんだ、俺は!」

「だからさっきから意味が分からねぇよ!? お前、どうしたんだよ?」

いつにも増してテンションがおかしい弾を、一夏は訝しがる。

「その秘密、私が教えてあげましょうか?」

入り口のカーテンをドヤ顔で開き、織羽が入ってきた。

「おぉ~、たっちんだぁ~」

「お、本音いい所に。あんたにも関係あるから、ちょっとおいで~」

「ん~?」

織羽に呼ばれて、本音がヒョコヒョコとやって来る。相も変わらず、円環の理の外側に生きている少女である。

「はい、弾君。この子が布仏本音よ」

「本音で~す。よろしくね、ごだだん~」

「ご、ごだだん……? て、本音ってもしかして?」

弾はまじまじと本音を見る。

「うわぁ~、情熱的な視線だぁ~♪」

似ているといえば似ているように見えなくもなくもないように思えるが、しかし余りにも印象が違うせいで、弾はつい怪しんでしまった。

「ところで、何で私を紹介したの~?」

「それはね……」

小首を傾げる本音の肩に、そっと触れる。

「彼が……五反田弾君が、あなたのお義兄さんになるかも知れないからよ?」

「ブッ――!?」

「ちょ、それはどういう事だ!?」

弾はまたしても噴き出し、一夏はビックリして弾に詰め寄る。他の面々も何がどうなっているのかと、驚き混じりに弾を見ている。

「……………え?」

そんな中、本音は意味が分からないと、呆けた表情をした。

「理解出来ないのね……分かった、もう一度言うわ。虚姉さんが、男子に興味を持ったのよ」

「え……やだなぁ、たっちん。そんなのある訳無いよ~。だって、おねーちゃんは…………だって、おねーちゃんなんだよー?」

動揺しているのか、声が震えている。声だけではない。肩も震えている。

「本音……でもね、これは本当の事なのよ?」

しっかりと肩を掴み、諭すように言う。

「………本当、なの?」

「本当なのよ」

尚も疑う本音にしっかりと伝える。虚が男子に興味を持った、と。

「そ……そんな………」

本音のシナプスが無数の電気信号を送り、そして脳が現実を理解していく。そして――。

 

「そんなの、ありえないよ!?」

「「「「「本音が普通に喋ったぁああああああっ?」」」」」

 

何時ものようなのんびり口調ではない、むしろ普通速度よりも早い。まさか、彼女が普通に喋れるとは。と、全員が信じられないものを見たかのように驚く。

だが、驚くのはここからである。

「だってありえないよ! あのお姉ちゃんが男の子に興味を持つとか! だって、ずっとお見合いとかお父さん達に見せられてたのに、一瞥したら全部捨ててたじゃない!? どうしてって聞いても、「こんなことに興味ありませんから」って言ってたじゃない!? そのお姉ちゃんが……だって、今日会ったばっかりなんでしょう!? あの堅物のお姉ちゃんが……つまりあれかな!? 出会った瞬間、ビビっときちゃったのかな!? どうしようたっちん!? 私、赤飯とか炊いた方が良いのかな!? あぁ、でもご飯なんて炊いたことないよぉ!!」

まぁ、まくし立てるまくし立てる。某神父の如く時を加速させているのではないかと思うぐらい、本音の口と舌は動きまくった。

「落ち着きなさい。まだそこまで慌てる時じゃないわ。それと、赤飯は炊かなくて良いから」

「でも、こんな事今まで一度もなかったし……私、どうしたらいいのかな? こんな時、どんな顔をすれば良いのか、分からないよ?」

「笑えばいいと思うわよ?」

「にぱ~」

 

 

ガタタタタタ~~~ッ!!

 

 

本音がいきなり戻ったせいで、全員がすっ転んだ。初日以来の見事なコケっぷりである。

「まぁ、そういう訳だから――」

と、弾の方に向き直って二人、同時に頭を下げる。

「姉をよろしくお願いします」

「虚姉さんはをよろしく。布仏家の命運は、まさしく君の双肩に掛かっているからね!」

「あ~、ひど~い! それって私が頼りないって事~!?」

「あら、やっと自覚できた?」

「本気でひどいよ~! お義兄ちゃ~ん!」

本音が泣きながら弾にすがりついた。もちろん嘘泣きだ。というか、二人の展開したカオスワールドは未だにこの場を支配し続けていた。

「……弾、お前いつの間に?」

「俺の方が知りたいわ!?」

一夏の問いかけに弾は軽く涙目になっていた。

「はーい、楯無おねーさんとうじょ~う♪」

「こんにちわ~。新聞部で~す」

そこに、更なるカオス襲来。楯無&薫子の二年生コンビである。

「あ~会長~! 聞いて下さい~。実は――はぐっ!?」

早速、虚のことを言おうとした本音であったが、その背後から伸びた腕が一瞬で首に絡み付いて彼女を闇に落とす。

「あらあら。本音ったら、こんな所で寝ちゃダメじゃない」

「いや、お前が締め落としたんだろう!? 恐ろしいまでに躊躇いなく!!」

「箒……」

「な、何だ……?」

「あなた、疲れてるのよ」

「あぁ、そうだな! いろんな意味で疲れているぞ!?」

至極恐ろしい微笑を、箒と周りに向ける織羽。『会長に言おうとしたら容赦なく本音の後を追わせる』と暗に語っていた。

「な……何かあったの?」

「いえ、何も……それより、どうしたんですか会長?」

「あぁ、うん。一夏くん、ちょっといいかしら?」

「――あ、はい」

チョイチョイと、楯無は薫子に写真を取られている一夏を手招きする。

「あ、そうだ。虚姉さんが探してましたよ~!」

「了解~」

楯無と共に一夏が廊下に出ると黄色い声が木霊したが、適当にごまかしつつ、二人は人気のない所へと移動していった。

 

 

 

 

 

「何だ、この騒ぎは?」

「いやぁ~。やっぱり日本の学校って賑やかね~」

「いや、この騒がしさは間違いなくお二人のせいですから!」

二人と入れ替わるように入ってきた三人に、またざわめきが起きる。

やって来たのは千冬と真耶、そしてフィリーであった。

「フィ、フィリーさん!?」

「ハーイ、シャル。可愛い格好しているじゃないの」

「な、何でここに居るんですか!?」

フィリーの登場にシャルロットは心底驚いた表情をした。フィリーはしてやったりといった表情だ。

「フッフッフ。あなたのその顔が見たくて、わざわざ秘密にしていたのよ。国防省まで使ってね」

「な、なんて権力の無駄遣いを……!」

「甘いわね。権力は使うためにあるのよ!」

「もう、下らない悪戯の為に態々、国防省の人にまで迷惑かけないで下さい!」

「は~い、ごめんなさい。ま、それはそれとして……はい、ポーズ取って~?」

そう言って、フィリーはデジタルカメラを取り出した。

「え? え?」

「はい、Cheese!」

「え? ち、Cheese?」

 

――PiPi!

 

「はい、オッケー。良いのが撮れたわ」

「いきなり何ですか、写真なんて?」

戸惑いながらもポーズを取ったシャルロットだったが、今さらながら写真を撮られた意味が分からず、フィリーに尋ねた。

「うん? ちょっと待って………これでよし、と。いやね、今フランスじゃ、シャルの事は毎日の様にニュースになってるわけよ」

「はぁ!? 何でですか!?」

寝耳に水な話ゆえに、シャルロットが目を見開く。

「そりゃもう、【竜の王女】シャルロット・デュノアといえば、そのシンデレラストーリーと共に大人気だもの。この写真も、広報課の人間に撮ってきてくれって頼まれたヤツよ。多分、宣伝にでも使うんじゃない?」

「なっ……!? ダメですそんなの! すぐに消して下さい!!」

冗談じゃないと、シャルロットがフィリーの手からカメラを奪い取る。

すぐにデータを消そうとして、そして気が付く。

「か、カメラじゃない……!?」

「Yes。高機能カメラ付の携帯よ。データはもう送っちゃった、テヘ♪」

「えい」

 

バキャッ。

 

「あぁあああああああっ!? 先週買ったばかりの新型モデルが文字通りの真っ二つにぃいいっ!?」

シャルロットに携帯を割られ、フィリーの絶叫が響いた。

「どうせ何台も買えるお金、持っているでしょう?」

「お金の問題じゃないのよ! このモデル、品薄で裏で色々手を回してやっと手に入れたのに……ひどいわ」

「知らない間に羞恥プレイ喰らった僕の方が泣きたいですよ!? ていうか、私事にどうして権力使うんですか!?」

この師あってこの弟子あり。そんな感じの、何とも不毛なやり取りである。

「あの~、フィリー・ミヤムラさん?」

そんな中、空気を読まずかそれとも蛮勇か。薫子が傷心のフィリーに話しかけた

「……何?」

「いや、実はお願いがありまして……」

「お願い……生憎と、今の私はそんなの聞く気が――」

「今日行われる『真打鉄VSR‐リヴァイヴ・エスキィース』の解説をして欲しいんです!」

両手を勢い良く合わせ、薫子が頭を下げる。

学園祭の目玉の一つ。それ擬似フィッティングプログラムを組み込んだ量産機同士による、デモンストレーションマッチである。

三年の上位成績者がそれぞれ搭乗し、ガチバトルを繰り広げるとあって、会場の第2アリーナは既に入場待ちが始まっている。

 

試合開始は午後1時。あと1時間程だ。しかし何故、薫子がこのタイミングで解説を頼んだかといえば、単に盛り上がりのためである。

一応、教師が解説を担当することになってはいるが、ここに元国家代表がいるのだ、ダメ元でも頼んでみるべき。という事だ。

ちなみに、既に千冬には断られている。真耶には話すら来ていない。

「――いいわよ」

「えっ!? マジですか!?」

いともあっさり、オーケーが出た。

「今日ここに来たのは、それを見るためだったのよ。でもいちいち並ぶのって面倒くさいし」

「いや、フィリーさんなら普通にVIP待遇……ていうか、元国家代表が一般席座っちゃダメですって!?」

薫子がツッコんだ――いや、ツッコまされた。恐るべしフィリー・ミヤムラ。それが元国家代表の実力だというのか。

 

 

そんなこんなで、1組のカオスっぷりはまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

屋上前の踊場に、二人は来ていた。

「それで、どうしたんですか?」

何時ものおちゃらけた雰囲気のない楯無に、大凡の見当は付いているので、声を抑えて尋ねる。

「マークしていた亡国機業のエージェントが数人、学園内で確認されたわ」

「っ……!」

「今、暗部(うち)の人間が付いているけど、それらしい動きは見せていないわ……今のところは、ね」

楯無はまるで狩人の様に鋭く、瞳を細めた。

「じゃあ、さっさと押さえないと……!」

「ダメよ。そいつらは囮。押さえるなら、そいつらが隠す本命じゃないと。必ず、学園に侵入している筈だからね」

「でも一体どうやって……俺が囮になれば?」

「そうね。それが一番手っ取り早いけど……でもそれだけじゃないわ。ここは私達のホームグラウンドだし、ビジターにはホームの洗礼を味わってもらいましょう?」

「どうするんですか?」

「ここは、一芝居打たせてもらいましょう」

一夏が聞くと、楯無はそれを待っていたとばかりに扇子を広げた。

『鉄心石腸』。堅牢な精神、何があっても動じない心という意味だ。

「君には危険な橋を渡ってもらう事になるけど……覚悟は良い?」

「何を今更言ってんですか?」

一夏はギリ、と拳を握り固めた。ようやく、この時が来たのだ。覚悟など本当に今更だ。

「分かったわ。じゃあ、時間になったら呼ぶから、それまでは学園祭を楽しんでいて」

扇子をパタンと畳み、一夏の横をすり抜けて楯無は去る。一人残った一夏は、拳を胸に当てた。

「やっと……もうすぐ、お前の体を取り戻せるからな……!」

『うん……でも、あんまり気負い過ぎないでよ? 一夏はすぐ感情に流されるんだから』

「大丈夫だよ。鉄心石腸……会長の忠告もあるしな」

『………』

そう答える一夏。だが、春斗は何か嫌な予感を覚える。何か良くない事が起こりそうな、そんな予感だ。

オカルトを信じているわけではないが、その不安がどうにも拭えなかった。

 

 

 

 

 

 

その後、何故か執事服を着せられた弾と一緒に休憩時間まで接客をさせられ(何故か二人”を”撮る撮影指定が多かった。そして何故か撮った後、妙に息が荒かった)、そして休憩時間は箒達とそれぞれ回った。

その際も、IS企業の営業の女性に声を掛けられたり、一般の入場者にサインを求められたりと、落ち着かない時間になってしまった。

 

そうこうしている内に、ついに楯無からの呼び出しがあり、一夏は第4アリーナへと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「……確かに『一芝居打つ』とは言ってましたけど……でも、本当に『芝居』をするとか聞いてないんですけど!?」

ここは第4アリーナの更衣室。一夏は舞台衣装に着替えさせられ、楯無はニヤニヤと笑っている。

一夏がここにやって来た途端、楯無よって強制的に生徒会主催の演劇

に参加させられることになってしまったのだ。

「まぁまぁ。これも、君を生徒会に入れる口実も兼ねているのよ」

「大体、何ですかこの格好は? まるでお伽話出てくる典型的王子様じゃないですか?」

今の一夏は王冠を被り、白地に金色の刺繍が入った上下に、淡いブルーのマントを羽織り、シルクの手袋をして、腰には芝居用の剣が差してある。

まさしく、王子様な格好であった。

「ていうか、百歩譲って芝居はいいですよ。でも、俺は何やるかとか全然知らないんですけど!?」

「あぁ、それは大丈夫よ。脚本なんてあってないようなものだし。こっちのアナウンスに合わせて、適当に台詞を言えば良いから」

と言って、楯無は扇子を広げた。

 

『自由奔放』

 

「……その言葉がこんなにも不安を煽るものだって、今まで知りませんでしたよ」

「そんなに不安がらなくていいわよ。一夏くんだって知っている題材だから」

「何をやるんですか?」

「シンデレラよ。ただし……『観客参加型演劇』用にアレンジしているけど」

「観客参加型演劇……?」

「ちなみに、何時もの面々も参加しているから、どこで出るか楽しみにしててね?」

「何時もの面々……? あぁ、箒達ですか?」

『いつの間に声を掛けてたんだ、この人?』

楯無の手回しの良さに感嘆と共に恐ろしさを覚えた。

「さぁ、覚悟を決めて。そろそろ開演の時間よ」

「……はぁ」

返事か溜息か分からない返しをして、一夏は舞台袖に移動した。

 

 

会場となっている第4アリーナは、全部で六つあるアリーナの中で唯一円形をしておらず、四方の外壁の角を、ちょうど爪のような形をしたシールド発生機が囲む形をしている。

現在、遮光シールドが展開されており、アリーナ内は照明によって照らされている状態だ。

ラバーコートされたグラウンドに設けられた特設ステージ前には、既に客が満員御礼であった。

それを袖から覗き見て、一夏はまた溜息を吐いた。

「本当にどうするんだ、これ……?」

「さぁ、幕開けよ。頑張ってね、王子様?」

「はぁ……やれやれ」

開演を知らせるブザーが鳴り、照明が落ちる。そして緞帳が開かれていく。

 

一夏は暗転の中、バミりされた立ち位置へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

(暗闇に響く低い男性の声。静かに、ゆっくりと、語りが始まる)

 

語り部:『昔々ある所に、シンデレラという少女がおりました。彼女は継母や義理の姉達にこき使われる不憫な少女でありました。

ですが、彼女は優しい魔法使いによって舞踏会におもむき、そして王子様と出逢い、そして幸せになりました』

 

一夏:(あれ、完結してね?)

 

語り部:『それより後の世。この伝説を再現しようと試みた者達がいた。後に〈始まりの王家〉と呼ばれる彼らは、万能の願望機の召喚を試みる。幾度もの失敗の後、ついにそれを召喚することに成功した』

 

春斗:(なんか、おかしくなってない?)

 

一夏:(だよなぁ?)

 

語り部:『万能の願望機〈聖冠〉は、あらゆる愛を叶えるという。しかし叶えられるのは唯一つの愛のみ。〈聖冠〉に選ばれし七人のシンデレラは各々、七つのクラスに分かれて血で血を洗う闘争を繰り広げる!』

 

一夏:(……は?)

 

語り部:『聖冠に選ばれし乙女達よ。汝、己が最強を証明し、唯一の愛を手にせよ! ここに、【第五次正妻戦争】の開幕を宣言する!!』

 

一夏:「はぁっ!?」

 

(照明。そこは王城の中庭。月光のテラスに浮かぶ王子は困惑気味)

 

王 子:「……えっと」

 

(現状を理解できずに戸惑う王子。その視線の先にスポットライト。そこにはドレスに倭刀を握った黒髪の少女)

 

???:「……」

 

(少女。王子に向いて口を開くが、声がでないのか何度も口をパクパクとさせる。何故か、顔は紅潮している)

 

王 子:(あれ、箒か? ていうか、役名はシンデレラでいいのか?)

 

???:「……と、問おう。あ、あなたが……!」

 

王 子:「ん?」

 

???:「あ、あなたが………私の……っ!」

 

王 子:「んん?」

 

???:「私の……旦那様か!?」

 

王 子:「はぁっ!? 何を言っ「そう、その通りだよ。僕のシンデレラ!」たぁっ!?」

 

???:「そ、そうか……(うぅ、何と恥ずかしい台詞だ)。と、ともかく、私は聖冠に選ばれし一人。クラス〈セイバー〉のシンデレラだ!」

 

王 子:「……シンデレラに、クラスがあるとは知らなかったな」

 

剣騎士:「とにかく、すでに他のシンデレラも動き出している。急いでこの場を――っ!?」

 

???:「悪いけど、そういう訳にはいかないのよ!」

 

(剣騎士、ハッとして倭刀を抜く。そこに襲いかかる斬撃。戟を奮って襲いかかってきたのは、ドレス姿の貧乳ツインテール)

 

剣騎士:「貴様……鈴――じゃなかった、ランサーか!」

 

槍騎士:「そうよ、箒――じゃなくて、セイバーッ! 聖冠はあたしのものよ!」

 

剣騎士:「残念だが、王子の持つ聖冠は渡さん!」

 

槍騎士:「そうそう思うように行くと思わないでよ!」

 

(激突する二人の騎士。王子、どうしたものかと混乱する頭で思考していると、その額に赤い光があたる)

 

王子?:『一夏、避けて!』

 

王 子:「どわっ!?」

 

(王子、とっさに頭を下げる。直後、王子の頭のあった場所を弾丸が抜けて、城壁に穴を穿つ)

 

剣騎士:「くっ……! この狙撃はセシリア――ではなくてアーチャーか!?」

 

槍騎士:「バカ王子! さっさとどっかに隠れなさいよ!」

 

王 子:「誰がバカ王子だ!? 言われなくてもそうするさ!!」

 

(王子、城壁にそって走る。弓騎士の銃弾が、その後を追うようにして弾痕を刻みつけていく)

 

王 子:「やばい! 行き止まりか!?」

 

(王子追い詰められる。そこに容赦無く、レーザーポインターの光線が重ねられる。直後、マズルフラッシュ)

 

???:「危ないっ!」

 

(銃弾、強固な盾に弾かれる。阻んだのは金髪三つ編みの少女)

 

王 子:「お前はシャルロット――じゃなくて……誰だ!?」

 

???:「僕は……一応、シンデレラ……です」

 

王 子:「クラスは?」

 

???:「――さぁ、早く逃げて!」

 

王 子:「おい!?」

 

???:「うらららぁーーーっ!」

 

(そこに更なる乱入者。赤いマフラーをなびかせて、ドレスを着た銀髪眼帯の少女が二輪駆動の鉄馬(ハーレー)に乗って颯爽登場。そのまま王子を捕まえて逆まで走っていく。ハーレーは安全な物を使用しております)

 

???:「大丈夫か、王子よ! このライダーが来た以上、もう心配は無用だ!」

 

王 子:「ラウラ!? ていうかライダー!?」

 

騎乗兵:「うむ。バイクに赤いマフラー。まごう事無きライダーだ」

 

王 子:「それ、違うライダーはいってないか!?」

 

(王子ツッコむ。しかしそうしている間にも事態は混迷の一途を辿る)

 

剣騎士:「止まれ、ライダー!」

 

槍騎士:「道交法違反で一発免停、食らわせてやる!!」

 

騎乗兵:「ふっ、駆けよトロンベ!」

 

(立ち塞がる剣騎士と槍騎士。騎乗兵、しかし容赦なくアクセル。そのまま前輪をブレーキしてロック。後輪を滑らせて二人に攻撃。専門家の指導のもと、十分な安全配慮をして行なっております)

 

剣騎士:「くっ!?」

 

槍騎士:「あぶなっ!?」

 

弓騎士:「動きが止まりましたわね?」

 

騎乗兵:「っ――!?」

 

(騎乗兵、王子を突き飛ばす。王子の頭を狙った弾丸が地面を打った)

 

弓騎士:「このまま聖冠を手に入れれば、一夏さんとの完全一日デート権が私のものに……!」

 

(弓騎士走る。しかしそこにまたまた参戦者が。上空から無数の苦無が飛んでくる)

 

剣騎士:「くっ!? これは!?」

 

槍騎士:「ウソ……何であいつが!?」

 

???:「はーっはっはっは! ヒア・カムズ・ニュー・チャレンジャー!」

 

???:「トラップ起動。たらい落とし」

 

(ステージ上から金ダライ)

 

弓騎士:「いたぁっ!?」

 

???:「うわっ!? 危ない!」

 

騎乗兵:「こんな古典的な攻撃……何者だ!?」

 

(騎乗兵叫ぶ。アリーナ上のゴンドラにスポットライト。そこには二人の、ドレス姿の少女)

 

???:「えっと……キャスターのシンデレラです」

 

???:「そして、アサシンのシンデレラ参上!!」

 

魔術師:「景品には興味ないけど……聖冠はもらいます」

 

暗殺者:「ごめんね~。セイバー。今日ばかりはあなたも敵よ!」

 

剣騎士:「おのれ簪、織羽……否、キャスターとアサシンめ!」

 

魔術師:「行って、アサシン」

 

暗殺者:「承知! とうっ!」

 

(暗殺者、ゴンドラから跳躍。10m近い高さから難なく着地して立ち上がった。これはプロの仕事です。素人は真似をしないで下さい)

 

暗殺者:「さぁ、今こそ我が宝具の力を見せる時! 行くわよ、我が分身たち!!」

 

???:「「「「「「「おぉ~~~~~っ!!」」」」」」」

 

(アリーナ席の客が突如、立ち上がる。全員いつの間にかドレス姿であった)

 

暗殺者:「これぞ我が宝具 乙女協奏(ザバーニーヤ)の能力! かかれぇえええええっ!」

 

???:「「「「「「わぁあああああああああっ!!」」」」」」

 

(暗殺者の号令の下、一斉にステージに雪崩込む分身達)

 

???:「いい加減にしてぇええええええっ!」

 

(盾を持ったシンデレラ、怒号。その体から凄まじく黒いオーラが発せられる)

 

剣騎士:「むっ……! バーサーカーが覚醒したか!?」

 

狂戦士:「何で僕がバーサーカーなの!? おかしいよね!? ていうかバーサーカーのシンデレラって何? それってただのヤンデレじゃないか!!」

 

槍騎士:「……合ってるじゃない?」

 

(槍騎士、禁句を言う。すると、狂戦士は何故か真っ黒なドレスに鉄仮面へと変わっている)

 

狂戦士:「GAOOOOOOOOO!!」

 

(狂戦士暴走。暗殺者の群れと槍騎士目掛けて進軍開始。勝ったな)

 

王子?:「これはマズイ! さっさと逃げよう!」

 

王 子:「でも、どうやって!?」

 

(と、王子の手を引く手があった)

 

「こっちです」

 

 

(中庭は大混乱大混戦。その中で王子はひっそりと姿を消した)

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

一夏はアリーナの更衣室まで戻ってきていた。

「ここまで来ればもう大丈夫です」

「はぁ、助かりました……あれ?」

と、今まで暗かったせいで誰に連れられてきたのか分からなかった一夏が、初めて気づく。

自分の手を引いてきたのが、学園関係者ではないということに。

「あの……あなたは?」

「先程もご挨拶したと思いますが……『みつるぎ』の巻紙礼子です」

「あ、あぁ……そういえば名刺貰ったような」

一夏は彼女が、休憩時間中に弾と回っていた際に声を掛けてきたIS企業の渉外担当者であったことやっと思い出した。

『――妙だね。何でただの営業の人間がここに入れるんだ?』

アリーナのバックヤードは関係者以外立ち入れない。幾ら彼女が営業熱心だとしても、バレれば信用に関わるような行為に走るだろうか。

「それで……どうして巻紙さんが?」

一夏は警戒しつつ、尋ねる。巻紙礼子は前に見せたような営業スマイルのまま、答えた。

「はい、この機に白式と裏白式を頂戴しようと思いまして」

「っ――!」

一夏はすぐさま飛び退く。直後に礼子の背後から突き出した鋭利な爪が、床をえぐった。

「IS……!? 白式!!」

一夏はISスーツごと白式を展開する。純白の装甲で更に来る爪をガードした。

「お前……亡国機業か!?」

「あぁ、その通り! 亡国機業が一人、オータム様だっ!」

醜悪な笑みを浮かべるオータムの背から次々に爪が生えていく。そしてそのままスーツを引き裂くと、全身をISが包み込んだ。

その姿は巨大な鋼鉄の蜘蛛。爪がロッカーに喰い込み、その体を持ち上げる。

『あれは……アメリカ製第二世代IS〈アラクネ〉!?』

「さぁ、さっさとそいつをよこしやがれ!」

 

凶悪なる蜘蛛が、その牙を向いた。

 

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