IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第62話  強襲、亡国機業!

 

 

――学園敷地内 森林区画――

 

「エージェントオータム、ターゲットと接触。これより作戦を第二段階に移行」

『了解。所定位置に着き次第、第三段階へ』

「了解、オーバー」

三人の男達は通信を終えると、細長い物を懐から取り出した。

それを幾つか離れた木の根元に埋め込んで行く。

「何をしていらっしゃるのですか?」

「「「っ――!?」」」

ハッとして振り返る男達。果たしてそこには、一人の生徒が立っていた。

眼鏡が逆光に反射して表情は読みにくいが、明らかに自分達を怪しんでいることは分かった。

「もう一度聞きます。ここで何をしているのですか?」

再度の問いかけに、男達の答えは一つだった。

ポケットから取り出したのは金属製の名刺入れ。だが、その中に名刺など入っていない。

それを引っ張ると、あっという間にナイフに変形した。

「暗殺用の偽装ナイフですか……なるほど、どうやら言葉では通じないようですね。では、こちらも相応の対応を取らせて頂きます」

その生徒は眼鏡を外し、しっかりとケースに仕舞った。

「IS学園生徒会の名の下に、あなた方を排除します」

鋭い眼光を宿し、布仏虚は地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

ガァン! と、更衣室のロッカーが吹き飛ぶ。一夏は雪羅のクローでそれを引き裂く。同時に床を蹴りつけるようにして一気に上昇。直後にアラクネの装甲脚先端からの銃撃。

天井を滑るように距離を取る一夏を追いかけて弾丸が襲いかかる。

『春斗。あのISの特徴は分かるか?』

『アラクネは第二世代機で、かなりテクニカルな機体だ。一番の特徴である八つの装甲脚は独立型PICで駆動しているから、変幻自在。こういう限定空間では無類の強さを発揮するね』

『そいつは厄介だな。狭い上にこうも物が散乱していると白式の強さが活かせない』

一夏は舌打ちする。だが、こちらは無理に倒さなくて良い。援軍に来る楯無を待ち、そこから一気に反撃すれば良いのだから。

問題は、それを相手に悟られないようにする事だ。

「だりゃぁああああっ!」

一夏は着地すると、倒れていた長椅子を掴んで力一杯投げつけた。

「はっ! なんだそりゃあ!」

オータムは装甲脚であっさりとはじき飛ばした。が、すぐに目を見開く。

「うぉおおおおっ!」

その影に隠れて、一夏が一気に接近していたのだ。慌てて雪片の刀身を受け止める。

「くっ……! このガキがぁ!」

空いた足が、一夏の顔目掛けて振り抜かれる。が、一夏は雪片の柄から手を離し、側転のように回って回避。反転状態から雪片を再度掴むと、お返しとばかりにオータムの顔面に蹴りを叩き込んだ。

「ブッ――!?」

強い衝撃に揺さぶられ、オータムが苦悶の息を漏らす。一夏はその衝撃を利用して雪片を引き抜き、身を捻りながら着地した。

「どうしたよ、オータムさん? その程度か?」

「くっ……調子くれてんじゃねぇぞ、この糞ガキがぁ!」

激昂したオータムがマシンガンを展開。弾雨が白式を叩く。

「ちっ! SEが削られる……!」

一夏は横に飛び、倒れているロッカーを掴み上げた。

「これで少しは――っ!?」

弾丸を多少は弱められると思った一夏だったが、すぐにそれは否定された。

不快な音を立ててロッカーが切り裂かれ、そして醜悪な笑みを浮かべたオータムがアサルトライフルを構えていた。

「バーカ! テメエの考えそうなことはお見通しなんだよ!」

「あぁ、そうかよ!」

一夏は半分になったロッカーを蹴り飛ばし、銃身にぶち当てる。同時に床を這うほどの姿勢で滑って回避。その真上をマズルフラッシュが照らす。

『PICのマニュアル制御……役に立ったな』

『そうだね。でも油断は禁物だよ。向こうはかなり場慣れしているみたいだ。何を仕掛けてくるか分からない』

『あぁ、分かってる』

一夏は体勢を整え、雪片を構える。そこに向かってアラクネの弾雨が襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「……ふう。うちの学園で不逞を働こうだなんていい度胸ね」

楯無はパンパンと埃を払った。足元に転がるのはマークしていた亡国機業のエージェント達だ。全員、地面に叩き伏せられており、低く呻いている。

楯無の携帯が音を鳴らす。

「はい……虚ちゃん? ……そう、分かったわ。こっちでも四人ばかり仕留めたから、人を回して頂戴? えぇ、それじゃ」

「さてと、一夏くんの所に急がないと……!」

楯無は急いでアリーナへと戻る。アリーナ全体は監視対象であり、一夏が外に出たならばすぐに分かる。つまりまだ、一夏はこの第4アリーナにいる。

そして、敵が一夏を狙う以上、邪魔の入らない場所を用意している筈だ。そしてそこは、一夏を自然に誘導できる場所。

となれば、彼のいる場所はほぼ限定される。

 

「アリーナの更衣室ってところかしらね……!?」

 

楯無は急ぎ、一夏の使っていた更衣室を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ちぃ……ちょこまかとしやがって!」

苛立ちながら、オータムは両手に装甲脚と合計十門からの一斉射撃を一夏目掛けて行った。

植木や壁、大鏡にロッカー、床に照明の尽くを粉砕していく。

「くそっ……うかつに飛び込めない!」

一夏も、一瞬でも足を止めれば一気にSEを持って行かれる為、その弾幕の前には回避をするのが精一杯だった。

唯一の射撃武装である荷電粒子砲は威力が強過ぎる。外せば壁を貫通し、その先にどんな被害を与えるか分からない。

「だったら……こいつだ!」

一夏は雪羅をクローモードで起動。それを思いっ切り振り抜いた。切り離されたクローが、アラクネ目掛けて飛翔する。クローショットと呼ばれる中距離用武装だ。

「っとぉ!? やってくれやがったなぁ!」

身を捻って躱すが、装甲脚に一本突き刺さり、動かなくなる。そこの一瞬を一夏は逃さず、瞬時加速(イグニッションブースト)を掛けた。

「ウォオオオオオッ!」

「調子くれてんじゃねぇぞ、ガキが!」

振り抜かれる雪片。それを阻むアラクネの装甲脚。その先端から強固なエネルギーフィールドが展開されている。

「こいつで串刺しにしてやるぜ!」

「やられるかよ!」

一夏も雪片、雪羅、細雪を駆使して真正面から打ち合う。だが、パワーで勝るとも手数が倍の相手に押し切れない。

だが、それでも退かない。技量は高いが、楯無ほどじゃない。決して届かない相手ではない。

劣る技量差はISのスペックで補われてる。まだ、互角だ。

「はっ! 必死だなぁ! そんなに必死になってよぉ! そういや、三年前、テメェの姉貴もそんな必死な顔だったなぁ!」

「っ……んだと? まさか……!」

「あぁ、そうだよ。三年前、テメエを拉致ったのは亡国機業(うち)だよ! ギャハハ! 三年前は自分、二ヶ月前は寝たきりの兄貴、でもって今度はお前のIS……面白ぇよなぁ、マジでよ!」

『こいつらがあの時の犯人……!』

「テメェ!」

振りかぶった白式の一撃を、四本の装甲脚で受け止める。ギリ、と怒りに顔を歪める一夏に、しかしオータムは顔を近づけて更に哂う。

「もう一つ教えてやるよ。テメエの兄貴を拐ったのは……」

チョイチョイと、自分の顔を指差した。

「――す」

耐えた。一夏は耐えた。煮えくりそうな腹を必死に抑えた。激情に流されて動けば、二度目はない。

だが、それでも――。

 

「――殺す」

 

その瞳にどす黒い闇が宿る。殺意を漲らせた切っ先が、オータムの首筋を掠める。

「っ――とぉ! ……いい目するじゃねぇか。良いぜ、もっと憎め! もっと澱ませろ!」

『一夏、落ち着いて! これじゃ、あいつの思うツボだ!』

「ぶっ殺してやるぅうああああああああああっ!」

全身から激情――殺意を吐き出して、一夏が雪片を振るう。しかし力任せではない。古流剣術独特の、殺す為の太刀筋。人を斬り殺す為の振り方。

何度も刃が翻る。オータムはそれを紙一重で躱し、また防ぎ、しかし一夏はオータムを追い詰めていく。

ついにオータムを壁際に追い込み、一夏はその刃を迷うこと無く鳩尾――心臓目掛けて突き出した。

『一夏――っ!』

「バーカ!」

「っ――!?」

当たる瞬間、オータムの姿が消えたそのまま雪片は壁に突き刺さり、深くめり込む。

「おせぇよ、クソガキ」

その声に振り返る。が、その視界に何かが弾けた。一夏は反射的に雪羅のブレードで切り裂こうとするが、それは切り裂かれて尚、白式に絡みつき、その動きを縛り付けた。

「何っ!?」

『これはアラクネの特殊装備のエネルギーネットだ! 霞衣を開放して吹きとばせ!』

「雪羅、シールドモード!」

「やらせるかよ!」

シールドモードの広域消去で脱出しようとする一夏よりも早く、オータムが動いた。

自由を奪われた白式の胸部に、何かを叩きつけるようにぶつけてきた。

「ぐ――がぁああああああああああああっ!?」

瞬間、全身を襲う激痛。まるで直接、神経に電流を流されているかのようだ。

『ぐあぁああああああああああっ!!』

その痛烈なダメージがISを介して春斗にも届く。

時間にすれば数秒。それが終わるとネットも外れ、一夏の胸から何かが落ちた。それは40センチ程の大きさで、菱形に四本足を足した形状であった。

「くそっ……やりやがったな!」

すぐに一夏は立ち上がるが、何かがおかしい。全身にあった筈の力が――無い。

そしてやっと気付く。ISが、白式がない事に。

『春斗、どういう事だ!? 何で白式が………春斗?』

一夏は呆然とした。感じない。内側にあった筈の気配が――春斗の意識が無い。

「なんだよ……何なんだよ、これは! テメェ、何しやがった!?」

一夏は憤りのままにオータムを睨みつけた。

「テメェの大事なISなら……ここだぜ?」

「っ……!?」

オータムがニヤニヤと笑ってみせたのは、二つの三角錐を合わせたようなクリスタル。

それは通常は球体であるが、ニ次移行を果たしたことで変化したISコアであった。

オータムの手の中に、それが二つあった。

一夏はそれが何のコアであるか、すぐに分かった。

今、自分が喰らったのはISコアを奪う装置である事。それのせいで白式と裏白式のコアが奪われた事。そして――同時に白式内にいた春斗の意識もまた、奪われたのだと。

「……えせ」

「あん?」

「それを……返せぇえええええええええええっ!!」

足元に転がっていた長椅子の残骸を掴み、殴りかかる。が、それをあっさりと躱して、オータムの蹴りが逆に一夏に突き刺さった。

「ゲホッ――!」

「阿呆が。IS無しで何が出来るんだよ?」

嘲るように、オータムは一夏の体を蹴り飛ばした。背中から勢い良く、ロッカーにぶち当たり、そのまま落ちる。

「く……クソッ……!」

「ギャハハ! 良い顔だなぁ、おい。さっきまでの威勢はどこ行っちまったんだぁ? まぁいい。ついでだからお前も殺してやるよ」

銃口を一夏に向け、オータムが引き金を引こうとしたその時だった。

「――あらあら。それはこっちが困っちゃうから、遠慮してくれるかしら?」

「テメェ、どうやって此処に入ってきやがった……?」

「それは秘密よ、亡国機業のエージェントさん? そのコアを返してくれるんなら、教えてあげなくもないけど?」

いつもの様に飄々と。しかしその瞳は鋭く。学園最強の生徒会長・更識楯無がそこに立っていた。

「た、楯無さん……?」

「ごめんなさい。予想以上に手間取ってしまったわ。それに……」

チラリと視線を床に向ける。

剥離剤(リムーバー)なんて持ってきているとは思わなかったわ」

楯無は静かにオータムを睨む。

「この学園で好き勝手してくれて……その上、大事な後輩を足蹴にしてくれて……相応の返戻を受け取ってもらうわ」

「うるせぇよ、ばーか」

ドシュ。不意に伸びた装甲脚が、楯無を貫いた。ニヤリとオータムが笑う。

「ふふっ」

が、楯無は余裕の笑み。そしてオータムが怪訝な表情を浮かべた。

「血が、出ねぇだと……?」

そう呟いた途端、楯無の体が崩れ落ちてバシャリと落ちた。それは、ナノマシンの水が生み出した偽りの像。

「どこを見ているのかしら?」

「っ――ぐあぁ!?」

背後から声。同時に突き出されたランスが、オータムの背中を打ち据える。

たたらを踏んでよろけるオータム目掛けて、更に弾雨が襲った。たまらずに防御しながら、オータムは下がった。

「遅れてごめんなさい。他の連中の相手に予想以上に手間取ってしまったの。大丈夫?」

ミステリアス・レィディを展開した楯無が、一夏の盾になるようにして割って入る。

「俺は平気です。でも、白式と裏白式が……春斗があいつに……!」

「一夏くん、よく聞いて。まだ終わっていないわ」

「え……?」

「呼びなさい。心の底から、ひたすらに強く真っ直ぐに。貴方と共にあるものを。貴方にはきっと解るはずよ?」

楯無はランスを振るい、オータムに対峙する。

「そのための時間は、おねーさんが作ってあげる!」

床を蹴って、楯無が突撃する。蒼流旋に水が渦巻き、横薙ぎに振るえば、残骸と化したロッカーを、更にえぐり飛ばす。

「ちっ! 水使いかよ、厄介な奴だな!」

「そっちこそ、限定空間内では無類の強さを発揮するアラクネなんて……厄介なシロモノね」

激突する二機のIS。その余波が一夏の頬をかすめ、赤い筋を生む。が、一夏はひたすらに楯無の言葉の意味を考えていた。

(どういう事だ? ひたすらに強く呼ぶ……俺と共にあるものを?)

何故そんな事を言ったのか、一夏には分からなかった。

「っ……!」

楯無と一瞬だけ視線があった。その瞳は強い意志を秘めていた。

一夏は目を閉じて意識を集中させた。まるでスフィンクスの謎掛けのような言葉ではあったが、それでも今の一夏に他の選択肢はない。

 

 

(俺と共にあるもの……)

 

それを思い浮かべる。ずっと共に戦ってきた白き鋼翼の姿を。

 

(ただ、ひたすらに強く……)

 

そして、ずっと共に在った半身の姿を。

「白式……春斗……っ!」

左手で右手首を掴み、真っ直ぐ伸ばす。見えない何かを、掴み取ろうとするように。

呼べ。ただひたすらに。願え、その手を掴み、取り戻すことだけを。

 

『………か』

遠く、かすかに聞こえる声。

 

『……ちか』

「春斗……」

それは少しずつ、ハッキリと聞こえてくる。

 

『……一夏』

「春斗……!」

彼方がゆらぎ、光が見える。それは、掴むべき手。

 

『一夏っ!』

「春斗ぉっ!」

暗闇の向こうから伸びたそれを、一夏はしっかりと掴んだ。

 

 

 

 

 

 

その瞬間、光が弾けた。

「なっ!?」

オータムの持っていたISコアが突如として凄まじい光を放つ。それは手中で暴れ狂い、必死に押さえようとするアラクネの手を、その本体ごとはじき飛ばした。

「くっ……! これって……?」

楯無もその圧力に必死に踏ん張るも、ズルズルと押されていく。光は尚も強く輝き、室内を染め上げた。

 

それだけの中でも、一夏は集中したままであった。その手の中に感じる確かなものに、涙が溢れる。

「行くぜ、春斗……!」

「うん、行くよ……!」

 

――― シンクロ率 180% コア共鳴起動(シンクロニティ) ――

 

白と黒とが混じり合い、その全身に万能の力が宿る。あらゆる害意と悪意を打ち払う、最強の翼。

「「月華白雪!」」

その名を、高らかに宣言する。

 

 

荒れ狂う光の嵐が消え去った後、そこに残された物は黒白のISであった。

「こ、これが報告にあった量子融合型IS……〈月華白雪〉? あはは……これは、本当にとんでもないわね」

楯無は引きつった笑いを浮かべる。暗に一夏に白式を呼べと言ったのだが、まさかこれが出てくるとは。

ミステリアス・レイディが震えている。まるで王の御前に立つ不敬を恐れるかのように。

「っ……月華白雪だと……!? 何でISがいきなり……?」

「あら、剥離剤(リムーバー)なんて使ってて、その欠点を知らなかったの?」

「なんだと……?」

「ISコアは一度受けた干渉に耐性を持つ。剥離剤(リムーバー)……つまり〈引き剥がす力〉に対して耐性を持つってことは」

「っ!! ……〈遠隔起動出来る力〉が備わる……クソッ、Mのヤロォ……知ってやがったな!?」

怒りを滲ませて、壁に蜘蛛の巣を作るオータム。

「楯無さん、下がってて下さい」

「一夏くん?」

ずい、と一夏が前に進み出る。

「オータムだったっけ……お前はもう終わりだよ」

「はっ! たかだかISを取り戻したぐらいで調子にのってんじゃねえぞ、糞ガキがぁ!!」

吼えたけり、オータムが装甲脚を一斉に繰り出す。が――。

 

 

ギャィイイイイイインッ!

 

 

「っ――!?」

その全てが、一瞬で斬り裂かれた。見ればいつの間にか、一夏の手には雪片弐型が握られている。

たった半秒もない間に武装を展開し、更に全ての足を斬り捨てるという離れ業をやってのけたのだ。

「この……くそがぁ!!」

「遅ぇよ」

オータムがカタールを展開するが、すぐさま一夏は雪片の刃を返す。済んだ金属音と共に、刃が斬り落とされた。

「何……っ!?」

「速い……!」

二人が同時に驚きの声を上げた。それ程までに、月華白雪は圧倒的だった。

(やべぇ、こいつはスペックが違いすぎる!)

性能差に勝機がない事を悟るや、オータムは後方に飛んだ。と同時に、ありったけのグレネードを投げつける。

それらは一斉に爆発し、爆炎と爆煙が一瞬で全てを覆い隠した。

今の内に脱出をと動くオータム。壁を力任せに破壊した瞬間、その背を凄まじい衝撃が襲った。

「がは――っ!?」

「吹っ飛べ」

一夏は雪片を全力で振りぬくと、オータムの体は遙か高くに打ち上げられ、そのまま森林区画の公園に落ちていった。

 

 

「大丈夫ですか、楯無さん?」

爆発寸前、一夏は楯無の前に立ち、霞衣のエネルギー無効化で向かってくる爆発エネルギーを消去したのだ。

「えぇ、一夏くんが庇ってくれたお陰でSEも無傷よ。さ、ヤツを捕まえましょう」

大穴から飛び出し、二人は公園へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「く……そ……っ」

レンガで舗装された街路から、オータムは体を起こす。絶対防御が発動して、ISは待機状態になっていた。

生身となった彼女に、すでに戦う力はない。

「っ……!?」

ふらつきながら、その場を離れようとするオータムの足元に、銃弾が撃ち込まれる。

見上げれば上空に、黒とオレンジのISが鎮座していた。

「亡国機業だな。こちらはドイツ軍黒ウサギ隊(シュヴァルツシェア・ハーゼ)所属、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「フランス政府直属、竜騎士計画(プロジェクト・ドラグーン)パイロット、シャルロット・デュノア」

「何でテメエらが此処に……?」

苦々しく言うオータム。彼女たちはあの馬鹿騒ぎに興じていた筈だ。それなのにどうして。

「生憎だったな。ここは我々のホームだ。部外者を罠に嵌めるなど造作も無い」

「僕としては、自分の手で叩きのめしたかったんだけどね。フランスでは逃げられたけど……今度は逃さないよ、オータム」

ラウラは冷徹に、シャルロットは冷酷に言い放つ。ここにいたってオータムは理解した。狩人は自分ではなく向こうだったのだ。

「一応言うが、お前を狙っているのは私だけではない。優秀な狙撃手が既にお前をインサイトしている。逃げられると思うなよ?」

「くっ……!」

ここに居る二人だけではない。セシリアと鈴、箒と織羽も後ろに控えている。

更に、一夏と楯無もここに向かっている。チェックは最早掛かった――かに思われた。

 

上空から閃光が走る。それがセシリア達の潜む場所を撃ち抜き、更にラウラとシャルロットにも襲いかかる。

「っ――!」

シャルロットは射線上に飛び出し、レフト・シェルのエネルギーシールドを展開させる。

バチィ! と、スパークが走り、ビームが弾き飛んだ。

「この攻撃……まさか!?」

ハイパーセンサーがその機影を捉える。フランスで不覚を取った時と同じ――藍の機体。

「サイレント・ゼフィルス……ッ! ラウラ、僕が迎撃する!」

「分かった。任せる」

シャルロットがサイレント・ゼフィルスに向かって一気に上昇する。

そして森林から、青い機体が飛び出した。

「シャルロットさん! それの相手は私がしますわ!」

「セシリア!?」

「イギリスの不始末の片は、私が付けます!」

叫びながら、セシリアはBTライフルのトリガーを引く。まっすぐに伸びる光線はしかし、あっさりと回避される。

そのままサイレント・ゼフィルスはビットを切り離して飛ばした。

「気を付けて、セシリア! 向こうはビットを使いながら動ける!」

「なっ……私にも出来ないのに……!」

言葉に言い表せられない不快さに顔を歪めながら、セシリアはライフルの狙いを絞る。サイレント・ゼフィルスのビットからビームが発射される。

「落ちなさい!」

「落ちろぉっ!」

それを二人は躱しながら、トリガーに力を込める。

「貴様らがな」

サイレント・ゼフィルスの操縦者――エムは冷酷なる宣告を下す。直後、二人を躱した筈の光線が襲った。

「きゃあああっ!?」

「うわあああああっ!?」

直撃を受けて、体勢が崩れる。その隙をついて更にBTレーザービームが襲う。

すぐにシャルロットは防御体制に移ったが、セシリアは呆然としていた。

「まさか……偏向射撃(フレキシブル)? ……そんな、何故……何で……」

「セシリアッ!!」

「セシリア! このバカッ!」

森林から鈴と箒、織羽も迎撃に飛び出す。が、次々に発射されるビームが大きく曲がり、それを牽制した。

「どわっ!? ビームが曲がった!?」

「くそっ、回避しきれん!?」

数発を喰らい、足を止められる。その隙にエムは包囲網を突破し、ラウラを追い抜く。

「くそっ、やらせるか!」

ラウラがワイヤーエッジを飛ばす。が、それを銃剣でもあるBTライフル〈スターブレイカー〉の刃で切り裂く。

「なっ――!」

「ぬるいな、ドイツの遺伝子強化素体(アドヴァンスド)?」

「っ――おのれ!」

ラウラがレールカノンを発射する。しかしシールドビットにあっさりと防がれてしまう。

たった一機のISに、専用機持ちが翻弄されていた。

 

「随分とやられたな、オータム?」

「うるせぇ! どの面下げて出てきやがった、えぇ!?」

「何の事だ?」

「テメェ、剥離剤(リムーバー)を使ったらどうなるか知ってやがったな!?」

「あぁ、知っていた。だが、恨み言を言うなら筋違いだ。この件はスコールも承知済みだ。文句ならスコールに言え」

「けっ……まぁいい。この話は後だ。で、テメェ一人でこの状況をどうするんだよ?」

「………」

オータムが苦々しく言い放ち、エムが振り返る。そこには楯無と位置かの姿もあった。

(織斑一夏……っ)

バイザーに隠されたエムの瞳にどす黒い憎悪が揺らぐ。が、今はまだその時ではないと、オータムを抱きかかえた。

「私一人なら問題ないが、荷物を抱えていては流石にキツイか……」

「んだと、テメェ……!」

「あんた、逃げられると思ってるの?」

オータムに睨まれ、鈴に凄まれ、そして周囲を囲まれ、絶体絶命とでも言うべき状況で、しかしエムは不敵に笑う。

彼女の役割はあくまでもオータムの救助であり、IS学園に戦闘を仕掛けることではない。

それをやるのは――自分ではない。

 

「さぁ、出番だ――〈デモニア〉」

 

そう呟いた途端、一夏達のISのハイパーセンサーが一斉に、警告音をけたたましく鳴らした。

 

―― 上空に正体不明機 高エネルギー反応 ――

 

全員が上空を向いたその瞬間、深紅の光弾が豪雨の如く襲い掛かった。

「この攻撃……て!?」

「まさか、あの時の……!?」

回避不可能なその弾幕に、鈴とセシリア、そして一夏は覚えがあった。

攻撃が止む。流れる白雲の向こう、禍々しい一つ目のIS――〈悪魔〉の姿があった。

その姿は三人が戦った時よりも小さくなっていて、普通のISサイズであった。だが、その不気味さは前の比ではない。

「後は任せるぞ、〈デモニア〉」

「っ――待て!」

ラウラがハッとして声を上げる。エムは攻撃が止んだ一瞬の隙を突いて一気に脱出していた。慌てて追おうとするも、それをビットが阻む。

 

「逃がすかよ!」

距離を離されたが、まだ月華白雪で容易に追いつける。一夏は迷うことなく、スラスターを全開にした。

白の光子を散らして、嵐となってその背に目掛けて突撃する。

視界が歪み、距離が縮んで、そこに見える敵の背。それ目掛けて、雪片を振るった。

 

「っ……!」

 

その切っ先が火花を散らす―――深紅の火花を。

「………」

「悪魔……デモニアッ!」

刃が当たるその寸前、巨剣がその行く手を阻んだ。熱のない単眼はただ一夏の顔を映す。

 

再臨した悪魔(デモニア)。それが世界の行く末を決める戦いの前哨戦であることを、この時はまだ一夏達は知らなかった。

 

 

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