IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第63話  デモニアの脅威

 

ギシギシと、刃が擦れて軋む。押しこもうと力を篭めても、しかしデモニアはビクともしない。

「っ……こいつ!」

こうしている間にも、サイレント・ゼフィルスはどんどん離れていく。

「だらぁっ!」

焦る心に一夏は刃を強引に滑らせる。火花が散って、その刀身を弾くと、同時にデモニアの背に回りこんだ。

雪片の刃を、シールド無効化の光が包み込む。そのままの勢いで一夏は切っ先を振り上げた。

 

だが、それは虚空を斬る。ハイパーセンサーに警告。上空に敵機反応。

「っ――!?」

反射的に防御体勢を取った一夏を、デモニアの重撃が襲った。全身に走る衝撃。デモニアはそのまま、一夏を海面目掛けて叩き落とした。

パワーも白式とは比較にならない月華白雪が、力負けをしたことに一夏は驚くが、それ以上に追いつけるギリギリまで遠ざかったサイレント・ゼフィルスに、歯ぎしりする。

「くそっ……邪魔するなぁっ!」

スラスターを噴かして態勢を立て直しながら、サイレント・ゼフィルスを追撃する。まだ、間に合う。

瞬時加速(イグニッションブースト)。白波を上げて飛ぶ月華白雪。が、そのすぐ背後からデモニアが迫る。

「こいつ――!」

反転し、繰り出された一撃を受け止める一夏。何度も何度も水面と激突し、バランスが崩れる。

『最優先攻撃対象 月華白雪。VTSystem――boot.』

グニャリ。

装甲に埋め込まれたコア・キューブが光を放つと同時にデモニアの全身が液状化したかのように歪む。

この反応に、一夏は見覚えがあった。ラウラとの試合の際に起こったあの現象だ。

「VTシステムだと……!?」

だが、あの時とは違ってデモニアは暮桜――千冬の姿を模倣しはしなかった。

元の形状はそのままに、全身のバランスが変化していたのだ。四肢の装甲が一回り細まって、代わりに背面のクリスタルウイングが大型になる。

そして何より――その手の武装も変わっていた。

巨剣はその姿を、一振りの刀へと変えていた。

「また……雪片かよっ!」

そう、その手の刃は雪片であった。しかも今度は一夏の持つそれと同じ、雪片弐型だ。

ギリリ、と歯を食いしばりながら、チラリと見る。もう、そこにサイレント・ゼフィルスの姿はない。

「っ……!!」

一夏は怒りの形相で、単眼の敵を睨んだ。もう少しで、あと一歩で、春斗を取り戻すチャンスを掴めたのに。

「この……ヤロォオオオオッ!」

力尽くでデモニアを押し返して上下を入れ替えると、今度はデモニアを全身で海面に押し付ける。

「何なんだよ、お前は! あと少しで……あと少しだったんだぞぉおおおおおおおおおっ!」

「………」

激高をそのまま、刃に乗せて叩きつける。何度も何度も火花が散って、その度に防御する偽雪片が弾かれる。

「うぉおおおおっ!」

左手で偽雪片を弾き、一夏はその切っ先を敵の喉元に向けて振り下ろした。

『V・T・M・S――boot.』

キィン。と、甲高い音がすると、デモニアの手がその切っ先を押さえた。

「がっ――!?」

直後、一夏の首に痛打が走る。偽雪片を逆手に返したデモニアが反撃を繰り出したのだ。

絶対防御がなければ、一夏の頭と体は永遠に切り離されていただろう。

「げほっ……! こいつ……っ!?」

海面をバウンドし、転がりながら態勢を戻す。デモニアがは海面を滑りながら、超高速で距離を詰めてきていた。

「うぉおおおおっ!」

一夏も気合の猛りと共に、デモニアに突進した。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

二機の激しい戦闘を、全員はただ見守っていた。それ以外に出来ることがなかった。

「何よあいつ……前よりも全然強い……!?」

「前に戦った時は本気ではなかったということですの……!?」

月華白雪と互角に打ち合うデモニアのスペックに、鈴とセシリアが震えたような声を出す。

以前、海上で戦った時でさえ、勝ち目があるかどうかを疑った。それなのに、あの福音さえ手も足も出せなかった月華白雪に匹敵する性能。

それだけではない。操縦者の腕も、それを引き出せる程の技量。

最早、援護をしようにもどうすれば良いか分からない。

「皆、ぼんやりしていないで。あれを何としても捕まえるわよ」

楯無の言葉に、全員の視線が集中する。

「でも、あれだけの敵をどうやって?」

「言いたくはありませんが……機体のスペックが桁違いですわ」

「そうね……でも、正面きってやり合うだけが戦いじゃないわ。そうでしょう?」

「………」

楯無が言うと、全員が言葉を失くした。

あの圧倒的とも言える性能に、いつの間にか自分達が呑み込まれていたと気付いたのだ。

「それで……どうすればいい?」

「あの機体――デモニアと戦えるのは多分、一夏くんの月華白雪とシャルロットちゃんのラファール・ドラグーン、それと箒ちゃんの紅椿だけね。それ以外はあの機動力に追いつけないわ。この三名をフォワードにして、残りでバックアップ。特に重要なのは……」

視線がラウラを捉える。その意図を察して、ラウラが頷いて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

ガァン! ギィンッ!! ガキィンッ!!

 

レールウェイの柱を交差するようにして、月華白雪とデモニアが幾度と無く激突して弾き合う。

強い。あの時よりも遥かに。だが、奇妙な強さだ。それが一夏の感じたものであった。

前はもっとチグハグさがあったが、今はそれらがカチリとハマっているようだ。

VTシステムも、以前のものとはまるで違う。

デモニアが振るう剣技は千冬の剣だ。それにすぐ気づいたが、もっと深い事にも気付いた。一瞬、本物の千冬が振るっているようにさえ錯覚したのだ。

(つまり、アイツの戦闘スタイルは、VTシステムがあってこそなのか? それとも、こっちが本物のVTシステム……?)

思考するが答えはでない。春斗の意識と融合したことで解析や推測などの情報処理能力も上がっているが、それでも答えはでない。

だが、向こうの手札(カード)が剣であり、クリスタルからの射撃などの遠距離攻撃。

更にはシールドも展開できる事も分かっている。ならば、このまま――。

 

「っ――!?」

激しくつばぜり合いながら錐揉みし、上昇していくその先に、レールウェイを走る電車が来ていた。

「だらぁっ!」

一夏はデモニアを蹴り飛ばし、電車の左右に飛ぶ。その余波に車両が大きく揺れて、ハイパーセンサーが乗客の悲鳴を拾った。

戦闘宙域は大きく移動している。このまま行けば都市部にまで入ってしまう。

『一夏くん、聞こえる?』

「楯無さん? ッ……何ですか!?」

デモニアが左手にクリスタルの砲身を展開。エネルギー弾を発射してくる。それらを躱しながら、一夏は通信に返す。

『敵を遮断シールドで囲い込むわ。第1アリーナで準備しているから、なんとか誘導して?』

「でもどうやって……!?」

『どうやら向こうは一夏くんに執着してるみたいだから、上手く利用して。それと援軍が二人、もうすぐ到着するわ』

「援軍?」

誰がと思う一夏の眼前に、デモニアが迫る。が、デモニアの横面を思いっ切り打ち据えるものがあった。

実弾の豪雨。これだけの銃火器を積んでいる機体は一つしかない。

「一夏、離れて!」

ラファール・ドラグーンを駆るシャルロットだ。シャルロットの叫びに、一夏はすぐさま後退した。

「だぁああああああっ!」

シャルロットのは声を張り上げながら、スラスターを全開にして突貫する。弾切れとなった右のマシンガンを投げ捨て、左のアサルトライフルをフルオートで放つ。

シールドを展開して防御するデモニア目掛けて、そのまま突っ込んだ。

「これなら!」

シールドに向かって、ライト・エッジのナックルを叩きこむ。が、砕けない。しかし、それでも充分だった。

 

―― レッグ・ゲイル ドライブ ――

 

「ゲイル・ブレイクッ!」

ゲイル・ブレイク――脚部ユニットにリンドブルムのエネルギーを集中させての回し蹴り――を繰り出す。

 

『Demon's Hand』

 

ガシィ! シャルロットの蹴りが、巨大な手によって止められた。シールドと同じ高エネルギークリスタルで構成それは、頑強にして強固。

「うわっ!?」

そのまま力任せにシャルロットを振り上げ、一夏目掛けて投げ飛ばす。

「シャルロット!」

一夏はシャルロットを受け止めるが、そのせいで両手を塞いでしまう。デモニアは容赦なく、デモンズハンドを再構成し砲撃態勢に移行した。

「やらせるかよ! 飛べ、月之雫!」

戦術システム百目が起動し、ビットが切り離される。六つの砲口から閃光が撃ち放たれると、デモニアは砲撃態勢を解きつつ回避。その身を翻して上昇した。

「チェストオオオオオオッ!」

示現流の如き咆哮と共に、その真上から紅の鋼翼が急降下してくる。箒の紅椿だ。

『Satan's Edge』

左手のクリスタルが四角錐のブレードに変化し、空裂の一撃を真正面から受け止めた。

パワーにも自信のある紅椿の一撃を防がれたことに、しかし箒は動揺さえしない。

月華白雪と互角にやり合えるのだ。この程度は想定の範囲内でしか無い。

「縮地!」

瞬間、箒の姿が掻き消える。そして背後に紅の影が出現した。紅椿が最高速度を一瞬だけ超えて、無防備なデモニアの背後を完全に取った。

「っ――!?」

が、箒の斬撃は空を斬る。デモニアの姿が消えたのだ。

 

―― 後方 敵IS反応 ――

 

「ちぃ――っ!」

舌打ちし、振り返りざまに刃を振るう。その切っ先寸前を、デモニアは身を反らして躱した。

ならば手数で押すとばかりに、箒は雨月と爪先の展開装甲を起動。合計四つの刃で襲い掛かった。

「はぁあああああっ!」

裂帛の気合と共に、雨月を振り下ろし、その反動で空裂で薙ぐ。そのまま身を捻り込んで、逆立ち状態から左足の刃を繰り出す。

しかし、デモニアはその全てを紙一重で躱してみせる。

「縮地!」

再び縮地。同時に右足刃をねじ込むように打つ。ガギィィイイン! と、甲高い金属音が響いた。

回避しようとするデモニアの左肩を、紅椿の刃が切り上げていた。ダメージとは行かないが、しかし初めての直撃だ。

(行ける――! 瞬速超過(オーバーアクセル)はこいつに通じる!)

全身に感じる負荷に歯を食い縛りながらも、箒は確かな手応えを感じていた。

瞬速超過(オーバーアクセル)は肉体に掛かる負担が大きい。打鉄でさえ三速を踏み込んで気管を痛めたのだ。高性能の紅椿でそれをすれば、まともに動くことも難しくなるだろう。

だが、出しどころを間違えなければ問題はない。

「箒っ!」

一夏が月之雫を向けて突撃してくる。それを見た箒は、牽制をしつつ後退した。

入れ替わって、一夏は怒涛の攻撃を仕掛ける。月之雫と晨月、雪羅という超射撃モードで弾幕を張ったのだ。

「オラオラオラァッ!」

それだけ後先考えない攻撃を出来る背景は、その後方にあった。

「一夏、そのままアイツを学園の方に!」

「おうっ!」

一夏の後ろからも、弾幕が来る。シャルロットは箒がデモニアを相手している間にバイパスを繋ぎ、リンドブルムが生み出すエネルギーを月華白雪の攻撃エネルギーに回せるようにしたのだ。

絢爛舞踏のようなSEまでの回復はできないが、燃費の悪い武装を思う存分撃てる為、かなり利便性が高いフォーメーションだ。

デモニアはクリスタルシールドを展開して、防御する。が、その背後を紅椿が叩く。

「そっちばかりに気を向けていると、背中が空くぞ!?」

デモニアは紅椿の攻撃にもシールドを張りつつ、一夏目掛けて加速する。

「一夏っ!」

「行けっ!」

シャルロットが叫び、一夏は左手を後方に回す。それを掴んだシャルロットが入れ替わりながら、レフト・シェルをデモニアに向けた。

撃ち放たれた閃光はデモニアのシールドを貫き、装甲を直撃した。

「一夏!」

「おぉおおおおおっ!」

そのまま更に一夏を振り回し、シャルロットがコードを切り離す。

月華白雪はその勢いに乗って、デモニアに向かっていった。

 

『VTSystem V・T・M・S――Code,drive』

 

グニャリとまた、装甲が変形する。今度はウイングが減り、非固定浮遊部位のシールドが増設された。

「ハァッ!」

一夏は構わずに雪片を振るった。が、それはあっさりと弾かれる。唐竹に振るわれた一夏の刃を受け止めると同時に、僅かにそらし、そのまま真上に返してのだ。

「っ――!?」

がら空きとなった懐に目掛けて、冷たい斬光が煌く。それをギリギリで躱した一夏は、ゾクリとした。

その剣技は、さっきよりも尚、千冬にそっくり――否、もし何も知らなければ、相手が千冬であるとさえ思ったかも知れない。

「一夏!」

「このぉっ!」

箒とシャルロットが助勢に入る。

が、デモニアはそれでも一夏に攻撃を仕掛ける。シャルロットの弾雨を物ともせず、箒の斬撃を尽く防いで躱す。何度か仕掛けた瞬速超過(オーバーアクセル)も、その出かかり読まれ、逆に押し返される。

その上で、一夏の斬撃にもカウンターで何度も当ててくる。

 

「くそっ……! どんどん動きが良くなってきている!?」

「駄目だ、通常武装じゃダメージも通らない!」

「だけど……もう少しだ!」

 

そう、徐々に戦場は第一アリーナ近くまで移動してきていた。一夏を追いかけるデモニアは、しっかりと誘導されてきていた。

あと少し。指定ポイントまで行けば、一気にアリーナ内部に封じ込められる。

チラリと、一夏はアリーナを見た。

「ぐぁあッ!」

注意が逸れたその瞬間、デモニアのクリスタルエッジが一夏を捉えた。

 

そこを狙い、偽雪片は刃を開く。そしてそこから生まれる――禍々しい深紅の光刃。

「零落白夜……いや、偽物だ!」

零落白夜は白式の単一仕様能力(ワンオフアビリティー)だ。模倣など出来るわけがない。

だが、凄まじい高エネルギー反応を見る限り、恐らくは一撃必殺を狙うものなのだろう。

「だったら――!」

目には目を、歯には歯を。必殺には必殺で対抗する。

 

「行くぜ――零落白夜!」

 

雪片弐型が展開して光刃が生まれる。だがそれは、今までとは比較にならない程に強大なものだった。

バチバチとスパークし、荒れ狂う波動は触れる全てを文字通りに消滅させるシロモノだ。

「くらぇええええっ!」

月華白雪となったことで強化された『真・零落白夜』が、偽零落白夜と激突する。

 

バチチチチチッ!

 

両者の刃が触れ合った瞬間、凄まじい音と共にエネルギーが互いを喰らい合う。

「はぁあああああっ!」

真・零落白夜が翻って踊る度、その刃が大気を抉る音が響けば、偽零落白夜の斬光は、鋭く空気を引き裂く。

その余波にさえ強大な威力を誇る二つの激光は、箒達に割り込む余地さえ与えない。

何度となく激突する必殺の刃。だが、その均衡は崩れる。

 

『っ――!?』

 

ガクン。デモニアは突如としてその動きを止めた。

「――捉えたぞ、デモニア!」

完全ステルスモードを解除して現れたのは――シュヴァルツェア・レーゲン。

その右手は真っ直ぐに、デモニアに向けられていた。AIC――無敵の対物理結界が、悪魔の翼を捕らえたのだ。

「今だ、二人共! 行けぇっ!」

デモニアは出力を上げて、それを引き剥がそうとする。後数秒と、この捕縛は持たないと、ラウラは叫んだ。

「「うぉおおおおお!」」

ラウラの声に、赤と橙の光が上空から突撃する。二色の光は、デモニアに激突すると、その体をホールドしてスラスターを全開にして第1アリーナ目掛けて急速降下する。

 

「このまま落とす!」

「落ちろぉおおおおっ!」

 

シャルロットと箒に押さえられたデモニアは為す術なく、まっすぐに落ちていく。

「こいつも持っていけぇえええええええっ!」

そこに突撃する、月華白雪。細雪にエネルギーを集中させての急降下キックを、その胸に叩きこむ。が、それをデモニアはギリギリで受け止める。

 

「「「オォオオオオオオオオオッ!」」」

 

しかし構わず、三人はデモニアをアリーナへと叩き落とした。

 

 

 

 

 

 

もうもうと上がる土煙。ラウラが中に入ったことを確認した虚は、シールドを起動させた。

『遮断シールドレベル4で展開。アリーナ周囲の封鎖も完了しました』

「了解。そのまま維持と警戒を続けて」

虚の言葉に楯無はそう指示をして、ランスを構える。

ここまでは作戦通り。だが、相手は月華白雪を含めた三機と互角に戦う。ここからが本番だ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

地面に叩きつけられたデモニアは、その体をゆっくりと起こす。

『周囲に敵反応。包囲陣形の目的は当機の撃墜と推測。事前作戦命令通り、全脅威の排除を優先』

デモニアの全身に組み込まれたコア・キューブが出力を上げる。

周囲を囲む専用機。その数は8。戦力差を見れば圧倒的に不利に思われる状況。しかし、悪魔は一切の動揺を見せない。

セシリアとシャルロットがまず動く。ビットとライフル、そして実弾武装による一斉射撃。デモニアは後方に動きそれらを躱す。地面が穿たれ、爆ぜる。

「だぁああああああっ!」

正面の粉塵を貫いて、赤紫の機体が迫る。鈴の甲龍だ。二刀の双天牙月を力任せに叩きつける。

デモニアはそれを一撃目を躱すとニ撃目を弾いて、その横腹に蹴りを打ち込む。そのまま右に思いっ切り吹っ飛ばした。

「がはっ!?」

鈴をふっ飛ばしたデモニアに、赤白の機体と蒼い機体が迫った。

「フッ!」

「はぁっ!」

織羽の舞影と楯無のミステリアス・レイディが左右から仕掛ける。

ヒュンッ! と、空を裂く舞影の刃。伏せて躱すと同時にデモニアが反転。楯無のランスの刺突を偽雪片の刃でまわして受け流す。

バランスを崩され、たたらを踏む楯無。その後頭部に偽雪片が振るわれる。

「っ……!」

楯無はそのまま前方に転がってその一撃を躱す。すぐさま立ち上がり、ランスを返して石突を振り上げた。

容赦無く追撃してきた偽雪片の切っ先が、弾かれて火花を散らした。

「織羽ちゃん!」

「はいっ!」

楯無はランスの代わりに蛇腹剣〈ラスティー・ネイル〉を展開する。

「はっ!」

「せいやぁっ!」

左右、前後、入れ替わりながら繰り出される連続攻撃。デモニアはそれらを躱しながら、その手に新たに武装を生み出した。それは銃だった。

 

バガガァン!

 

「あぐ……っ!?」

織羽が、強烈な一撃によろめく。その隙にデモニアが楯無に偽雪片を振り抜いた。

「くう……っ!?」

ラスティー・ネイルで受けるも、そのパワーに強引に引掛がされる。ガリガリと、地面を滑りながら、楯無は歯ぎしりした。

デモニアはそのまま織羽に向かって偽雪片を振るおうとするが、そこに割り込む一夏と箒。

「やらせるかよ!」

「させん!」

二機の迫撃にデモニアは銃を消して、偽雪片を両手で握る。二人も、全開で攻撃をぶち込む。

 

 

 

 

「なんてパワーなの。真正面からは……やっぱりキツイわね」

楯無は一夏と箒を相手取り、立ちまわるデモニアのスペックに戦慄していた。

向こうのカードでの最大は、エネルギー量と、高速機動だ。だが、この限定空間内ならばその内の一つを潰せる。つまり、こちらの手が届く場所に引きずり落とせる。

確かに攻撃は届く。しかし、その技量は八機のISを相手にしても尚、凌駕する。

押し込んでも、パワーフローだけで強引に返されてしまう。これは個人の技術だけでどうこうできる話ではない。

楯無は、徐々に押される一夏達に叫んだ。

「二人共、下がって!」

楯無は叫ぶと同時に、アクア・サーペントを発動。濁流が水蛇となって踊り狂い、デモニアを襲う。

躱すデモニア。その背を狙って、鈴の龍咆とセシリアのビーム、そしてシャルロットの射撃が襲いかかる。

それらを躱し防御しながら、デモニアは上昇。遮断シールドを滑りながら、水蛇から逃げ続ける。

『脅威低レベル。しかし行動に支障あり。優先順位変更』

デモニアは、楯無が邪魔であると判断し、まずはその排除に動く。

「来た――っ!」

遮断シールドを蹴って、同時にスラスターウイングに点火して一気に加速。

その手に、クリスタルの槍を生み出して全力で投擲。紅い流星が楯無を貫いた。

直後、楯無が崩れる。それは水の虚像であった。

「甘いわよ!」

声は後方から。デモニアが振り返る。水蛇の口が開くと、そこにはランスを構えた楯無の姿。

「サーペント・スティンガー!」

楯無がランスを投げると、水蛇がそれに巻き込まれて渦巻き、巨大なドリルとなって悪魔を貫かんとする。

デモニアはシールドで防御するが、その上から濁流が悪魔を呑み込んで、地面に叩きつけた。

アクア・クリスタルに内包されたすべての水を使っての必殺の一撃は、その反動でアリーナに波を起こす。

「ラウラちゃん!」

「これで、チェックだ!」

ラウラがAICを発動。起き上がろうとするデモニアを押さえ込んだ。

再び出力を上げて引き剥がそうとするデモニア、しかし、今度はそうは行かなかった。

動かない。AICの捕縛力を超えるエネルギーを展開させているのに、四肢が微動だにしない。

「無駄よ。ラウラちゃんが止めているのは……貴方の体の泥だもの!」

ラウラのAICはデモニアの体に付着した泥を、一種の拘束具として封じ込めていた。いくら出力を上げても、エネルギー伝達が行かなければそうそう解けはしない。

「これで、チェックメイトよ!」

楯無はラスティー・ネイルをその胸のコア・キューブ目掛けて突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Divide Effect――Drive』

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ん? ……何?」

フィリーは突如として動かなくなった自分の左腕を見た。そして周囲から上がる無数の悲鳴に、目を鋭く細める。

学園は突如としてパニックになった。

照明は消え、電光案内板も消灯し、様々な所で電子機器が異常を起こしているようだ。

 

 

同時刻。IS学園システム管理部は遙かにパニックを起こしていた。

「どういう事!? 全システムがシャットダウンしているなんて!?」

「ダメです! こちらの操作を受け付けません!」

モニターすらようやく非常電源で起動しただけの状態で、システムはほぼ、無防備状態になっていた。

「なんなのよ……このIS学園のセキュリティがいきなり丸裸にされたですって!?」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

学園全土を襲う異常の中心地――第1アリーナ。そこでは文字通り、悪夢のような光景が広がっていた。

 

デモニアの胸部装甲が開いたかと思った瞬間、深紅の閃光が全身から放たれた。そして気が付けばISが、世界最強最新鋭の存在が、力を失って尽く地に墜ちていたのだ。

パワーフローもPICも、まともに機能しない。万能の力はたった数秒で見る影もなくなっていた。

「くそっ……何だ、いきなり!?」

「ISが……ブルー・ティアーズが動かないなんて……!?」

「甲龍……どうしたってのよ!?」

「お願い、動いてドラグーン……!」

「何故だ……コアの稼働率が起動ギリギリまで落ちているだと!?」

「何よこれ……何の冗談なのよ?」

「おい! みんな大丈夫か!? 一体、どうしたんだよ!?」

一人普通に立つ一夏は、その光景に焦りと困惑の色を浮かべていた。

「一夏、あんたは平気なの?」

「あ、あぁ。なんかすっげぇ音がしたから耳が痛いけど……大丈夫だ」

「音……? そんなの聞こえなかったわよ? ていうか、やばい!」

「楯無さんっ!」

一夏はハッとした。胸部のデモンズ・アイを閉じて、悠々と立ち上がるデモニアは、眼下に伏せる楯無に視線を向けた。

そして、ラスティー・ネイルを支えに立ち上がろうとした楯無の腹に、その足を容赦無く突き刺したのだ。

「ごほ……っ!?」

くの字に曲がった楯無の体。その口から鮮血が溢れる。そのまま頭を鷲掴みにするデモニア。

「ぐぅう……!」

いくら楯無が強くとも、まともに動いていない――生身同然の状態でISに敵う訳もない。ギシギシと、頭蓋が不吉な音を立てる。

「やめろぉおおおおっ!」

一夏はデモニアに向かって行く。が、その足をすぐに止めた。デモニアは楯無を、まるでゴミのように投げ捨てたのだ。

「ぁあ……っ!」

まずい。そうとっさに判断した一夏は、全速力で楯無を受け止めに向かった。瞬時加速(イグニッションブースト)で回り込み、地面を滑って両手を掲げる。

間一髪で、一夏は楯無を受け止める。そして息を呑んだ。楯無の腹部に、まざまざと刻みつけられた傷跡。

恐らくは肋が何本もいっているだろう。しかしそれが意味するところは別にある。

絶対防御が――機能していない。

このままだと全滅させられる。そう思った一夏は、楯無を抱えたままデモニアを睨み――そして目を見開いた。

「箒っ!」

デモニアはいつの間にか、箒の前に立っていた。

 

 

箒は不意に差した影に顔を上げる。そして、恐怖の色でそれを見た。

単眼の悪魔は、その標的を自分に向けたのだ。

「くっ……動けぇえええええっ!」

箒はままならない紅椿を強引に動かして、雨月を突き出した。

だが、あっさりとそれを躱され、腕を取られる。そして持ち上げられた箒の鳩尾に、デモニアの拳がめり込んだ。

「がは……ぁっ」

苦悶の声を上げて箒の意識が途切れると、力を失った体はズルリと堕ちる。そして紅椿は、その姿を待機形態へと戻してしまった。

意識を完全に失くした箒を、まるで愛おしい者を抱くかのように支えてデモニアがその翼を開く。

「まさか……っ!」

そうして気付く。敵の本当の目的はサイレント・ゼフィルスを逃がすことではない。それはあくまでも、本命のついででしかないのだと。

本命は――篠ノ之箒の拉致。

「箒ぃいいいいいっ!」

一夏は叫んだ。春斗を奪われ、また奪われるのか。いや、絶対にさせないと、楯無を降ろしてすぐにデモニアに向かっていく。

デモニアは右手を一夏に向けて掲げると、クリスタルの弾丸を連射する。後方に負傷した楯無がいるせいで回避などできない。しかし、それ以上に回避などで余計な回り道などする気もない。

「ぐぅう……うぉおおおおおおおっ!」

被弾し、装甲が削られていく。それでも、一夏の瞳は瞬き一つさえもなく敵を取られていた。

デモニアは弾幕を張りつつ、上空に上がる。一夏もまたそれを追う。既に遮断シールドは消失しており、悪魔を閉じ込める檻はない。止めるには倒すしかない。

「――あぁあああああああああっ!」

一夏はただ、力任せに雪片を振りかぶるが、デモニアのクリスタルエッジによってあっさりと阻まれる。

「返せよ……!」

ギリッ。奥歯が軋む音が鼓膜を揺らす。

「箒を……春斗を……俺の大事なもの、全部返せよぉおおおっ!」

慟哭に近い叫びが木霊する。

 

『………』

 

バシュウ。

 

頭部ユニットがそのロックを外す。鳥面のフェイスガードが上部と左右に分かれて開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…………?」

 

 

風が、その長い黒髪を撫でる。虚ろな瞳は何も映さず、ただ深い闇を称える。

そして、その顔は―― 一夏であった。

正確に言うならば、一夏に瓜二つの――少年のものであった。

地上の面々も、そして眼前の一夏も、ただ目を見開いて思考を停止させていた。

今、自分が見ているものの意味するところを理解できず、ただ止まる。

 

 

奪われた春斗の体。それが今、最大最悪の敵となって立ちふさがった。

 

 

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