IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第67話  Briefing/First Attack

「もしかして、これで行くのか……?」

「これは、もしやイージス艦か? まさか、こんなものまで用意しているとはな」

正門前から移動した面々の前には全長150メートル、幅24メートルの船があった。

「辰守家所有巡洋艦『甲武』。最高速度は41ノットで、多数の迎撃用装備。でもって中にはIS用ハンガーと、電磁レール式発進機構も完備しているのよ!」

自慢げに語りながら、織羽は船に乗り込もうと足を踏み出す。

「――織羽、元気そうだな」

「っ……!?」

船の甲板から桟橋に向かって、一つの影が飛び降りた。藍色のスーツに身を包んだ、高身長の一夏よりも頭一つ高い美丈夫。

「連兄ぃ!」

織羽はその男を見つけると、顔を綻ばせて胸に飛び込んだ。

「ととっ……久しぶりだな、織羽。少し背が伸びたか?」

「もうっ。数年ぶりだっていうのにもっと言うことはないの!?」

「ん? あぁ、そうだな……綺麗になったな」

「えへへ~……………ハッ!?」

頭を撫でられてヘニャった顔をしていた織羽が、我に返って振り返った。

そこに一様に並ぶ、冷たい視線。

「織羽さんって、もしかして……?」

「……ブラコン?」

「違うわよ! あたしは連兄が好きなだけだし!!」

「それを! 世間じゃ! ブラコンって言うのよ!」

織羽の主張を、鈴が真っ向から粉砕した。誰がどう見たってブラコンなのだから仕方ない。

「道行きの案内……宜しくお願いします、筆頭」

「挨拶はいい。早く乗れ。もう既に、学園の方から来ているぞ?」

「学園の方から……?」

一夏が首を傾げると、甲板に別の人影が見えた。それは彼らにとって見知った相手であった。

「千冬姉!? どうしてここに?」

「学園からの派遣だ。お前達は全員、学園に籍を置いているのだから当然だろう?」

「俺は今回の総指揮を取ることになった、辰守連音だ。全員乗船し次第、ブリーフィングを始める。急ぐように」

織羽を離し、連音は船に戻る。その後に続いて全員が乗船する。

船の中では忙しなく人が行き来し、脇を抜けるようにして、連音の後に続いて、船内を移動した。

連音に続いて通路を移動していくと、あるドアの前で止まった。

「ここに、こちらで用意した特注のスーツがある。まずはそれに着替えてもらいたい。君のはこっちだ」

そう言って連音は一夏に、向かいの部屋を指差した。

「あの、ISスーツなら着てるんですが……?」

「〈特注〉といった筈だ。まさか、あんなお飾りで戦場に出る気だったのか? 織羽、着替えを済ませたら船艙部に案内を頼む」

「はい、筆頭。それでは後ほど」

先程とは違う、部下としての姿で織羽が返した。ドアを開けて中に入っていく彼女達を見送り、一夏も向かいのドアを開けて中に入っていった。

「……さて、これがその〈特別製〉か?」

一夏は置かれていたケースを開け、そこに入っていた物を持ち上げた。

それは全身を包み込むような形状で、所々に見た事のない形状の物が付いている。

『ISスーツと言うより、一種のプロテクトスーツみたいだね』

「プロテクトスーツか……なるほど。……お、伸びるな……っく、き、キツイ……!」

一夏がスーツを着るのに苦闘を開始した同時間。もう一つの部屋でも、似たような光景が広がっていた。

「このスーツ……些かキツくありませんか?」

スーツに足を通し、腕を通していざ、という所でセシリアが尋ねてきた。何せ四肢を通すだけでも中々の重労働だ。そう思うのも仕方ない事である。

「ん? それはオルコットがふと――」

「断じて違いますわ!!」

織羽の言葉を即行で否定するセシリア。皆の視線が無意識に彼女の腕とか足とか腹とかに向いてしまったのは、きっと仕方無い事だ。

「冗談よ。これって素材はISスーツと同じだけど、全身の筋肉を軽く圧迫するようにできてるからね。そうすると、筋肉の機能が上がって単純な防御力が上がるの」

「そうなの?」

既にスーツを着た鈴が、自分の体をまじまじと見る。ISスーツと同じピッチリなのだが、胸部にプロテクターが入っているせいで若干、そこが大きく見える。

「これはスニーキングスーツも兼ねているの。ぶっちゃけた話……これ一着の値段、安い戦闘機とどっこいよ?」

「うへぇ……壊したり破いたりしたら、弁償……とか、無いですよね?」

楯無の言葉に恐る恐る鈴が尋ねる。代表候補として給金は出ているが、戦闘機を買えるような大金は払えない。

「大丈夫、大丈夫。命に比べれば安いって」

織羽がパタパタと手を振って笑う

「……それ、どっちの意味で?」

『命に比べれば安いんだからその時は払え』なのか、それとも『命の為の出費だから請求しない』なのか。

鈴の疑問に織羽はただ、ニヤニヤと笑っていた。

「無駄話はそこまでにしておけ。スーツを着たのなら、早く行くぞ」

余りの緊張感のなさに、ラウラは呆れながら言った。

「そうね。オルコットも着れたみたいだし……向こうはどうかしらね?」

織羽が通路に出ると、一夏が向かいから出てくるところだった。

「お、ちゃんと着れたの?」

「まぁな。そっちも全員済んだんだな。それじゃ、案内頼むぜ」

「了解。皆、こっちよ」

織羽の先導に従って通路を進み、階段を降り、辿り着いたのは一等開けた場所だった。そこにはIS用ハンガーが並び、幾つもの機械に並んで、打鉄とラファール・リヴァイヴ。そしてIS用パッケージも幾つか並んでいた

「あれは……ストライクガンナー? どうしてここに?」

「昨夜の内に学園からこちらに運び込んだものだ。時間がないから、ブリーフィングをインストール作業と並行して行う」

千冬が振り返って説明する。どうやら学園からの精一杯の支援らしい。

「ん~、やっと来たね~」

「束さん?」

「やぁやぁ、いっくんとその一行。束博士だよ~。早速だけど、ISの調整をするから展開よろしく~。あ、金髪はパッケージも入れるからね。束さんが直々に弄り回したスペシャルサービスモデルなんだから、平身低頭覇しても惜しくないぞ~?」

「は、はぁ……?」

「ほらほら。さっさとしないと時間がないよ。皆、ハンガーに行った行った!」

一夏達は急かされるままに、ハンガー前に移動してISを展開させた。

ガチャリとユニットロックが掛かり、無数のモニターが起動する。そこには文字と数字、何かのグラフが乱立していく。

「さて、そのまま聞いて欲しい。本船は今、IS学園から離れ、太平洋沖を目指して出発した。作戦開始は07:00。作戦目標はI・S・E〈デモニア〉の宇宙移送の阻止。それと並行して、誘拐された篠ノ之箒の救出及び、今回の主犯である、ファウストと名乗る科学者を捕縛することだ」

「ファウスト……そいつが春斗と箒を」

初めて知る敵の名に、一夏が奥歯を「ギリッ」と噛み締める。

一夏だけではない。全員が、見知らぬ首謀者に対して強い敵意を滲ませている。

「ところで……I・S・Eって何ですか?」

ふと、シャルロットが疑問に思ったことを尋ねた。

「I・S・E――つまり〈インフィニット・ストラトス・イーター〉。対IS用機動兵器という事らしい。その能力は……説明するまでもないな」

「〈ISを喰らう者〉か。大仰な名前、と言いたい所だが……確かに、その名に相応しい能力だったな」

ラウラは冷静に、先日の戦闘を振り返る。コアを強制的にダウンさせるというデタラメぶりは、正にイーターと付くに値した。

「敵の能力が分かっている以上、わざわざ真正面から倒す必要はないわ。デモニアを停止させる為に、ファウスト博士の身柄を押さえれば、あれの停止方法も分かるでしょうしね。

でも、その前にデモニアが宇宙に行って……恐らくは何かしらのユニットとランデブーしてしまったら最後。まずは相手の作戦阻止を最優先で考えましょう」

楯無の言葉に、全員が頷く。まずは相手の作戦を止める事が肝要だ。

「敵の基地は、日本とアメリカの某企業が共同出資して建造された海洋調査プラント〈フォー・リーフス〉。

どうやら、一般の職員は既に亡国機業の息の掛かった人間と入れ替わっているようだ。

施設自体は頑強な造りがなされている。よほど派手にやらない限りは崩壊することはないだろう」

戦いの舞台である敵基地の情報、具体的にはどう動くのかを説明され、話し合い、並行してISの調整とパッケージインストールが行われていく。

「いっくんの白式は燃費が悪いからね~。Eタンクも兼ねて、スラスターをラファール・リヴァイヴの大気圏離脱用ブースターに一時的に置き換えるよ。

これは外付けだから、使い切ったら切り捨てて通常のスラスターを出してね~」

「はい。……でも、よく白式が受け入れてくれましたね?」

コアの特性上か、白式はパッケージや追加装備の尽くを嫌う。

今までは攻撃力に拡張領域を使っていたから特に問題視されなかったが、二次移行して余力が生まれたことで、この第問題が浮上していたのだ。

それなのに、こうもすんなりと受け入れてくれた事に、一夏は驚いていた。

「そりゃあねぇ、束さんが直々にやったんだし。それに……白式も分かってるんだよ」

「何をですか?」

「今回ばかりは、わがまま言ってる時じゃないって」

「………そうですか。サンキューな、白式」

「さて、問題はこっちだね~。こら、そこの金髪」

束はセシリアの方へと向かった。金髪呼ばわりされたセシリアは何とも微妙な顔をしている。

「……セシリア・オルコットですわ」

「知らないよ、覚える気無いし。この束さん改造パッケージ〈ストライクガンナーⅡ〉は、今までと違って、推進用ビットを任意で切り離して使えるから。その際、出力バランスが変わるけど、それぐらい自力で何とかしなさい。

それとBTの制御プログラムも再調整したから、BT兵器が今までよりも使いやすくなってる筈だよ」

「ありがとうございます、篠ノ之博士」

「ていうか、BTが売りのくせに、ビット使えなくするとか訳分かんないよね~。餅屋が餅売らないって言ってるようなものじゃない?」

「え……モチ……ヤ?」

「あ~あ、金髪には分からないか。まぁ、仕方ないよね、金髪だし。さてさて、後は~っと」

「え、ちょっと……?」

束はひょいひょいと移動してしまった。

 

「――失礼します。筆頭、宜しいでしょうか?」

ビシッ。と、敬礼して連音に声を掛けたのは船員服を纏った男だった。

「何だ?」

「いえ、不審者というか……密航者というか……」

「報告は正確にしろ。侵入者を捕らえたのか?」

「ハッ。こちらに――おい!」

男が入口の方に向かって声を掛ける。と、数人の武装した船員に囲まれて、入ってきたのは二人の人物。

一人は、咥えタバコをして余裕の表情を浮かべる女性。もう一人は、眼鏡を掛けた跳ねっ毛の少女。

「お、いたいた。やっと見つけられたわ」

「フィリーさん!? それに……更識さん?」

「簪ちゃん!? あなたがどうして、この船に乗っているの!?」

「あ、えっと……」

「いや~、学園で迷ってた時に見つけてね、案内してもらったんだけど……一緒に来たいって言うから、連れてきちゃった」

「なっ……!?」

カラカラと笑いながらとんでもないことを平然と言うフィリーに、さしもの楯無も唖然とした。

「……簪ちゃん、学園に今すぐに帰りなさい。筆頭、すみませんがボートの用意を」

「……嫌」

「簪ちゃん! ここから先は本当に危険なのよ!?わがままを言わないで!」

「嫌なの! もう、私だけ置いてけぼりなのは嫌なの!」

「っ……!?」

「福音の時も、昨日も、なんにも出来なかった……何もしなかった……! もう、そんなの嫌なの! 何も出来なくても、それでも何もしない自分は嫌なの!!」

「……簪ちゃん。でもね――」

「はい、そこまで」

楯無が何かを言おうとするのを、フィリーが止めた。

「この子は本気で戦場に来る事を覚悟してた。そうでなきゃ、殴り飛ばしてでも来させなかったわ。

だから、どういう事情かは知らないけど、決めた覚悟を否定することだけは止めなさい。それは優しさじゃなくて、相手を蔑ろにする行為よ」

「っ……! 貴方がそれを――」

「落ち着け、十七代目。ボートを出すにしても一旦は停船しないとならない。それでは作戦に遅れが生じる」

「ですけど!」

連音が仲裁に入ると、楯無は渋い顔をしながら、それでも何かを言おうとする。

「それに、まだISが完成してないのだろう? だったら『船からは絶対に出ない』という事で良いだろう? 一応、無関係な人間でもないのだしな」

「………分かりました。簪ちゃん、絶対にこの船からは出ないこと、良いわね?」

「うん」

「それよりも問題なのは……貴方です、ミス・ミヤムラ」

「お、色男にまで名前を知られているのは嬉しいわね。あなたがここの責任者? フランス政府から派遣されてきたフィリー・ミヤムラよ。よろしく」

「一応、話は伺っていますが……トラブルまで持ち込まれるとは聞いていませんでした」

「まぁまぁ。それも解決したでしょうが。よし、話も纏まった所で……シャル!」

「いや、何も纏まっては――」

連音を置いてけぼりにして、フィリーはシャルロットの元へと向かった。

当のシャルロットは恥ずかしさに顔を染め、俯いていた。

「もうっ。何でトラブル起こすんですかぁ!?」

「そういう星の下に生まれたのだから仕方ないわ。それより――はい、これ。フランス土産よ」

そう言ってフィリーは、一センチ四方のメモリーチップを取り出した。

「これって……量子メモリーですよね? 何が入ってるんです?」

「勿論、ドラグーン専用武装の量子データよ。と言っても、調整を入れてもギリギリ……ぶっつけ本番になっちゃうから、入れるかどうかは任せるわ」

「それじゃ……入れます」

「よし。それじゃ、幾つか武装を外しましょう。アサルトカノンの弾薬はそんなに要らない?」

「そうですね……ハンドガンを外して、弾薬系をもう少し――」

「春斗。お前の方はどうなってる?」

『うん、大丈夫。仮想領域やIS展開している限り、右腕は動くよ。調整の方も順調だよ。

雪羅の出力、特にシールドは効果範囲が拡散するから、その辺をもっと削って、あとはカノンモードも出力系をもっと細かくセットして……と』

「……うん、何をやってるかさっぱりだな」

『あのね一夏、こういうのもちゃんと覚えなきゃダメだって、前も言ったでしょ? これが終わったら一度、整備室でオーバーホールしないと。その時にでも徹底的に教えてあげるよ』

「うへぇ~。お手柔らかにお願いするぜ」

「簪~。舞影の調整、ちょっと手伝って~!」

「あ、うん。今行く」

織羽に呼ばれた簪が、小走りに駆けていく。他にも束は鈴の甲龍を弄ったりしながら、不気味に笑っていた。

「あれ、千冬姉は?」

『さっき、外に出ていったみたいだけど? ていうか、フィリー・ミヤムラさんもいないね。それより、白式のバランスチェックデータに目を通しておいてよ』

「おっと、わりぃ」

一夏は慌てて、モニターの数字に目を通し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

pipipi! pipipi!

 

「おっと。誰だよこんな時間に?」

制服に着替える途中だった弾は、けたたましく鳴る携帯を取った。ディスプレイには番号だけが表示されており、その番号に弾は覚えがなかった。取り敢えず、出てみようと、通話ボタンを押す。

「はい、どちらさん?」

『よう、弾。俺だ俺』

スピーカーの向こうから聞こえた声は、つい先日聞いたものとそっくり同じだった。

「なんだ、一夏か。こんな朝早くに電話してくるなんてよ。あ、そうだ。お前、昨日はどうしたんだよ? 演劇参加するっていなくなってから、帰って来なかっただろ。そのせいで俺が接客やらされたんだぞ!?」

『あー、それは悪かった。今度なんか奢るから、勘弁してくれ』

「まぁいいけどさ。それより……何かあったのか?」

『何で?』

「あのなぁ。3年もつるんでれば、何かあったかどうかなんて、声聞きゃ分かるって」

『……そうか。あのさ、実はお前に……紹介したい奴がいるんだよ』

「っ!? もしかして、彼女ができたのか!? そうなんだな!?」

まさかと思いながらも、弾は自分の言葉が急くのを抑えられなかった。

『何でそうなるんだよ!? ぜんぜん違うわっ!』

「何だ……がっかりさせんなよ、一夏」

『俺が悪いのか!? 俺、悪くないだろ!?』

「期待させるような事を言ったお前が悪い。それで……何だよ?」

二割本気で三割冗談、残った五割は切なる希望だったのだが、そこは伏せておき、弾は一夏に尋ねた。

『あのさ、俺が双子なの知ってるだろ?』

「あぁ。どっか遠くの病院に入院しているんだっけ? それがどうしたんだ?」

『今度……紹介しようと思ってさ』

「お、もしかして退院の目処が付いたのか? それで何時なんだ?」

『あ~、そうだな……もう少ししたら、だな。まぁ、その時になったらまた連絡するさ』

「そうか、分かった。そんじゃ、その時は派手に退院祝いのパーティーでもやってやるから」

『おう。楽しみにしてるぜ。……そんじゃあな』

プツリと通話が切れ、弾はしばし携帯を見ていた。

「……頑張れよ、一夏」

一夏が今、何か大変な事態にあるような気がして、弾は静かにそう呟いた。

親友が、また元気な姿を見せてくれることを願って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……サンキュー、弾」

コア・ネットワークを介した通信を終えて、一夏はモニターを消した。

『相変わらず良い男してるね、彼は』

「そうだな。あれで彼女の一人もできないのが不思議でしょうがないぜ」

『……そうだね。うん、本当にそう思うよ』

春斗は同意しておいた。その大半が一夏に原因があるとか、全然思っていない。

 

 

――まもなく作戦開始時刻です。当艦はこれより、ステルス航行を解除し、第一種戦闘態勢へと移行します。〈甲龍〉及び〈シュヴァルツェア・レーゲン〉は発進カタパルトへ――

 

『了解。甲龍、発進準備完了よ!』

『こちらシュヴァルツェア・レーゲン。出撃準備完了だ』

「いよいよ、か」

艦内通信とと開放回線(オープンチャンネル)を聞き、一夏は胸いっぱいに潮の香りを吸い込んだ。

空は青く、海も穏やかで、これからここが爆煙と硝煙の渦巻く戦場と化すとは、到底思えない。

「一夏さん。準備は宜しいですか?」

隣に立つセシリアが、声を掛ける。

「あぁ、大丈夫。緊張半分ってところだ」

「適度な緊張はコンディションを良くしますわ。……さぁ、そろそろですわね」

セシリアが甲板の先――持ち上げ式のリフトを見る。そこには天に向いて立つ、溝の彫られた四本の柱と、それに挟まれるような形の甲龍とシュヴァルツェア・レーゲンがあった。

「鈴! ラウラ! ……頼むぞ!!」

「あぁ、任せておけ!!」

「あたしらだけで全部終わらせてやるわよ!」

一夏の激励に二人が返す。四本の柱が前方に倒れていき、およそ45度の角度で停止し、更に先端部が伸びた。

「甲龍、発進するわ!」

「シュヴァルツェア・レーゲン、出るぞ!」

溝に電流が走ったかと思うと、空気をぶち抜くほどの勢いで、二機は同時に発射された。

 

向かう先は――フォー・リーフス。

 

 

 

 

 

『フォー・リーフス出資企業には既にこちらから手を回してある。多少の損害は気にせず、思いっ切りやれ』

「元よりそのつもりだけどね!」

「まずは私からだ……行くぞ!」

射出態勢のまま、ラウラがレールカノンを起動させる。ターゲットスコープが、敵基地の柱をロックオンした。

「――戦闘開始だ!!」

ラウラが怒りを籠めてトリガーを引いた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「デモニア、大気圏離脱用ブースター、接続」

「チャンバー内の圧力正常。以降のシークエンスをオートに」

フォー・リーフス内では着々と、デモニア射出準備が行われていた。

「ふふっ……もうすぐ。もうすぐ世界が変わるのね」

ファウストは不敵に微笑みながら、その工程を確認していた。

「そろそろ……来るかしらね?」

椅子に座りながら、スコールがポツリと言う。

「えぇ。デモニアを止めるにはこのタイミング……射出態勢に入ったこの時しか無い。だからこそ、貴方の部下にもお手伝いしてもらうのだけれど……大丈夫なの?」

「何がかしら?」

「貴方の部下は腕は立つけど、どうにも反骨心溢れているからね。特にMなんて、ナノマシンまで使って従わせているんでしょう?」

「大丈夫よ。どっちも、仕事はきちんとする――っ!?」

 

ズズズゥウウウウウン……ッ!

 

スコールが言い切る直前、フォー・リーフスが大きく揺れる。同時に幾つものモニターに、敵襲を告げるアラートが表示され、警報が鳴り響いた。

「来たわね……篠ノ之博士! 総員に通達。シークエンス7~35をカットし、直ちに既定ブロックへ退避。以降はデモニアの量子コンピューターで作業続行」

『了解。射出シークエンス36から作業継続』

ファウストは外部映像を展開。そこに映るのは高速で飛行し、攻撃を仕掛けてきている二機のIS。

「ドイツのシュヴァルツェア・レーゲンと中国の甲龍……だけ? 全防御システム起動。続いて〈アンズー〉を順次発進。センサーによる広範囲索敵。何処かに他の機体も隠れている筈……何を企んでいるのかしら?」

ファウストはコンソールを凄まじい速さで打ち、次々にモニターを起動させては消していく。

「敵機後方20㎞の海域に巡洋艦一隻。他にいないという事は……なるほど」

「うちの子達をスタンバイさせる?」

「えぇ、お願い。すぐに出番が来るわ」

スコールは早速、Mとオータムを迎撃準備に入らせた。そして、ファウストはどこまでも冷たい微笑を浮かべる。

「さぁさぁ、楽しい戦争(ゲーム)を始めましょうか! ベットするチップは世界の行く末よ!」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「なんだ、あれは?」

ラウラが、敵基地から発進する機影を発見する。それは鳥に似たフォルムで、大きさは1メートル未満。それが何機も、フォー・リーフスから飛び立ち、こちらに向かってきている。

「どうやら自立攻撃型ユニットのようだな。数は――14機」

「全部纏めて、龍咆でぶっ飛ばしてやるわ!」

甲龍が上昇し、龍咆の空間バレルが展開される。そして不可視の弾丸が連射された。

衝撃砲の連射が敵の迎撃部隊に次々と命中し、粉砕して、または弾き飛ばしていく。

「むっ――! 鈴、奴らが!」

「っ――!? まさか、こいつらって!?」

二人はすぐにそれに気付いた。龍咆の直撃を喰らったのに、何機かが破壊されなかったのだ。そして直撃した瞬間、機体に発生したフィールド。あれはISのシールドと同じものだった。

「全機にコア・キューブを搭載しているのか!」

直後。立て直した敵機〈アンズー〉から、深紅の閃光が発射される。大きく旋回してそれを回避する二機。

「ふん、雑魚の割にはやるじゃない!」

こちらに向かってくる〈アンズー〉に、鈴は双天牙月を展開して真正面から突っ込んで行く。

閃光をローリングで躱し、すれ違いざまに刃を斬りつける。強い抵抗を強引にねじ伏せて――

「どりゃぁあああああああああっ!」

――そのまま両断した。爆砕し、アンズーが落ちていく。

「はぁっ!」

ラウラは敵の背後に回りこむと同時に、AICを展開。動きを止めたところをレールカノンで撃墜した。

しかし、まだ敵の数は圧倒的で、四方八方から閃光が襲いくる。

「ちぃっ!?」

回避し切れず、ラウラが数発を喰らってしまう。ダメージは微々たるものだが、それでもSEを削られた事実は大きい。

「ラウラ!? こいつらぁっ!!」

鈴がフォローに行こうとするも、そこを遮るようにして、更に敵が激しく攻撃を仕掛ける。

「っ……!? まだ、増援が来るのか!?」

ハイパーセンサーが、フォー・リーフスの方角から来る更なる機影を補足した。

その数――およそ150機。

一機一機は雑魚だが、その数は脅威だった。しかし、まだこの段階で次を投入することは出来ない。

この大群を、二人で抑えなければならないのだ。気合を入れ直して、それぞれ武装を構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「甲龍、シュヴァルツェア・レーゲン、敵防衛兵器と接触。戦闘に入りました」

「二機には、そのまま敵兵器を迎撃し、施設への攻撃を継続させろ。索敵を密に。こちらに近づく敵影を一つも見逃すな」

「了解」

艦橋にて指示を出す連音。その横には千冬とフィリーの姿もある。

「………」

「どうしたの、顔が怖いわよ?」

「そうか?」

千冬は真正面――戦闘宙域を見たまま返した。フィリーは呆れ気味に首を振った。

「既に賽は投げられた。どんな目が出るかは……人事を尽くして天命を待つのみでしょ?」

「……一つ言っておくぞ、ミヤムラ?」

「何よ?」

「色々、混ざり過ぎだ」

「そう?」

「それに、まだ……人事を尽くしてはいない」

戦端は、まだ開かれたばかりである。同時進行中の作戦もまた然り。

千冬はただ、戦局を見据える。

 

 

 

 

 

 

 

 

轟々と鳴り続ける残響。海上で燃えるそれらが黒煙を上げて、大気を薄黒く染める。

「ラウラ、まだ行ける?」

「あぁ。問題はない……今のところはな」

鈴とラウラは背中合わせになって、自分達を囲む者達を見据えた。

あれからかなりの数を叩いたが、未だに数の優位は大きく、二機のエネルギーも三分の一程が減っていた。

エネルギーはまだしも、ラウラの弾薬がかなり消耗している。

「ったく、弱いくせに数ばっかり揃って……幾らこれが役割でも、うざったいわね!」

「そうだな。だが、数は最も単純にして、最も有効な戦力比だ。油断は出来んぞ?」

「しないわよ……する訳無いじゃない。あたしはマジでキレてるんだから……っ!」

ガチャリ。双天牙月を握る手に力が篭る。

「あぁ、そうだな。私も……全てを灰燼に帰してやりたい衝動を抑えるので精一杯だ……!」

ギリッ。と、ラウラの奥歯が鳴る。

「巣穴をつついて、本命が出るのを待つ……本気で暴れるのはその後だ」

「オーケー。それまでじっくり……破壊衝動を溜めさせてもらうわ!」

周囲から一斉に、深紅の光線が飛ぶ。二人は互いを弾くようにして一気に離れる。標的を失った光線がぶつかり合って弾け飛んだ。

「「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」」

二人の咆哮と共に、空に爆炎の連華が咲き誇った。

「邪魔よ!」

鈴が身を翻すと共に、双天牙月を振り抜いて、三機を粉砕。爆炎を後に残して、更に加速する。

「墜ちろ!!」

負けじとラウラも、ワイヤーブレードで敵機を絡め取り、それを振り回していく。

「ラウラ、後ろ!」

シュヴァルツェア・レーゲンの背後から迫る一機。鈴の声にラウラは振り返りながら――。

「甘い!」

その手に展開した〈双銃〉で、敵を微塵に打ち砕いていた。

「シュヴァルツェア・レーゲンの新武装〈ランツェ・カノーネ〉。抜かせたからには覚悟してもらうぞ!」

黒き風が舞い踊り、二丁から繰り出される弾幕が空に煉華を咲かせる。

「あんた……そっか、もう帰ってこれないのね」

よく見れば、銃と一緒に展開されたのか。左肩に真円状の盾(サークル・シールド)にマントまで付いているではないか。

ゼンガー・◯ンボルトと思いきや、今度は相方の美食家にも行ってしまったかと、鈴は心の中で涙した。

そんな事を思いつつ、鈴も次々に敵機を撃墜していく。

「ッ――! 鈴、あれを見ろ!」

フォー・リーフスの中心の建造物から、何かが迫り出てきた。そこには標的である〈デモニア〉が、ロケットを装備した状態でいた。

「行くぞ、鈴!」

「おう!」

二機は〈デモニア〉迎撃に向かおうとするが、その行く手を阻むように、アンズーが襲いかかる。

「こいつら!」

敵の行動が迎撃から抑止に移った事で、戦局は次のステージへと移った。

「それならば――頼むぞ、シャルロット!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲武甲板。射出用レールにロックされた機体がせり上がってくる。

油と焦げる臭いを含んだ海風に髪をなびかせて、その瞳が真っ直ぐに敵地を見据える。

『了解。シャルロット・デュノア……ラファール・ドラグーン、行きます!!』

 

電磁レールから射出される機体。シャルロット・デュノアが戦場に出る。

 

 

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