閃光が海を撃ち抜き、白波が蒸発する。
「まずいぞ、何機かが船の方に!!」
「んなこと言ってもこっちだって、一杯一杯だっての!」
ラウラと鈴は、次々に来るアンズーを撃墜し続けていた。既に半数は落とせただろうか。
しかし、たった二機で空域全部を抑えることは出来ない。幾らかの敵機は船の方に向かってしまった。
甲武は回頭し、砲撃が始まる。空に爆煙が開き、それを貫いてビームが船を襲った。
だが、それらはすぐに撃墜されていく。千冬とフィリー、そして簪が出撃したからだ。
向こうは心配いらないと、鈴達は改めて、敵機との戦闘に入った。
「くそっ! うざったいヤツらね……ラウラ!?」
鈴が叫ぶ。ラウラの後方から敵機が迫っていたのだ。援護しようにも、龍咆のバレル展開にはタイムラグがある。どうしても間に合わない。
「ふっ……私を舐めるなよ、鳥ども!」
ラウラはマントの端を掴むと、それで全身を巻くように身を隠す。
「バスタァアアアアアアアア、シィイイイイイイルドッ!!」
「ちょ!?」
ビームの雨がマントに触れると、直後に拡散。周りに弾かれて消えていく。
「フッ、伊達や酔狂で私がマントを着けていると思ったか?」
「(違ったんだ……) で、何なのよ、そのマントは?」
「このマントには試作型アンチ・ビーム・コーティングが施されているのだ。どうだ見たか、ドイツの科学力は世界一!!」
「じゃあ、さっきの叫びは何よ?」
「うむ! クラリッサに『これを使う時は、こう叫ぶのがお約束です』と教えてもらったのだ!」
「あんた、絶対に騙されてるわよ!?」
そうこうしている間にも、ラウラに迫る敵機。だが、ラウラは臆することなく、逆に向かっていく。
「ハァアアアアッ!」
マントを翻して繰り出された一撃がアンズーを貫き、そのまま力尽くで両断せしめる。
爆砕するアンズー。ラウラの手には、一振りの剣が握られていた。
「新武装〈
「あんた……一体何なのよ!?」
鈴はつい叫んだ。そして、それを待っていたかのように、ラウラがニヤリと笑った。鈴は要らんフラグを立てたような嫌な予感がした。
「ならば聞けぃ! 我が名はラウラ・ボーデヴィッヒ! 魔を断つ剣なり! 我が剣を恐れぬならばかかってこい!!」
ババーン! とでも効果音が付きそうな程に、盛大な見栄を切るラウラ。
でも、無人機にそんなの通じはしないので、攻撃が盛大に襲いかかってきた。
「フッ。臆することなく来るか! ならば最早、問答無用!!」
「最初から問答無用でしょうが!!」
龍咆で敵を薙ぎ払いながら、鈴がこれでもかとツッコんだ。
「……ねぇ。あれって、あんたの弟子なんでしょ?」
「また、ハルフォーフか。おかしな事を教えるなと、一度言ってやらなければならんか……」
「ちょっと、こっち見なさいよ」
フィリーと千冬は、ラウラの大見栄に何とも微妙な顔をしていた。それでも一切隙を見せず、アンズーを撃破し続けている辺り、流石と言う他無い。
敵の一陣を撃破し、しかしすぐに第二陣が迫ってくる。
「おっと、この距離は……お嬢ちゃん、出番よ!」
「は、はいっ!」
フィリーが簪を呼ぶと、彼女はビクッと肩を竦ませた。何せ、世界トップの実力者が自分と、この船を守っているのだ。下手なミスなど出来ないと、緊張してしまうのも仕方ない事である。
そんな心情を読んだか、千冬が言う。
「更識、気負わずにやれ。後の事は
ちょいちょいと、刀の切っ先でフィリーを指す。
「ちょっと。あんたはやらないの!?」
「連れてきたのはお前だ。なら、最後まで面倒を見ろ」
「そんな、捨て猫拾ってきたんじゃないんだからさぁ……まぁ、いいけど。……お嬢ちゃん! 若い内は失敗を恐れず、どんどんやりなさい! それが若さの特権よ!!」
「はっ、はい! 分かりました!!」
「うん、いい返事ね~。出来れば『そんな! フィリーさんだって全然若くて美人で私、超憧れちゃいます!』とか言って欲しかったかなぁ~?」
「え……? あ、ご、ごめんなさい……っ!」
「ふふっ、冗談よ。さぁ、ドカンとやってみなさい!」
「はい、ドカンと……行きます!」
フィリーのジョークに緊張が少しばかり解れ、簪は一気に発射ボタンを押した。
「全弾一斉発射……当たって!!」
打鉄弐式のアームドユニットが一斉に開き、そこからマイクロミサイルが連続で発射される。
破壊の矢は一直線、あるいは放物線、交差射線でアンズーを射抜くべく飛翔する。そして、獲物を捉えると同時に爆発。空に煉華が咲き誇った。
「……来るぞ」
爆煙を貫いて来るアンズー。その数を若干減らしながら、しかし、その半数以上が船に向かってきている。
「命中率54%、撃墜二割ってところかしらね? ま、未完成のISじゃあ、このぐらいよね」
「す、すみません……」
「謝らなくて良いわよ。臆せずガンガン行きなさい!」
謝る簪に、フィリーは笑って返した。
「ミヤムラ、遅れるなよ?」
ガチャリ。太刀が鈍い音を響かせる。
「冗談。誰に言ってるのよ?」
ガチャン。アサルトカノンを展開し、アサルトライフルのマガジンをリロードする。
「行くぞ!」「行くわよ!」
同時に飛び出す。先制はフィリー。ターゲットサイトに敵を捉え、迷いなくカノンのトリガーを引く。
「射撃系は相手の回避予測をしっかりとする! 同時に爆発する際の影響範囲も計算に入れて射撃すること!」
爆発するグレネード弾。その風圧に煽られる敵機に、次々とカノンを撃ち込んでいく。
「でもって、接近戦は!?」
叫ぶフィリーの脇を抜けて、千冬が突撃する。
「敵の回避を許さぬほどに速く、臆することなく踏み込む!」
一閃。斬撃が唸ると、敵機が木っ端のごとく散っていく。
千冬はそのまま、四方から放たれる閃光を、紙一重で躱し、同時に切っ先を飛燕の如く返して、全てを両断した。
囲む爆炎がその黒髪を大きく揺さぶり、黒の瞳に炎を灯した。
「射撃系だって、近接戦が出来無い訳じゃないのよ!!」
フィリーもその後を追うように突撃。ビームを躱しながら、カノンをブレッドスライサーに変更する。
突き出した切っ先が、バリアに阻まれる。
「甘い!」
が、その真下から足を振り上げ、思いっ切り蹴り飛ばす。がら空きの土手っ腹に銃口を突きつけて、トリガーを引く。フルオートで弾丸を撃ち込まれ、爆散した。
「ちょいさぁ!」
ヒュンと返した刃が、背後に回り込んでいた敵機の翼を切り裂く。バチバチとスパークして内部構造を丸見えにしたそこに、正確に弾丸をぶち込んだ。
全てはあっという間であった。簪が逃したアンズーが、ものの数秒程度で全滅してしまった。
「これが……世界最強のIS操縦者の力……!?」
簪は呆然としてしまった。今まで、姉ばかりを絶対視していたが、ことIS操縦者としてならば、この二人は遙かにその上を行く。
当然だ。この二人はどちらも、頂点に相応しい技量を備えているのだから。
つまり今、簪は世界最高の技を間近で見ている事になる。
それは操縦者候補生の誰もが、どれほどに願っても叶わない幸運であり、彼女の今後にとって、多大なプラスとなるだろう。
だが、今はそれを喜んでいる余裕など無い。再び迫ってくる敵がいるのだ。
「さっき言われたこと……敵の行動予測を再計算……これで!」
再び、マイクロミサイルの一斉発射。迎撃に数を減らされながらも、ミサイルは次々に敵を捉えていく。
が、やはり爆煙を貫きアンズーは向かってくるが、先程よりもその数は少なくなっている。
「うん。命中率66%。撃墜率は三割強ってところね。なかなかやるじゃない」
「いちいち言うな。さっさと行くぞ」
「人間、叱ってばかりだと萎縮して成長しないわよ? ちゃんと褒めてあげないと……て、あんたにゃ無理か。絶対に褒めないわよね、恥ずかしくて」
「ッ――!!」
ざくんっ!
「何か……言ったか?」
真っ二つにされたアンズーが、ヒュルヒュルと音を立てて墜ちていく。
「……うんにゃ、別に」
からかい過ぎたかと、フィリーはそれ以上の軽口を止めた。
最強の双璧は、少女達の帰る場所を守るために、その刃を唸らせる。
「教官達の方に敵が行ったせいで、こちらが若干だが手薄になってきているな」
「ていうか……反則でしょ、あれは?」
「確かにな。世界一と、それに最も近い操縦者だからな。とはいえ、こちらは現役。引退した人間におんぶに抱っこでは、話しにならんぞ?」
ラウラがブレードを振り上げ、敵機を弾き飛ばす。そこに龍咆が直撃。粉砕した。
「言うようになったじゃない。憧れの織斑先生なのに?」
「憧れだからこそ、超えたいと思うのだ……今はな!」
ラウラはニッと笑う。日本にIS学園に来て、彼女もまた大きく変わった。守りたいと、越えたいと思う者がある。
今の彼女は正しく〈ラウラ・ボーデヴィッヒ〉であった。
「そんじゃ、まずはあたしを超えてみなさいよ。どっちが多く倒せるか……勝負よ!」
「フッ……良いだろう!」
そして、鈴もまた変わった。それはきっと、自分だけが背負っていたものが、そうでなくなったからかも知れない。
少女達は舞い、そして戦う。その戦いの先にある未来を信じるからこそ、無数の敵に臆せず向かっていく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
フォー・リーフスのプラントエリア。そこではシャルロットとオータム、因縁深い二人による決闘のステージと化していた。
「はぁっ!」
「甘ぇよ!」
打ち込まれたブレードを、コア・キューブのエネルギーに守られた、アルケニーの装甲脚が防いだ。反発するエネルギーがバチバチと飛び散って、床の鉄板を叩きまくる。
「ぐぅ……っ。デモニア程じゃないけど、やり難い!」
左にショットガンを展開するが、直後に弾き飛ばされる。
「あったりまえだろ! こいつぁ、ISを殺すために作られたんだからな!」
バチィン!
アルケニーの装甲脚を一気に開き、シャルロットを吹っ飛ばす。
「ホラホラホラ! どうしたよ、〈竜の王女〉様!? 逃げてばっかじゃ、話になんねぇぞ!?」
そのまま、装甲脚八門からのビーム連続射撃。エネルギーに糸目をつけず、無差別に乱射される。
「ちっ!」
シャルロットは舌打ちしつつ、流線を描いて滑るように回避。周囲の建造物を盾にしながら距離を取る。
しかし、ビームは遮蔽物を容易く粉砕し、全く以て、その役割を果たさなかった。
「なんて威力だ! それに、こんな速度で連射できるなんて……これも、コア・キューブの能力なの!?」
エネルギー系武装の連射は実弾と違って、チャージしたエネルギーを配分して連射する事になる。
つまり、これほどの密度で連射すれば、一発の威力はどうしても下がる筈なのだ。
だが、アルケニーのビームの威力は相当なもの。これはつまり、動力源であるコア・キューブの特性という事だ。
「アーッハッハッ! 隠れても無駄だぜ!!」
「くそっ、調子に乗って……!」
遮蔽物から飛び出し、一気に駆け抜ける。シールドで防御を固めつつ、アサルトライフルを連射した。
「はっ! 甘ぇよ!」
オータムは二つの装甲脚を防御に回し、一気に突撃。装甲に火花を走らせながら、真正面から強引な突破を図る。
「おらぁっ!」
「くっ!」
一気に接近したオータムが、凶爪を振り下ろす。間一髪の所でシャルロットが躱し、それは床の鉄板を貫いて抉り裂いた。
「はぁっ!」
シャルロットは機体を翻して、ライトエッジを振るう。しかし、その切っ先は空を斬る。
オータムはまるで真後ろに倒れたような格好でそれを躱し、そのまま四脚で体を跳ね上げながら、思いっ切り蹴り上げてくる。
「っ!?」
シャルロットは振り抜いた勢いで、上体を逸らしてそれを躱す。つま先が掠めて、前髪が散った。
「はぁっ!」
寸でのところで躱されたと分かるや、オータムはグルンと独楽のように回り、装甲脚を横薙ぎにした。
――ギィイイインッ!
レフト・シェルのシールドと激突し、火花が散る。そのままオータムが四つん這いの型を取り、そこから一気に突撃してくる。
「シャァアアアアアアアッ!」
まるで獣の様な雄叫びを上げて、装甲脚が連続で繰り出される。それをギリギリで躱し、防ぎ、反撃を繰り出す。
「ハァアアアアッ!」
手数では三倍以上の差がありながらも、シャルロットはそれを防ぎ、躱し、そして一歩も退かない。
オータムの猛攻は、如何にドラグーンとはいえ捌き切れない。いずれは押し切られるだろう。
その前に、機動力を生かして間合いを離して反撃に転じるべきだ。
だが、シャルロットの中の何かがそれを拒絶する。
『いい? 戦いにはリズムがあるの』
『リズム……自分や相手の攻撃の流れの事ですか?』
『違うわよ。もっと大局的なものよ。闘争とはある種の巨大な生き物。故に、そのリズムも一定ではないのよ。
戦いとは実力だけでは決まらない。強い方が勝つんじゃない。そのリズムを、如何にして自分に引き寄せるか……それが出来た方が勝つのよ』
『でも、そんなのどうやって判断すれば?』
『そうねぇ。あたしなんかは”ここで退いたらダメだ!”って、本能的に感じるんだけど……こればかりは経験かしらね? あと、そういうところを頭の隅っこで意識しておくと良いかも知れないわね』
シャルロットは、かつてフィリーから習った言葉を思い出した。
(戦いの勝敗を決める流れ……ここで退いたらダメだ!)
それが本当にそうなのかは分からない。下手をすれば、大ダメージを受けるかも知れない。
だけど、それでも、ここを退けば流れは取り戻せないと、本能が訴えている。
「ダァアアアアアッ!」
―― レッグ・ゲイル パワードライブ ――
装甲をエネルギーが包み込み、真正面から蹴り抜く。
「はっ、当たるかよ!」
その蹴りを躱し、オータムが反撃を打とうとする。が、その動きが止まる。
「やぁあああああっ!」
シャルロットは、振り抜いた足をそのまま振り下ろした。オータムが身を引いた瞬間、床をへしゃげさせ、めり込む。
「こっの……ガキがぁ!」
「まだまだぁ!」
繰り出されるアルケニーの装甲脚。めり込んだ足を軸にして、その一撃を躱し、逆に回し蹴りを返す。
重厚な音が響き渡り、オータムの表情が歪む。装甲脚二本がバチバチと火花を散らせていた。
「調子に……!」
「だぁああああ――」
―― ライト・エッジ ナックルモード ――
「ガフッ!?」
ねじ込むように繰り出された鉄拳が、オータムの腹部を捉える。
「――ぁあああああああああああッ!」
「ぐあああああああっ!?」
そのまま力尽くで振り抜くと、オータムの体が弾け飛ぶ。が、すぐさま床に装甲脚を突き立てた。火花を上げて抉り切られる床の鉄板が、その抵抗に真っ赤に染まる。
「ドラゴン・ホーンッ!」
―― レフト・シェル バンカーモード ――
ここが攻める場と、シャルロットは防御を完全に捨てて、一気に決着を付けるべく最強のカードを切った。
背のリンドブルムが力強く輝き、竜の角に究極無比なる力を与える。
スラスターウイングを開き、未だ体勢を整えていないオータムに突撃を仕掛ける。
「これで終わり――っ!?」
その時、世界が崩れるとさえ錯覚する程の轟音と衝撃が襲い、シャルロットは足を止めた。
そして反射的にその方を向けば、そこには天へと昇る巨大な白い塔が生まれていた。
「あれは……まさか!?」
発射の阻止、失敗。デモニアは宇宙へと向かってしまった。
事態そのものは当然、作戦の範疇だ。だが、それでも春斗の体を取り戻せる可能性が大きく下がったという事実に、シャルロットは一瞬とは言え、完全に戦いの思考を切ってしまった。
「しゃぁあああああああっ!」
その雄叫びに、ハッとした瞬間には既に遅かった。
深紅の閃光が走る。そして、無防備を晒していた竜を幾重にも切り刻んだ。
それだけに飽きたらず、それは施設を切り裂きまくる。
「ぐぁああああああっ!?」
「あはははは! どうだ、福音の武装をモデルにした、スラッシュ・フラッドの威力は!!」
高密度圧縮されたエネルギーによる、必殺の斬撃光線。ラファール・ドラグーンといえども直撃を食らっては只では済まない。絶対防御が発動し、エネルギーがゴッソリと失われる。
そして、スラスターウイングとドラゴン・ホーン、装甲数カ所が斬り裂かれ、無残にも床に落ちていた。
「ぐっ……!」
(僕は馬鹿だ! こうなる展開だって分かっていたのに……なのに!)
すぐに機体チェックを行う。センサーが機体ダメージを表示する。
〈レフト・シェル中破 バンカーモード使用不能 レイモード及びシールドモード、破損により出力低下〉
〈スラスターウイング損傷軽微 ただしバランス調整により、66%まで出力低下〉
〈ドラゴン・スケイル小破 戦闘続行に支障無し〉
自分の愚かさをシャルロットは呪う。自分が馬鹿なせいで、ドラグーンを無駄に傷つけてしまった。
出来るなら、今すぐにでも自分を殴り飛ばしてやりたいところだ。だが、まだ自分にはやるべき事がある。
(まだ、ドラグーンは戦える……武器だってまだ充分。まだ行ける!)
シャルロットは最も使いでが良い、アサルトライフルとマシンガンをコールした。
「くくっ……いいねぇ、その目。絶対に諦めないって目だ。んじゃ、そろそろとっておきを見せてやろうかねぇ?」
オータムは装甲脚を背中に畳むと、ダラリと両手を下げた。何を仕掛ける気かと、シャルロットは何時でも動けるように構える。
「引き裂け、アルケニーッ!」
オータムが叫ぶと、アルケニーから深紅の光が放出される。
『Divide Effect――Drive』
「っ――!?」
ドクン。と、心臓が跳ねるような感覚。そして、ドラグーンが力を失い、ガクリと膝を着く。
「これは……まさか!?」
「はっ。こいつぁ、I・S・Eだぜ? 当然、〈コア・ディバイド〉だって使えるに決まってるだろ? 尤も、オリジナルドライバーとかいうガキじゃなけりゃ、あんな広範囲は無理だが、テメェ一人ぐらい……余裕だぜ?」
「ぐぐっ……!」
歯を食い縛り、機体を持ち上げる。機体が警報《イエローアラート》をやかましく鳴らし続ける。
(機体出力53%までダウン。パワーフローも稼働レベルぎりぎり……コアの稼働率は半分以下!?)
せめてリンドブルムはと何度か試すが、どうしても出力が上がらない。
エネルギー発生システムがコアと繋がっているせいで、こちらも機能不全を起こしているようだ。
冗談ではない。ただでさえ敵は凶悪で強力なのだ。半減された能力では逆立ちしても勝ち目がないではないか。
狼狽するシャルロット向かって、オータムが悠然と近づいてくる。ゆっくりと装甲脚を開き、これでもかという程の悪意に濡れた笑みを浮かべる。
「ククク……さっき迄の威勢の良い目は何処に行ったよ?」
「ガハッ!?」
容赦無く、装甲脚をシャルロットの腹に突き立てる。抉り込まれる足がその体を持ち上げ、別の足がその体を叩き飛ばした。
ドガシャアアアアアン!
残骸と化した施設の一つに叩きつけられたドラグーン。しばしの間をおいて、その中から這いずるようにシャルロットが出てくる。
だが、その足はふらつき、額からは血が流れている。
(あ、危なかった……機体が少しだけ戻ってくれなきゃ、今のでやられてた……!)
「アーハハハハハ! どうしたどうした!? ぼさっと突っ立てても勝てやしねぇぜ!?」
オータムは高笑いと共に、シャルロットに襲いかかる。
「ぅう……ぁああ……あああああああっ!」
血の混じった息を吐き出し、シャルロットが吼える。銃口をオータムに向けて、トリガーを引く。
「当たらねぇよ!」
それをあっさりと防ぎ、装甲脚で銃を叩き落した。
ゴッ!
ガキッ!
グシャッ!!
バキャッ!
防御も間に合わない、一方的な蹂躙。核となる春斗がいないせいで〈コア・ディバイド〉の効果は一時的なもののようで、段々と出力が戻ってきている。
だが、その間に受けるダメージが、シャルロットを追い詰める。
(ダメだ……このままコアの出力が戻っても……もう一度喰らうだけだ……勝てない……!)
ガクリと、膝が崩れる。そこに止めと突き刺さる一撃。
「じゃあな、お嬢ちゃん」
ドウッ! 先端から放たれた閃光はシャルロットを吹き飛ばした。
ザァザァと
全身に何かが当たる感じがするが、痛みは感じない。
ぼんやりとする視界は何度も回転し、激しく揺れる。
あぁ、これは自分が転がっているのか。と、遠い世界の出来事のようにシャルロットは思った。
「………………」
一瞬、空が映る。そして、消えていく白雲の塔。何か、大切な何かがあったような。
「っ―――!!」
それは無意識だった。気付いた時には、シャルロットは四肢に力を篭めて、ガリガリと床を削っていた。
四つん這いの格好で、ひたすらに勢いを殺し続ける。数十メートルと滑り続けてようやく止まると、シャルロットは荒れる息をそのままに、立ち上がった。
「っ……はぁ……はぁ……はぁ………!」
「あ~あ。よくもまぁ、そんなになって頑張れるもんだなぁ。その無駄な諦めの悪さだけは認めてやるよ」
そう言うと、オータムは装甲脚を畳んだ。もう一度、コア・ディバイドを仕掛けるつもりだ。
「だけど、これで終わりだ……死ね、シャルロット・デュノア!」
「っ……!」
深紅の光が放たれ、ドラグーンが再び力を失う。ガシャンと崩れ落ちる体。まるで全身を太い鎖で雁字搦めにされたように、自由が効かない。
オータムは装甲脚を開き、エネルギーをその先端に集中させていく。スラッシュ・フラッドを再度仕掛けるつもりだ。
万全に近い状態でもあれだけのダメージを受けたのだ。今の状態で喰らったら、一撃で殺される。
「ドラ……グーン……っ!」
名を呼ぶ。其の名は無敵。其の名は最強。その力は無双だと。
偽りの力に酔いしれる悪鬼に、絶対に負けられない。
「ドラグーン……っ!」
引きちぎれ、恐怖という名の鎖を。竜を縛る物など存在しない。恐れるものなど何もない。
死ぬことの恐怖など、些細なものだ。大事なものを失う、愛するものを失うそれに比べれば何だというのだ。
「だから、負けないで……ラファール・ドラグーンッ!!」
その時、シャルロットの耳に竜の咆哮が轟いた気がした。
「うぁああああああああああああああああああっ!!」
リンドブルムが今までにない程、鮮烈に輝く。それはシャルロットの全身を包み込んで、暁の如く眩い。
〈コア稼働率200% 全システムオーバードライブ 残り120秒〉
「ばかな……なんで動ける!?」
コアの機能を半減させられて、その筈なのに、まるで何事もないかのように――いや、今迄にない程に凄まじいエネルギーを発している。こんな事はあり得ない。と、オータムが戦慄する。
「お前なんかには、絶対に分からないよ!!」
シャルロットはキッとオータムを睨む。怒りに燃える瞳に、オータムがたじろいだ。
「っ……糞が! これで死ねやぁああああああああっ!」
放たれる斬撃。それは一点集中でシャルロットを貫かんと迫る。
「ライト・エッジ!」
シャルロットは、ブレードにエネルギーを集中させて迎え撃つ。朱と紅がぶつかり合い、嵐を巻き起こす。
「ぐぐぐ……っ! いい加減、潰れろやぁ……っ!」
「こんなもので……こんな暴力で……僕とドラグーンが倒せると思うなぁああああああああああああああっ!!」
バチィイイイイイインッ!!
決着は付いた。悪意に満ちた深紅の光は竜の刃に砕かれ、そして消えていく。日輪を背負った少女は、その左腕にシールドを展開して、一気に飛翔した。
バァン! と弾けて、そこに現れたのは第二世代最強の威力を誇る武装。
「ぶち抜くっ!」
「がはぁああああっ!?」
叩き込まれる一撃。吹き飛ぶオータムよりも速く、シャルロットはバンカーごとアルケニーを貯水タンクに叩きつける。
「全弾、持っていけぇえええええっ!!」
そこから更に、シリンダーが回り、その度に衝撃が走り抜ける。
「ガハッ! ぐはっ! げほっ!?」
ガクンガクンと揺れる度、オータムの口から苦悶の息が溢れる。そして同時に、その体がタンクにめり込み、罅が走ったと思うや、内部の水圧によって崩壊した。
勢い良く噴出した水が、二人を巻き込んで流れる。
濡れ鼠になって床に転がされたオータムが起き上がる。
「ごほッ……! くそ……あのガキ! ぜってぇに殺してやる!!」
殺意にギラついた瞳で、周囲を見回す。その視界に入ったものは誰だろうと殺す。そんな勢いでシャルロットを探し――そして見つける。
「っ……!?」
シャルロットを発見し、すぐさま襲いかかってやろうとした思考が止まる。
彼女の手に、見慣れない物が握られていたからだ。
それは槍にも似た巨剣。いや、シールドだろうか。その切っ先を向けて、シャルロットはオータムを睨みつけていた。
その背のリングが再び巨大な輝きを放った瞬間、オータムは反射的に防御を取った。装甲脚を全て使って、前面にシールドを展開する。
直後、突き刺さる刃。それはシールドと拮抗し、バチバチと音を鳴らす。
「くうっ……!」
「無駄だよ」
冷徹に宣告するシャルロット。その言葉通り、シールドに切っ先がも潜りこむと、刃が上下に割れて、防御を徐々に、そして強引に押し開いていく。
その中心には、長尺の砲身。そこに凶悪なエネルギーが収束していく。
「ドラグーンの新武装〈ファイアードレイク〉!!」
「ッ―――!?」
閃光が、オータムの視界を染める。瞬間、強風か暴風かと思うほどの圧力に抗うすべもなく、吹き飛ばされる。
「――――!!」
悲鳴さえ上げられない。全てが朱く染まり、悪鬼の鎧は砕けていく。
そして、その背のコア・キューブもまたひび割れて――砕け散った。
竜の咆火は遙か空の白雲さえも吹き飛ばし、その斜線上の施設にも容赦なく破壊の爪痕を刻みつけた。
バラバラと、灰が零れ落ちる。
シュゥウウウウウウ……。と、白煙を上げる〈ファイアードレイク〉が、ズルリと手から零れて落ちた。ガラァン、と大きな音が響き渡る。
「はぁ……はぁ……!」
ブワッと汗が吹き出し、シャルロットはたまらず、膝を着いた。
まだ、戦いは終わっていないが、今のシャルロットには援護に行く力は残されていない。
「ゴメン、皆……少しだけ、休む……ね」
機体が量子変換され、待機形態に戻る。シャルロットは仰向けに倒れ、空を見上げた。
あの瞬間、自分の負けを覚悟した瞬間、彼女を突き動かしたのはシンプルな感情だった。
春斗ともう一度、逢いたい。だから、負けられない。
「ありがとう春斗。僕、やっぱり春斗がいないとダメなんだ。だから、絶対に帰ってきて……」
蒼穹を見上げる瞳に涙が浮かび、溢れる。
戦いはまだ続く。しかし、今一時だけは、竜の王女に安息を。