フォー・リーフス居住区画。施設内で最も入り組み、遮蔽物の多い空間で、セシリアは壁を背に気配を探っていた。
(やはり、ステルスモードにしていますわね。ハイパーセンサーが頼れない状況というのは厄介ですわ)
数度の激突の後、サイレント・ゼフィルスは機体システムをステルスに切り替え、何処かに身を潜ませた。
ステルスに切り替えたのはセシリアも同じで、つまりは何方が先に敵の位置を掴むかが、これからの戦闘の鍵を握る。
セシリアは慎重に、音を立てないよう接地ギリギリの高度で移動する。
「………」
バクバクと心臓が煩い。遠くに聞こえる戦場の音。まだ、戦いは続いている。
一刻も早くサイレント・ゼフィルスを倒し、援護に向かわなければと、セシリアの心を逸らせる。
―― 上方 エネルギー接近 ――
「ッ――!?」
ハッとして見上げると、上空から弧を描いて閃光が迫る。セシリアはすぐさま加速して躱す。床を穿つ筈の閃光は、弾けて消える。
「しまった、これは――っ!」
あぶり出された。そう判断した瞬間には、すでに戦局は転がっていた。
「――出てきたな」
阻む物のない一筋の道。その果てに、射手が構えていた。遮蔽物から飛び出したセシリアに、強烈な閃光が襲いかかる。
ズドォオオオオンッ!
爆ぜるその風に煽られながらも、セシリアは何とか離脱する。ライフルを構え、反撃する。
「このっ!」
放たれる閃光。が、エムはあっさりと躱して、建造物の影へと潜り込む。
「逃がしませんわ!」
スラスター出力を上げて、加速する。角に滑りこむと同時に銃口を向ける。しかし、そこにエムの姿はない。
pipi!
センサーに反応。上方と左側面から、高エネルギー接近。
セシリアはそのまま加速する。両端を壁に挟まれたそこを一気に抜けるべく飛ぶ。
pipi!!
「っ!?」
正面にエネルギー反応。道の向こう側から曲線を描いてビームが襲いかかる。
「くっ!」
機体をロールさせて、ギリギリ躱す。ウイングが壁とぶつかって、白煙を上げた。
「ブルー・ティアーズッ!」
セシリアはビットを切り離すと、角の向こうへ飛ばしてビームを斉射する。爆発音が轟く。
「何処を狙っている?」
背後から掛けられた声。振り返ったその胸に、弾丸が突き刺さった。
「がはッ――!?」
加速の勢いと弾丸の威力に、セシリアは立て直す間もなく、壁を突き破って正面の施設内に転がっていく。
そこは薄暗く、埃っぽい部屋だった。壁際には戸棚。端の方にダンボールが数個積まれており、床には数枚の紙切れが落ちていた。ここは一応、住居スペースのようだ。
セシリアは体に付いた埃も気にする間もなく、すぐさま立ち上がった。スラスターが床の埃を巻き上げる。
「くっ――!」
破壊された壁の向こうから、閃光の雨が降り注ぐ。セシリアも反撃しつつ、右側のドアを突き破る。
その先にあったのは、この住居のキッチンスペース。シンクと備え付けの冷蔵庫とがあるが、それらを穿つ光が壁の向こうから容赦無く襲い掛かる。
「このっ!」
セシリアは片手でライフルを撃ちながら冷蔵庫を掴み、破砕された壁に向かって思いっ切り投げつけた。
ドグシャッ! と、派手な音と共に壁が壊れ、冷蔵庫が外に転がった。直後、それを粉砕する閃光。
セシリアはすぐさま窓を突き破って表に飛び出し、牽制射撃をしながら後退する。
「ふん。何処へ逃げようと同じ事だ」
セシリアの行動を鼻で笑い、エムはゆっくりと、その後を追いかけた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
フォー・リーフス内部通路。走る足音と、走るローラー音が響き渡る。
暗い通路内がストロボのように、何度も火花で照らされる。
「まったく……大歓迎過ぎるわね!」
足を止めずに背後に射撃しながら、楯無が叫ぶ。通路の向こうからは未だにクー・シーが襲いかかってくる。
「人気者は辛いですね……っと!!」
織羽がグレネードを投擲すると同時に、二人は物陰に身を隠す。グレネードが床を数度バウンドして、爆発した。
「っ……これで、少しは減ったかな?」
こそっと覗き込んでみると、途端に銃撃が襲いかかってきた。
「もうっ! これじゃ、弾が幾つあっても足りないわよ!?」
「ですね。といって、ISを展開するにはまだ早いですし……」
敵がどんな戦力を温存しているか不明な以上、IS展開は最後の手段だ。
「仕方ないですね。あたしが切り込みますから、会長は援護をお願いします」
「大丈夫?」
案ずる楯無に対して、織羽は銃をホルスターに収め、そしてニッと笑った。
「知っているでしょう? ”竜魔に敵うものなし”って」
織羽はそう言い残し、腰に指していた短刀を抜いた。弾雨の切れ間を狙って、一気に飛び出す。
「ふっ!」
再びの砲火。織羽は高々と跳躍してそれを躱すと、天井を蹴って加速。身をひねり込んで、クー・シーに強烈な蹴りを叩きこむ。
そのまま着地すると、剣尖が一回転。クー・シーの関節部を両断する。
周囲の機体が織羽に銃口を集中させる。マズルフラッシュと共に放たれる弾丸。が、織羽は踏み込みでそれを躱し、斬りつけて行く。
「遅い遅い!」
地を蹴って飛び上がると、片手で棒某手裏剣を打ち、纏めて四機のセンサーアイを破壊する。
一回転して着地すると、振り返るクー・シーの銃身を切断。
「っ……!」
織羽を包囲せんと動く機械の犬。四脚から鋭いブレードが飛び出し、織羽を切り裂かんと襲いかかる。
「ふっ! はっ! っと!」
軽業師のように何度もバク転をし、番犬の牙を躱す織羽。その背後にも、別の機体が迫る。
「織羽ちゃん!」
楯無が援護射撃でブレードを砕き飛ばす。生まれた隙を突いて、織羽は回避から一転。速い踏み込みから斬鉄一閃。クー・シーを真っ二つに切り裂いた。
「「っ――!!」」
その時、施設全体を揺るがす振動が走った。
「これって――!」
「阻止失敗……ね。織羽ちゃん、コードB!」
「了解!」
短刀をヒュンと返し、構える。
「
「来て、舞影!!」
爆ぜる光。最強の鎧が現出し、その身を包み込む。
「ここからは遠慮なしで、一気に行くわよ!」
「速攻で片付ける!!」
水の槍と鋼の刃が、力強く煌めいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「くっ……! 一夏さん達は間に合いませんでしたの……!?」
見上げるセシリアの瞳に、空に昇っていくデモニア。そして、それを追って飛んで行く白式が映る。
「一夏さん。やはり、追いかけていかれますのね――っ!?」
入り組んだ路地の中、閃光が襲いくる。
上からを躱せば左右の角から。それを躱せば、背後と正面から。
射撃は基本、直線でしか無い。その欠点を、武装交換無しで自由自在の攻撃を可能とし、そのバリエーションも変幻自在にするのが偏向射撃だ。
この入り組んだ地形は、正しくサイレント・ゼフィルスのステージである。偏向射撃を使えないセシリアには、まともに戦う手段もない。
ならば高度を取れば良いのだが、向こうがこの地形に潜り込んでしまえば同じ事。こちらには手出しできなくなる。
「もう少し……もう少しで」
セシリアも無駄に飛んでいる訳ではない。フォー・リーフスの敷地内を出て海に飛び出せば、そこに遮るものはない。
「……見えましたわ!」
居住施設の終わり――この入り組んだ地形の終点。しかし、そこは恐らく向こうも分かっている筈。セシリアはダメージを覚悟して、スラスターを全開で突撃した。
「―――っ!?」
しかし、予想と半してサイレント・ゼフィルスからの攻撃はなく、あっさりと抜けてしまった。
一体なぜ、サイレント・ゼフィルスは攻撃を仕掛けて来なかったのかと、セシリアはチラリと振り返る。
果たして、そこには悠々とセシリアを追いかけて飛ぶエムの姿があった。
「どうした? 何もない海上に出たかったのだろう? 遠慮せず、好きな場所へ行くが良い」
「舐めてくれますわね……サイレント・ゼフィルス!!」
怒りと共にライフルを向け、閃光を撃ち放つ。
「ふん。実力の差というものを見せてやる」
舞台を海上へと移したところで、施設から上空に向かって凄まじいエネルギーが撃ち放たれる。
それは遙か上空の雲さえを消し飛ばし、消失した。
「今のエネルギーは……シャルロットさんのドラグーンですの?」
「チッ……オータムめ。I・S・Eを使っておきながら負けたのか?」
「シャルロットさんが勝った……なら、私も遅れを取る訳には行きませんわ!」
セシリアがビットを切り離し、多方向からビームを斉射。サイレント・ゼフィルスを狙い撃つ。
「調子づくな、雑魚め」
「っ――!?」
エムはそれを難なく躱すと、そのままビットを切り離して突撃。セシリアに向かって、呼び出したナイフを繰り出す。
ギィン――ッ!
間一髪、ライフルをたてにして防御するセシリア。だが、攻撃を防がれたエムは愉快そうに口元を歪ませる。
「良いのか? ビットを壊されるぞ?」
「っ!!」
サイレント・ゼフィルスのビットが、ブルー・ティアーズのビットに迫っている。
「くう……っ!」
放たれる閃光。紙一重でコントロールし、それを躱させる。が、ビームはそのまま弧を描いてセシリアに迫る。
「きゃああああああっ!」
突き刺さる光矢。突き抜ける衝撃が全身を食い散らす。
悲鳴を上げるセシリアに、スターブレイカー下部にナイフを取り付けた銃剣を突き出す。
槍の如く鋭い一撃を喰らわせ、更に実弾とビームの同時発射を浴びせる。
「あぁああああああああっ!」
吹き飛ばされたセシリアは、落ちながらも、反撃のトリガーを引く。しかし、エムの展開したシールドビットによってあっさりと弾かれてしまう。
「ッ……」
ギリ、と自身の不甲斐なさに歯ぎしりしつつ、ビットを回収したセシリアは反転して海面ギリギリを飛翔した。
背後から追撃を掛けるサイレント・ゼフィルスの攻撃が襲いかかるが、ビットのエネルギーを高機動システムに向けたブルー・ティアーズの回避力はそれを上回る。
元々、ISの最高速度そのものは、
速度域上昇を行なっても、機動力を損なわせない。故に〈高機動パッケージ〉なのだ。
さしものサイレント・ゼフィルスも、この機動力という点では一歩劣り、それをエムの能力だけで補うのも限界がある。
だが、それはセシリアの攻撃力を奪う結果でもある。エムは射撃の手を緩めず、彼女の反撃の瞬間を待った。
海面をスラスターと風圧で乱しながら、高速で二機のISが駆け抜ける。
「どうした、ブルー・ティアーズ。BT一号機の性能はその程度か?」
「クッ……!」
セシリアを攻撃に転じさせようと、エムは出来る限りシンプルに、かつどこまでも嘲り笑って発する。
その間にも、エムの攻撃はセシリアを追い詰める。
(まさか、ここまで技量に差があるだなんて……! このままではジリ貧、何としても反撃の糸口を掴まなければ!)
セシリアは、現状を出来うる限り客観的に整理する。
束の改造を受けたストライク・ガンナーを装備し、BTライフルもより威力のある〈ブルー・ピアス〉。
総合的戦闘力は、
そして、ここは遮るものの無い海上。不利は不利でも、こちらの攻撃を遮るものはない。
だというのに、セシリアの攻撃は全て届かず、逆にエムの攻撃はセシリアを捉える。
(やはり要はこの機動力ですわ。これだけが唯一、向こうを上回る……ならば!)
「まだまだ……っ!」
セシリアは海面を蹴るようにして一気に上昇。インメルマンターンで切って返す。
対するサイレント・ゼフィルスは、そのままセシリアの下を抜けて、海面を滑るようにしながら向きを返す。
交差する二機はライフルを構え、互いのスコープに敵(ターゲット)を映し合った。
「「ッ――!」」
同時に引かれるトリガー。閃光が銃口から撃ち放たれる。
バシュウウウウウッ!!
BTエネルギーが相互干渉によって弾け飛び、その余波が爆風となって吹き荒れる。
(相殺された!? ならば、もう一度……!)
何とか持ちこたえながら、セシリアは再度ライフルを構えた。スラスターを噴かせ、もう一度高機動で振り回そうとする。
―― 敵ISより攻撃 ――
「なっ――グハッ!?」
だが、それよりも早く、セシリアの鳩尾をハンマーでぶん殴られたかのような衝撃が貫いた。サイレント・ゼフィルスのハイブリッドライフルによる、実弾射撃が直撃したのだ。
絶対防御が発動して防ぐも、それでも肉体にダメージが届く。
エムが更にトリガーを引く。実弾を発射すると、すぐさまビームを発射する。
「ちぃっ……!」
セシリアは胸の痛みに顔を歪めながらも、スラスターを噴かせて回避機動を取った。
その真下を、弾丸とビームが抜けていく。
「ブルー・ティアーズ!!」
二機のビットを切り離し、多角射撃で強引に流れを押し戻そうとするセシリア。
だが――エムはニヤリと哂っている。その表情にハッとするセシリアだったが、既に遅かった。
セシリアがビットを切り離すよりも早く、エムのビットは彼女の回避方向に既に回り込んでいたのだ。
セシリアはビットからの射撃で、せめて相討ちを狙うも、シールドビット〈エネルギー・アンブレラ〉によって、あっさりと防がれてしまう。
「墜ちろ」
上空に浮かぶ、セシリアに絶望を刻むモノ。それらが一斉に輝いた。
「っ……!」
陽光を超える輝きが、洋上を照らした。
「きゃああああああっ!」
弾き飛ばされる蒼い機体。海に向かって真っ逆さまに墜ちていく。一発はライフルを盾に防ぐが、銃身がへし折れてしまう。
「止めだ」
エムはスターブレイカーの銃口にグレネード弾を取り付け、墜落していくブルー・ティアーズに向かって発射した。
ドォオオオオオオオオオオン……ッ!!
燃え盛る爆炎と、吹き抜ける爆風。鼓膜を叩く轟音と共に咲いた紅蓮の華が、蒼を覆いつくした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
勝てないどころか、一矢を報いる事さえ出来ないなんて……何て不甲斐ない。
朦朧とする意識、不思議な浮遊感の中で、セシリアは悔しさに歯ぎしりする。
ずっと続けてきた訓練も、その身の矜持も、全てが水泡と帰していく。
その果ては虚無。何も成せない者の末路。
悔しい。両親の仇を討つことも、大切なものも守れないで、ただ敗れ去る自分が。
だが、今はもう墜ちるしか無い。抗う術は残されていないのだ。
「―――ッ!?」
何かがおかしい。そう感じたセシリアがハッとして目を見開く。
セシリアは奇妙な世界にいた。上には雲一つ無い空。そして下には其れをそのまま映したかのような海。
いや、逆か。自分は逆さで、下が空か。そもそも、自分は何処にいるのだ。浮いているのか。それとも海面に立っているのか。
上下の感覚も瞬時に理解出来ない程、何もない蒼。それが境界線の果てから広がり、世界を構成していた。
さっきまでサイレント・ゼフィルスと戦っていた筈なのに、いきなり見知らぬ場所に居る。
よくよく見れば、ISどころかスーツさえ着ていない。完全に裸の状態だ。しかし、不思議と恥ずかしいという気持ちは起きない。それはこの場所が余りにも現実離れしていたからだろうか。
「ここは……何処ですの?」
ポツリと呟いた声は波紋として広がり、世界を揺らす。遠く境界の狭間まで届くと、それは背後から返ってきた。
「っ!?」
ビクッとして振り返る。今、聞こえたのは自分の声だった。既に波紋は静まり、世界はまた沈黙する。
『―――』
「え……?」
突然、セシリアの耳に聞こえた声。何処からかと見回す彼女の視界の中心で、それは起こった。
境界線――天地を隔てるそれが大きく揺らぐ。世界が隆起して、上に、または下にではない。セシリアに向かって、それは爆ぜた。
「あ……ぁぁ……っ!!」
セシリアは驚愕に目を見開き、そして声を失った。
現れたのは――巨大な鯨であった。天も海も覆い隠すほどに巨大で、その身は青にして蒼、碧であり藍であった。
この世のあらゆる”アオ”を束ね、そして昇華する――”アオ”の王。
それは雄大に、そして壮大に、ゆっくりとセシリアの上を通過していく。
降り注ぐ雫。それはまるで雨のように世界を波紋で満たし、セシリアは本能で感じ取る。
これは――ブルー・ティアーズなのだと。
「ブルー・ティアーズッ!!」
セシリアは叫んでいた。
「お願い! 私に力を! 力を貸してくださいませ!!」
必死に、ただ愚直に。
「私は負ける訳にはいかないのです! この戦いだけは……絶対に!!」
力が欲しい。大事なものを守るために。運命に抗うために。
鯨の瞳が僅かに、セシリアを見る。
「…………えぇ。その通りですわ。私は弱い。それでも、勝たなければなりません! この先、例え百度の敗北に塗れようとも……この瞬間、たった一度の勝利を!」
鯨の瞳は、尚もセシリアを映す。
「〈セシリア・オルコット〉がどれ程の汚泥に塗れようとも、〈私〉は絶対に折れない!! それが……私の誇りだから!!」
ただ一人の人間として、自分だけの誇りを示す。飾る言葉など要らない。ただ、あるがままを示す。
それが――アオの王に対する、絶対の礼。
『――――――!!』
アオの王はその口を大きく開き、高らかに謳った。響き渡るその声は、世界を揺るがし、そして混ぜていく。
それはまるで、ノアの方舟における大洪水のように、世界を呑み込んでいく。セシリアもまたそれに巻き込まれ、抗うことさえ許さない力の奔流に流されていく。
しかし、不思議と息は苦しくない。それどころか、全身に力が溢れていくようだ。
―― あなたの誇り、確かに聞いたわ ――
目の前には、蒼のドレスを纏った、空色の髪の女性。海の如く青い瞳をセシリアに向けて、微笑んでいる。
―― やはり、あなただったんですのね? ――
―― ふふっ。世話の焼ける人間をパートナーに持つと、色々と気苦労が多いのよ? ――
―― それは失礼しましたわ ――
―― 謝罪など必要ないわ。私達は、人と共にあって、初めて十全の力を発揮するのだから ――
―― なら……? ――
―― えぇ。その決意に敬意を表し、新たなる力を示しましょう! ――
蒼の女王は、その手を振り上げる。濁流は渦を巻いて、遙か天空の彼方へと伸びていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ッ……?」
爆煙を貫いて、閃光が走る。だがそれは、エムの横を抜けて明後日の方へと飛んで行く。
エムは呆れ気味に、冷たく嗤う。
「ふん。最後の意地も大外れ―――ッ!?」
だが、その表情が一変する。背後から来た攻撃に、とっさに反応して躱す。
閃光が二つ、エムのいた場所を通過した。
「これは……まさか!?」
更に二つ、背後から。正面に抜けたビームも再び曲がって襲いくる。エムは苦々しく舌打ちし、シールドビットを展開して防御。セシリアのビームが弾けて消える。
「くそ……舐めた真似をする」
エムは防御を解き、黒煙の向こうを冷徹に睨みつける。
「
煙が風に流れて消えていく。そしてその向こうで、光を遊ばせるセシリアの姿があった。
BTエネルギーを指先に纏わせ、輝線を描いて弾くと、「パァンッ」と、粒となって弾けた。
「とりあえず、これで同じ
「土壇場で
得意げなセシリアに、エムはバイザー越しに見下す視線を向ける。
つまり、出来るようになった程度でどうにか出来るレベルではないのだ。
だから―――
「――フフッ」
セシリアは笑った。
「……何が可笑しい?」
「いいえ。ただ、あなたの言う通りだと思いまして」
頬の煤を拭いながら、セシリアは可笑しそうに口元を歪める。勝てないことを認めながら、しかしその顔には一切の諦めはない。
その意図を読み取れず、エムは眉を潜めた。
「今のままで勝てない………ならば、こちらはもう一つ、ステージを上げさせてもらいますわ!」
声高らかに宣言するセシリア。瞬間、ブルー・ティアーズのボディーにバチバチッ! と、スパークが走った。
「何――っ!?」
ゴアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
直後、凄まじいブルーのフラッシュとエネルギーの嵐が、ブルー・ティアーズを中心にして吹き荒れる。
それはまるで――蒼い太陽だった。
「これはまさか……このタイミングでだと!?」
さしものエムも、この事態に動揺する。センサーがブルー・ティアーズから発生する強大なエネルギーに、警報をけたたましく鳴らし続ける。
時間にして数十秒か。光とエネルギーの嵐が過ぎ去った後、そこには一つの形が残されていた。
戦いによって薄汚れていた青は美しさを取り戻し、姿を変えたアーマーは更なる力を秘める。
何より変わったのは、その背にある物。
両肩の向こうに覗くのは二本の白い砲身。そして巨大になったユニットと一体化したビット。
スカートアーマーには新たに発現した武装を装備する。
これこそ、新しい蒼雫の射手の姿。
「ここからは、ブルー・ティアーズ
セシリアは宣戦布告する。蒼き王の初陣を。そして、限界を超えし蒼穹。その翼が今、羽撃く。