「ここからは、ブルー・ティアーズ
「セカンドシフトした程度で、調子にのるな……!」
二機のISは同時に天高く舞い上がり、サイレント・ゼフィルスのスターブレイカーが、先制の閃光を撃ち放つ。
「まずは小手調べですわ!」
―― スターロード ウイングユニット展開。BTブースター起動 ――
二次移行(セカンドシフト)したことで発現したBTガジェット〈スターロード〉のウイングが大きく展開し、二機の大型ブースターが強く輝く。
グン――ッ!!
瞬間、蒼の光子を残してブルー・ティアーズが消える。エムのビームは大きく外れ、その残滓だけを穿った。
「速い――!?」
セシリアは一瞬で百メートル以上の距離を移動していた。先程以上の速度にエムは目を見張る。
「くぅ……っ、なんて加速ですの……!? これはまた、とんでもないじゃじゃ馬ですわね……!」
BTブースターの出力を抑え、どうにか速度を落とす。元々が、高機動パッケージをインストールした状態での二次移行である。
その先の進化となれば、機動力や最高速度が跳ね上がるのも当然だ。だがそれは、今まで以上に繊細な機体コントロールを要求されるということでもあった。
出力バランスをウイングに傾けると、セシリアは腰に手を回した。
「次は”これ”ですわ! BTマグナム!!」
スカートアーマーのロックユニットが外れ、そこから大型の銃を抜き放つ。
BTマグナム〈メテオシューター〉。破壊されたスターピアスの銃身を再構成して生み出された、アンリミテッド・ハートの新武装だ。
「バレット、シュート!!」
ドドウッ!!
銃口から放たれるエネルギー弾。それは一瞬で駆け抜け、サイレント・ゼフィルスに迫る。
「っ――!?」
反射的に躱すその眼前を、エネルギー弾が掠めた。それだけでサイレント・ゼフィルスのSEが削られる。
「あら。なかなか使い勝手は良いですわね」
「調子にのるな……!」
その性能に思わず軽口の出るセシリアに向かって、苛立ち混じりにトリガーを引くエム。同時にスラスターが力を吐き出し、ビットが射出される。
セシリアもすぐさま、スターロードのウイングに出力を与え、飛び上がる。
「こちらも行きますわよ――ブルー・ティアーズッ!!」
射手の呼び声に応え、ブースターをカバーするように生まれたBTコネクタから、六機のビット〈ミラージュ・スピアー〉が射出される。
以前のものよりも小型化されたそれは、主の意思のままに飛翔する。
「「ッ――!」」
そして、同時にトリガーを引いた。
ドシュゥウウウウウッ!!
放たれる閃光は空に自在なる流線を描く。そして互いを相殺し合って弾け飛ぶ。しかし二機、ビットの多いセシリアの光弾がエムに向かって飛んで行く。
「ふん!」
エムはシールドビットで防御しつつ、スターブレイカーをセシリアに向けて、実弾を撃ち放つ。
セシリアは横に滑るようにしてそれを躱し、メテオシューターのトリガーを引いた。
銃口から連射される光。エムはそれをローリングで回避しながら、ビットとライフルからビームを一斉発射。更に実弾射撃で手数を押し返す。
流星の如く降り注ぐそれを、セシリアは空を滑るようにして軽やかに躱す。そのままビットからの
「チッ!」
エムは速度を上げつつ、回避されたビームをコントロールし、セシリアを再度狙う。
それを察したセシリアもすぐに動く。追尾してくるビームを躱しながら、機体を加速させる。
まるで生き物のように、獲物に向かっていく光はその軌跡と相まって、空を飛ぶ蛇のようであった。
エムは低空を飛び、ターンの勢いで海を蹴り抜いて生み出した水の壁をビームにぶつけた。ビームはそれを貫通するが、その際に威力が落ち、更にコントロールも甘くなる。
その一瞬を突いてエムは一気に上昇。セシリアの
対するセシリアは、上空に上がっていた。速度で振り切れないこともないが、まだまだアンリミテッド・ハートの武装を試しておきたいと、口元を歪めた。
「行きなさい〈ミラージュ・バックラー〉!」
ブルー・ティアーズのスカートアーマーの一部が外れ、斜線上に飛び出す。そして、それが小型のシールドに変形すると、光の障壁を展開。生み出された防御壁が、ビームをはじき飛ばす。
「シールドビットだと……!?」
「〈ミラージュ・バックラー〉。攻防において、私に隙はありませんわ」
「………フッ」
自信に満ちた表情を浮かべるセシリアに、エムは冷笑を向けた。
「何が可笑しいんですの?」
「反省しよう、セシリア・オルコット……私はお前を舐めていた」
「……?」
互いのビットが機体と接続する。セシリアはすぐに動けるように身構えながら、エムの言葉に注意を払う。
「だから、ここからは……本気で行かせてもらう」
そう言うと、サイレント・ゼフィルスに変化が起こった。
脚部装甲とスラスターユニットが変形し、制御用スタビライザーとブースターが出現する。そして更に、ビットが二機追加される。
「形状変化(フォームシフト)……ではありませんわね」
「何時まで未完成のISを使っているものか。これが私用に再調整された、サイレント・ゼフィルスの完成形だ」
サイレント・ゼフィルスとは元々、ブルー・ティアーズのストライクガンナー使用時の問題――すなわち〈ビットの使用不可〉に対するアプローチとして開発されていた機体だ。
機動力をどこまでストライクガンナーに近づけられるか。尚且つ、戦闘力を損なわない仕様。それは、イギリスがモンド・グロッソで味わった不名誉を払拭するべく制作されていたものである。
その完成形。それを名乗る以上、今までのサイレント・ゼフィルスは言葉通りに『本気ではなかった』のだろう。
「しかし、どうやってその機体を完成させたのです?」
「ファウストという人間は性格はともかく、腕は間違いなく天才でな……この機体も、私の腕に充分ついてくるようになった!」
「ッ……!?」
サイレント・ゼフィルスが羽撃く。その加速は今のブルー・ティアーズにさえ比肩するかも知れない程だ。
セシリアは反射的に後退する。同時に反転して上昇。突撃してくるエムから距離を取る。
が、エムはそれを更に加速して追撃。あっという間に、その隣りに並んでみせた。
「速いっ!?」
「貴様が遅いだけだ」
ドウッ! スターブレイカーの銃口から閃光が迸る。
「ッ――!」
セシリアはブレーキを掛け、その一撃を躱す。同時にBTマグナムの銃口を向ける。発射されるビーム。しかし、それはあっさりと躱された。
さっきまでなら、間違いなく当たっていた筈の一撃。機体性能と搭乗者の技量が噛み合ってこその反応だ。
「さぁ、行くぞ!」
サイレント・ゼフィルスのビットが全機切り離される。セシリアもビットを切り離し、そして同時に閃光が撃ち放たれる。
ぶつかり合う光。飛び交う下僕達。舞い踊る射手は自在に舞い踊り、ぶつかりながら、その手の弓を何度も射る。
「はぁっ!」
振り下ろされる銃剣。セシリアはそれを身を捻って躱す。エムはすぐさま切って返す。
「ぐう……っ!」
走る衝撃。セシリアは喰らった一撃の反動も利用して下がる。しかし、それを攻め時と読んだエムが、更に追撃を仕掛ける。
「ブルー・ティアーズ!」
セシリアが叫ぶと、左腕外部装甲が開く。
何かを仕掛けようとしていると察しながらも、その前に叩き落としてしまえば良いだけの事だと、エムは攻撃を止めない。
「甘いですわ!」
振り下ろされる一撃――それを、煌刃が防いだ。
「何――?」
エムの一撃を防いだのは、セシリアのビットだった。左腕外部装甲に生まれた隙間に嵌ったビットを包むようにして、エネルギーの刃が出現している。
「BTコネクタは、一つではありませんのよ!」
セシリアは銃剣を弾くと同時に、左右を入れ替えて銃を撃つ。それをエムが躱すと即座に左腕のビットを向け、そのままビームを撃つ。
「っ――! いちいち小賢しい!」
「あら、ではこれはどうかしら!?」
言うより早く、セシリアが距離を詰める。そのまま両手の武装で攻めるかと思いきや、右足を思いっ切り横に振るった。が、当然、エムはあっさりと受け止める。
そして、そのままセシリアの顔面に銃口を向け――エムの頭部を閃光が直撃した。
「ぐあ――っ!?」
頭を特大のハンマーで殴られたような衝撃に、エムは思わず崩れる。
セシリアの足には、ビットがいつの間にか嵌っており、その銃口からは白煙が上がっている。
「『BTコネクタは一つではない』と、言ったばかりですわよ?」
「貴様……!」
シュウシュウと、そのこめかみから上がる煙。その向こうでエムが怒りに満ちた声を吐く。
「怒っておりますの? ですがそれは……!」
ガチャリ。BTマグナムのエネルギーリロードを行う。そして、その銃口をサイレント・ゼフィルスに向けた。
「それは、こちらとて同じ事ですわ! あなた達が身勝手に奪った多くのもの……纏めて返していただきます!」
「よく回る口だ……力尽くで黙らせてやる……!」
同時に引かれるトリガー。バァン! と、弾ける光を合図にして、二機が幾度目かの激突を開始する。
(二次移行したとはいえ、エネルギーはこちらの方が少ない……ならば、一気に決着を!)
覚悟を決めたセシリアの瞳が、蒼穹の色に染まった。
幾筋もの光が空を切り裂き、鋼の姉妹の決闘はいよいよ、決着の時を迎える。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「せいやっ!」
「ハァッ!」
流水の螺旋が鋼鉄の牙ごとクー・シーを粉砕する。その後ろでは毎影がその名に恥じない素早い動きでクー・シーを纏めて三機、一刀両断にしていた。
バチバチとショートしながら崩れ落ちる番犬達。既に一機残らずその機能を停止させていた。
「これで全部……ですね。周囲に反応なし。会長、体は大丈夫ですか?」
「えぇ。テーピングはしっかりしてあるし、ISのお陰で大分楽だわ」
そう答える楯無の額にジワリと汗が浮かんでいるのを、織羽は見逃さなかった。しかし、自分がどんな状態であっても任務を遂行するのがプロだ。
そして二人は、若い身空でありながら裏の世界に身を置く者。本人が大丈夫と言うなら、余計な口を挟む気もない。
「――? この先に動体反応?」
周囲を探っていた織羽は、センサーが捉えた反応に首を傾げた。先程までそこには無かったのだ。
つまり、これは戦闘中に出現したことになる。
「……箒ちゃんかしら?」
「可能性は低いと思います。この部屋……大型の実験室のようですから」
反応のあったそこは、フロアの中でも一際大きな場所であった。捕まっている箒がそんな所に居るだろうか。
もし箒だとすれば、そこには何らかの罠があると考えるのが妥当だろう。
「……どうします?」
「勿論、ご招待にあずかりましょう」
二人は顔を見合わせ、そして笑い合う。二人は反応のあった場所へ向かった。
少し進んだ先にあったその部屋の入口は、金属の重厚な造りのドアであった。二人がその前に立つと、低い音を響かせながら、中央から分かれて開いていく。
二人はドアの端から中を覗く。幾らか物があるようだが、中はかなり拓けているようだ。
「………」
注意を払いながら、室内に足を踏みれる。中は異様に静まり返っており、二人の足音だけが響き渡った。
「――ようこそ、二人とも」
「「っ――!?」」
突如として響いた声。同時に照明が一気に点灯し、暗視モードだった視界が一瞬白み、思わず顔を背けてしまう。
その一瞬にセンサーが警告を発し、二人はとっさに左右へ飛んだ。
その直後。二人のいた場所を金色の槍が穿った。
「っ……お前は!」
光学補正を行った視界に映る、敵の姿。金色に彩られた細身のISアーマー。そして各部に装備された白い、ガラス状のユニット。
それを纏うのは、金色のISにも負けない――ブロンドの美女。
「ふふっ、今の一撃をよく躱せたわね。流石は更識と辰守……と言ったところかしら?」
「お褒めに預かり光栄だわ。こちらこそ、貴女みたいな大物に出会えるなんて嬉しい限りよ……亡国機業幹部〈スコール〉!」
「今日のところは挨拶だけ、と思っていたのだけれど……少し遊びたくなったわ」
スコールの瞳が冷たく細まり、二人は直ぐ様臨戦態勢を取った。
「フォワードを務めます。会長はバックスを」
「分かったわ」
織羽と楯無一列になるように戦列を組む。織羽は忍者刀を正眼で構え、スコールと対峙する。
「亡国機業幹部、スコール・ミューゼル。その機体……〈金色姫〉は返してもらうわ」
楯無がその後ろで、蛇腹剣〈ラスティーネイル〉を展開する。
「〈金色姫〉? いいえ、今の名は〈
「それは昔の名前よ。今の名前は〈ミステリアス・レイディ〉っていうの。あぁ、覚えておかなくて良いから」
「あら、どうしてかしら?」
「ここで終わるからよ!」
織羽が一気に跳躍し、その後ろからランスに内蔵された四連装ガトリングが火を噴く。
しかし、すぐにスコールの体を金色の糸が包みこんで繭の如くなって、その弾雨を全て防いでしまう。力を失った弾が、次々と床に落ちていく。
「流石に相性が悪いわね……!」
「せいやぁっ!」
楯無ががランスを引くと同時に、舞影が真上から繭を一刀両断した。
斬り裂かれたその中から、スコールが若干驚いた顔を覗かせる。
この糸はルナ・ゴルディオンの第三世代装備で、防御力――特に物理攻撃に対しては絶大の効果を持つ。
だというのに、それを一撃で斬り裂かれたという事実は、スコールに驚きを持たせるには充分であった。
「ハッ!」
繰り出される刺突。スコールはその手に抜いたナイフで一撃を受け流す。そのまま織羽はスコールの右側面に滑りこみ、楯無が正面からラスティーネイルを振るう。
渦を巻いて迫る一撃をスコールは切っ先を弾いて往なし、そのまま楯無に向かっていく。
その鋭い踏み込みに、大型近接武装の楯無は取り回しが間に合わない。直撃を避けるのが精一杯だ。
が、それも一対一ならばの話である。
「ッ――!」
スコールは楯無に向けていたナイフを反射的に自分の首筋に立てた。
その直後、甲高い金属音と共に衝撃が走った。背後から首を切り落とさんと、織羽の剣が振るわれていたのだ。
織羽はそのまま強引に刃を振り抜き、スコールを吹っ飛ばす。が、スコールはすぐさま体勢を立て直して、その腕から金糸を飛ばし、織羽の足に絡みつかせる。
「なっ――!?」
スコールは糸を掴んで思いっ切り、壁に向かって舞影を投げ飛ばした。
すぐに糸を斬り捨て体勢を戻すも、勢いが止まらずに壁にぶつかってしまう。
「くうっ!!」
全身を揺さぶる衝撃に、織羽の動きが止まる。
「
ルナ・ゴルディオンの金の糸が渦巻き、鋭い針――否、槍となる。それを弾丸の如く投擲。螺旋回転と共に、鋭い一撃が飛ぶ。
――ズドンッ!
「危なっ!」
当たる寸前、織羽は体を落として回避。頭スレスレに槍が突き刺さり、合金製の壁をまるで薄紙のように貫いた。
「織羽ちゃん! このっ!」
楯無はランスを仕舞い、引き戻したラスティーネイルを両手に持って斬りかかる。
振り下ろされる斬撃を身を引いて躱し、逆にナイフを振るう。楯無はしゃがんでそれを躱すと、そのまま身を捻って、横薙ぎに刃を走らせた。
「おっと」
スコールは剣撃をナイフを盾にして防ぐ。刃がぶつかり合って火花を散らす。
「やれやれ。相性が悪いのに……よくやるわ」
「こっちも相性云々……言ってられる立場じゃなくてね」
ルナ・ゴルディオンの金の糸の正体は、ナノマシンでコントロールされている、〈エナジースレッド〉と呼ばれるエネルギー結晶体だ。
強度が高いこの糸を瞬時に編み上げることで、ルナ・ゴルディオンは鉄壁の防御をなす。
そして同じように、ナノマシンを使用するIS〈ミステリアス・レイディ〉とは、接近戦においてお互いにナノマシンを使えなくなる。
というのも、ナノマシン同士が相互干渉を起こし、コントロールを外れる――形成を留められなくなってしまうのだ。
つまり、二機がナノマシンを使うには距離を取らなければならない。
しかし、防御性能特化型のルナ・ゴルディオンと、攻防汎用型のミステリアス・レイディとでは、性質上の相性も悪い。
「会長!」
織羽が助太刀に入る。が、スコールはエナジースレッドの槍を作り出し、その一撃を容易に弾く。
このスコールの操縦技術もまた、二対一でありながらも不利を示す要因であった。
「さぁ、もっとかかって来なさい……命懸けでね」
亡国機業スコール。未だに底を見せないその力が二人を追い詰める。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
閃光の飛び交う海上。ブルー・ティアーズとサイレント・ゼフィルスの戦いは激しさを増す。
(……おかしい)
その中で、エムは違和感を覚えていた。
攻撃が――当たらない。
確かにブルー・ティアーズはセカンドシフトして性能が大きく上がった。
それに加えて、シールドビットも発現し、回避能力も防御能力も共に高い。
だが、しかしだ。それでもおかし過ぎるとエムは感じていた。
ドドウッ!! サイレント・ゼフィルスのビットからのビーム。それは幾度も曲がり、セシリアに迫る。
今の彼女は射撃態勢にあり、ここならば絶対に外さない、それ程のタイミングだった。
しかし――。
「何――!?」
エムは目を見開く。ビームの尽くが、まるでセシリアを避けるかのようにして、前後に外れたのだ。
自分の狙いがずれていた? いや、そんな筈はない。狙いは完璧だった筈だ。
なら……何故、ビームが逸れた!?
「もらいますわ!」
「は――っ!? ガハッ!!」
メテオシューターの閃光がエムを捉える。胸を抉るような衝撃に、吹き飛ばされる。
「くそっ……がぁっ!」
エムはギリ。と、憤りに歯ぎしりし、ビームを撃つ。一発、二発と曲線を描いてセシリアに迫る。
しかしそれを悠々と躱すセシリア。
「っ……!?」
だが、躱したビームが返り、セシリアを囲うような軌道で迫る。
ヒュン! ヒュンヒュン!!
「っ……!?」
また外れた。その事実に呆然とするエムに、セシリアは容赦なく攻撃を仕掛ける。
「ぐあぁああああああああっ!?」
降り注ぐ光のシャワー。混乱する思考のまま、エムは回避とシールドビットによる防御をする。が、冷静さを欠いた状態では長続きせず、あっという間に捉えられ、ビームの嵐に打ちのめされた。
「………」
エネルギーの限界を迎えたビットを回収し、セシリアは眼下の敵を注意深く見据える。
ダメージは軽くない。だが、それでも油断が出来ない相手だと分かっている。
事実、サイレント・ゼフィルスから殺気が消えていない。
「……貴様、何をした!!」
怒りに満ちた声を上げて、スターブレイカーが火を噴く。鋼の鏃がセシリアを貫かんと迫るが、彼女はそれを半身を逸らすだけで躱す。
「さて、何の事かしら?」
「とぼけるな! 私の狙いは完璧だった……なのに何度も外した!? 貴様が何かを………っ!?」
そこまで叫び、エムはハッとした。
(今、私は”外した”と言ったのか……? ”外れた”ではなく? 何だ……何かがおかしい)
果てしない迷路の中で、出口に繋がるヒントを得たような感覚。
(それに奴の瞳……青く染まった”あれ”は何だ?)
エムは必死に記憶を探る。今までの戦闘の中に答えがあると、本能が訴えている。
(奴がセカンドシフトして、こちらがフルスペックを出し……そして、奴の瞳の色が変わった……そこからだ。
そこから、奴に対しての
そこまで思考して、エムは止まる。その顔に驚愕を張り付け、その頬に一筋の冷や汗を垂らして。
まさか。いや、そんな筈がない。仮にこの推測が当たっているとすれば……それは一つの結末にしか繋がらない。
「貴様――私の
カラクリを見抜きながら、しかしエムは苦々しくセシリアを見上げる。
「………」
「
迷路の出口。その先にある答を求めて、エムはビットからビームを撃ち放つ。
「―――」
ビームは曲線を描き、セシリアの眼前をかすめる。そして、そのまま明後日の方向へと飛んでいった。
「それだけじゃない。貴様は私の攻撃を完璧に予測できる。だから今、貴様は微動だにしなかった……違うか?」
今の偏向射撃(フレキシブル)は、エムが意図して外したものだ。もしも、エムの推測が外れているなら、何かしらのアクションを見せていた筈だ。
「……流石、ですわね」
セシリアはフッと笑う。そこに相手を嘲る色も、見抜かれた悔しさもない。ただ、どこまでも純粋な微笑であった。
「効果範囲内全てのBTエネルギーに対する絶対支配(パーフェクトコントロール)。これこそ〈アンリミテッド・ハート〉の単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティー)、〈ルール・オブ・クイーン〉ですわ」
「BTの絶対支配……だと? 馬鹿な……貴様、セカンドシフトの方向性をサイレント・ゼフィルスを倒す事のみに特化させたのか!?」
〈ルール・オブ・クイーン〉――絶対女王の力は対BT仕様ISに特化した、〈アンチBT能力〉。
そして、BT仕様ISは世界に二機しか存在しない。つまり、この能力は対サイレント・ゼフィルス用ということだ。
だが、そんなものはエムがISを変えてしまえば、それだけで対処できる。
「えぇ、この能力はサイレント・ゼフィルスを倒すための力。他のIS相手には、その力の半分も発揮できませんわ……で、それが何か?」
「何……?」
「もしも他のISを使ったとしても、今程に自在の攻撃は出来なくなりますし、なにより今、この場においてはその言葉に何の意味もありませんわ」
「っ……!?」
そう。この戦場において、BT最大の能力を封じられたサイレント・ゼフィルスは、戦力の殆どを失ったことになる。そして、技量だけでこれを埋めることは出来ない。
「さぁ、そろそろ決着と行きますわ!」
「っ……舐めるな!」
エムがビットを飛ばす。
「甘いですわ」
が、セシリアはそれを次々と撃墜する。如何に戦術を巡らせても、それを読まれてしまうのでは意味などない。
「くっ……!」
まるで、何もかもを呑み込む空を相手にしているかのような無力感が、エムを襲う。
「大きいの、行きますわよ!」
ガキン! と、背の大砲が前に倒れ、セシリアの両肩に乗る。本来はBTミサイルを撃つための砲身であったが、今はそれだけではない。
「BTキャノン〈スターハンマー〉!」
砲身に集められたエネルギーが一気に解放され、光の奔流となって撃ち放たれる。
「ちぃっ!」
エムはシールドビットを展開。その直撃を寸前で止める。が、しかし、BT干渉を受けるせいでシールド出力が上がらない。
「無駄、ですわ!」
ドォオオオオオオオンッ!!!
閃光がシールドビットを爆砕し、エムを呑み込む。爆煙を抜けて、サイレント・ゼフィルスが落ちていく。
「バカな……! こんなことが……!」
まるで無間の空が自分を呑み込んでしまったかのような錯覚。あがくことも許されない。伸ばす手には何も触れられない。
「これで、止めですわ!」
―― アームズフォートレス 分離 ――
背中のBTガジェット〈スターロード〉が、上下で分離して、スターハンマーの付いた武装ユニットが大きく変形していく。
二門の砲身が隣接するように移動し、同時に開いた全体が半月状になる。
曲面部に六ヶ所、口を開いた場所があり、そこに射出されたビットが次々に刺さっていく。
「BTコネクタ、セット!」
そして最後に、セシリアの左腕と接続した。その姿は、まるで巨大な弓。
「これがアンリミテッド・ハートの最大最強の武装、その名も〈シューティング・ドライバー〉!」
―― BTエネルギー圧縮臨界 ――
砲身に集められたエネルギーに、ビットから供給されるエネルギーを加えた最強最後の一撃。そのトリガーが、引かれる。
ズギャァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
世界を埋め尽くすほどに凄まじい光と共に力が解放され、砲口から勢い良く吐出される。
二本の光が激しく渦を巻いて、エムへと迫る。
エムはすぐに躱そうとするが、それよりも早く、変化が起こった。
二重螺旋を描いていた光が、突如として弾けたのだ。そしてそれは、まるで流星群のごとくサイレント・ゼフィルスに降り注いだ。
「グァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
全身を限りなく撃ち抜く衝撃。砕かれていく鎧。濁流に翻弄される木っ端の如く、サイレント・ゼフィルスは抗う術もなくただ、海へと墜ちていく。
流星のシャワーは尚も、海ごとエムを撃ち抜き続けた。海面が爆ぜてかき混ぜられ、ようやく止まった頃には、白く泡立った海面からは蒸発の白煙がもうもうと上がっていた。
「………敵機反応なし。あの状況でまだ、離脱する力があったと言うの?」
センサーにサイレント・ゼフィルスも、生命反応もない事を確認し、セシリアは嘆息した。
腕のシューティング・ドライバーが、熱気排出のスチームを激しく吐き出す。
そして、セシリアの瞳が蒼を失い、元の色へと還る。
「っ……!? やはり、この力は負荷が大きいですわね……」
途端、凄まじい目眩が彼女を襲う。全身から汗が吹き出し、息が上がる。
ルール・オブ・クイーンの能力は、
自機のコントロールに加えて、他機のBTに干渉するというのは、それだけ負担を強いられるという事でもある。
「ここで倒しきれなかったのは残念ですけど……こちらもいっぱいいっぱい、ここはこれで良しとしましょうか」
機体にまだ余裕があっても、セシリア自身がすでに限界を迎えていた。
そう結論づけて、セシリアはフォー・リーフスへと戻った。
薄暗い深海。音も飲み込むその場所を、サイレント・ゼフィルスは進んでいた。
その機体は既にボロボロで、エネルギーも残り少ない。
「セシリア・オルコット……雑魚のくせに!」
ギリ、と歯ぎしりする。怒りが溢れ、全身を掻き毟りたい衝動にかられる。
「
その瞳が暗い情動に染まり、殺意へと塗り固まっていく。
「見ていろ……この屈辱、必ず返す。貴様を殺してな……!」
クックック。と、暗い笑みを浮かべ、その姿は深海の向こうへと消えて行った……。