IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第72話  水と影/復活の紅

 

鋼鉄の大檻の中で、三機のISが激突を続ける。

「おりゃあっ!」

「ハッ!」

 

ガキィンッ! キィンッ!

 

織羽と楯無。両者の同時攻撃を受けて、スコールが勢い良く吹き飛ぶ。が、その一撃はエナジースレッドによって防御された上、自ら後方に飛んで威力を殺している。実質のダメージはゼロだ。

「あー、もう! やりにくい! 不意討ち暗殺毒殺抹殺なら絶対余裕なのに!!」

「こらこら。物騒な事を言わないの……とはいえ、やり難いのは確かね」

金色の壁を解き、その向こうで余裕の笑みを浮かべるスコール。

「フフ……。いいわね、このギリギリのやり取り……久しぶりだわ」

「ギリギリ、ね。どうせなら、IS無しの方がもっと楽しめるわよ?」

「それは魅力的ね。でも遠慮するわ。ここで命をやり取りする気はないもの」

そう言って、スコールはナイフから細剣(レイピア)へと変える。

来るか。身構える二人。薄く笑うスコール。が、スコールが一歩を踏み出した途端、止まる。

そして、その表情を静かな怒りに染めていく。

「……フフ。まさか、オータムもエムもやられるとは思わなかったわ。少し、遊びが過ぎたということかしら?」

「………うちの生徒を甘く見ないでほしいわね。皆、優秀な子ばかりなのよ」

「世の中、悪の栄えた例はないってね! さぁ、あなたも覚悟しなさい!!」

織羽が一気に突撃する。その手の刃を刺突に構え、その勢いを切っ先に集中させて繰り出す必殺の一撃。

「辰守流奥義〈瞬矢〉!」

悪を穿つ必殺の矢が、スコールの魂を抉るべく迫る。しかし、スコールはそれを一瞥すると、その手の刃をヒュンと返していなす。

「っ!?」

「邪魔よ」

 

ドゴンッ!

 

「がはっ!?」

スコールの放った回し蹴りが、織羽の背を打ち抜く。そのまま床を転がされる。

「織羽ちゃん!」

「くぅっ、屈辱だわ……! こりゃ、本気で連兄に怒られちゃう……!」

織羽はすぐさま立ち上がり、刃を構える。

ダメージ自体は大したことはないものの、今の一瞬で技量差が明確となった。

スコールの技量は間違いなくヴァルキリーか、もしかしたらブリュンヒルデクラスかも知れない。

だがそれでも、更識と辰守の名を背負う以上は退けない。その命は己の物にあらず。護国の礎なのだ。

「デモニアの射出が成功し、二人がやられた以上……ここで戦う意味はないわね」

「あら、なにかご用事かしら!?」

「つれないじゃない。もうちょっと遊んでいってよ……!」

同時に仕掛ける二人。が、スコールは一瞬の捌きで、二人にカウンターを叩きこむ。

「「ぐぅっ!!」」

勢いそのままに弾き返され、火花を散らして床を転がる、舞影とミステリアス・レイディ。

「大丈夫。私の代わりはちゃんと用意してあるから……遠慮なく、楽しんでいって頂戴?」

スコールがそう言うと、突如として天井が崩れ、出来た大穴から二機の戦闘機械が降り立つ。上半身は人、下半身は六つの足を持つ――半獣半人の姿を模った戦闘機。

「I・S・E〈タイラント〉。人が乗っていないからコア・ディバイドは使えないけど……遊び相手としては充分だと思うわ。それじゃあね、ByeBye」

「待ちなさい、スコール!」

天井の大穴から、撤退しようとするスコールを追わんとする楯無。だが、その前にタイラントが、ボディのレーザー発射口を開く。

「会長!」

「っ!?」

レーザー発射口のレンズが光る瞬間、とっさに飛び退く。同時に紅光が壁を穿ち溶かした。

「うわっ! 危ないじゃないのよ!」

「会長、スコールが!」

「しまった……っ!」

怯んだ一瞬の隙に、スコールは部屋から消えていた。センサーにはどんどん遠ざかる機影が映る。

すぐにでも追いかけたいが、その場合、織羽が一人でこの二機を相手取ることになる。いや、追いかけるこちらを追撃してきて、挟撃に遭う可能性もある。

つまり、スコールを追うことは出来ない。

「……こいつらを片付けて、箒ちゃんの救助とファウストの確保、急ぐわよ!」

「了解!!」

新たなる強敵と、戦闘を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

フォー・リーフス周辺空域での戦闘も、いよいよ終局を迎えていた。

「はぁっ!」

「ふんっ!」

甲龍の双天牙月が敵機を両断すれば、シュヴァルツェア・レーゲンのAICと〈守護者の剣〉が、敵を粉砕する。

無限かと思われた敵の数も目にして分かる程、その数を減らしていた。

「あと十機ぐらいかしら!?」

「残り十三機だ。数は正確に把握しておけ!」

「うっさいわね~。どうせ、あたしの方が撃墜数多いんだから良いのよ!」

そう言って一機、撃墜する。

「何を言っている、私の方が多いぞ? 数も数えられないのか?」

そう返しながら放たれたレールカノンが、また一機撃滅する。

「はぁ!? あたしの方が多いわよ! そっちこそ、ちゃんと数えなさいよね!!」

「寝言は寝て言え!!」

斬滅、粉砕、破壊、撃破。言い合いをしながら次々とアンズーを撃破する二人。いよいよ、最後の一機へと迫る。

アンズーからのビームを躱し、一気に距離を詰める。既にこれを落とした方が勝利する。そんな暗黙の了解になっていた。

「「もらったぁああああああああっ!」」

突き出される刃。何方の一撃が先に届くのか。

 

バガァンッ!

 

「「なっ!」」

二人の目前で、アンズーが閃光に貫かれて砕け散った。射撃の来た方を向けば、こちらに飛んでくる蒼い機体。

「大丈夫ですか、二人とも?」

「………セシリア?」

「セシリア……あんた」

「あら、お気付きになりましたか? まぁ、これほどにエレガントな」

「「邪魔するな!!」」

「えぇっ!?」

いきなり二人に怒鳴られ、セシリアはビックリする。彼女からすれば何故に怒鳴られたのか理解出来ない。

「今のを落としてれば、確実にあたしの勝ちだったのに!」

「ふん。落とさずとも私の勝ちだったがな……だが、邪魔されたのは気に食わん」

「な、何なんですか……せっかく援護してさし上げたというのに!!」

「あれ、ブルー・ティアーズの形が変わってない?」

「ん? そう言われればそうだな?」

「今更ですの!? ……まぁ、いいですわ。これがブルー・ティアーズの新しい姿、〈アンリミテッド・ハート〉ですわ!」

しゃらーん。とでも効果音が鳴りそうな感じで、髪を掻き上げるセシリア。

「さて、船の方は大丈夫か?」

「あ、そうだった! 千冬さんとかが守ってたけど……戦闘中みたいね」

「だが、数も少ないな。流石は教官だ」

「ちょっと!? 本当に何なんですの、あなた達は!?」

安心のセシリアスルーに、ツッコミも冴え渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

巡洋艦〈甲武〉を守る戦いも、残る数機を落とすまでになっていた。簪も船も無傷とは行かず、打鉄弐式はそのボディを傷つけ、船体からは黒煙が上がっている。

しかし世界最強の操縦者達は、全くの無傷であった。

「はっ!」

「よっ!」

「ふんっ!!」

「ちょいさ!!」

「おぉおおおおっ!!」

「ふはははははっ!!」

「貴様はさっきからなんだ、その気の抜ける声は!?」

「そっちこそ! 暑苦しいし、耳障りだし、もうちょっとボリューム下げなさいよね!」

などと、おおよそ戦闘中とは思えないやり取りをしながらも、しかし、その動きには一切の隙もない。

「あれだけ言い合ってて、なのにコンビネーションは凄い……どうして?」

その光景を甲板から見上げる簪は、ただ嘆息するしかなかった。

「ハァッ!!」

「Check!!」

「えぇっ!?」

突如として千冬が剣を投げ、それが真っ直ぐにフィリーへと向かう。

そしてフィリーもまた、ライフルの銃口を千冬へと向けて、トリガーを引いた。

一体どうして。その思考よりも早く、二人の攻撃が互いを捉え――通り過ぎる。

 

ガガァンッ!!

 

そして、互いの背後から迫っていた最後のアンズーを撃ち抜いていた。

「ふん、危なかったな?」

「そっちこそ、後方不注意じゃない?」

互いに見やりながら、不敵に笑い合う。

「………」

簪はただただ、呆然としていた。経過と結果を見れば、ただ二人が互いの背後の相手を撃墜した。それだけだ。

だが、その攻撃が通り過ぎた場所はフィリーの鼻先であり、千冬の眼前である。僅かに逸れただけで、微かに身動ぎしただけでも当たっていただろう。

そんな距離を互いに一瞬で攻撃をする判断と、そこを通す技量、先読みの早さ。これが、世界トップの技というのか。

ゆっくりと甲板に降りる二人に、簪はゾクリとした。

「千冬さん!」

「教官!!」

フォー・リーフスの方角から、鈴とラウラ。そしてその後ろからセシリアが来る。

「そっちも終わったようだな。無事で何よりだ。それと”織斑先生”だ」

「うぇ……ここでもそれを言いますか?」

「申し訳ありません、先生。敵無人攻撃機の殲滅を完了しました」

「こちらも、サイレント・ゼフィルスの撃退に成功しましたわ」

フワリと降りてくる三機。

「あれ……オルコットさん。ブルー・ティアーズが……!」

「えぇ、セカンドシフトしましたの。その名もアンリミテッドハートですわ」

「凄い……カッコイイね」

「っ……!?」

簪が言うと、セシリアが目を見開いた。そしてガションガションと簪の前まで歩いてくると、その肩をバシンと、叩くように掴んだ。

「え? え??」

「更識さん……あなたは!!」

「は、はい!?」

何か怒らせてしまったのだろうか。そんな不安に駆られる簪をセシリアは――思いっきり抱きしめた。

「貴女は……良い人ですわ!!」

セシリア、本気の涙目である。先程のスルーが相当にショックだったようだ。

「こらこら。まだ、戦いは終わっちゃいないのよ」

「デュノア、更識、辰守からは未だ連絡がない。補給が済み次第、出られるか?」

「了解です」

ラウラが答え、鈴とセシリアも頷く。千冬は艦橋に連絡をする。

「聞いていたな。すぐに補給を頼む」

『既に準備はできている。甲龍、シュヴァルツェア・レーゲン、ブルー・ティアーズは補給を済ませ次第、フォー・リーフスの中央施設に向かってくれ』

静けさを取り戻した太平洋に、しかし風は炎の残滓を残している。

戦いは、未だ終わっていない。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「また揺れているな……一体、何が起こっているのだ?」

先刻から、何度となく大きな揺れが起きる。箒は密室の中で天井を見上げていた。

ここは防音処理が施されているのか、外からの音は聞こえない。時計も無いので今の時間も分からない。

だが、脱出する為にも体を休めておかねばとベッドで眠っていたところだったが、突然の激しい振動に目を覚まし、現在に至る。

「何かが起こっているという事は、脱出するチャンスもあるかも知れないが……この手枷では当て身も使えんな」

ガチャリ。両手を塞ぐ鎖に嘆息する。せめて少しでも離れていればいいのだが、くっ付いている形のせいで、走ることさえも難しい体たらくだ。

ともかく、今は何が起こっているのかを知ろうと、箒は壁に耳を当てた。

「………むぅ? 何やら振動が大きく……いや、近づいてきている?」

もっとハッキリ分からないかと、ググッと身体をつけて、意識を集中させる。

 

ジュワワワァ……。

 

「む? 何だ、壁が赤く……?」

 

バシュァアアアアアアッ!!

 

「ぬわぁああああああっ!?」

壁を貫いて、いきなり目の前を閃光が抜けていく。ギリギリに危機を察して身を離したので大事はなかったが、残念ながら前髪が軽く被害を受けた。

謎の閃光は壁から壁を貫いて、見事に風穴を開けていた。

軽く融解している壁の穴を覗こうとするが、それよりも先に――

 

ドガッシャァアアアアアアアアアアンッ!!

 

「ぬわぁああああああああああっ!?」

今度は壁が崩壊した。雪崩込んでくる巨大な影と瓦礫。箒はとっさに横っ飛びした。

「な、ななな……何だこれは!?」

「おぉ、箒見っけ!!」

「織羽!? お前、どうして……?」

もうもうと上がる粉塵から顔を出した織羽に気付き、箒は驚いた。まさか、ここに彼女がいるなど思いもしなかった。

「どうしてって……助けに来たに決まってるでしょ?」

「織羽……」

友の優しい言葉に、思わずグッときてしまった。

「でもゴメン! また後でね!?」

「僅か二秒で目的を翻すな!!」

ツッコむ箒の前で巨大な影が起きる。それは禍々しく光る瞳に冷徹なる悪意を滲ませて、箒を捉えた。

「っ……!」

「お前の相手はこっちだっての!」

織羽がタイラントに向かって仕掛ける。反応して振り返るタイラントの一撃を宙を舞って躱し、その頭部に強烈な蹴りを叩きこむ。タイラントの巨体が揺れる。

「箒、これっ!!」

「っ!?」

 

――ガッ!!

 

織羽が苦無を箒に向かって勢い良く投げる。それは真っ直ぐに、箒の顔面に突き刺さった。

「っ……フー……フー……ッ!」

ガチガチと苦無が揺れ、その先に結び付けられた鈴がチリチリと鳴る。ギリギリの所で、箒の歯が苦無をキャッチしていた。

「……チッ」

「いは、ひはふひいたは!? へはったほは!?(今、舌打ちしたな!? 狙ったのか!?)」

「いや、ちょっと手元が狂っただけで――ぐあっ!?」

振り抜かれた腕が舞影を壁にはじき飛ばした。

「ぐぅ……っ!」

「おひは!?(織羽!?)」

壁を砕いて向こう側まで吹っ飛ばされる舞影。それを追いかけてタイラントもまた、移動する。

「くそっ……! 織羽……!」

――チリン。苦無が床に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

シャルロットは横たえていた体を起こし、歩いていた。その視線の先にあるのは、甲板掃除用の水道である。

「はぁ……はぁ……」

喉の奥底までカラカラに渇き、息をすることもキツイ。全身が重く、歩くことも億劫だ。

しかし、ISの再起動は未だ出来ない。ダメージチェックではBだが、エネルギーが無いのだ。

下手に起動させても、すぐに戻ってしまうだけなので、シャルロットは生身でいるしかない。

未だに聞こえる戦の音に顔を顰めながらも、水道の蛇口を捻る。勢い良く流れる水に手を濡らして掬うと、口元に持って行き、中に流しこむ。

水は、まるで砂漠の砂が吸い込むように、するりと咽喉を下っていった。

今度は顔に勢い良くぶつける。何度かすると、熱を篭らせた皮膚が奥まで冷えていった。

「………ふぅ」

まだ、戦いは続いている。少しだけ戻った力に、シャルロットは中央塔を睨む。

ブリーフィングで、あそこに総合管制室があるのは分かっている。この広い施設内全てを把握するには、そこに陣取るのが一番だ。

つまり、そこにファウストがいる可能性が一番高い。

「デモニアを止められなかった以上、ファウストを捕まえないと……!」

確保には織羽と楯無も動いているが、それがすんなり行くとも限らない。

シャルロットは疲弊した体を押して、一歩踏み出す。

 

ドガァァアアアアアアアアアンッ!!

 

「うわぁっ!?」

突然、真下から突き上がる巨大な影。それはそのまま上空に上がって、ぶつかり合う。

「あれは……ミステリアス・レイディ? 戦っているの……わわっ!」

時間差でガラガラと落ちてきた破片に、慌てて逃げる。

「あら、其処にいるのはシャルロットちゃん? よかった、ちょっと手伝ってくれるかしら? これ、結構厄介なのよ~! 手負いの会長さん、もう息切れしそう……!」

「いや、余裕そうに見えますけど。でも、すみません! エネルギー切れで、ISの完全展開が出来ないんです!!」

「えぇ~っ!?」

放たれるレーザーを躱しながら、会長が泣き言をほざく。

レーザーはチャージと冷却の関係か、連射されないので、そのまま接近戦を仕掛ける。

 

ガァンッ! ギィンッ! ガシャアンッ!!

 

「っ……ぐぅ……っ!」

タイラントの腕部ニードルブレードと、楯無のランスが激突する。が、数度の打ち合いの中で、楯無の顔が苦痛に歪む。

クー・シー、スコールと続いて今度は無人I・S・Eタイラントとの立て続けの戦闘に、怪我を負っている楯無の体は悲鳴を上げていた。

「これは……ダラダラやってる暇はないわね。とはいえ、どうしたものかしら……?」

じんわりと滲む脂汗。しかし、拭う余裕もない。敵は痛みも疲れも知らない無人機なのだ。

――と、楯無はある物に気付いた。

「あれは水道……しめた! シャルロットちゃん、其処の水道を壊して!!」

「え、水道って……これですか?」

「えぇ! 思いっ切りぶっ飛ばして!!」

楯無はそう言いながら、タイラントとの距離を取る。それを追いかけるタイラントは、ボディーから一斉にミサイルを発射した。

ドドドドッ! という振動音と共に、降り注ぐミサイルの雨。

「シャルロットちゃん、急いでっ!」

楯無はランスの水を開放し、濁流に変えてミサイルを呑み込む。そして、次々に爆発するミサイルに水が弾け飛んだ。

「このっ!!」

意味は分からなかったが、シャルロットは言われた通り、水道を部分展開したISで殴り壊した。途端、勢い良く水柱が上がった。

楯無が、ニヤリと口角を上げる。

「……待っていたわ、この瞬間を! ラスティーネイル!!」

蛇腹剣を繰り出し、タイラントを一気に縛り上げる。そのままフルパワーで振り回し、外装施設へ叩きつけた。

「アクア・クリスタル最大起動! ミステリアス・レイディ、ナノマシン出力最大!!」

水柱に飛び込むと、アクア・クリスタルが強く輝きだした。同時に、水で構成されているISそのものが大きな変化をした。

アクア・クリスタルが、まるでシールドのように変わり、各部の水のヴェールも、より明確な鎧の形を取っていく。

「さぁ、刮目しなさい。これがミステリアス・レイディのフルパワー。名付けて〈マーキュリーモード〉!」

水を得た魚ならず、多量の水を得たミステリアス・レイディは、その性能をフルに発揮する。僅か五分間のフルドライブ。それがこの〈マーキュリーモード〉だ。

「ナノマシン臨界まで残り4分35秒……でも、遊びは無しよ!」

「GYAAAOOOOO!!」

蛇腹剣の拘束を引き千切って、タイラントが吼える。

楯無はランスを高々と掲げ、そこに水を集束させていく。水が渦巻き、槍は今までにない巨大な物へと変化した。

向かい来るタイラント。楯無は緩やかに、それを投擲する。

「一撃必殺! マーキュリーアタック!!」

 

ゴァアアアアアアッ!!

 

空を穿つ螺旋の一撃。タイラントが即座に障壁を展開し、穂先がそれと激突すると、凄まじいエネルギーが周囲に迸った。

拮抗する力。楯無はしかし、既に動いていた。スラスターを全開にして天高く舞い上がると、一気に急降下する。そして、半回転すると同時に蹴り足を突き出した。

「そして……大っ胆に! クラァアアアアアアッシュッ!!」

最後のダメ押しとばかりに石突を蹴り抜くと、そのまま障壁ごとタイラントを貫通した。

螺旋に砕き散らされ、タイラントは紅蓮の焔と共に爆ぜて滅びた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

施設内のエレベーターシャフト。大型機械搬入用のそこは直径3,4メートル。高さも200メートルを超える。

そこを戦場として、もう一機のタイラントと舞影の戦いは熾烈を極めていた。

「ちぃっ!」

情報から降り注ぐ弾雨。全身を銃火器で固めたそれは、圧倒的物量で舞影を追い込む。

舞影は限定空間での戦闘が得意な機体ではあるが、横ではなく縦の空間は相当に苦手としている。

というのも、この空間では動きの殆どが直進で限定されてしまう。舞影は動き回り相手に隙を作らせる事で、火力を補う機体なのだ。

センサー阻害も、されたなら火力に物を言わせて面で制圧を掛ければ、織羽の手は潰されてしまう。

「マズイマズイ、SEがマズイ!」

シャフト内壁を駆け上がり、何とか接近戦に持ち込もうとするが、向こうはそれを完全に読み切り、距離を取ってくる。

遠距離武装もない訳ではないが、火力が違いすぎる。

「くそっ……早く来なさいっての!」

 

 

『――待たせたな!』

 

 

その時、タイラントの上方から紅い矢が降り注いだ。完全な不意打ちを喰らい、揺らぐタイラント。その背を更に、真紅の機体が蹴り飛ばした。

織羽の横を通り過ぎ、シャフトの壁に巨躯がぶち当たる。

「遅いわよ――箒!!」

「手錠がなかなか切れなかったのだ! 仕方なかろう!」

ヒュンッ!! パシッ!!

いきなり箒が斬りかかってきた。織羽はシュバッと白刃取りする。

「ちょっと、何のつもりよ?」

「ふん、さっきの苦無の返礼だ」

すい、と刃を戻して箒は鼻を鳴らす。

先刻、織羽が投げた苦無には鈴―――紅椿の待機形態が結び付けられていた。

それに気付いた箒は刀を展開し、手錠を切ったのだった。

「さて、状況説明も欲しいが……まずは、あの化け物じみたのを片付ければ良いのだな?」

「こっちはSEが心もとないからね……一気に仕留めるわよ!!」

「あぁ、分かった!」

同時に、空を蹴ったかのように加速。タイラントに向かってダブルでキックを叩き込んだ。

「「はぁああああああっ!!」」

二人の強烈な一撃が内壁の鋼鉄タイルごと、タイラントをフロアへと吹き飛ばす。

シャフトの向こう側は大型コンテナ格納倉庫であった。

タイラントを追い、二人もフロアに足を踏み入れる。途端、マズルフラッシュと共に、弾幕が二人を襲った。

「あれを喰らったくせに……倒せないまでも、ダメージすら無いのか?」

「どうにも頑丈に出来てるみたいでね~。シールドが固いのなんの」

「つまり、必要なのは一撃必殺……白式や裏白式向きの相手だな。だが、無いものを言っても仕方あるまい!」

箒は弾雨を躱しながら、一気に距離を詰める。二刀を振り抜き、光線を撃ちはなって攻撃を仕掛けるが、頑強なシールドがそれを阻む。

攻撃を弾かれた箒は、そのまま直接攻撃に移る。織羽も箒に対するために薄まった銃撃の間を縫って一気に仕掛ける。

「ハァッ!!」

「せぇいっ!」

挟撃を仕掛ける。が、強固なシールドがブレードを防ぎ、逆に二機を同時に弾き飛ばした。

「くそっ! これでもダメか……織羽、シールド貫通攻撃は打てないのか!?」

「打てるけど……シールドを抜いても装甲自体がクソ硬いせいで、無駄に消耗するだけなのよ!」

「っ……! もっと、紅椿に力があれば……っ!」

力が欲しい。弾き、斬る柔の技ではない――触れる全てを断撃する、剛の一刀が。

「もっと……! もっとだ……!!」

箒は空裂を両手で握り、剣撃を打ち込む。がタイラントの防御をどうしても崩せない。

「ッ――がはっ!!」

逆に至近距離から発射されたレーザーが紅椿を撃ち抜き、SEを思いっ切り削り落とすと共に、箒を壁に叩きつける。

「箒! コイツ……やってくれたじゃない!!」

織羽が長い銃身の銃を抜き、トリガーを引く。ドウッ! という低い音と共に、弾丸が発射される。

しかし、頑強なシールドには効果なく、あっさりと弾かれてしまう。

「ッ……! 獣魔か海魔だったら、パワーで押し切れたのに……最悪だわ」

織羽はノーマル装備の自分を悔み、舌打ちする。とにかく火力が足りない。

「っ……もっとだ……もっとだ、紅椿……っ!」

箒は身を起こしながら、その手に柄を握り潰さん程に力を篭める。

瞬速超過(オーバーアクセル)では、足りない。もっと――そう、山さえ断ち切る巨刃の如く。

 

――pipi!

 

「っ……!? 何だ、これは……?」

 

―― 経験値が一定値に達しました。武装〈金剛〉を開放します ――

 

「金……剛?」

箒が呟くと、背部の自立攻撃ユニットが分離し、空裂と一体化する。

「これが……金剛?」

「ちょっと箒! 何やってんのよ!?」

「いや、何と聞かれても……困る!」

「困ってんのはこっちだ!!」

「いや、それは分かってるんだが……!」

織羽は押されている。すぐにでも援護に行きたいが、この〈金剛〉という武装の意味が分からない。

このタイミングで、これ(・・)が発動した意味。それはきっと、紅椿が応えてくれたのだと。

「なら、これはきっと……ならば、応えろ〈金剛〉!!」

 

―― 金剛起動 攻性エネルギー収束展開 ――

 

ゴオオオオオッ!!

 

「っ――!?」

ユニットが開き、そこから噴き上がるようにして巨大な真紅の刃が生まれる。

「ちょっ……何それ!?」

「分からん。分からんが……これならば!」

 

―― 〈金剛〉は、攻性エネルギーを収束させることで威力を上昇させることの出来る、一撃必殺の武装です ――

 

「っ……凄まじい勢いでエネルギーが持っていかれる!? だが、あいつを倒すにはもっとだ……もっとだぁああああっ!!」

箒の叫びに応えるかのように、更なる輝きを魅せる刃。それと共に刃もまた巨大になっていく。

「箒……まだなの!?」

「もう少し……もう少しだ……っ!」

 

―― 金剛 最大出力 ――

 

「織羽ぁああああああああああっ!!」

「ぶちかませぇえええええっ!!」

「うぉおおおおおおあああああああああああああっ!!」

雄叫びを上げて、箒が数メートルにまで到達した巨剣を担ぎ上げ――飛んだ。

「ずえりゃああああああああああああああああああああああっ!!」

真紅の刀身が天井を斬り付ける。しかしその勢いは止まらない。そのまま一気に、タイラントへと打ち込まれた。

 

鉄壁のシールドと、必殺の一撃がぶつかる。その拮抗は―――刹那。

砕け散るシールド。そして頑強なる装甲をまるでベニヤ板を割るかのように易々と突破され、タイラントは両断された。

 

 

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