IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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第73話  狂気終焉/宇宙に咲く狂華

 

ゴゴゴゴ……!

 

「何、この振動は……?」

フォーリーフスに走る振動。それが徐々に大きくなり、やがて爆発が起こった。

中央塔とその近くの施設から、鋼鉄の残骸を降り注がせて、紅蓮の間欠泉が空に噴き上がる。

勢い良く持ち上がる黒い爆煙を貫いて、二機のISが飛び抜けてくる。

「あれは舞影と紅椿……!?」

「どうやら、救出に成功したみたいね……相当、派手だけど」

楯無は、やれやれといった風に肩を竦めた。

 

「ちょっと! 連鎖的に爆発してるわよ!? どんだけ派手にやってるのよ!!」

「私のせいじゃない! あのコンテナの中身がいけないのだ!!」

耳をつんざく爆音と全身を襲う高熱に顔をしかめながら、二人は必死に飛んだ。

コンテナの中身に、揮発性の高い可燃性の薬品があったのか。タイラントの爆発に誘爆して、一気に施設をぶっ飛ばしていた。ISがなかったら、二人揃って丸焦げであっただろう。

『二人共、大丈夫?』

「えぇ、なんとか。会長の方は?」

『こっちもなんとかね。今、シャルロットちゃんと向かってるわ』

「了解。合流します」

織羽が望遠で見れば、シャルロットを抱えた楯無が飛んできている。

そしてセンサーが、遠くから向かってくる機影を捉えた。弾薬など、最低限の補給を終えたセシリア、鈴、ラウラだ。

飛ぶことの出来ない簪と、もしもの時の為にフィリー、千冬は船に待機している。

「一応、全員無事……でいいのかな?」

「織羽。一夏達の姿が見えないが……何処だ?」

「ん? 二人なら今頃……」

織羽が空を見上げる。釣られて箒も上を見やった。

「……空?」

「宇宙よ」

「うちゅっ……!? 何でそんな所に!?」

「デモニアの発射を阻止できなかったのよ。それを追いかけて……ってところよ」

「そうか、デモニアの……そうだ、デモニア!」

一際大きな振動の正体に気づいて納得しかけた箒だったが、ハッとして、慌てて通信を繋ごうとする。そのチャンネルは白式のものだ。

「どうしたの、箒?」

「教えなければ……デモニアの正体を!」

「デモニアの正体……て、織斑兄君の体のこと?」

「そうだ。あれは春斗の………え?」

箒が目を瞬かせて、織羽の方に向く。

「し、知っていたのか?」

『むしろ、箒さんが知っていた事の方が驚きですわ』

「セシリア?」

紅椿の通信ウインドウにセシリアが映る。次いで、鈴、ラウラも映った。

『やっほー箒。一日ぶりね』

『鈴。ふざけている余裕はない。箒、性急ですまないが、ファウスト博士の居場所に心当たりはないか?』

「いや……だが、ここに居るのなら管制室ではないか? 移送される途中で、チラリと地図を見たが、中央の施設の最上部にそれらしいものがあるようだ」

『ならば急ぐぞ。ファウスト博士の身柄を押さえれば、こちらの勝ちだ』

『そうね。全員、中央施設の制圧とファウスト博士の捜索を開始して』

『了解!』

楯無の指示にセシリア達が返事を返し、進路を中央へと変える。

「どういう事だ?」

「ファウスト博士がもしかしたら、デモニアの停止コードを知っているかもしれないのよ。あたし達のISは、デモニアの特殊攻撃で停止させられちゃうから、白式と裏白式しかまともに戦えない。でも、正面から行って倒さなくても停止コードさえあれば、止める事は出来るってわけ」

「なるほど。デモニアは月華白雪でも苦戦する相手だ。正面切っての戦闘を避けるのだな」

箒も楯無らと共に移動しながら、織羽から大まかな説明を受ける。

「………まぁ、それだけじゃないんだけどね」

「? それはどういう――」

 

 

『私をお探しかしら、お客様方?』

 

 

「「「「「―――っ!?」」」」」

突然、全員のウインドウに映った赤い髪の女。瞳に底知れない狂気を宿した標的――ファウストその人だ。

ISの通信ネットワークをジャックして、その不快なまでに歪んだ笑みを彼女達に見せつける。

「ファウスト……!」

箒の言葉に、全員が目を見張る。

「これがファウスト博士……!」

「ブリーフィングで見た写真とは、随分と印象が違うな」

船内で全員が見た写真は、失踪直前の物であったが、しかし十年も経っていないにも拘わらず、その容姿はまるで数十年という年月を経たかのようであった。

『フフ……人生、苦労を重ねるとね……顔も変わるものなのよ。でも、お嬢ちゃん達にはまだ早い話かしら?』

「悪いけど、こちらは世間話をする気はないの。おとなしく投降しなさい」

『投降……? どうして、そんな事をしなければならないのかしら?』

楯無の言葉を聞き、ファウストは薄ら笑いを浮かべる。

「何言ってんのよ。そっちの無人機は全部ぶっ潰しちゃったんだから!」

「何を企んでいるかは知りませんが、既にチェックは掛けておりましてよ?」

『なるほど……その様子だと、充分に楽しんでもらえたようね。もてなした甲斐があったというものだわ』

「そうね。充分楽しませてもらったし……そろそろ、主賓の顔を見せて貰いたいものだわ」

皮肉たっぷりに織羽が言う。ファウストは少しばかり考える素振りを見せた。

『そうね。なら、セントラルタワーの頂上を見なさい』

全員が中央塔頂上部へと望遠を向ける。そこには、海風に赤髪と白衣をたなびかせるファウストの姿があった。

見られていることを理解しているのか、白衣のポケットからディスクを取り出してみせる。

『あなた達の狙いは……デモニアの停止コードでしょう。確かに、緊急停止コードは存在する。それを入力すればデモニアを停止させる事が出来る』

ディスクの存在に全員が色めき立つ。あれが本物であるかどうかなど考えることも出来ない。

ただ――楯無と織羽だけが嫌な予感を覚えた。

あれは所謂、敵側のジョーカーだ。あれを人質にすればこちらは動けなくなる。本物か偽物かの関係なくだ。

だというのに、それをしないのは何故だ。

そんな思考を読んだか。ファウストはにぃ、と口角を歪ませる。

『ところで、絶望を与える最も効率の良いやり方って何か……知っているかしら?』

ディスクを持った手をスッと伸ばし――

『答えは簡単。相手に希望を与えて、それを眼前で粉微塵にするのよ』

静かな狂気に満ちた声とともに、ディスクを弾く。

「っ……!?」

放物線を描き、要項をキラキラと反射させて、ディスクが落ちていく。そして――壁面にぶつかって無数に砕け散った。

「ディスクが……!」

茫然とする。そして尚、ファウストは愉悦の笑みを崩さない。

『これで、停止コードは私にしか入力できない。そして――』

「誰か! 彼女を止めなさい!!」

楯無が叫ぶ。ディスクの手とは逆の方には、護身用のデリンジャーが握られている。

それを、見せつけるかのようにして自分のこめかみへと持って行く。

何をする気か、その場にいる全員が理解した。最低で、最悪な結末に加速させるつもりだと。

「止めろぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

箒が叫び、セシリアが、ラウラが、織羽がそれを止めようと飛ぶ――が、既に遅かった。

『これで………誰にも止められない』

 

 

――ぱぁん。

 

 

乾いた音が響き、太平洋を流れる風の中に消える。

「あ……」

止めようと伸ばしたその手をすり抜けて、全てを嘲る笑みを貼りつけたまま、ファウストと呼ばれた者が墜ちていく。

やがてセンサーが、グチャリという音を否応なく拾い上げた。

「くそっ……!」

織羽は悔しさを吐き出して壁を殴りつける。金属製の壁がベコリと歪む。

楯無はシャルロットをセシリアに預けてから、苦々しい表情と共に、ファウストの遺体の元へと降りる。ラウラもそれに続いて下へと降りた。

自ら頭部を銃で撃ち抜き、その上、見上げる程の高さからの落下で、確認するまでもなく即死。下は文字通り、血の海と化していた。

「………」

「………」

「………」

今の彼女達は、きっとファウストの想像した通りの顔をしているだろう。

彼女が最後に刻みつけた、余りにも禍々しい『絶望』という名の呪い。

自らの命と引き替えにして掛けられたそれは、少女たちの心を過重なる鎖で縛りつつあった。

『やぁやぁ、そんなに落ち込んで~。どうしたのかな、箒ちゃん?』

「っ……姉さん!?」

突然通信に顔を見せ、そして向こうから飛んでくる千冬の真打鉄に抱えられた姉の姿に箒は驚く。まさか、束がここにいるとは思わなかったからだ。

『うんうん。見たところ何処も怪我はしていないようだね~。おねーちゃんは安心しましたよ!』

「姉さん……」

箒の脳裏に、ファウストのした話が蘇る。ISの秘密、そして束の本当の目的。

「ね――」

『おっと、待っただよ』

聞きたいことがあると顔に出ていたのか、ピッと指を立てて、束は箒の言葉を遮る。

『今は他に調べなくちゃいけないことがあるからね。束さん、大忙しなのだよ~』

「……分かりました」

確かに、束の言う通りである。ファウストの自害という最悪の決着を見ながら、しかし未だに戦いは終わっていない。

宇宙ではデモニアと、それを追っていった一夏達が戦っている筈なのだ。

束はそのまま中央塔の中に入る。箒達も楯無とラウラを残してそれに続いた。

 

 

 

 

 

建物上部にある総合管制室。束はそこのシートに腰掛け、無数のキーを目にも止まらない速さで操作していた。

だがしかし、その表情はいつもの飄々とした余裕を見せてはいない。

「どうだ、束?」

「………ダメだね。停止コード入力のプロテクトは外せたけど、肝心の最終入力キーが生体認証になってる」

「どうにか出来ないか?」

「いやぁ……流石に束さんでも、これは手が出せないね」

「どうしてですか?」

鈴が首を傾げる。世界一の頭脳を持つ束に不可能があるとか、冗談にしか思えない。

「停止コードは四つの生体認証――つまり、『遺伝子』『声帯』『網膜』『静脈』を、同時に入力しないといけないの。そのどれか一つでも欠けた場合、二度と受け付けなくなる。やってくれるよ、本当に誰にも止められなくしてくれるなんてさ~」

束は背もたれに寄りかかりながら、深く溜め息を吐いた。

「とにかく、やれるだけはやってみるけど……こうなったら、後はいっくんと春るん頼みだね~」

そう言って束は再び、停止プログラムに向き合う。

「そんな! だってもう、月華白雪は使えないのに!!」

「そうですわ! もし使ってしまったら春斗さんが……!」

「? 春斗が……何だ? 月華白雪が使えないというのはどういう意味だ?」

シャルロットとセシリアの言葉に、箒が訝しんだ視線を送る。

「……箒さん。気をしっかり持ってお聞きなさい」

「……?」

「福音と戦った時のダメージと月華白雪を使った反動で、春斗さんの意識はもう……ボロボロになっているのです。次に月華白雪を使えば、春斗さんは……」

「………な、何を……何を言ってるんだ? 春斗が……どうなると言うんだ?」

不安が不安を呼び、声が上擦る。セシリアは沈痛な面持ちで、答えた。

「春斗さんが……消滅してしまうんです」

「ッ――!?」

余りにも唐突過ぎる事実に、箒はただ、思考を止めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

デモニア、そして白式が重力圏を超えて、衛星軌道上へと飛び出す。

先に大気圏を離脱したデモニアは、ブースターを切り離して、ウイングや装甲が鋭角に変化した、宙空専用モードへと移行する。

『大気圏離脱ブースター切離(パージ)! スラスターユニット高速展開!!』

背の大型ブースターが切り離され、同時に白式本来のスラスターユニットが展開される。

「くそっ、離されちまった! ていうか、息大丈夫なのか、今更だけど!?」

一夏はスラスターウイングを開き、推力を与える。デモニアを追い、音のない空間を白翼が飛んでいく。

『血中の二酸化炭素を分解して酸素と炭素に分け、適度に循環させるからね。一応、エアスクリーンも展開されているけど、あんまり息すると無くなるからね?』

「っ……!?」

慌てて息を止める一夏。

『いや、そこまでしなくても大丈夫だから。というか、ぶっつけ本番で無重力な方が不安だけど……上下感覚は大丈夫?』

『あぁ、足のある方が下だ!』

『……たった一つの、シンプルな答えをありがとう。それにしても』

春斗はモニターを出す。そこに映るのは蒼に白のマーブルを散らした世界。

遙か神の頂にあって初めて知ることの出来る――数多の命が生きる場所。

『皮肉なもんだね。宇宙開発の為に作られたISが、アラスカ条約で制限を受けて……なのに、兵器としての側面で、僕らはこうして宇宙にいる』

『こんな事態じゃなけりゃ、宇宙遊泳と地球観察を心行くまで堪能したんだけどな』

『そうだね。さて……接敵まで残り20秒!』

『行くぞ!』

一夏は雪片を握る手に力を篭める。デモニアも偽雪片を展開し、同時にエネルギー結晶を弾丸として撃ち放ってくる。

「っ――!」

一夏は雪片を振るって直撃コースのものを斬り落としながら、一気に距離を詰めた。

刺突で刃を繰り出し、デモニアを穿たんとするが、すぐさま剣を返されて弾かれる。

一夏はそれならばと、左脚のブレードを思いっ切り振り上げる。しかし、デモニアはそれを躱して、同時に一夏の胸部に刃を突き立てた。

「ぐっ――!」

痛烈な一撃を喰らい、一夏が呻く。デモニアはその一瞬の隙を突き、一夏を蹴り飛ばした。

「がはっ!?」

吹き飛ぶ一夏。すぐにスラスター制御で勢いを殺し、姿勢を制御する。

『やっぱり強い。あれを止めるには月華白雪しか……!』

『そいつは無しだって言っただろ! 白式だって、まだスペックの全部を引き出せてる訳じゃない。だから……!』

一夏が両手で雪片を握り直す。力強い瞳が、切っ先の向こうにデモニアを見据えた。

『まだ、行ける!!』

ごう! と、スラスターが力を発し、一夏の体が一気に加速する。

正眼から上段に両手を掲げて、一気に振り下ろす。デモニアはそれをあっさりと躱し、偽雪片を突き出してくる。

一夏は更に踏み込む。デモニアの刃が肩部装甲を滑り、顔スレスレを抜ける。

「ヒュッ!」

手首を返し、抜けるような息遣いと共に切っ先を跳ね上げる。雪片が、悪魔の鎧を捉える。

デモニアは僅かに揺らぎながらも、しかし突き出された刃を捻り返して、一夏の首筋を斬り裂かんとする。

「だらぁ!!」

一夏はとっさに左腕の雪羅を滑りこませ、刃を受け止めると同時に、その腕をガシッと掴んだ。

「やらせるか!」

一夏はそのまま強引に押しこむ。右手の雪片が光に包まれ、シールド無効化攻撃が発動する。

デモニアもすぐ、その左手にエネルギー結晶のブレードを生み出し、真っ向から受け止めた。

 

バチイッ! バチィッ!!

 

高エネルギーが反発し、何度もスパークする。流石のパワーに、白式も何度となく押し返される。

「っく! このっ!」

捉えていた左手を振り解かれる。一夏は間合いを離されないように前進し、距離を保つ。

『一夏……っ!』

「こいつ、昨日ほどの強さがない? ……なら!」

理屈は分からないが、デモニアの力が前よりも下がっていると判断した一夏は、一気に攻勢にでる。

敵の動きを注視し、先の先を読んで潰しにかかる。

(一夏。君は……自分が何をしているのか分かってるか?)

確かにデモニアは昨日ほどの性能はない。それは恐らく、この先に待つ本体とのドッキングに向けて、システムが調整されているからだろう。

VTシステムで動くデモニアは、そのあたりに不具合が生じている可能性があった。

だが、それでも夏休みに戦った時とは比較にならない戦闘力だ。にも関わらず、一夏は戦えているのだ。

今の一夏にはあらゆる物が足りない。技量も、経験も、時間さえも。だが、それを補って余りあるものが彼を突き動かす。

技量が足りないなら集中で支え、経験が足りないなら気合で補い、時間が足りないなら今この場で成長をする。

時間も限られ、初めての宇宙空間、そして絶対に負けることの出来ない戦い。

積み重なった困難が今、織斑一夏という存在を高みへと上げてく。

振られる一合一合が、名刀を生み出すための槌の一振りのよう。そして散る火花は、刃の波紋一つ一つを生み出す如く。

(大したものだよ……本当に、君には敵わない)

練磨と研鑽が、織斑一夏を名刀へと昇華しつつあった。

今ならば、月華白雪を使わなくてもデモニアを止められるかも知れない。

『一夏、デモニアの動きを止めるんだ! そうしたら僕が月虹でハッキングして、プログラムを書き換える!』

『分かった、任せろ!』

デモニアの動きを止めるべく、一夏は体ごとぶつかる勢いで攻める。

デモニアも、後退しつつそれを受け流して捌く。

二機の激突は互いにダメージを蓄積させていく。しかし、白式の方が僅かに分が悪い。

「っ……!」

動きを止めるには零落白夜の直撃しかない。その一瞬を見極めようと、一夏は歯を食い縛る。

「っ……ここだっ!!」

デモニアの攻撃を躱して生じた、その一瞬の隙を一夏は狙った。がら空きの胸部。そこのコア・キューブを破壊すれば一気に動きを鈍らせられる。

「ハァッ!」

振り抜かれる斬光。そしてデモニアの装甲に、一文字の傷が刻まれる。

『今だ、一夏!』

 

雪片を左手に持ち替え、右腕を晨月へと変える。装甲が開き、最強の電脳武装〈月虹〉が起動する。

「おぉおおおっ!」

突き出されたその手が、デモニアを捕らえる。

『プログラムアクセ――』

 

―― 敵機後方より多数の攻撃確認 ――

 

「『っ!?』」

ハッとした瞬間、二人は思いっ切り弾き飛ばされていた。何とか体勢を立て直す二人の視界に、信じられないものが映った。

「な、何だよあれは……あんなのどうして!?」

『まさか、あれがI・S・Eの本体……!?』

ステルス潜行していたそれが、星の海に姿を現す。

全長100mはあろうかという、巨大な蕾のような姿。それが今、デモニアを取り込もうとしている。

「しまった、デモニアが!」

今ならまだと、一夏が向かおうとするその上方から、無数の閃光が走る。地上でフォー・リーフス防衛に当たっていたアンズーの同型が十数機、接近してきている。

「邪魔をするなぁああああああああああっ!!」

一夏は怒りに吼え、邪魔者を破壊すべく飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

フォー・リーフス甲板にて、箒達は空を見上げていた。

「姉さん、やはりどうにも出来ませんか?」

『うーん……流石にコアそのものをどうにかされちゃうと、ISは無力だからね~』

「だったら、僕が行きます! 同じI・S・Eのコア・ディバイドを跳ね返したんですから、デモニアのだってきっと……!」

『金髪二号。あんな出来損ないの物真似を返したからって調子に乗るな。あの程度、他のISにだって出来る事だよ。春るんのコア・ディバイドは容赦なく、全てを停止させるんだからね』

辛辣に言われ、シャルロットはしゅんとする。そもそも、機体ダメージの大きいドラグーンでは、まともな戦力にならない。

「歯がゆいですわ。こうして地上を抑えられたというのに、こちらからは止める術がないとは」

セシリアはぎゅっと拳を握り締める。宇宙へ行くこと自体はそこまで難しいことではない。だが、宇宙空間での戦闘となれば、ISを殺されてしまう彼女達は戦力足り得ない。

彼女達に出来ることは、信じて待つ以外に無いのだった。

『ん? これは……何かな?』

と、束が何かを見つけたのか声を上げた。

「どうしました、姉さん?」

『う~ん……宇宙も相当、やばい感じだね~。これ見てよ~』

管制室から、各ISにデータが送られてくる。そこにはとんでもない存在が記録されていた。

「な、何だこれは……!?」

「これが……I・S・Eの本体だというのか?」

『全長101,32m。太陽光と無数のコア・キューブで絶対エネルギー量を持った超弩級機動兵器。その名も〈ブラッド・ガーベラ〉』

「こんなものと一夏達戦うっての!?」

「落ち着け、鈴。デモニアとドッキングする前に止めれば問題ない」

鈴を落ち着かせようと、ラウラが声をかける。しかし、鈴の動揺は収まらない。

「でも……デモニアだって全員で掛かって、負けたのよ!? それを一夏と春斗だけでなんて……」

「だが、我々が行っても足手まといにしかならない。既に分かっていることだろう?」

「それでも……それでもなのよ!」

もしかしたら、追い詰められた二人が月華白雪を使ってしまうのではないか。そう考えて、堪らなくなった。

鈴はただ、祈るように手を組んだ。自分の不安が杞憂で終わることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「どけえっ!!」

一夏は邪魔な敵を斬って捨てて、デモニアに迫る。デモニアは既にブラッド・ガーベラの解放された部位に入り込み、その体をロックされ始めている。

だが、まだ間に合う。一夏はスラスターを全開にして、最短距離を突っ込む。

降り注ぐ攻撃に被弾しながらも尚、一夏は速度を上げる。

デモニアを防衛しようと、ブラッド・ガーベラが障壁を重複展開する。

「ぶった切る!!」

一夏は雪羅のクローモードを起動。障壁を砕く。砕く。砕く。

「これで―――がっ!?」

後一枚というところで、アンズーが一夏に取り付きその侵攻を押さえる。

「このっ……離せぇえええええっ!!」

引き剥がそうともがくが、完全にホールドされてしまい、なかなか外せない。

そうしている間に、ブラッド・ガーベラの隔壁が閉まっていく。

「うぐうううう……ぁああああああああああっ!!」

一夏は雪羅を伸ばし、カノンモードを最大出力で撃ち放った。が、それは障壁を貫きながらも、射線上に飛び出したアンズーによって防がれてしまった。

そして爆煙の中、隔壁が閉じる。

「あ……うぁあああああああああっ!」

絶叫とともに、アンズーに粉砕する。

「くそっ……たれがぁ!」

『一夏!』

「っ……!? なんだ……?」

真紅の線が、ブラッド・ガーベラに走る。そしてゆっくりと、蕾が開いていく。

四つの花弁に、キラキラと光る無数の花びら。禍々しい程に赤い大輪の華が、暗黒の空間に咲き誇った。

「これは……!」

『I・S・Eが起動した……!』

ブラッド・ガーベラ。その名に偽りなき真紅の徒花は今、正にこの世界を破壊するために顕現したのだった。

 

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