本来ならば、遠距離であり、ネットワークにジャミングを受けている以上は起こる筈がない事であるが、箒はそれを知る由もない。
「春斗……私に出来ることとは何だ? 私はどうすれば良い?」
「簡単なことだよ……信じて?」
「信じる……? 勿論、私は一夏さんを信じておりますわ」
戸惑うセシリアに、春斗は苦笑して訂正する。
「違うよセシリアさん。信じるのはISのこと……そして自分のことをだよ」
「自分とISを信じて、それでどうにかなるっていうの?」
鈴が当然の疑問を口にする。春斗は自信を持って、頷いて返した。
「どうにかなる。なるからこそ……鈴ちゃんの力を貸して欲しいんだ」
「義兄上。ISを……自分を信じることが、一夏の助けになる……そう仰られるのですね?」
少し考えする素振りを見せたラウラであったが、意を決した瞳を春斗に向ける。
それを受け取って、春斗は笑った。
「そうだよ、ラウラちゃん。想うことは無力じゃない。信じることは無駄じゃない。心が生み出す力は誰かを支え、そして奇跡さえ起こせるんだ」
「それは良いとして……君はどうやって、こんな現象を引き起こしたっていうの?」
楯無は瞳を細め、春斗を射抜く。伊達に生徒会長、そして国家代表を務めているわけではない。この現象――
「そうですね……ちょっとした裏技、とでも申しましょうか……」
これには春斗も戯けて誤魔化すしかなかった。
「……でも、私なん何かが力になれるの……?」
「更識さんはもっと自分を誇っていいと思うよ? 君は自分の意志で危険な戦場に来たじゃないか」
自信なさげに俯く簪に、春斗は優しく声を掛けた。
「一つ確認するけど……君は大丈夫なの?」
「……どういう意味?」
織羽の言葉に、少しばかり春斗が言い淀む。
「どんな状況下は分からないけど、相当にヤバイ状況なんでしょ? ただでさえ消えかけてる状態で……大丈夫なの?」
「戦場の最前線……しかもIS史上初の宇宙戦闘となれば、危険がないほうがおかしいと思うけどね。だからこそ、力を貸して欲しいんだ」
「春斗……っ」
不安げな声で、シャルロットは春斗の手を掴んだ。
「シャル……?」
「怖いんだ。なんだかもう……春斗に会えなくなっちゃいそうな……そんな事無いよね?」
今にも泣き出しそうなシャルロットに、春斗は少し困ったような顔をした。
「春斗。絶対に……絶対に帰ってくるよね? 大丈夫だよね?」
シャルロットは尚も縋りつくような瞳で見上げてくる。春斗は言葉では答えず、代わりにその前髪を救い上げ、額にそっと口付ける。
「っ……春斗?」
いきなりおでこにキスをされ、驚きと羞恥でシャルロットは真っ赤になる。そんな彼女を見て、春斗は優しく笑い――ギュッと抱きしめた。
「は……春斗?」
箒は突然抱きしめられたことに混乱し、しどろもどろになる。顔は耳まで真っ赤であり、心臓も狂ってしまったかのように五月蝿い。
「ありがとう、ほーちゃん。君に逢えて良かった……」
「何を馬鹿な事を……! それではまるで………っ」
箒はそれ以上、言葉を続けなかった。代わりに、その背に手を回す。
「私もだよ、春斗。だから……必ず帰ってきてくれ。まだ、私たちは始まってもいなのだからな」
「……うん。分かってる。だから……その為に」
身を離し、春斗はその手を取る。
「〈鍵〉に願いを……〈剣〉に力を……」
瞳を閉じて祈る少女達。その機体から静かに光が溢れ出す。
その全てに表示される言葉があった。
―― Accessed CoreNetwork.Code〈Key The Black〉 ――
某所。
「おい! 何がどうなってるんだ!?」
「くそっ! どうして〈福音〉が起動しているんだ!? コアの凍結処理は完璧だった筈だぞ!?」
観測計器は全て異常を示し、室内には警報が鳴り響く。
慌てふためく研究者達を余所に、ナターシャ・フィルスはただ覚醒した彼女を見つめていた。やがて何を思ったか、封印管理室のロックを解除して中に入った。
「何をやっているナターシャ・フィルス! 〈福音〉の暴走にまた巻き込まれぞ!?」
怒号のように叫ぶ研究者を無視し、ナターシャは
「これは……歌ってる?」
まるで戦いに行く者を鼓舞するかのような、激しくも愛おしさに満ちた歌声。こんな歌をナターシャは聞いたことがなかった。いったい何が、彼女をこうもさせるのか。そもそもどうして、凍結されていたコアが勝手に覚醒したのか。
既に封印は解かれている。ナターシャの決断は早かった。
「きて……
そう呟くと、光が弾けてナターシャの体を福音が包み込む。そして感じる。
遥か天空の頂にて対峙する、禍々しい悪魔と王の如き黒白の騎士の姿を。
「そう……そういうことなのね」
この子は彼らを応援しているのだ。ならば彼女も彼らには恩がある。応援することに何の躊躇があろうか。
「頑張って……少年達」
『束様!』
突然、束の回線に通信が届く。そのラインを知っている人間はごく少数であり、つまりは束の既知の相手ということだ。
「おやおや、くーちゃん。どうしたのかな?」
『コア・ネットワーク観測機が異常反応を……!!』
「……まさか」
束はすぐに観測データを表示させた。そしてそこに表示されたものを見て、これでもかという程に大きく目を見開いた。
「これは……こんな事が……! あはは……あはははははははははははははっ!」
最初、その瞳は驚きに染まっていた。だがやがて、狂気じみた歓喜へとシフトしていく。
「凄いなぁ本当に! まさか、まさかだよ!! まさかこれほどだなんて!! あはははははははは!!」
狂ったように笑い続ける束。その瞳から、一筋の雫が溢れる。
「……本当に、凄いなぁ………いっくんも春るんも……」
溢れだし渦巻く、言いようのない感情。それを処理し切れず、束はただ小さく呟いたのだった。
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―― 究極単一能力 天雲無限 ――
その表示と共に、月華白雪が更に変形する。装甲の継ぎ目に光が走ったかと思うと、まるで展開装甲のように開いていく。
そして開いた箇所から、金色の光が溢れ出した。
―― 絢爛舞踏 発動 ――
本来ならば紅椿の力である絢爛舞踏が発動し、月華白雪のエネルギーメーターが急速に回復していく。
―― エネルギー600…870…1220……2250…… ――
更に限界値さえ超えて尚、エネルギー増幅は止まらない。溢れ出す力が噴出口を求めて暴れ狂う。
―― エネルギー ∞ ――
「行っくぞぉおおおおおおおおおおおおおっ!」
ウイングが力強く開き、虚空を切り裂く流星は金色と純白の粒子を撒いて羽撃く。
月華白雪に向かって、迎撃が向かってくる。曲線を描いて降り注ぐ、深紅の雨。一夏は止まらず、雪羅を構える。
「雪羅、シールドモード!」
―― 霞衣展開 相殺防御 ――
零落白夜のシールドがまるで城壁のようにそびえる。絶対障壁の前に、エネルギーの矢は瞬く間に霧散して果てる。
「うぉおおおおおおおおっ!」
そのまま零落白夜を開放し、霞衣を敵の障壁目掛けて叩きつける。
「行くぞ……これが〈天雲無限〉の力だ!!」
一夏は雪羅をカノンモードに切り替える。だがそこに荷電粒子はない。代わって、砲口の空間がぐにゃりと歪んでいく。
「喰らいやがれ……龍咆!!」
叫び、トリガーを引く。カノンから発射されたのは――熱殻拡散衝撃砲。それは鈴の甲龍の武装であった。
撃ち放たれた紅蓮の散弾が今なお残る障壁とぶつかって爆炎となる。
だが、燃えるものの無い宇宙空間ではすぐにそれは散っていく。その向こうからは無傷のブラッド・ガーベラが現れ、既に反撃態勢を取っていた。
次々に出現する深紅の砲弾。あっという間に百を超えて、それらが一斉に発射された。
ただの一発でさえ喰らえば、装甲ごと肉体を持っていかれるだろう。しかも物理弾である以上、雪羅のシールドは意味を成さない。
だが一夏は一切の焦りも無く、その右腕を掲げた。
「お前の力……借りるぜ、ラウラッ!」
晨月の掌からレンズが出現し、それを全面に押し出すように突き出す。
「超停止結界!!」
キラリとレンズが光るや、プリズムエフェクトが虚空を染め上げる。その輝きに触れるもの全てが空間に縫い込まれたかのように停止していく。
その効果範囲はオリジナルであるシュヴァルツェア・レーゲンを遥かに超えるものであった。
動きを止めた砲弾。一夏はすぐさま動く。六機の自立稼働砲台の砲口が前面、上方に向けられる。
「行くぜ、
ドドウッ! と、六つの光矢が発射される。それは砲弾を貫通して爆砕していく。一夏は左手を握り、人差し指を突き出す。
「ばぁんっ!」
ギュォオオオオオッ!
放たれた閃光が急激にカーブし、六つの光は己が意識を乗っているかのように舞い踊り、砲弾を砕いていく。
偏向射撃(フレキシブル)。BT搭載機の力で、次々に破壊していく。
「っ……?」
砕けた欠片が周囲に散って、まるで一夏を囲むようになっている。
直後、閃光が撃ち放たれた。だがそれは直接一夏には向かってこない。
ハイパーセンサーが警告を発する。一夏はすぐさまAICを解除して、そこから飛び退いた。その鼻先を掠めるように、閃光が過ぎる。
「まさか!?」
一夏は更に身を捻る。その背後を閃光が抜ける。敵のレーザーは破片に乱反射して、一夏を襲っているのだ。
ウイングスラスターの出力を下げ、機動力で回避行動を取る。雪羅のシールドも展開して防御するも、シールドは全域展開できず、あっという間もなく閃光の檻に包まれる。
突き刺さる無数の矢。エネルギーが無限となり、絶対防御の発動でもガス欠にならないが、しかしダメージが無効化されているわけではない。
絶対防御とは肉体の損傷に対する保護機能であり、攻撃を受ければその分のダメージは蓄積される。
「ぐぅう……っ!」
光が月華白雪を呑み込んでいく。そして最大にまで膨れ上がったそれがついに爆発した。
まるで小さな太陽かと思う程の輝きが宇宙を照らす。
「っ……危なかったぁ。コイツが間に合わなかったらヤバかったな」
その向こうから現れた月華白雪は、渦巻くエネルギーの鎧を身に纏っていた。それはラファール・ドラグーンの〈ヴェール・オブ・アテナ〉であった。
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天雲無限。それはインフィニット・ストラトスに記録されている、全てのISの能力を再現する究極単一能力である。
それはただの再現には留まらない。オリジナルを更にスペックアップした能力として発動することが出来る。事実上、月華白雪を上回るISは存在しない事になる。
だが、それらの力はネットワークに蓄積された膨大なエネルギーを制御する存在があってこそ成り立つ。
巨大な門扉の前で、〈
「天雲無限発動率安定……情報エネルギー暴走なし。引き続き調整を続行」
『今更だけれど、もう君は帰れない。既に君に人間としての部分は完全に崩壊している。ここにあるのはコアとの長期の接触によって生まれた変異部分……それでさえ、この戦いが終われば消えてしまう』
意識体の崩壊故に、コア・ネットワークの真相を知り、深層に辿り着けた。それが世界を救う最後の希望であり、織斑春斗という存在の終焉を決定付ける。
だが、春斗は静かに首を振った。
「……大丈夫。全部、覚悟出来ていたから。自分惜しさに足踏みするなら……それこそ僕に生きている価値はない!」
春斗は叫び、両手を振るう。それとともに星の瞬きが激しくなる。無限を構成する星の意思が、春斗の意思に応えていく。
そして背後の門が少しだけ開く。溢れ出す光は風となって吹き荒れる。
「データロード。星よ、我が導きにて進め」
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宇宙に咲く凶華。その周囲に幾輪もの紅蓮が咲く。其の間を切り裂いて飛ぶ金の彗星。
「いよいよ以て、やりたい放題になってきたな……!」
一夏は攻撃の嵐を躱しながら舌打ちする。
ブラッド・ガーベラは目的遂行の障害として月華白雪排除を最優先とし、苛烈な攻撃を仕掛けてくる。
レーザー、結晶ミサイルによる弾幕。ワイヤーアームの連続攻撃に、容易に接近さえも仕掛けられない。
月華白雪も全射撃武装を使って仕掛けるも、やはり敵の障壁が邪魔をする。向こうが標的としてこちらを捉えたのは良いが、一夏自身の限界もあり、これではジリ貧だ。
「目には目を、弾幕には弾幕で……勝負だ!」
月華白雪のスラスター翼から、白光が収束していく。それはやがて輝く翼へと変化した。
かつて七機もの専用機を相手取り、破壊の猛威を振るった堕天使の翼が星の海に蘇る。
「コイツの機動力なら……!」
バサァッ! と力強く羽撃き、白式はまるで幻影の如く宇宙空間を滑っていく。
それを射止めようと、更に加熱する弾幕。それを錐揉み回転で躱しながら、正面に構えた雪羅のカノンが火を噴く。障壁と激突するエネルギーが、バチバチと飛び散る。
「だったら、これでどうだ!」
一夏は機首を持ち上げ、ブラッド・ガーベラの上方に回る。そして大きく翼を広げ、その先端にエネルギーを集束させる。
「ぶった切れ、シルバーソード!!」
その掛け声とともに斬裂光線が走る。高密度に圧縮されたそれは障壁を切り裂き、ブラッド・ガーベラの花弁と装甲をついに斬り裂いた。
内部機関の損傷で爆発が起こり、同時に動きが鈍くなる。弾幕を集中させる事で、それを補おうとするブラッド・ガーベラ。
だが、これは今だけかもしれない。一夏の肉体も限界をとうに超えて悲鳴を上げている。だからこそ、これが最初で最後のチャンスだ。
「行くぜ、月華白雪!!」
銀翼が巨大になり、放たれる羽根状のエネルギー弾
一夏は迎撃を
そして右手に雪片弐型を展開し、柄頭を弦に掛ける。
「零落白夜発動! プラス月華白麗!!」
―― 零落白夜 発動 ―― ―― 月華白麗 発動 ――
雪片が開いて光刃を出現させ、そのまま弦を引き絞ると刀全体をエネルギー無効化フィールドが包み込む。
その視界を迎撃の爆発が絶え間なく覆い隠すので、ハイパーセンサーの情報から狙いを絞る。
「この一撃で……行けぇっ!!」
射ち放たれる流星。その行く手を阻むかのような閃光の嵐を穿ち抜いて、真っ直ぐに飛ぶ。
その図体のせいで即座の回避ができないブラッド・ガーベラは、即座に結晶シールドを多重展開。光矢を正面から受け止める。更にワイヤーアームのブレードで矢を押さえ込もうとする。
凄まじい光と共に拮抗する力。多重シールドに切っ先が徐々に減り込み、ブレードはその先を欠けさせながらも確実に雪片を押さえている。
「今だ!」
何方が勝つにせよ、それは次への布石。結果が出るまで待つつもりはないと、一夏は月影を放り捨て、その両手をガシリと合わせる。
そこにエネルギーが集中し、無から有を生み出していく。
ゆっくりと離される事で出来た間には光があり、それはやがて一振りの剣へと変わった。
大型である打鉄の刀よりも大きな、幅広の西洋剣。
「――〈
それは今から十年前、世界中の人間にISという存在を一瞬で焼き付けた――IS〈白騎士〉の剣であった。
柄を右手で握ってその切っ先を引くと、一気に加速した。
「どるあぁああああああっ!!」
正面には雪片弐型。その柄頭に向かって、一夏は左手を拳に握りしめ――殴りつけた。
その一撃は雪片の柄を破砕しながらも更なる押し込みとして一気にシールドと、押さえつけていたブレードを粉々に打ち砕いた。
飛び散る破片を吹き飛ばし、流星は障壁も貫通してブラッド・ガーベラの装甲を貫き、奥深くに侵入する。
そしてエネルギー無効化の呪縛がその身を蹂躙し、凶華を身の内から抉る。
生まれた一瞬の隙に、一夏は特攻をかけた。
向かい来るワイヤーアーム。同時に結晶ミサイルが襲い掛かるが、一夏は白星剣を振り抜き、それを粉々に斬滅した。
「はぁああああああっ!」
光の翼からスラスターウイングに切り替え、一気にブラッド・ガーベラの懐に飛び込む。そして穿たれた穴に向かって刃を走らせた。
火花が散り、装甲が粉砕される。内部に一気に飛び込んで、一夏はその剣を縦横無尽に振るった。
内部機関の爆発。エネルギー回路の暴走。あっという間に紅蓮の海と化し、それでも月華白雪はその刃を止めない。
内側から容赦なく攻撃を叩きこみ、同時に索敵センサーの示す方へと飛ぶ。
そこはブラッド・ガーベラの中核。邪魔な隔壁を纏めて吹き飛ばして、そこに飛び込む。
球体状に開けた空間。その真ん中を繋ぐ柱の中に、一夏は見つけた。デモニア――否、織斑春斗の体を。
「今度こそ……終わりだ!!」
刃を構える一夏。そして、デモニアをロックしていたユニットが外れる。
爆発は止まること無く連鎖していく。膨大なエネルギーを保有していたせいで、その爆発はブラッド・ガーベラ全域にまで及んでいる。
禍々しい花弁は次々に砕けて散り、巨大な要塞であったその姿は割れて崩れていく。
だが、更にダメ押しとばかりに、内部から更に爆発、そして閃光が走る。
砕けた凶華の花弁を貫いて、飛び出す二つの機影、デモニアと月華白雪だ。
スペック上は互角。しかし一夏の肉体は限界を超えており、精細さを欠く。
デモニアもまた、ブラッド・ガーベラ破壊の反動があるのか、動きにキレがない。
「おぉおおおおおおおっ!」
ぶつかり合う刃。白星剣がデモニアの巨剣を弾き飛ばす。だが、デモニアの蹴り足が白星剣を彼方へと弾いた。
互いに武器を無くし、しかし止まらない。一夏は雪羅のブレードで、デモニアは錐状のブレードで互いを攻撃する。
バキィイイイイイン!
正面から激突する刃。拮抗すること無く砕け散った。
「おぁああああああああああ!」
一夏の拳が、デモニアの顔面に突き刺さる。その仮面に亀裂が走った。
「――がはっ!」
直後、デモニアの膝が一夏の腹部に突き刺さり、悶絶する。揺らぐ一夏に、デモニアの拳がぶち込まれる。
鉄球を豪速球でぶち当てられたかと思うほどの衝撃を受けて、一夏はブラッド・ガーベラの装甲板に叩きつけられた。
デモニアはそのまま、一夏に向かって巨拳を振り上げた。
ズゥウウウン! という強い衝撃で、月華白雪は更に減り込む。
二度、三度と攻撃を喰らい、装甲が、肉体が軋む。
「春……斗おぉおおおおおおっ!!」
もう一撃と振り上げられたデモニアの拳を受け止め、そのまま雪羅のクローで握りつぶす。
そして全身のバネでデモニアを蹴り返し、一夏は装甲版から強引に体を引き戻す。
もう、力も技もない。意地だけが一夏を突き動かす。
ブラッド・ガーベラはその巨躯を崩壊させながら、大気圏に突入する。
真っ赤に染まり、小さなかけらは瞬時に燃え尽きていく。そして一夏とデモニアは落下するブラッド・ガーベラを足場にして、大気圏に突入しながら尚も殴り合う。
「あぁあああああああああっ!」
砕ける装甲。破片が飛んでいき、高温に焼き尽くされて果てる。
ハイパーセンサーが再突入の異常加熱に警報を鳴らす。だが、それを気にする暇など無い。
デモニアの重い一撃が突き刺されば、一夏は二度やり返す。防御も回避もかなぐり捨てて、攻撃を貫き通す。
「これでどおだぁ!!」
全身全霊の一撃。デモニアがついに崩れる。足場から弾かれ、重力鎖に引かれて墜ちていく。
一夏は最後の力を振り絞り、飛んだ。
全身を襲う高熱。常時絶対防御発動状態の中で、とどめの一撃を構えた。
「雪羅ぁ! 晨月っ!!」
開かれる両ユニットの装甲。噴き上がる力。
「プログラム……アクセス!!」
その頭部を右手で鷲掴み、そして瞳の奥に、春斗を操る邪悪な存在を捉える。
「これで終わりだ」
一夏はそれ目掛けて――雪羅を振り上げた。
「プログラム……ブレイクゥッ!!」
まばゆい聖光が、天蓋に輝いた。
『――終わったね、一夏』
「……あぁ、やっと終わったな」
白式は今、上空数千メートルの位置にいた。彼方には美しい太陽があり、その足元には純白の雲のカーペットが、遥か向こうまで敷き詰められている。
風は冷たいが、ISのバリアによって寒さは余り感じない。
『凄いね……まるで天国だ』
「生きてる内に天国か? まぁ、たしかに綺麗だけどさ……」
一夏の腕には春斗の体がある。既に悪魔は消し去られ、その身を包んでいた鎧は砕けて散っている。
『ありがとうね、一夏。これで……やっと………』
「……バッカ。礼なんて言うなよ……俺達は、家族なんだぜ?」
そう言って笑う一夏。
だが、言葉は返ってこない。
一夏はその手に握った黒いブレスレットを、そっと春斗の腕に通した。
ごう、と強い風が吹き抜ける。
「帰ろう、春斗。皆の所に。ここは………少し寒過ぎるな」
ギュッとその体を抱きしめて、一夏はポツリと呟いた。
そして風は、その一滴を遥か雲の向こうへと流していった。
『――これが、過去より今へと繋がる物語の全て』
『その先にある未来は一つ。そして一人の少年の喪失と共に、戦い抜いた若者たちの心に消えること無い傷を残す結果が残る』
『それはしかし、決して避けることの出来ない宿命』
『故に、我らは彼らの物語の全てを共に追いかけてきた諸兄に問う。この宿命を如何とするか?』
『是とするならば沈黙を。否とするならば声を上げよ』
『言ノ葉は意思の代弁。意思は力の指針。力は言ノ葉にそれを成す為の一歩を刻む』
『強い意志が、無限の言霊が……宿命の星さえも動かす奇跡を呼ぶ』
『――我らが何者か?』
『我らは守護者にして、門の守り手』
『無限の体現者にして、その執行者』
『我らは――無限情報ネットワーク〈インフィニット・ストラトス〉也』