結局、パーティーは十時まで続いて御開となった。
一先ず空腹はどうにかなったが、疲労はまた一夏を眠りへと誘い始めていた。
「良かったな。あれだけの女に囲まれてチヤホヤされて、さぞ良い気分だったろうな……」
「何処がだよ。お前があの立場だったら嬉しいか?」
「そうだな。嬉しいかもしれんな」
部屋に戻ってくれば、箒はご機嫌斜め。その意味が分からず、着替えを済ませた一夏はベッドに体を横たえる。
「あっそ。んじゃ、そろそろ寝るわ。今日はマジで疲れてるから……」
今のは勢い余ってというヤツなのは知っている。なので一夏はさっさとこの話題を切り上げた。
「なっ!? ま、まだ十時半だぞ?」
「だから今日は疲れてるって言ってるだろ―――ヘブッ!」
『……何処の倦怠期迎えた夫婦ですか?』
春斗のボヤキと共に、突如として枕が一夏を襲った。それをひっぺがし、一夏は犯人に向かって投げ返す。
「箒、何しやがる!!」
「うるさい! 今から着替えるのだ。むこうを向いていろ!!」
「分かったよっ! ったく……なんで一々、俺がいる時に着替えるんだよ? 俺が洗面所に行ってる間とかあるだろうが……」
「うるさい」
ギロリ。擬音が入りそうな視線をぶつけられ、一夏はゴロンと背を向けた。
ガラガラと、パーテーションが動く音がする。
「………」
『その向こうで、シュルシュルという衣擦れの音が響く。一夏は制服を脱いでいく箒の姿に以前見た半裸の姿を重ね合わせ、ゴクリと固唾を呑んだ。
箒もまた、仕切り一枚の向こうにいる一夏を意識し、ドキドキと胸を暴れさせてしまう……』
『へ、変なナレーション入れんじゃねえよ、春斗!?』
『いいじゃない。本当はドキドキで悶々としてるんだろう? ちなみに僕もそうだから大丈夫』
『うっせえよ!! 同類にするな!!』
そうこうやっている間にも、パサりという音が一夏の耳に届く。
一夏は一応、健全な少年。女子のアレやソレに興味がない訳ではない。
六年ぶりに再会した幼馴染は、欲目無しに綺麗だと思ったし、セシリアに手を握られた時もドキッとした。
のほほんさんはが腕を組んできた時など、肘に感じる柔らかさにドキドキであった。
そして今。たった180度体を動かせば、そこには桃色と肌色の世界だ。
『一夏、今こそ大人の階段を登る時だ! 大丈夫、僕は《海岸》まで落ちてるからごゆっくり。あ、自分の欲望にかまけたらダメだよ?ちゃんとほーちゃんの事を考えながらね?』
『何をもって大丈夫と言いやがりますか、テメェは!? そしてどんな気遣いだよ!!』
『恐れないで。一夏がその気になればもう、ここは二人だけのエデンの園だから』
『んな訳あるか! そんな事しようものなら、俺一人で天国に行かされるわ!!』
『…… 一夏。ほーちゃんが何で何時も、一夏の前で着替えてるか……理由、わからない?』
『嫌がらせ』
『死んじゃえよ、もう』
『ストレート過ぎねぇ!?』
「………いいぞ」
「やっと終わったか、やれやれ」
仕切り(パーテーション)外され、一夏はよっこらせと体を起こした。おっさん臭い男である。
「っ………」
箒は寝間着用の薄着物(浴衣のような物)を着ている。
すっかり見慣れたそれだが、何時もと違う事に気が付いた。
『あ、帯が―――』
「帯、新しいのに変えたんだな」
春斗が言うより早く、一夏がそれを指摘する。と、箒は少し上ずった声で驚いた。
「よ、よく見ているな……!」
「そりゃ、箒を毎日見てるからな。色も柄も違うし、すぐ分かるって」
「そ、そうかそうか。”私”を”毎日見ている”か。さ、さぁ! 張り切って寝るとしようか!」
「いや、寝るのに張り切ってどうするんだよ……?」
いきなり上機嫌になった箒に首を傾げつつ、一夏も自分のベッドに入る。
『あ〜あ、この鈍感マムシの毒にやられちゃって……かわいそうに』
『誰が鈍感マムシだこの野郎』
『一夏』
『容赦無いな今日は!?』
春斗もどこか何時もと違うような気がしたので、尋ねてみようかとした時、隣から声が掛かった。
「一夏、まだ起きているか……?」
「ん? あぁ、起きてるけど……」
「さっきはその……すまない」
「別に良いよ。別に気にしてないさ」
そもそも、一夏には何の事か分からないのだから仕方ない。
「そ、そうか……それで、その……今日は何処に行っていたのだ? いや、答えたくないなら別にいいんだが……」
「気になるか?」
「……うん」
「………春斗に、会ってきた」
少しの間を置いて一夏が答えると、バサッという布音がした。
「っ……!? そ、それで……どうだったんだ、春斗は?」
「どうもないさ。いつも通りだった」
「その何時もを私は知らないから聞いているんだ……!」
「わりぃ。もう、頭回んないから………おやすみ」
「おい、一夏!?」
追求しようとする箒偽を向けて、一夏は瞼を閉じた。
何時も通り。そう、嘘ではない。
何時も通り―――春斗は目覚めなかった。
(クソッ……!)
悔しさに、奥歯を噛み締める。
春斗が目覚めるなら、あの痛みにだって何十時間でも耐える覚悟はある。
だが最初以来、劇的な回復はない。
(クソッ……何でだよ!?)
晴らせない苛立ちが、胸に積もった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
数日後の朝。SHRまでの間の時間、一夏はある噂話を聞いていた。
「中国から2組に転校生? こんな時期に?」
今はまだ4月。入学式からそれほど日は経っていないのに、転校生だという。
IS学園への転入はかなり難しい事であると、一夏は春斗から聞いていた。
それというのも、転入試験を受けることさえ、国の推薦がなければ受けられないのだ。
『多分その子……代表候補生な気がするんだけど?』
『代表候補生が今更か? それはそれで、変な気がするけどな……』
「あら、今更ながらに私の存在を危うんだ……といったところかしら?」
先程まで自分の席にいたはずのセシリアが、一夏の席までやってきていた。
「別に、このクラスに転入する訳ではないのだろう? そう騒ぐ事でもあるまい」
と、やはり席に着いていた筈の箒までもが、一夏の席まで来ていた。
あからさま過ぎる牽制し合いなのだが、そんな事に気付けるほど、一夏の神経は鋭くない。
「転校生か……どんな奴なんだろ?」
だから、こんな事を平然とのたまってしまう。
「……… 一夏、そんなに気になるのか?」
「…… 一夏さん、そんなに気になりますの?」
「そりゃ、まぁ……」
更に火に油を注ぎやがった。
『うわ、空気が重くなった……』
春斗は強まったプレッシャーに胃が痛む。無いけど。
「お前に、転校生を気にしている余裕があるのか?」
「クラス代表戦は来月なのですよ? どこの馬の骨とも分からない女子に、心惹かれている場合ではありませんわ!!」
「そうだぞ! 今日の放課後から”私”と特訓だからな!!」
「えぇ。”私”と特訓をいたしましょう!!」
ズズイ、と迫る箒とセシリア。流石の一夏も何かおかしいと気付いた。
『……何だこれ?』
『自分で考えたら?』
『考えて分からないから聞いてるんだが……?』
目の前ではセシリアと箒が睨み合い、唸り合っている。
近所に住んでた仲の悪い犬同士がこんなだったな、とか思ったりした。
『ま、気付けるようになっただけ……進歩したのかな?』
『どういう意味だよ?』
『そのまんまの意味だよ』
「一夏の相手は私がする! すでに約束しているのだ!!」
「あら、専用機持ちは私と一夏さんだけですわ! だったら私がお相手を務めるのが筋というものですわ!!」
「何処の筋だそれは! 先約こそ、筋というものだろう!!」
「分不相応の先約など、筋とは言えませんわ!!」
『二人とも、凄いやる気だな。そんなに、景品の学食デザート半年分が欲しいのかな?』
『他の女子はともかく、この二人に関しては違うと思うけどね……』
すでに《勝つための特訓相手》から《どちらが一夏のパートナーに相応しいか》に話がシフトしつつあったが、そんな事に一夏は気付けない。
そして、春斗にはやはり不安が多い。
『でも、真面目に大丈夫? あの体たらくで』
『……それを言うな』
言われると頭が痛くなるのか、一夏はガクリと肩を落とした。
先日の授業中の事。その日は外での飛行操縦の実践だった。
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1組の面々はIS用のスーツを身に付け整列していた。
この、体のラインをクッキリと見せ、その上、所謂ハイレグな水着同然のスーツは青少年にはなかなか目の毒だ。
『いつもながら、素晴らしい光景だね……』
「………」
絶対に突っ込まないぞ。と、心に誓う一夏。
「では、織斑とオルコット。試しに飛んでみせろ」
「はいっ」
セシリアは意識を、左耳に付けられた蒼いイヤーカフスに集中させる。
すると、すぐさまセシリアの体が光に包まれて《ブルー・ティアーズ》が展開される。
昨日、一夏が撃破したビットもしっかりと修復されてあった。
一夏も白式を展開させようとする。が、うんともすんとも言わない。
「あ、あれ……?」
「―――集中しろ」
千冬の目に、鋭さが光る。一夏はこれ以上もたつけば何が待っているのかを想像し、身震いする間もなく急いだ。
ガントレットを左手で掴み、さらに深く集中する。どうやらこれが一夏には合うようだ。
(来い、白式……っ!!)
その呼び声に応えるかのように光が溢れ、一夏の体には白式が、装着展開された。
「できた……!」
『そして、僕は何時もの場所……と』
春斗も白式の中に取り込まれ、スタンディングシートに背を預けていた。
「よし、飛べ」
「はいっ」
セシリアはすぐさま上昇、あっと言う間にその姿が小さくなる。
『よし、僕らも行こう』
「よし……っ」
「待て、織斑」
「っと、何ですか……織斑先生?」
いざというタイミングで、千冬が一夏を止めた。何だろうかと振り返る。
「頼らずに飛んでみろ」
「う゛っ……」
意味が分からない他の生徒達は首を傾げる。
だが、一夏にはそれだけでよく分かった。
あの決定戦以降、いまいち飛行が上手くいかないので、その辺を春斗がサポートしていたのだ。
それを、千冬は知っていたようだ。
『……だってさ』
「はい、頑張ります」
それでも練習を続けた結果、躓きはするものの、基本操縦はどうにかなりつつあった。
飛翔。と、セシリアが一夏が来るのを待っていたのか、白式が近づいてきたのを見て上昇を再開させた。
そのまま二機は、大空を舞う。
「しっかし”目の前に角錐を展開するイメージ”ってなんだよ。よく分かんねぇな……」
『先端が細くなった形状は、空気抵抗に対する力学的答えだよ。それをイメージすると上手く飛べるって事……分かる?』
『ゴメン。何度目か分からないけど……本当にゴメン』
毎度講義をしてくれる春斗に、本当に申し訳ないと一夏は心の底から謝る。
『いいよ。期待してないし』
言いやがったな、この野郎。
「所詮、イメージはイメージ。自分に合った方法を模索する方が、建設的ですわ」
と、セシリアが話しかけてくる。
「とはいっても……空を飛ぶっていう事自体がアヤフヤなんだよ。何で飛んでるんだ、これ?」
「あら、それでしたら私が今度じっくりと……”二人きり”でお教えして差し上げますわ」
「いや、何でそこまで二人きりを強調するの……?」
と返すと、セシリアの顔が赤くなった。
「そ、それは勿論……一夏さ」
『一夏っ!! いつまでそんな所で遊んでいる!! さっさと降りてこい!!』
「うわっ!?」
いきなり通信越しに届いた箒の怒鳴り声。思わず身を振るわせてしまう。
ハイパーセンサーが、地上の状況を眼前の事のように見せる。
『山田先生、インカム取られてるね……』
「何やってんだ、あいつ……?あ、千冬姉にぶたれた」
『オルコット、織斑。そこからの急降下と完全停止、やってみろ』
「了解です。では一夏さん、お先に行かせていただきますわ」
セシリアがウインク一つを残し、頭から地面に向かって急降下する。
そしてそのまま地面スレスレでその身を返し、脚部 推進機関部(スラスター)で急停止した。
『へぇ、流石に上手いもんだね』
派手さはないが、とても綺麗なライディングだと褒める。
『急停止は足を振り抜いて、地面を強く踏みつけるイメージだよ。忘れないで』
「オッケー……よし、行くか」
一夏も、背中の突起状の部位からロケットブースターが点火されたイメージを浮かべ、地面に向かって飛んだ。
―――――なので、とてつもない加速力である。
「ウォオオオオオオオオオッ!?」
思いがけない状況にパニックになる一夏。
『一夏! 急停止だ早く!!』
「ど、どうするんだっけ!?」
『イメージだよイメージ!!』
「えっとえっと………地面をぉぉぉぉぉぉぉおお……蹴り抜くっ!!」
『ちっがあああああああああああああああああああああうッ!』
さて、物体が斜めに移動するという事は、下方及び横方向に対し、同時にベクトルが発生している事になる。
その内の一つ、下方へのベクトルが地面によって0になった場合、どうなるだろうか。
「『うぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああっ!?』」
残る横のベクトルが、白式をすっ転がした。
いくらPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)=自動慣性制御機能があるとはいえ、操縦者がこれではどうにもならない。
白式はゴロゴロと転がり滑り、そして土煙と共に土の下に潜ってしまった。
そこからズルズルと這い出し、白式が消える。
『い、一夏のばぁかぁ………お゛えっ』
「ご、ゴメン………まじで、ごめん……うっぷ……」
残された二人は、グルグルの世界に苦しみ続けたのだった。
その後、セシリアと箒が一夏を保健室に連れていこうとして、また揉めたり、それを止めようとしたらふらついてしまい、おもいっきり二人を押し倒してしまったり。
この日は語り尽くせない珍事続出であったが、ここでは割愛する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「でも、専用機持ちって今のところはウチと四組だけだし、楽勝だよ!!」
「そうそう。目指せ、夢の食堂デザート半年間、食べ放題!!」
「でもでも、調子に乗るとダイエットが……」
「それを言うな〜っ!! 夢が壊れる〜っ!!」
と、思考に埋没している頭が現実に帰った。
『でも、代表候補生なら多分、専用機持ちかも知れないね……探ってみる?』
『……そうだな』
と、今後の行動を考えていると、教室前方のドアが開いた。
「―――その情報、ちょっと古いよ? 2組も専用機持ちが代表になったからね……そう簡単には行かないわ」
「ん?」
そっちを見ると、ババーンッ!、とでも擬音を入れてしまいそうなポーズで、一人の少女が立っていた。
小柄な体格と、スレンダーなスタイル。そして髪を黄色のリボンでツインテールに結んだ少女。肩口は動きやすいようスリットが入れられている。
胸元のリボンの色から、一夏と同じ一年生のようだ。
「………あん?」
『なんでここに?』
その顔に、一夏と春斗は見覚えがあった。
少女はズビシッ! とでも擬音を着けるような勢いで一夏に指を突きつける。
「中国代表候「鈴。なんでこんな所にいるんだよ? しかもそんな格好付けて。似合わないぞ?」って、人の決め台詞に被せるなぁあああっ!!」
少女は地団駄を踏んで怒りを顕にする。
「一夏。知り合いか?」
「あぁ、実は―――」
「そして普通に無視して話を続けるなぁあああああああっ!! とにかく!!」
改めて、ビシッ! と、指を突きつける。
「中国代表候補生、凰(ファン) 鈴音(リンイン)! 一組代表に宣戦布告に来たわ!!」
「代表候補生……お前が?」
「そうよ。驚いた?」
「………そうだな」
「薄いわよ、リアクションが!!」
「いや、お前のリアクションがいいから充分だろ?」
「どこぞの売れない芸人と一緒にするなっ!!」
「――なら、取り敢えずそこを退け」
入り口で騒ぎ立てる鈴の後ろから、ドスの効いた声が響いた。ビクっと
して振り返ると、そこには黒いスーツの女性――千冬がいた。
「ぎゃあっ、呂布!?」
「誰が三国志最強の猛将だ」
スパーンッ!!
「さっさと自分のクラスに帰れ、凰。邪魔だ。お前らもさっさと席に着け」
「痛ぅ〜っ……!一夏、昼休みになったらまた来るからね。逃げるんじゃないわよ!!」
ぶたれた頭をさすりながら、鈴は捨て台詞を残して去っていった。
「なんだったんだ、鈴の奴……ていうか、あいつが転校生? IS操縦者になってたのか……」
『ククッ……鈴ちゃんの事だからきっと、一夏の事を知って急いで来たんじゃないかな?』
『………何で?』
『……………さ、SHRの時間だよ』
『答えろよっ!?』
最早おなじみの内部漫才をしつつ、一夏はやって来た少女を思う。
凰 鈴音。
彼女は織斑兄弟にとって、あまりにも特別な少女だった。
なぜなら、家族以外で”全て”を知る、数少ない人物なのだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昼休み。
予告通りに待ち構えていた鈴に捕まり、一夏は食堂へとやって来ていた。
食券を買い、配膳を待つ列に並ぶ。後ろには箒とセシリア、そして最近よく一緒にいるのほほんさん一行が続く。
箒とセシリアの頭やこめかみの辺りは、とてもヒリヒリとしている。
というのも一時限目の授業―――千冬の講義中に二人は三発づつ、出席簿を喰らっていた。
箒は、突然現れた鈴に危機感を感じつつも、同室で幼馴染である自分の方が有利だと、よく分からない優越感に浸っていたところを叩かれた。
セシリアは、ただでさえ箒というライバルがいるのに、そこに親しげな、しかも代表候補という、自分と同じカードを持った鈴の出現に危機感を顕にした。
何とか現状を打破できないかと思案している所を、千冬に叩かれた。
一夏は真面目な二人がそんな風に怒られるので、珍しい事もあるもんだと思い、春斗は申し訳なさ過ぎて泣きたくなった。
「……で、どうしてこっちに帰ってたのに、教えてくれなかったんだよ?」
「それじゃ、感動の再会にならないじゃない?」
「あれでなってたのか?」
「うっさいわよ! あれは、アンタのリアクションが薄いからいけないんでしょ!?」
「いや、あんまりにも突然だったから驚いてたんだぞ?」
「………ウソでしょ」
「おう」
「………」
「………」
ゴスッ!!
「いってぇ〜〜〜〜〜〜ッ!!」
鈴のキックが一夏の脛を蹴り飛ばした。
「ふんっ。相変わらずね、一夏は」
鈴は鼻を鳴らして、やって来たプレートを受け取る。
「そういうお前も変わらないな……ラーメン好きなところとかさ。痛て……」
「いいでしょ、大好きなんだから」
「まぁな。でもあれだ、元気そうで何よりだよ」
一夏も日替わり定食を受け取って、鈴と共に空いている席に向かう。その背に凄いプレッシャーを感じるが、振り返るのは怖いのでしない。
「そういうアンタも元気そうよね。たまには病気とか怪我でもしたら?」
「それは、春斗(あいつ)に任せてるからな〜」
「病気肩代わりする代わりに、頭の中身を分けてもらえば? バランス良くなるわよ?」
「どういう意味だよ!?」
テーブルに着くと、鈴が少し顔を寄せてきた。プレッシャーが強まった気がするが(略)。
「ところで、春斗はまだ……?」
「……あぁ。変わるか?」
「……うん、ちょっとだけ」
一夏はコクリと頷いて、瞳を閉じる。そして春斗と入れ替わった。
「―――久しぶり、鈴ちゃん」
「久しぶりね春斗。元気そうで良かったわ」
「この状態を元気と言えるかどうか、甚だ疑問だけどね……」
「まぁまぁ。ところで、一夏って………”どう”なの?」
「相変わらず。今のところは二人かな……?」
どう? というだけで何のことか察する辺り、流石は春斗である。
「それって、さっきからこっち睨んでる子達……?」
「ビンゴー。景品に、このお新香を進呈しよう」
「わーい、ありがとー」
『お前ら、俺のおかずを勝手にやり取りするなぁっ!!』
一夏のクレームは、当然スルー。
「ところで……何時頃、日本に帰ってきたの?」
「つい最近よ。ていうか、向こうで一夏のニュース見てビックリしたわよ。アンタが付いてて、何であんな事になったのよ?」
「いや、思い返すともの凄く阿呆らしいんだけどね……」
春斗はその時を思い出しながら、ポツリポツリとか語りだした。
「高校入試の会場が、市立の多目的ホールだったんだけど……そこがちょっと迷路みたいに複雑な作りでね、一夏は道に迷っちゃったんだ。
試験開始まで時間はあったから、ずっと歩いてたんだけど……人の気配も段々なくなってきて、僕は一度引き返そうと言ったんだ」
「……アイツのことだから、「片っ端からドアを開けてやりゃ、いつかは当たりに着くぜ!!」とか言ったんでしょ?」
「ビンゴー。景品に、この海苔を進呈しよう」
「わーい、ありがとー」
『俺の海苔がぁああああああっ!!』
当然、一夏のクレームはスルー。
「それで、いくつか部屋を回って……そこに着いちゃったんだ」
「そこ……?」
「IS 《打鉄》が、置かれてあった部屋があったんだ。後で聞いたんだけど、別の日にIS学園の試験が行われる予定で、打鉄を学園から借りていたらしい。
で、物珍しさについ触っちゃって………一夏が」
『お前だって、興味津々だったじゃねぇかよ!?』
『そりゃそうだろ? 理論や何やらは考えられても、実物には触れた事は無かったんだから。そもそも、一夏が引き返してれば良かったんだよ?』
『ぐっ……!』
「それで、ISが起動しちゃって大騒ぎ。色々検査とかして……で今に至ると」
「あ〜、それでこんな事になったってわけね。納得したわ」
春斗の説明に得心が行ったと、鈴はウンウンと頷いた。
「―― 一夏っ!!」
「―― 一夏さんっ!!」
バンッ! と、いきなりテーブルが叩かれる。何事かを見れば、不機嫌さを隠しもせずに箒とセシリアが、春斗に迫った。
『マズイ、一夏っ!』
『おうっ!』
言葉から会話を聞かれてはいないようなので、急いで一夏と入れ替わる。
「……な、何だよ二人とも?」
「そろそろ、説明をして欲しいのだが……?」
「まさか、こちらの方と……お、お付き合いなさっているとか……!?」
「なっ、何だと!? そうなのか、一夏!?」
「うえぇ!? ちょ、いや、そんなんじゃ………ぅう……」
思わぬ言葉に鈴はしどろもどろになり、一夏は頭にハテナマークを飛ばした。
「そうだぞ。鈴は、ただの幼馴染……じゃないか。うん、ちょっと特別な幼馴染だ」
鈴が不服そうに睨みつけられたので、慌てて訂正する。
「ちょっと”特別”か……どう特別なのか、教えてもらえるか、一夏?」
「ノーコメントで」
「何……よく聞こえなかったが?」
「何ですって? よく聞こえませんでしたわ?」
二人は、声色は明るいくせに顔がすごく怖い。
「えっと、だから……箒が転校した後、入れ替わりに転入して来たのが鈴なんだ。いうなればそう、箒は《ファースト幼馴染》で、鈴は《セカンド幼馴染》ってところか?」
ある意味、初めての女と二番目の女的なノリである。
「………ファースト」
呟いて、頬を染める箒。何か琴線に触れたようだ。
『ほーちゃん。それ、喜ぶ所じゃないから。ていうか、幼馴染にファーストだの付ける奴、初めて見たよ!?』
そんなツッコミはスルーされる。
「ふーん、そっか。この子が篠ノ之 箒なんだ……。初めまして、色々と聞いているわよ、あなたの事は」
「そうか。初めまして、凰 鈴音。以後、見知りおいてもらおうか……」
鈴と箒が不敵な笑みを浮かべながら、バチバチと火花を散らす。
バックに龍虎相打つ姿が幻視されるのは、決して気のせいではないだろう。
「ちょっと、私をお忘れになられては困りますわ!! 私はセリシア・オルコット。イギリス代表候補生にして、先日一夏さんとクラス代表を賭けて戦いましたの」
そこにセシリアが遅れるものかと割って入る。
「あ、ゴメン。興味ないや」
「何ですってぇええええええええええええっ!?」
一言両断。鈴、容赦なしである。
何せ目下のライバルは篠ノ之 箒だ。
早速、鈴は一夏に言った。
「ねぇ、良かったらISの事教えてあげよっか? これでも代表候補生なんだから、きっといい勉強になるわよ?」
「お、そりゃ助かる」
『あっ……バカ!』
春斗が止める間もなく、一夏は油をまき散らした。
火種満載のこの中でそんな事をすれば、次に起こるのは一つしか無かった。
「そんな必要はありませんわ!! 一夏さんには、代表候補である”私”が”二人きり”で教えてさし上げると決まっているのです!! 敵の施しはうけませんわ!!」
「何を世迷言を言っているんだ貴様! 一夏には”私”が”付きっきり”で教えると決まっているのだ! 余計な真似はしないでもらおうか!!」
「何ですってぇ!?」
この金髪もライバルだったかと、鈴は戦闘態勢に入った。
火種はあっと言う間に業火へと変わった。
ギャーギャーと言い合う三人を見て、一夏は呟いた。
「何で初対面なのに、こいつら仲悪いんだ……?」
『君はあれだ、切腹でもするべきだと思うよ?』
『死罪申し付け!?』
鈍感王 織斑一夏。
彼が少女たちの想いに気付ける日は、きっと遥か彼方である。